好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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いるだけで良いとかそういう話ではない

 

 時間的には夕方、しかし夏はまだまだ明るい時間帯。重さを感じる鞄を背負い直しつつ家の扉を開き、靴を脱いでそのままリビングへと向かう。

 

「ただいまー」

「……今日は早かったね」

「そうか?」

 

 家には親がいない。

 妹と二人で暮らしている。両親は色々あってしばらくの間地方の親戚の家にいて、休日にはうちに戻ってくるけれどそれ以外は基本二人だけで家事とかをこなしている。

 

「今からご飯作るから少し待っててな」

「別に急がなくていいよ、明日土曜だし夜更かしするから」

「……肌に良くないぞー」

「もう少しマシなこと言えないの?あと余計なお世話」

「………」

 

 二つ下の妹、結依は反抗期だと思う、思いたい。半年か1年くらい前からなんだか当たりというか、口がキツくなってきた。両親には普通なので俺限定で。

 

「…夜更かしして何するんだよ」

「アニメ見る」

「ああ……そっか」

 

 別にアニメなんていつでも見れると思ったが、結依は俺と違ってちゃんと友達いたり趣味にも時間使ってるから……

 やることなくて興味のないアニメや漫画にまで手を出す俺とは違って……

 

「………っ」

「なんで天井見てんの」

「シミを……眺めたくて」

「ないじゃん」

「今晩はオムライスで……いいですか…っ」

「いいけど急に何……怖いんだけど」

 

 妹が俺とは違ってちゃんとしてて嬉しい気持ちと、それに比べて自分という人間のしょーもなさが複雑に絡み合い思わず天を仰いでしまった。今日も空は青い、見えないが。

 

「まいいや。先お風呂入っとくから」

「ん…」

 

 一応料理はある程度出来るようにはなってきたが、流石に母親には遠く及ばない。

 母は休日に帰ってきた時にたまに作り置きをそれなりの量仕込んでくれるので助かっている。別に弁当買って済ますとかでもいいんだけどそればっかりだと流石に……ってなるし。

 

 オムライスももうここ1ヶ月で4回目くらいな気がするが、そういうのに文句とか言ってこないところは助かっている。

 俺のレパートリーがないのを察して何も言わないようにしてくれてるのかもしれないけど……

 

「……あ?あっづッッ」

 

 チキンライスを作ってたら急にスマホが鳴って取ろうとしたら思いっきりフライパンに手が当たった。結依がいたら罵られてたかもしれない。いや罵られていただろう。

 

「ってぇ………小宮山さん?」

 

 メッセージじゃなくて電話がかかってきていた。珍しいなと思いつつ出てみると

 

『ごめんッッ』

 

 いきなり謝罪の言葉が飛びかかってきた。

 

「オーケーまず説明して欲しいんだけど、何が?」

『急に電話かけてごめんね?』

「……えっそれ?」

『…いやもちろんそれだけじゃないんだけど……あれ?なんか料理してる?』

「え?まあそうだけど…」

『好き』

「それはいいから」

『はい……』

 

 本題に入らずに関係ない話をされそうになって思わず素っ気ない返しをしてしまった。

 

『その……明日って、遊びに行くって約束してたでしょ…?』

「あぁ……急用でも出来たとか?」

『そんなわけないでしょ』

 

 そんなわけないんだ………めっちゃ言い切ってくるのはなんなんだ。

 テストがつい先日終わったばかりで、休日である明日に以前約束していた通り遊びに行く……そういう話だった。

 

『私に蓮木くんとのお出かけ以外に優先すべき事があると思う?』

「なくはなくないんじゃないかな………それで、結局何があったの?」

『えぇと……蓮木くんと一緒に遊びに行くんだ〜って、くるっちゃんに言っちゃって……』

「い、言っちゃって……?」

 

 そんなことできないように俺をシメに来るとか…?

 

『一緒に行くって……言い出して……』

「………え?そんなこと?」

『そんなことじゃない!』

「え?」

 

 いやだってたかが遊びに行くだけだし……むしろ誘わないのかなあ、なんて思ったりもしてたんだけど。

 人数多い方が楽しいもんじゃないのかな………

 

『いい?蓮木くん』

「はい」

『蓮木くんにとってはただの友達とのお出かけに過ぎないかもしれないけど、私からすれば想い人との二人っきりのデートにも等しいわけ』

「付き合ってないけどね?」

『なくてもデートは成立するのッッ』

「そうなの…!?」

 

 というかそれを本人に直接言うって、やっぱりなかなかに奇妙な状況なのでは………まあそれは今更か。

 

『くるっちゃんも何考えてるんだか……いい雰囲気になって蓮木くんに告白してもらう算段が台無しだよ』

「………それ、口に出してる時点で期待してないよな?」

『えへへ』

 

 まあ小宮山さんの不満も理解はできる……けど、やっぱり来栖さんが俺のことシメにくるとかそういう話じゃないだけ安心してしまった。

 だって怖いし……

 

「まあ来栖さんは小宮山さんの方が心配なんだと思うけど……」

『だろうねえ……過保護なところあるからくるっちゃん』

「………うぅん」

 

 まあ要するに俺は来栖さんに信用されてないわけで、むしろ死ぬほど訝しんできているわけで。

 そういう、信用のなさはまあ俺のせいでもある……ので、俺が来栖さんに対してどうこう言うことはできない。

 

「……まあ、俺はちょっとホッとしてるよ」

『…………え?くるっちゃんのことが好きとか言う?』

「いや言わないけど…」

『だっよね〜、もしそんなこと言い出したら私何しでかすかわかんないよ〜』

 

 ふざけた口調で洒落にならないことを言わないでほしい。洒落なのは分かってるけど……いや、本当に冗談か?これ。

 関係ないことを考える頭をブンブンと振りつつ口を開く。

 

「……俺、まだ小宮山さんのこと全然知らないからさ、俺と二人で出かけてもつまらない思いさせるんじゃないかって心配だったんだ」

『蓮木くんはいるだけで大勝利なんだけど……』

「何に?…まあそれはいいとして」

 

 もう段々こういうのにもいちいち触れない方が楽なんじゃないかと思えてきた。まあ一応反応するけど………

 

「多分小宮山さんは来栖さんがいた方が楽しいでしょ?」

『そんなこと……』

「俺、自分のことしょーもない人間だって思ってるからさ、小宮山さんに楽しんでもらう自信がないんだ」

『蓮木くん……』

 

 実際、一緒にいて楽しいと思えなかったからあの時ああなったって面もあったんだと思う。

 

『……なら、私が蓮木くんを楽しませてあげる』

「俺を?」

『言ったでしょ?蓮木くんはいるだけで大勝利なんだって』

 

 ちょっと何言ってるかわかんない。

 

『そもそも誘ったの私なんだし、私が蓮木くんを楽しませるのが道理ってもんだよ。変に気負わなくていいからさ、ドンと構えてなよ』

「……でも来栖さん来るんだよね?」

『それは……そうだけども……』

 

 随分と頼りになる感じから一気に勢いが無くなっていく感じがなんだか面白くてフッと笑ってしまう。

 

「分かったよ、明日、楽しみにしてる」

『…!うん、任せておいて!くるっちゃんのことなんか忘れちゃうくらい夢中にさせてあげるから!』

 

 絶対無理。

 とは言えず、それじゃあまた明日と言って通話を切ってしまった。

 

「……さて」

 

 ちょっと焦がしたな………自分の皿に入れておけばいいか。

 

 

 

 

 

 

「食器は流しに入れとけよ〜」

「うるさい」

「えぇ…」

 

 兄……慎也はよく私に小言を言ってくる。それは両親が普段家にいないからその責任を感じてのことなんだろうと思うけど、いつまでも子供扱いしないでほしい。

 

「明日は……まあ適当でいいか」

「………」

「…あ?何でこっち見てんの?」

「自意識過剰やめてくんない?」

「えぇ…」

 

 

 最近、兄の様子がおかしい。

 二つ上の兄は言ってはなんだけど、人付き合いが得意な方ではなかった。それは他人に対してだけではなくて私に対してでもある。

 

「俺明日出かけるから。……母さんたちは明日は帰ってくるんだっけ」

「帰ってくるけど夜遅く」

「そっか、じゃあご飯は適当にやっといてくれ」

「……分かった」

 

 もう一度言う、最近兄の様子がおかしい。

 無気力を心情にしているかのように、食べて寝る以外のことは積極的にやろうとしない愚兄を、我が兄ながらなんてどうしようもないやつなんだとは思ってたけど。

 さっきなんて明日着ていく服を選ぶ様子を見せていた、あの兄がだ。正直目を疑った。

 

「……どこ行くの?」

「んー?友達との付き合いでな」

「とも……だ、ち……???」

「やめろその言い方」

 

 兄は人付き合いが得意な方ではない、そして付き合いが良い方でもない……と、少なくとも私は記憶している。

 ここ数年、あれが友達と休みの日にどこかに遊びに行くなんてところほとんど見たことがなかった。数回はあったかもしれないけれど、ほとんどめんどくさいだななんだのとぐちぐち言っていたように思える。そもそも友達というものの話を家でしているのを見た覚えがない。

 

 例外は……あったけど。

 

「……友達いたんだ」

「凄く失礼なこと言ってる自覚ある?」

「だって何も言わないし」

「そうだけど…」

 

 何度でも言おう、兄の様子がおかしい。

 本当に友人と呼べるのか怪しいくらいの付き合いしかなかったのが、ここ1ヶ月くらいになって急に帰りが遅くなったり、こうして休日に遊びに行くと言い出したり、スマホでメッセージを送っているであろう時間が長かったり……

 

「怪しい……」

「何がだよ」

「明日、誰とどこに何しにいくの」

「あー?だから友達と、ショッピングモールに買い物に…かな?多分」

「モール!!?」

「も、もーる……」

 

 モールだって…!?

 男同士の付き合いでショッピングモールに買い物?そんな馬鹿な話があるか、男同士で遊びに行く場所なんてせいぜいカラオケだの映画だのあと……ボウリング?そんな程度。

 それがモールで買い物……?

 

 ハッ!!

 

「もしかして……女の人?」

「そうだけど………まて、やめろその顔。ただの友達だから」

「うちの兄に女友達が……?」

「その反応もやめろ」

 

 まともに放課後遊ぶ友達もいなさそうだったのにいきなりステップアップして女友達と二人っきりでお出かけなんてそんな……そんな……

 

「デートぢゃん…」

「違うが?」

「女の人と二人っきりでお出かけはデートでしょ!!?」

「いや二人だけど」

「ほらやっぱりふた……え?」

「女二人と俺」

「………????????」

 

 それは……どういう………

 ………

 

「3——」

「やめなさいはしたないから」

「はしたないことしようとしてるのはどっちだよ!」

「そういうんじゃないって……」

「じゃあどういうのなのさ!」

 

 ろくに友達もいないのに女子二人と一緒にショッピングなんて意味のわからない状況になる…?

 そもそも男と女の買い物にかける所要時間は比べ物にならないほどの差があって、女子二人もいたらそっちペースになるからこいつが楽しめる余裕は………

 

「ハッ!」

「もう終わっていい?」

「もしかして……お前……」

「お前て」

 

 うちの兄貴は人付き合いが苦手だから……自分の置かれている状況に気づいていないんだ。

 こんなのを放置してしまってきた私の責任でもある。ちゃんと……支えてあげないと……

 

「辛かったらいつでも言ってくれていいんだよ…?」

「………え?なにイジメみたいな感じだと思われてる?違うからな?」

「かわいそうに…」

「やめろ憐れむな」

 

 ……でも、付き合ってるとかそういうのではないんだ。

 

 あの頃の兄の姿と今目の前にいる兄の姿を見比べて少し、安心した。

 

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