謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
高宮にとっては、それはただの邪魔でした。
必要がないからです。
どうやら余程取材がしたかったらしい。
撮影を取材したいという正式ルートでの依頼が来て。
基本的に断っているのだけれども。
とうとう配給会社が折れたようだった。
どんなコネを使ったのか知らないけれども。
まあロクな方法では無かったのだろう。
この時点で、高宮からすればいわゆる「絶許」案件ではあるのだけれども。更に不愉快な事実があった。
記者の名前を見て知る。
以前、高宮が見ていて不快感を感じた記者だったからだ。
基本的に具体的な事はなんにも書かず。
ただひたすらに抽象的なことを書いて、それを高尚な記事だと思い込んでいる輩である。それも編集長だとかにコネがあるだのなんだので、そんな記事が基本的に平然と通っている。
まあテロをやった人間を賛美するような記事を、大手新聞が載せる時代である。
こんなのがいても一切合切不思議では無いし。
それがコネを使って強引に取材を通してきたと言う事で。
高宮としては、不快感が既にマックスだった。
昼過ぎから堂々と乗り込んでくるその記者。
傲慢そうな顔をした中年男性だ。
「修羅場をくぐってきた」的な雰囲気を出しているが。
「聖職」であるという事を盾に、やりたい放題をしてきた連中というのが、今の新聞記者の実像である。
此奴は例外ではないどころか、その典型。
はっきりいって目をあわせるのもいやだが。
ともかく配給会社様のご依頼だ。
ある程度はあわせてやらなければならないだろう。
まあ高宮も、クソ映画を撮って税金から補助金を貰っている身だ。
ある程度は我慢我慢。
若手の俳優のように、ホテルに連れ込まれてそれでやっと仕事が貰える、というような状況ではない。
だから、まだマシなのだとも言えるかも知れない。
「いやー、ガードが堅いですね高宮監督。 ははは、流石アカデミー賞の取得者」
「……」
なんだこのなれなれしさは。
マスコミ関係者の勘違いの一つはこれだ。
自分達を貴族か何かと勘違いしている。
自分達の取材次第で、なんでも事実を勝手に作りあげられると思い込んでいる。
そんなだから、どんな新聞社も今では株価が右肩下がり。どんどん売り上げが落ちているのだが。
それにさえ気付けない。
そして学歴的にはこれがエリートに分類されるというのだから。
まあ色々終わっていると言える。
「取材は彼方でやってください。 此方は仕事中ですので、答える事はありません」
「五分でいいので答えてくださいよ」
「……」
五分のタイマーを出す。
それを見て、露骨に顔を不快そうに歪める新聞記者。
だが、周囲に録音機器などもある。
もしも余計な事をしたら即座に取材は中止する。
それは配給会社に伝えてある。
そして高宮がそれをやることは、配給会社も知っている。
それでもなお強引に取材を通してきたと言う事は。まあ覚悟は出来ているのだろう。出来ているようにはとても見えないが。
ともかく取材とやらを受ける。
何だか適当な話をされるが。
この様子では、恐らくだが適当に途中を編集して、自分の好き勝手に記事を書き換えるのだろう。
よくこの手の輩に取材を受けた人が。
そんな事を言っていないとネットで暴露して、炎上騒ぎになっているが。
昔はそのやり方で通じていたのだろう。
ネットは欠点も多いが、超巨大な井戸端会議のようなものだ。
だから一瞬で世界中に情報が拡散される。
マスコミが目の敵にしているのもそのせいである。
連中の書いている新聞が、それによって相対的に価値が暴落しているからだ。まあネットで素人が書いているような記事にも劣る代物を書き散らして貴族を気取っているのだから、当然と言えば当然だろうが。
ともかくだ。
主体性がないうえ。
記者が書きたい記事通りに喋らせたいのが見え見えだ。
録音しているというのを時々見せながら。
相手の言う通りには一切答えない。
誘導尋問がバレバレなのである。
更に五分経過。
取材を打ち切った。
「では出ていってください」
「まだ取材の途中なので、もう少し」
「駄目です。 撮影再開」
手を叩いて、周囲に指示。顔を真っ赤にする取材記者。勿論羞恥からではない。怒りからだ。
此方は録音している。
その上、今はネットでの炎上が簡単に起こる。
こいつも新聞記者なら、高宮が筋金入りの変わり者であり。
むしろネットでは、なぞのコーヒーアカウントとして不思議な人気がある事くらいは調べているだろう。
「もしも発言をねじ曲げた記事を書いたら即座にネットに拡散しますので、それは承知おきください」
「……」
凄まじい眼光でにらみつけてきたが、ガン無視。
しっしっと犬でも追い払うように手を振って、以降は撮影に戻った。
流石に警備員が来たので、分が悪いと判断したのか、記者が戻っていく。
ああいうのが。
意識が高い俳優を更に勘違いさせたり。
今のクソみたいな業界人を勘違いさせた上でおかしくさせている元凶だろうに。
そう思うとハラワタが煮えくりかえるようだが。
はっきりいってどうでもいいと考え直す。
後は撮影を続行だ。
一応記者が出ていったのは確認。
その後は、淡々と撮影を続ける。
それにしても、自己中心的な輩である。あれのどこが取材か。ひたすらに奴が望む事実を記事にしようと、誘導尋問を繰り返していた。
たった五分で、である。
あれだと、無理矢理取材を受けさせられた人が、どれだけ苦痛を受けたかは想像を補ってあまりあるだろう。
度し難い話だが。
はっきり言って、まあそんなものだと思って諦める他無かった。
撮影を終えて、定時で上がっていく俳優達を見る。
もう、隣のスタジオから怒鳴り声は聞こえてこなかった。
家に戻ってメールをチェックすると、会社から連絡が来ていた。
何かあったかな。
そう思って内容を確認すると、クレームが来ているという事だった。
クレームねえ。
そもそも映画の内容に対するクレームだったら、わざわざ高宮の所までメールはとんでこない。
一般客にとってのアルティメットコメディシリーズは見る睡眠導入剤であることは分かっているし。
敢えてそう作っているからである。
つまらなかった、と抗議を入れてくる奴は意外とすくないのだ。
というのも、見ても殆ど耐えられずに途中で寝てしまうからである。
要するに抗議しようにも内容を覚えていない。
その結果、抗議できないのである。
まあ世の中には、内容を知りもしないのに作品を批判するという阿呆もいることにはいるが。
流石にそこまでの阿呆は、会社の方で弾いているようだ。
それだけは出来るようなので、バカだと思ってはいるが。仕事はしているのだなと評価はしていたのに。
ともかく、テレビ会議に出る。
社長はいるが重役は少なめだ。
つまり全社的な問題では無い、ということだろう。
「高宮君、新聞記者を追い払うようなマネをして、恫喝までしたということだが本当なのかね」
「いいえ事実ではありませんね。 とりあえず録音してあるのでどうぞ」
まず、録音を聞かせる。
その内容は編集とか一切していない。
そもそもスタジオに押しかけてきて撮影とか、はっきりいって迷惑極まりない話なのである。
その方が余程非礼だと思うのだが。
その程度の事も、あの新聞記者様には通じなかったのだろう。
録音を聞いて、社長は黙り込む。
多分聞かされていたことと、あまりにも違ったのだろう。
「聞いての通り、そもそも急がしいスタジオに押しかけてきた上、自分の望む記事にするための誘導尋問をするばかり。 はっきりいってこれは取材と呼べる代物ではありませんね」
「そ、そうか……」
「むしろ新聞社に厳重注意をしてください。 此方としては、あの記者は完全に出禁にします」
「……」
痛烈な高宮の言葉に。
流石に社長も二の句が告げないようだった。
重役の一人が言う。
専務だったか常務だったか。
まあどっちでもいい。今の気弱な二代目の社長を支えている、実質上のこの会社のトップだ。
有能では無いが。体育会系のイエスマン重役ほどの無能ではない。まあ普通である。
「高宮くん、今回の抗議は記者からではなくて、会社から来てね。 事実は君の言う通りなのだろうが、もしもその話をするとなると、恐らくは広告会社なども巻き込んでの戦争になる」
「その辺りの判断はお任せします。 いずれにしても、あの新聞記者の取材は二度と受けませんので」
「それについては、確かにそう君が言うだけの根拠はあるようだな」
「……」
視線を素早く社長に送る重役。
高宮としてはこの茶番をさっさと切り上げたいのだが。
なんだかんだでアカデミー賞をとったのである。
国の税金で。
ろくでもない悪法で映画を撮ってはいるとは言え。それに加えて、悪評で有名な高宮とはいえ。
それでも、無名だったり。
すっかりクソ映画しか撮らなくなり、会社の評判を下げるばかりの映画監督よりはましなのである。
なにしろ高宮の映画は悪い意味で有名だからだ。
それでも、そもそも見向きもされない駄目実写映画よりは話題性はあるし。
それに業界人には注目はされている。
それだけの価値があるということである。
皮肉極まりない話だが。
「別の記者に取材をして貰う事になると思う。 高宮くん、君の指定の条件で取材を受けてほしい」
「却下と言いたいんですが、取材を受けるのは確定なんですかね」
「今回、複数の映画の宣伝を取材を申し込んできている新聞社がすることになっているんだよ」
「ああ、そういう」
それで、業界でも謎とされている高宮の実態をすっぱ抜けると思ったのか。
新聞とラジオで戦争を煽っていた頃から、何にも変わっていないんだなこの業界と高宮は苦笑する。
二次大戦の時も、散々煽りに煽っておいて。
戦争が終わった途端に、掌を返した連中なだけはある。
勿論これは本邦だけの問題では無い。
何かしらのスポンサーが噛んだ時点で。
マスコミというのは、価値を無くす。
何しろ、スポンサー様の意向に沿った記事しか書けなくなるからだ。
なんでそんな生ゴミの取材を受けなければならないのか。
「分かりました。 此方の指定する条件で良いんですね」
「あまり無茶を言ってくれるなよ……」
「別に無茶なんて言いませんよ」
どっちにしてもスケジュールに余裕はある。
ハイペースでどんどん映画を撮っている高宮だが。緻密な計算のもとスケジュールは組んでいる。
この辺りは他のどの映画監督よりも上のつもりだ。
更に言うと、仕上げは全部高宮がやっているのが大きい。
このため、ある程度の柔軟性を持たせる事も可能なのである。
「それならば、日時をしていします。 撮影が一段落したところで、取材を受けましょうか」
「今回は、くれぐれも穏便にな」
「……」
勿論、穏便に済ませるつもりなんぞない。
徹底的に叩き伏せさせて貰う。
日時を指定。
それが結構先の日だったので、皆驚いたようだった。
それはそうだ。
スタジオでトラブルが起きまくるのはこの業界における当然のお約束なのである。それなのに、それすらも予定に組んで撮影をしていると分かるのだから。
一方で、そんな風に撮影をガチガチに丁寧にやっているにも関わらず。
どうして見る睡眠導入剤が出来てしまい。
しかもそれが不思議な知名度があるのだろうかとも。皆困惑しているのだろう。
困惑し続けろ。
それがお前らにはお似合いだと高宮は思った。
テレビ会議が終わった後、クソ映画を適当に見ながら夕食を撮る。
今回見ているのは、最近一気に知名度が上がってきた監督のクソ映画である。
とにかくあんまりにもあんまりな映画を撮る上。
驚きの低予算だと言う事が話題になっている。
勿論、今までの映画の歴史でも、低予算映画はあった。
そういう低予算映画でも、名作と言われているものは普通にある。
だけれども、このクソ映画は信じられない低予算の上。
ついでにとんでも無いレベルのクソ映画なので。
ある意味愛好家の心を鷲づかみにして、今やすっかりクソ映画マニアの話題をひっさらっている。
高宮もそれなりに好きだ。
クソ映画であることは確かなのだけれども。
見ていて楽しいのも事実だからだ。
こういう映画監督はいわゆる鬼才というのか。
ひょっとしたら、いずれ潤沢な予算が手に入ったら化けるかもしれない。
だから、期待しながら見ているのだけれども。
最近公開されたという映画を見ていて。
本当につまらないし、まるで進歩していないので。
どうやら望みは薄そうだった。
まあ、クソ映画を基準にすればそこそこに面白いので。まあそこそこ良い気分だ。見おえた後は、風呂に入って夕食を取る。
あくびを一つ。
寝る前に、SNSをチェックしておく。
さっとコーヒーの写真についたコメントを見て。一部あんまりにも礼儀を知らないものはブロックしておく。
温厚だと思われている高宮だが。
流石に度を超して非礼なコメントなどはさっとブロックはするようにしている。
これも話題になっていて。
高宮を怒らせるレベルという言葉があるらしい。
ホトケの高宮に続く言葉である。
実際には、高宮は他人に見せていないだけで結構怒りっぽいのだけれども。それはどうでもいい。
主観の世界というのはそういうものだとわかっているので。
わざわざそれについて、どうこういうつもりはない。
ともかく高宮にブロックを受けたような連中は、相当にヤバイという認識が出回っているのは良い事だ。
ざっと見て行くが。
なんだか妙なアンチコメントを見つけた。
いや、アンチコメントは散々湧いてくる。
ここはSNSである。
そもそも高宮が意図的にやっているのだが。ともかく誰もがクソ映画を作っている監督だと高宮の事を知っている。
そりゃあアンチは連日湧く。
それでも余程タチが悪くなければ放置しておくのだけれども。
見ていて変なのが見つかったのだ。
妙に内容が詳しいのである。
少しそのアカウントを調べて見る。
どうやら、あの新聞記者か、その取り巻きのものだなと判断。
寝に入る時間を延長。
そのまま、スクリーンショットを取って残しておく。
相手が高宮だけじゃない。
かなりの暴言を吐き散らかしまくっている上。
あらゆる点で色々な傲慢な発言を繰り返しまくっている。
SNSの会社は、こういうのを通報しても何もしない。
無差別大量テロを予告しているようなアカウントを完全放置する上に。誰かが苦しむようなものでもない。単にアホが「気持ち悪い」と騒ぎ立てるだけの絵を描いた人のアカウントを凍結するような連中だ。
まともな思考能力なんて存在しない。
SNSはただの井戸端会議として、誰もが割切って使っているのはそれが理由なのである。
証拠はがっつり押さえた。
もう今日は遅いので、明日で充分だろう。
まあ明日の朝一に、証拠をことごとく会社にメールして。
それからどうなるかが楽しみだ。
取材については、こちらがかなり有利にやる事が出来るだろう。
実に楽しそうで、わくわくしていた。
翌日。
朝、メールを送ってから、撮影所に。
スタジオに入ってからは、連絡を絶つ。
これについては、高宮が会社に話を通してあるので、いつものことである。
余程の事がない限りは絶対に連絡は通らないようにしているし。
何よりも、高宮は両親共に既に鬼籍に入っている。一族だっていない。
だから、余程の事はまずおきない。
撮影を淡々と済ませると、家に戻り。
そしてスマホの電源を入れると、連絡が即座に飛んできていた。
テレビ会議に出る。
昔は色々煩わしかったのだが。業界人どもがやたら持ち上げるようになってから、会社側は高宮の言葉にある程度理解を示している。
それにアカデミー賞を取った今となっては。
更に高宮は会社に対して高圧的に出られる。
さて、テレビ会議に出ると。
社長はさっそく顔を真っ青にしていた。
「高宮君、メールは拝見したが、これはその……」
「幾つかのコメントなどから間違いありません。 警察に連絡して、即座に対応をお願いします。 SNSの運営会社はこういうのは警察からの連絡でないと、一切動きませんので」
「よ、よく見つけたね……」
「いや、言動がおかしいアカウントには結構絡まれますので。 一応様子がおかしいのは、相手の言動をかくにんしてから対応するようにしているんですよ。 そうしたら出るわ出るわ……いずれにしても機密漏洩は確定ですので、相手の新聞社に連絡を入れた方が良いでしょう」
それとも貸しにして。
今後色々交渉するときに有利にしたらどうだと言うと。
社長は押し黙った。
本当に芸がない二代目だな、と思う。
もう少し此奴がしっかりしていたら、こんな肥だめに集る蠅みたいな記者の取材を通す事もなかっただろうに。
まあともかくだ。
集めたスクリーンショットについて有効活用しろと、もう一度念押しする。
そもそも新聞なんて、今はもう紙束くらいの価値しか無い。
広告が載っても殆ど意味がない程度の代物だ。
咳払いした重役。
例の専務だか常務だかだ。
高宮にとっては、その程度の存在でしかない相手である。
「いずれにしても、確かに高宮監督がいうように、これで相手の会社に対して大きな貸しを作れるでしょう。 今までも広告費が異常に高くて制作費を圧迫していたのですから、ね」
「確かにそうだが、新聞社を相手にして大丈夫なのか……?」
「もう新聞社の社会的影響力なんて知れていますよ」
社長に重役が言う。
実に飯が美味い。
後は任せてもかまわないだろう。
そして数日後。
高宮は、例の新聞記者が懲戒免職されたこと。例のアカウントが消えている事。そして、何より取材の依頼を新聞社がキャンセルしてきたことを知らされた。
実にいい気味である。
ネットはいつも誰もが見ている。
それを理解出来ずに使えばこうなる。
それが理解出来ていない輩が、新聞記者として偉そうに振る舞っている。
それがこの世の縮図であり。
どうしようもない現実なのだ。
そう、また高宮は思い知らされ、暗澹たる気分になったが。
それはそれとして、バカが排除されて気分が良かったのも事実だった。
お仕置き完了。
羽虫は滅びました。