好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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距離感縮まればいいってもんじゃない

「連絡先交換しよっ!」

 

 放課後、プリントとかの整理を済ませてから帰ろうとしたところを小宮山さんにそう呼び止められた。

 教室内に人の姿はもうあまりない。

 

「ああ、そういやしてなかったか」

「彼氏の連絡先は知っておかないとね」

「まだ違うだろ」

()()???」

「やっべ失言」

 

 交際を前提に友達になってくださいみたいなノリで来てるもんだからこっちの認識も歪んでしまっている。

 

「…今日は来栖さんと一緒に帰らないの?」

「別にいつも一緒に帰ってるわけじゃないよ?一応お互い別々の友達もいるし、クラスも違うし」

「言われてみればそりゃそうか」

 

 …ん?でも高確率で俺に好きって言ってくる小宮山さんを静止してる気が……まあ言われるの大体休み時間だし見にきてるのかな…

 

「そんなことより連絡先!電話!寝落ち通話!!」

「目的が見え透いてる超えて堂々と言ってきてるんだけど」

「しよう!寝落ち通話!」

「やだよ俺寝る時はアイマスクつけてゆっくり静かに寝る派だもん」

「睡眠ちゃんと取ってる……好き」

 

 ここまでくるとただの全肯定botな気がしてくる。気がするというか実際にそうなのでは。一挙手一投足まで好きって言い始めたら流石に心配になってくるが……

 

「連絡先!連絡先!連絡先!」

「わかったわかったから」

「寝落ち通話!ラブコール!」

「それはしないから」

「ちぇ」

 

 ちぇ、てなんだ。

 いちいち反応していたら進まないのでさっさとスマホを取り出して画面を開く。

 

「はい、俺の……何その顔」

「……友達の数少ないね」

「ゔっっっっ」

「あっごめん」

 

 素直に謝られてもそれはそれで効く。

 

「……フ、まあ高校生になってから友達ろくに出来てないからな……」

「かわいそう……私が高校生活最初の友達ってことだね!」

 

 こいつ……誰のせいだと……

 いや、あの出来事がなければ友達が出来ていたはず、と決めつけるのも間違いか……俺はそこまで人付き合いが上手な方じゃないし。

 

「……俺、連絡先も知らない相手にあんなに好きって言われてたんだな」

「え?私のこともっと知りたいって?」

「言ってないです」

「小宮山穂花15歳、誕生日は12月3日、好きな色は——」

「聞いてないってば…」

 

 

 こんな調子だけど、昨日までに比べればこれでも格段にマシになった。なぜなら今日は好きと言われた回数が恐らく二桁も行っていない。両手で数えられるほどなのだ。

 クズだけど交友関係は広い光田にある程度俺たちの関係が落ち着いたっていう噂を流してもらって、小宮山さんは時と場所を考えず好きと言ってくることがなくなり……

 

 未だに奇異の目こそ向けられるが、それも現状維持で時間が経てば自然と興味も失せていってくれることだろう。

 

 

「——それでスリーサイズは……内緒だよっ、えへへ…」

「友達にする話じゃないなあそれ」

「気になる…?」

「やめてくんないなんかそういう雰囲気出すの」

「私と付き合ってくれたら教えてあげるよ」

「ねえ俺の話聞いてる??」

 

 なんかすぐ自分だけの世界に行くのやめてほしい。会話が出来るようで出来てないんだけど。キャッチボールして欲しい、一方的に千万ノックしてくるのやめて欲しい。

 

「……ってか俺の連絡先登録した?」

「あっ、まだでした。えへへ」

 

 

 結局彼女がなんで俺のことを好きなのかは分からない。容姿じゃなくてもっと内面的なものっぽいんだけど……そんなに内面的なものを見られるほど関わった覚えもないわけで。

 

 俺の知らないところで見られてたり……覚えてないだけで昔に会ったらしたことがあったのだろうか?

 

「…ん?」

 

 スマホの通知が鳴った。メッセージの送信主は『穂花』

 

「………」

「んふっ」

 

 訝しげな表情を向けると、めちゃくちゃニヤけながら目を逸らされた。

 

「開けろってことね……」

 

 正直かなり嫌だったが、メッセージを開いてみた。

 

 

 

 

 

 

『こんにちは蓮木くん。好きです』

 

 

 

 

 

『好き好き好き好き好き好き好き好き

好き好き好き好き好き好き好き好き

好き好き好き好き好き好き好き好き

好き好き好き好き好き好き好き好き

好き好き好き好き好き好き好き好き

好き好き好き好き好き好き好き好き

好き好き好き好き好き好き好き好き

好き好き好き好き好き好き好き好き』

 

 

 

「怖えよッ!」

「溢れんばかりのこの思いを言葉にして綴ってみました」

「溢れすぎ言葉にしすぎ綴りすぎ!!誰が読んでもこの文章からそんな可愛らしい純情は読み取れない!狂気しか感じ取れない!!」

「狂気的なまでのこの熱い想いが伝わったってこと?」

「そこ好意的に受け取らないで?」

「好意…?」

 

 もうやだこの人……住んでる世界が違う……

 

「友達って楽しいね!」

「こんな息切れするような関係を友達って呼べるのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへっえへへっへ」

「…随分と機嫌が良さそうで」

「好きな人と一緒に帰ってるんだからあったりまえじゃん」

「そう言われると確かにそっか…」

 

 そのまま一緒に帰ろうと誘われ、まあ距離も短いし別に良いかと承諾して今に至る。

 

「……なんか流れで言っちゃってたけど、俺結構当たりキツイこと言ってなかった?」

 

 ついさっきまでのやり取りを思い出して今更心配になってくる。ちょっとこっちも好き放題言ってた気がしてきた。

 いや、好き放題という話なら確実に向こうの方が暴れ回ってたと思うけど。

 

「んー?確かに昨日に比べると遠慮がなくなったとは思うけど……」

「ゔ…ごめん」

「でも余計な配慮みたいなのがなくなったから、今の方が全然友達って感じがして私は好きだよ」

「……そっか、ならよかった」

「もちろん蓮木くんのことも好き」

「……そっか」

 

 実際足取りは軽そうに見える。好きという感情を強引に押し付けてくるのは相変わらずだが、それでも向こうも友達としての距離感でいてくれている……と思うので、こちらもまあそこまで居心地が悪いわけじゃない。

 

「……ん?家そっちの方?」

「え?違うけど」

「じゃあどこに向かってんだ」

 

 急に方向転換して住宅街から外れる方に足を踏み出し始めたので質問したら、何言ってんの?という顔でそう答えられた。

 

「どこって、公園」

「何故??帰ろうとしてたはずでは…」

「放課後は友達と一緒に寄り道するものでしょ」

「そうなの!?」

「違うの!?あっ、蓮木くん友達いなかったから……」

「俺のこと好きって言ってくるくせにそこの傷は忘れずに抉ってくるのなんなの?」

 

 だから友達いないのは誰のせいだと……いや俺のせいでもあるけど。

 

「一緒に行くでしょ?」

「行かないけど…帰りたいし……」

「やだ!一緒に行こう!そんなんだと女の子からモテないよ!?」

「もう特定の個人からモテにモテまくってるからもういいかな…」

「えへへ…」

 

 そこ照れるんだ……

 しかしうちも門限……は別になかったか。

 

「暗くなるまでには帰るからさ、ね?」

「……分かった、いいよ行こう」

「やった」

 

 しかしそれなら最初から一緒に帰ろう、ではなくて遊びに行こう、とでも言えばよかったのでは……

 友達になった翌日にいきなり放課後遊ぶっていうのもなかなかな距離感だと思うけど。

 

 というかそもそも友達って自然となるものであって、友達になりましょうと言ってなるものでもないよな……

 一応互いの認識としては友達で落ち着かせてはいるけど、実際に友達と言えるほどの関係がそこにあるかと言われると……

 

「これはこれで不義理…?」

「え?」

「何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

 さて、近くの公園にやってきた。

 遊具は割と揃っており、人気の少なさの割には充実した場所になっている。広さ自体もそこそこだが、小学生くらいの子供がぽつりぽつりと見かけるくらいで閑散としている。

 まああのくらいの子供は声だけは大きいからその点では静かでもないけど。

 

 そんな場所にやってきてわざわざ二人で何をしているかというと……

 

「……高校生って、放課後に黙々とブランコを漕ぐもんなの?」

「さあ……公園あんまり来ないから」

「じゃあなんで誘ったんだよおい」

「公園……デート?」

「デートだとしてももっとこうなんか……あるんじゃないか?無言ブランコは違うだろ。そもデートじゃないけど」

「わかんないよ!私だって男友達少ないんだもん!!」

 

 そういう問題なのか…?

 そもそも高校生とは公園で遊具で遊ぶには少々大きすぎるのではないか。まあいい歳した大人が滑り台で遊んでいるとかよりはマシだと思うけど?

 

「いいじゃんブランコ!素敵じゃんブランコ!ブランコの何がそんなに不満なの!?こんなに素敵な遊具他にないよ!」

「そんなにブランコが好きならブランコとデートしてなさい。俺は帰る」

「置いでがないで!!」

「冗談だからその必死の形相やめて、ごめんて」

 

 ブランコから立ち上がったら今にも泣き出しそうな顔と声で引き止められたので座り直す。

 

「……じゃ、来栖さんとか他の友達とはいつも何してんの?」

「ん?普通だよ?カフェ行ったりカラオケ行ったり……」

「ブランコで遊んだりは?」

「してないね」

「そう……」

 

 つまり大して何も考えずに公園に誘ったというわけだ。

 ……昨日の今日で綿密に計画を組まれて放課後に誘われてもそれはそれで困るので、こんなもんでいいのかもしれない。

 

「…ま、俺ブランコは好きな方だからいいんだけどさ」

「私とブランコ、どっちが好き?」

「質問の意図をはかりかねるからノーコメントで」

「ブランコの方が好きなんだ……こんなガラクタの方が……」

 

 なんでこの人勝手に答えを捏造して遊具に嫉妬してんの?

 

「……よっと」

 

 それなりの速度が出てきたので飛び降りる。

 この一瞬の浮遊感、臆病なもんでそこまでの速度は出す勇気はないけど、この感覚のために必死に漕いで速度を上げている、

 

「いいな私もやる!ほら見てほら立ち漕ぎ!」

「お、おう」

「ふんっ!ふんっ!ふんっ!!」

 

 そんなに必死になって漕がなくても……最後に飛び降りるために漕いでるわけでもないのに……

 

「……ち、ちょっとスピード出しすぎなんじゃ」

「とりゃ——あっ」

「あ」

 

 飛び降りるタイミングが完全に悪い。身体が大きく傾いてこのまま着地したら確実に怪我をする。

 反射的に飛び込んでくる彼女の正面に立ち受け止める構えをとっていた。

 

「いっ!!」

 

 物凄い勢いで飛んでくる人間一人をしっかり受け止められるほどの筋力や優れた体幹は持ち合わせておらず、そのまま小宮山さんの下敷きになる形で背中から地面に倒れた。

 

「っ……ごっごめん大丈夫!?」

「めっちゃ背中痛い」

 

 重いと口走ってしまう前に小宮山さんが速やかに俺の上から退いてくれた。

 

「き、救急車呼ぶ…?」

「いやいいそこまでじゃない。そっちは怪我なさそうでよかった」

「う、うん……」

 

 やめて顔赤らめないで。

 

「でもびっくりした……割と危なっかしいとこあるんだね、怖い」

「好き…」

「怖い」

 

 こうなることと言い……興奮すると我を忘れるとかそういう感じなのだろうか?受け止めただけでこんな風になられても困るんだけど……

 まあ怪我されるよりはマシか。

 

「服も汚れたし今日はもう帰るよ」

「あっごめんね、ほんとにごめん。嫌いにならないで」

「なんかいちいち言葉が重いのやめて。ならないから、ならないから」

「えっ、つまり今は私のこと好きってこと…?」

「あのさあ……………………まいいや帰る」

「ああん行かないで謝るから…」

 

 

 

 ごめんとしきりに謝ってくる小宮山さんを適当に宥めながらその場で別れた。メッセージで何か送ってくるかと思い、帰り道で一人ソワソワしていたが何も送ってこなかったので肩透かしだった。

 期待してたみたいで恥ずかしい気持ちになった。

 

「…この汚れで帰ったらなんか言われそうだなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 去っていく彼の背が見えなくなるまで、その場に留まって遠ざかっていくその姿を見つめていた。

 

 ブランコから降りる時に体制を崩して彼に突っ込んで行く時、彼の顔がすごく近くまで来ていて、そのまま顔と顔が触れそうになるくらいになって。

 慌ててこっちも顔をズラして避けたけど、それはそれとして彼に抱きしめられる形になって、その時の腕の感触が今も背中の辺りに残っていて。

 一瞬だけ感じたその体温が今も体の芯にじんわりと……

 

 

「……私も早く帰ろっ」

 

 

 心臓の鼓動が激しくて仕方なくて、なかなか冷めやまなかった。

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