謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
やれサラリーマンだからやれ仕事だからと意図的に嘘をばらまく連中とは違い、客観的に観測した真実を届けようとする者。
そんな存在だから現在では生きにくかったし。
高宮監督の作品にどっかで魅入られたのかも知れないですね。
序、今はもはや本職に人無し
高宮は新聞記事をざっと一通り見た。今はマスゴミは全て駄目。クオリティペーパーも例外無し。
それは知っているつもりではあったが。
売り上げが上がってきている以上、高宮の映画についての記事はどうしても出てくる。そのため、内容次第では相応の処置をする必要があり。
故に目を通していたのだ。
一番危ないのは、実際に目を通さずに評価することだ。
今の時代は、全てに目を通すのは難しくなってきている。
故に、一部すらも見ずにものを評価し。
それについて悟ってしまったつもりになる人間が出るようになってきている。
これはとても危険な事だ。
故に例えカスだと分かっていても、全てのレビューに目を通すように高宮はしていた。
そして、はっきり悟る。
もはや。マスゴミに人無しと。
大阪の陣で真田信繁が、東軍にもののふ無しとかうそぶいたとかいう逸話はそれなりに有名だが。
あれはあくまで、徳川家をディするための創作の可能性が極めて高い。
だが、これは違う。
一次資料で、実際にマスゴミの記事の低品質化をこの目で見ているのだ。
論外と、一言で結論出来た。
まず七割方の記事は、概ね業界人の言う事をそのままなぞっている。
こいつらがそもそも意識高い系の問題集団。
そんな連中の評価をそのまま疑問もなく、クオリティペーパーを自称する新聞が載せるか。
思考能力が少しでもあれば、そんな事は恥ずかしくて出来ないだろうに。
そこまでスポンサー様が大事か。
そう面罵してやりたいが。
ともかく七割の新聞はそうだ。
そして残り三割は、ネットの声と称して、SNSでの評価をまんま載せている。
これもまったく思考力に欠ける行動だ。
例えば、全てのデータを集計して、そこから割り出した結論を載せるとかならまだ分かる。
だがこれらの記事は、主観で自分の目についた文言だけを割り出し。
そこから「ネットの声」を意図的に作りあげている。
要するに言論の改ざんである。
論外と言えた。
というわけで、一通り目を通した後。
紙屑を全部シュレッダーに入れる。
トイレットペーパーの方がまだ使い路がある。
こんなもの、シュレッダーのエサにする以外になんの意味もないゴミだ。
呆れ果てた後。
高宮はつづいて、井伊が送ってきたネットブログのアドレスを確認する。
ネットの方での評価はどうか。
それについて調べようと思ったのだ。
その中の一つに。
興味がそそられるものがあった。
「高宮監督の映画、アルティメットコメディシリーズについての考察」。
タイトルはともかく。
中身をみていくと、かなり面白い記事だった。
まず、実際に映画を見に行った人間の発言から全体的なデータをとり、そこから全ての発言を吟味している。
できる限り大量のデータを分析することで、それによる統計の正確性を上げているのである。
これは近年マスゴミがよくやる、千件程度のデータがあればいいという手抜きアンケートとは全く違う。
本物の統計だ。
それだけではない。
映画の内容についても、できる限り分析している。
内容は全く理解出来ないと結論しているが。
それはそれですなおな結論だ。
ただし、主観を徹底的に排除するつもりなのだろう。他の映画と比べながら、何十回も見た事がよく分かる。
新聞の記事にも、記者がまともに映画を見ずに書いた落書きみたいなものが複数確認されたのに、だ。
これはなかなかやるな。
そう思って、高宮は最後まで丁寧に記事を見てしまった。
他の記事は、だいたい主観で面白おかしく読ませるための記事を書いているものばかりだった。
なるほど、井伊も分かったのだろう。
最初にこのブログをもってきたのは。まともな記事が見つかったから。まだ頭が冴えている間に、見てもらおうという意図だったのだ。
いやはや、相変わらずやるな。
そう高宮は素直に感心していた。
すぐに井伊に連絡する。
「この記事書いた奴、何者? 連絡を取りたい」
「此方でも今調べている。 どうも記事の内容からして本職だとは思うが、現役の記者がブログ記事を書くとも思えない。 そうなると、最近退職した記者が該当するのではないかと思う」
「はっきりいうが、今のマスゴミには人無しだ。 この人材を逃したのだとすれば、その無能ぶりはあまりにも酷いね」
「それは同感。 これだけのしっかりした記事を書いてくる記者を逃すなんて、目が節穴どころかブルーホール」
ちょっと面白い事を言われたので、苦笑する。
ブルーホールというのは、珊瑚礁などに存在する、浅瀬にある突然深くなっている地形のことである。カリブ海などにあるものが有名で、だいたいは鍾乳洞などが崩落してできた地形だ。ルスカという超巨大なタコのUMAが住んでいるという噂がある。あくまで噂だ。勿論そんなものの存在は確認されていない。
ただ夢はあるし、クソ映画の題材としては面白い。
故に高宮も知っていた。
さて、井伊は任せてほしいというので、頼む。
映画は新作が少し前に公開したばかり。
「コメディ」と銘打った作品だが。やはり観客はみんな三分くらいで大半が寝てしまうようだ。
それでいながら客入りも好調。
SNSでも、何故か謎の盛り上がりを見せていた。
「内容が何一つ理解出来なかったんだけど、俺だけがおかしいの?」
「いや、大半の奴は開始すぐみんな寝る。 映画がつまらないと騒ぐ素直な子供ですら寝る。 起きて内容を見て理解しようとしただけで凄い」
「相変わらずだな高宮。 もはやコメディどころか、どんなジャンルなのかすらもわからねえよ! あれがどうしたら純粋コメディになるんだよ!」
「ある意味、悪い意味で笑わせに来てるんだよ。 ただ、何故かむかつかないんだよな……」
概ね意図通りの反応。
更に、そもそも全員が体型を平たくして、顔も消しているのである。
ポリコレやフェミニズムと言ったこういうものにケチをつけに来る人権屋も、手出しをしようがない。
事実少し前に、ポリコレの一派が流行り始めている高宮映画から如何に金をむしり取ろうかと画策していたようだが。
内容があまりに前衛的な上に。
そもそも高宮との接触機会が一切無いこともある。
結局、諦めざるを得なかったようだ。
この手のヒットを飛ばすと、どうしてもダニが寄ってくる。
他人を持ち上げて取り入り、ダニのように血を啜る連中の事だ。
そういう連中が高宮には一切つけいる隙が無い。
たまにその手の連中が高宮のネガキャンをやることがあるようだが。
眼に余るものは潰してしまうし。
何よりも、以前ネガキャンをやった映画監督を告訴して社会的に抹殺したことが大きいのだろう。
リスクが高すぎると判断して、近寄ってはこないようである。
いずれにしても、今回の映画も興行収入は順調。
既に今まで出して貰った補助金は返済し終えているし。
会社にも充分な利潤が入っている。
高宮の発言力は大きくなる一方だが。
高宮自身は、ほぼ喋る事はしない。
窓口になっているのは、会社に勤めている小野寺だが。
まだ二十歳になったばかりなのに。
意思疎通という意味での、本来のコミュニケーションの達人である事もある。
重役共もひやひやで。
対応できていない様子だ。
腫れ物と言うよりも。
闇より触手を伸ばしていつでも会社を深淵に引きずり込める邪神に、会社が乗っ取られているようなもので。
もはや配給会社は高宮の敵になり得なかった。
さて、記事を書いた人間の調査と確保は井伊に任せる。
次に高宮がやるのは、当然次の映画の準備である。
映画が公開している内に、俳優のオーディションの告知はしてある。
いわゆる大御所といわれるような俳優までオーディションに来るようになっていた。
コネでのオーディション通過は一切無し。
スポンサーも一切無し。
そういう状態なので、オーディションに来ざるをえないのだ。
大部屋俳優と言われる人も来る。
それぞれ一芸をもっている俳優がそれなりに多いのだが。
どうも高宮の映画の内容について、しっかり勉強してから来ている人間はあまり多くはなく。
オーディションは、どうしても退屈だった。
これからは、芸歴三年以下というしばりでもつけるか。
そう思いながら、才覚がありそうな新人を数名選んで。
オーディションは終了。
どんな大御所俳優でも容赦なく弾いた。
君らは仕事だって別にあるだろう。
苦しい思いをして必死に食っている新人向けのオーディションなんだよこれは。
そう内心で呟きながら。
ただ、そういう風に告知を出していなかった自分のミスでもあるなと思い。次回からはそうすることにする。
何かしらのミスがあったら次で改善する。
それが、プロの仕事だ。
高宮は狂った映画を作っていても。
その辺りのプロ意識は、きちんと持ち合わせていた。
日野茜は今回も使う。
今後、高宮の映画には必ず使うつもりだ。
なお、高宮の映画の撮影以外では、事務所の意向でCMにも出ているようだが。
そういう所では、かなり強いプロ意識を発揮して。
きちんとした存在感を示しながらCMに出ているようだ。
テレビを見る事はしないが。
CM単品は動画サイトで確認はするようにしている。
相手をおちょくるような真似は絶対にしない。
まだ、高宮は自前で日野を雇うほどの準備をしていない。
自前で俳優事務所を開いてからだ。
日野を直接雇うのは。
それまでは、しばらく淡々と稼いでいくしかなかった。
次の映画は、タコ映画だ。
ブルーホールという単語を井伊が出したのも、それが理由だろう。
タコ。
頭足類は、カンブリア期の後から。魚類と海の覇権を争い続けて来た種族である。
直角貝という種族が覇権を握った時期もある。
化石があまり残らないので、今に知られていない超巨大種が過去の海にいた可能性もある。
現在でも足の長さが九メートルを超える(ただし体重そのものはさほどでもない)ミズダコや、誰でも知っているダイオウイカ。更にダイオウイカよりも更に巨大なダイオウホオヅキイカ。ダイオウイカより小ぶりながらも、充分に巨大なニュウドウイカや。足の長さではダイオウイカに迫るがとにかく華奢なミズヒキイカなど。面白い種族がたくさん存在している。
そしてダイオウイカほど巨大ではないものの。
人食いの怪物として知られるアメリカオオアカイカなど、海に住まうモンスターと呼ぶに相応しい生物だ。
勿論人間とは殆どが生息域が異なるため、敵対存在にはなり得ないのだが。
タコは瓶の蓋を開けて中に入ったカニを捕食するほどの知性を持っている上に、陸に上げても匠に動いて海中に戻るなど、対応能力も非常に高い。
人間とは根本的に異なる姿から恐怖を抱く人も多いようで。
西洋では悪魔の一種か何かのように扱われ。
挙げ句の果てに創作神話の主役として扱われてしまう結果にまでいたった。
いずれにしても、アニマルパニックものとしてはそれなりに数が存在しているジャンルであり。
何百メートルもあるようなタコが大暴れする夢のあるものも存在しているが。
高宮が作るのは、相変わらずシュール極まりない映画の予定だ。
CGも面白さを消すために使う。
既にどんな映画を撮るかはスタッフに伝えてあるので。
後は淡々とやっていくだけである。
色々と準備をしている内に、どんどん時間は過ぎていく。
会社の方から連絡がある。
広告会社が声を掛けて来たらしい。
高宮監督の映画を是非宣伝したい、と。
だがあまりに価格が法外なので、どうしたらいいかとも。
井伊に対応して貰う。
どうせ広告会社にアホみたいな金を払っても、役に立たないのは確定だ。
一方井伊が上手に広告戦略をSNSを中心にやっていて。
はっきりいってそれで充分過ぎる程に、高宮の映画の新作が出る事は、世間に周知されている。
今では「何故か頭に来ないクソ映画」「二時間ぐっすり快眠出来る」という不思議な映画として。
高宮映画は、嘲笑も混じってはいるが。
それでも概ね好意的に知名度を増しており。
特に近年では、幼稚園で流したところ寝かせるのに苦労する園児達があっと言う間に寝たとかで。
喜びの声が現役の保育士から届いたりもしていた。
つまり広告会社なんぞ必要ない。
そして、こういうのを捌いていく度に。
高宮の。
会社では高宮と、井伊と小野寺をセットで高宮ファミリーと呼んでいるらしいが。
いずれにしても、その影響力は増していくのだった。
高宮自身が、直接手を下さなくてもだ。
スタジオの予約などが完了。
映画の撮影に入る。
たこ足とかの演出はCGで行う。
今作は海を主体に撮るのだけれども。当然そういうセットも存在している。
海で撮影をすると金が掛かる上に色々と問題も起きやすいので。
今回はなんと海は殆ど合成で撮り。
ほぼ全てをCGとセットで賄う予定だ。
驚きの撮影現場だが。
当然マスコミは出入り禁止にしているので。
高宮映画の撮影風景は、マスコミも出演した俳優に聞く以外に手段が無く。
「ブラックボックス」等と呼ばれて、畏怖されているらしい。
まあどうでもいい。
スタジオの下見を終え。
俳優達と軽く打ち合わせを終える内に。
前回の「アルティメットコメディー」シリーズが、歴代最高の興行収入をたたき出した事を聞く。
また、歴代のシリーズも映画館で放映し。
見に来た物好きや、話題性に惹かれた客を。片っ端から眠りの世界に叩き落としているらしかった。
いずれにしても、昔は映画館が悲鳴を上げていたらしい高宮映画だが。
今ではすっかり、逆にどんどん放映したいという依頼が来ている。
そして何よりも、高宮映画では興奮した客が暴れたりしないこともあって、後片付けなどが滅茶苦茶簡単であるらしい。
そういう不思議な意味でも。
高宮の映画は好評なようだった。
スタジオの下見を終え。
充分だと判断して、引き上げる。
自宅に戻ると。
井伊から連絡が来ていた。
「例の記事を書いた人間、特定した」
「お。 それで何者?」
「やはり新聞社を退社した人間だった。 前からネットでかなり品質の高い記事を書くことで有名な人間だったが、新聞社を退職して、どうするか悩む間に。 貯金を崩して、少しでも好きな記事を書きたいと考えていたようだ」
「接触は出来た?」
出来たと、井伊は言う。
流石である。
この辺り、井伊の能力はずば抜けている。
今、交渉を小野寺に任せているそうだ。
「分かっていると思うけれど、こっちから記事の内容に干渉するようでは何の意味もないからね。 酷評を容赦なくして、それをこっちが容認しているくらいで丁度良い」
「他のスポンサーが聞いたら目を回すような言葉だな」
「それをやる度量がなかったから、マスコミでは無くどこもマスゴミになっていったんだよ。 ついでにどいつもこいつもスポンサーに阿諛追従するようにもね」
「それについては全くの同感だが、それにしても本当に異質だ。 いずれにしても、小野寺にはそう貴方が言うだろうと判断して。 交渉は任せてある。 ただ相手側も警戒していてな」
それはそうだろう。
井伊から軽く経歴を聞きながら、高宮も思った。
石山、というのか。
相手の素性について聞いたが、どうやら今時絶滅危惧種。いや、本当に絶滅していなかったのかと驚かされる、気骨のある新聞記者魂をもつ人間であるようだ。
そのため、既に高校の新聞部のレベルで既に腐っているマスコミの世界には一切合切なじめず。
苦労しながら必死に主観を消して客観で、更には裏取りをした記事を書きながらも。
ほぼ採用されることもなく、限界を感じて新聞社を抜けた人物だそうである。
それでは大変だっただろう。
記者はサラリーマンだなどと抜かして。スポンサー様の言葉通りに現実を歪めるマスゴミの中で仕事をするのは。
それならば用意しよう。
好きかって書いても良い場所を。
そういう記者には、むしろやりたい放題をやらせる方が良い。そう高宮は判断したし。井伊もそう判断するのを読んでいたと言うことだ。
撮影を開始する前に、顔合わせは行いたい。
いずれにしても、事実上抱えの新聞記者を手に入れ。更にそれに好き勝手に評価をさせれば。
更に高宮の計画は、フェーズを進める事が出来る。
それでいいのだと、高宮は考えていた。