謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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3、天秤は傾く

高宮監督の映画撮影が、終盤に掛かる。

 

そこで、石山は記事を出した。

 

映画界隈の記事はしばらく書かないつもりである。

 

高宮監督の同志として迎えられてから。その意思を知り。

 

それに関われることが分かり。

 

はっきりいって、今は楽しくて仕方が無い。

 

この間。日野茜のいた事務所を潰すために必要な写真を探し出したのも石山であるけれども。

 

それを誇るつもりは無い。

 

しばらくは、趣味としての記事をブログに書いていくつもりだ。

 

今日の記事は、全国に根付いた外来生物について。

 

日本という国は変な島国で。

 

外来生物によって環境は当然荒らされているのだが。

 

一方で海外で外来生物として環境を壊滅させるような、危険生物も多数存在している。

 

特にオオスズメバチは良い例だろう。

 

世界でもトップクラスに危険な雀蜂として知られているし。

 

何より何処かのバカが持ち出したのか。

 

実際に海外で出現例が既に報告されているということだ。

 

他にもタヌキや一部の甲虫。

 

更にはワカメなどが外来種として海外で暴れているが。

 

まあそれはそれとして。

 

実際に日本に根付いた危険な外来生物についてのレポートを、ブログにしてネットにアップする。

 

勿論情報は足で稼いだ。

 

各地の保健所にも連絡を入れて情報を提供して貰ったし。

 

取材は許可を取ってからきちんと行い。

 

そして取材内容が間違っていないか、取材先に連絡を取って。記事をしっかり見てももらった。

 

この作業に手間が掛かり。結局記事を出すまでに三ヶ月ほどかかってしまったが。

 

その代わり、記事そのものは入魂の出来になった。

 

「アライグマの被害、かなり凄いですねコレ……」

 

「アリゲーターガー、誰だよこれ川に放流したアホは!」

 

「カミツキガメもやばいな。 これ子供とかだと、指まるごと全部やられたりとかしないか?」

 

「良い記事ありがとうございます。 危険な生物の繁殖地域がよく分かりました」

 

反響もいい。

 

この記事を無料で出しているのは大きい。

 

もはや新聞に価値が無くなった時代。

 

ネットメディアが、今後は世界の情報をリードする。

 

だったらネットメディアが石山の主戦場だ。

 

そしてスポンサーが殆ど放し飼いにしてくれている今。

 

石山は、やるべき事をやっていくだけである。

 

二次元から来た人みたいだと、この間あった日野に言われた。

 

ちょっと面白い表現だったので苦笑してしまうが。

 

その後、慄然ともした。

 

確かにもう、二次元にしか石山のような記者は普通は存在していないだろう。神格化された偶像は存在し。

 

それを扱った映画が賞を取ったりもしたが。

 

あんなものは著しく実態と乖離したエセにすぎない。

 

それを散々指摘されたのに、賞を受賞し。

 

監督もマスコミ関係者も大絶賛。

 

醜悪なプロパガンダそのものだ。

 

プロパガンダをやるような連中は衰退への道を突き進む事になる。歴史が証明している事だが。

 

それを誰も生かせていない。

 

愚かしいし。

 

悲しい話だった。

 

入魂の記事を仕上げると、だいたい石山の体重は数キロ落ちる。

 

ぐったりして、ベッドで栄養剤を飲む。

 

しばらくはまともに動けないなと思って横になっていたが。メールが来る。内容を確認すると。

 

高宮監督からだった。

 

「はいー。 石山れーす」

 

「疲れきってるみたいだね」

 

「三ヶ月掛けた記事が仕上がった所でして……」

 

「毎回本当に命削りながら書いてるね」

 

苦笑混じりの声。

 

石山にとっては最高の褒め言葉だ。スポンサーのケツを舐めて金を貰っている他の記者と一緒にして貰っては困る。

 

政治関係の記者だってそれは同じだ。

 

官公庁の発表をそのまんま記事にするか。

 

背後にいる外国や、親外国組織のスポンサーが喜ぶ内容の記事を書いているだけ。

 

何が政治の腐敗を暴くか。

 

余所の国が喜ぶように、適当に話をでっち上げているだけでは無いか。

 

そういう意味では、もはやメディアなんてモノは、権力としてまともに機能していないので。

 

石山の興味は完全に失せていた。

 

「日野茜の取材記事を書いてくれる?」

 

「はあ、かまいませんが。 ただやっぱり時間は掛かりますよ」

 

「別にかまわない。 それと、分かっていると思うけれど」

 

「……了解しました」

 

プライベートの暴露は厳禁。

 

それでいて、太鼓持ち記事も厳禁。

 

これらは当たり前として。

 

客観的に、日野茜という人間の記事を書かなければならないか。

 

とりあえず、今日は動けない。

 

それも伝えておくと。

 

まずは体力を取り戻してと、比較的優しい。だけれども、やっぱり何か背筋を恐怖が走る声で高宮監督は言うのだった。

 

まず、なんとかベッドから這い出すと。

 

シャワーをフラフラのまま浴びて、そして顔を洗う。

 

勿論色々痩せこけていたけれども。

 

それでも、何とか明日から少しずつ体調を回復させなければならない。

 

食事もしっかりとった。

 

目的が出来ると、それはそれで体が動くようになる。

 

そういう意味では。

 

石山は、根っからの仕事人間なのか。

 

それとも、本来の意味での報道が好きなのかも知れない。

 

とはいっても、報道なんてのは、昔から今と変わらなかったのかも知れないし。

 

ペンで悪を暴くなんてのは、二次元だけの事だったのかも知れないが。

 

それでもいい。

 

二次元から来た人のようだと思われたのなら。

 

今後は、三次元にも実在するようにしたい。

 

それが石山の望み。

 

そうか、それが石山の望みか。

 

二次元にしかいなかった本物の記者。

 

それを三次元にも根付かせる。

 

確かに、石山の夢としては。

 

大きいのかも知れなかった。

 

 

 

目が覚めてから、きちんと食事を取る。

 

短時間で激やせすると、リバウンドが激しい。まずは肉を食べて、更にはジムにも出向く。

 

荒事を想定して、ある程度鍛えておくのだ。

 

石山の仕事は体力勝負でもある。

 

だから、あまり運動は得意ではなくても。体力は出来る範囲内で、つけるつもりではあった。

 

ただ体力というのは。基礎体力がないとどうしようもない。

 

石山は基礎体力があまりある方ではないので。

 

ジムは結構しんどかった。

 

それに記事に取りかかると缶詰になるし、文字通り精根を使い果たしてペンに全てを叩き込む。

 

そういう意味もあって、ジムの指導員からは。

 

いつも不思議そうに見られていた。

 

体が戻るといなくなり。また激やせして戻ってくると。

 

食生活を改善しろと言われた事もあるが。それについては、もはや乾いた笑みを返すしかなかった。

 

ジムである程度体を鍛えた後。

 

幾つかの場所を回って、日野茜の情報を集める。

 

彼女が昔いた劇団にも足を運ぶ。

 

記者が何人か来ていたが。

 

辟易している劇団員の様子が窺えた。

 

本当に破落戸そのものだな。

 

そう感じて悲しくなる。

 

取材許可証を出して、劇団の中に。それを見て、いらだたしそうに他の記者が石山の背中を見ているのだった。

 

「誰だあいつ……」

 

「なんだか前にも高宮のいるスタジオにあんなのが入ってったな」

 

「クソ、何かのコネか!?」

 

「卑怯な真似しやがって……」

 

何を好き放題ほざいているのか。

 

そもそも取材許可をきちんととってから来いというのが本音である。

 

石山はそうやって来ている。

 

コネだって使っていない。

 

きちんと身分を明かした上で、交渉して取材許可を貰った。勿論自分の記事を相手に見せている。

 

そして、記事を書く際の契約書も作って相手に渡している。

 

この辺りの手続きは井伊に手伝ってもらったが。

 

あの子は本当にヤバイ。

 

本当に手際が良すぎて助かる。

 

ただ、それ以外の事はしていない。

 

記事の内容で、石山は取材許可をもぎ取ったのである。

 

それをコネだなんだと言われるのは心外だし。

 

そんな風にしか考えられない現役の本職の筈の記者達のレベルの低さには。元記者としては悲しい限りだ。

 

劇団の中に入ると、まずは挨拶回りから。

 

軽く挨拶をした後、劇の練習の様子を取材させて貰う。

 

勿論声を掛けたりはせず。

 

邪魔にならない場所を教えて貰い。

 

其処で観察して、メモをひたすらに取ることにした。

 

練習が終わった後。

 

古株の劇団員に話を聞く。

 

勿論、日野茜の事は知っていた。

 

「ああ、茜か。 なんというか、本当に凄い職人意識の持ち主だったね。 プロになれたのも納得だよ」

 

「プライベートの情報は必要ありません。 彼女がどういう劇団員だったかだけを教えてください」

 

「ほう。 他の記者はどんな男とつきあってたとか、そういう事ばっかり聞きたがるのにな」

 

「性欲が人間の全てを現し全てに勝る理論は、私は信奉していません。 あれはフロイトが現在に残した呪いですよ」

 

これも本音だ。

 

まずしっかりプライベート情報などは必要ないことを告げる。

 

契約書の通りの取材をしているという事を示すためだ。

 

相手もそれで安心したのか、幾つかエピソードを話してくれる。

 

取材の後は、丁寧に頭を下げて。

 

更に録音テープを相手に渡しておく。

 

最近はテープを物理的に使うのではなく、情報をスマホに送るだけなので楽と言えば楽だ。

 

これで、取材のフェアネスが保たれる。

 

よく記者が、警察が違法捜査だ云々を口にするが。

 

その割りには記者は法に沿っての取材をしようとしない。すっぱ抜きだの飛ばしだの。挙げ句の果てに人を殺してもなんら反省さえしない。

 

それはフェアではない。

 

そう石山は判断している。

 

記者は聖域の存在でも無いし。

 

特権階級でもない。

 

それを理解出来ていない人間は、記者になるべきではない。

 

そう思っているから、こうやって徹底的にフェアに記事を書く。

 

二次元から来たといわれてもかまわない。

 

今度は石山のやり方をスタンダードにしてやる。

 

二人目のベテランに取材をすると、色々と情報が得られた。

 

「ああ、茜か。 とにかく凄いプロ意識の持ち主だったけれど、周囲からは変人扱いされる事もあったね」

 

「詳しくお願いします」

 

「あの子は何というかストイックすぎて、周囲の男とかに全く興味を見せなくてさ。 演劇マシーンとか陰口叩く劇団員もいたよ。 確か誰かベテランをこっぴどく振って、それが原因で孤立して劇団を抜けた事があったとか」

 

それは本人に聞いた話だ。

 

だが、此処でも聞けたことに意味がある。

 

客観性の担保。

 

それには、できるだけ多面的な情報が必要となるのだ。

 

「後、出る劇の脚本は全部丸暗記。 あれについては、悪口いってる連中も凄い事を認めてたな」

 

「劇団時代からやってたんですね」

 

「む、今もなのか」

 

「私が取材した限りでは」

 

まあ、これは別に言っても構わないだろう。

 

そうか、とベテランの劇団員は言って。

 

それで大成できるならいいのだけれどとも付け加えた。

 

まあそれはそうだ。

 

ストイックに努力を続ければ大成できるというのは大嘘だ。スペックが高かろうが、駄目な人は駄目。

 

運に恵まれていたりしないと、どうしても無理なものは無理だ。

 

いいものが必ずしも売れないのと同じ事である。

 

愚かしい話だが。

 

「他に何かエピソードは」

 

「いや、特に思い当たらないな」

 

「分かりました。 取材有難うございました」

 

録音のデータを渡しておく。これも必要な事だ。

 

こうやって幾つかの劇団を回っていく。必ずしも大きな劇団ばかりではないが、わざわざ日野に聞かなくても昔所属していた劇団の割り出しくらいは済んでいる。

 

劇団にいるのは趣味でやっている人、苦学生、将来俳優を目指している人、様々であるけれども。

 

学校の演劇部とはレベル違いなのは事実だ。

 

というか、映画で大根演技を披露するお笑い芸人やら大御所タレントなんかよりも百万倍マシだ。

 

そう、彼らの練習とプロ意識を見ながら、そう石山は判断した。

 

確かに高宮監督が劇団出身の俳優を採用するのもその辺が理由なのだろう。ただ、高級な素材を使って猫まんまをわざわざ作っているようにすら思えるが。

 

ともかく、次。

 

電車を乗り継いで別の劇団に。

 

取材を順番に続けていく。

 

翌日は流石にかなり足がいたくなったが。

 

これも取材の結果だと思って、諦める。

 

そのままデータをまとめていく。

 

劇団といっても、ずっと同じ団員が所属している訳では無い。殆どは別に仕事を持っている事が多い。

 

余程大きな劇団だと、それだけで食っていけるようなケースもある。

 

劇場をもっていて、そこで独自の劇を披露して。それで黒字になるような一部の劇団である。

 

だがそういう場所はコネが結構モノを言うようだし。

 

色々なドロドロもあるようだ。

 

日野はそういう大手の劇団には最後まで所属しなかったようだが。

 

それでも幾つもの劇団を渡り歩いて、貪欲に演技力を上げていったようである。

 

必ずしも、どこでも歓迎はされなかったようだが。

 

劇団で取材をして見ると。

 

かなり嫌そうな顔をされた。

 

ベテランの劇団員だが。取材許可は取ってあるのだが。

 

砂時計を置いて、これが終わるまでと条件を言うと。

 

渋々話はしてくれた。

 

「あいつは演技は出来るが連帯を考えない奴でな」

 

「具体的にお願いします」

 

「自分ばっかり振りかざして、他の団員に迷惑を掛けてたってことだ」

 

「どのような事があったんですか?」

 

ひょっとして此奴かと思ったのだが。

 

案の定そうだった。

 

正確には少し違ったが。

 

どうやら、日野にこっぴどく振られた奴の先輩らしい。かなりのベテラン劇団員のようだが。

 

今でも日野を恨んでいるようだ。

 

「彼奴が我慢して交際を受けてれば、劇団はスムーズに回ったんだよ。 あの頃は人材も揃っててな、下手をするともっと大きな興業をやって、派手に稼げるかもしれなかったんだ。 劇団のためを考えれば、多少の我慢くらいするべきだろうがよ」

 

「……その振られた方は」

 

「暴れて警察沙汰。 それでしばらくは劇団はやりづらくなってな、今でもこんな規模だよ畜生。 立て直すのにどれだけ時間が掛かったと思ってやがる」

 

「なるほど、有難うございました」

 

笑顔を保ったまま、砂時計の砂がまだ残っているのに取材を切り上げる。

 

ふんと鼻を鳴らして大股で去って行くベテランの劇団員。

 

笑顔を保つのが大変だった。

 

クソが。

 

そう背中に吐き捨ててやりたかったが。必死に我慢する。

 

感情で記事を書くのは最低だ。

 

客観性を保て。

 

主観を殺せ。

 

そう言い聞かせて、ようやく石山は我慢することが出来た。いずれにしても、録音テープで得られた話以上の事を書くつもりはない。

 

日野に同情したが。

 

はっきりいって。こういう場所にはまだまだ最悪の意味での体育会系思想が生きていると言える。

 

というか、たかが劇団のために自分を殺して相手に好きかってさせろという思想は、どこから湧いてくるのか。

 

例え役者として優れていても、あのベテラン劇団員の劇は興味をそそられない。

 

いずれにしても、深呼吸を幾つかする。

 

他にも何人かに話を聞いたが。

 

日野の所属時代の劇団員はほとんどいなくなっていた。

 

まあ傷害事件になったのなら、劇団が一度壊滅するのも当然と言えば当然だろうし。

 

はっきりいって、知った事ではないが。

 

次の劇団にも行く。

 

かなりの高齢の劇団員がいたが。意外にも、最近劇団に入った人間だそうである。

 

定年退職したので、どうせならという事らしいが。

 

まあそれはそれで面白そうだ。

 

取材をして、話を聞いておく。

 

まさか取材を受けるとは思わなかったのか、色々興味深い話をしてくれた。許される範囲内で聞いて録音し。データも渡しておく。

 

こういう誠意のある取材をしないと。取材とはいえない。

 

そう、石山は判断していたし。それを容認してくれる環境にいることが出来て、本当に良かったとも思っていた。

 

 

 

データは充分に集まった。

 

劇団ははっきりいって生臭い場所だった。趣味人が集まっている、と言う割りには体育会系の空気が強く。

 

それに我が強い人も、劇団への過剰な愛がこじれている人もいた。

 

日野茜は、そういう場所である意味揉まれたのかも知れないし。

 

だからこそ、劇団を去ったのかも知れない。

 

劇団に対して、一元的な見方をするつもりはない。

 

ただ自己表現の場であると同時に。

 

体育会系思想が蔓延している場でもあり。

 

それは行きすぎた部活が、ブラック企業と同じようになっているのと同じ構造なのかも知れず。

 

同調圧力が、悪い方向で作用している場所なのかも知れず。

 

劇団によっては趣味人が好きにやれている場所なのかも知れないし。

 

石山には、なんとも言えなかった。

 

いずれにしても、劇団をテーマに記事を書きたいとも感じたが。

 

それをやるには時間が足りない。

 

ただ、劇団そのものには興味を持ったし。

 

いずれ、仕事以外のブログ記事で。

 

記事を書いてみたいとは思った。

 

それに劇団と言ってもピンキリだった。

 

本気で演劇が好きな人が集まっているけれど、単に好きなだけで向上心がそこまでない人達の集まりである場所や。

 

逆にプロ意識は強いけれども、芸能界を意識しすぎて変な方に拗らせてしまっている場所もあった。

 

スポーツなどでも同じだ。

 

プロになる事を意識しておかしな方向に拗らせている部活は、幾つでも思い当たる。

 

石山自身が入部した訳ではないけれども。

 

それでも学校時代、あまり良くない部活は見聞きしている。

 

本格的に調べたら、それこそ最悪の意味での体育会系思想が蔓延している部活なんて幾らでもあるだろうし。

 

昔は虐めによる殺人などをもみ消していたケースだってあっただろう。

 

複雑な気分だ。

 

今の子は、やる気が無ければ帰れと言われれば。本気で帰るという話がある。

 

それを若い子がやる気がなくてどうのこうのと叩きにつなげる老人がいるのだが。

 

そもそも趣味でやるようなものを。

 

どうして無茶なトレーニングとかで心身を壊したり。

 

青春を潰したりしてまでやらなければならないのか。

 

其処には趣味における最大の要点である「楽しい」が欠けている。

 

劇団にしてもそう。

 

みんなで楽しみながら高みを目指す、とかならいいのだろう。

 

だが、それを出来ている劇団は。

 

あったにはあったが、小規模なものばかり。

 

やはりお金が絡んだり、栄達を狙う人間が入ると。

 

「楽しい」が歪んでしまうのは、どうしても人間の組織構造としてはあるのだろうと。石山は結論せざるを得なかった。

 

取材が終わって、しばらく考えをまとめる。

 

データは揃ったので、後はそれを記事にしていくだけだ。

 

これは仕事だ。

 

手を抜くつもりはない。

 

石山自身が楽しいか、はあまり関係無い。

 

情報を扱う以上、そこに私情は不要。

 

主観も不要。

 

あくまで客観的にデータを分析し。

 

そして記事を書いていく。

 

それだけである。

 

SNSを軽く見て、日野茜に対する評判も一応確認はしてある。

 

データはとれるだけとっておいたが。

 

それらの情報は、まあまあというところだ。

 

「日野茜か。 まあ俳優としては、CMとかでは存在感はあるよな。 高宮の映画で起用されているって言われてもぴんと来ないけど」

 

「まあ最近は顔を隠したりそもそも立方体の中に入ってたりだから、俳優が露出しないってのもあるしな」

 

「映画のエンドロールで名前を見つけて、ああ今回も高宮のエジキにされてるんだなあって同情することはある」

 

「良くエンドロールまで耐えられるな。 俺にはとても無理だ。 高宮の映画は、二時間ぐっすり寝るために見に行ってる」

 

まあ、高宮映画での存在感ははっきりいって厳しい。

 

日野茜に限らず、登場している俳優全員がそうだ。

 

ただし、最近は高宮映画は「不愉快では無いクソ映画」「見る睡眠導入剤」として変な人気が出ているし。

 

興行収入も相応に上げている。

 

出演した俳優は、日野茜だけではなくそれなりに有名になっているし。

 

何より無名の劇団出身者ばかり俳優として採用しているという事もあるのだろう。

 

特撮などに並ぶ新人の登竜門として、高宮映画はそれなりに有名になってきているようである。

 

もっとも、映画に出ていたと言う事で有名になるのではなく。

 

スタッフロールにある名前をSNSなどで誰かが調べて、それを拡散し。

 

その後に皆で調べて、こう言う人なのかと歓心を持ち。

 

それでやっと知られるようになるという、変な経緯で、のようだが。

 

資料をマクロでまとめながら、記事をまとめていく。

 

石山は記事を書いたあと、取材をした人間全員に回すようにしている。

 

これは記者としての誠意だ。

 

それできちんと問題が無いかを確認してから発表する。

 

記者として、他がやらないことをする。

 

それが石山の記者としてのあり方。

 

二次元から来たようだといわれるけれども。

 

そう言われても、別に悔いはない。

 

今は普通の方がおかしい時代だ。

 

人間の言う普通は、同調圧力で弱者を痛めつけて悦に入るようなものだから。はっきりいってろくでもない。

 

古くから、多くの偉人が「常識なんてクソだ」とはっきり断言しているのも。それが故である。

 

だから、別に普通であろうとは思わないし。

 

普通である事を自慢にしているような輩は、反吐が出る程嫌いだ。

 

たまに見かける。

 

石山の記事は異常だと。

 

ブログなどでも、最近はたまに見かけるようになって来た。

 

この間。高宮映画について書いた記事についても、新聞で批判記事が出たので目を通している。

 

曰くこれは論文に近いもので。

 

このような労力を掛けて記事を書くことなど出来ない。

 

これは記事とは呼べない。

 

スポンサーがいて、サラリーマンである記者は。スポンサーや読者が喜ぶものを書くのが当たり前であって。

 

こんなものがスタンダードになったら、本職が路頭に迷うと。

 

その意見については、石山は書いた奴を呼び出して面罵してやりたいと思ったけれども。

 

言論の自由だ。

 

好きにしろとしか言えない。

 

ただ、その新聞記事には凄まじいクレームが殺到して炎上したようである。

 

まあそれはそうだ。

 

自分達はスポンサー様のケツを舐めて、真実をねじ曲げて報道しています、という事を隠しもしなかったのだから。

 

そればかりか、偏向報道を正当化すらもしているとも言える。

 

真実は自分達が作る情報こそで。

 

真実なんて、どうでもいい。

 

自分達が発信する情報を、愚民はまともに信じ込んでいれば良い。

 

そう言っているも同じだった。

 

残念ながら、今はSNSにもバカは多いが。それ以上に、こういったマスゴミの不愉快な本音に対して理論的に反論できる存在も多い。

 

石山は一切反論しなかった。

 

翌日には、その記事に対しての謝罪文を新聞が掲載したからだ。

 

まあそれもそうだろう。

 

不買運動が始まりかねなかったのだから。

 

それは、あまりにもマスゴミの記事が酷すぎて。石山が書いた記事が、相対的に良くなっていた、というのも理由としてはあったのだろう。

 

しばらく心を整理して。

 

己を消して無の境地に入ると。記事を書き始める。

 

今回も痩せるだろうが、それは別にどうでもいい。

 

ともかく、日野茜という存在に対して、徹底的に客観的な立場から記事を書いていく。

 

自身の感情なんてどうでもいい。

 

体育会系の傾向をもつ劇団についての不快感もどうでもいい。

 

そんなものは遠くに放り捨てて。

 

ただひたすらに、客観の権化となって記事を書く。

 

他にこうやって記事を書いている人間なんて、存在しないとしても。

 

ここに石山がいる。

 

例え二次元の住人と言われようと。

 

すっぱ抜き記事を書かない野心がない腑抜けと罵られようと。

 

限りなく真相に近い真実を届け。

 

そして主観という人間がもっている最大の呪いから外れた記事を書くには。

 

これが一番だとも言えた。

 

記事を数日かけて書き終える。

 

ここからが、本番だが。

 

まず、取材を受けた人間全員に回す。勿論日野茜にも、高宮監督にもだ。

 

そこで指摘を受けた分を修正し、更に何度も回して許可を得たら記載を行う。

 

日野茜へのピックアップ記事は、相当に今後の高宮作品で。

 

正確には、高宮監督の野望にとって重要なものとなるだろう。

 

だから、石山はこれを任されたことを非常に嬉しいし。

 

やり遂げたいとも思っていた。

 

殆ど反発はなかったが、誤字脱字の指摘などは幾つか来た。それについては、修正をしておく。

 

録音データは相手にも回している。

 

だから、それに沿っていない内容の記事にはしていない。

 

すれば即座にばれるから、である。

 

何度かの修正を経て、記事が完成する。

 

なお当の日野茜は。

 

記事に対して、何かを言う事は一切無かった。

 

こういった記事は、少し間違えると簡単にプロパガンダになる。それだけは絶対に避けなければならない。

 

そういう意味でも。

 

記事については、本当に気を遣わなければならなかった。

 

やがて全OKが出たので、記事を掲載する。

 

今回も、石山は体重を四キロ落とした。

 

記事をアップした時には、文字通り口から魂が出かけていたが。

 

それはそれとして。

 

満足であることに、代わりは無かった。

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