謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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ホラー映画の撮影の筈なのに。

俳優にとっては監督の方がホラーです。


2、知れば知るほど分からない

撮影が終わる。

 

定時で終わったというのにみんな疲労困憊している。こんなにホワイトな職場だというのに、だ。

 

ただ、撮影スタッフはそれほど消耗はしていないようだ。

 

恐らくだが。配給会社が貸し出したスタッフは、高宮監督の映画撮影に何度も参加して、慣れているのだろう。

 

嫌な慣れである。

 

「それでは今日も早めに帰って、きちんと寝ておくようにね。 解散」

 

高宮監督が、きっちり定時に皆を上がらせる。

 

既に撮影開始から三週間。

 

もう、皆の正気度は枯渇しかけているようだった。

 

茜も正直フラフラだけれども。

 

劇団員時代に前衛的な舞台をやったことは普通にあるし。それでなんとか持ち堪えているような感触だ。

 

そのまま頑張って行きたい。

 

無言で茜は帰宅の準備をする。

 

スタジオが少し遠め、と言う事もあって。

 

帰路の電車は、少し長かった。

 

そういえば、タクシーを手配しているのを見た。

 

高宮監督が使うのでは無さそうだ。

 

あの人は基本的に、いつも自家用車で通勤しているのを見る。

 

そこそこ年季の入った軽だ。

 

だから、誰かのためにわざわざ呼んだのだろうか。

 

なんというか、気配りをしっかりしてくれているというか。映画監督なのに、俳優をきちんと大事にしている。

 

かといって媚を売るわけでもなく。

 

独自の路線をしっかり行っている。

 

これで撮る映画が砂でも噛んでるような代物でなければ。ホトケの高宮という言葉は別の意味になっていただろうに。

 

茜は、どうしてこうなっているのだろうと思って、暗澹たる気持ちになる。

 

帰路の電車で揉まれながら、家に向かう。

 

ともかく、疲労がひどくて。

 

あまり周囲を見ようという気になれない。

 

座れる確率なんてゼロに等しいので。

 

もう最初から諦めている。

 

ただ、都心から家は微妙に離れている事もあって。

 

電車から降りることは苦労はしていなかった。

 

自宅につくと、そのままベッドに直行。しばらくぐったりする。

 

定時で上がったはずなのに。

 

この疲労具合はどういうことか。全くもって、不可解極まりない話である。

 

そのまま寝てしまうのも流石に何というか。

 

人間を捨てている気がする。

 

だから、しばらくぐったりした後。

 

風呂に入り。

 

夕食を取って。

 

それで、ぼんやりしてから寝る事にした。

 

ここしばらく、ずっとこんな感じだ。

 

SNSを確認する。

 

高宮監督の最新作、というか今撮影している作品の前作が。高宮監督の作品としては始めて、黒字興業になったと言う。

 

その一方で、見にいった人々は全員青ざめていたそうだが。

 

ただ、逆に二時間ぐっすりねむって健康になれるというコメントもSNSでは散見されるようで。

 

それは映画としてどうなのだろうとも思ってしまうが。

 

ともかく、ぼんやりしている内に睡眠の時間になる。

 

そのまま眠る事にする。

 

ねむっていると、夢に見る。

 

恋愛に対して、何の興味もなくなった事を。

 

茜の学校も、中学高校とスクールカーストが存在していて。本当にうんざりさせられる場所だった。

 

ルックスが良い茜は無理矢理スクールカーストの上位グループに入れられ。

 

男寄せとして使われた。

 

そして「パパ活」とか称する援助交際をやっているような女がスクールカーストのトップにいて。

 

その男漁りにつきあわされた。

 

茜はいやだったから「パパ活」だとかはやらなかったが。

 

アダルトビデオだのに極めて苛烈な当たりをしておきながら。「パパ活」とかいう援助交際を放置している政府のやり口には理解が出来なかった。

 

恋愛と称する金のやりとりを間近で何度も見ている内に。

 

二次元にて執拗に描写される恋愛などと言うものは存在しないと、茜は悟った。

 

高校時代に男女交際も経験したが。

 

ひたすらに性行為を求めてくるカレシに辟易し。

 

やったところで子供が出来ても責任なんか取れないだろうにと言ったら。逆上して暴力を振るわれ。

 

頭を四針縫う怪我をした。

 

それなのに暴力を振るった男には同情的な声があつまり。其奴は転校したものの、茜が悪いみたいな空気が一部で作られた。

 

それ以降だ。

 

男の側には寄りたくなくなった。

 

というか、女の側にもよりたくなくなった。

 

勿論そうだとは口にはしない。

 

世間的なつきあいは高校でも大学でもやった。

 

だが、大学では。

 

そもそもアホらしくなったから、サークルなんかには一切入らなかったし。

 

テニスサークルだとかで猿みたいな男が、女を食い散らかしている様子や。

 

バカの子供を妊娠した女子大生が子供を堕ろした挙げ句に大学をやめていく様子を見ながら。

 

人間の恋愛と称するものに、更に失望を深めた。

 

劇団は三回変えた。

 

いずれもが、交際を強要しようとしてきた相手を袖にしたのが原因だ。

 

彼奴はルックスを傘に来て調子に乗っている。

 

そういう噂が流れた。

 

それで、もううんざりして劇団を辞めた。

 

三回目に入った劇団では、人間の観察に徹した。

 

それで悟ったのだ。

 

人間の言う恋愛なんてものは幻想に過ぎないと。

 

性欲を如何に発散するかのものに過ぎないと。

 

男子は性欲を発散することを求めるし。

 

女子は恋愛に夢を見すぎている。

 

そんなものははっきりいってどうでもいいし。興味も無い。それが、劇団という魔郷で茜が経験した現実だった。

 

というわけで、茜はすっかり枯れた。

 

目が覚める。

 

ため息をつくと、頭を振る。

 

ろくでもない思い出ばかりである。

 

茜は夢を覚えている方で、昨晩の夢も覚えていた。

 

あの、茜をぶん殴って頭を四針縫う怪我をさせたカレシは、その後茜を恨みながら退学していった。

 

その後で退学先の学校で、女子生徒を妊娠させて。

 

以降は完全に人生を踏み外したらしい。

 

はっきりいってどうでもいい話だ。

 

更に最近知ったのだが。

 

その暴力も、茜に対して「なんだかむかつく」とかいうすこぶるどうでもいい理由から。スクールカーストのトップにいた女が仕掛けさせたものらしい。

 

その女も、今ではすっかりフェミニストだとかいう人権屋の手先に成り下がっているらしく。

 

まあ大学を出て以降、スクールカーストのトップにいた頃積み上げた負の成功体験の結果。

 

会社などで相手にされず。

 

錯乱した末の結末なのだろうと思う。

 

一切同情しない。

 

「パパ活」とやらで金を派手に使う遊びを覚えていたらしいから。

 

ホストか何かに散々つぎ込んで。

 

借金漬けになった挙げ句に。

 

活動家を称する人権屋の手先になったとすれば、納得がいく。

 

あれらはアホを使ってビジネスをしている。

 

茜だって知っている事実だ。

 

それを思うと、アホが相応の末路を迎えたことは、悲劇でも何でも無いし。

 

鬱陶しいから性病かなんかでさっさと死んでほしいとさえ思う。

 

朝の家事などを済ませると。

 

茜はSNSを見る。

 

幾つかニュースは確認しておく。

 

俳優として、プロとして食っていくと決めたのだ。その関係のものだ。

 

有名な俳優が、スキャンダルをすっぱ抜かれていた。

 

中学生を妊娠させたというものだ。

 

パパ活とやらの蔓延である。

 

丁度それをやった結果、中学生を妊娠させたとかで。

 

流石に俳優としての生命が絶たれたようだ。

 

自業自得だと思うが。

 

それに対して、フェミニストだのが猛反発しているようである。

 

SNSは大荒れになっているようだが。

 

そもそもフェミニストとやらが人権屋の手先になっているのは、すでに大半の人間が知っている。

 

連中は狂人扱いされていて。

 

また暴れていると、後ろ指を指されて笑われているようだった。

 

まあ茜も同じ意見だ。

 

あの醜悪なスクールカーストのトップ女の事を思い出すと、そういう意見しか出てこない。

 

高宮監督のアカウントも覗く。

 

今日も相変わらず、コーヒーの写真をアップしていて。コメントを幾つかしていた。

 

それが結構拡散されている。

 

コメントもかなりついていた。

 

かなり前まで遡ってみるが、たまに例外的に夜にもコーヒーの写真をアップしている日があったが。

 

それを除くと毎日同じ時間に必ずコーヒーの写真をアップしている。

 

何というか、不可思議極まりないアカウントだ。

 

これを見ているだけで、頭がくらくらしそうだが。

 

まあそれはそれ、これはこれ。

 

着替えなども済ませたので、いつでも出られる。

 

時計を見て、時間を確認してから。

 

茜は家を出ていた。

 

 

 

撮影現場に、以前より少し遅めにつく。

 

高宮監督に言われたので、少しゆっくりつくように調整したのだ。

 

それでも多少時間は余ったので、喉の調整とかをやっておく。

 

それで充分だと思ったからである。

 

「日野さん」

 

「はい」

 

戻った所で声を掛けられる。

 

スタッフの一人だった。

 

「今日は……」

 

今日は撮影の関係上、俳優が一人休みだそうだ。彼が出るシーンを撮影しないから、だとか。

 

主演である茜だって、そもそも出番がないシーンが結構ある。

 

それを考えると、今後は恐らくそういう日が出てくるだろう。

 

そうなると、休みが入るのかも知れない。

 

他の現場では考えられない事だが。

 

「分かりました。 そのつもりで演技します」

 

「はい、お願いします」

 

礼儀正しく頭を下げると、スタッフは行く。

 

こういう所のスタッフは、体育会系というのが基本で。

 

怒鳴り散らしたり、場合によっては暴力も当たり前というのが普通のようだけれども。

 

此処ではそういうことはない。

 

恐らく高宮監督の方針なのだろう。

 

少し前に聞かされたのだけれども。

 

ホトケの高宮と言われる一方で、高宮監督は暴力を振るったりするスタッフには容赦がないらしく。

 

その時点で首を宣告するそうだ。

 

そういう理由から、追い出されたスタッフは何人かいるらしい。

 

また、同じスタジオで怒鳴り散らかしているような奴がいると、無言で幽霊のように消えて。

 

その怒鳴っていた奴は、いつの間にか消えているらしい。

 

大御所だろうがベテランだろうが関係無い。

 

文字通り幽霊のようにいつも恐ろしい気配を発している高宮監督だが。

 

五月蠅いのは食糧的な意味で喰ってしまっているのでは無いのか、という噂まであるほどだ。

 

怖い。

 

だが、それでも職場が快適なのは事実である。

 

他の監督も、ここだけは見習ってほしい。

 

どうしてか、未だに劇団や映画の撮影現場は体育会系が正解とされている事が多いようであり。

 

それについては茜もうんざりしているのが実情だ。

 

だから、今回、それについてだけは助かる。

 

「はい、それではシーン29」

 

声が掛かる。

 

さっと皆で動く。

 

茜も役作りはしているつもりだが、何度読み返しても脚本もキャラクターも一切理解出来ない。

 

そろそろ人が襲われて死ぬシーンとか描かれるようになりはじめているのだが。

 

そもそも、何に襲われているのか。

 

どう襲われているのか。

 

それら全てが映らないのである。

 

魔郷と言われるサメ映画などでは、本当に酷い映画だとサメの姿が一切出てこない代物とか。

 

一カットだけ背びれが映るだけだとか。

 

そんな代物もあるらしいのだけれども。

 

それを思わせる。

 

それでいながら、何というか撮影は計算され尽くした様子で行われている。

 

やっぱりわざとやっているなコレ。

 

そう茜は思うが。

 

高宮監督は涼しい顔で、淡々と撮影を進めているのだった。

 

たまりかねたのか。死ぬシーンを描かれた後。俳優の一人が、高宮監督に質問をしていた。

 

「その、役作りのためにも聞きたいのですけど!」

 

「なに」

 

「どんなモンスターに襲われているのかくらいは教えてください! CGで作るにしても、です!」

 

「自分で脚本から想像してね」

 

さらりと爆弾発言を飛ばす高宮監督。

 

それが!分かっていたら!誰もこんな質問なんかしない!

 

そう激高したくなるが。

 

しかしながら、相手が怖すぎるのでそんな事はとても出来なかった。他の俳優達も怯えきっている。

 

何となくだが、分かるのだろう。

 

深淵の邪神のごときオーラが、である。

 

それでも勇気ある俳優は食い下がった。

 

「せ、せめてその、演技指導をもう少し細かく」

 

「君達はプロでしょ。 私は素人は一切映画で採用しないの。 おわかり?」

 

さらりというものだ。

 

確かに高宮監督は、アカデミー賞をとった今でも、アイドルやお笑い芸人、大物芸能人とかは映画で使っていない。

 

使うようにと指示があったらしいのだけれども。

 

そもそもこんなスタイルの映画ばかりとっている人だ。

 

途中から、スポンサーも使えとはいわなくなったそうだ。

 

それが常態化していき。

 

更にはアカデミー賞を取った頃には、クソ映画の監督として。現在のエドウッドとまで言われるようになっている有様である。

 

いつの間にか、その手の要求からは無縁となったのだろう。

 

「だから、プロとしてきちんと考えてね。 以上」

 

「……」

 

崩れ落ちそうになる俳優を、スタッフが支える。

 

何事もなかったかのように、次のシーンの撮影に入る。

 

やはり怖い。

 

何事も、問題が起きないように徹底的に先回りして手を打ちながら。

 

それでいながら、俳優達には圧倒的な恐怖をまき散らし、全員の精神を貪り喰らっていく。

 

やっぱり魔族か邪神だと思う。

 

それでも、なんとか必死にやっていく。

 

それが茜が、プロである証明になるから、である。

 

今日の撮影も何とか終わる。

 

みんな疲労困憊だが、高宮監督は定時で上がり、休むように告げた。

 

そして、解散直後に言われる。

 

「日野さん」

 

「は、はいっ」

 

「君、三日後休みだから。 疲れているようなら、しっかり休みを取っておいてね」

 

「わ、分かりました」

 

劇団とかだと、体育会系の先輩から。

 

どもったりすると、それだけでプロかお前はとか怒鳴られたりする事が珍しくもなかったのだが。

 

高宮監督はそんなパワハラと指導を勘違いしているような輩とは違って。優しかった。

 

それが逆に恐ろしさを倍増させるのだが。

 

或いはそれすら計算の内に入っているのかも知れない。

 

ともかく全く理解出来ない。

 

俳優達も三々五々戻っていくが。

 

女優の一人が声を掛けて来た。

 

「あの、日野さん。 少し良いかな」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「その、今日……」

 

どうやら彼女も。今日高宮監督に勇気を振り絞って質問し、跳ね返された俳優と同じようにして。

 

そもそも何に襲われているかさっぱり分からず、混乱しているようだった。

 

そんなものは。茜だって知りたい。

 

だけれども、プロなんだから任せるとか言われたら。

 

しぶしぶ任されるしかないというのが事実だ。

 

「私も分かりません。 ごめんなさい」

 

「そう、そうだよね……」

 

「他の映画でも、俳優さん達が高宮監督の映画を理解しながら演じていたとはとても思えません。 だから、ある程度気楽にやって良いのだと思います」

 

「……うん」

 

彼女は確かそれなりに大きな映画にも出たことがある、完全な初心者ではないはずだ。

 

修羅場である撮影現場の経験だってあるはず。

 

それがこれほど怯えきってしまっているのは異常だ。

 

如何にこの職場が狂っているか。

 

その証左とも言えそうだ。

 

スタッフは黙々と引き揚げて行く。

 

みんななれている様子だけれども、本当にそうなのだろうか。

 

他のスタッフはみんな淡々とやっているけれども。

 

アレはひょっとしてだけれども。

 

とっくに全員正気度が枯渇してしまっていて。

 

笑顔しか浮かべられないとか、そんな状態なのではあるまいか。

 

ぞくりと背中に恐怖が走った。

 

はっきりいって、それはあり得ない話ではないから、である。

 

本当に怖い。

 

高宮監督は、自家用車で帰っていった。

 

いなくなっても。

 

あの人は恐怖をまき散らし続けている。

 

いずれにしても、ぼんやりスタジオに残っていても仕方が無い。

 

監督によっては、夜までスタジオを使う者もいる。

 

場合によっては徹夜だってする。

 

高宮監督の撮影現場がホワイト過ぎるだけだ。

 

別の意味で。

 

例えば、邪神が巣くう南極の山脈のような意味でホワイトという意味もあるかも知れないが。

 

それと職場がとても快適な環境である事は矛盾していない。

 

快適な環境にも邪神は住んでいる。

 

別にそれでも、不思議では無いだろう。

 

自宅に電車に揺られながら戻る。

 

途中、電車が止まって。線路内に立ち入りがどうのこうのとアナウンスが流れたが。

 

それは痴漢が出たことの隠語である事を、茜は知っていた。

 

まったく、今の時代も痴漢は出るんだな。

 

そう思ってげんなりしたが。捕り物は終わったのだろう。

 

すぐに電車は動きだし。

 

遅延もすぐに回復した。

 

自宅には少しいつもより遅れたが、きちんとついた。そういう意味では、日本の電車というのは優秀だ。

 

無言でまたベッドにダイブする。

 

そのまま寝てしまいそうだが。

 

人間としての尊厳を維持するために、風呂にも入るし夕食だって取る。ただ、料理なんてしている暇はないから。

 

途中のコンビニで買ってきた料理を食べるしかなかったが。

 

また、夢を見る。

 

なんだか深淵から這い上がってきたような邪神の夢だった。

 

高宮監督の第二形態だろうか。

 

明晰夢が多い茜だ。

 

夢の内容はかなりしっかり覚えている。

 

巨大な肉塊にたくさんの目がついていて。触手があって。口とかがデタラメにくっついている怪物。

 

見るだけで正気度がマッハでなくなりそうなそいつが。

 

今日、高宮監督に食ってかかっていた俳優を貪り喰っていた。というか触手で捕まえて、口にポイである。

 

ばりばりと凄い音がするが、どうしてか茜は突っ立って見ているだけ。

 

何となく分かる。

 

アレに襲われる事は無いと。

 

そのままその怪物はずるずると触手で体を引きずって泳いで行き。

 

手当たり次第に人間を食い始める。

 

触手で逃げ惑う人間を捕まえては口にポイ。

 

バリバリムシャムシャ。

 

なぜだか、あんまり怖いとは感じない。

 

こんなのよりも、高宮監督の方が、ずっと恐ろしいからだ。

 

そして、着想を得る。

 

こいつを、映画の恐怖存在として認識してみよう。

 

此奴に襲われていると思えば、役作りだって。

 

目が覚める。

 

明確に、怪物のイメージは頭の中にあった。

 

触手で襲われるシーンというのは、結構難しいものなのだけれども。

 

それはそれ、これはこれ。

 

アドリブで何とかやっていけばいい。

 

さっとスケッチをとる。

 

明晰夢を見る事が多い茜は、そうしてたまに夢に出て来たものをスケッチする事があるのだ。

 

そうすることで、演技につなげる。

 

これで食っていくと決めてから、そうするようにしている。一種の生活習慣であり、癖だった。

 

ささっと描き上げた怪物は、中々に恐怖を誘うデザインに仕上がった。

 

これで充分だろうと思ったので。

 

茜は頷く。

 

はっきりいって高宮監督のが十倍は怖いなと。

 

理解も一切できないなと。

 

まだこの人食いクリーチャーの方が、会話が成立しそうな気がする。

 

だけれども、だからこそ。

 

少しだけ、前に進める気がした。

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