謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
高宮が所属する配給会社のHP。その特設サイトに、日野茜の特集記事が掲載されることになった。
高宮自身も勿論目を通したが。
相変わらずマスゴミの書く記事とは一線を画している代物である。
あらゆるデータを徹底的に集計し。
そこから理論的に分析している。
しかもぐうの音も出ないレベルでデータを集めており。
文章力でしっかり読ませる作りになっていた。
なるほど、これでは千程度のデータしか集めていないのに、統計だのなんだのとほざくような新聞記者では勝負にならないのも当たり前だ。
石山は新聞記者ではない。
記者ですら無いかも知れない。
情報を正しく発信するという意味で、もはやそういう魔的な存在なのかも知れなかった。
記事を読み終える。
プロパガンダになっていないので、それも安心した。
誰かに対する記事は、個人にしても団体にしてもそうだが。崇拝記事になったりすると最悪だ。
それを真に受けた奴が、そのまま自己神格化へ暴走するケースがいくらでもある。
プロパガンダは最悪の代物だ。
現代でもプロパガンダは色々な場面で健在だが。
あれをやると、組織は一気に転落するし。
個人は一気に闇落ちする。
その点、この石山が書いた記事は非常に丁寧かつ、気を遣って記事に仕上げていると言えるし。
好感が持てた。
高宮は、死んでいるだろう石山に連絡を入れる。
案の定、石山は精魂使い果たした声を出していた。
「はい、石山れす……」
「記事お疲れ様。 後は指示を出すまでゆっくりどうぞ。 ボーナスだすから、温泉でも行って来ては」
「あい……」
「じゃ、ゆっくり休んでね」
どうにも話せる状態ではないと判断。
すぐに連絡は打ち切った。
さて、此処からだ。
小野寺と井伊をテレビ会議で招集。
更には、今回から黒田も招集することにする。
黒田にはエンジニアとしての仕事をして貰っている。
そして、今後は編集作業も手伝って貰う。
黒田は少しずつ体を回復させているようだが、それでもやはり内臓は幾つも酷い事になっている。
何度も死を考えたという黒田は。
この職場に入ったことを感謝してくれているし。
何よりも、ブラック企業を当たり前のように受け入れているこの時代を憎んでもいる様子だ。
それならば。
高宮がやろうとしていることには賛同してくれるだろうと判断。
小野寺から話をしてもらい。
この間、正式に同意を得られた。
勿論そのまんま両手放しに受け入れられる訳では無いので。
しばらく様子を見て。
それで信用できると判断。
今回から、同志に加わって貰う事になったのだった。
「日野茜の特集記事について、意見を聞きたいかな」
「私はいいと思う。 これはプロパガンダではなく、客観的に良く出来ている記事に仕上がっている」
井伊はそう断言。
まあ、井伊ならそう言うだろうと思った。
ちなみに井伊は大手の自称「クオリティーペーパー」も一通り目を通しているそうだけれども。
はっきりいって内容は論外だそうだ。
まあこれについては高宮も同じ意見である。
なお英語の海外新聞も最近は質が落ちる一方だそうで。
マスゴミの質の低下は、日本だけの話ではないらしい。
今後、恐らくマスゴミという言葉は世界中に普遍的に広まるだろうという事を井伊は言っていたが。
まあそれについても同意できる。
「かなり厳しい批評ですね。 日野さん、良くこれを受け入れたなあ」
「厳しいからこそでは……」
小野寺が苦笑い。
そこに黒田がフォローを入れる。
やはり何というか、もの凄くヤバイ場所に足を踏み入れたことは肌で分かるのだろう。
戦々恐々としているのが、何となく分かる。
「日野さんはストイックな人のように見えますし、厳しいけれど客観的に見て正しい事を言われれば、受け入れられると言う事では」
「なるほどねえ」
「いずれにしても変に大御所とかを気取ってしまうと人は駄目になりますし、これでいいのではないかと思います」
舐められたら終わり。
そう考える人間は、最終的に神とかを自称し出す。
それがどれだけ滑稽か、考える能力もその頃には失われているケースが多い。
良い例が、実在した宇宙大将軍という人物だ。
信じられない話だが、そう名乗った人物が実在しているのである。
いずれにしても、同志の間でも記事は客観的と好評だ。
プロパガンダになっているなら、即座に井伊はそう指摘するだろうし。
そうでないということは、高宮の見立ては間違っていなかった。
石山はこの記事を見ても分かるが。
もう記者ではないと思う。
今記者を名乗っているクズ共とは完全に別の生物だと言える。
そしてそれは。
決してバカにされる事ではなく。
褒めるべき事だとも思う。
命を削って記事にしているのだ。
客観なんて必要ない。自分の出した結論に、真実をねじ曲げてしまえば良い。
そう考えている記者が普通である今。
記者である事は、むしろ恥だ。
そんな存在にならなかった事は「異常」かも知れないが。
普通が狂っているのだから、異常である事はむしろ誇りだろう。
「さて、これで手札が揃ったかな。 後は司法関係に協力者がほしいところだけれども」
「今、リストを見繕っている」
「お、手が早いね」
「……任せてほしい」
井伊が言うので。高宮はこくりと頷いて、任せることにした。
全てをひっくり返すなら、何もかもを電撃的にやっていく必要がある。
この腐りきった業界を炎で焼き尽くすために。
高宮は、あらゆる準備を怠らない。
(続)
ついに牙を剥く高宮の京都(ではない)焼き討ち計画!
その恐るべき野望をとめられる存在は誰もいないのです。
既に時限爆弾のスイッチは入っているのでした。