謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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2、記者から見た深淵

一日休んだ後。

 

一日フルパワーで働く。

 

全身に気力がみなぎっているのを、石山は感じた。

 

殆ど完璧な条件を提示してくれた客。いや雇い主。

 

スポンサー様に如何に媚を売るかが大事な現在の記者の世界で。

 

こんな条件を提示してくれる雇い主なんて、見た事がなかった。

 

欧州では古くに、王様が自分の悪い所を知るために道化を雇ったという話がある。まあ話半分に聞くべき内容だが。

 

今の時代には、その「話半分」程度の事を実行できる奴がいない。

 

とにかくお気持ちの世界だ。

 

お気持ちというのは、如何に相手の機嫌を損ねないかの話だ。

 

コミュニケーションという言葉が阿諛追従の別称になってからというもの。

 

相手に媚を売り。

 

如何に歓心を買うかが、コミュニケーション。意思疎通という意味の言葉に成り代わってしまった。

 

だから、あまりにも貴重なのだ。今の宿主は。

 

まず最初の記事を書くまでは、給金は前の新聞社。

 

小さかったけれども、それでも手取り月二十万と同じ。

 

以降。もしも忖度無しの記事を書けることが分かったなら。

 

手取りを倍にすると、何の躊躇も無くあの監督はいい。

 

そしてそれを実行することも明らかだった。

 

やるぞ。

 

気迫がみなぎる。

 

一日フルパワーで働くと言う事もある。

 

だから殆ど休日は何もできないほどに疲れきってしまう。

 

なお、汚れ仕事をさせるつもりも無い様子で。

 

他の社の叩き記事を書けとかそういうことはさせないという事まで契約書に盛り込まれていた。

 

とにかく隙が無い。

 

ただ。プライベートを暴くような記事は書くのを禁止、というのもあるが。

 

それについては望むところだ。

 

そんなものは。伝えるべき真実では無い。

 

誰にだって心に庭をもっている。

 

フェチズムは人の数だけ違っている。

 

誰だって秘密の一つや二つもっている。

 

それを暴き立てるのは、記者の仕事では無い。はっきり言うが、外道の仕業だ。

 

人が知りたがるものを提供するのが記者の仕事、と考えている阿呆がいるが、違うと石山は考えている。

 

それは記者では無く。

 

ただの願望ライターであり。

 

はっきりいって、何の価値も無い文字列を生産するだけの愚物にすぎない。

 

望まれるからと言って提供するというのでは。

 

相手を堕落させ。

 

そして自分も堕落するだけだ。

 

お気持ちで回るようになってしまった今の時代だからこそ。情報を発信する人間がしっかりしていなければならないのに。

 

誰もがやるべき事をやらず。

 

お気持ちに殉じるようになった。

 

その結果が、今のマスゴミとまで言われる情報発信者の腐敗だと、石山は結論づけている。

 

だからこそ。

 

自分は絶対にそうはならない。

 

契約は隅から隅まで目を通していたが。

 

あらゆる面で、利害が一致していた。

 

朝一に出勤する。

 

この間聞かされたのだが、高宮監督は文字通りの朝一からスタジオに出て、点検作業をしているらしい。

 

その話をしてくれたのは日野茜。

 

いつも無茶ぶりをされて泣きそうになっている、高宮監督のお気に入りだが。

 

別に高宮監督が偏執的な感情を向けている様子は無く。

 

単純に役者としての価値観とか信念が気に入っているようで、自分の映画で今のところ囲っている様子だ。

 

その日野茜に聞かされた。

 

高宮監督は、スタジオをまず自分で必ずチェックするのだとか。

 

この辺りは絶対に止めないらしい。

 

それでいて。他のスタッフには残業を絶対させない。

 

俳優として、職場は極めてホワイトだと。

 

なんだか目が死んでいるながらも、日野茜はそう言い切った。

 

一方で、撮影で意味不明な事をやらされるのは本当につらいと、切実そうに言ったので。

 

それはそれで、何だか同情してしまうのだった。

 

今回は、高宮監督の動きをもう少し観察したい。

 

手元にあるメモ帳は、もう使い切りそうな勢いだ。

 

愛用している万年筆も、ペン先がすり減る勢いで使っている。

 

だが、それで体が疲れるとか。

 

頭が疲れるとか。

 

そういう事は無い。

 

今、記者をしている。

 

その充実感が、石山を動かしていた。

 

でかい陰謀を暴くとか。

 

でかいヤマを上げるとか。

 

そんな記者の野望みたいなのには興味は無い。

 

真実を客観的に皆に届ける。

 

その本質的なあり方だけを、絶対に守りたい。石山は、そう考えているし。その考えを、今では正しいと判断していた。

 

勿論野心的に考えてもそれはそれでいいだろう。

 

だが、自分で決めつけた事実に情報を我田引水し。

 

勝手に真実を創造するようなやり方は絶対に間違っている。

 

そうだとも、確信もしていた。

 

朝早くから、電車で出る。

 

高宮監督は軽を使っているらしいが。この時間だと流石に車道は空いているだろうなと思う。

 

わくわくがとまらない。

 

高宮監督と言えばマスゴミキラーとして知られ。

 

以前はこっぴどく強引にコネを使って取材に来た記者をコテンパンにしたことが語りぐさになっているし。

 

会見でも一言二言で切り上げてしまうことからも。

 

色々良くない噂があった。

 

だが、今では記者の方に問題があったのだと石山は感じ取れる。

 

勿論高宮監督が筋金入りの変人である事は石山にも分かるし、それは客観的な事実だけれども。

 

まずいところも遠慮無く記事にして良いと言う度量。

 

あれははっきり言って。

 

他の映画監督には真似できない。

 

特に周囲に持ち上げられて、巨匠になったつもりの連中には、絶対に無理だし。

 

更に勝手に自分で事実を創造するのが新聞記者だと思い込んでいる連中だって、理解は出来ないだろう。

 

スタジオに到着。

 

渡されている取材許可証を守衛に見せて、中に入る。

 

大手新聞の記者が来ていたが、それを見て不愉快そうに声を張り上げた。

 

「なんだ彼奴!」

 

「おい、通せよ! 記者が何で入ってるんだ!」

 

「知りませんよ。 許可証出てますので」

 

「警備員如きが巫山戯るなよ! お前なんか、何もかも暴いてネットで晒してやることも……」

 

大きな咳払い。

 

高宮監督だった。

 

普段、温厚な高宮監督が。こんなに威圧感のある咳払いをするとは思わなかった。

 

びくりと震える記者達。

 

「修羅場をくぐってきた」と自称して。

 

実際には記者は何をしても良いと勘違いしているだけの阿呆どもが、すくみ上がる様子は滑稽だった。

 

「もしもその警備員の悪い噂が出た場合、今後永久に〇〇新聞の取材は許さないから、覚悟しておいてください。 さ、気にせず警備して」

 

「分かりました。 ありがとうございます高宮監督」

 

「ちょ、取材を少しでも」

 

「許可証をとってから来るんですね」

 

そっぽを向き、そのまんまスタジオに入っていく高宮監督。

 

警備員は胸を反らして、威圧的な壁を造り。

 

ささっと石山も中に入れて貰う。

 

悔しそうなあの顔。

 

今の時代、もうマスコミ。いやあいつらマスゴミは完全にパブリックエネミー扱いである。

 

それを連中は察しているから、スクープを上げようと必死だ。

 

スクープとやらがそんなに大事か。

 

それは単に承認欲求を満たすだけだし。

 

何よりも、金を稼ぐための行為だ。

 

スクープのために、何百人殺してもかまわない。

 

そう考えるあいつらの事が、はっきり言って石山には理解出来ないし。

 

理解したいとも思わなかった。

 

スタジオに入ると。

 

高宮監督が、黙々と機材のチェックを始めるのを確認。

 

噂は本当であったのだと確認する。

 

日野茜の言葉によると、チェックを邪魔すると怒ると言う事なので。邪魔にならないように定距離を保ちメモを素早くとっていく。

 

スタジオの小道具大道具もしっかりチェックしている様子からして。

 

そういうものにも知識がある、と言う事なのだろう。

 

頷きながら、メモをとる。

 

映画に対して、本当に責任感が強いんだなと分かる。

 

だとしたら、なんでわざとつまらない映画を撮っている。

 

それが分からない。

 

何となくだが。その気になれば高宮監督は面白い映画を撮る事だって出来ると思うのである。

 

だが、それは何となくだ。

 

客観的に情報を分析していく。

 

これが何より大事だろう。

 

やがて俳優、小道具大道具、照明録音、スタッフが出勤してくる。

 

スタジオの別の方では、徹夜で撮影をしていたようで。引き揚げて行くスタッフもいるが。

 

皆顔は疲れきっている様子だ。

 

無理もない。

 

俳優達の中で、最初に来るのは日野茜。

 

少し定時よりも早い程度だが。

 

それを高宮監督が咎めている様子は一切無い。

 

メモを取る。

 

これが一昔前のブラック企業だったら。

 

どうして早く出てこないのかとか、ぎゃあぎゃあ五月蠅かっただろうけれども。

 

此処ではそういうのもないと。

 

自分の主観でものを見るのは記者として最低のあり方だと、再確認する。

 

高宮監督は謎映画を撮って、何故か映画館が満員になり。客は二時間寝て満足して帰っていくという、不可思議極まりない存在である。

 

主観的に見れば「意味不明」。

 

だが、こうして客観的に一つずつ情報を分析していくと。

 

それは決して、そうでは無い事が分かってくる。

 

実に面白い。

 

記者として、生きている実感がある。

 

石山はうんうんと頷きながら、メモ用紙に愛用の万年筆を高速で走らせる。

 

そのままどんどん、情報をとっていく。

 

邪魔にならないように、席を貰っている。

 

勿論、俳優に無秩序にインタビューなどするつもりはない。

 

ただ。無茶な脚本に四苦八苦している俳優達と。

 

シーンのナンバーを言われた瞬間、即時で動いている日野の様子は目立った。

 

昼休みまで取材を丁寧に続けて。昼休みに日野に軽く話を聞く。

 

今日の質問については、既に決めてある。

 

というか、取材の質問内容については、事前に決めていて。

 

毎日皆の休憩時間を圧迫しない程度にするようにしていた。

 

更に、五分以内に話が終わるようにもしている。

 

「五分で話が終わる」と誰かが言いだした場合。絶対終わらないのが現在の社会の常識だが。

 

石山は、そんな常識はクソくらえだと思っているので。

 

絶対に五分で終わるように、計算までしっかりしていた。

 

「今日の撮影を取材させていただいて確認したのですが、日野さんはシーンに対してすぐに動けるようですね」

 

「劇団時代から、脚本は全て記憶するようにしています」

 

「脚本を全記憶!?」

 

「はい。 演じるなら、その演目の全てを理解する事が必須だと思っています。 自分だけ理解しても意味がない。 その演目で何をやろうとしているのか、他の役者がどういう立ち位置なのか。 理解するのは、演技者として最低限の事だと考えていますので」

 

流石に今の話を聞いた他の俳優達も度肝を抜かれたようである。

 

素早くメモを走らせながら、他にも幾つか聞いていき。

 

そして、頷いて五分の砂時計を見せて。ありがとうございましたと頭を下げる。

 

こうやって頭を下げる事で、取材に対する敬意を示す。

 

それも記者のあり方だ。

 

そのまま、午後の撮影をまるごと取材する。

 

そんなストイックな日野も、正直正気度をゴリゴリ削られているようだが。

 

何となく理解出来てきた。

 

日野が、高宮監督に好かれている理由がだ。

 

恐らくだが。日野のもっている凄まじいストイックさが、高宮監督の琴線をびんびんと刺激するのだろう。

 

それについては、見ていて分かった。

 

劇団出身者は、演技者としてプライドを持っていることが結構多い。

 

劇団出身の子役などは、声優をしてもつぶしが利くことが多いが。

 

それは演技というものを、多方面から学んでいるからである。

 

それについては、以前色々研究して理解した。

 

オタクという差別用語は大嫌いだが。

 

まあそれに分類されるサブカルチャー愛好家は、まあ確かにアイドル化された声優のキャラクターを好むことも多いが。

 

それ以上に演技力を重視する派閥の方が強い。

 

これについては、十年以上前に声優ブームというのがあって。

 

棒読みの声優だらけになったのが、大きな原因であるようだが。

 

まあそれについては、専門家に記事を任せたい。

 

今やるべきは、それではない。

 

黙々と筆を走らせていき。

 

やがて高宮監督が、最後のシーンを取り終える。

 

一人が、タコの触手にさっとさらわれるシーンなのだが。何故か他の俳優が側転しながら哲学的な台詞を喋る。

 

その有様がとてもシュールだから。

 

噴き出さないように、マウスピースをしっかり噛みしめなければならなかった。

 

「はいカット。 今日の撮影は此処までね」

 

「ありがとうございました!」

 

「それでは解散。 明日の撮影に備えて、ゆっくり体を休めて。 それと……」

 

誰々は、三日後に休暇をあげるから、ゆっくり休むようにと俳優に声が掛かる。

 

それを聞いて、俳優が頷く。

 

三日後のスケジュールがはっきり頭に入っていると言うことだから、大したものだと思う。

 

今高宮監督が使っている俳優達は、皆新人ばかりだ。

 

ただ、基本的に全員それなりに演技が出来ている。

 

これは恐らくだが、劇団経験者の新人を選んで使っているのだなと、石山は考えている。勿論データが必要なので、今分析中である。

 

しかしながら、そんな新人俳優達も、正気度をゴリゴリ削られている。

 

まあ仕方が無いのだろうなと思う。

 

撮影が終わり、三々五々皆が引き揚げて行く。

 

高宮監督が、軽く声を掛けて来る。

 

「契約をしっかり守ってくれていて助かるよ」

 

「いいえ。 此方も本当に五分でインタビューを終えてくれると言う事で、俳優さん達も皆警戒を少しずつ解いてくれています」

 

「そういう誠実な態度が、今の記者には足りない。 今朝守ったのも、それが理由だと言う事を忘れないようにね」

 

「心しておきます」

 

もし誠実さを失ったら。

 

即座に契約を撤回する。

 

そう高宮監督は言っているのだ。

 

おおこわ。

 

そうとも思う。

 

この人は近年、訴訟とかで容赦なく名誉毀損をしてきた別の映画監督を社会から屠った事もあって。

 

ホトケの高宮という渾名から。

 

地蔵の高宮という渾名に変わったらしい。

 

地蔵菩薩は閻魔大王の地獄での姿だという話もあるから。

 

まあそういう事なのだろう。

 

ただ、それはそれこれはこれだ。

 

いずれにしても、石山にしてみれば。本当に興味深い取材対象である。

 

勿論俳優の休み時間を削る事があってはならないから。

 

取材の限られた時間は、本当に事前に自分でチェックしなければならないが。

 

さて、肩に手を置いて回す。

 

他の監督の撮影現場に出向く。

 

今日は十一時終わりの予定だ。

 

帰りはギリギリ終電が間に合う。

 

同じ配給会社の監督と言う事もあって、高宮監督には頭が上がらないらしいが。

 

ただ、取材内容の契約書については。かなり難色を示していた。

 

まだ若い監督だが。

 

悪口も好きかって書いて良いというのは、流石に驚きだったのだろう。

 

ただ、それでも許可をくれたし。

 

あまり無体なことを書くつもりはない。

 

撮影時に、椅子を貰って。

 

撮影中には一切其処から動かない事を約束している。

 

それについては、破らない。

 

トイレも事前に済ませてある。

 

黙々と撮影を取材しながら、ペンを走らせていく。

 

こっちはなんというか、前衛的な高宮監督の映画と違い。非常に生真面目な、悪く言えば意識が高い映画だ。

 

本格的な社会派サスペンスという感じで。

 

大まじめな群像劇を、役者達が高い熱量でやっている。

 

俳優を全部起用しているのも。

 

難しい役が多いから、なのだろう。

 

俳優出身のタレントなども、いい仕事をすることはあるのだが。

 

「大御所」とか「自分は偉い」と勘違いすると、演技をする時に演技指導を受けつけなかったり。

 

或いは監督に楯突いたりもする。

 

勿論、監督の言う事を全て聞くのもそれはそれで問題だろう。

 

だが、何か勘違いしてしまう人間とこういう現場でうまくやるのは難しい。

 

実際、酷い演技の「大御所」だの「大物タレント」だののせいで、どれだけの映画が台無しにされたかと思うと。

 

確かに、劇団出身の俳優を使っていくこの配給会社のスタイルは、正しいのだろうと石山は思う。

 

撮影現場の熱量は高い。

 

まだ若い男性監督は、時々怒号を張り上げる。

 

それは叱責とかではなく、そうじゃない違う。こうして欲しいと言う、熱量のぶつけあいだ。

 

勿論一歩間違えばただのパワハラになってしまうが。

 

その一歩を、ギリギリ間違えていない。

 

まだ若いのに、いわゆる昔気質なんだな。

 

そう思って感心しつつ、メモを取る。

 

十九時少し前に、食事休憩が入る。そこで、軽く取材を監督自身にする。

 

五分の砂時計をおくのを見て。

 

監督も、話をきちんと聞く気になったようだった。

 

「同じ配給会社でも、高宮監督とは撮影のやり方が全く違いますね。 高い熱量で、俳優と演技のやり方をぶつけ合っている感じですか?」

 

「高宮監督には、俺たちのあまり稼げない映画の分稼いで貰って、配給会社に貢献して貰っている恩がある。 だけれども、それと映画の撮り方は別だ。 俺は自分の全てを映画にぶつけるし、俳優にもぶつけてほしいと思っている」

 

「なるほど。 それで……」

 

幾つか順番に質問をしていく。

 

誘導質問は絶対にしない。

 

そもそもあれは、事実があると最初から決めつけて、自分に都合がよい記事を書くためのものだ。

 

それを何処の新聞の記者も散々やらかしてきたから。

 

今では取材を受ける側は、自衛のために録音をしておいて。

 

そして記事が出た後。

 

ネットで録音した内容を流して、新聞側が大恥を掻くことが増えるようになってきている。

 

そんな畜生働きをするつもりはない。

 

「取材を受けていただき、ありがとうございました」

 

「いや、本当に丁寧な取材、助かる」

 

「いいえ。 本来記者は特権階級でもなければ偉いわけでもありません。 何か勘違いしてしまって、高給取りの偉い職業だとか思い込む輩が出てしまって、それで狂ってしまったと言う事ですよ」

 

「……」

 

頭をぺこりと下げて、そのまま席に戻る。

 

今回もきっちり五分。

 

拾える情報はあまり多くは無いが。

 

それでも、しっかり取材は出来た。

 

十一時の撮影終了まで、しっかり撮影を取材させてもらう。

 

ぐったりしている俳優達が戻る様子を見ながら、自身も終電で切り上げる。

 

帰った後は、全てを使い尽くした事もある。

 

風呂に入って。

 

最低限の身繕いだけして。

 

後は布団にダイブするだけだった。

 

 

 

休日は、ここのところ一日おきにとっているが。

 

毎日かなり厳しいペースでの取材をしているという事もある。

 

一日寝てしまう、と言う事もある。

 

だが。今日は起きて。趣味としてのブログ記事を書いていた。

 

流石に高宮監督が時々見せる、亜音速でのスマホ捌きほどでは無いにしても。それなりの速度でタイピングは出来る。

 

まあそれは、本職なのだから当然だ。

 

記事をデータからまとめていると。

 

やがて、妙な情報が入ってきた。

 

今はマクロでデータ集計をしているのだけれども。

 

その時間にSNSで情報をチェックしていたのだ。そうしたら、どうやら石山の事を悪くSNSで言っている奴がいるらしい。

 

「高宮が鴉を飼ってるらしいぜ」

 

「鴉って懐くと可愛いらしいな」

 

「いや、そういう意味じゃない。 なんか記者を飼ってるらしい」

 

「ふーん」

 

その時点で、新聞関係者が何かSNSで情報工作をしていると悟ったのだろう。

 

周囲が一気に冷めていくのが分かった。

 

ああ、あの時の面罵された記者だな。

 

そう思って、ニヤニヤしながら顛末を見守る。

 

石山にして見れば、はっきりいってどうでもいい。同じ記者でも、あれらは同じ生物だとは思っていない。

 

石山だって、そう高等な人種だと自分を評価しているわけでは無いが。

 

あれらははっきりいって、ダニ以下だ。

 

「そもそも、前もなんか偉そうな記者が高宮に取材拒否くらってスタジオ放り出されたんだろ。 高宮にしてみれば、マスゴミなんか本当にどうでもいい存在なんだろうよ。 もし記者をつけているんだとしたら、自分で人材を発掘したんじゃないのかな」

 

「その可能性はありそうだな。 新聞社から送られてくる記者なんて、はっきり言ってゴミかカスだろ。 マスゴミの事は高宮も嫌ってるみたいだし。 そりゃあ人材を自分で発掘した方が早そうだしな」

 

「てかお前〇〇新聞の記者だろ。 記事の内容と過去ログが一致してるんだよ」

 

「あ、本当だ」

 

一瞬にして正体を暴かれる新聞記者。

 

噴飯モノの状況だが。

 

それにしても、SNSは怖いなあと。マクロがまだ終わっていないのを確認しながら石山は苦笑い。

 

完全に分が悪くなったと判断したアカウントは鍵を掛けて逃走。

 

だが、やりとりは全てまとめられていて。

 

そして、晒されたのだった。

 

ついでに〇〇新聞の過去記事とSNSのアカウントの過去ログとの対比も行われ、それもまとめられた。

 

これはまずいと判断したか、〇〇新聞は早々にSNSのアカウントで謝罪文を出し。

 

件の記者を「訓戒処分」にしたと報じた。

 

これは要するにお叱りをした、というだけの事だ。

 

更にそれを見たユーザー達が荒れ始める。

 

これは訓戒じゃすまないなと思ったが、はっきりいってどうでもいい。

 

マクロの処理が終わったので。

 

そのまま、ネット記事に切り替える。

 

今回は、ご飯にかける食べ物の小型化についての統計データだ。

 

近年は景気の悪化もあって、どんどん食べ物の容量が減っているが。

 

これを20000商品を調べて分析し。

 

それらから、実際にどれくらい減っているのか。減りつつ値段がどれくらい上がっているのか。

 

調べた記事となる。

 

20000だと少しデータとしては少ないなと石山は思ったのだが。

 

これも二ヶ月掛けた記事だ。

 

また、出来るだけ偏りが生じないように。ふりかけやお茶漬け。ほぐし鮭。更にはレトルトカレーまで、様々なジャンルの「ご飯にかける食べ物」を選んで調査をしてみた。

 

その結果は歴然で。

 

かなりの容量低下と、値段の上昇がみられた。

 

ブログ記事には、早速客がかなりつく。

 

客がつくことよりも。

 

この記事に対する、反響の方がとても嬉しい。

 

「1000程度のデータしか集めてないくせに、新聞記者が偉そうに書いてる記事よりもよっぽど正確で草」

 

「データは強いなやっぱり。 こうやって現実が赤裸々に出て来てしまうもんな」

 

「ただ、20000だとやっぱりこのブログ主の言う通りまだ未完成な記事だと思うかなあ。 その五倍はほしいね」

 

「うん。 今後さらに良い記事を書いて欲しいと思う」

 

そういう激励もある。

 

激励は褒め言葉より励みになる。

 

そして、これを仕事の片手間に、趣味としてやれるのが本当に嬉しい。

 

石山は新聞記者ではなくなったが。

 

はっきりいって、今は本職の新聞記者なんかよりも。

 

よっぽど客観的な事実を、読者に届ける記者をやれていた。

 

それが、誇りであり。

 

夢でもあり。

 

そして何よりも。石山の、尊厳となっているのを自覚できていた。

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