謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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刑事物ってジャンルは色々……主に厄介なファンの関連が面倒で、その面倒さはミリタリものと似ているものがありますね。

だからいっそのことエンタメにしてしまうのが正解なのかも知れません。


1、触手は世界に伸びる

日野茜は今回も俳優として起用。

 

劇団出身者を中心に俳優を集めて、映画の撮影を開始する。

 

最近は昔と違って、オーディションに時間を掛けるようにしている。

 

やはり巧妙に入り込んでこようとする反社と関係がある人間がいるので。

 

それを弾くために、しっかり調査をしているからだ。

 

それで多少はお金がかかってしまうけれども。

 

必要経費だと判断して、我慢はしていた。

 

そのまま数人を起用。

 

撮影を開始していた、

 

今回は刑事物だが。

 

警察に詳しい人間とかは別に呼ばない。

 

昔の警察ドラマが、異常に重武装な悪の組織と銃撃戦とかカーチェイスとかをしていたように。

 

別に刑事物で、リアリティなんて要求されないのである。

 

海外の刑事物だってそれは同じだ。

 

散々刑事物は描かれている筈だが。

 

そこにリアリティはないだろう。

 

あるのはエンターテイメントだ。

 

とはいっても、やっぱり意識高い系の人間が撮ると、そういうのはなくなってしまうのだろうが。

 

そもそも高宮映画には。エンターテイメントそのものが存在しないので。

 

その辺りは関係がない。

 

撮影を開始。

 

今回も新人ばかりを起用。

 

なお、海外メディアが取材を申し込んできたのだが。

 

これらについては。井伊が吟味し。

 

怪しい所は門前払い。

 

更に、今までにろくでもない記事ばかりを書いている新聞も除外。

 

ただ、門前払いをそのまんま露骨にするのではない。

 

今は多忙だから、という理由で断る。

 

そのまま、後は様子を監視。

 

もしも記事の内容次第だったら、告訴することをそのまんま念頭に入れる。

 

海外だと、金があれば裁判には勝てるケースが多い。

 

この間ちょっと考えた、「文化の違い」という奴だ。

 

金さえあれば大量殺人だろうが何だろうが無罪になる。

 

あのアルカポネが良い例である。

 

そしてそれを誰も疑問に思っていない。

 

良い弁護士さえ雇えば、大量殺人をしてもその場で射殺さえされなければ、普通に無罪放免。

 

それが海外の司法というものの「普通」だ。

 

日本でも事情通を自称するような連中が、それを「進んでいる」と勘違いしているケースが散見されるので。

 

いずれ日本でもそれが当たり前になるのかも知れない。

 

文字通り最果ての時代らしい有様だが。

 

はっきりいって、高宮にはどうでもいい。

 

人間になんぞ、期待は微塵もしていないのだから。

 

撮影の最初は、いつも通り組み体操からとっていく。

 

謎の組み体操シーンがあることは、俳優達も流石に周知だったのだろう。

 

死んだ目で、淡々と組み体操をやっていく。

 

危険な組み体操は一切やらせないし。

 

危険が予想される場合はマットなどを使って、最大限の安全配慮をする。

 

その辺りの職場環境がホワイトである事も知ってはいたのだろう。

 

ある程度俳優達も、安心はしているようだった。

 

撮影を淡々と続けていく。

 

最初にNGは出さないと言ってある。

 

だから、その分必死だ。

 

皆、脚本は徹底的に頭に叩き込んできたのだろう。それは必死な様子で、全く無意味な脚本に沿って泣きそうになりながら演技をしている。

 

頑張っているなあ。

 

だが無意味だ。

 

そう思いながら、高宮は愉悦を隠すのに苦労する。

 

俳優を虐めている訳では無い。

 

意識高い系の業界人をまとめて叩き潰すために、協力して貰っているだけである。

 

によによがマスクで隠れるのは丁度良い。

 

そのまま、昼休みまで撮影を続け。

 

昼休みはいつもの弁当屋に頼んで、弁当を配膳して貰った。

 

高宮が使っていると何処かで話題になったのか、

 

最近チェーン店が出たそうである。

 

かなり売り上げが伸びているようだ。

 

良い事だが。

 

計画が最終フェーズに移行したとき。

 

変な影響を受けないか、少しばかり心配である。

 

昼休みにぼんやりしていると、スマホが鳴る。

 

昼休み一人でいるとき、短時間だけスマホの電源を入れることがあるが。ピンポイントで来たという事は、同志の誰かだ。

 

メールを見ると、石山だった。

 

「海外の映画批評ブログで、気になるものをまとめておきました。 後で確認をしておいてください」

 

「はいOK」

 

「それでは」

 

短くやりとりを終えると、スマホの電源をオフにする。

 

まあこれでいいだろう。

 

石山は仕事をきちんとしてくれていて、大変に助かる。

 

まあ、メールも後で見てくれればいいくらいの感覚で送ってきたのだろうが。事前に分かっているのは、それはそれで有り難い。

 

午後の撮影を実施。

 

今回は組み体操に凝るつもりなので、数日は組み体操の撮影だ。

 

これを散々映画に叩き込んで。

 

刑事物とは認識出来ないくらいの虚無にしてやるのだ。

 

そう、虚無である。

 

映画の業界人どもが絶賛しているのは、虚無だった。

 

そう後で暴露してやるためにも。

 

組み体操シーンは、もっともっと入れていかなければならなかっただろう。

 

「はい今日はここまで。 お疲れさんでした」

 

「お疲れ様でしたー!」

 

必死に声を張り上げる俳優達。

 

既に俳優や、その候補生の間では。高宮は職場こそホワイトだが。俳優を怒鳴るような関係者には情け容赦がないし。何よりも無茶ぶりをすることで、有名になっているらしい。奇しくも這い寄る混沌という渾名がそのまんまついているようで。

 

それを考えると、高宮という存在は。

 

もはや俳優にも怖れられているのかも知れない。

 

それはそれで別にかまわない。

 

舐められるよりもマシだ。

 

そのまんま自宅に。

 

海外では自家用車を使えなくて大変だったなあと、マイペースに運転しながら思う。

 

家に到着すると、スマホの電源を入れ。

 

メールが来ていないことを確認してから。

 

石山が調べてきた、海外の批評ブログをまとめて見る。

 

一応邦訳もつけてくれたけれど。

 

ぶっちゃけ英語のはそのまま読めるし。

 

メジャーな言語のは何となく意味が分かるので、いらない。

 

まあ石山の苦労を考えて。

 

邦訳を添えて読む、くらいの感触だ。

 

そのまま淡々と読んでいく。

 

なるほどなるほど。

 

海外のブロガーも、やはり今の新聞には相当な不満があるらしい。

 

これはまあ、万国共通か。

 

ただ、相当に口が悪くて。

 

高宮も流石に苦笑していた。

 

「ファック! 俺は賞を取った映画を見に行ったんだぞ! そうしたら三分で寝ちまったじゃねえか! でもすげえ快眠だった! ここんとこ味わった事がないくらいのな!」

 

「日本では見る睡眠導入剤とか言われているらしいが、本当だ。 凄まじい効能だ」

 

「何というか、最後まで耐えたんだが、本当に意味が分からなかった。 一応訳はついていたんだが、熱出てる時にみたタチが悪い悪夢みたいな代物だった。 だけどどうしてか、見た後不快にならなかったから、鼻息荒くして自称巨匠が撮ってる映画よりはマシかな」

 

「クソみてえな映画だ! 俺の時間返せ! ……とはいうが、なんか他のクソ映画と違って不快じゃ無いんだよな。 他の奴もこれは言ってるんだが」

 

だいたいこんな感じだ。

 

とにかく非常に強烈な罵倒が目立つが。

 

それらは全て想定通りなのだよーと、教えてやりたい所である。

 

まあ想定通りでは無いブログ記事もあったが。

 

「なんだか高度なテクニックを感じる。 異常につまらないのは事実なんだが、普通こういうつまらない映画は見ていて不愉快になるものなんだよ。 ところがこの映画は、どういうわけか全く不愉快にならないんだ。 しかし何も残らない。 まあ、睡眠が取れなくて困っている人は、これを見るのがいいかもな。 監督は思うに、バカじゃないとは思うけれども。 どうしてこんな風に映画をしてしまっているのかは、ちょっと俺には理解出来ないかな」

 

なかなか鋭い所を突いてくるな。

 

まあそれはそれでいい。

 

だいたい見終えたので、石山に礼のメールを送り。

 

後は休む事にした。

 

まともな海外メディアは結局。

 

最後まで取材にはこなかったし。また、訴訟で一瞬で相手を潰した事が何度もあると調べがついていたのだろう。

 

あまり失礼な記事を書くこともなかったようだった。

 

 

 

組み体操の撮影が終わった後。

 

本格的に撮影は地獄に突入し、血塗られる。

 

いよいよ始まるのだ。

 

映画を本格的につまらなくするための行為が。

 

要するに、哲学的会話シーンである。

 

俳優達は既に頬がこけている。

 

それはそうだろう。

 

演技は任せる。

 

NGは余程の事がない限り出さない。

 

その代わり、たくさんの客がその演技を見る事を忘れるな。自己解釈でいいから、一つの演技に入魂しろ。

 

そんな事を言われたら。

 

俳優達は、みんな死ぬ。

 

事実、精神的に色々参っている俳優もいて。日野は質問攻めにあって、泣きそうになっているようだった。

 

うんうん。

 

素晴らしい光景だ。

 

実に甘露甘露。

 

そのまま撮影を続けて、皆に苦しんで貰う。

 

淡々と撮影をしていく。とにかく、人数が必要なシーンから撮影していくのはいつもと同じだ。

 

刑事物だから、今回はそれっぽい服装を皆にしてもらう。

 

CG加工するのも面倒だから、である。

 

ただしこの刑事物。

 

なんと犯人が最初から最後まで出現しない。

 

足音とかは出るのだが。

 

それだけである。

 

まあ一種のギミックではあるのだが。

 

こういうのを見ると、業界人は芸術的だと大喜びする。

 

うわっと邪悪な犯人が知能犯とか鬼ごっことか色々やるのを楽しみにしている客は、肩すかしどころか紐無しバンジーで底なし沼に叩き込まれる。

 

その結果として、虚無が映画を支配する。

 

全て意図的にやっていることだ。

 

それによって、高宮映画特有の。虚無が作られるのだ。

 

まあ編集部分で更に虚無にしていくのだが。

 

なお、犯人は声だけを入れるが。

 

この声は、プロの声優に入れて貰う事にした。

 

既に相当なベテランである。

 

現在の日本の声優は、演技の技量において安心感がある。

 

ただ。声優には経歴に染みを作る事になりそうだが。

 

まあ高宮映画は今、相当な客を集められるものとなっている。そうはならないか。

 

黙々と撮影を続けていく。

 

見えない犯人にたいして、どう演技をしていくのか。

 

俳優達は文字通り四苦八苦。

 

勿論劇団でやるようなレベルが高い演劇だと、相当に無茶ぶりをされるような事もあるのだが。

 

それはそれとして、高宮の無茶ぶりは更にレベルが一段階上なのだ。

 

俳優達が死にそうになっている中。

 

時々日野が休憩を提案。

 

高宮も、それを適当に受ける。

 

日野がスポーツドリンクとかを差し入れしている。スタジオの気温は、寒いくらいに保っているのだが。

 

それでも、やはり疲労が溜まるのだろう。

 

皆がごくごくスポーツドリンクを飲み、トイレに行っているのを見て。

 

高宮は満足。

 

日野は辛そうにしていた。

 

スタジオでは出来るだけ話さないようには配慮しているようだ。日野も。

 

以前色々あったし。

 

それから助けたのは高宮だ。

 

今ではフリーランスからの専属契約もしている。

 

それを考えると、高宮は日野にとっては頭が上がらない相手である。

 

ただし、そろそろ高宮としては同志に加えたいと思っているし。

 

うすうす日野も、なにかろくでもない事に巻き込まれそうになっている事は理解しているのだろう。

 

それでも生真面目なのだ。

 

だから、高宮に対して反旗を翻そうとかもしないし。

 

かといって虐げられる俳優達を守ろうとも苦労している。

 

いい奴なのである。

 

そしていい奴が損をするのが今だ。

 

本当にろくでもないな。

 

そう思いながら。高みは淡々と次に進む。

 

休憩から戻って来た俳優達に、すぐに演技に取り組ませる。

 

刑事が仕事をしているはずなのに。

 

デスクで意味不明の会話を淡々と続けている様子は。小道具大道具なども、新人は見ていて頭がくらくらするらしく。

 

ダイレクトに正気度をやられた奴が、時々先輩に庇われて休憩所に向かったりしている。

 

まあどうでもいい。

 

撮影を続行。

 

そのまま撮影をしていくと。

 

今日も定時が来た。

 

手を叩いて、撮影を切り上げる。

 

どんなに忙しくても。高宮以外の人間が定時後もスタジオに残る事は許さない。

 

これは基本則だ。

 

高宮だってスタジオには残らない。

 

残業は美徳でもなんでもない。

 

ただ人の命と時間を削るだけの悪習だ。

 

高宮自身だって、残業をしないように徹底的にスケジュール管理をしている程なのである。

 

それがそもそも、残業をするのが美徳みたいに考えられている時点でおかしいと考えている。

 

だから高宮自身は絶対に自分の職場では残業をさせない。

 

それだけだ。

 

前に、残業をしようとして。更に逆らおうとしたバカがいたので、そのまま即座にクビにしたことがある。

 

そいつの事を惜しむスタッフもいたが。

 

徹底的にやっている管理に対して、何も言えなくなったのだろう。

 

それにホワイトな職場であることは理解出来ていたのだろう。

 

それを敢えてブラックにするのも意味がないことだ。

 

やがて。反発もなくなった。

 

撮影が終わった後、自宅に到着すると。

 

メールが来ていた。

 

井伊からだ。

 

「海外の大手メディアからの取材があった。 馬鹿にする目的での記事作成ではなく、それなりに真面目な取材な様子だ。 うけるかどうかは其方で決めてほしい」

 

「それなら条件を提示で」

 

「石山とおなじ条件でいいか」

 

「それでいい」

 

やりとり終わり。

 

法的なのとかが関係する場合は、井伊に全て任せてしまう。

 

海外メディアも、日本と同レベルであることは承知している。

 

最初の頃に取材を申し込んできたのは、それこそカスみたいな連中ばかりだったから、内容を吟味して即座に取材を断っていたが。

 

今回はそれなりに本腰を入れてきたと言う事か。

 

それならば、好きに取材はさせる。

 

ただし、此方の条件を呑めば、だが。

 

飲めないならお帰り願う。

 

それだけの話である。

 

 

 

井伊に交渉を任せて、数日。

 

海外メディアの話が来ない事を考えると、高宮が提示した条件があまりにも厳しすぎると判断したのかも知れない。

 

或いは背後になにかろくでもない意図や思惑があった可能性もある。

 

まあ、放置で良いだろう。

 

そのまんま、撮影を淡々と続ける。

 

スタジオの外にはマスゴミの記者が彷徨いているが。

 

高宮はスタジオから出ると、即座に自家用車で帰ってしまうし。

 

俳優は撮影後にもきちんと警備員が送迎しているので。

 

隙が無い。

 

撮影が終わり。伸びをする。

 

とりあえず今日はここまでだ。

 

皆に帰るように促すと。

 

日野が珍しく話しかけて来た。

 

「高宮監督」

 

「ん?」

 

「みんな不安がっています。 いつもの撮影と同じつもりでやっていることは分かっているんですが、少しは皆の不安を取り除いてくれると助かります」

 

「そんな事はプロなんだから……」

 

そう言いかけるが。

 

考えて見れば、どいつもこいつもプロとしてはひよこ同然か。

 

劇団で揉まれているとはいえ。それでもこの業界で飯を食っていくようになってからはまだ日も浅い。

 

それならば。ある程度日野の言う事も正論ではある。

 

少し考えた後に。

 

一日あげるから、日野から好きなように皆に諭してほしい、という。

 

まあ前倒しで休日を一日潰すだけだ。

 

そのくらいのスケジュール管理は難しく無い。

 

ただ、明日いきなりは無理だ。

 

数日後にその日を用意すると言うと。

 

日野は青ざめながらも頷いていた。

 

まあそれはそれで。

 

帰宅する。

 

そうすると、井伊から連絡が来ていた。

 

今日はちょっと面倒くさいな。そう思いながら、メールの内容を見る。

 

「相手側が条件交渉に応じない。 なんだか調子に乗ってるんじゃないか的な事を言っている」

 

「そ。 じゃ、門前払いで」

 

「了解。 もしも叩き記事を書くようなら、内容次第で告訴?」

 

「それでよろしく」

 

後は井伊に任せる。

 

やはり、か。

 

いい顔をしてすり寄ってきて。

 

その結果がこれだ。

 

やっぱり国を問わずマスコミなんてロクな代物じゃないな。それを良く理解出来たので、高宮は嘆息する。

 

まあ、そもそもだ。

 

海外でも、映画の業界人と。

 

映画関係のメディアはズブズブ。

 

それについては、石山が集めた情報から確認できた。はっきりいって、もう芸術の本来の意図である「楽しい」や「娯楽」からは。完全に逸脱してしまっている。

 

高尚な芸術はそれはそれでいいだろう。

 

だが。最初は娯楽から来ている。

 

それを忘れてしまった以上。

 

一度、最初の位置に戻るべきだ。

 

やはり海外も一緒にこの業界をまとめてひっくり返すべきなんだろうな。そう高宮は思った。

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