謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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ラブストーリー。時代によっても価値観が変わるので、大変面倒な代物です。

ラブストーリーを見れば時代が分かるというような言葉は……あまり聞きませんが、少なくとも価値観は分かるでしょうね。

そして本作では。

そういう問題では無いZ級映画が作られます。


1、計画を進める

アルティメットコメディシリーズ第十三作目。

 

純愛ラブストーリー。

 

そういう名目で作っているものは、もはや虚無の産物だ。

 

なおヒロインには新人俳優を抜擢したが。

 

一方でこの間目をつけた日野茜には、引き続き脇役で出て貰う。

 

ただしこの純愛ラブストーリー。

 

そもそもとして、内容が極めてえげつない代物となっている。

 

まず全員が、顔を表示していない。

 

体型も、全員意図的に平らにしている。

 

以前、立方体に入ったままの状態で演技をするという映画を撮ったことがあるが。それに似てはいる。

 

近年、ポリコレとやらの蔓延で。

 

映画にしてもゲームにしても、やたら不自然なデザインが採用されることが増えてきているが。

 

そういう連中とは関わり合いになりたくないので。

 

こういった手法を採る。

 

前衛的な作品であり。

 

やりようによっては面白くなるのだが。

 

わざとこのまま撮影し。

 

更に面白い部分は全て消していく。後から、編集で、である。

 

そういう意味で、この映画もまた。

 

俳優の正気度をゴリゴリ削って行くものだとは言える。

 

ホラーにも出来るのかも知れないが。

 

そうもしない。

 

中身があってはいけないのだ。

 

虚無の映画でなければならない。

 

そうでなければ、後でがつんと入れる強烈な一撃に。意味が生じてこないから、である。

 

まあそれについては後回し。兎も角、映画の撮影を淡々と進めていく事になる。

 

ヒロインに抜擢した俳優は、とても綺麗な子だ。

 

今までドラマで何度か脇役をやっているが、いずれもあまりいい役ではなかったようだ。金と事務所のコネ、それに枕営業がものを言う世界である。どれだけ演技が出来たって、抜擢されない人間はいる。

 

高宮がオーディションで拾ってきたのも。

 

そんな俳優の一人だった。この辺りは、日野茜と似たような感じなのかも知れない。

 

「はいカット」

 

「……」

 

「十分休憩。 それぞれ休憩してね」

 

そう告げると、高宮もトイレに行く。

 

トイレでスマホを操作して、井伊に話を聞いておく。

 

「CGの進捗は?」

 

「問題なし。 指定通りにつくってる」

 

「OKOK。 今までは外注でやってたから、どうしても情報漏洩が怖くてね」

 

「……それはいいのだけれども、やっぱり私一人だとかなり厳しいと思う」

 

それについては分かっている。

 

そこで、最繁期には映画の内容にあまり関係がない所だけ、外注を噛ませる予定である。それについては説明してはある。

 

最繁期のタイミングについては、井伊に申告するようにも言ってある。

 

同志が出来たのは大きい。

 

今後ももっと増やしていきたい所ではある。

 

幾つかの話をした後、トイレを出る。

 

そして、そのままスタジオに戻った。

 

すぐに撮影を再開する。

 

小道具大道具も、それなりにてきぱき動いているが。そもそもとして、それほど大きくない規模の撮影だという事もある。

 

今までの赤字が帳消しになるくらい稼げているんだから。

 

それを使って大規模な予算を組んではどうかと会社に……正確にはスポンサーに言われたのだが。

 

全て断った。

 

自分にはこのやり方があっている。

 

下手に予算をつぎ込むと、映画の出来が逆に落ちる可能性がある。

 

そういって、なんとか説得した。

 

正確には、社長に事前にそうスポンサーが言ってくることを告げ。

 

そうやって説得するように頼んだ。

 

困惑しながらも、現状は配給会社のエースになっている高宮の機嫌を損ねたくはなかったのか。

 

社長は仕事をしてくれた。

 

というわけで、今もいつも通りの規模で撮影が出来ている。

 

喜ばしい話だった。

 

そのまま、次のシーンを撮影。

 

顔をCGで消してしまうつもりなので。全員が特徴がない服を着込んで、更に仮面をつけて演技をしている。

 

仮面での演技というのはたまにジャンルとしてはあるのだけれども。

 

それはそれ。

 

今回やっているのは、それよりも遙かに前衛的で。

 

そして面白さを全て潰している代物だ。

 

俳優達はゴリゴリ正気度を削られているようだが。そんなことはどうでもいい。むしろ正気なんて投げ捨ててしまえ。

 

そう内心で、高宮は思っているが。

 

勿論口にはしない。

 

「はいカット。 次、シーン67」

 

慌てて俳優達が脚本を見る中、すぐに動く日野茜。

 

顔色は蒼白になっているだろうが。

 

それでも、脚本の中身は全て覚えてきているらしい。他の俳優の台詞なども全て、である。

 

このプロ意識。

 

なかなか大したものだと思う。

 

そのまま、撮影を続ける。

 

その日の撮影は、木に逆さに吊されたヒロイン役が。

 

木に歩いて来る主人公に対して。

 

哲学的な問答を行い。

 

それに主人公が、哲学的な返答をするシーンで終わった。

 

落ちると非常に危ないので、このシーンは細心の注意を払って撮影しなければならないのだが。

 

勿論小道具も大道具もそれは理解していて。

 

ばっちりセーフティネットを幾つも張り巡らせていた。

 

それらは全てCGで消す。

 

撮影は今日も定時で終わりだ。

 

俳優達は、全員疲れ果てた様子で戻っていくが。

 

日野茜は、話を聞きに来た。

 

「高宮監督……」

 

「どした」

 

「このシーンなんですが、どうしても理解出来ません」

 

「自分なりに理解してくれればいいからね」

 

突き放すと言うよりも、それでいいと思っている。

 

どんなトンチキ演技をしたとしても。

 

そもそも今の時代、「自然な演技」とやらを求める監督が多いのである。意識高い系の業界人もそうだ。

 

だったら全員素人にやらせろよと思うのだが。

 

それでいながら、アイドルだの芸能人だのお笑い芸人だのを使おうとするのだから意味が分からない。

 

要は自分達の金儲けのためのシステムに組み込みたいだけだろうに。

 

それをトンチキな寝言で正当化しようとするから、馬鹿な話が出てくるのである。

 

「高宮監督、もう少し具体的にお願いします。 みんなその、分からないって話を聞いてくるので」

 

「なんだ、俳優同士で仲良くやってるんだ」

 

「……はい」

 

「違うな。 私が怖いから、皆でまとまってぶるぶる震えてるんだろ」

 

図星を指摘すると。

 

びくりと震えた日野茜は。

 

真っ青に成りながら、こくりと頷いていた。

 

他の俳優も、高宮には怯えきっているようだ。

 

それでいい。

 

舐められるくらいなら、怯えられる方が撮影をするのはやりやすい。

 

とはいっても、暴力を振るったり言葉で貶めたりするのはNGだ。

 

そんな風にやっても反発されるだけ。

 

高宮の場合は。もっと根源的な、深淵からくる恐怖によって、俳優達の心をコントロールしたいのである。

 

「いいか、此方の意見はいつもかわらない。 プロの俳優しか選んでいないのも、自分なりにプロとして考えてほしいからだ。 というわけで撮影の時はよろしく」

 

「……分かりました」

 

肩を落として戻っていく日野茜。

 

なかなか、面白い逸材だ。

 

普通、余程の事がない限り高宮には刃向かってこない。

 

或いは俳優全員が団結したりとか。

 

そういうケースでは、高宮に訴えをしてくる事はあった。

 

だが、日野茜はそういうの無しでも刃向かってくる。

 

中々に面白い。

 

次の映画でも使おう。

 

そう決めている。

 

定時で皆が上がったのを見送ると。高宮も上がる。

 

自宅に着くと、さっさと風呂に入って、それで夕食。その間に、メールチェックなどをしておく。

 

内容について特に問題はないと判断したが。

 

幾つか気になるメールもあった。

 

今の時点で、小野寺にはSNSの分析と、社内での情報伝達に動いて貰っている。

 

高宮が抜擢した小野寺は。配給会社のお偉いさんあいてにも十全に渡り合っているが。

 

これには、背後に高宮がいると言うのも大きい。

 

背後に高宮がいるから、小野寺の話を聞かなければならない。

 

それはもう、約束として配給会社の中にはルールとして行き渡っていた。

 

「専務がちょっと気になる行動をしています。 少し警戒をした方が良いかも知れないですね」

 

「具体的には」

 

「どうやら他の役員を集めて、高宮監督への対策を練っているようです。 社内での存在感が大きくなりすぎていると危惧しているようでして」

 

「ふうん……」

 

芸のない二代目である今の社長。

 

それを実質上裏から動かしている専務。

 

まあ専務だったのか常務なのかどうでもいいが。ともかくそういう間柄だ。

 

高宮としてはどうでもいい。

 

社内の政治とかに関わるつもりは無い。

 

淡々と映画をとっていき。

 

やがて目的を果たしたい。それだけが、高宮の中にあるからである。

 

幾つか、具体的な話を聞いた後、指示をしておく。

 

小野寺は分かりましたと答えて、そのままメールでのやりとりは終わった。

 

さてさて、次だ。

 

幾つか、やっておく事がある。

 

SNSでの動向についても小野寺に調べて貰ってあるが、これについてはまた別の専門家を雇うべきかも知れない。

 

だが、今の時点ではまだ忙しいが、小野寺にやってもらうとしよう。

 

そう思ってはいる。

 

それはそれで、高宮自身もSNSは確認しておく。

 

たまに、鋭いコメントが飛んでくるからだ。

 

アカデミー賞を取ってから、意味不明の自己解釈を送ってくるアカウントがたまに出てくるようになった。

 

コーヒーの写真に対するコメントや。

 

或いはメッセージを使ってだが。

 

殆ど全てが的外れで、失笑するしかなかった。

 

だが。それらの中に。

 

逸材がいるかも知れない。

 

というわけで、軽くチェックをする。

 

さっさとSNSのコメントを高速で流していくが。殆どのコメントは、見た瞬間に興味を失うような代物ばかり。

 

それらはすぐに無視して次。

 

更に次へ。

 

どんどん進めていくが、今日は収穫は無さそうだな。

 

そう思って、がっかりした。

 

SNSにもたまに出来る奴がいるものなのだが。

 

そういうのは例外に過ぎない。

 

専門家を気取っている奴が、実際にはとんでも無いトンチキ発言を繰り返している何て別に珍しくもない。

 

それがSNSの実態である。

 

マスゴミといわれる今のマスメディアは、それにすら劣る。

 

まあ最果ての時代と言われるのも、当然と言えば当然か。

 

呆れながら、今日の作業は終える。

 

そして明日のスケジュールを確認。

 

撮影現場で、トラブルがあっても柔軟に動けるのは、こうやってスケジュールを完璧に把握しているからである。

 

それが出来るからこそ、いつも柔軟な撮影順の入れ替えなどが出来るのであって。

 

そうでなければ、高宮にだって何もできないだろう。

 

いずれにしても、作業は終わったので寝るとする。

 

今の時点では、フルスペックの四割くらいしかつかっていないか。

 

色々もったいないが。

 

常に全力で動くと、多分壊れてしまうのも早いだろう。

 

だから、これくらいで今の時点ではいい。

 

ただ、体をあまり動かさないと、スペックの上限自体がいずれ落ちていくことになるので。

 

それについては。高宮も気を遣ってはいた。

 

 

 

翌日の撮影の昼休み中。

 

小野寺から連絡が来る。

 

例の専務の妙な動きだが。どうやら、課長以上の人間全てを集めて、何やら話をしているようだという事だった。

 

或いは高宮を首にするつもりかな。

 

別にかまわない。

 

というか、今のタイミングだったら全然いい。

 

アカデミー賞の取得直後という事もある。

 

もしも新しい会社を設立するなら、今が好機だ。

 

その後はクソ映画を主体に撮っていく。

 

海外でも、クソ映画ばかり作っている会社があるくらいで。

 

要するにそれだけ、クソ映画には需要があると言う事である。

 

日本でも似たような会社を作っても、別に問題はなかろう。

 

それが高宮の結論である。

 

黙々と撮影を続ける。

 

俳優達は全員が死んだ顔で撮影をしているが。仮面に隠れてそれらは全く当然だが見えない。

 

無言でそのまま、撮影を続けて。

 

定時で上がる。

 

家に戻った後、小野寺に確認。まあ、今後動くとしたら、結構重要な話だったからである。

 

「それで、昼にあった連絡の件は?」

 

「どうやら危惧していた、高宮監督を排除する、というようなものではないようです」

 

「ほう」

 

「高宮監督の映画のような、つまらない映画を撮ってそういう会社にするのはどうかという提案があったようでして」

 

あいつ、思ったよりバカだったんだな、と思う。

 

それで、思わず即座にメールを送り返していた。

 

「ちょっとテレビ会議に切り替える」

 

「分かりました」

 

すぐにテレビ会議に。

 

小野寺だけでなく、井伊にも出て貰う。

 

「今の時点で、うちの配給会社には小粒な映画監督しかいない。 それぞれ力量は色々だが、いずれもが真面目に映画を撮っている連中だ」

 

前提から、話をしておく。

 

残念ながら、真面目に映画を作っても。どれだけ予算をつぎ込んでも。

 

面白くなるかは別問題なのだが。

 

それについては。今は横に置いておく。

 

問題は、それらの映画監督に、高宮の真似をさせるというのは致命的な結果につながりかねない、という事である。

 

クソ映画を作れ、といってクソ映画は作れない。

 

名作を作れといって、名作を作れないのと同じである。

 

どんな創作物だって同じだ。

 

そもそも創作者には存在の数だけ個性がある。

 

それがブームだの何だのに沿って「こう言う作品を作れ」というのは。プロだから云々ではなく。

 

そもそも創作家の味を生かせない作品を増やすだけである。

 

何かがブームになると、カスみたいな便乗作品があふれかえるのはそれが故。

 

何かの真似をするよりも。

 

作家の持ち味を生かす方がよっぽど良い作品が作れる。

 

その辺りは、何故かプロだからと言う言葉で誤魔化されるが。

 

昔から、ずっと変わらない事実だ。

 

あの専務だか常務だかも、同レベルの存在だったわけか。

 

人間は本当に金に関わると駄目だなと、呆れてしまう。

 

米国では、どんな犯罪でも金さえ払えば封殺できるようなシステムが出来てしまっているように。

 

貨幣経済は偉大な発明であると同時に。

 

人類を蝕む最悪の癌とも言えた。

 

比較的出来る方だと思っていたのだが。

 

その宿痾からは逃れられないらしい。

 

その現実を突きつけられると、高宮も思わず溜息が出てしまう。

 

「小野寺、情報を掴んでくれて有難う。 私で止めておく」

 

「はあ、大丈夫ですか?」

 

「やらざるをえないだろうさ。 というか、ここでしっかり話をしておかないと、下手をすると会社が潰れる。 そうなると、迷惑を被るのは私だけではないんでな」

 

テレビ会議を終えると、明日の撮影を中止する連絡を回しておく。

 

何、スケジュールはまだまだ余裕がたんまりある。

 

一日くらい休んだところで、得に問題は無い。

 

俳優達も正気度がかなり危なくなっていただろうし。多少は休みをサービスするのはそれはそれでありだろう。

 

さて、明日はどう説得するか。

 

まあ正面から行くしか無いか。

 

社長に明日緊急で会議を行いたいと連絡を入れる。

 

メールでの連絡だが。

 

見ていない、とは言わせない。

 

一晩ねむる。

 

なんだかろくでもない夢を見たような気がするが。具体的な内容は、あまり覚えていなかった。

 

 

 

翌朝は、会社に出る。

 

撮影をやめていきなり会社に出て来たからだろうか。しかも会議を要請しているのである。

 

何事かと、すぐに会議で重役を集めてくれる社長。

 

アカデミー賞を取った後、高宮の映画が稼げるようになったのは事実で。

 

それを鑑みると、高宮の訴えを無碍には出来ないのだ。

 

専務も出ている事を確認すると。

 

高宮は会議の場で、いきなり爆弾を投下する。

 

「なんでも、私の映画のようなつまらん映画を敢えて作ろうという風潮があるようですね」

 

「え、そ、そうなのか」

 

「そうでしょう、専務」

 

「……」

 

蒼白になる専務。

 

どこから情報が漏れた、という顔だが。

 

こんな大して大きくもない会社だ。

 

重役が全員動いていれば、そりゃあすぐにばれる。そんな事も分からないくらい、耄碌していると言う事か。

 

呆れてしまう。

 

これで社会の最前線を支えている人材のつもりなのか。

 

洞察力も判断力も、人間は年老いれば落ちていく。

 

当たり前の事だ。

 

「すぐに止めてください。 そもそもとして、この会社の良い所は皆に好きな映画を撮らせるところだったでしょう」

 

「それだと、儲からない」

 

専務が苦言を呈する。

 

そもそも国からの補助金を貰っている時点で、相当に色々面倒な手続きをしているのだという。

 

高宮以外の映画監督も補助金を貰っているタイプの監督で。

 

それらの手間を考えると。

 

事務の仕事が本当に大変だそうだ。

 

だからなんだと言いたいが。

 

言葉を飲み込んで続ける。

 

「だったら、私が他の人の分まで稼ぎますよ。 とにかく、会社を傾けかねない行為はやめてください」

 

「し、しかし」

 

「此方をご覧ください」

 

さっと、朝刷った報告書を配る。

 

小野寺に作ってもらったものだ。まあ昨日の日中に指示して、だが。

 

内容的には、この配給会社に対するイメージの変遷。

 

現在こそ、高宮の虚無映画が悪い意味でも良い意味でも話題になっているが。

 

それ以前は、個性的な映画を作る会社として、そこそこにファンからは評価が高かったのである。

 

小粒ではあっても、だ。

 

それを見て、呻く専務。

 

「ブームに後乗りした作品なんて、どれも基本的にゴミですよ。 アニメだろうが小説だろうが映画だろうがドラマだろうがゲームだろうがね。 ましてや、うちにはそこまで力量のある監督はいない。 かなり力量のある監督でも、ブームに沿った作品を作ると駄目作品になりやすい。 ましてや自分の作風を必死に模索しているレベルの監督が、出来ると思いますか?」

 

「……」

 

「というわけで、やめてください。 以上」

 

後は黙って様子を見る。

 

専務はしばらく黙った後。

 

皆を見回していた。

 

「どう思うか、意見を聞きたい」

 

「確かにこのレポートには説得力があります」

 

最初にそう言ったのは、営業の部長だかなんだかだ。最近は高宮に媚を売ろうとしているのが露骨だ。

 

今回の専務の提案も、高宮におべっかを使えると思ったから乗ったのかも知れない。いずれにしても、典型的な小人。

 

相手にする価値も無いゴミである。

 

「確かに、個性的な高宮監督の映画を後追いで真似するのは難しいと思います」

 

他にも重役が言う。

 

社長が咳払いした。

 

「確かに、高宮くんはアカデミー賞まで取って、この会社の大黒柱にまでなってくれたんだから、話を信じてみるのも良いかも知れない」

 

「その話題性が一過性では無いかと心配しています」

 

「だとしても、だ。 もう少し様子を見てみよう、な」

 

言い聞かせる社長。

 

専務の方が実権力が上だと言う事もあるのだろう。

 

やはり、相当に気を遣っている様子だった。

 

一応、自分が無能だという自覚はあるのだろう。

 

これが自覚すらない場合は最悪なのだが。

 

まあ、無能と言う自覚があるだけマシか。

 

「高宮君は、今まで通りにやってくれ。 他の監督については、指示を出すのはやはりやめておこう」

 

「……分かりました」

 

不満そうに、専務が立ち上がると。

 

会議は終わった。

 

やれやれ、無駄な時間を過ごしたな。

 

そう高宮は思ったが。こういうのも、しっかりこなしておかなければならない事だった。

 

さて、社内の調整は終わった。

 

この件を未然に嗅ぎつけてくれた小野寺はやっぱり優秀だ。

 

このまま経験を積んで貰って、そのまま社内での調整役として活躍してほしい所である。

 

いずれにしても、同志としては申し分ない。

 

このまま、更に関係を深めて。

 

最終的な計画も、信頼出来る段階になったら明かしたい所だった。

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