「私、思うわけなんだ」
「はあ」
「男女で二人っきりの勉強会…したくない?」
「別に…一人で黙々とやる方が好きなんだけど」
南校舎裏。二人っきりで話しているところを見られると色々噂されることもあるので、話をするときは自然とこの場所になる。
「テスト近くて焦ってるんなら、そんな浮かれそうな状況じゃなくてもっと集中できる環境で……」
「今そういう話じゃないの」
「はい?」
「今そういう至極真っ当な話はしてないの」
「はあ…」
つまり真面目じゃない話をしていると。
「男女二人っきり。当然集中力が持つはずもなく互いが気になり、勉強という名目、テストが近いということに対する背徳感を感じながら二人は………ふんっ」
なぜガッツポーズをした。
「というわけで勉強会しない?」
「今の説明で勉強会と言い張る胆力は認めるけど、勉強するなら来栖さんに頼めばいいじゃん」
「クラス違うからところどころズレててさあ、やっぱり同じクラスの子に教えてもらうのがいいじゃん?」
「それは…まあ、そうだろうけど。でもさっきの聞く限り勉強する気を感じない」
「もちろん勉強が主題だよ?私の本命はそっちじゃないってだけで」
「……………」
実際まあ、勉強はそれなりにできる方だと自負はしている。中の上くらいは、多分。
教えられるかで言えば教えられるし、教えて欲しいというのであれば別に構わないのだけど……
「……俺、多分来栖さんに嫌われてるよな?」
「そうなの?」
「この前小宮山さんと話してるところに通りがかってきて、めちゃくちゃ睨みつけてきたし」
「目つき悪いからねぇ」
「昨日はすれ違ったら舌打ちしてきたし」
「そういうところあるからなあ、くるっちゃん」
「嫌われてるよな?」
「人相悪いだけだよ」
人相悪いって言っちゃったよ。
にしても明らかに敵意を向けられるんだよなあ……何かしてしまったのだろうか。
…まあ彼女の友人をこんな風にしてしまったのは俺のせいなので、確かに恨むなら俺だろうなあ……夜道には気をつけるとしよう。
「俺は別に構わないんだけど、来栖さんにあとからなんかこう、しばかれそうで怖いんだけど」
「もー、確かにくるっちゃんは昔は人をしばいてたけど」
しばいてたんかい。
「高校に入ってからは大人しいんだよ?」
「まだ一学期終わってないんだけど?ほんの数ヶ月前までは人をしばいてたってことじゃんかそれ」
「そうだよ?」
「そうだよ?ではなく」
なんだやっぱり怖い人じゃないか……逆によく今まで俺は彼女にしばかれなかったな……
高校入ってから誰もしばいてないってそういうことか?中学までだったら俺はもう終わってたかもしれない。
「まあいいや……それで勉強?まあ来栖さんに後でしめられないんなら俺は構わないよ。場所は……どこに?」
「図書室一択!」
「一択なんだ…」
この学校の図書室は蔵書量の割には広い…と聞いたことがある。まあ確かに集まって勉強する場所として図書室や図書館ほど適している場所もないだろうが……
「てっきり俺の家!とか言い出すのかと思って身構えてた」
「そんな……蓮木くんったら大胆…」
「小宮山さんに比べたら俺なんて奥手もいいとこだと思う」
「男友達の家で勉強会なんてしたら色々気になって勉強できるわけないじゃん。蓮木くん女の子の部屋で集中して勉強できると思う?」
「無理だ」
「そゆこと」
凄く失礼なことは承知の上だが、凄く真っ当なことを言われたことに驚きと悔しさが何故か湧いてきた。なんであんなに色々と行動がおかしいのに勉強に関しては変なこと言わないんだ。
「学生の本分は勉強だよ蓮木くんっ」
「……分かった、そういうことなら俺も真面目に付き合うよ」
小宮山さんの定期テストに向けた勉強に対する情熱は本物だ。普段があれだから余計にそのギャップが印象に残る。
やっぱり他人のことを俺はあまりにも理解できちゃいない。でも勉強に関して頼ってくれているのだからそれに応えてやらねばならない。
彼女の本気に俺も応えるんだ。
「うぇへっへへっへっへ」
「……あの、勉強」
「これが勉強なんてしてられるっ!?」
「してください」
「想い人と二人っきりなんだよっ!?」
「別に今だけじゃないでしょ…」
勉強開始して5分で変な笑いをしながら擦り寄ってきた、暑い。
「…小宮山さん、真面目な話するけど」
「え?」
「もしそれが本当に俺のことが好きで堪らないから……自分で言ってて頭抱えたくなるけど、それが理由で勉強が手につかないってんならまあ仕方ないかなってなるけどさ」
暑いので小宮山さんを引き剥がそうとするが、潰れたカエルみたいな声を出しながらへばりつこうとしてくる。
「けど…」
「けど……?」
「単に勉強したくないって理由でその行動に逃げてるんなら俺は帰る」
「置いでがないでっ」
「じゃあちゃんと勉強する?」
「するから一人にしないで」
なんかいちいち言い方が深刻そうで嫌だな……
「じゃあほら問題解いて」
「うぅ、スパルタ……」
「全部完全に理解するまで帰しません」
「スパルタのレベル上げないでっ」
まああと1時間程度で終わるつもりだけど。
しかしこの程度でスパルタと言われても困るが……やっぱり来栖さんにやってもらった方がいいのでは。
「……来栖さんって中学からの付き合い?」
「む、彼女いる前で別の女の話?」
「まだ付き合ってないし全然彼女じゃないから全然オッケーだね」
「ぐぬぬ……」
そんなに悔しがらなくてもいいじゃないか。そっちが勉強嫌そうだから別の話して気分転換でもさせようとしてるのに。
「そうだよ、中学の…2年だったっけ。私は知らなかったんだけど、その時のくるっちゃんめちゃくちゃグレてたらしくってね?」
「…まあ想像はつかなくもない」
「それはもうヤンキーと言って差し支えないくらいの」
あの目つきはヤンキーというか殺し屋的な何かを感じるけど……非行少年少女とかより社会の裏側にいそうな感じの目だ。グレてるからとかよりそもそもの本人の気質とかのような気がする。
つまり目つきが怖い。
「それで私と友達になってからなんだかんだで落ち着いて今みたいになった…って感じ?」
「よくそんな怖いのと友達になったね……いや、悪口のつもりではないんだけどさ」
「だから私そんなの知らなかったんだって。後から聞いて驚いたもん」
頬を膨らませ不満げな表情を向けて抗議してくる小宮山さん。
ああ……やっぱりバカなんだなあ、この人。聞いてる聞いてない以前にあんな目つきしてる人と近づきたいとはなかなか思えないんだけど。
人の友人にこんなこと考えるのも失礼か……
「まあそれでも今は1番の友達だしね。ねえ聞いて?くるっちゃんてばあれでぬいぐるみ抱いて寝てるんだよ?カワイイよね」
「へぇ……まあ意外だけど、別にいいんじゃないの」
「部屋に100体くらいぬいぐるみあったよ」
「それは怖いな」
まあなんだかんだ言って随分と楽しそうに来栖さんのことを話しているので、本当に仲のいい友達なんだろうなというのは感じる。俺は嫌われてるっぽいけど。
「……小宮山さんは何が好きなの?」
「蓮木くん」
「いやそうじゃなくて」
「単推しですッ」
「そうじゃないって」
「単推しで激推しの神推しの——」
「落ち着いて?」
「好きです」
俺が「好き」ってワード使ったから変なスイッチ入ったのか…?いや関係なしに隙あらばねじ込んできそうだな。
「何が好きってのは、趣味とかそういう話で…」
「趣味は蓮木くんを眺めることです」
「視線を感じるのはやっぱ小宮山さんだったのか……いや、そうじゃなくて」
「趣味〜?特にないけど、うーん……カフェ巡り?」
「急に落ち着かないで」
………つまりさっきまでのはボケだったってこと?
「蓮木くんは?何が趣味なの?」
「……特にない」
「読書だよね、結構読んでるとこ見かけるよ?」
友達のいない学校生活でやることが読書しかないだけです。
「まあ趣味なんて言うけどさ、趣味って言い切れるほどのめり込んでるものなんてなかなかないよねぇ…」
「まあそれはそうかも…」
「私だって普通に友達と遊んで、カフェ行ったりスイーツ食べたりして、洋服買ってオシャレしたりするだけでさ。蓮木くんもそんなものでしょ?」
「………………あっうん、そうだね」
特に用事がなければ部屋にこもってスマホ弄ったり本読んだりしてるだけのつまらない人間でごめんなさい。
趣味がなくたってそれだけキラキラした高校生活を送れているのならそれでいいのではないか。俺は良くないけど。
「今度一緒にどこか行く?」
「え?」
急にふっかけられ変な声を出してしまう。
「ついでに告白してくれてもいいよ」
「むり」
「そんなぁ…」
「ついでで告白されても嫌でしょ……」
「まあそれは……そうだけど」
もしするんだったらちゃんと俺も……
「まあどこか行くって言うんなら一緒に行ってもいいよ」
「ほんと!?」
「テスト終わったらね」
「現実に引き戻さないで」
「現実逃避してたんだ」
「し、してないよ?」
彼女がそうやってなかなかやる気を出さないので、進捗はあんまりよろしくはなかった。
結局その後も何日か一緒に勉強をして、テストが近づくたびに余裕がなくなって勉強効率がよくなっていき、最終的にはそれなりの点数にはなったのだそう。追い込まれると人はなんでもするもんだ。
「見ろよこれ、20点、凄くね」
と、何故か自慢げにテスト用紙を見せてきた光田には憐れみの目を向けてやった。
「やめてその目、つらい」