謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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本作での映画を巡る状況については、あくまでフィクションであると言うことを何度も強調しておきます。

その上で、コメディとしてお楽しみください。


虚無監督の真意
序、偉大な監督の末路


現在、アニメ以外では元気がなく。特に国際競争力はほぼ皆無である邦画だが。昔はそうではなかった。

 

世界的に知られており。

 

多数のファンがいる監督が実在したのである。

 

サムライを中心に映画を撮り。世界中に名を知らしめたその監督の事を知らない奴は。映画ファンとしてはモグリだ。

 

一方で、その監督はド変人として知られていて。

 

気に入らない監督の家に花火を投げ込んだりと、相当な無茶苦茶をやった人物でもあるらしい。

 

現在最も知られていて。

 

クソ映画世界の巨匠とまで言われている高宮葵だが。

 

その夢は。

 

最終的にはその映画監督を超える事。

 

そう決めたのは、幼い頃だった。

 

侍達が村を野武士から守る映画。

 

これを見て、本当に凄いと思った。

 

今では、当時の村というのは無抵抗でもなんでもなく、むしろ非常に強力な武装集団であることを高宮も知っている。

 

だが、それを知った上でも。

 

この映画は、今見ても楽しむ事が出来る。

 

勿論、その映画が好きだとは口が裂けても言わない。

 

スクールカーストのクソぶりは高宮も散々見て来て育ったし。

 

今だって、当時の事は思い出したくも無い。

 

芸大時代だって、気に入らないという理由で低評価をつける教師を散々見て来た高宮である。

 

本音を口にするつもりはないし。

 

他人を信用するのには、余程時間を掛けるようにしていた。

 

今日は、ある老人ホームに足を運ぶ。

 

尊敬している映画監督ほどでは無いが。

 

それでも、それなりに知られた映画監督が入院している。

 

足を運ぶと、まだ若いのに来てくれて嬉しいだの、なんだのと。いきなりお婆さんに絡まれる。

 

認知症になってしまっているらしく。

 

孫か何かと勘違いしているらしかった。

 

看護師が来て、慌てて連れて行く。

 

高宮は気にしていないと言って、そのまま奧へ。

 

病床にいるのは。

 

ひょっとしたら、世界の映画監督になれたかも知れない人物。

 

その末路だった。

 

結論から言えば、恐らくは無理だったのだ。

 

人は器にない場所に行くと潰れる。

 

それは高宮が、散々見て来た真実だ。

 

そしてその見本が。

 

今、高宮の前で。ベッドでふてくされている、頑固そうな老人だった。

 

その老人は。

 

高宮が誰かを知っているかのようだった。勿論勘違いなのだが。

 

「なんだ。 来いと言った覚えはないぞ」

 

「……私は貴方の娘でも孫でもありませんが。 面会許可を取って来ましたので」

 

「……誰だ貴様」

 

「高宮葵。 少し前にアカデミー賞を取りました」

 

けっと吐き捨てる老人。

 

この老人は、アカデミー賞を取ってから壊れてしまった。

 

それまでは面白い映画を撮るいい監督だったのだが。

 

アカデミー賞を機会に、全てが狂ってしまった。

 

周囲には意識が高い取り巻きが集まり。

 

その結果、どんどんつまらない映画を撮るようになっていった。

 

女房役とも言えたブレーキをしていた副監督を追放すると。

 

後は完全に独裁になり。

 

以降は誰が見てもつまらない映画を、傑作と信じながら撮るようになっていった。

 

やがて客が完全に離れた頃には。

 

周囲に集っていた取り巻きも、頃合いだろうと判断したのかいなくなり。

 

何もかも人生を無茶苦茶にされたと悟った老人は。

 

こうして呆けてしまった、というわけだ。

 

「アカデミー賞なんか……」

 

「私の時代でも貴方の時代と変わりませんよ。 もっとも、私の場合は筋金入りの変人として知られていますので、取り巻きは集まってきませんけどね」

 

「……何者だお前」

 

「映画の未来を憂うる者」

 

少しずつ。

 

呆けてしまっていた老人が、往事の切れ味を取り戻していく様子が分かる。面白い。そうこなくては。

 

話を少しずつ進めて行く。

 

「今、貴方のような「潰された」監督を回って話を聞いています。 私もかなり用心深い方なのでね」

 

「貴様、何を目論んでいる」

 

「……貴方の所に来た取り巻きを、覚えている限り教えてください」

 

しばし老人は、自分を取り戻すのに躍起になっている様だった。

 

そこに、ひょいと顔を出すのは。

 

少し前に雇い入れた小野寺晴。

 

今後、高宮の三本の腕のうち。一本をして貰おうと思っている者だ。

 

まだ高校を出たばかりだが、人間の心理を良く洞察しているというか。他人の尖った心を良く受け止める。

 

話してみて分かったが、井伊綾音は天才肌の一方。あまりにも尖りすぎている。

 

そんな井伊が心を許したのはこの小野寺晴一人だけ。

 

それは、それだけの変人を手なづけられるという事を意味している。

 

相当な強者である。

 

だから今後は、こう言う形でサポートをして貰う。

 

そのまま、話をしてもらう。

 

高宮は邪魔になるので、その場を後にして、外でしばらく待つ。高宮は自分でも理解しているが、話が得意な方では無い。

 

話すのが得意な奴にそれはやらせればいい。

 

世間では勘違いされがちだが。

 

別に口が上手い奴が、何でも出来るわけではない。

 

コミュニケーション能力とやらに特化しているなら、他は駄目だと判断するべきである。

 

会社に有能な人材がいなくなったのはそれが理由だ。

 

バカみたいな話だが、あの始皇帝もどもりがあるという理由で偉大な理論家韓非子を処刑している。

 

そういうものだ。人間は古くから、まるで進歩していない。

 

それなのに人間は変われるとか、好き勝手な言説がまかり通っているのは。

 

高宮からして見れば、滑稽極まりなかった。

 

変われる人間はいるだろう。

 

だが歴史的な偉人クラスでも出来ない人間は出来ない。

 

そういうものなのだ。

 

コミュニケーション能力についても同じ。

 

出来ない奴は何をやっても出来ないし。

 

それは有能無能とはなんの関係もないのである。

 

やがて、小野寺は戻ってきた。

 

10歳も年下の相手だが。

 

それでも、今は大事な同志だ。いわゆる忘年の交わりと言う奴を結びたい気分である。

 

「聞いて来ました。 リストになります」

 

「お疲れ」

 

「それで、次は何処に?」

 

「時間があるから、今のうちに日本中を出来るだけ回りたい」

 

今公開中のアルティメットコメディーシリーズ十二作品目。

 

正体がまったく分からない存在に襲われ続けるパニックホラーと称するナニカだが。

 

アカデミー賞効果もあり。

 

前回の恐ろしく虚無で、見ているだけで眠れるという謎の評判が起爆剤になって。

 

今までの赤字を全部回収する勢いでヒットしている。

 

というわけで、高宮は今回は時間を取り。

 

計画を進めるつもりでいた。

 

思ったより早く機会が廻ってきた。

 

これは幸運だと思うべきだろう。

 

他にもほしい人材はいるのだけれども。

 

CG担当として、極めて有能な井伊を雇うことが出来たので。以降は井伊を中心としたチームにそれは任せてしまう。

 

なお働き次第では、井伊の給金は更に倍、もっと倍に上げていくつもりだ。

 

有能な社員には金を払う。

 

今の企業が忘れてしまった事だが。

 

高宮は忘れていない。

 

「次は高知に行くぞ」

 

「ちょっと遠いですね。 今検索します」

 

「んー」

 

目標としているターゲットは後三人。

 

そして、小野寺が聞き出した人間のリストは移動中に目を通しておく。

 

なるほど。

 

時代ごとに変遷はあるが、ある程度固まっている。

 

やはりというか。

 

文化というのはある程度根付くと寄生虫が湧くのだ。それは人間という生物に共通した事だ。

 

寄生虫は色々な形で湧く。

 

まずはその文化で、過剰に稼ごうという連中だ。

 

勿論文化をすることで、食っていくことはとても良い事だと思う。

 

だが、文化を権威化し。

 

その権威に自分達がすり寄ることで稼ごうとする連中は、寄生虫と言わざるを得ないだろう。

 

古くからこの手の連中はいる。

 

もう一種の寄生虫は、文化そのものを私物化しようとする連中だ。

 

老害、と言われるファンがそれである。

 

勝手に文化の定義を決めつけて、自分達で独占し。

 

それ以外のファンを閉め出そうとする連中がそれだ。

 

あるロボットアニメがブームになった時。こんなものはSFではないとか抜かして、盛大にディすった阿呆がいた。

 

以降、SFというジャンルにはこの手の厄介なのが纏わり付くようになり。

 

SFというジャンル名を使うだけで攻撃を繰り返すようになったため。

 

今ではSFというジャンル名を、作品につけないと言う事で自衛をする人間がかなり増えている。

 

これについては、小説、アニメ、映画、全てにおいてそうである。

 

こういう厄介なのが纏わり付いているジャンルは幾つもある。

 

SFはその一例だ。

 

現時点で、高宮の映画にそういうのは纏わり付いていない。

 

高宮をバカだと思い込んでいる連中が、失笑しながら映画を見ているだけである。

 

そういう風な映画をわざわざ作っているのだ。

 

自分が掌の上で踊っていることすら理解出来ていない。

 

本当にバカなのは自分かも知れないと、考える事すら出来ていない。

 

つまり客観性がゼロだ。

 

そんな連中は高宮の眼中にない。

 

計画を進めるためには、もっと先にさっさと進まなくてはいけない。

 

高知に到着。

 

流石にちょっと田舎だ。

 

老人ホームに急ぐ。

 

今回は、かなり小さめの老人ホームだ。此処に昔はアカデミー賞を取った監督がいるなんて、誰が信じるだろう。

 

既に調べてあるが。

 

今はすっかり人間不信になって、気むずかしい老人になり。

 

周囲全員に嫌われているそうだ。

 

だが、そんな風にこの老人をしてしまったのは。

 

散々しゃぶり尽くすだけしゃぶりつくし。

 

その後はポイ捨てした連中だ。

 

文字通りの寄生虫。

 

人間の恥部どもである。

 

存在する事すら許しがたい連中だが。それについてははっきりいってどうでもいい。高宮にも早速すりよろうとしている連中がいるようだが。

 

そもそも高宮が正体不明すぎて。

 

接触する機会を得られていないようだ。

 

高宮は自分から使えそうな周囲の人間を選んでいる。客観的に相手の能力を分析もしている。

 

他の監督のように。

 

しゃぶりつくされて、金づるにされつくして。

 

用済みになったら捨てられるような愚を犯すつもりは無い。

 

既に面会の約束はとってある。

 

老人ホームに入ると。

 

枯れ木のような老人が、不愉快そうに周囲をベッドからねめつけていた。

 

看護師も完全に持て余している様子である。

 

名前を呼ぶと、眼光はより鋭く。攻撃的になったが。

 

勿論高宮は気にしない。

 

「小野寺、後は頼む」

 

「はい」

 

外で待つ。

 

此奴は、どんな相手の側にでもすっとすりより、話を聞いてくる達人だ。

 

スクールカーストでも、それを上手にこなし続けて。

 

スクールカーストには一切合切関わらず。

 

それでいながら、孤立することもなかったという。

 

一方で話してみて分かったが、スクールカーストというものを心の底から軽蔑しているようで。

 

スクールカーストとか言うクソみたいな代物を作り、上位に食い込んで悦に入ってる愚劣な連中を心の底から嫌ってもいる。

 

つまるところ。

 

高宮にとっては、同志たり得る存在である。

 

そのまましばらく外で待つ。

 

高宮はタバコは吸わない。

 

外でぼんやりベンチに座って空を見ていると。

 

しばしして、小野寺が戻ってきた。

 

「聞いて来ました。 リストにまとめてください」

 

「ん」

 

頷くと、さっとノートを使って、リストをまとめる。

 

作業を終えると、すぐに次。

 

今日中に、もう一箇所老人ホームを回らなければならない。

 

ある程度の地位までいって。

 

其処から致命的な転落をした人間は、こういう業界でも。どういう業界でも。珍しくもない。

 

人間は器に相応しくない場所にいくと壊れる。

 

或いは簡単に調子に乗ってしまい、その結果落ちる。

 

それを証明しているかのように。

 

ボロボロと、カスみたいな寄生虫に食い荒らされた人間は。彼方此方の老人ホームで見つかるのだった。

 

最後の老人ホームを回り終えると、既に予約していたビジネスホテルに。

 

そのままビジネスホテルに泊まると、翌日に向けて色々準備をしておく。

 

翌日どう移動するかのルート確認。

 

これについてはある程度の余裕を持っているが。もしも早く終わった場合などは前倒しでいけるようにしてあるし。

 

二時間程度の猶予時間も設けてある。

 

高宮が本来は彼方此方行くのもおかしいのかも知れないが。

 

潰されてしまった先達たちの様子を見ておきたかった、というのはある。

 

ただでさえ、今回はわざと映画撮影開始まで、少し時間を取ってあるのだ。

 

今のうちに、やれることは全てやっておきたかった。

 

全ての確認が終わったらねむる。

 

それから、次に行く。

 

翌朝も、いつも通りの時間に起きて。

 

いつも通りの時間にコーヒーの写真をSNSにアップする。

 

すぐに拡散されていくが。

 

こんな早朝から、ご苦労なことだと高宮は思った。

 

まあ、SNSの効果的な使い方を心得ていると思えば。それでいいのだろうとも思うのだけれども。

 

なお、広告代理店が。

 

高宮のSNSを管理しようかと一度言ってきたが、

 

勿論断った。

 

そんな連中に、無駄な金を出す余裕は無いし。

 

何よりも広告代理店みたいな寄生虫の権化、高宮がもっともこの世で嫌っている存在だからだ。

 

きちんと起きてくる小野寺。

 

よい感じである。

 

そのままモーニングを食べてから、すぐに老人ホーム巡りをする。

 

今日で作業を一旦終えて、撮影に入る。

 

なお、小野寺には映画撮影以外で仕事をして貰うつもりである。

 

それははっきりいって難しい仕事になるのだが。

 

それはそれ。

 

本人もやると言っている。

 

コミュニケーションとやらは、個人の素質が能力に大きく関わる。やり方を学ぶ事も出来ない。

 

人たらしの達人と言われたあの豊臣秀吉ですら。

 

晩年には気むずかしい憶病な老人になり果て。

 

周囲に対して、若い頃にあった事で何か不快だったら確実に復讐した。

 

若い頃コミュニケーションとやらの達人であっても、年を取ればそうなるほどなのである。

 

つまりは学べたりするようなものではない、ということだ。

 

更に言えば、どんなに陰湿な性格の持ち主であろうと、出来る奴は出来るという事でもある。

 

コミュニケーションと今の時代もてはやされているものは何なのだろう。

 

得体が知れない化け物が、一人歩きしているとしか、高宮には思えなかった。

 

まあそれについては、高宮も同じか。

 

一件目の老人ホームに着く。

 

そこそこ豪華な場所だ。

 

すぐに小野寺と一緒に、潰されてしまった監督を見に行く。

 

今日中に。

 

この行脚は終わりにする。

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