謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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「見る睡眠導入剤」「数分意識が持てば良い方」

そんな風な評論を寄せられる謎の映画を作り続ける、正体不明の映画監督がいました。

既に八作品も国の文化振興を行う法から予算を頂戴して、いわゆるZ級映画を作り続ける謎すぎる人物。

この物語は、ある意味でとても前衛的なやり方で、現在に対して風刺を行う者達のストーリーです。


謎の映画監督
プロローグ、謎の映画作家


映画館に人はほとんど入っていない。

 

映画が上映しているのに、中はガラガラ。

 

そして数少ない観客もあくびをしているか、寝ていた。

 

あまりにもつまらないのだ。

 

映画が終わって、次の映画のためにスタッフが寝ている客を起こして回らなければならないほど。

 

それほどに、この映画には人が入っていなかった。

 

それでも何故か。

 

この映画は、シリーズ8。

 

なんと8作品も続いているのである。

 

そしてそのシリーズを作っている監督は、全て同じ人物なのだった。

 

しかもだ。

 

「アルティメットコメディ」というジャンルを勝手に名乗っているこの映画シリーズ。ジャンルもバラバラ。

 

なんと一作目はサメ映画で、二作目はスプラッタ映画。三作目はなんといきなりスペースオペラと、統一性が全く無い。

 

それなのにシリーズ化しているという、意味不明な代物である。

 

ともかく映画館の館長は嘆いていた。

 

「文化保護法だか何だかしらんが、なんでこんな映画が堂々と作られているんだよ。 しかも国の税金がつぎ込まれてるんだぞ」

 

「余所の国のを真似したらしいですね。 結果つまらない映画の量産につながったと」

 

スタッフが皮肉を込めて言う。

 

ただ、映画館館長にしてみれば。

 

客が全く入らない映画なんて、困るもの以外のなにものでもなかった。

 

しかもその法によって、映画館で放映はしなければならないのだ。

 

本当に迷惑な話である。

 

「DVDだかBlu-rayだかで売ってくれよもう。 マニアならそれで買うだろうよ……」

 

「文句はこの法を通した政治家さんたちにいってくださいよ。 まあ大御所とかいうジジババのコネで通したらしいですけど」

 

「意識高い系の映画作ってるジジババが、どんだけ邦画衰退させたと思ってるんだ。 その上こんな睡眠導入剤みたいな映画作りやがって。 映画館を潰す気か」

 

「知りませんよそんなの。 さ、次は人気のアニメ映画ですから、掃除もしっかりしましょう」

 

スタッフに言われて、年老いた館長はブツブツぼやきつつ掃除をする。

 

そんなに大きな映画館ではないが、スタッフは今時だし人手不足。

 

館長も掃除に協力しなければならない。

 

椅子などのチェックが終わったので、次の映画を入れる。

 

もう十何作とシリーズが出ているアニメ映画で、わっと人が入る。

 

意識高い系の映画監督が失笑しているらしいが。失笑されるのは自分達だと言う事がわかっていないらしい。

 

映画館の人間からして見れば。

 

実際問題つまらない映画を作っておいて。

 

それでいて巨匠を気取っている連中は、はっきりいって度し難いとしか言えなかった。

 

ともかくこっちは金になるからいい。

 

映画館の館長は自室に戻ると、何かあったら呼んでくれといって休む。

 

それにしても凄いなこっちは。

 

今回の作品も、数十億は軽く売り上げを出すこと確定だそうである。

 

実写がすっかり駄目になった邦画だが、アニメ映画は大好調。

 

少し前には世界記録を塗り替える作品が出た。

 

それらを馬鹿にしている自称巨匠が作る映画なんて、それこそ誰も見ない。

 

それが映画界隈の現実だ。

 

しばらくぬれタオルを被って休んでいた。

 

もう年だし、疲れがなかなか取れないのだ。

 

ともかく、次の仕事をと思って体を起こす。

 

軽くスポーツドリンクを飲んで、体力を補給しておく。

 

小さな映画館とはいえ、最後の上映は7時になる。

 

映画館も、それなりに激務なのだ。

 

「それにしてもさっきのつまらん映画、作ったのは例の……」

 

「まだ若いのに意識高い系の映画人に謎の絶賛を受けている新進気鋭の作家ですよ」

 

「なーにが新進気鋭だ。 SNS見るとでてくるが、エドウッドの再来とか言われてる奴だぞ」

 

「エドウッドはとても良い人だったらしいのに、そいつは筋金入りの変人らしいですね」

 

はあと溜息が漏れる。

 

子供達は大満足してアニメ映画を見終えたようだ。

 

否。

 

客には大人も相当数いる。

 

そう、大人も楽しめていると言う事だ。

 

ただ、その分部屋も荒れる。

 

スタッフ総出で掃除をする。椅子を破損とか、そういう酷いのはなかったのが救いだが。

 

たくさん客が入ると、椅子を壊したりするような輩がどうしても出るようになるのだ。

 

次の映画は、まあそこそこ知られている海外映画だ。

 

客はそれなりに来ている。

 

ただ、吹き替えの評判が最悪だ。

 

本職の声優を使えば良いのに。「客が来る」とかいう理由で、演技指導もロクにしていない素人同然のアイドルだのを使っている。

 

それでも演技指導とかをきちんとすれば、ちゃんとしたものになるのだが。

 

演技指導をロクにしないのだからタチが悪い。

 

自然な演技だかなんだか知らないが。

 

そういうのだって、本職もやろうと思えば幾らでも出来る。

 

そんなことは年老いた館長ですら知っているのに。

 

映画業界の老衰ぶりは、館長よりも酷いようだった。

 

というわけで、その海外映画は字幕で公開である。吹き替えの方は惨状がすぐに分かったので、一回だけ流して後は全部字幕に変えた。

 

問題はその字幕も翻訳者が業界にコネがあるあんまり腕が良くない人物が担当した事で。

 

トンチキな翻訳のせいで映画の魅力を半減してしまっている。

 

頭を抱えたくなる事態だが。

 

我慢するしかない。

 

ともかく、館長は今日も一日乗り切った。

 

幸い、最近はそこそこ映画館は儲かっている。

 

全体的に不況が酷い今の時代だが。

 

それでも何とかくっていけているのだから、可とするべきなのだろう。

 

上映が終わったので、色々な後始末をしていく。

 

パンフレットを見つけて、うげっと声が漏れた。

 

例の映画監督が。

 

次の映画を出すらしいのである。

 

どうせ「業界人」には大受けする事確定だ。

 

多分映画館では放映しなければならないのだろう。

 

しかも内容は「社会派」らしい。

 

初作がカルト映画の代表格となっているサメ映画だったのに。

 

なんで続編が社会派映画になるのか理解出来ない。

 

しかも「社会派」といえば、つい最近も「業界人」だけしか評価しなかった、マスコミ賛美作品があったりと、ろくな代物では無い魔郷である。

 

思わず館長は溜息を漏らしていた。

 

「まだ若いらしいのに、どうしてこんな訳がわからん映画ばっかり作ってるんだこの人はよ……」

 

誰もそれには応えてくれない。

 

それはそうだ。

 

スタッフ達も、うんざりしているのだから。

 

 

 

某所。

 

ある映画施設。

 

少し前までは、時代劇が毎週放送していた時期もあったのだが。それらのレギュラー番組が悉く終わってしまった。

 

理由は簡単。

 

視聴者があらかた鬼籍に入ってしまったからだ。

 

たとえば、ある江戸幕府の副将軍が日本中で世直しをする時代劇。

 

あれなどは、老人がいつ死んでも分からないから、毎週いつ見ても楽しめる内容にしてほしいという要望が多かった。

 

それ故に、毎週日本中で似たように世直しをする話になっていたのだが。

 

視聴者がみな鬼籍に入ってしまえば、当然誰も見なくなる。

 

つまりは、そういう事である。

 

今は歴史映画やら、国営放送の大河ドラマやらでセットが使われることが多いが。

 

前ほどの活気は無い。

 

だから、利用するのも。

 

正直、楽で良かった。

 

退屈そうにメガホンを握っているのは、ひょろんと長身の女性である。何というか目の下に隈がいつも浮かんでいて、退屈そうな表情。しかもつまらなそうにしているので、男が寄りつかない。

 

この人こそ。

 

「業界人にだけ」高評価の映画を作り続けている謎の人物。

 

高宮葵だ。

 

映画ファンからは「現在のエドウッド」等と呼ばれる事もあるが、勿論それは嘲弄の意味である。

 

意識高い系の映画監督とかは、批判に対して顔を真っ赤にして反論し。挙げ句の果てに「理解出来ない方が悪い」とか抜かしたりするのだが。

 

高宮は繰り返される批判にも一切合切無関心である。

 

そもそも映画ファンは高宮の素顔も知らない。

 

マスコミに顔を露出しないからだ。

 

その上無気力そうで退屈そうな表情もあって、いわゆる性的な魅力はゼロ。一時期は俳優や若手の監督にに枕営業を強要していたような「業界の重鎮」たちも見向きもせず。とにかく、「業界人」に圧倒的な好評を得る一方で。

 

本人のことは誰も知らないと言う。

 

謎極まりない人物となっていた。

 

連れてきている俳優も、近年はレベルが下がる一方だ。

 

意識が高い系の人間は、どうも声優の事が未だに不愉快でならないらしく。アニメ監督でも、年を取ってきて脳がバカになってくるとそうなってくるケースが多い。

 

オタクと呼ばれる存在が社会的に「差別して良い」とされていた時期が存在していたのは高宮も知っている。

 

その時期の脳みそのまま、未だに動いているのだろう。

 

無気力の権化である高宮にとっては、どうでもいいことだ。

 

実の所、高宮はエドウッドと比較されるのをとても困惑している。

 

エドウッドは映画を作る才能に関しては皆無だった。

 

それについては、映画を知る人間だったら誰もが同意するだろう。

 

しかし映画に対する情熱に関しては人一倍だったのだ。

 

それについても、エドウッドを少しでも知る人だったら、誰でも知っていることである。

 

だから、そんなエドウッドと無気力の塊が比べられるのは、不愉快極まりないというのが事実だ。

 

エドウッドに失礼である。

 

それにだ。

 

無気力な高宮が、意味不明で前衛的な映画ばっかり取っているのにはしっかり実は意図がある。

 

まあ、それを公表するつもりはないのだが。

 

「はいカット」

 

「カット! 休憩五分!」

 

映画のセットの中で、色々なスタッフが動いている。

 

売れもしない映画なのにスタッフがいるのは、補助金が出ているからである。

 

文化保護法とか言うものだ。

 

欧州でも似たような法律がある国が存在する。その法を悪用して、クズ映画を量産している監督がいるのも事実だ。

 

それなのにこの国も、「何でも欧州のものは素晴らしい」とか考えている阿呆どもがそれを真似し。

 

この法を作ってしまった。

 

そのため、初作で「業界人」に絶賛されるサメ映画を作った高宮は。安泰のままゴミ映画を量産する事が出来ている。

 

勿論それが税金から賄われていると思うと色々心苦しい所もあるが。

 

少しばかり目的のためにお金を使わせて貰いたい所である。

 

「監督、その、すいません」

 

俳優が来る。

 

手には、しっかり何度も真面目に読み込んだらしい脚本。

 

まだ若い俳優だ。

 

若い俳優が現在登竜門としているのは、特撮番組とされている。

 

現在勢いを盛り返している特撮番組は、一時期ほどではないにしても社会的な現象になっており。

 

特に若手俳優にとっては登竜門だ。

 

だがそれに出たからといって必ずメジャーになれるというわけではなく。

 

そのまま仕事がこなくなり。

 

挙げ句ストレスからカルトに落ちてしまう俳優もいる。

 

この業界は魔窟だと高宮は知っている。

 

特に枕営業は未だに蔓延っている状況だ。

 

まあ、そういうものなのだから仕方が無いが。

 

そんな中でも、情熱を持っている俳優がいるのは立派だ。

 

「このシーンなんですが、どうしてもこの台詞の意図が理解出来なくて……」

 

「理解出来なくても頑張って」

 

「……」

 

「理解出来なくても頑張って」

 

敢えて二回繰り返すと。

 

項垂れて、俳優は戻っていった。

 

最悪のやり方である。

 

どうすれば良いか聞いて来た相手に、「努力しろ」というのは最低のやり方である事を高宮は知っている。

 

どうすれば良いかと聞いてくるような人間は、意欲があるのだ。意欲はあるが、対応策が分からない。

 

それに努力しろというのは、はっきりいって最悪の悪手だ。

 

更に言えば、非効率な努力は人間を簡単に裏切る。

 

下手をすると、努力の果てに何も残らないと言う事なんてザラに起きてしまうのである。

 

そんな事は敢えて分かった上で、高宮は相手を突き放した。

 

ああいう子には、こう接するように決めている。

 

間違っても、高宮を凄い映画監督と勘違いされると困るからだ。

 

しばらくの休憩の後、撮影再開する。

 

今取っているのは、社会派映画。

 

「業界人」が大好きなそれだ。

 

社会派といっても舞台は江戸時代。

 

江戸時代と言う割りには色々とおかしな点があるのだが、それについてはまあどうでもいい。

 

問題は、江戸時代で民主主義を題材としているということで。

 

はっきりいって無茶苦茶にも程がある。

 

そして高宮は敢えてそれを理解してやっている。

 

勿論一般視聴者は何の興味も湧かないだろう。

 

アルティメットコメディシリーズと言えば、クソ映画の代名詞と化しつつあるのだから。

 

しかしながら「業界人」は大絶賛している。

 

その温度差が。

 

高宮には、意図して作りあげたものだった。

 

会話も内容が色々とおかしい。

 

これも意図している。

 

脚本家に書かさせているのではない。

 

脚本は全部高宮が書いている。

 

脚本というのは、専門の人間がいるが。あのハリウッドですら、意味不明の脚本がしばしば上がってくるのである。

 

ましてやもはや魔窟とかしてしまっているこの日本では。

 

敢えて言うまでもないだろう。

 

だから自分で書く。

 

それだけだ。

 

そして脚本家に無駄な金を払わなくてすむと言うだけで。

 

他のクソ映画監督よりは、税金を無駄遣いしていない。

 

そういう意味では、高宮は多少マシなのかも知れないが。

 

あくまで多少。

 

大した違いはない。

 

俳優達も困惑しながら演技をしているが。

 

高宮は殆どNGを出さない。

 

このため、「ホトケの高宮」とか俳優達には言われているらしい。

 

これは恐らくだが。

 

何も文句を言わない優しい監督だという意味と同時に。

 

死人のように何もしないという意味もあるのだろう。

 

中々これは面白い比喩だと思う。

 

時々SNSを覗くと。高宮のやり方を擁護して炎上し、周囲に噛みつきまくっている「業界人」がいるのだが。

 

そういうのの狂態を見るのは、高宮の楽しみの一つだった。

 

なお高宮もSNSをやっているが。

 

朝飲むコーヒーの写真しか上げないので。

 

「謎のコーヒーアカウント」として知られている。

 

映画監督なのに、自作の宣伝すらしないと言う事で。カルト映画のファンですら困惑しており。

 

しかもインスタントコーヒーばかりなので、ゲシュタルト崩壊を起こしそうだとぼやいているアカウントも時々散見する。

 

それでいい。

 

下手な事を抜かして炎上するよりも。

 

得体が知れない意味不明な存在でいる方が良いからだ。

 

やがて撮影が終わる。

 

肉体的な意味ではあんまり疲れていないだろうが。

 

意味不明な台詞と意味不明な演技をさんざんさせられて、SAN値をゴリゴリ削られた俳優達が、疲れきって帰っていく。

 

それでいい。

 

あくびをしながら、ふらっと高宮も帰る。

 

そして、帰路で思うのである。

 

今日も、つまらない映画を予定通りに撮れた。

 

そう。

 

高宮は。

 

意図的につまらない映画を撮っているのだった。

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