謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
映画が終わって。
小野寺は呆然とするばかりだった。
面白い。
いや、クソ映画好きからみて面白い、のではない。
普通に自主製作映画の範疇だが。
それでも充分に面白い映画だったのだ。
見終わって呆然としてしまった。
飯屋のレビューをするHPで酷評されていた店に入ってどんな酷いくいものが出てくるのか、楽しみにしていたら。
普通に美味しいものが出て来て。
食べ終わった後美味しいと思うのと同時に。
レビュー書いた奴、適当ほざいたなと思った。
そんな心境が近かったかも知れない。
いずれにしても、呆然としている小野寺を、親友が小突いていた。
「あ、あれ。 終わったね……」
「これではっきりしたな」
親友はずばりいう。
まあ、意見は恐らく同じだ。
はっきり分かった。
高宮葵監督は。
敢えてクソ映画を撮っている。
しかも、これはひょっとするとだけれども。
意識ばっかり高くて、面白くもない身内向けの映画を評価する体質になっている業界人を。
思いっきりコケにする目的で映画を撮っているのではないのだろうか。
しかもそんな業界人達は、自分達が徹底的にコケにされていることに気付けてさえいない。
だとしたら。
これほど滑稽な事は、そうそうはないだろうと思う。
しばらく虚脱していたが。
親友に言われて芸大を出る。
そのまんま。駅に向けて歩きながら、話す。
「良い映画だったね……」
「高宮監督の映画ということもある。 恐らく相当なマニアしか触れる気は無かったんだろうし。 その最初の一人が私達だった、ということだ」
「うん……」
なんだかもったいないなあ。
それが小野寺の感想だった。
親友が。意外な事を言う。
「晴。 いっそのこと、俳優になってみたらどうだ」
「ええー。 やだよ」
「タッパはあるし、それなりにルックスもいい。 俳優になったらそれなりに有名になれると思うけれどな」
「高宮監督の映画に出るのは良いけどね。 俳優がどんだけ大変な仕事か知ってるでしょ?」
以前、いわゆる大部屋俳優がふとした理由から有名になった事がある。
その時、大部屋俳優の希望とまでその人は言われたのだ。
逆に言うと。
それだけ俳優というのは、厳しい仕事である事を意味している。
今の時代はどんな仕事も厳しいのだろうが。
そんな中でも、更に厳しいと言う事だ。
「まあ、その気が無いならいい。 ただ、高宮監督は出演を歓迎してくれると思うけれどな」
「……そうかなあ」
一時期だが。
鉄道会社で。鉄道が好きな人間を、面接で落とすというような事をしていた事があるらしい。
ゲーム会社でも、ゲームが好きな人間を面接で落としていたそうだ。
その結果、人材が一切育たないという事態が発生して。
大慌てでその方針をやめたそうだが。
どこぞのコンサルが、どうせ適当な事をほざいたのだろうと小野寺も呆れている黒歴史の一つである。
高宮は筋金入りの変人と聞くが。
頭は古くも硬くもないだろう。
確かに申し込めば映画に出られる可能性はあるが。
ただ、正直俳優で食っていくことは考えたくない。
配給会社によっては、面接でホテルに連れ込まれるようなことすらあるらしい。
冗談じゃあない、というのが素直な所だ。
「分かった、晴がそういうならそうなんだろう。 それで、今後はどういう風に高宮監督にアプローチしていく?」
「そうだなあ。 何を目論んでいるかだけが知りたい。 本人の人格とかにはあんまり興味が無いかな」
「割とストイックだな」
「んー、そうだよ」
学校で周囲にあわせてヘラヘラしている小野寺は、仮面を被っているのに等しい。
心理学用語で言うペルソナだ。
ただ、それはストレスが掛かる。
元々の小野寺は、結構ストイックな性格なのかも知れない。
まあそれは自分でそうだというものではなくて。
他人が評価するべきものなのだろうが。
「とりあえず、合流地点で別れよう。 後はまた、SNSのメッセージでやりとりをしていこう」
「うん、そうしよう」
「帰りの電車は空いているはずだ」
「だといいけどねえ……」
遅くなりすぎると、また電車は地獄絵図だったのだろうが。
幸い早めに切り上げたこともあって、帰りの電車は空いていた。
電車の中で、軽く話をする。
親友は学校では空気そのものになっているそうだ。
普段は学校では一言も口を利かないそうである。
ただし、テストで点数はとる。
それに対して、教師が嫌みをいつも言ってくるとか。
勉強だけ出来てもなんの役にも立たないとか。
教師がそれをいうのかと、呆れてしまうが。
これが今の教育現場の本当、と言う奴だ。
一時期の若者向けの創作で、理想的な学校生活が散々描かれたが。
あれは現実がカス以下だから、というのが理由としては大きい。
今は異世界転生が流行っているようだが。
まあそれも、現実がカス以下だからと言うのは理由の一つとしてあるだろう。
とはいっても、ブームというのはよく分からないものだ。
これといった正解は、実の所無いのかも知れない。
駅で別れる。
小柄な親友が手を振ったので、軽く手を振り返す。
後は、家まで無言で過ごす。
そのまま、静かにしていると。
電車の中が、そこそこ混んできた。
早めに出ていて正解だったなと思うけれども。それはそれでまあ仕方が無い部分でもあったのだ。
いずれにしても、今は高宮が芸大時代に撮った映画の余韻を楽しむ事にする。
やはりそうだと分かっていたが。
その気になれば、いくらでも面白い映画は作れるのだ。
だとしたら、どうしてクソ映画ばかり作っている。
業界人が絶賛しているのもクソ映画だ。
それに関係しているのだろうか。
稼ぐため、ではないだろう。
自分の映画がどんな風に世間で扱われ。客が一切入らないことくらい、高宮だって知っている筈だ。
それなのにスタイルを変えないと言う事は。
やはり、何か理由があるのだろう。
いずれにしても勘違いした挙げ句、深淵を除くような真似はあってはならない。
それは身を以て分かっているので、今後も気を付けよう。
最寄り駅につく。
降りて自宅に向かう。
自宅まで黙々と歩く。
途中クラスメイトにすれ違った。
以前はスクールカーストの上位にいたやつだが。今は別人のようにやつれてしまっていた。
ざまあみろと内心で思ったが。
目礼だけしてすれ違う。
さて、家に戻った後は。
またクソ映画を見るか。
今日は驚きだった。;
クソ映画の愛好家である小野寺だけれども。
かといって、名作がきらいというわけでもないのである。
今日は久々にいいものを見た。
だから、ちょっとうきうきしていた。
(続)
驚きの事実。
実は高宮監督は、普通に面白い映画を作れたのでした。
つまりわざと見る睡眠導入剤を作っている……そういう訳ですね!