新エリー都の日常feat.TS転生者   作:ディニー足りない

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喧騒の日常

 物語のヒーローなんて、この世でなりたくないものの上位には入るだろう。

 なのに、現代社会から生まれ変わって、現代社会っぽい所に生まれ落ちてみれば、そんなヒーローが余計に必要な世界だった。

 

「……お前さぁ、本当さぁ、勘弁してくれよ」

 

 些細な善意が事件への入り口になる事は、そんな珍しい事でもない。だからこそ、頭の中では常に逃げる事を考える。大抵の場合、逃がしてくれない理由が出来る訳だが。

 

 そう、生まれ変わっても、ぜっっったいにゴメンだ──なのにさ! 

 

「ぐぅ……ままぁ」

「こんのガキ……今がどんな状況か分かってんのかぁ?」

 

 背中から浴びる呑気な声に、僅かに苛立ちを覚える。

 迷子探しが生死を賭けた鬼ごっこになる世界なんて、上から数えた方が早いレベルのひでぇ展開だ。

 

 今俺が走り回ってんのはホロウ、無茶苦茶ぐちゃぐちゃの異次元空間、入って迷子になればそこら辺の結晶ゾンビ……エーテリアスのお仲間入り。

 

 まあ、一言で言えばタチの悪い災害って所。

 

 俺はそん中を必死にガキ背負って走ってる訳だ。あれ、言ってる事とやってる事が違う? 危険に飛び込んでる? 忌々しいよ勝手に動いた身体が! 

 

 四方八方既視感漂うビルばっか、飛んで跳ねてはそれを通り抜けてたんだが、地図もなく走るにも限界がある。それに、エーテリアスも案山子みたいな雑魚ばかりじゃない。

 

 目の前の空間が揺らいで──そら来た! 

 

 前髪を掠める光の刃。躱せば眼前に白いマントを背負った様なエーテリアス。さながら狩人の様なそいつの通称はタナトス。クソ以下のクソだ。生まれて来るべきじゃない奴ってのはああいうのを言うんだろうな。

 

「俺が()()でなけりゃFワード連呼してた所だ」

 

 情けない強がりだ。それが辛うじて身体を動かす。

 片手で背中のガキが離れない様に抑えながら、もう片方の震える手で得物を構える。

 

 それは一丁のショットガン。

 火薬と一緒に装填されているのは、誰もが愛するスーパースター、銀色に輝くお金(ディニー)だ。

 金は命より重い、ならば命より重い物を超高速でぶつければ最強に違いない、とこれを作った奴はそう言っていた。

 

 タナトスは俺が照準を合わせる前に()()()()しようとするが、それよりも早く俺が引鉄を引く。

 

「許すまじクソ野郎!」

 

 突き出したショットガンの銃口が火を噴く。パーティークラッカーの様に、ディニーはその弧に銀色の光を纏い破砕の嵐となって奴らに降りかかる。

 

 もろに入った散弾がタナトスの表面を削り、奴は膝を突く。その隙に俺は反対の方向へと逃げ出した。このショットガンは特別製、中でも()()()は抜きん出ている。撃たれれば大型トラックに撥ねられた様な衝撃が身体を襲うことだろう。すぐには立ち上がって来ない筈だ。

 

「……くそっ、出口が見当たんねえ」

 

 だが、ホロウはそう易々と逃がしてはくれない。一見すると壁だがその先に道があったり、道がある様に見えて落とし穴だったりする訳だ。神経すり減るなんてレベルじゃない、ましてや案内人無しで彷徨い歩くなんてのは目隠しで神経衰弱をやる様なものだ。

 

 地獄の一丁目が延々と続く。時間は俺達の敵だ。

 

「遺書でも書いときゃ良かったか」

 

 何とか逃げ回って来たが、いよいよ限界だ。体力はギリギリ、物陰に隠れてみれば、周りにはエーテリアスどもがうじゃうじゃと犇めいている。これを突破出来る余力は、あるかどうか。

 

 どうにか生き残る方法を考えていると、どこからかエンジン音が聞こえて来る。

 

「……やっと来たか」

『──見つけましたよ』

 

 短距離の通信による応答。

 彼方から近付くエンジン音、ようやく位置を捉えてその方を見れば、物陰から1台のバイクが飛び出した。

 

 白い車体に青く光るラインの入った近未来的デザイン。如何にもサーキットを走っているのが似合いそうなフォルムのバイクは、俺の()()である。

 

『これは僥倖。周回遅れではないようですね』

 

()()のバイクは独りでに動き、車体を倒れる寸前まで横倒しにしながら車体正面に装備された2門のミニガンで周囲を撃ち抜く。

 

「待て! 俺まで巻き込まれる!」

 

 黒い轍を残しながら旋回するバイクにそう叫ぶ、が。

 

『大丈夫ですとも、伏せていればすぐ終わります』

 

 俺が隠れていた物陰、俺を避けた両隣を弾丸が貫通していた。幾ら正確無比とは言え、恐怖を覚えるぞ。

 

 ゆっくりと立ち上がり、誰もいなくなった広場に佇むバイク『ロード』へと近付いていく。

 

「はぁ、助かった」

『急にホロウに飛び込むとは、さては自殺願望の持ち主ですかな?』

「心配掛けたのは謝るさ。ほら、ガキは助けたんだからな」

『当たり前ですとも。それすら出来ていないなら、何の為に飛び込んだのか』

「厳しいな、いつもの事とは言え」

 

 反省したフリをしていたら、ハンドルを回して俺の脇腹を小突くロード。随分と器用な事をする。

 

「さ、早いところ外出ようぜ。緑の蛍光色ばっか見て目が疲れてきた」

『私もです。早く帰りましょう』

「頼むぞ、ロード」

 

 眠るガキを前に座らせ、バイクに跨れば勝手に走り出す。行く先までのルートも考えなくていい。タクシーみたいな感覚だ。伝う手からのエンジンの振動に少し安心してるのは内緒だ。

 

『心拍数が下がっていますね。やはり怖かったのでは?』

だぁってろ(黙ってろ)

『おやおや、怖いですね』

 

 そうして俺達は無事、ホロウから脱出した。

 

 

 

 ♦︎♢♦︎

 

 

 

「……まさか、あのガキが有名な資産家の子供だったとはな」

 

 スマートフォンの電子明細に映る中々御目にかかれない数の0に、やや気押されている俺だ。いやマジか。マジかよって頬を三度つねってみたが今でも痛い。

 

 実感は、無い。シンデレラストーリーってこんなもんか。なんて上の空で思ってた。いやまあ、どちらかと言えば裕福な方だが。

 

『棚からぼた餅、とはこの事でしょう』

 

 隣を無人で走行するロードがそう言う。まさにそんな心境だ。

 

「……これだけあれば家、いやマンションは買えるんじゃないか?」

『私の部品も交換頂けますかな?』

「分かってる。そこまでケチじゃねえよ。どっかの社長と違ってな」

 

 日頃の行いって奴か。良かった、あのピンク頭みたいにセコい事しなくて。

 

「ふ〜ん、それって誰のことかしら〜?」

 

 と、穏やかな声色に隠し切れない怒りを含ませた女の声が背後から響く。ああ、居たんだな『邪兎屋社長』、儲け話への嗅覚は人並外れてる癖に、金を貯めるセンスが絶望的に不足してる奴が。

 

「聞かなくたって分かるだろ? 常識じゃないか」

「きぃぃっ! 今度と言う今度こそは許さないわよ! 成金板胸女!」

「別にそんなの罵倒にだってなりゃしねえよ金欠馬鹿乳女?」

 

 今、俺の前でカンカンに怒ってる女の名は『ニコ・デマラ』、社長なんて肩書を持っちゃ居るが、社員はたったの3人。俺らの商売敵でもある。まあ、社員がどれも実力者揃いである事は否定しないが、万年金欠じゃあ猫に小判って所だ。

 

 だが、俺は今過去最高に金持ちだ。金があれば心に余裕が出来る。

 

「あ〜あ、折角同業者のよしみでそっちの社員纏めて奢ってやろうかと思ったんだがなぁ?」

「……えっ? あ、アンタが?」

「たった4人だ。高級料理のフルコースだってはした金だぞ? 別に痛くも痒くもないんだからな」

『人は大金を手にすると性格が変わるのですね。いつの時代も』

 

 すると、あれだけ御冠だったニコの顔色が変わった。具体的には、赤から青、青からピンクへ。

 

 別に言ったからには嘘にするつもりは無い。男に二言は無い……いや、()()女なんだがな。

 

 彼女は、怒りに伸ばした手をスルスルと畳み、両の手のひらを擦る体勢に移行した。流れる様なフォームチェンジに俺も息を呑んだ。

 

「そ、それならそうと言いなさいよ〜もう。あ、でもアンタのそういう義理堅い所、好きよ?」

 

 そう上目遣いに甘い声を出すニコ。

 

 ……態度はアレだが、彼女は美人に入る部類ではあるし、身体も男ならば目を奪われる程に健康的ながら下品に肉付いている。今の俺が女でなければ、コロリと落ちてたかもな。いや、なんで俺は女の身体を冷静に品評してるんだ。変態か。

 

 もっとも、彼女の一番恐ろしい所はアウトローである事に間違いはないが、所々で善性を滲ませる所だがな。真っ当な奴より、闇のある荒っぽい手合いにどこまでも深く刺さるタイプだ。あと、普段は涙が出そうな程情けない所もあるが、いざと言う時の度胸はこんな世界でもそう見ないレベルの逸材だ。それにしたって情けなさすぎるが。

 

「お前なぁ……」

「だって高級料理のフルコースよ! アタシ達だって会社の記念日に頼むのがやっとなのに!」

「内部留保って言葉知ってるのかお前?」

 

 そう言ってコイツは俺に泣きついて来た。その身体で引っ付くな馬鹿たれ。コイツ、悪賢い癖に自分の身体の価値を軽視してるフシがある。

 

「女がそんな風に軽々しく人様に抱きつくんじゃねえ。暑苦しい」

「お願いよ……私はいいから、あの子達だけでも」

「……食わせない、なんて一言も言ってないだろ?」

「それって!」

「近い内に連絡する。ああ、そういやお前らの所に1人偏食が居たな。ハンバーガー用のシェフでも雇ってやるか」

 

 そう言うと、彼女は更に力を込めて抱き締めてきた。痛い、痛いんだよ畜生、この世界の連中、妙に力が強いんだよどう言う訳か。

 

「やっぱり持つべきものは友達とディニーね!」

『仲が宜しいことで何よりで』

「見てないで助けてくれ!」

『彼女に害意がない事は君が一番よく分かっているのでは?』

「コイツ……」

 

 

 

 ♦︎♢♦︎

 

 

 

 と、これが俺、ライアの日常だ。

 俺は転生者で、前世は普通の世界に生きていた。だがちょっとした事故で死んだ筈の俺は転生して二度目の人生を歩んでいる。

 

 ここはどうやら、ホロウなんて超常現象みたいな災害に追い詰められた世界らしい。それだけでもファンタジーだが、街中には二足歩行の犬やら猫やらに獣の耳だけ生やした人間、後は機械の人間やマスコットキャラみたいなのも当たり前に人間として暮らしていた。獣人……シリオンはともかく、機械の人間まで条件はあるが人権があるってんだから驚きだ。

 

 差別じゃないぞ、前世由来の価値観での話だ。因みにロードも人間扱いの対象だな。

 だから、ロードと接してる内にそんな事考えるのもバカらしくなった。アイツを人間扱いしないのなら、この世に人間はほぼ居なくなるからな。……路肩で仮眠を取っていると治安官から違反切符を切られるのはご愛嬌だが。

 

 そして俺はホロウ絡みの事件を調査する探偵、もとい何でも屋を副業にやっている。分野がニコの所とモロに被っているせいで、現場で会って小競り合いになった事も数知れず。ニコは正に因縁の相手である。

 更に、俺はこの街、新エリー都の出身ではない。街の郊外で生まれ育った人間だ。都会に比べれば大分と廃れた場所だが、そこでロードとも出会ったから、悪い場所とは思ってない。

 

 以上が軽い俺の身の上話だ。大した事はない、順風満帆と言っても良いかもな。出来れば、こんな日々が続くと良いんだが──

 

 

「君が、彼のパートナーかい?」

「……お客様、で良いんだよな?」

「うん、合ってるよ。私は白祇重工のグレース。君に一つ、人探しを頼みたいんだ」

「分かった。だからソイツを離してやってくれ。何か削れちゃマズいのが削れてる」

『これが、根源的恐怖……』

「ああ、ごめん。彼みたいな人は初めて見たからつい好奇心が湧いてね。凄くクールで、こんなスタイリッシュなフォルムで……」

『今すぐにでも逃げるべきでは』

「で、探したい人ってのは?」

『無視ですかな!?』

 

 

 

「ああ、それはだね──先代社長さ」

 

 

 

 ──そんな事を考えてるから、ロクでもない事に巻き込まれるんだろうな。

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