好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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言わなきゃ伝わんないとは言うが、とにかく言えばいいってもんでもない

 光田と初めて会話したのが昨日の話。

 小宮山さんを呼んで改めてちゃんと話してみようと思ったのが、今日の話。

 

 あの時より少しだけカラッとした空気が周囲に漂っている。心なしか気分も晴れやかだ。

 今日こそ決着をつける……そういう心構えでいる。まあそう決心するに至ったのも光田に早い方がいいと言われたからだけれど。

 

「……来てくれるのか…?」

 

 正直、振られた後に好きと言ってくる彼女の思考回路とか、精神状態がよくわからない。まあきっと普通じゃない。

 ので、今更ちゃんと話がしたいとか言っても応じてもらえない可能性だってある。日頃好きと言いまくってくるのだって単なる嫌がらせの可能性がなくはないのだし。

 

 まあ今更不安がったところで仕方ないんだけど。

 

 

 光田に小宮山さんを呼びにいってもらったけど……放課後に勉強教えてもらうとかそんな話をしていたからきっと校内には残っているはず。

 あれ、これ盗み聞きか?……まあ気にしないことにしよう。

 

 

 

 そうやってくだらない杞憂を繰り返していくうち、ドタドタと慌てて走ってくる足音が聞こえてきた。

 俺を視界に入れるや否や大声で叫ぶ。

 

「蓮木くん好きです付き合ってえええええ!!」

「慌てすぎ叫びすぎ飛躍しすぎ」

「はぁっ、はぁっ、ごめんね好きだよ付き合ってください」

「間断入れずに告白しないでくれない?」

 

 やっぱりこの人どっかおかしいんじゃないか。というかおかしいな。

 

「えっでも今日私に告白するために呼んだんじゃないの?」

「仮にそうだとしてなんで全部ぶち壊しにくるんだよ」

「抑えきれなくて」

「そっか…」

 

 自分に向けられる覚えのない好意が強すぎる。一体何をしたら関わった覚えのない相手からこんなに矢印を向けられるんだ、変なフェロモンでも出てるのか?俺。

 

「……というか、えっ?私と付き合ってくれるんじゃないの!?」

「…残念ながら」

「えぇえええぇえ好き好き好き好き好き」

「連打すれば良いってもんじゃないんだけど」

「私のこと好きじゃないの!?」

「その感性が俺は怖いよ、とりあえずいったん落ち着いて?」

「気遣ってくれるんだ、好き…」

 

 もうやだこの人。

 今まではもう「好き」と言われるだけだったが、ちゃんと会話しようとすると会話にならない。同じところまで降りてきてほしい。

 

「……とりあえず一つ聞きたいんだけど、なんでそんなに好きって言ってくんの…?」

「え?私のこと好きじゃないんでしょ?」

「うん………うん…?」

 

 いや、確かに小宮山さんのことは好きじゃないけれど、なんでそれが好きと言ってくることに繋がる?ただの意思表明なら分からなくもな……いややっぱり分かんないけども。

 

「蓮木くんに振られちゃったあと、私が蓮木くんに好きになってもらうにはどうすればいいのかなって色々調べてたんだ」

 

 しぶといな……

 

「でも蓮木くん学校で誰かと話すところ見たことなかったし」

「ゔっ」

「蓮木くんが好きなのってどういう感じなのか分からなかったからいっぱい悩んで……それでね、素晴らしい言葉に出会ったの!」

 

 なんか語り口が危ない信仰みたいな感じでその先を聞きたくない。さりげなく友達いないのを…まあわざとじゃないだろうけど言及されたのでそっち方面でも辛い。

 

「自分のことを好きな人が好きって考えは知ってる?」

「………初めて聞いたけどまあ理解はできる」

「色々調べててこの言葉を見た時、とってもいいなって思って。だってきっとみんなそうじゃない?自分のことを認めて、好意的に見てくれる人のことなんて好きになっちゃうでしょ?」

 

 両手を合わせ、とてつもなく晴れやかな、にっこりとした表情で俺に語りかけてくる小宮山さん。

 さっきの言葉はまあ分からなくもないけれど、彼女の解釈は残念ながら何も理解できない。

 

「だからほら、蓮木くんに私のこと好きになってもらうためには、私がたくさん蓮木くんのこと好きだって知ってもらうのがいいのかなって!」

「……うん、そっか、うん」

「あれ、理解できてない感じの顔」

「そんなことないよ、うん」

 

 理解を拒んでる顔です。

 ……要するに、俺がその「自分のことを好きな人が好きになる」タイプの人間だと思い、愚直なほど…怖いほど好意を伝えてきたと。

 まあ腑に落ちはしたけど……そうはならないと思う、普通なら。

 

「だからまだ私のことを好きじゃなくても大丈夫!好きになってもらうまで好きって言うだけだから」

 

 この狂気的な言葉を聞きさえしなければ、小宮山さんは本当に良い笑顔をしている。文面だけ見てると心を病んでるようにしか見えない。いや、というか実際に心を病んでしまっていると思う。

 俺の……責任なの?これ。元からこの人どっかおかしいんじゃないのか?

 

「…まあうん、大体話は分かったよ。いややっぱりあんまり分かってないけど……」

「そっか!じゃあ付き合ってくだ——」

「それは無理だよ、申し訳ないけど」

「なぁんでぇええぇえぇえ?」

 

 声がでかい。

 

「こんな自分を好いてくれるのは…まあ嬉しいとは思ってる。過剰でちょっと怖いけど」

「愛に限界はないよ?」

「うんそういう話ではないからね?」

 

 彼女は俺にこうやって断られてもなお、真っ直ぐにこちらの顔を見つめている。芯が強いというかなんというか……

 まあ多分俺と出会うまでは正常だったんだろうと思う。だったらやっぱりこの今の状況は、相手を考えない一方的な言葉で突き放してしまった俺の責任なんだろう。

 ちゃんとこの手で、幕を下さなければならない。

 

 

「俺は自分が好きと思ってない相手とは付き合えない。……小宮山さんが良かったとしても、俺がそういう義理を欠いたことはしたくない」

「……蓮木くんが私を好きになってくれれば」

「ないんだよ、好きになったこと」

「………え?」

 

 自分の歪んでいるところを他人に教えるのは、二度目になるのか。正直言ってあまり良い気はしないけれど仕方がない。

 諦めてもらう材料を他に持ち合わせていないから。

 

「人を好きになったことがない、好きになるっていうことがよくわからない。……こんな俺のためにずっと想いを伝えてくれる小宮山さんが迷惑を被ってるのも嫌だから」

 

 好きでもない相手と友達面をしてきた。好きでもない相手と同じ時間を過ごしてきた。

 

「もう遅いかもしれないけど、小宮山さんを傷つけたくないんだ。そんな俺と関わってほしくない。だから諦めてほしい」

 

 そこまで言って、自分の視線がどんどん下に向かっていたことに気づいた。小宮山さんの足元から視線が上がらない、彼女の表情を見るのが怖い。

 これだけ言っておいて相手を直視することもできない自分が情けない。

 

「…そうだったんだ。ごめんね、今まで迷惑かけて。私、蓮木くんの気持ち全然考えてなかったね」

 

 

 その言葉はとても悲しそうで、ついさっきまで明るかった彼女が途端に暗くなって、空気も冷たくなって。

 逃げ出していくように駆け出したその足音は、ここにやってきた時より荒々しくて、がむしゃらように感じた。

 

「……嫌になる、ほんと」

 

 結局彼女を傷つけてしまった。

 でもきっとこれでよかったのだと、これが互いのため、小宮山さんのためだった。そう自分に言い聞かせる。

 そういうことにしておかないと何もかも嫌になりそうだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足取りは重いが、肩の荷は降りた。明日からは目が合うだけで気まずくなるだろうけど、それも時間が解決してくれると思う。

 周囲からの悪印象は……光田に相談でもしよう。

 

 そう思いながら鞄を背負い、すっかり人の抜け落ちてしまった廊下を通りながら帰路につこうとした時、見覚えのある人がものすごい形相でこちらに走ってくるのが見えた。

 

「…えっ何怖い怖い」

「お前ぇぇぇええええ!!」

 

 逃げる間もなくそのまますっ飛んできて胸ぐらを掴まれ、つばまで飛びそうな勢いで叫ばれる。

 

「えっと確か——」

「お前!穂花に何言った!!」

「…っ」

 

 ダメだ。

 ダメだ、ダメだ、ダメだ。

 

 また、後悔する。

 

 

 

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