謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
ろくでもないオーディションばかり、日野茜は受けて来た。
茜は俳優の卵。まあ女優の卵というべきだろうか。
リアルアイドルがどんどん斜陽を迎えている今の時代だが。女優も正直な話あまりいい仕事ではない。
どんどんネットを主戦場にした人間が増えていく中。
時代に取り残されたテレビを主体に動く人間は、どんどん肩身が狭くなっていく一方である。
殿様商売を続け。
犯罪組織との癒着を隠そうともせず。
視聴者を馬鹿にした番組を作り続け。
挙げ句の果てに、自分達の方が偉いというのを示そうと、素人弄りとかいう愚行を続けた。
当然の結果、視聴者に見限られたと言うだけの話なのだが。
それを理解出来ない無能ばかりがマスコミを未だに牛耳っている。
そしてそいつらは高学歴で、頭が良いという事になっているが。
実の所、半数以上が裏口入学をしている連中で。
学閥を使って会社の上層を独占しているだけの、阿呆ばかりだった。
そんな事は茜ですら知っている。
その程度の事は、というべきだろうか。
いずれにしても、それでもだ。
茜はどちらかというと映画を主戦場に活躍したいと思っていた。
それなりに整ったルックスと。
それなりに出る声。
演技力も、中高大とずっと演劇部や劇団で頑張って磨いて来た。
それなりに努力は続けて来たけれども。
今はこうして一応事務所には入れはしたが。
入る時には枕営業をさせられるのではないかと冷や冷やしたし。
今でもその恐怖はある。
高校時代には肉体関係は持たなかったがカレシはいたものの。
その時代に男に色々幻滅したこともあって、愛に対しては一切合切なんの興味もなくなっている。
そういう見た目と裏腹の枯れた考え方を持つ女が、茜だった。
事務所から連絡が来る。
今、幾つかのオーディションを受けているのだが。どれも駄目だ。
基本的にオーディションは今、パイが極めて狭くなっている。
どこも不景気だからだ。
大手の事務所でさえ、食えないと判断した俳優をどんどん斬っている時代である。
その一方で、特撮は比較的元気だが。
そもそもその特撮は、作るのにテレビ局は一切関係していない。
今後特撮すら、ネットで公開をするようになるかも知れない。
そう考えると、色々と斜陽の時代にいて。
一番まずい仕事を選んでいるように思うのだが。
それもまた、自分で選んだ道だ。
場合によっては、さっさと事務所を抜けるのもありかも知れない。
そう思っていた。
家でぼんやりしている。
ここ数日で、十二件のオーディションを受けた。
中にはかなり怪しい会社のオーディションもあった。
恐らくろくでもない撮影だったのだろうが。
幸い、自分は選ばれなかった。
あれに選ばれていたら、何をされていたのだろうと思うとぞっとする。
今日はオーディションはないが。
明日はまた、営業がなんか持ってくるだろう。
ろくでもない話だ。
「……」
スマホが振動したので、確認。
営業からのメールだった。
そして知る。
あのクソ映画の巨匠であり。現在のエドウッドと名高い、高宮葵監督の映画のオーディションがあるという。
今映画公開中だが。
見始めて三分で寝る客が出るほどの驚きのつまらなさで。
逆にそれが話題になっているそうだ。
不眠症に悩む人物が、この映画にいったらよく眠れたという話をしているらしく。もはや映画とは何なのかと困惑させられる代物と化しているらしい。
勿論業界関係者だから。
茜もそれらは知っていた。
「高宮監督はホトケの高宮と言われるくらい撮影現場はホワイトだし、映画に出た俳優の中にも後にブレイクした人がいる。 その上アカデミー賞を取ったばかりで話題性も高い状態だ。 君は基礎スペックは高いのだから、今回は主演を狙っていこう」
「分かりました」
メールでのやりとりを終えると。
大きな溜息がついた。
もっと華やかな演技をしたいなあ。
そう思った。
学生時代には劇団にも所属していた。こういうのはだいたい自腹で所属するものなのだが。
その劇団も同じで。
かなり出自が怪しそうな人も、相当数混じっていた。
今は本職になったので、劇団は抜けたが。
結構危ない目にもあった。
だから今では、護身術を幾つか身につけている。
この護身術を勉強したおかげで。
一応スタントいらずにもなったのだけれども。
俳優の事務所には、そんなのはアピールポイントにもならないとか色々酷評されていて。
今までも、馬鹿にされたことはあっても。
褒められた事は一度もなかった。
アイドル事務所は、今は更にブラックだと聞いている。
それを考えると、これでもまだマシなのだろうとは思う。
それに、だ。
まだ仕事がとれない茜は、今の時点ではお荷物であり。
このままだと、恐らくは首を宣告されてもおかしくないだろうと思う。
ただ、その場合はむしろこの業界から足を洗える好機かも知れない。
今後、この業界に。
未来があるかどうか、茜は疑っていた。
ともかく、明日に備える。
これが最後かも知れない。
そう考えて、気合いを入れておく。
誰か忘れたが、戦国大名だか戦国武将だかの言葉だった気がする。常に次を最後の戦いと考えて戦場に臨め。
そうすればどんな戦いでも最大の気力で望めると。
いつも茜はそうしてきた。
だけれども、それでもあまり好まれることはなかった。
どれだけ真面目に俳優をやろうとしても、今まで大まじめに演技をしてきても同じ。
受かるのはコネがある子。
或いは枕営業を平気でする子。
そういう子ばかり。
ルックスも演技力も関係無い。
だからあからさまにおかしな俳優がドラマに出てくることになるのだが。それについてはもうどうでもよかった。
ともかく、明日だ。
準備を丁寧にして、明日を最後のつもりでオーディションを受ける準備をしていく。
ふと、高宮監督のアカウントを見てみた。
毎朝決まった時間にコーヒーの写真だけをアップしている。
ある意味異様なアカウントだった。
コメントはかなり荒れているというか、明らかに変なのもたくさんいるが、まるで反応していない。
暖簾に腕押し糠に釘だ。
だからこそ、なのだろうか。
高宮監督は、ネットではある程度面白がられてはいるようで。
ネットの使い方を理解している人なんだなと、思ってしまった。
まあそれはいい。
顔を叩くと、必要な情報は頭に入れていく。
食いっぱぐれる俳優がたくさんいる今の時代。
事前に役作りなんて出来る余裕は殆ど無い。
ましてやたくさん映画を作ることで良く知られている高宮監督だ。その映画の内容も奇怪極まりないと聞いている。
役作りもなにもないだろう。
ともかく、出てみるしか無いのだった。
(続)
高宮監督の所に犠牲者が来ようとしています。
この人は今後、高宮監督に人生ごとジャイアントスイングで振り回される事になります。