謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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4、力尽きて

仕事を続けられなくなった。

 

黒田恵子は、ぼんやりと映画を見ていた。

 

刺激が弱いのがいい。

 

そう思って、ふわりと見る睡眠導入剤だと言われている高宮葵監督の映画を選んだ。

 

確かに、それくらい頭が駄目になってしまっていた。

 

連日の過酷な仕事の結果だ。

 

黒田はCGを作る仕事をしていた。

 

今の時代、ゲームはCG必須だ。

 

低予算のインディーズゲームでもない限り、だいたいはCGの世話になる。だから需要はある。

 

そう判断して、業界の過酷さをロクに調べもせずに業界に入り。

 

愕然とする事になった。

 

代わりは幾らでもいる。

 

人間は使い潰せ。

 

そういう精神で、凄まじい過重労働が課せられていたのである。

 

勿論会社が悪かった、というのもあったのだろう。

 

だけれども、月450時間という異次元の労働時間と。全く休みが取れない毎日が続いた結果。

 

黒田の体は、二十代半ばでおかしくなってしまった。

 

自律神経が完全に壊れ。

 

更には内臓の幾つかが、完全におかしくなっていた。

 

何度か自殺も考えた。

 

だけれども、死にきれなかった。

 

電車に飛び込んだとき、周囲がどんな風に迷惑するか。

 

家で死んだら、多分腐乱して見つかる。処理をする業者の人は、本当に大変だろうなと思う。

 

樹海で死ぬ事も考えたが。

 

樹海の前にある看板。

 

死ぬなら余所で死ねという心ないものを見て。

 

黒田は人間の全てに絶望した。

 

そして月450時間も働いていたのに。

 

給金は激安。勿論サービス残業だった。だから、貯金だってそこまではなかった。

 

金を出さず。

 

命を絞り尽くす。

 

そういう会社に勤めてしまって、人生を壊してしまった。

 

黒田はそういう不幸な人間の一人だったが。

 

黒田自身は、会社を辞めて。

 

今はどうしようかと考える事も出来ず。ふらふらと歩き回っていた。

 

今は映画を見ているが。

 

眠れると噂の映画だったのに。

 

なんだか作為的なものを感じて、最後まで見てしまった。

 

そして、映画を見終わった後。

 

これがラブストーリーとされている事に気付いて。そして、ようやく意識が覚醒してきた。

 

周囲には肩を寄せ合っているカップルもいるにはいるが。

 

どっちも爆睡状態である。

 

一人で見に来ている客の方が圧倒的に多く。

 

九割が爆睡していて。

 

残りも殆どが死んだ目をしていた。

 

それはそうだろう。顔がCGで黒く消されていて。

 

体も平坦にされて性別も分からない人間が。

 

シュール極まりない空間で、意味不明の言葉を交わし合うだけ。そして盛り上がりもなにもなく。

 

最後はバタンと全員が前のめりに倒れて終わり。

 

それを見て、何か感じ入った黒田は。

 

自分が何処かおかしくなったのかと思った。

 

何人か、この映画の監督のファンらしいのが話をしている。

 

「今回も、寝るのを我慢するのが、本当に大変だった……」

 

「おつかれ……」

 

「お前、声が寝てる……」

 

「ははは、お、お前だって」

 

何故そんなになりながら見る。そう思ったが、しかしながら考えて見れば。

 

生活するためのお金を稼ぐためだけに。

 

黒田だって、もっと無茶苦茶をしていたではないか。

 

内臓は取り返しがつかない。

 

病院で話を聞いたが、下手をすると十年単位で治療に掛かると言う。治療が終わった頃には三十を過ぎてしまっているだろう。

 

そうして考えると、何だか悲しくなってくる。

 

とりあえず、高宮監督の映画を一通りネット配信で見てみるが。

 

どれもこれも、噂に聞くみる睡眠導入剤としては意味を成さず。

 

会社から放り出され。

 

失業保険も尽き。

 

貯金を削りながら、体調不良に苦しんでいる黒田が、ねむる役には立たなかった。

 

だが、何となく興味をもった。

 

CGの技術についてだったら、ある程度はある。

 

これでも五年ほど、無茶な労働を続けたのだ。

 

嫌でもノウハウは身についている。

 

ちょっとだけこの時は、興味を持っただけだった。

 

だけれども、黒田の人生は。

 

高宮監督の映画を見たことで、再起に向けて動き出そうとしていた。

 

 

 

(続)




また一人。

深淵に引きずり込まれようとしています(無慈悲)。
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