謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
着実にその目的に向けて行動を進めます。
ただ、別にじゃあくなもくてきとかがある訳ではありません。
他の人には、想像を絶する恐怖存在に見えているかも知れませんが。
オーディションに受かった。
本当に、と声が出た。
それも主演女優だ。
日野茜は大喜びするべきだったのだろうが、とてもその気にはなれなかった。まあそれはそうだろう。
あの高宮監督の映画だ。
一応作品には目を通したが。
最後までねむらずに見られた自分を本当に褒めてあげたい所だった。頭をなでなでしてあげたい。
とにかくおっそろしくつまらなくて。
どういうわけか、感じたのだが。
面白い部分を全て潰して、敢えてつまらなくしているようにさえ思った。
いずれにしてもオーディションに受かったので。
世界観を知るべく、高宮監督の映画は全て見た。
どれもこれもがやばすぎる。
特に最新作は危険度マックスだった。
映画館で、三分でねむる客が出始めるというのは噂でも何でも無いと、実際に見てみて分かった。
立方体達が意味不明な背景の中で、哲学的な会話をし続けるという。一周回るとギャグになりそうな映画なのに。
虚無過ぎて、もはや脳が拒否するレベルの作品に仕上がっている。
これを見てみて、やはりと感じたのだ。
これは敢えてこうしているのではないかと。
以前の作品を観ても、そうは思ったのだが。
それが確信に変わった感触がある。
いずれにしても、ともかく怖いと言う言葉が前面に出る。
高宮監督の映画は、意図的にああしていながら。意識がとても高い業界人に絶賛され。それでいながら一般ファンには見る睡眠導入剤になっている。
それを全て意図的にやっているのだとすれば。
はっきりいって、とんでもない怪物だという結論しか出てこないのである。
いずれにしても恐ろしい事だ。
青ざめたまま、映画撮影開始の日をまつ。
それまで、喉の訓練とかはしたが。
ただ、どの映画でも俳優は適当に演技をしていたようなので。
一応、ある程度は安心して良いのかも知れなかった。
映画の撮影現場はとても過酷だ。
厳しい映画監督になると、何十回でもNGを平気で出す。
そういう所で、精神を病んでしまう俳優は多いし。
薬とかカルトとかに手を出してしまうケースもある。
犯罪に走る人もいる。
それでも不思議な魅力があるのが芸能界という恐ろしい場所で。まるで麻薬のようだとも思う。
数日で、脚本が送られてきた。
仮にも主演だ。
まずは全暗記、と思ったのだが。
内容を見て、しばらく言葉が出なかった。
誤字脱字は一切無い。
それは凄い事だと思う。
結構分厚い脚本の映画だって存在しているのである。
それはそれとして、この映画は。
内容を、理解させる気が全く無い。
一瞬にしてまた正気度が底をついた茜は、しばらく呆然としていたが。ともかく、震える指で脚本をめくりながら。
なんとか内容を必死に暗記したのだった。
劇団時代からの特技だ。
脚本は自分の内容だけではなく、全員分のを暗記する。
そうすることによって、そもそも作品の全容を把握して。
それにそった演技をする。
自分の役だけ覚える、というような事をしていると。
やはりなんというか、色々といい加減な部分が出て来てしまう。
だから、プロ意識を働かせて、必死に頑張らなければならないのである。
それが俳優としてのプライド。
だけれども。
そもそも、金やコネで主演を射止めているような人間が多数出ているのを見ると。そういう信念がまるでゴミのように思えてきていた。
もっと媚を売れ。
そう営業にはっきり言われたこともある。
不愉快極まりない話だが。
営業の言葉は、現状の俳優の立場とかを考えると、ある程度は妥当なものだということなのだろう。
これだから現実主義を拗らせると。
そうぼやきたくなってしまう。
ともかく。脚本は全員分覚えた。
本当にコレを書いた人間は、深淵の邪神かと思った。
いや待て。
そもそも高宮監督の他に、こんなヤバイ脚本をかく人間がいるのか。
ある大河ロボットアニメシリーズを作っている会社は、共通ペンネームを使っているというのは有名な話だ。
また、苦労の末に見た高宮監督の「アルティメットコメディシリーズ」についてだが。
毎回脚本家が正体不明の人物で。
今までの映画などを調べても、同一人物が一切見当たらない。これはある意味驚異的である。
特に直近の映画では、「や」なる人物が脚本を書いていて。勿論今までの経歴は一切不明。
本当に舐めているとしか思えない。
これは、一体何処で脚本家を見つけているのか。
だけれども、そう思って一番最初に脳裏に浮かんだのが、高宮監督だった。
まさか。
高宮監督が書いているのか。
この狂った内容を鑑みるにあり得るのが恐ろしい。
大きくため息をつくと。
茜は、もうどうにでもなれと思うのだった。
あまり激しい撮影内容は無い。
触手にもみくちゃにされたりとか。
しかしながら、今までの映画を見ると組み体操とかする事はあるようなので(しかもそのままサメとかワニとかのエサになる!)。
ある程度体を使う現場ではあるのだろう。
腹筋とかして、体を鍛え直して仕事日に備える。
日野茜はこれでもプロのつもりだ。
だから、例え今まで公的な仕事を一回もやっていないとしても。
そのプロとしての誇りだけは。
捨てるつもりはなかった。
撮影が始まる。
スタジオはそこそこの大きなものである。
なんでも高宮監督はここのところずっと、映画文化を保護するための法を利用して作品を作っていたらしいが。
今放映中の「アルティメットコメディシリーズ」十一作目で、ついに黒字が出たという。
そのため、黒字分から。
今まで映画で貰っていた補助金について、補填をしているのだそうだ。
そんな話は、現場に向かう途中で聞いた。
SNSを途中で確認する。
高宮監督は今日もコーヒーの写真を上げている。
インスタントのコーヒーで、毎日銘柄が違うのだが。
それら全てに丁寧にコメントもしている。
毎回同じ時間にきっかりSNSに上がるコーヒーから。高宮監督は「bot」とか「時計」とかSNSでは言われているそうだが。
むしろこれは恐ろしいと茜は思った。
というのも、農家みたいな時間におきて、完璧にルーチンをこなしていると言う事であるからだ。
中々にできる事じゃあない。
普段から鍛えている茜にしてみれば。
これが結構精神力も体力もいることだと分かるから。
中々凄いと言う言葉しか出ないのだった。
いずれにしてもスタジオに到着。
一番乗りかと思ったが。
高宮監督が。まるで幽霊のように音も無く移動しながら、点検作業をしていた。音も無く動き回る様子は。本職の幽霊が、思わず声を掛けてしまうようなリアル感に満ちていて。チープなホラー映画の俳優よりも、よっぽど幽霊っぽかった。
そういえばアカデミー賞の作品でも。
幽霊役の女優さんは、終盤では本当に錯乱しそうになっているのか。本物の幽霊が見たら同情しそうな表情をしていたが。
「お、おはようございます!」
「……おはよう。 その辺に座っていて」
「はいっ! ……え?」
「これ自主的にやってるの。 だからその辺に座っていて」
そういうと、高宮監督は音も無く移動しながら。気配すらもなく、セットなどの状態を確認している。
これは動くべきなのかと思ったが。
あの高宮監督が相手である。
逆らったら何をされるか分からない。
怖くてとても動けなかった。
しばしして、俳優達が来た頃には。高宮監督は点検作業を終えていた。
なかなかの手際だ。
劇団でも、若手がこういう作業をしたりするものなのだけれども。
そういう経験者から見ても、相当に手だれている。
この人、SNS等では近年評価が二分されていて。
以前はただのクソ映画監督としか思われていなかったのだが。
ある番組で、俳優達のインタビューから、ものすごく難しい哲学的な命題を作品に盛り込んでいる事が発覚。
以降は、実はむっちゃくちゃ頭が良いのではないか、という疑惑が持ち上がってきているそうだ。
そしてその疑惑は、多分正解だ。
この人が、意図的にクソ映画を作っているのだとしたら。
もしも意図的に面白い部分を全部潰しているのだとすれば。
恐らくだけれども、凡百の監督には無理である。
だいたいの駄目映画は、作り手が傑作だと思い込んでいるか。
原作がある場合に、その原作を舐め腐っている場合である。
たまに犯罪組織とか詐欺師とかが、投資家を騙すために作るような映画が、まるでやる気がなくてクソ映画になるケースがあるらしいが。
それは近年の邦画では聞かない。
アニメでは聞いたことがあるが。
それは大きなスキャンダルになったし、何よりテレビ局の株価まで大きく下げた事もある。
今後は多分だが、似たような事件はあまり起きなくはなるだろう。
俳優達と顔合わせはもうしてあるが。
ともかく揃った所で、しっかり挨拶をする。
主演をさせてもらうという事で。
余計に数人しか俳優がいない作品だと言う事もある。
茜も、他の俳優達と徹底的に強調しなければならない。
ましてや映画が映画である。
高宮監督はとても頭がいい可能性がある。
それを考えると、巫山戯た真似など絶対に出来なかった。
他の俳優達もすくみ上がっている。
多分面接で怖い目にあったんだろうなと思って、茜は同情していた。
「はい、では6ページのカットから」
すぐに脚本をめくる俳優もいるが。
茜は内容を全暗記していたので、すぐにそのまま動く。
無言で移動して、スタジオの海っぽい場所に。
このスタジオは湖に隣接しているのだが。
この湖が日本でも屈指の大きさなので。海に見えるのである。
良い感じに波打ち際もある。
そのまま、撮影を開始する。
まずは側転をしながら、浜辺を移動し。最後にバクテンをする。その途中で、三人の俳優が会話をして、その声だけが入る。
そんなシーンを撮る。
なんだよそれとぼやきたくなるが。
実際にそういうシーンなのである。
シュールなギャグになりそうなのだが。それをCGとかの特殊効果とかで、砂を噛むような拷問に変えるらしい。
訳が分からないが。
そういうものだと思って諦めるしか無い。
ともかく、側転を二回して、更にバクテンを決める。
その間、淡々と演技をする俳優達。
脚本を見て適当に演技しろ。
なんと、監督の指導がこれである。
このため、自分の台詞だけか、或いは脚本全てか。目を通してきただろう俳優達も、みんな青ざめていた。
一応ホトケの高宮という呼び方は皆も知っているのだろうが。
アカデミー賞監督である。
つまり、たくさんの人が映画を見るという事を意味している。
変な演技でもしたら。
それこそ以降ネットで何をされるか分からない。
実際問題、今まだ公開中の前作では。
出演していた俳優達がSNSでからかい目的で突入してきた荒らし達にもみくちゃにされ。
一時アカウントを停止していた程なのである。
それだけならまだいいだろう。
今後の映画生命に関わるかも知れない。
それこそ、絶対に気は抜けなかった。
ともかく、バクテンをしおえ。
皆が発言を終えたところでカットが入る。
「はいOK。 次以降ね。 次、シーン9」
さっと、皆が動く。
今度は茜以外の俳優達が、湖畔で扇形の組み体操をするシーンである。
よく学校で事故を起こすピラミッドは、高宮監督の映画ではやらない。安全度が高い組み体操をする。
ここで笑い声とかいれたら安っぽいコントになってしまうが。
謎の音楽と謎の台詞で。
これらの全ては虚無と化すのだ。
組み体操は高宮監督の映画における名物であり。
実に様々な組み体操が行われるのだが。
それら全てが笑えるシーンに出来そうなのに、何一つ面白いシーンにはならないのである。
それが不思議を通り越して。
恐怖さえ感じる要素となっていた。
ともかく、撮影を進めていく。
淡々と撮影をするが、NGは出無い。
今のはいいのか、というシーンが幾つもあったが、それでも全く気にする様子がないのが不気味だ。
監督によっては、「出来が悪い」俳優に当たり散らしたりするケースが散見されるそうだが。
高宮監督は、事前の噂通り。
ホトケの高宮そのもの。
一切怒鳴ったりはせず。
静かに静かに。
ただ茜から見ると、獲物を狙う邪神のように深淵から。ただ静かに撮影の指揮を執り続けていて。
そのまま何事も起きていないかのように、ただ無言で映画を撮影し続けるのだった。
ともかくとして、だ。
夕方が来ると、手を叩く高宮監督。
本当に定時で終わりにするのか。
劇団の時は、夜遅くまで練習とかざらだったのに。
そう思うと、ちょっと不思議だった。
「はい、では今日はここまで。 ゆっくり休んで、明日以降に備えるようにね。 では解散」
「はい、解散」
さっとスタッフも散る。
配給会社から派遣されているだろうスタッフは、既に高宮監督のやり方になれているのだろう。
あっと言う間に散って行く。
そのまま、高宮監督もてきぱきと片付けをして、スタジオを後にする。
俳優達はこんなに早くて良いのと困惑していたが。
茜もそのまま、帰ることにした。
帰り道に、軽く話をする。
事務所はバラバラ。
みんな知らない俳優。多分みな新人ばかりだ。
野心的な子もいるし。
親が俳優だ、というだけの子もいる。
分かっているのは、はっきりいって演技力とかはあまり要求されていないだろう、ということだけ。
ただ高宮監督の思うままに。
皆が動けば、それでいいのだろう。
何だか色々と悲しい話だが。高宮監督の映画というのはそういうものなので、仕方が無い。
スタジオの最寄り駅で別れる。
後は、事務所がとってくれた宿に止まるもの。
自宅に帰るもので。
三々五々に散って行った。
茜は自宅組だ。
帰り道、何度も溜息がでた。それでも、どうにかしなければならないのが俳優というものだ。
本当に意味不明なシーンばかりとるのだなと思う。
そしてパニックホラーは、そもそも日常的な風景から。徐々に狂気を織り交ぜていくものなのに。
高宮監督の映画では。
そんなもの、最初から気にもしていないようだった。
二日目。
やはり高宮監督は最初に来ていて、作業をしていた。
セットの確認作業である。
それも、とても手慣れている。
たまりかねて、茜は声を掛けた。
「その、私も作業の経験はあります。 お手伝いをいたしましょうか」
「不要。 というか、これは私の映画だから。 私が責任を取って、皆の安全を確保しているわけ」
ああ、なるほど。
空挺兵が、パラシュートは自分で畳むという話があるが。
それと同じ感覚なのかも知れない。
いずれにしても、手を動かしながら高宮監督は言う。
「君、もうちょっと遅く来ても大丈夫だよ。 監督が最初にいるからって、君がそんなに早く来る理由も無い。 それならリラックス出来る場所、要は家で練習なりなんなりしてから来た方がいいんじゃないのかな」
「は、はい……」
「一時期の会社だと、一時間前出勤とかやらせてたみたいだけれどね。 此処ではそんな文化はないから」
「分かりました……」
なんだか気が抜ける人だな、と思う。
少し時間があるので、湖畔に出向いて少しボイストレーニングをする。
やり方は分かっているので、本番で失敗しないように喉を調整しておく。散々劇団時代にもやってきたことだ。
トレーニングが終わった後、のど飴を入れて調整。
自分の体に対して、茜は極めて気を遣っている。
その辺りは、俳優なら当然と思っているのだが。
どうも俳優としての仕事よりも。
周囲との「コミュニケーション」を重視する輩の方が多いのでは無いかと、近年は思い始めている。
そういえば劇団でも、そういうのが出世しやすかったし。
会社でも同じか。
その結果今は、色々な業界でどんどん人材が枯渇しているそうだが。
それは何だか悲しい事だなと思う。
無言のまま、茜は演技を幾つか練習しておく。
これからやる演技は覚えている。
脚本はぜんぶ頭に入っている。
どんな映画でも。
例えクソ映画でも、だ。
演じるからには、脚本を全部暗記するのは、俳優としての最低限の仕事だとも茜は思っていた。
だから、今後何を求められるかも理解しているし。
他の子が何をするのかも知っている。
だから、それらも全て出来るようにしておく。
スタントできる。
そう言われるほど、身体能力があるのだ。
この職場である。
正気度がなくなって病院送りになる俳優がいるかも知れないし。代役をしなければならなくなるかも知れない。
そう思うと、今のうちに。
あらゆる事態を想定して、やれることは全部やっておかなければならなかった。
ともかく、頭を整理してから現場に戻る。
丁度良い感じに人が集まり始めていた。俳優達もちゃんと来ている。欠席は一人もいない。
他の俳優に挨拶。
準備が終わると、すぐに撮影が始まった。
相変わらずの全部一発クリアである。本当にホトケの高宮なんだな、と思う。
ただ、演技の内容はどれもこれも狂っているので。
はっきりいって困惑させられるばかりだった。
更に、である。
茜は昼休みにスタッフに聞いた。
「そういえば、高宮監督がNG出す事ってあるんですか?」
「ああ、まだ見た事なかったっけ。 たまにあるよ。 前に見たのは、事故が起きそうになった時かな」
「えっ……」
「スタジオの事故をなんか神がかった勘か何かで察知してさ、一瞬早く俳優達を逃がしたんだよ。 セットが崩れて、遅れてたら誰か死んでたかもな。 その後の対応も的確で、とにかく手を出す暇も無かったよ。 勿論誰かを怒鳴ったりもしなかった」
ぞっとした。
それでか、あの念入りな事前調査は。
納得がいくのと同時に。少し怖くもなった。
高宮監督という人は、やはり爪を完全に隠した鷹だ。しかも、ああ見えて俳優や他のスタッフの事を考えている。
大御所を気取っているだけの老害とは完全に一線を画している存在だ。
本気になれば、面白い映画だって作れるのではあるまいか。
なのに、どうしてクソ映画にこだわっている。
趣味だとはとても思えない。何か理由があるのではないのだろうか。
やはり高宮監督を知れば知るほど、分からない事ばかりになる。
本当に何が目的なのか、あの人は。
昼メシになる。
弁当はそんなに悪くないのが来たが。はっきりいって味がしなかった。
やっぱり怖い。
深淵の邪神が側で舌なめずりをしているように思えてならないのである。食事中、高宮監督がふらっと消えてしまうのも怖い。
何だか人間とか食っていないだろうなと、ありもしない想像をしてしまう。
茜の中では、既に高宮監督は、人外のものに思えてならない。
怖い。
だけれども、それでも茜には俳優としてのプライドがある。
必死に心を奮い立たせて、やる事はやる。
そう決めているのだ。
それから午後の撮影に入る。
午後も相変わらず意味不明なシーンの撮影が続く。気が弱そうな女優の一人が、ついに耐えきれなくなったか泣き出したが。
それでも全く気にせず、良い感じだと高宮監督はカットを告げた。
恐怖でまだ泣いている俳優をちらりと見て、次のシーンにいく。
何言いたそうなスタッフに、高宮監督は告げる。
「泣き声は後の編集でカットするから問題ない」
「は、はあ……」
「一人ついていてやれ」
「分かりました」
女性のスタッフが一人、恐怖で泣いている俳優について向こうに行く。
彼女が必要ないシーンを先に撮るのだろう。
ぞくりとした事がもう一つある。
まさかとは思うが。
高宮監督、自分の中で全て撮影の順番を組んでいて。更に柔軟にそれを切り替える事が出来ているのか。
だとしたら、記憶力が良いとかそういうレベルでは無い。
化け物である。
茜も蒼白になる事を察したが。
それでも演技をするのがプロだと自分を奮い立たせる。
頬を叩くと、演技に向かう。
周囲の俳優達も、みんな死んだ顔をしていたが。それでも、まだまだ撮影は始まったばかりなのだ。
負けてはいられなかった。
実はとてもハイスペックな高宮監督。
それを周囲は中々理解出来ず。
理解してしまうと、背筋にぞくりと来るのです。
全部計算の上で、この人はクソ映画を作っているのだと。