謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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お馬鹿さんには無慈悲な法的措置。

これが一番です(さわやかに)


3、虚無の真意

訴訟についてはスムーズに話が進み。

 

一気に事態は先へと進んだ。

 

会社から見捨てられた炎上もとの監督は、必死にマスコミを使って弁護をしたが。動かぬ証拠が幾らでも挙がっていた。

 

更に、過去の悪行がボロボロと出て来た。

 

これもアカウントを辿ったSNSの暇人達や。

 

更に過去にちょっとだけニュースになって、話題にもならず消えていった出来事が全て掘り返された結果だ。

 

今の時代は、過去の悪行は忘れ去られない。

 

思い出された頃に、全てが表に露出し。

 

順風満帆のつもりの人間を、徹底的に苦しめることになる。

 

そういうものだ。

 

いずれにしても、訴訟と言う事になると。

 

SNSの炎上は、更に過熱したようだった。

 

「高宮が訴訟するってよ」

 

「マジか。 公式アカウントは相変わらずコーヒーの写真だけしかアップしていない様子だけど……」

 

「例の監督のいた会社が、監督を首にすることを公式に発表した」

 

「あ、そうなると本当だな。 縁を切って被害の拡大を防いだか」

 

この辺りは、実は高宮が話をつけにいったのだ。

 

その会社に。

 

相手側の会社は、高宮が来たという事で非常に驚いたようだが。

 

ともかく社長が応対に出た。

 

動かぬ証拠の数々を突きつけると、相手側は困惑し。ただし、と其処で一緒に連れて行った小野寺が交渉をした。

 

相手の監督を切るなら、此方は会社側に対する訴訟は考えていない、と。

 

実の所、相手の監督は。

 

手下にしている配給会社の社員数名を、炎上の工作に参加させていた。

 

それもあって、訴訟に巻き込まれる事は覚悟していたのだろう。だから、渡りに船とばかりに。相手の社長は話を受けた。

 

勿論やりとりは全て録音してある。

 

最悪の場合にはばらまく。

 

そういうものだ。

 

ともかくとして、高宮はさっさと相手の退路をこうして断った。

 

そして訴訟については、井伊に一任した。

 

「名誉毀損だから、多分最高裁まではいかないと思う。 相手側も妥協すると思うけれど、それでいい?」

 

「かまわない。 あれを映画界から放り出せればそれでいい」

 

「分かった。 それなら充分にやれると思う」

 

「任せる」

 

井伊は任された、というと。すぐに訴訟に関する諸々の手続きを始めてくれた。

 

まあ六法全書やら判例やらを丸暗記しているというのは流石だ。

 

その様子だと、使える弁護士とかも知っているのだろう。

 

幸い、直近の映画がそれなりにヒットしたこともあって、懐は温かい。今までの赤字が帳消しになるくらいは儲かったので。

 

補助金制度で貰っていた金も、全て返せるくらいには儲かったのである。

 

後は、映画を撮る事に専念するだけだ。

 

ただ。井伊が疑問を持ったのか、聞いてくる。

 

「それにしてもどうして今回はこんなに厳しい対応を取る。 別に相手の監督は認知症を発症しかけているだけの老人だ」

 

「私の目的に必要だ、とだけ言っておく」

 

「……分かった」

 

「対応は任せる。 いずれにしても、老害を一人この界隈から追放してくれ。 それで充分だ」

 

井伊に後は任せ。

 

映画の撮影に戻る。

 

案の定、炎上の裏側がはっきりした今。

 

もう、問題は何も起きないといっていい。

 

相手が勝手に自爆しただけだ。

 

高宮にはダメージは一切ない。これからは、そのまま映画の撮影を続ければ良い。それに、である。

 

今回高宮は、訴訟という厳しい処置を執ることにより。

 

舐めた態度を取ったらどうなるか、示したことになる。

 

今後高宮がやる事のためには、侮られることは色々と致命的なのである。

 

だから、今回の仕事は絶対に必要だと言えた。

 

いずれにしても、業界には激震が走ったようだった。

 

高宮の徹底的な反撃は、想定外だったのだろう。

 

相手側の監督としても、完全に豆鉄砲を喰らった鳩状態になっているようで。

 

どうしたらいいか、分からないようだった。

 

元々高宮は、スタジオで怒鳴り声を上がるような奴を即座に首にするという事で。知られてはいた。

 

厳しい所はある、というような意味でだろう。

 

ホトケの高宮なんて言われているから、何にも甘いと思われてもいたようだが。

 

そうやって厳しいところもあるという事が分かったと言うことで。

 

大きな意味が生じる。

 

こうして高宮は。

 

文字通り混沌が這い寄り、全てを侵食していくように。少しずつ映画界隈で。クソ映画を撮りながら影響力を高めていく。

 

最終的な目的を達成するためには。

 

まだまだこなさなければならないフェーズが幾つもあるけれども。

 

それはまだ先。

 

今は、邪魔になるのを一人潰せただけで、可とする。

 

高宮はそのまま撮影を続ける。

 

いつも通りに、だ。

 

だが、やはり昼休みなどには話が聞こえてきていた。

 

「訴訟!?」

 

「相手ってあの監督でしょ。 訴訟って……」

 

「証拠全部抑えられてるみたい。 相手側の配給会社も監督を首にしたって事は、そういう事でしょ」

 

「ホトケの高宮なんて言われてるけれど、怒ると鬼よりやばいね」

 

まあ、そう認識してくれていればいい。

 

ただ此処のスタッフ達では無いなと判断。

 

高宮が使ってきたスタッフ達は、昔から高宮が容赦の無い裁定を下すことを知っているのである。

 

だから、今回の件については。

 

納得して受け入れるだろう。

 

昼メシを終えると、撮影に戻る。

 

今日の弁当はなかなか良かった。弁当屋は時々気分で変えて使っているのだけれども。今回のは中々良かったと想うので、次も使いたい所だ。

 

こう言う福利厚生はしっかりやっておく。

 

暴君にならないためだ。

 

一方で、舐めた真似をした相手には徹底的にやる。

 

高宮の映画を馬鹿にする事は全然かまわない。

 

そもそもクソ映画を作っているのだから、それが自然だ。

 

だが、一線を越えた相手には、相応の対応をする。

 

それが当たり前の話である。

 

夕方まで撮影を続ける。

 

今六割という所か。

 

自宅に戻り、スマホを開く。会社の方には、今回の訴訟の話はとっくにしてある。だが、連絡が来ていた。

 

小野寺からだった。

 

「SNSでの動揺が広がっています。 確認だけはしておいてください」

 

「分かった。 すぐに対応は必要そうか?」

 

「いえ、大丈夫だと思います」

 

「そうか、ならいい」

 

当然、すぐに内容を確認する。

 

相手側の監督にも、若い頃のいい映画を撮っていた頃のファンはいる。

 

だが、そういうファンも。

 

すっかり老害になり果てた今の監督には、擁護しきれないようだった。

 

「証拠がばっちり出てるとなると、負けは確定だな。 犯罪者にどんだけ寛容な業界とはいっても、これはもう復帰できないだろうな」

 

「ネット時代にやったことがまずかったな。 それも悪意100%でやってた上に、逆恨みとなると……」

 

「作る映画が良いんだったら、まだ復活のために嘆願とかが来たかも知れないが、今の状態だとな……」

 

「はっきりいって高宮の映画の方が、見てて不愉快にならないだけ良いくらいだからな、今の状況だと。 高宮の映画、見ててよく眠れるもん。 無理矢理起きててもなんも頭に入ってこないし、そもそも怒る気にすらなれん。 あいつの映画は承認欲求がダバダバ垂れ流されてて、はっきり言って見るだけで不愉快だ」

 

相手の監督のファンですらこれだ。

 

近年の作品が、どう観られていたのか。これだけでよく分かる。

 

一方、高宮に対しての言葉もみていく。

 

「ホトケの高宮って言われてるって聞いたが、今回は流石に頭に来たのかな」

 

「元々現場ではそれなりに厳しいって聞いてたぜ。 俳優を怒鳴るようなスタッフには容赦しなかったって話も聞くし」

 

「なるほどな。 何というか虎の尾を踏んじまったんだな」

 

「コーヒーの写真だけアップしているアカウントを見ていると、とてもじゃないけど信じられないよな。 こんな苛烈な一面もあったんだな」

 

高宮に対する攻撃的なコメントは殆ど見かけない。

 

これは、むしろ高宮の行動が正しいと判断されたからだろう。

 

まあSNSはスラムそのものだが。

 

それでもまともな判断力を持っている奴はいる、ということだろう。

 

ただ、期待しすぎるのは危険だ。

 

巨大な井戸端会議のようなものだ。SNSというやつは。

 

深い闇も潜んでいる。

 

まあ、高宮自身が、闇そのもののようなものとも言えるのだが。

 

「それで今後どうなるんだろうな」

 

「高宮が作る映画がつまらないのは今後も変わらないだろう。 ただ話題性があるからな、或いは化けるかもしれないぜ」

 

「それは確かにそうかも知れないな。 だけど高宮が邦画の巨匠とかなったら、はっきりいってこの国の邦画終わりなんじゃないか」

 

「いや、そうとも限らないと思う」

 

見ていると、議論が面白い方に進んでいる。

 

高宮はアンチばかりでは無い事を知ってはいたが。

 

それでもこれは意外だった。

 

「現状、こんなヤバイ映画作ってる奴がもしもこのまま巨匠とか日本の宝とか時代とかになってみろ。 流石に映画界隈でもヤバイって思う奴が出てくるんじゃないのかな」

 

「そんな自浄作用働くかなあ……」

 

「俺が映画監督だったら、何とかしなきゃと思うけどな」

 

「そんな奴がいればいいけどな」

 

ふむ、まあこんな所か。

 

いずれにしても、高宮としてはまだ計画を気づかれる訳にはいかない。だから、これでいい。

 

どうせSNSにも野生の専門家はいても。

 

本物と言える程分かっている奴はそうはいない。

 

特にガチ勢なんて言ってる連中はだいたいが口だけの輩だ。

 

本職の専門家なんて、そうはいないし。

 

ましてや評論の分野になってくると。

 

専門家でも、トンチキな評価を下すことが珍しくもないのである。

 

さて、そろそろ寝るか。

 

そう思った時に軽くSNSを流し見して、ちょっと気になる書き込みを見つけた。

 

「もしもだよ。 高宮がホトケとか言われてるのがあくまで表の顔で、裏のこの苛烈な行動が本性だったらどうするよ……」

 

「それは、ちょっと面白いかもしれないな」

 

「或いは本気出したら、面白い映画撮れたりしてな」

 

「それだったら見てみたいわ」

 

鼻を鳴らす。

 

まあ、好きに待っていろ。

 

それはかなり先の話になってくる。

 

いずれにしても、今は訴訟で舐めた真似をしてくれた阿呆を潰すのが最優先になってくる。

 

それに関しては井伊に任せるので。

 

高宮は、映画の撮影に集中すれば良かった。

 

 

 

翌日も、訴訟関連の話題についてはかなりSNSで盛り上がっているようだった。高宮もコーヒーの写真を上げると、ばっとコメントがつく。

 

なお、コメントには返信しない。

 

たまにコメント欄で喧嘩しているのもいるが。

 

全く高宮が相手にしないからか。いつの間にか、争いが沈静していくのが常になっていた。

 

奇妙なアカウントだ。

 

そういう風に拡散している奴もいる。

 

コーヒーのアカウントは毎回毎朝同じ時間に投稿される。

 

これは投稿時間を操作するシステムとか使っているのではなく。

 

単にルーチンでそうして生活しているだけだ。

 

仮にスタジオに泊まり込みになる事になっても、これは続けるつもりだし。

 

そもそも泊まり込みになるようなスケジュールで映画を撮影するつもりはない。

 

これは高宮が例えどんな場所に行っても変わらない事だ。

 

未来永劫そうするつもりである。

 

淡々とコーヒーの写真をアップしてから、スタジオに向かう。

 

車は相変わらず完璧な安全運転。

 

ただ、スタジオ前にはマスコミが貼っているようだった。はっきりいって鬱陶しいので、さっと避けて通る。

 

元々素顔とかはほぼ知られていないし。

 

そもそも嗅ぎつけられるほどとろくもない。

 

スタジオの周囲には流石に警備員が出ていて、マスコミをシャットアウトしていた。

 

こんな早朝から出張っていることだけは流石だが。

 

残念だが、無駄な努力になってもらう。

 

ささっと車を停めて、スタジオに入る。

 

正面から入るような事はせず、高宮が知っている裏口からすっと入ってそれでおしまいである。

 

その後、警備会社に連絡して、マスコミをシャットアウトしてもらう。

 

これだけこられると流石に迷惑である。

 

スタジオのチェック開始。

 

いつものルーチンを終える頃に、小道具や大道具も来る。

 

流石に警備員に追っ払われたからか、マスコミに足止めを喰らう者はいなかったようだ。

 

昔はそれなりにスキャンダルなどが話題になったのに。

 

今ではすっかり誰も信用しなくなった。

 

それもあるのだろう。

 

もはやマスコミなど死に体だ。

 

俳優達も来る。

 

日野茜も来たので、話を聞いておくが。

 

完全に青ざめていた。

 

「その、あの件に関しては事務所から完全に箝口令が出ています。 出来れば何も言わないようにしてください……」

 

「ああ、余計なことは喋らないようにって」

 

「SNSのアカウントも一旦停止しました。 しばらくは様子見をするようにと。 私もそれが正解だと思います」

 

「まあそれでいいかな」

 

本来は、これくらい出来るのが当たり前だ。

 

SNSで簡単に炎上が発生し。

 

場合によっては中堅以上の規模の会社が、一夜にして滅びる。今はそういう時代になっている。

 

だから、それぞれに自衛が必要だ。

 

そもそも高宮は自分の世界をSNSに構築する事でそれを壁にしているが。

 

活動を配信している人間などは、何が問題になるか知れた事では無い。

 

ある写真を上げた芸能人が、一瞬で居場所を特定されたというのは有名な話であるし。

 

今の時代は、マスコミなんかよりもSNSの方が余程ハイリスクだ。日野の対応は間違っていない。

 

「撮影始めるよー」

 

「そ、その、訴訟とかは」

 

「専門家に任せてるから問題なし。 これ以上の説明はしないよ」

 

「……」

 

こういうことも、余計なことは一切言わない。他の俳優から漏れる可能性があるからである。

 

ホトケの高宮ではなく、地蔵の高宮になっておき。

 

不要なことは一切喋らないようにしておく。

 

日野も言っていた通り、それで正解だ。

 

黙々と撮影をしていく。

 

高宮葵という名前は、少しずつ映画界隈で変わりつつある。

 

前はクソ映画を撮るだけのどうしようもない駄目監督に過ぎなかった。

 

だが今ではアカデミー賞をとり。

 

つまらないながらも何故か客が来て。

 

クソ映画を撮っているにも関わらず不思議とそれを見て怒る客もいない。

 

しかしながら、舐めた真似をする他の映画監督には徹底的に反撃に出るし。

 

何よりも、業界人と一般客での評価があまりにも乖離しすぎている。

 

見ればみるほど、訳が分からない存在になりつつあり。

 

まさにそのあり方は深淵の邪神に似てきている。

 

それでいいのだ。

 

そのまま、計画を進めていく。

 

カット、と声を掛けて。

 

撮影の一コマを進める。

 

頭の中で、まだ撮影していない部分をさっとリストアップして、次をやっていく。問題があっても即座に修正可能だ。

 

これは高宮の基礎スペックが高いから、というのもあるが。

 

そのスペックをフル活用して、念入りに事前準備をしているから、というのも勿論ある。

 

だからこそに、最大限無駄を省いて。

 

最終的に、予算の圧縮もしていきたいところだ。

 

ただ、それにはまだ同志がいる。

 

それについては、今回はっきり認識出来た。

 

今後CG方面を任せる人員がほしい。

 

頭脳労働については、井伊に一任したい。

 

あいつのスペックは高宮に勝るとも劣らない程の高みにあるが。だからこそ、いっそのこと法対策とかそういうのは任せてしまいたいし。

 

Xデイが来た時に畳みかけるためにも、必要に応じて動いてほしい。

 

エンジニアが必要だ。

 

カット、と声をまたかけ、撮影を進める。

 

仮面を被った、体を平たくしている人型が、哲学的な台詞を発し続ける謎の映画はこうして着実に出来ていく。

 

これが純愛ラブストーリーだというのだから。

 

手を恋人繋ぎしながら映画館に入ってきたようなカップルが見たら、それこそ目を回すだろうが。

 

それこそが狙いである。

 

どんどん正気度を失え。

 

勿論悪意でそうしている訳では無い。

 

今の時代。

 

「まとも」とされている人間の方が余程狂っている。

 

それだったら、正気なんて失った方が余程楽だと思うのである。

 

それは、人間社会の業を散々見て来た高宮が、結論出来る事だった。

 

撮影も順調。

 

これなら、来月初頭には余裕で終わる事だろう。

 

俳優達も、そろそろ個別で休みを出せるはずである。

 

とはいっても、仮面をつけて演技をしている上に。

 

実際の映画ではその仮面も顔もCG加工で消してしまう。

 

ついでに声も加工する予定だ。

 

それらもあって、そもそも本人でさえ何をしているか分からないだろうし。

 

最終的には、映画を見て発狂するかも知れないが。

 

ただ今回もインタビューが俳優に飛ぶ可能性はある。

 

そのため、それぞれに何を聞かれたらどう答えろと、先に話はしておく予定である。

 

以前もそれで、一気に評価の流れが変わった。

 

ただあれは、川の流れを堰き止めて、一気に氾濫させたようなもので。

 

コントロールしたというよりも。

 

暴走させたのに近いのだが。

 

「はい、午前中はここまで。 昼食時はスマホを使ってもいいけれども、昼食後には電源を落とすように。 それでは一旦昼食で解散」

 

昼になったので、メシで解散をする。

 

見ると、日野は弁当を自分で作ってきているようだ。

 

中々ではないか。

 

今時自炊できる人間はどんどん減ってきている。

 

これはどういうことかというと、自炊をする精神的肉体的余裕が無くなってきている事を意味する。

 

日野は弁当を作ってきているが。

 

これは正気度はともかくとして、体力的に余裕が出来てきた事を意味している。

 

余裕が出来てきたのは良いことだ。

 

そのまま、弁当を自前で作るのを続けていれば良いだろう。

 

高宮自身は、弁当屋が持ってきたのを食べる。

 

前から採用している弁当屋だが。

 

調べた所、かなりの老舗らしい。

 

このスタジオの比較的近所にあるのだが。

 

最近はすっかり寂れてしまっていて、かなり経営も厳しかったようだ。

 

だが、高宮が継続的に注文し始めた事で、他のスタジオの関係者も興味を持ち。

 

実際に美味しいと言う事で、皆が注文し始めた事で、かなり助かっているようである。

 

或いは此処から口コミで広まるかも知れない。

 

弁当を持ってくるのは、まだ若い青年だが。

 

多分彼が殆ど力仕事を全てやっているのだろう。

 

一礼だけはいつもするようにしている。

 

こう言うとき、大声で挨拶をしろとかなんとか強制するのがいるが。

 

高宮は、その手の体育会系が大嫌いなので。

 

そんな事は一切しない。

 

小さくあくびをすると。

 

ぼんやりとして、頭を少し休める。

 

そういえば幼い頃は。

 

何も考えていないだとか。

 

人生楽そうだとか言われた事が多かったっけ。

 

それでいて、好成績を上げると陰口大会。

 

そういったのを見て、人間というのは見かけで相手を判断して。一度判断すると絶対に判断を改めないと学習したのだったな。

 

ふっと笑うと、ぼんやりを続ける。

 

後は、待つだけだった。

 

 

 

裁判について、相手が上告をしなかった事もあり。

 

映画の公開が始まった頃には、既に判決は決まっていた。

 

相手の弁護団が、上告を諦めたのだ。

 

自分は無罪だなんだとわめき散らしていた監督だが。

 

しかしながら、上がっている証拠が絶対的過ぎた。

 

会社からも見捨てられ。

 

家族からも離縁され。

 

監督は半ば発狂。

 

裁判なんて出来る状態ではなくなった、というのも大きかったのだろう。いずれにしても、賠償金が支払われ。

 

相手の監督は、精神病院送りになった。

 

多分一生出てこられないだろう。

 

なお、精神病院でも大暴れしているということで。かなり厳重な監視がつけられているようである。

 

地獄に落ちた。

 

そうとも言える。

 

六道輪廻説によると、この世界は人間道であるようだが。

 

実際には修羅道か、もしくは地獄そのものでは無いのかと高宮は思う。

 

戦争はいつだって絶えた試しが無いし。

 

何よりもどいつもこいつも戦争が好きで好きで仕方が無い。

 

せっかく平和になったのに、戦争をまたやりたがっているやつのどれだけ多い事か。

 

それに、大げさにどんどん誇張されていった地獄の概念だが。

 

それだって何処の宗教でも同じで。

 

そもそも精神的な規範がなければ野獣よりも邪悪な人間を律するために。

 

地獄と言う概念を厳しく厳しくしていった結果である。

 

その地獄の恐ろしさを強調することによって。

 

ようやく人間は不文律という、明文法と二輪を為す社会の規範を手に入れる事ができたのだ。

 

宗教は人間社会に問題ばかりもたらしたが。

 

不文律を作った、という観点では。必要な存在ではあったのだ。

 

今では勿論、害の方が大きくなってしまっているが。

 

裁判の件が一段落した所で、高宮は小野寺と井伊を集める。

 

それで、三人で話をした。

 

テレビ会議は使わない。

 

それぞれに直接集まって貰った。それだけ、重要な話をする時だと判断したからだ。

 

「良く今回は二人とも活躍してくれた。 そろそろ、私の真意を話しておこうと思う」

 

「はい」

 

「……」

 

こくりと井伊は頷く。

 

元気よく返事をする小野寺。

 

小野寺は、社会の醜い部分をさっさと見た事で。短時間で急激に大人っぽくなってきている。

 

高卒で社会人になったとは思えない。

 

更に貯金もどんどんしているようである。

 

いい傾向だ。

 

そのまましっかり貯金を増やしていって、最悪の場合は当面生活出来るようにしておくのが良いだろう。

 

「現在の映画界隈は腐りきっている。 意識高い連中が賞を決め、一切合切映画が好きな一般ファンと評価が乖離してしまっている。 自分達が特権階級だと思い込んでいる批評家どもが好き勝手な事をほざき、それに迎合した連中がありもしない評価をつけているのが今の業界だ」

 

厳しい言葉だが。

 

これらは、映画監督になって見てよく分かった現実だ。

 

今までアカデミー賞をとった映画は。昔はそれなりに社会に大きな影響を与えたものが選ばれていたが。

 

今は審査をする意識高い系の連中が。主観で決めつけた代物に決まっている。

 

その結果、とんでもない映画がアカデミー賞を取るようになってしまっている。

 

それこそ、高宮の映画がアカデミー賞を取ったのがいい証拠だろう。

 

「だからこの業界を一度ぶっ壊す。 アカデミー賞なんかを制定している意識高い連中を一度一掃する必要がある」

 

「……それで、クソ映画を撮るのとどういう関係が?」

 

「このまま、業界人どもの心を掴みつつ、更なる高みを目指す。 そしてもはや映画業界が私に依存するようになった時。 私は映画の方向性を180°変える」

 

「!」

 

その気になれば、高宮は面白い映画を撮る事が出来る。

 

この二人は恐らくだが、それを知っている。

 

だから驚いた。まあ、それでいいのだ。

 

「それで客が驚いたところで、真意を公開する。 後は、この業界そのものが、完全に崩壊する」

 

腐りきった権威の破壊。

 

それこそが、高宮の狙いである。

 

今まで誰にも他人に話さなかった事だが。ついにこれを話すときが来た。

 

というわけで、まだ同志は足りないが。

 

それでも同志は出来たのだ。

 

今後も、この計画は推進していく。

 

やがてくるXデイに向けて。高宮は、準備を着々と進めていくのである。

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