偽ドラゴンボールZ〜サイヤ要素多めな悟空の物語〜 作:モヤシ炒め
強さを求める男がいた。
無知なまま己の肉体を痛めつけ、鍛え上げ、磨き抜き…。
世界中の猛者の元に赴き勝利してきた。
男は何故そこまで強さを求めるのか?
それは男自身にもわからなかった、ただただその修羅の如き日常の果てに何かがあると信じ男は生きていた。
そんなある日…。
最強の殺し屋と名高い桃白白と男は死合いを行っていた。
気功を用いた桃白白の一撃により男は深手を負うもまるで痛みを感じていないかのように襲い来る男に桃白白は惜しいと感じた。
そして、自身の兄であり気功術の達人である鶴仙人を男に紹介したのだ。
さらなる強さを求めるのなら死合うばかりでなく頭を下げ人に教えを乞う事も必要だと桃白白は男を諭した。
桃白白から紹介と聞いた鶴仙人は男をいたく気に入り。
暗殺術と気功術の極意を教え、男はそれら全てを学び…さらに強くなった…。
仕事として要人暗殺なども行っていた為に男の悪名は世界に轟き男は泣く子も黙る悪鬼の如き暗殺者となった…が…。
男の悪行を良しとせぬ武術家が男の前に現れた。
鶴仙人のライバルでもある亀仙人、またの名を…武の神、武天老師…。
武の神と死合える事を男は感謝した。
亀仙人は男が世間の評判と違うことに違和感を覚えつつも拳を交えた。
鶴仙人の元でさらに強さを増した男の拳は武天老師さえ肝を冷やす程の一撃だった。
だが武天老師は一切反撃してこない。
男は尋ねた、何故戦わぬのか、俺を舐めているのかと。
武天老師は応えた、お主の心は迷い子のようじゃ、哀れに思え拳を出す事が出来んかった…と。
男は強さを求め生きてきた。
己を傷つけ、他人を傷つけ、それでもいつかは報われると信じただひたすらに強さを追い求めていた。
だが…強くなってもわからないのだ。
男はこの世で上から数えたほうが早い程の強さを手に入れた。
大きな岩を破壊し、海を割き、天を貫く拳と術を手に入れた…。
なのに、まだ足りない。
どうすればこの乾きは満たされるのか。
誰か、教えてくれと…。
その心の叫びを武天老師は男の拳から感じ取ったのだ。
男は武天老師に敗れた。
その報せを聞いた鶴仙人は何かを察し…男を鶴仙流より破門した…。
そして男は武天老師…亀仙人の弟子となった。
亀仙流の教えは…。
よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。
それだけだと教えられたが男にはよくわからなかった。
亀仙人の弟子となったその日から男は重い亀の甲羅を背負いアルバイトを始めた、亀仙流の修行の一つで身体能力を鍛えながらお金も稼げる便利な修行だと亀仙人は言った。
亀仙人の元で共に暮らし、その生活の中で男は日常の平穏を亀仙人に教えられた。
そして全ての修行を終えた男は亀仙人から免許皆伝を認められ伸縮自在の如意棒を賜り、さらなる強さを求め亀仙人が若い頃に師事した仙猫が住まうカリン塔を目指して旅立った。
カリン塔に辿り着いた男を塔を守る守護者の一族が待ち構えていた。
かつての男の悪名を知る守護者は仙猫カリンに師事したければ力を示せという、男は守護者の一族最強の男とぶつかり合い、認められカリン塔を登り始めた。
不眠不休で登り詰めた最上階の神殿には白き仙猫が待ち構えていた。男が来ることを知っていた仙猫カリンは男に何かを教えることはないといい、強くなりたければあれを飲めと酒樽に入った水を指差した。
超神水。
飲めば超人になれるが死ぬ程の激痛が絶えまなく襲い掛かり、それを乗り越えられなかったら死ぬだけだと…カリンは冷たく言った。
男は迷いもなく水差しに汲んだ超神水を飲み干した。
身体中に激痛が走り、叫び声を上げ藻掻き苦しむ男の姿を見たカリンは超神水を吐き出せと言うが、男は苦しみながらもそれを断った、男の凄まじい形相にカリンはもう知らんと不貞寝した……七日七晩、男は苦しみ抜いた。カリンも眠れぬ夜を過ごしたが…。ある朝、ついに男の叫び声が聞こえなくなったことに気づいたカリンは男が死んだと思い亡骸を弔ってやろうと向かったが…男は生きていた。
鍛え抜かれた肉体は老人の様に痩せ衰え、黒かった上はまっ白髪になり、まさしく別人の様に変わり果てていた。
男は耐え切った事をカリンに伝えるとそのままバタリと意識を失ったがカリンから仙人が食べる豆を飲まされ息を吹き返した。
これだけ馬鹿な男は見たことがないと呆れ果てるカリンだった、この男は生き方を改めなければ確実に早死にする、この男の無茶を神様なら止める事が出来ると思いカリン塔の更に上にある神の神殿へ男を案内するのだった。
男はカリンに教えられた通りカリンの神殿の天辺に如意棒を突き刺し、天まで伸ばし続け…神の神殿に辿り着いた。
神の神殿ではMr.ポポと名乗る神の従者が男を出迎えた。
男はポポに強さとは、武とは何かと問うた、ポポは応えた。
『強さとは生命の力、武とは己を守る術、だがお前の求めるもの、そのどちらにもない。お前の求めるもの、それは生きる意味。それは人が生涯を掛けて探し続けなければならないもの、だけど探さなくてもいいもの。今見つかるかも知れないし、一生見つからないかも知れない。探求の道は厳しく険しい道だ。誰もが探し求めついには諦めた。生きている間にそれを見つけたの、先代の神様だけ』
男は先代の神様の居場所をポポに聞いたがすでに先代は神を引退し天界へ旅立ち消息は定かではないという。
その代わりにポポは先代の神様に学んだ武術の極意を男に授けた。無の境地ともいう極意を神の神殿で磨き続けた男はついに無を極め…空の境地へ至った。
『わしの出番なかったな…』
現在の神様が寂しそうにポツリとつぶやいた。
◇
男は下界へ降りた。
晴れやかな気持ちだった。
強さを追い求め執着していた思いから解放された先には真っ直ぐな道が伸びている様に思えた。
この先を進めばいい、何があるかはわからないが、きっと己の求める何かがあるはずだと…男は健やかな気持ちで素直にそう思えた。
それから男は辺境の山に籠もり自身が学び得たモノを巻物に書き記した。
その出来上がった書は亀仙人、鶴仙人、カリンとMr.ポポに手渡され、男…孫悟飯はパオズ山にて生涯を過ごしたのだった…。
◇
「やれやれ、また侵略者かの」
とある日の朝。
悟飯は空の彼方より地球に向かって落ちてくる気を感じた。これまで何度も撃退してきた侵略者たちと違いその気はとても弱く、まるで幼い子供の持つ小さな気だった。
悟飯は舞空術でその気の軌道上に待ち伏せし、こちらへ向かってくる丸い宇宙船の姿を確認すると軽く受け止め自身の住まう庵へと戻った。
宇宙船を持ち帰った悟飯はペタペタと宇宙船を触り始めた、するとガコンと音を立て宇宙船の入り口が開き始めた。
「試してみるもんじゃな、どれどれ中身は…尻尾の生えた赤ん坊か、初めて見るタイプじゃの…」
悟飯は宇宙船の中で眠る男の赤ん坊を取り上げると、己の運命を悟った。
「……そうか、そうじゃったのか…これはお前の物語だったのじゃな…なんとなんと…わしはお前の育て親になると?なんと摩訶不思議な運命じゃ、ほっほっほ…そうじゃな…お前にはわしがついには至れなかった空の一文字を加え悟空と名付けよう。お前の名は孫悟空じゃ、この世界を自由に生きよ、世界中を駆け巡り、お前だけの何かを掴み取れ、悟空」
悟飯は世話になった人々へ尻尾の生えた赤子を拾い悟空と名付け育てている事を伝えた。
手のかかるやんちゃな子ではあるが育て甲斐があると悟飯は楽しそうにしていた。
時は流れ…。
とある日の朝。
庵の側で如意棒を構る成長した悟空と向かい合う悟飯の姿があった。
「やいジジイ!お前の命もここまでだ!今日こそぶっ殺してやるから覚悟しろ!」
威嚇する様に歯を剥き出しにして如意棒の先を育て親に突きつける悟空、それにしても酷い言葉遣いだ。
「ほっほっほ…その台詞は聞き飽きたわい、殺すつもりなら音を発せずやれと言うとるじゃろうが。学ばぬ小猿じゃのぉ…」
悟飯の言葉にうぐっと呑まれ掛けるも怒りの感情で勢いをつけ悟飯に飛びかかる。
「だりゃりゃりゃりゃー!」
ぶんぶんやたらめったらと如意棒を振るうがもう少しというところで当たらない。
「なんじゃその棒使いは、力任せに棒を振るうだけでは一生わしには当たらんぞ」
「この!この!当たりやがれ!クソジジイ!」
「やれやれ…」
ほっと悟空の如意棒を奪い取り…何かを思い出す様に如意棒を見つめる悟飯。
「あ!俺の如意棒返せ!」
如意棒を取り返そうとするも猿のように身軽な動きで避けついには木の枝に逃げられてしまった。
「悟空よ、そろそろわしは死ぬぞ」
木の枝の上で、悟飯は突然奇妙な事を言い出した。
「な…なにいってんだ?」
悟空も悟飯の突然の言葉に怒りが吹き飛び首を傾げた。
「お前にとってわしはクソジジイだったかもしれんが、お前と過ごした月日はわしにとって最高の時間じゃったよ…ありがとう、悟空」
「な…なにいってんだよ…いつものジジイらしくないぜ!」
コトリと落ちる如意棒。
ふわりと落ちてくる、悟飯の身体。
「じ、じっちゃん!!!」
ガシリと受け止める悟空の目には涙が溢れていた。
いつも自分の面倒を見てくれていた育て親はこんなに痩せて軽かったのか、そうとは知らず自分は今までなんと親不孝なことをしてきたのか…今、悟空と悟飯の中で互いに暮らしてきた時が走馬灯のように流れていた…。
「わしが、残した書物を読み…毎日、研鑽を怠るで…ないぞ…悟空よ…せ、世界には…お前の知らない、楽しいものが…たくさんの人が…おまえを、まっている…」
「やだいやだい!オラ…じっちゃんが死んだらどうやって生きてきゃいいんだ!イクジホーキなんて許さねえぞ!朝飯作れー!洗濯しろーい!」
「ほっほっほ…わしが、死んだ後、どうすればいいかも、巻物に書いてあるわい…じゃが…そうじゃな…やっぱ、読まんでもいいわい、お前の好きにせい…わしとは、ま、またあの世で会える…この別れは…一時のものじゃ……その日まで…ばいちゃ…………」
「じっちゃん!ばいちゃってなんだよ!!じいちゃん!じいちゃーーん!!!」
生前の行いは酷いものばかりであったが…。
武を極め、武天老師にも等しい武術家となり晩年善行を積んだ孫悟飯は…死後、親しい友人たちから斉天大聖と名を贈られあの世へ旅立った。
悟飯の死後、さらに時は流れ。
庵の中で神棚に飾った4つの星が入り込んだ橙色の球を拝む悟空の姿があった。
「おはようじっちゃん、飯取ってくる」
如意棒を背負いパオズ山を駆け出す姿はまるでハヤブサのように素早く、それを見た猿たちは目を回して転ぶのだった。
孫悟飯の物語は終わり、斉天大聖の名を継ぐ者、孫悟空の物語がこれより始まる。
プロローグ
おしまい
次回は悟空の話を駆け足で