謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
しかしこの監督は映画を作るのをやめません。
Z級映画だからこそ、意味があるのです。
スタジオには警察が入っていて、一部閉鎖になっていたが。
事前に使用予約を取っていたので、スムーズに撮影をすることはできた。
残っているのは大したシーンではないので、そのまま撮影を終わらせて、それで終了である。
役者達には激励とかをかける監督とか。
或いは飲み会で朝まで引きずり回す監督とかがいるかも知れないが。
高宮はその辺はやらない。
業病の蔓延もあって飲み会がやれないこともあるが。
その前から高宮は打ち上げとかいう文化が大嫌いだった事もあるので。
無意味に過剰なアルコールを摂取させるばかりの飲み会が大嫌いで。
基本的には開催しない。
終わったので、後は家に帰って休みなさい。
そういうだけだ。
役者達はみんな目が死んでいるが。
中にはほっとした様子の者もいた。
それはそうだろう。
毎日SAN値をゴリゴリ削られながら撮影をしていたのである。高宮が組んだ意味不明なプロットと脚本。
意識高い系の人間を意図的に錯覚させるように組んだ様々な内容。
それらのセットが、役者の精神を容赦なく痛めつける。
幸い肉体労働の過酷さはあんまりセットにはなっていないので。
多分次の仕事をやる頃には、正気度は戻っているだろう。
中には高宮の映画に何度も出ている強者もいるのだが。
その度に目が死んでいるので。
物好きなのか、高度なマゾなのか。
それははっきりいってよく分からない、としか言えない。
「高宮監督」
声を掛けて来たのは、別の映画を撮っていた監督だ。
ちなみに高宮に喧嘩を売ってきた奴じゃない。
高宮と同年代だが。
良い映画を作るのに、全く見向きもされない可哀想な人物である。
映画もあんまり客が入らないらしいが。
ただ、ちまたではそれなりに評価をしているレビューも見かける。
「知る人ぞ知る名作を作る人」ではあるのだが。
それではくっていけない事を示してもいる。可哀想な監督でもある。
「今度、私の映画の欠点とかそういうのを指摘して貰えませんか?」
「……貴方の映画は私のよりずっといいですよ。 自信を持ってください」
「しかし、誰も私の映画を見になんて……」
「それは私も同じです」
なんだかなあ。
こんな良い映画を作る監督がこういう風に自己評価を下げてしまうと言うのも、もったいない話である。
高宮は意図的にクソ映画を作っているが。
それはあくまで意図があっての事。
こういう真面目に良映画を作る人は、それなりに評価されるべきだろう。
「業界人」とやらがどれだけ仕事をしていないかの生き証人がこの人であり、高宮である。
似たような業界は他にもあるが。
それについては、まあ今はどうでもいい。
ともかく、肩を落として帰っていく監督を見送る。
何とか自信を取り戻せるといいのだけれど。
あの人もそこそこ良い芸大を出て、あの年で映画監督をしているのだ。
高宮以上に注目されてもいいだろうに。
それなのに、あの扱い。
もっと計画を急ぐべきだろうか。
いや、まだまだだ。
いずれにしても、もっと時間をしっかりかけないと。なにもかもやるには早すぎるという結果を招く。
だから、今はああいう悲劇から目を背け。
クソ映画を作り続けるしかない。
全ての作業が終わったのを確認して、早めに切り上げる。
明日からは別のスタジオで、CGとかも交えながら映画を完成させていくことになるのだが。
役者の演技については後からケチをつけるつもりもないので。
これで充分。
もう終わりである。
家に戻る。
SNSで炎上騒ぎが起きていた。
まあ連日のように何か炎上しているので、別に驚くことはないが。
炎上していたのは、前に私に喧嘩を売ってきた例の監督についてだった。
逮捕である。
なんかあの後も、社長と揉めていたらしい事はしっていたが。
どうやら配給会社でもかばえなくなったらしい。
警察側も、明確な殺人未遂となると、流石に逮捕しかないと判断したのだろう。
しかも偽装工作などが極めて悪辣で、未遂でもいわゆる第一級殺人目的。まあ有罪は免れない。
キャリアなどが介入したのならともかく。
それもなかったのだとすると。
まあ逮捕が妥当だろうとも思う。
これに対して、映画関係者が猛反発していて。不当逮捕だとか陰謀だとか喚いているが。
SNSの炎上騒ぎは、それに対する反発から来ていた。
今回、警察側は丁寧に事件の経緯や証拠などを開示しており。
裁判で勝つ確率を100%と判断しているのだろう。
それらを見て、SNSにたまに潜んでいる専門家が明らかに不当逮捕ではないと断言したこともあり。
映画関係者に対するバッシングが加速したのだ。
特に何人かの、問題発言を繰り返す人間が炎上したことで。
今は関係無い役者とかのアカウントまで、炎上が飛び火しているようだった。
これはもう終わりだな。
そう判断する。
この監督は、ここしばらくまともな映画を撮れていなかった事が有名で。
更に意識高い系統の映画を撮っては、客をバカにし。
漫画の実写化をしているのに、原作を馬鹿にするという。
最悪のスパイラルを繰り返していた人物だ。
もう映画業界から去って欲しいと言う声もあったが。
謎のコネで生き延びていた人物であるということもあって。
今では。もうファンと呼べる人物もほとんどいない。
昔の作品のファンはいるが。
今の作品は誰も見向きもしていない。
そういう悲しい状況だ。
この業界を変えるには、劇物が必要だ。
いわゆる老害。
今ではそういうのか。
年老いた、判断力も鈍って保身に全てを捧げている人間をどうにか排除するには。
ある程度、強烈な毒が必要になる。
そう思いながら、高宮はぼんやり炎上の様子を見て。
それで今日は寝ることにした。
この監督はこれで前科がつく。
それを会社が庇うかどうかは知らない。
いずれにしても、今後映画を作るときは、殺人未遂犯という揶揄の言葉が飛ぶ事になるだろう。
はっきりいって自業自得だ。
それについてどう思う事も無い。
なぜなら。
それが事実なのだから。
面白くもないものを何だかすごそうというふんわりとした理由で褒め称え。意味不明な理屈で煙に巻く。
面白いものを低俗だとか言う理屈で落としめ。
作者どころか純粋に楽しんだ者まで貶める。
業界が狭くなると起こりやすく。
更にその業界が老いると更に加速していく事になる。正直反吐が出る話だが。人間の歴史で散々繰り返されてきた事だ。
小さくあくびをすると、もう寝る。
明日からは、映画作成の本番だ。
出来るだけクソ映画に、今回の映画を仕上げなければならない。
たまにいる、何故かクソ映画として作っている高宮の映画を絶賛するようなファンですら困惑するような出来に。
今回の映画も、仕上げなければならない。
CG作成の会社には、既にだいぶ前から声を掛け。
何カ所かの仕事はしてもらってある。
それらを編集する作業を今日から始める。
これは本来専門のスタッフがやるのだが。
これに高宮も積極的に加わる。
技術的には、本職とそれほど変わらないので。
むしろここからが本番である。
編集作業は色々と大変なのだが。
それでもスムーズに進めて行く。
まあ映画の内容が空っぽだと言う事もあるのだけれども、まあそれはいい。ともかく、どんどんやっていく。
実はここからが大変だ。
可能な限り難解なシナリオにして。
見た人間を煙に巻くようにしなければならない。
難解な理論というのは、実の所崩すのがかなり難しい。
カルトが未だに猛威を振るっているのはその辺りが理由だ。
連中は自分達の理論をガチガチに固めて、専門家でも簡単には崩せないようにしている。
カルトの思想の内、世間に出回っているのはあくまで要約したものである。専門家が論破して遊んでやろうなどと出かけていくと、逆に洗脳されて信者になってしまうのも、その辺りが理由だ。
カルトを引き合いに出すのは少し気分が良くないが。
いずれにしても、今は敢えて意味不明の内容を作り込んで、映画に仕上げていく必要がある。
編集の際に、色々質問されるけれども。
それについては敢えて適当にはぐらかす。
本命の部分は自分で全部やるので。
その辺りはどうでも良いからである。まあこの辺りは、事前に情報がリークされるのを防ぐ意味もある。
防いだところで何の意味もないのだが。これについては気分という奴だ。
その後は、通して編集分の内容を何度か見る。
意図的に、何かのメッセージが込められているかのような演出をぶっ込んでいく。勿論本当ははったりだが。
この程度も見抜けないほどになっている連中がいるので。
それらには丁度良い。
編集作業は、デスクワークがむしろ得意な高宮には楽しい。
タカタカキーボードを叩き。
編集ソフトを操作して、ガンガン作業を進めていく。
そして、途中で何度か仕上がってきた映画を、順番に自分でチェックする。
この作業を怠る監督が結構いるらしいので、嘆かわしい話だ。
忙しいというのは理由にはならない。
小説ですら、誤字脱字はプロでも出すのだ。
映画を本人がしっかりチェックしなくてどうするというのか。
ましてや、今はクソ映画を意図的に作っているのだ。
ちゃんとつまらないかは、本人がしっかり確認しておかなければならない。勿論、深淵を覗き込んで深淵に覗き返されるのは防がなければならないが。
今日の作業終了。
編集作業のスタッフも定時で帰らせる。
どうせ映画の予定はじっくり組んであるのだ。
定時で終わって問題ない。
自分も切り上げてさっさと家に帰る。
そうすると、案の定SNSで、広告がぶたれていた。
「鬼才高宮葵脅威の新作! 今作は江戸時代を舞台に社会のあり方を問う驚愕の内容!」
さいですか。
どーでもいいので、作った本人が生暖かい目で広告を見る。
こんなアホみたいな広告に、幾ら会社が支払ったのやら。
見ているだけで頭が痛くなる。
広告を途中でスキップして、SNSの続きを見る。本人すら、広告に興味が無いのだ。そんな映画である。
それが国の策で税金が割り当てられ。
意識が高い人間だけがもてはやす。
こんな滑稽な喜劇はあるだろうか。
いや、喜劇というよりも悲劇と言うべきであろうか。
なんというか、情けない話である。
文化は文化。
それに貴賤はない。
それなのに、人は文化に貴賤を設けたがる。それが滑稽でしかたがない。
例えば、喰人の風習とかは文化としては残してはいけない。
そういったものは確かにある。
だが、世界中で忌避されてきた性に関する文化は。どうしてこうも抑え込まれてきたのか。
人間の数だけ好き嫌いはある。
だから他人の好き嫌いに干渉する事は、その人間に手袋を投げつけるに等しい。
勿論相手が弱ければその嗜好を表向き押しつける事は出来る。
だが、内心では嫌いになられるだけだ。
人の心はその人だけのもの。
映画だって同じ。
それなのに、いつの間にか映画は崇高な芸術で文化だと思うような輩がのさばるようになって。
あらゆる意味で、面白くない。
高宮はため息をつくと、明日の編集分を頭の中で組んでおく。
こうする事で、作業を更にスムーズにする事が出来るのである。
後は風呂に入って寝る。
誰から見てもド陰キャの高宮だ。
芸大時代は陰口を同性にも異性にも叩かれていたし。
映画で不名誉な実績を上げ続けている今も、周囲に友人はあまりいない。
今ではすっかり静かに一人で暮らせている。
それがとても快適なのだが。
話しても、なかなか理解されることは無かった。
映画の輪郭は概ね出来上がったので、後は高宮が主導でくみ上げていく。もう編集作業はだいたいおわりなので、バイトはもう上がって貰った。
高宮の映画の編集バイトは、基本的に誰でもいいとして選んでいる。
この辺り映画によってはかなり厳選したりするのだけれども。高宮はその辺りを一切気にしない。
というのも、高宮はそもそも作る映画が意味不明なので。
編集の人間が情報をリークしたところで、意味が分からない内容になるからだ。
一度リークされたことがあったのだが。
しかしながら、内容が意味不明すぎて、誰も理解出来ず。信じようともしなかった。
だが本編はそのまんまの内容だったので。
流石にクソ映画になれているSNSのクソ映画ソムリエ達も、SAN値を失ったようだった。
そんな過去があるので。
高宮は普通に安いバイトを雇って編集をしてもらっている。
それでいいのである。
困る事など、何一つないのだから。
まあ流石に、最後に完成した映画を見せることはしない。
それだけは、流石にやってはならないと思っていた。
だいたいの映画が出来てきたので。
後は一人でやる。
残ったスタッフも切りあげさせる。
この辺りは配給会社で人員をやりくりしているので、プロジェクト解散というのが近いかも知れない。
後は高宮が一人でやる。
これは高宮の映画製作における恒例行事になっていた。
まあ会社内のスペースは自動で使える。
流石に近年の映画のCGは家庭のPCでは動かせるようなものではないので、会社のサーバを使うのである。
この辺りの知識は独学で覚えた。
今時映画撮影には必須の知識だ。
この辺りの編集を一人でやっている事は意外と知られていて。
クソ映画ばっかり作っていると言われる高宮だが。
案外、ストイックなのかも知れないとフォローが入る事もある。
実際には他者に関わらせるのが面倒だから一人でやっているのだけれども。まあ好きに解釈すれば良いと思う。
淡々と仕上げていき。
やがて最後の仕上げが終わる。
細かい部分のブラッシュアップも自分でやる。
とはいっても、元が大した事がない映画である。
やる作業など、知れているが。
その後は、ひたすらに通して見る。
そして、つまらない事を確認する。
クソ映画として、徹底的につまらなく作ったのである。面白かったら駄目なのである。勿論どうすれば面白くなるとか、そういう意見も受けつけていない。
意図的にクソ映画を作っているのだ。
それについて、どうこう言われる筋合いはないし。
他人に理解だって求めはしない。
どうせ理解もされないし。
それについては、もうどうでもいいと思っている。
数日かけて、映画を何度も通して見て。
ブラッシュアップもしていく。
一人で黙々と作業をしている様子は、気味悪がられることも多い。
映画の発表から。
公開にかけての半月ほど。
こうやって高宮はいつも一人で会社のデスクに貼り付いて、ずっとキーボードを叩き続けている。
それは社内で悪い意味でも名物になっていて。
それをSNSで拡散する奴もいるようだった。
ともかく、最後の仕上げだ。
細かい所まで、つまらなくなるように徹底的にこだわる。
出来れば見た人間が怒り出すのではなく。眠り出すようなものを書きたい。
自身はねむらない。
細かい所まで自分を知り尽くしているし。
計算し尽くした上でつまらなくしているのだから。
後一週間ほどで仕上げなければならないが。
まあ充分だろう。
予定は充分に余裕を持ってとっている。此処で病気にでもならなければ平気である。
定時で上がる。
幽霊のようだと評される高宮が無言で出社して帰宅していくのは、非常に不気味な光景らしく。
それを見た社員が悲鳴を上げたことも何度かある。
どうでもいい。
そもそも見かけで相手を判断する文化が気にくわないし。
逆に言うと、見かけで相手を判断する程度の生物だから、人間なんぞはいつまで経っても進歩出来ないのだとも割切っている。
それに気楽だ。
最初から、何一つ期待していないので。
今後も、期待出来る要素が何一つ出てこないのだろうから。
流石に頭をフルに酷使したこともある。
少しばかり、すっきりねむれた。
夜勤だとか徹夜だとかは絶対にしない。
先達が、それで体を壊して廃人になるのを何人も見ているからだ。
業界によってはシフトなどで人間を使い潰しているが。
それを経験した人間は、体か心のどちらかを必ず壊している。
実際に例を幾つか見ている高宮は。
夜勤とかシフトをやらせておいて「みんな頑張っている」とか抜かすような輩を、徹底的に軽蔑していたし。
自分でもやるつもりは一切無かった。
朝起きて、夜寝る。
それが人間が健康である秘訣だ。
そもそも夜行性の動物ではないのである。
その上、無理に夜にずっと起きて仕事をしていて、体が無事で済む筈も無い。
まだ若い高宮ですら、これは命を削っているなと。
芸大時代に徹夜をしていて思ったことがある。
それを感じ取れないのは。
若くて体力があるのではない。
単なるアホだからだ。
故に、高宮は。
自分も。
自分が監督として関わる人間にも。
絶対に無理はさせないようにしている。
起きだしてから、いつものようにコーヒーの写真をSNSに上げる。
今日はちょっと珍しいコーヒーだ。
とはいってもインスタント。
マイナーな地方の企業が作ったインスタントコーヒーで。
はっきりいっておいしいものでもなんでもないが。
単に珍しいのと。
毎日同じコーヒーを上げても面白くも何ともないので。これを上げているだけである。
味についての感想なども素直に書いている。
珍しいコーヒーだが。
大手のコーヒーに比べてずば抜けて美味しいものでもない。
そうとだけ書いておいた。
流石に露出する立場なので、まずいとかはかかない。
それは高宮は、最底辺のマナーとして理解していた。
後は、幾つか時事問題とかをチェックしてから出社する。
映画業界がどんどんおかしくなっているのは、海外も同じのようで。
米国ではいわゆるポリコレが猛威を振るっていて、それに映画ファンがうんざりしているし。
他の国でもそれは同じ。
特にお上品な事で知られる欧州の映画は、もはや何が何だか分からない代物ばかり垂れ流しているようで。
完全に芸術家気取りの玩具になっているのが、日本から高宮が見ていても明らかなくらいだった。
幾つかそれらの情報があったので、うんざりする。
文学で言うと、いわゆる純文がクズ人間を如何に精緻に書くかを競う物になっていったように。
映画もこのままいくと、どんどんおかしな方向に行ってしまうだろう。
幸い、文学に関しては。純文以外では、まともにエンターテイメントしているものもまだまだたくさんあるので、それは救いだが。
ため息をつくと。
相変わらず幽霊のように、そのままふらっと家事を済ませて。
それから出社する。
もう少し。
もう少しで、このクソ映画も完成する。
そう思うと、高宮も少しだけ嬉しかった。
後、微調整を丁寧に繰り返して。
映画も完成だ。
出社するが、プロジェクトは既に解散。ずっと一人作業である。
だからすれ違う相手に挨拶する以外は、他人と関わらなくていいのがとても嬉しいところである。
更には、高宮の部署は幽霊屋敷などと社内では呼ばれているらしく。
若い社員は怖れて近寄らない事すらある。
まあ高宮のデスクは、奥の方にちんまりとあって。
そこにひょろっと背が高い高宮が、手以外はほとんど微動だにせず。
手だけは超高速で動かして、無言でずっと作業をしているし。
イヤホンをつけて作業をしているから、殆ど周囲に音は漏れていないし。
不気味と言えば不気味なのかも知れないが。
まあそうやって不気味がっていてくれ。
そう高宮は思いながら。
今も顔を引きつらせながら側を通って行った人間を無視して。
作業を続けていく。
微調整はだいたい終わりか。
後は映画を通して確認して、徹底的に頭に入れていく作業だ。
自分で作った作品だとは言え、これは創作家にしか分からない事だが。結構忘れてしまう事はある。
このため、作っていて矛盾が出てくる事とかがある。
これはどんな大作家でも同じだ。
ある日本でもトップクラスに有名な歴史作品で。同一人物が三回も死んでしまう事は有名な話だが。
この作品自体は、時代を越えた大傑作である。
そういうものなのだ。
だから高宮も気を抜かず。
丁寧に丁寧に。
作品を見返して、細かい部分を調整する。
役者の演技についても、特にああだこうだと文句をいうつもりはない。
というのも。
一部の阿呆が口にする「自然な演技」とやらをやらせているからである。
これを見てどう思うか。
それが全てだ。
役者達も困惑しながら、必死に意味不明な台詞と展開に沿って演技をしているが。それでいい。
撮影の時は時系列も無茶苦茶なので、余計に混乱が酷かっただろう。
勿論役者を苦しめるつもりはないが。
結果として、退屈極まりないものになっていて。
それは高宮にとって計算通りの展開だ。
無言で調整を終えて。
そしてデータを完成させた。
予定より四日前倒し。
今回も、映画は完成した。
すぐに連絡を幾つかの部署にとって、映画が完成したこと。
いつでもマスターデータを提出できることを連絡しておく。
高宮は「業界人」には知れ渡っている監督なので。
この辺りは、最近とてもスムーズで楽だ。
すぐにマスターデータを取りに来る人間に、データを引き渡す。
映画の上映は来月からだが。
それまでに、やらなければならないことが幾つでもあるからだ。
ちなみに試写会もやるが。
来るのはクズ映画マニアと。
意識高い系の「業界人」が半々。
マスコミも一応来るが。
連中は専門家でもないのに何故かやたら偉そうなので、高宮は大嫌いだった。マスコミには好かれているが、どうでもいい。
基本的に質問に対してはどうぞご想像にお任せしますとしか答えない。
取材が終わったので、一度家に戻る。
その後、メールで連絡が幾つか来た。
試写会のスケジュール。
それに取材について云々。
適当に応じて、スケジュールに組み込んでおく。
次の映画の撮影について、社長に連絡もいれておく。
今回の映画が映画館で放映(映画館には本当に同情するが、これも仕方が無い事なので諦めてもらうしかない)され始めた頃には、もう撮影を開始する。
脚本だったら、ある。
まだなんぼでもある。
アルティメットコメディシリーズは、幾らでも脚本の在庫があるからである。
これから、順番にやっていけばいいだけのことだ。
役者などについてのオーディションは、すぐに始める。
若手の俳優などを専門に入れる。
アイドルとか芸能人は使わない。
演技指導にもろくに従わないわ。
やたらと偉そうだわ。
それでいて、「客寄せのためには必要」だとかいう意味不明な理由で、それなりに有名な監督も使うわ。
それでいて、結果として作品の出来を下げるわで。
はっきりいって大嫌いだ。
それだったら、まだ必死に俳優として頑張りたいと思っている、情熱のある若手がいい。
まあ経歴の染みにさせてしまうかも知れないが。
ここからが少し忙しいが。
それでもしっかりスケジュールを組んでいるので、無駄に夜遅くまで作業をすることにはならないだろう。
伸びをすると、高宮は。
一作作りあげた事を、まあ可としようと思った。