謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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いつの時代でもそうですが、何かしら人気作が出ると後追いの作品がでます。どうしても出ます。

あの喜劇大作ドンキホーテにも、パロディというには余りにも低質な作品があって、なんどドンキホーテの本編中でろくでもない作品だと言及されているという事実があります。ちなみに作者は正体不明だとか。

そして高宮監督の睡眠導入虚無映画がブームになってしまったことで、その後追い作品も出始めるのでした。

誰も得しないブームですね(笑)


2、ろくでもないブーム

後追い、というのはいつでも生じるものだ。

 

それが如何にろくでもない作品を量産するとしてもだ。

 

大手の映画配給会社が、まずは高宮のを真似た極めて退屈な映画を繰り出した。そして、興行収入的に大失敗した。

 

そもそも高宮は意図的に砂を噛むような虚無を作っているのに。

 

その大手の配給会社は、あからさまに上っ面だけ真似てきた。

 

その結果出来たのは、見る睡眠導入剤どころか。

 

見ても、怒りしか沸かない代物だった。

 

案の定映画は大炎上。

 

そしてその映画を撮った監督は、「映画を理解出来ない視聴者が未熟」等と抜かして、更なる炎上に燃料を注いだ。

 

この監督は、あるアニメ映画が世界的に大ヒットしたときにも。「何も映画界に貢献していない」等と称した阿呆であり。

 

こういう人間が本当の意味でのクソ映画を作るのだなあと。

 

冷笑しながら高宮は横目で見ていた。

 

続けて他の配給会社からもやはりブームを後追いしたシュールな作品が出たが。

 

シュールなだけで、はっきり言って面白くもなんともなく。

 

かといってつまらなくもなかった。

 

創作で一番まずいのは、心に残らない、と言う事だ。

 

勿論怒りを買うのもまずい。

 

百年の恋も冷めるという奴で。

 

徹底的な失敗作を作った結果、ブランドが一夜にして凋落した、という現実も幾つか高宮は知っている。

 

だが、それよりまずいのは印象にすら残らない駄作だ。

 

そんなものあったっけ。

 

そういう風に思われると。

 

やはり、怒りを買うのと同様に、ファンは離れる。

 

ましてやそれを作り手が意図的に煽ったりすると。

 

今の時代は大炎上に発展し。

 

やはりブランドが終わる切っ掛けになってしまう事もある。

 

そういうものなのだ。

 

いずれにしても、数作品が高宮の映画を真似て後追いをしたが。

 

興行的には全てが大爆死という結果になり。

 

ついでに会社の株まで下げる事になった。

 

映画の撮影を続けながら、その様子をSNSで確認はしておく。

 

小野寺には社内の調整を続けさせる。

 

まあ今回については、簡単だ。

 

それ見た事か。

 

その一言だけで充分である。

 

実際問題、高宮は社長達を会議で説得までした。その結果がこれなので。高宮の社内での発言力は更に大きくなった。

 

次の映画も稼げれば、もう言う事も無いだろう。

 

それでいいのである。

 

SNSでの炎上は、何というか。

 

蜂の巣を叩いたような有様だった。

 

「高宮のクソ映画は、見ていて眠くはなるけれど、不愉快にはならないんだよな。 だけどなんか高宮のを真似したクソ映画は、どれもこれも不快感がマックスだわ」

 

「同感。 見ていて眠れるだけ、高宮の映画の方が何倍もマシだ」

 

「どうしてだろ。 高宮の映画なんて、はっきり言ってクソ映画の代名詞だと思ってたのにな。 炎上なんてする雰囲気もないよな」

 

「前作は三分で眠った俺だけど、不思議とそれでブチ切れたりはしなかったんだよ。 それなのに、後追いで大手の映画会社が出してきた映画は何だよあれ。 不快とかそういうレベルじゃねーぞ」

 

案の定。どこの後追い作品を出した会社のアカウントも大荒れ。

 

大手映画会社だというのに、アカウント管理を適当な社員に任せた結果。

 

火に油を注ぐような発言をし。

 

その結果、社長が公式会見で頭を下げる事になる会社まで出て来ていた。

 

いずれにしても、こうなることは分かっていたので。

 

ただ見ているだけでいい。

 

高宮は自分に出来る事を自分に出来る範囲で行う。

 

それだけの事である。

 

昼メシを終えて、映画の撮影に戻る。

 

ふらっと音も無く戻ってくる高宮を見て、俳優達は怯えるが。他のスタッフは既に慣れたものである。

 

全く気にしている様子が無い。

 

まあ、高宮がデビューした頃から仕事をしているから、というのもあるだろう。

 

高宮の奇行くらい、見慣れていると言う事だ。

 

「はい、午後の撮影始めるよー。 シーン97からね」

 

「分かりました」

 

すぐに俳優達が動く。

 

この辺りはプロであるからか。

 

新人とは言え、劇団出身の子を優先的に選んでいることもある。

 

一応最低限の事は出来ているので。

 

困惑しながらも、相応にやれている。

 

これは今までの映画もそうだった。

 

まあ、最初の頃はそもそも。まともにオーディションに人なんて集まらなかったのだけれども。

 

淡々と撮影を続けていき。

 

幾つかのシーンを取り終える。

 

ラブストーリーだが、勿論キスシーンは愚か濡れ場も無し。

 

全年齢判定である。

 

というか、そもそも顔を一切出さないという謎のポリコレ対策をしている作品である。

 

敢えて醜かったりどう考えても変なキャラクターを出して、ポリコレだの何だのと大喜びしている作品よりも。

 

いっそのこと、これくらいやってやれば、誰も文句を言いようが無い。

 

ともかく撮影を続ける。

 

脚本を、全く理解出来ない。

 

その苦情は、今回も来ている。

 

当たり前だ。

 

理解出来ないように作っているのだから。

 

それを俳優が四苦八苦しながら演技し、正気度をゴリゴリ削られていく。

 

見ていて微笑ましいと思う。

 

これくらい苦労しての映画撮影だ。

 

みんなもっと苦労して、泣くと良いだろう。

 

その涙の分だけ。

 

クソ映画でも、反感を買わない内容になるのだから。

 

定時で皆に上がって貰う。

 

今回も囲わせて貰った日野茜は、他の俳優達にアドバイスを求められているようだけれども。

 

毎回困惑して、四苦八苦しながら答えているようだ。

 

これは良いなと、横で見ながら思う。

 

ストレスで潰れないように時々休暇を入れてあげているのだが。

 

仕事の時は、ものすごい経験を短時間で積めている。

 

実際。映画撮影の合間に、CMの仕事が来ていたようだが。

 

そのCMでは抜群の存在感を発揮して。

 

売り上げのアップに貢献したそうだ。

 

なおテレビのCMなどではなく。

 

五月蠅い事で知られる動画サイトのCMだったそうだが。

 

それでも、ある程度好意的に受け取られたと言う事は。

 

それなり、ということなのだろう。

 

全員に上がって貰ってから、軽で家に戻る。

 

今日もそれなりに時間的には余裕があるので、買い物をしてから戻る。

 

あんまり上手ではないが。

 

それなりに自炊はする。

 

有名になってくると、そういう買い物にもリスクをともなうものなのだけれども。高宮はその心配もない。

 

どこでもタダの不審者にしか見えない。

 

どの店でも店員が胡散臭そうに見ている視線だけは感じるが。

 

別にどうでもいい。

 

悪い事をしているわけでもないのだから。

 

そのまま買い物を済ませて、さっさと帰宅。

 

一応テレビはあるのだが、ゲームのモニタにしかほぼ使っていない。

 

高宮より下の世代になると、もうテレビを完全に見ない世代も出て来ているという話である。

 

それはそうだろう。

 

動画サイトの方が豊富な内容のものを見れるし。

 

何より客商売というのを余程今のテレビよりは心得ている。

 

見ていて不快感を煽られるものよりは。

 

はっきりいって個人作成の動画でもぼんやり見ていた方がマシである。

 

高宮も最近は殆どゲームをやる時間もなく。

 

テレビモニタは埃を被っているのが現状だった。

 

家電売り場に出向くことも無い。

 

そもそも、スマホで充分と言う事もある。

 

高宮はあくびをしながら、メールチェックをすませておく。

 

そうすると、小野寺から連絡が入っていた。

 

「どうやら、高宮監督を攻撃しようという動きがあるようです」

 

「社内? 社外?」

 

「SNSのアカウントを送ります。 現時点では、社外の可能性が高いように思えますが、社内の可能性もあります」

 

それについては同感だ。

 

この間、専務に対して余計な恨みをかったのは事実である。

 

だから、一応備えておかなければならないだろう。

 

あの専務が、高宮の配給会社を実質上回しているのである。

 

現時点では、高宮は配給会社に依存はしていない。

 

だが、もしも変な事をされると。色々面倒である可能性もある。

 

更には、最近では社内での発言権も増しているし。社員を高宮の推薦で入れたりもしている。

 

小野寺はそれで大活躍しているし。

 

あまり目だってはいないが、井伊だってそれは同じだ。

 

だから、社内について警戒するのは正しい。

 

小野寺の判断は間違っていないし、高宮もその意見を聞いて満足した。

 

すぐにSNSを確認する。

 

「高宮とか言うクソ映画監督、巫山戯てるんじゃねえのか」

 

「具体的にどんな風に?」

 

「あいつ、調子こいてインタビューとかも一切受けやがらねえ。 気取りやがって不快なんだよ」

 

「お前、業界関係者だろ」

 

騒いでいるアカウントに、辛辣なコメントが寄せられる。

 

近年、マスコミがマスゴミになり。それどころかパブリックエネミーになっているのは周知の事実である。

 

昔はテレビ出演というのをちらつかせれば、ホテルに連れ込もうが何だろうが自在だったのは事実だ。

 

それだけテレビには影響があった。

 

だが今ではすっかり影響は低下している。

 

それなのに、自分達は貴族だと勘違いしたマスコミ関係者だけが、世間に対してひたすらわめき散らして有害な記事をばらまいていることもある。

 

SNSでは特に、マスコミ関係者はゴキブリのように扱われているのが実情だと言える。

 

見ていると、アカウントの狂乱ぶりに、周囲は冷静だ。

 

「取材なんて、今時受けたがる奴いないんだよ。 勝手に編集して好き勝手な内容に書き換えやがって。 SNSに上がった動画を無料利用したり好き勝手なこともしてる奴も多いよな。 お前らみたいなのの言う事を、誰かが聞くと思うか?」

 

「俺はあくまで一般論で……」

 

「マスコミ様の発言なんて、もう一般論でもなんでもないんだよ。 お前らがどんなことして来たか、誰もが知ってるって事を忘れるなよ下衆」

 

「高宮の映画がつまらんことなんか誰だって知ってるんだよ。 だけどな、コーヒーの画像しかSNSに上げないし、基本的に一切合切自作について偉そうにも語らない奴が、どう調子に乗ってるんだ。 マスコミ様の取材に応じないのが調子に乗ってるとか、本気でほざいてんのかテメエ」

 

フルボッコだなと思って、高宮は苦笑する。

 

なお、高宮のアカウントに連絡を入れてくるメッセージなどもあったが。

 

今は応じる必要もないだろう。

 

そのまま様子を見ていると。

 

どうやら人海戦術を採る気になったらしい。

 

批判アカウントが増え始めた。

 

どれもこれも感情的にわめき散らしているアカウントばかりだが。

 

いずれもが、炎上騒ぎの時に便乗して騒いでいる連中か。

 

もしくはついさっき開設されたばかりのアカウント。

 

はっきりいって、露骨過ぎる。

 

これは、炎上は別に燃え広がらないな。

 

そう判断して、寝る事にする。

 

一応、小野寺には礼を言っておいた。

 

「高宮が調子に乗っている」という方面では、炎上を拡散させるのは不可能だろうと判断するのにも恐らく時間は掛かると見た。

 

問題は、高宮を攻撃している奴の正体と。

 

それに今後の戦略だ。

 

次は恐らく、高宮の映画がつまらない、という方向で攻撃しようとするだろうが。

 

それも全て、元から誰もが知っていることだ。

 

誰も相手にしないだろう。

 

或いはスキャンダルをでっち上げるか。

 

それもかなり微妙である。

 

高宮は一応、数少ない露出はしている事はあるにはある。昔は、取材をちょっとだけ受ける事はあったからだ。

 

ただその頃から、幽霊みたいな長身細身の女、という意見は一致していたようで。

 

これで枕だのなんだのは無理だろという意見は共通していたようだ。

 

というわけで、あらゆる意味で高宮は隙を見せていない。

 

此処から攻撃につなげるのは無意味だ。

 

寝る前に、一応小野寺に連絡は入れておく。

 

「何かしら、攻撃者の正体が掴めそうな情報があったら、拾っておいてほしい」

 

「分かりました。 もう寝る感じですか?」

 

「そうなる。 明日も早いからな」

 

「映画の撮影、頑張ってください」

 

映画の撮影を頑張って、か。

 

SNSで巫山戯半分にそう口にしている奴は見た事はある。

 

実際問題、高宮の映画を古くから見ているクソ映画愛好家はいて。

 

低評価を容赦なくつけながらも。

 

不快感を煽るクソ映画に対する、強烈な罵倒を浴びせるような事は無く。

 

いつも困惑しながら、正気度を失っているネット記事をかくのが精一杯だった。

 

だから小野寺と井伊には感心したのだ。

 

わざと虚無映画を撮っていると見抜いたのだから。

 

映画は文化として充分に爛熟してきているが。

 

故に評価をする人間なども、それなりに増えているし。

 

何よりも、映画という文化に対する考え方も。歴史が浅いアニメなどに比べると、だいぶ違ってきている。

 

そういう事もあって、高宮は今まで隙を見せないように注意深く行動してきたし。

 

それに今後も、隙を見せるつもりはない。

 

高宮という映画監督は、幽霊でいい。

 

これは存在感がなく、側にいても気づかれないという意味の言葉だ。

 

そして幽霊である以上。

 

殴る事も出来ないし。

 

何か害を為す事もできないのである。

 

それでいい。

 

今の時点では、だ。

 

幽霊が強烈な呪いで祟りを為すのは、もう少し後になるのだが。

 

それまでは。幽霊のままでいい。

 

勿論中傷を受ければ腹もたつけれども。あんな幼稚な上に見え透いている中傷、それこそどうでもいい。

 

歯を磨いて顔を洗って。

 

後は、静かに眠る事にする。

 

高宮にとっては、今は雌伏の時。

 

しっかり実績を積み重ね続けてから。

 

一気に畳みかけるまで。そのままでいるべきだった。

 

 

 

翌朝。

 

炎上はさっぱり燃え広がっていなかった。

 

幾つかのアカウントが、必死に高宮に対する中傷を続けているが。どれもこれもが何を今更と冷笑されるばかり。

 

怒りが完全に空回っているばかりだ。

 

それも、炎上の起爆点もそもそもとして分かりきっている。

 

もうまとめなども作られているようだ。

 

コーヒーの写真をSNSに上げると、さっそくそれにも中傷コメントがついたが、一切相手にしない。

 

むしろコメント欄で、中傷コメントに対して馬鹿にする発言がぶら下がる有様である。

 

見ていて笑うしかないが。

 

まあ、放置でいいだろう。

 

そのまま、小野寺に任せてスタジオに出向く。

 

会社の方では、高宮に関する炎上なんて気にもしていないのか、それとも気付けてもいないのか。

 

連絡さえしてこなかった。

 

或いはいつも高宮の作品は酷評されているので。

 

それで、誰も気にもしていないのかも知れない。

 

いつものことである。

 

そう思っているのだとしたら、ちょっと無能だなと高宮は苦笑いするが。そのくらいの方が。操るには丁度良い。

 

撮影の前に、機材類などをチェック。

 

以前嫌がらせをされた事はあったが、基本的にこれは撮影時のトラブルを避けるためであって、用心のためではない。

 

最初の頃、日野茜が手伝おうかと言ってきたこともあったが。

 

それに対して断ったのも。

 

基本的に、高宮の方が機材類のトラブルなどには対処がしやすいからである。

 

撮影が始まると、スマホの電源も落としてしまうのだが。

 

その前に、メールが入っていた。

 

小野寺からだった。

 

「まだ大丈夫ですか?」

 

「ん、どうした」

 

「恐らくですが、炎上の基点を確認できました」

 

「……今、対策が必要か?」

 

恐らく大丈夫だろうと言う。

 

それならば、後回しでいい。

 

小野寺には、後で話を聞くと言って、スマホの電源を切った。

 

小道具大道具、音響をはじめとして。スタッフが出勤をしてくる。

 

俳優もかなり早めに出てくる。

 

これが大御所芸能人とかだと、社長出勤を当たり前のようにしてきたりするものなのだけれども。

 

そういうのは使わないので。

 

此処の職場は、とても治安が良いとは言える。

 

まあ、俳優の目は死んでいるのだが。

 

今日も、意味不明な脚本に基づいた、意味不明な撮影を開始する。

 

必死に俳優達が演技をしているのは分かるのだが。

 

それももはやシュールな悪夢にしか見えない。

 

加工次第では充分にギャグに出来るのだが。

 

それもしない。

 

ともかく虚無を作る。

 

虚無を撮る。

 

それで意識高い業界人が絶賛するように仕向ける。どれだけつまらなく作ろうと、連中にはどうでもいいのだ。

 

目が節穴なのだから。

 

撮影を淡々と続けていると。昼メシの時間が来る。

 

一旦切り上げて、皆に食事にするように指示すると。日野茜が声を掛けて来た。

 

「その、高宮監督」

 

「どうしたの」

 

「なんだか、炎上しているようですけれど」

 

「ああ、既に対策はしてある。 すぐに収まるよ」

 

炎上を知っていたか。

 

日野茜のように、新人俳優になると。社会的な立場が弱いから、炎上が起きてしまうともう泣くしか無い。

 

如何に理不尽な炎上であっても頭を下げるか。

 

後は黙って、荒らし……嵐が通り過ぎるしかない。

 

ただ、高宮は違う。

 

地力で対処する場合もあるし、今回は小野寺に経験を積ませる意味もある。

 

いずれにしても、昼食終了後も、スマホの電源は切るように皆に指示。

 

高宮は、万一に備えて。

 

基本的に撮影所で、スマホの電源は入れないようにしていた。

 

自分のミスでカットとなると、はっきりいって洒落にならないので。

 

それはもう、しっかり対策はしておく。

 

それが監督という責任のある立場にいる、高宮の義務である。

 

一通り撮影が終わると、後はいつものように定時で上がって皆も帰らせる。

 

定時以降にスタジオを使って撮影する連中もいるようだが。

 

そのメンバーの中に子役がいて。

 

完全に目が死んでいるのを見て、酷い業界だなと高宮は思った。これも、いずれ改革が必要かも知れない。

 

ともかく、さっさと戻る事にする。

 

家に着いてから、スマホの電源を入れる。

 

詳細についてのメールが、小野寺から来ていた。

 

「結論から言いますと、今回の炎上を主導したのは……」

 

それは、後追いで高宮の映画のパクリを作らされた監督だった。

 

まあ、そうだろうな。

 

そうとしか言えない。

 

わざわざ炎上を請け負っている奴に金まで払って、炎上を演出したらしい。

 

何故分かったかというと、その監督の裏アカウントが既にばれていて。其処で色々と動かぬ証拠が出て来たかららしい。

 

既にスクリーンショットがとられていて。

 

ネットで拡散されているようだ。

 

「この監督は、元々高宮監督のヒットに対して、不快感を抱えていたそうです」

 

「別にどうでもいいね。 元々誰かを楽しませるための映画を作っているわけじゃあないからね」

 

「まあ、それは知っています。 それで、今回はそんな状況なのに高宮監督の映画のパクリを作らされて。 更にそれが大炎上するほど酷評されたと言う事で、キレたみたいですね」

 

「知るか」

 

本当に、知るか以外の言葉がない。

 

創作を好む嫌うは勝手だ。

 

世界的にヒットした児童文学だって、好きだと言った人は半分程度だったという話がある。

 

世界的にヒットした作品ですらそれなのである。

 

誰もに好まれる作品なんて、存在し得ない。

 

それは創作を行う人間なら当然知っている事だし。

 

何よりも、そんな事すら理解出来ないなら、創作の大御所を気取るべきではない。

 

ただ、クリエイターは基本的に高宮含めて変人率が高い。

 

それもあって、不快感が極限まで達した其奴は。

 

高宮に攻撃したいと判断したのかもしれなかった。

 

まあ、どうでもいいことだが。

 

「既にその監督の方が大炎上していて、逆にアカウントを既に閉鎖。 更に会社側が、謝罪文まで出しているようです。 記者会見に発展するかも知れません」

 

「井伊に連絡。 告訴の準備」

 

「え、追撃ですか」

 

「今回のは意図的な中傷だし、はっきりいってタチが悪い。 それにだ……」

 

今回炎上騒ぎを起こしたのは、経歴ばっかり積み重ねて。今はすっかりヒット作から遠ざかった老害監督だ。

 

此奴は映画界にいらない。

 

コネだけで映画を作り。それも原作つきの場合は原作を舐めているような代物を作る輩だ。

 

はっきりいっていらないと言える。

 

潰しておくべきだ。

 

そう高宮は判断した。

 

すぐに井伊とテレビ会議で連絡をする。CGに関する事は、他の人間に任せ。訴訟の準備を頼みたいと言うと。

 

井伊は少し考え込んでから、頷いていた。

 

「実は重要部分のCGはもう出来ている。 だから、其方に回す」

 

「それは助かる。 訴訟となると、結構面倒だけどやれる?」

 

「六法全書と近年の判例くらいは丸暗記してる」

 

「それは凄い」

 

司法試験は土俵に上がるまで5000時間は最低でも必要という悪夢みたいな代物なのだが。

 

井伊ならぶっちゃけ、難しくないような気がした。

 

いずれにしても、社長などにも連絡は入れておく。

 

相手の配給会社が謝罪を入れたと言うことは、見捨てたという事でもある。

 

少しばかり、今後のためにも。

 

今回は厳しい処置をしておきたい。

 

勿論訴訟関係については、表に出すつもりはない。

 

さっさと片付けて、それで終わりにしたいが。

 

無能なくせに、やたらと時間ばかり掛かるのが今の司法の現実だ。

 

まあ、そう簡単にはいかないだろう。

 

ただ、一人老害を潰しておけるなら意味がある。

 

其奴がいなくなれば、一人若手が上にいける。

 

そういう世界なのだから。

 

だったら、もう充分に稼いで、老後も困らないだろう監督には退場して貰おう。ただでさえ、まともな感覚も無くしているし。

 

面白い映画も撮れなくなっているのだから。

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