今日の外出に際しての服装について、一応光田にアドバイスを求めた。
『男に出来のいいファッションとか求められてないから適当でいい』
『相手の服装舐め回すように見て隙を見て褒めることの方が大事』
『無駄に金かかった服やらアクセやらでイキってるやつは女にどう見られてるとかじゃなくて、ただ着飾ってる自分に対して悦に浸ってるだけ』
『てかそもそもデートじゃないんだよな?』
聞く相手を間違えたと思った。いやもともと大して期待していなかったけど……
『まあ小宮山なら何着ていっても全肯定してくれるだろ』
これだけは役に立った……かもしれない。
向かった先は電車で15分くらいの場所にある大型ショッピングモール。この辺りだとかなり大きめの施設になるんじゃないだろうか。
「待ち合わせは一階の……」
ここ、昔も何度か両親や妹と一緒に来たことがある。店の並びなどは流石に記憶とは違っているけど流石に構造までは変わっていない。
「この辺りか」
約束してきたのが午後2時、今が一時半過ぎ。別に家にいたって暇なだけなので少し早めに来てしまった。
まあしかし、暇だ。
「………あー」
前に一度あいつとも来たんだっけか。
思えば割と色んな場所に行っていた気がする、その結果がアレなのでまあ大した今はなかったんだろうけど。
昔から人付き合いというか、他人と関わるっていうのが得意じゃなかった。他人の行動の意味が何一つとして理解できなくて、近寄りがたい存在のように思えてしまって。
それが理由で妹とも大きな喧嘩になったことがある。
別に自分の交友関係が狭いのも自分のこのタチの悪い性格というか、性根のせいなのは理解しているし、直そうと思っても直せるものでもない。
「……距離感おかしいよな、やっぱ」
そんな俺でも小宮山さんがイカれ………独特な距離の詰め方をしてきているのは分かる。相手が俺じゃなかったら普通にドン引きされて終わり……いや俺も引く。
好意を直球で伝えられすぎて早くも自分の感覚が麻痺してきている。側から見たらイチャイチャしているように見えるかもしれないし、実際そういうふうにヒソヒソされていたこともあったが………
「考え出したらダメだな…」
おかげさまで毎日小宮山さんことを考えさせられているので、意識させるっていうことを考えるなら彼女の大勝利だろう。この先どういうことになろうがあまりにも鮮烈すぎて当分は忘れられないだろうし。
まだ小宮山さんはなぜ俺のことをあそこまで好きになってしまったのか教えてはくれない。こちらとしては一切心当たりがないのでいつまで経ってもモヤモヤしてしまう。
「うーむ…」
待ち合わせ場所の壁にもたれかかり、目を閉じて少し顔を上に向ける。
一目惚れ………か?一目惚れした相手にあそこまで粘着してくるって考えると、言葉を選ばずに表せば異常なので違っていて欲しい。
とはいえ本当にろくに関わった覚えはないし、それまでに言葉を交わしたことも……まあ数回はあったかもしれないけど、それだけで惚れられたとか言われてもそれはそれで言葉を選ばずに表せば異常だから……
「うぅん………ん?」
何やら自分の右側に気配を感じて目を開いてみると、下からこちらの顔を覗き込むようにして小宮山さんがこちらを見ていた。
期待のこもった眼差しで。
「…………声かけてくれればいいのに」
「私のこと考えてくれてるのかなあって」
「……否定は、しないけども」
「やったねッ」
ガッツポーズして喜びを表している小宮山さん。正直どちらかといえばネガティブな意味なんだけど、まあ嬉しそうならいいか……
「とりあえず写真撮るね、はいピース」
「え?あっ、はい」
いきなり肖像権を侵害された。
「どうしたの急に」
「貴重な蓮木くんの私服姿なので帰って印刷しようかと…」
「………ネットに上げたりしないでね」
「しないよそんなこと!」
だよな…最低限のマナーはあるよな…
これは流石にちょっと失礼な物言いだったかもしれない、俺が関わらなきゃ小宮山さんは普通の女子高生なわけで。
「蓮木くんの私服姿を額縁に入れて待ち受けにするのは絶対に私だけだから」
「……凄いこと言ってるって自覚ある?」
「実はちょっとある」
「ならいいか……」
よくないと思いつつ、半分くらい諦めた。
「……ってか、来栖さんは?」
てっきり一緒に来ているものだと思っていたんだけど姿が見えない。まあまだ待ち合わせから15分ほど前だし、別々できていたらまだ来ている最中かもしれないが。
「くるっちゃん後ろにいるよ?」
「…………え?」
「うしろ」
不思議そうに俺の後ろを指さしている小宮山さん。なんだろうこれ、そういう心霊現象か何かだろうか、普通の人には見えないものが見えているのだろうか。
「いやぁ……ひッ」
右肩に勢いよくドンッ、と手が置かれた、というかほぼ叩かれた。
そっと後ろを振り返ってみると、今にも息の根を止めようとせんばかりの眼がこちらを睨みつけていた。
「こ、こんにちは……」
「さようなら」
「さようなら!!?」
「永遠に」
「永遠に…!?」
あ、俺死ぬんだ……
「くるっちゃん脅かしちゃダメでしょ?」
「私は別れの挨拶をしただけなんだけど?」
「さようなら……」
「ほら蓮木くん怖がって帰ろうとしてるじゃん」
「還ればいいんじゃない?」
「よくないよ!」
肩に置かれた手が退けられてやっと意識が現世に帰ってきた。
「…俺、生きてる?」
「死んでるから目覚めなくていいよ」
なんか後ろから悪魔の囁きが聞こえる。
本当に何の気配もなく背後を取られていた、絶対同じ手法を何度も人相手にやっている。割と真面目に命の危険を感じた。
「ほらくるっちゃん蓮木くんの背後取るのやめてこっちに来て」
「チッ」
舌打ち……
ここまで人から直球な憎悪や敵意を向けられるのは初めてだ、辛い。
常にこちらを睨みつけながら小宮山さんの後ろへ歩いて行った。
「じゃあ行こっか!まずは〜……はい!服を見に行きます!」
「……誰の?」
「みんなの!」
「はあ、なるほど…?」
………ん?
「みんなって、俺も含まれてる?」
「あったりまえじゃ〜ん」
「なぜ俺の服を…ハッ」
しまった、光田がちゃんとしたアドバイスをよこしてくれないから我ながら適当もいいとこな服で来てしまったと思っていたがそれが原因か?お前の服ダサすぎるから私がコーディネートしてやるよとかそういう話か…?
「んー、理由は一応あるけど……秘密で!」
「秘密にするような理由が…?」
「ほら行こう?先に私たちの服見に行こうねくるっちゃん」
「男はついてくんなよ」
「そんなこと言わないの」
いや実際女性ものの服売り場に連れて行かれても困るが……まあ、下着とか見るわけじゃないだろうしそこまで気にしなくてもいいのだろうか。
軽い足取りで先に行く小宮山さんの後をついていく。
『……なら、私が蓮木くんを楽しませてあげる』
とは言っていたものの、これが楽しませるということなのだろうか…?そこまで深く考えていない可能性もあるけれど。
「……ゔっ」
小宮山さんの背中をぼーっと眺めていると、来栖さんがまっすぐこちらに向かって中指を突き立ててきた。怖い、すごく怖い。
冗談とかじゃなくて割と本気でそう思っているのが伝わってくる。
今日俺は無事に家に帰ることができるだろうか……
「失せろ」
ねえなんでこの人と友達出来てんの小宮山さんは。