謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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もともと意図的に作って来た虚無映画

それがついに目的へと達しました……


2、陥落

刑事物の撮影が順調に進む中。

 

高宮の所に連絡が来る。

 

国内の何とか言うマイナーな映画賞で、受賞したというのである。そう、とだけ答える。興味が無い。

 

どうやら新規に創設された賞らしいのだが。

 

今業界を牛耳っている連中以上に拗らせた連中が審査員をしているもので。

 

どうやら業界人の派閥抗争の末に誕生した賞らしい。

 

はっきりいってすこぶるどうでもいい。

 

とりあえず授賞式には出るが。

 

それ以上関わるつもりはない。

 

そうとだけ伝えておいて。

 

高宮は撮影を続けた。

 

国内で、混乱が始まっている。

 

高宮映画が「権威」を得てしまって。それが海外の賞を得たことによって、完全に固定された。

 

その結果。

 

高宮の作る「不愉快にならないクソ映画」「見る睡眠導入剤」が、スタンダードの立場を完全に確保してしまったのである。

 

映画館には以前より確実に人が来るようになった。

 

だが、映画館は。

 

快眠のために通う場所、という変な認識が同時に生じつつあった。

 

中には、高宮映画を連続で流すことで、長時間の快眠を、とうたう場所まで出始めて来ている。

 

それらに対して。

 

評価している業界人は、顔を真っ赤にして怒りのコメントを寄せていたが。

 

もはやそんなものには、誰も興味を見せないし。

 

高宮は高宮で、毎日コーヒーの写真をSNSに上げているしで。

 

彼らの怒りはからまわりするばかりだった。

 

SNSでは嘲笑が渦巻く。

 

頓珍漢な評価をしている業界人。

 

国内外、関係無しにだ。

 

「高宮の映画って、何でこんなに意識高い系の連中に変な評価されるんだ? 確かに不愉快にならないクソ映画っていう変なジャンルだし、たまに見るとすごくよく眠れて寝落ち出来たりして世話になってるけどさ。 そんなに高尚かこれ」

 

「いちおう作中での会話はそれなりに哲学的なのを盛り込んでるけど、それが余計に退屈さを増す要因になってる」

 

「そうだな。 退屈というよりも、眠りに一気に引きずり込まれる感じだけど」

 

「いずれにしても、何というか……業界人の連中、芸術家を気取る割りには何だかおかしいよなあ」

 

SNSでの評価は散々だが。

 

これに文学系の人間も加わる。

 

まあそれもそうだろう。

 

特に純文学系列は、ここ最近ずっと駄目人間のクズ人生を如何に緻密に書くかに終始しているものが多く。

 

それが評価される傾向がある。

 

高宮も一時期「権威ある」純文学賞を取った作品は目を通していたのだが。

 

はっきりいってうんざりするレベルのクズ人生がオンパレードになっていて。

 

見ていて溜息しか出なかった。

 

これは深淵を覗く行為だ。

 

一番文学が深淵を覗いていたのは、恐らく私小説が流行した頃だろうが。

 

それに近いか、それと同レベルで「芸術」としては拗らせてしまっている。

 

結果として、純文学で賞を取る作品は。

 

如何にクズ人生を描くかを必死に追求したものとなり果てている。

 

確かに人間はクズだが。

 

創作でまで、クズのカス人生を如何に緻密に描写するかを競わなくても別に良いと思うし。

 

それだけが人間を描くことでもないだろうに。

 

別に人間賛歌を書けとまでは言わないが。

 

ここまでどうしようもないカス共の人生をそれぞれ見せられると、はっきりいってげんなりする。

 

似たようなジャンルは幾つもある。

 

文学でもゲームでも、創作ではなんでも。

 

そしてそれらのガチ勢を自称する連中は、既にもはや一部の人間しかみていないのにこういうのだ。

 

「衰退していない」、と。

 

あらゆるジャンルで見られる光景だ。

 

明らかに映画はそれになっている。

 

だから、高宮はひっくり返す事を決めた。

 

高宮の思惑に気づき始めている人間が少しずつ出て来ている今。

 

あまりもたついてはいられない。

 

SNSで、色んなジャンルの人間が。

 

自分の所にいる「ガチ勢」の醜態を語っているのを横目に。高宮はぼんやり頬杖をついて思惑を巡らせる。

 

次の目標は二つ。

 

国内にて、アカデミー賞を三度目の取得。

 

そして海外にて。

 

この間大賞を逃したフランスの映画賞で、大賞を取る。

 

この二つだ。

 

これらを達成出来れば、既にもう事はなったも同然。

 

後は全ての手を打ってから。

 

暴露するだけだ。

 

それで、権威は全て粉みじんに砕け散る。

 

やっと映画界隈は。

 

腐りきった権威から解放される。

 

それでいいのだ。

 

本当に権威が、価値のあるものだったら。何があっても守り抜かなければならないだろう。

 

伝統と一緒に育ってきたものだったのなら。

 

尊重しなければならないだろう。

 

だが、今の映画界隈の権威は本当にそうか。

 

ポリコレ等という思想を掲げた人権屋が食い込み。

 

芸術を歌いながら、娯楽の本来の目的である楽しさを忘れ。

 

結果として、楽しさを追求しているアニメ映画や特撮映画が一番稼いでいるのに。

 

権威に居座っている連中は、それを失笑して回っている始末。

 

穀潰しが権威に居座り。

 

自分達の感覚で「素晴らしい映画」を決め。

 

それでふんぞり返って。

 

自分達の認めたもの以外は全てゴミと決めつけている。

 

こんなものは、早々に潰すべきである。

 

メールが来た。

 

石山からだった。

 

「記事が出来ました。 目を通して貰えます?」

 

「OK」

 

さっと目を通す。

 

頼んでおいた記事の幾つかだ。

 

なお、まだ公開しない。

 

内容は、業界人の腐敗についてだが。

 

なるほど、よく調べてある。

 

資料を彼方此方から取り寄せて、丁寧に調べている様子は、本当に頭が下がる思いである。

 

最初に真実を決めつけ。

 

その決めつけた真実を補完するために取材をするのが当たり前になっている今。

 

石山のやっている事は、本当に異端であり。

 

誰もやっていないことだ。

 

だから価値がある。

 

「うん、これでいい。 資料についても悪くない」

 

「そう言われると嬉しいです。 ちょっと疲弊が酷いので、温泉にこれから行ってきますね」

 

「行ってらっしゃい」

 

さて、これでいい。

 

今公開中の映画も絶賛放映中で。

 

どこの映画館でも、高宮映画をどれかしらいつも流している状態だ。

 

そうすることによって、客が来る。

 

客は殆どの場合、快眠するために来る。

 

かくして映画館はすっかり安眠のための施設と化しており。

 

ついに最近。

 

高宮映画を四作品、深夜帯に放映するという狂気の沙汰を開始した映画館も存在し。

 

それによってぐっすり不眠症の人達がねむって。

 

すっきりするという、狂気の沙汰が始まっていた。

 

もはや映画とは何なのか。

 

さっぱり分からない状態だが。

 

むしろこれが結実というものだろう。

 

もしもだ。

 

業界人共がこのままやりたい放題を続けていたら。

 

娯楽を主体にした映画は、或いは追われる可能性がある。

 

実際、どれだけ稼いでも。

 

アニメ映画も特撮映画も、業界人からは鼻で笑われ。賞を取っても嘲笑されるような状態が続いていたのだ。

 

そういう連中はコネももっているから。

 

或いは映画館で放映させないとか。

 

テレビでも放映させないとか。

 

そういう事をやり始めかねない。

 

業界人共が推奨する作品を見せて、「愚民を啓蒙する」ためである。

 

ないとはいえない。

 

幾つもの創作芸術のジャンルで、実際に起きてきた事である。

 

その結果、意識が高い連中が好む作品ばかりが並ぶようになり。

 

うんざりして誰も見なくなり。

 

やがてジャンルとして衰退していく。

 

頑なに、「ガチ勢」だけが衰退を認めない。

 

そんな事態が来てもおかしくは無い。

 

その滑稽さを示すために。

 

高宮映画が今どう扱われているかは。はっきりいって、極めて後世にとって重要な資料となるだろう。

 

今日はもう寝る事にする。

 

撮影は終盤。

 

今撮っている映画を公開して、アカデミー賞三回目をとる。

 

フランスの映画賞の大賞は、次の映画で狙うことになるだろう。

 

それで、全ての準備が整う事になる。

 

そのためには、力をしっかり蓄えておく必要がある。

 

逆にいえば。

 

それ以外は必要なかった。

 

 

 

撮影が終盤にさしかかり。

 

俳優もまばらに出勤してくるようになった。

 

高宮の映画は、スケジュール管理をガチガチにやっているから、俳優を長時間拘束しないし。

 

何よりも休みも柔軟にとる事が出来る。

 

撮影の順番の流動的で。

 

脚本の序盤を、最終版の撮影で撮る事もある。

 

そういうものだ。

 

スケジュール管理さえしっかり出来ていれば、こういう離れ業も出来る。

 

勿論俳優には役作りで苦労して貰う事になるが。

 

それはだからこそ。

 

劇団経験者の俳優を採用しているのである。

 

それくらいの無茶ぶりを、しっかりクリア出来て貰わないと困る。

 

最初にこれを意識したのは。

 

芸大で自主撮影した映画の時だっただろうか。

 

芸大には俳優育成科もあったが。

 

中には芸能界で稼ぐ事しか考えていないようなのもいて。

 

その手の連中は、とにかく自分を表に出すことだけを意識し。

 

はっきりいって何もかも舐め腐っていた。

 

ああいう連中を実際に見ていると。

 

大御所タレントだの、お笑い芸人だのを映画に起用する神経が理解出来なくなってくる。

 

そういうのは、タレントやお笑い芸人として活躍するべきであって。

 

映画に出すべきではない。

 

今後もこの意見は変わらないだろう。

 

演技のプロに、演技をやらせればいい。

 

ただそれだけの話だ。

 

客寄せになるとかいう滑稽な意見もあるが。

 

実際には、客寄せなどにはならない。

 

そんなのを出しても、演技の質が落ちるだけだ。

 

だれが大根演技を見たいと思うのか。

 

「はいカット。 それでは五分休憩」

 

今日は石山は来ていない。

 

此処の所取材で時々顔を出していたのだが。

 

以前に取材を頼んだときほど、念入りな取材でスタジオに貼り付いている事はなくなってきた。

 

まあ温泉休暇中だ。

 

記事を書くとき、石山は数キロ体重を落とすくらいに入魂する。

 

だから、温泉休暇はそれはそれでいいだろう。

 

黙々と撮影を続けていくと。

 

今日の撮影が終わった俳優が出たので、帰らせる。

 

定時どころか昼前だが。

 

後はもう必要ない。

 

ましてや、演技の勉強が出来る場所でもないし。

 

「では、今日はここまでね。 お疲れ様」

 

「はい……」

 

「ゆっくり休んでね」

 

俳優がぐったりした様子で行く。

 

今日も来ていた日野茜が、心配そうに背中を見ていたが。

 

まあ此方ではどうすることも出来ない。

 

無言の高宮を見て。

 

流石に思うところがあったのか、日野はこっちに来る。

 

「あの、高宮監督」

 

「なに?」

 

「もう少し、俳優を大事に扱ってくれませんか?」

 

「大事に扱ってるよ。 定時で返してるし、今日だって必要もないのに職場に縛り付けたりしてない。 日夜逆転の生活とかを強要させたりもしてないし。 何よりも自主性をこれ以上もなく尊重している」

 

ぐうの音も出ない正論なのだが。

 

日野は違う方向から反論してくる。

 

「そうじゃなくて、メンタルケアやそういう面を……」

 

「まあ私の映画に出ることで、正気度をゴリゴリ削られるのは事実だけれども。 その辺りのメンタルケアは、主に過重労働で壊れたときに行うべきではないのかなあ。 私は休暇はきっちり出しているんだから、その休暇でプライベートの時間を作って、ゆっくり休むべきだと思うよ」

 

「若手の俳優に、そんな時間は……」

 

「なら。 私の作る事務所に勧誘する?」

 

口をつぐむ日野。

 

この映画が公開された頃には。

 

少し計画を前倒しして、事務所を作る。

 

一期生の一人は日野だ。

 

他にも、劇団から出たばかりの俳優を、数名囲う予定である。

 

この事務所では、高宮映画だけではなく。

 

高宮のいる配給会社の、他の監督の仕事も斡旋する。

 

そしてスケジュール管理はガチガチに行って。

 

残業はさせない。

 

残業なんてものは、無縁の場所にする予定だ。

 

芸能界とやらでは。残業が美徳の体育会系思想が未だにまかり通っているが。

 

それと同じにはしない。

 

「それは……」

 

「それは?」

 

「た、高宮監督の映画にずっと出していたら、きっとおかしくなってしまいます!」

 

「過重労働でずっと心身共に痛めつけ続けた方が、おかしくなると思うけどなあ」

 

芸能界を見ろ。

 

カルトにはまる奴。

 

薬物に手を出す奴。

 

元々犯罪組織や反社会組織との癒着が強い業界とは言え、あまりにも道を踏み外す奴が多すぎる。

 

売れている時には睡眠を一日二時間だけ、とかいうような狂ったスケジュールで働かせ。

 

絞れるだけ金を絞る。

 

売れなくなったり、スポンサーの機嫌を損ねたら干す。

 

そんな事をやっている業界だ。

 

それは人だって壊れるし。

 

人材だって、変なのばかりが残る。

 

当たり前の話だろう。

 

「私の映画で正気度を削られるのは事実かもしれないけれども。 はっきりいって、タコ部屋労働も同然の業界よりはマシだと思うよ」

 

「それはそうですけれど……」

 

「さ、撮影撮影。 次のシーンの準備をして」

 

反論が厳しいと判断したのか。

 

日野が戻っていく。

 

マスクで隠しているから、あくびしているのは周囲に見えない。

 

いずれにしても、ちょっと気が抜けてきているか。

 

気を付けなければならない。

 

いずれにしても、この映画も最後までしっかり撮影する。

 

それで、次に計画が進むのだ。

 

刑事物とは思えないシーンばかりが撮影され。

 

俳優達の正気は、一シーンごとにどんどん削り取られていく。

 

日野が演技を精一杯やっているが。

 

他の俳優達は、もう息も絶え絶えだ。

 

定時が来る。

 

そのまま皆を帰宅させるが。

 

別の意味で疲労困憊になっていて。その場で倒れそうな俳優もいるので。既にタクシーは呼んである。

 

それでいいのである。

 

俳優達を帰らせた後。

 

高宮も自分の車で戻る。

 

日野は俳優達を心配していたな。

 

まあ、それが出来ると言うのは立派だ。

 

新しく作る事務所で、スターター要員になって貰えるだろう。

 

そして、逆らえるというのは良い事だ。

 

高宮に、これ以上もない好待遇で雇われているのに。日野は、きっちり自分の意見を口にする。

 

それでなければならない。

 

イエスマンなんかいらない。

 

日野がしっかりこういう事をしてくれるからこそ、高宮は日野を評価しているのである。

 

さっきも反論されたけれども。

 

それを一切合切気にもしていないし。

 

むしろ心地よいとさえ思っていた。

 

家に着く。

 

スマホの電源を入れると。

 

会社から、連絡が来ていた。社長からのメールである。

 

どうやら業界人の一人から、らしい。

 

高宮の映画撮影は順調か、と聞いてきている様子だ。

 

この様子だと、どうやら映画の内容関係無しにアカデミー賞は内定なのだろう。

 

反吐が出る話である。

 

だから、適当に応じておく。

 

「現在映画の撮影は最終フェーズに入っています。 後は編集作業があるので、もう少しですね」

 

「そ、そうか。 それは良かった。 君が我が社で一番稼いでくれているからね。 本当に頼むよ」

 

「分かっていますよ……」

 

何もかも、流行の廃れが早い今。

 

とにかく快眠出来るという理由で、高宮の作る映画はどれもロングランを続けているのだけれども。

 

それは逆に言うと。

 

はっきりいって、どれも普通の人間にとっては同じ、と言う事も意味している。

 

それぞれの映画が個性的で、それらを何度も見に行くような人もいるけれども。

 

高宮の映画は、虚無なのだ。

 

どれもこれもが。

 

どれもこれも、一応違うジャンルを扱っているが。

 

それが全く頭に入らないレベルの代物なのである。

 

だから快眠用に皆うきうきで見に来て。

 

すっきりねむって帰っていく。

 

異例のロングランが続いているのも、それが理由であって。別にそれぞれの映画が魅力的なのでは無い。

 

その真逆だ。

 

そんな事も分からず、時代の寵児と持ち上げ。

 

芸術性が高いだの考え。

 

挙げ句出してもいない映画にアカデミー賞の内定か。

 

はっきりいって、潰す事に何の躊躇も無い相手だ。

 

恩があるとかいう奴もいるかも知れないが。

 

恩などあるものか。

 

映画業界をどんどんつまらなくしていっている連中だ。

 

映画界隈にとっての寄生虫であって。

 

高宮が駆除しないのであれば。

 

やがて映画という文化そのものを食い潰すだろう。

 

隣の国が、今人権屋に映画を食い潰されそうになっているのと同じように。

 

それをさせてはならないのだ。

 

「それで、それだけですか?」

 

「ああ、うん。 それだけだ。 じゃあ、よろしくね……」

 

「はい」

 

やりとりを終える。

 

芸がない二代目が。

 

虚名に萎縮して、好きかってされているのにこんな態度を取って。はっきりいってどうしようもない。

 

此奴をクビにするのは、それはそれで駄目だ。

 

芸がない二代目だが。

 

一応、飾り物にはなる。

 

井伊と小野寺が操り人形にしておけば、対外的な社長としては機能するし。

 

最悪の場合、蜥蜴の尻尾斬りをしてしまえばいい。

 

そういう意味でも、おいておく価値はある。

 

さてと。

 

風呂を沸かしながら考える。

 

これで、陥落したな、と。

 

高宮映画、というだけで。

 

国内では、アカデミー賞が内定するようになった。それも、まだ出てもいない映画が、だ。

 

これは業界の致命的な腐敗を意味するのと同時に。

 

高宮が完全に、この業界を乗っ取った事を意味している。

 

勿論、映画業界そのものを高宮が好きかってできる訳では無いが。

 

少なくとも、意識高い系の業界人は、もう高宮には逆らえない。

 

井伊に連絡をしておく。

 

先の話をすると。

 

井伊は提案をしてきた。

 

「そいつを呼んで、晴に対応させる」

 

「お、潰す準備?」

 

「そう」

 

井伊もその辺りは分かっている。

 

失言を徹底的にさせておいて。

 

潰すときには、活用するというわけだ。

 

任せる。

 

小野寺とも、連絡をきっちりして。綿密に打ち合わせをしておくようにも告げておく。井伊ならしくじることは無いだろうが。

 

それで万全になる筈だ。

 

さて、此処からだ。

 

脚本を漁る。

 

そして、取りだす。

 

今撮影している次の映画。フランスの映画賞を考えると更にその次か。

 

次の次の映画で、いよいよ全てをひっくり返す。

 

その脚本を取りだす。

 

今までは、意図的に虚無を撮影してきた。

 

だが、これは違う。

 

これはそういう意図で作った映画では無い。

 

今までの虚無映画で、触手を伸ばしてエサを深淵の巣穴にかき集めて来た。

 

後は、この最後の映画で。

 

エサとして集めた人間を、全部まとめてすり潰すのである。

 

脚本に軽く目を通す。

 

何度も何度も目を通した脚本だ。

 

これでも、どうすれば映画が面白くなるかはしっかり心得ている。

 

だから。その心得通りに映画を作るだけである。

 

それで、全てが終わりだ。

 

全てが、陥落する。

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