謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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意識高い人間だけが

それを喜びます


3、三度目の、そして鉄壁の

真面目に映画を撮って、客を楽しませようとしている人もいるのに。

 

高宮の撮った刑事物は、事前の談合通りアカデミー賞の大賞を取得する。これで三度連続である。

 

業界人どもがコメントしている。

 

いずれもが、滑稽極まりない内容だった。

 

「芸術の何たるかも分かっていない映画が多い昨今、久々に見る芸術性が高い素晴らしい映画だ。 今後も高宮監督には、こういった映画を撮影していってもらいたい」

 

「まさに時代の寵児と言える。 これこそ、歴史に残る映画として語り継がなければならないだろう」

 

「アカデミー賞の三回連続受賞も当然の傑作」

 

「今後映画の規範とすべき作品である」

 

業界人共には派閥があるのだが。

 

それでも、このときばかりは連中も結託する。

 

或いはどこかで自分達と映画を見に来て金を落としていく人間の価値観が、決定的に乖離している事に気付いているのかも知れない。

 

まあもう手遅れだが。

 

案の定、アカデミー賞の審査員のコメントは。

 

SNSでは嘲笑とともに迎えられていた。

 

「いや、ある意味で映画の歴史に残る作品だとは思うけどさ。 こいつらってオツムどうなってるんだ?」

 

「意識高い系」

 

「それは分かってるけど、高宮自身はどう思ってるんだろうな」

 

「最近少しずつ本人がどういう奴かはわかり始めたけど……さてな」

 

石山の記事。

 

それに、幾つかのエピソード。

 

少しずつ、情報を開示している。

 

今まで、SNSでコーヒーの写真を毎日同じ時間に投稿するだけの怪人物だった高宮は。

 

今の時点では、それなりに知名度があり。

 

少なくとも嫌われてはいないようだ。

 

地蔵の高宮という渾名は既に定着しており。

 

それはそれとして。

 

不可思議な人物として。

 

映画に関わる人間からは、興味と恐怖が入り交じった視線で見られている。

 

そんな様子が、少しずつ周囲に漏れる度に。

 

高宮という存在で遊ぼうとしていたSNSの者達は、皆困惑する。

 

高宮がアホ丸出しだったら、それはそれで玩具にしていたのだろう。

 

だが、どうも違うらしいこと。

 

何よりも、どうしても作る映画が理解不可能なこと。

 

それに、だ。

 

どうもやはり、少しずつ皆気づき始めている。

 

高度な計算のもと。

 

虚無映画が作られている、ということについてだ。

 

それに気づいてしまえば、後は恐らくだが。

 

最終的には、ブレークスルー。いやパラダイムシフトが起きてしまう。

 

それが起きる前に。

 

フランスの映画賞で大賞を取って、決めてしまう。

 

次の映画は、フランスの映画賞で大賞を取るためにとる。

 

向こうの業界人も、うちの国のと同じ連中だと言う事は、はっきり分かったのだから。それでとれる。

 

何しろ、向こうの映画雑誌でも。

 

高宮映画医に対する業界人の評価は。芸術的に優れているだの何だので。

 

こっちと代わりはしないのだから。

 

人間なんか、どこの国でも同じだ。

 

つまるところ、そういう事である。

 

一応アカデミー賞の授賞式には出て。

 

無難なスピーチをして。

 

申し訳程度に立食パーティに出た後。

 

すぐに帰る。

 

下戸だと言う事にしてある。

 

まあ実際酒はあまり強くないのだけれども。

 

下戸だと言う事にしておけば、今は酒は断りやすくなっている。

 

まあ一部では、まだ一気のみを強要したりする邪悪な文化が残っている場所もあるようだが。

 

幸い、授賞式で。

 

受賞した監督を潰して遊ぶような文化は存在しない様子で。

 

それだけは安心した。

 

マスゴミをさっと避け。

 

用意していたタクシーでささっと帰る。

 

案の定待ち伏せしていたマスゴミはいたが。

 

高宮は気配を消して連中を避け。

 

タクシーに滑り込むことに成功。

 

あの記者共は、明日には編集長に大目玉を食らうだろうが。そもそも取材許可を出した覚えはない。

 

スクープをとろうとはりついている記者なんて。

 

はっきり言ってハエと同じだ。

 

ハエに配慮する必要なんぞない。

 

ほろ酔いのまま、自宅に到着。立食パーティで食った物を全部吐いてやりたくなったが。食べ物を無駄にするのは許されない。

 

我慢して、ソファに転がる。

 

ぼんやりしていると、メールが来た。

 

小野寺からだった。

 

「どうやら大変だったようですね。 授賞式の様子は一応動画で見ました」

 

「は。 そもそも私が内定していたみたいだし、茶番だね」

 

「その通りだと思います。 私が応対した業界人の大物という方も、はっきりいってもうまともな思考力や審美眼は持っていないものだと感じました」

 

中々小野寺も辛辣だ。

 

この間、内定が決まったと言う事で、そいつが会社に来た。

 

ひたすら恐縮する社長と一緒に、小野寺が出る。

 

撮影で忙しいと言う事で、高宮はその場に出無かったが。

 

不愉快そうになった其奴を、小野寺が驚異的な話術で引き留め。

 

帰る頃には上機嫌にさせていたという。

 

流石は意思疎通の達人である。

 

社長一人では、こうはいかなかっただろう。

 

そして会話の内容は。

 

全て録音してある。

 

一応、本人に見えるように、議事録として録音すると小野寺は説明したようだけれども。

 

勿論議事録などにつかうつもりはない。

 

破滅させるために使うのだ。

 

腐りきったアホ共を。

 

ただ、今はまだそれは明かさない。

 

全てが終わる時に。

 

まとめて明かすのである。

 

そのための武器は、今はとにかく、一つでも多く準備しておかなければならないし。小野寺もそれは理解している。

 

「一応聞いておくけれど、懸念事項はある?」

 

「いえ、特にないと思います。 現時点で高宮監督に多分あの人達は疑問を持っていないようです。 高宮監督は慎ましい方だと感じているみたいですね」

 

「ふっ……」

 

「私から見ると、怖い人なんですけどねえ」

 

小野寺がふふふと笑う。

 

高宮もふふふと返す。

 

怖い、か。

 

まあ業界そのものをぶっつぶそうとしているのだ。

 

そう感じてもおかしくは無いか。

 

だが、小野寺は今の仕事を楽しいと感じているようだし。何よりブラック企業に放り込まれて潰されずに済んだことを感謝もしている。

 

それならば。というわけか。

 

まあ小野寺は意思疎通の達人だ。

 

それと同時に、自分を隠す達人でもあるだろう。

 

ひょっとしたら。

 

いや、まあそれは無いか。

 

いずれにしても、高宮も寝首を掻かれるつもりはない。あらゆる事に、今後も備えておくつもりだ。

 

「じゃ、石山に連絡はしてあるから、連携して動いておいて」

 

「分かりました。 後、事務所は設立するんでしたね。 こっちで色々な事はやっておきます」

 

「よろしく」

 

通話を切ると。

 

ふうと嘆息した。

 

後は風呂に入って寝るだけだが。

 

流石に風呂桶で頭を打ったりとか、風呂場で転んだりとか。そういうのは避けたい所だ。

 

慎重に風呂に入って。

 

ゆっくりと疲れを取る。あの腐りきった立食パーティ会場。業界の重鎮やらがゴロゴロいたが。

 

そいつらが揃いも揃って、高尚な芸術とやらの映画を談合で決め。

 

一番稼いでいる映画を馬鹿にしている。

 

救いようが無い。

 

ともかく、あそこはゴミ箱だった。

 

それも放置しているから、中にゴキブリやらハエやらが繁殖している、である。

 

やっぱり吐き戻そうかと思ったが。やめておく。

 

食べ物に罪は無い。

 

米粒には七柱の神が宿るなんて言葉があるが。

 

それはどんな食べ物だって同じの筈だ。

 

ため息をつくと、風呂から上がる。

 

そして早々に寝ることにした。

 

なお、高宮の授賞式は、それなりに視聴率が出たそうだ。ただし、テレビの視聴率は右肩下がりが続いている。

 

殆どの視聴者は、動画で見たのだろう。

 

それも当然だ。

 

いつでも見られるし。利便性も高いのだから。

 

 

 

さて。

 

次の映画はフランスの映画賞向けだ。

 

フランスの映画賞向けとなると、やはり日本物が良いだろう。

 

そう判断して、水軍を題材にしたものを出す。

 

水軍。

 

日本で言う海賊だ。

 

とはいっても、欧州の海賊ほど残虐非道ではない。どちらかというと、流動的に縄張りをもつ武士という印象で。

 

略奪と殺戮で稼いでいた欧州の人面獣心の連中とはだいぶ違っている。

 

残虐さで言うと桁外れな欧州の海賊とは、流石に比べるのが失礼ではあるが。

 

それはそれとして、海での撮影が増える。

 

また、水軍と海賊の違いを本来は説明する必要があるが。

 

それもまた、色々変えて行く必要があるだろう。

 

時代考証もきっちり呼ぶ。

 

今回は村上水軍でも扱おうと思ったが。

 

流石に村上水軍では色々問題があるかと判断。

 

架空の水軍を作り。

 

それに、幾つかの水軍で使われていた戦術や、船などについてレクチュア願った。

 

専門家はかなり頑固そうな年老いた学者だったが。

 

専門的な船などの構築については、全権を委任するというとそれで大喜びして。

 

気むずかしそうな顔がさっと明るくなった。

 

それはそうだろう。

 

こういうニッチな専門家は、好きかってやってくれというのが一番全力を引き出す事が出来るのである。

 

小道具大道具と話して。すぐに道具の作成に取りかかって貰う。

 

ちょっと今回の映画は撮影に時間が掛かりそうだな。

 

そう思いつつも。

 

道具にこだわって貰い。

 

そして、俳優にも少しずつ意識を変えて貰う。

 

本当の本番は次だ。

 

この映画は。あくまで序章に過ぎないのだから。

 

 

 

映画の撮影が開始される。

 

今回から、高宮が開設した事務所に俳優を迎え、その人員で演技を行う。

 

この俳優には、今までの映画で起用したメンバーと、日野をスターターメンバーとして雇い入れた。

 

とにかくホワイトな職場というのは間違いなく。

 

俳優達も皆、異次元の待遇に驚いていたが。

 

それはそれとして、高宮映画に出ると言う事に気付くと、目が死ぬのだった。

 

大道具小道具などの製作にそれなりに時間と金が掛かった。後は演技指導なども、である。

 

何しろ水軍に本格的にこだわったので。

 

色々と面倒な事になったのだ。

 

随分と予算も珍しく作った。

 

木造とはいえ、一から船を作ったのである。まあそれなりに金は掛かるのも当然だ。まあ、問題は。

 

それだけ手間暇を掛けて、誰が見ても退屈な代物を作るのだが。

 

ガチ勢を自称している業界人だけキャッキャしていればいい。

 

最後に現実を叩き込むためのハンマーとしての作品だ。

 

業界を私物化し。

 

人権屋を連れ込み。

 

好き勝手に金を搾り取ってきた連中をまとめて叩き伏せる。

 

そのための作品。

 

そのための退屈。

 

だから、これは仕方が無いと割り振る。

 

黙々と準備を進めていき。

 

そして海での撮影のスケジュールも組んでおく。

 

どうせ組み体操とか色々やるので、危険がないように徹底的に下準備はしておかなければならない。

 

今回はそういう意味でも。

 

下準備は徹底的にやらなければならなかった。

 

丁寧に下ごしらえをした料理が美味しくなるように。

 

しっかり準備をしておけば。

 

映画もコントロール下に置ける。

 

ただ。この場合高宮が殆ど独裁で映画を作っている、というのも大きいだろう。

 

良く老害監督が、制御が効かなくなって意識高い映画を作るようになり。誰も客がこなくなって。やがて誰からも見向きもされなくなると言うケースがあるが。

 

まあ高宮の場合は、その時は恐らく映画を作らなくなるだろう。

 

老害の恐ろしさは嫌と言うほど間近で見て来た。

 

だからそうなろうとは思わない。

 

それだけなのだ。

 

海に出て。

 

最初のカットを撮る。

 

とは言っても、時系列的に最初のものではない。

 

何隻かの船を借りて。作ってきた船を浮かべて。

 

それで撮影をする本格的なものだ。

 

なお許可を色々取らなければならなかったので。

 

時間も相応に掛かった。

 

現在が舞台なら、場合によっては自衛隊に協力を仰ぐことも出来るのだが。

 

残念ながら水軍が題材だ。

 

そういうわけにもいかない。

 

淡々と撮影を続け、そのままカットを続ける。

 

役者は今の時点ではまともなシーンが多いと安心しているようだが。

 

大丈夫。

 

本番は此処からだ。

 

なお、船はあらゆる角度から撮影を続けている。

 

コレは当時の水軍に詳しい時代考察のスタッフに頼んで、色々動かして貰っているためである。

 

今日は実質上船の撮影であって。

 

役者はおまけだ。

 

後で船の映像と役者を合成したりするのである。

 

以降は主に黒田に頑張って貰う事になる。

 

なに、これらは恐らく今後色々な素材としても使えるだろう。

 

最新の研究で復元した戦国時代の船だ。

 

大河ドラマとかで使用許可とか求められるかも知れない。

 

ともかく、色々と撮影はしておく。

 

スタッフも、船の撮影がメインだと言う事は聞かされているから、気を抜く様子はないが。

 

それでも時々釘は刺す。

 

たまに、こういう撮影の時。主旨を理解出来ていないスタッフがいるのだ。

 

だから事前に軽く話はするし。

 

役者にもそれは話してある。

 

今回の映画では、合成を主体にして。どうしても船上でしか撮影出来ない部分以外はスタジオで撮影する。

 

これは単純に安全性のためと。

 

こういう状況で作ったとは言え。

 

此処で使う船は、後で博物館行きが決まっているからである。

 

博物館に収めることで、貴重な復元品となるし。

 

それが歴史考証の通りきちんと動いていたかも資料としてとれる。

 

実際、過去の船を最新の説に基づき復元して海に浮かべた結果。

 

その場で沈んでしまったという例もある。

 

こうやってきちんと浮かぶことを試しておく理由はある。

 

また、一時期流行った謎の騎馬隊存在しない論などは、木曽駒などの研究が進んだ結果否定されてきているし。

 

現在の人間が、実際にこうやって試してみることで。

 

ちゃんと使えるかどうか、調べる事には大きな意味があるのだ。

 

映画の撮影だけでは無い。

 

そういう意義もある撮影なのである。

 

そして、撮影のために金がとにかく掛かるので。

 

博物館に寄付して、多少は以降の損失を抑える。

 

そういう意味もあるのだ。

 

ちゃっかりしている、とは言えるが。

 

撮影を続けていき。

 

役者の分は全て終わり。

 

後は、あらゆる角度から船を撮影し。色んな波での挙動を見たり。或いは時代考証のスタッフが動かして見て、様子を確認する。

 

側には海上警備の船も来ている。

 

もしも事故があったときのための対策だ。

 

こう言う撮影である。

 

事故が起きる可能性は充分に考えられるし。

 

その時、本職が控えていないと死亡事故にまで発展する可能性だってある。

 

だから公務員は大変だし。

 

こう言うとき、公務員が機能している方であるこの国は一応有り難い場所ではあると感じる。

 

海での撮影は三時までで切り上げ。

 

理由は定時もあるが、天候もある。

 

海での天候悪化は、尋常で無く危険だ。

 

だから、夕方から天候が悪化する予報を得て、このスケジュールで組んだ。

 

勿論必要な分の撮影は全て終わった。

 

これで可とすべきだろう。

 

港に引き上げ。

 

皆を帰した後、博物館の人間を呼んで船を引き渡す。船を感謝しながら運んでいく博物館のスタッフ。

 

まあこんな貴重なもの。

 

寄付されたら、それは嬉しいだろう。

 

実際には、昔だったらこうはいかなかっただろう。

 

今回の場合、船が出来た後、港で散々撮影し。

 

更にそれをCG加工できる状態を整え。

 

その上で海でも撮影し。

 

その結果、すぐに撮影は終わり。

 

博物館に引き渡す事が出来た、という状況である。

 

そのため、船も殆どいたんでおらず。

 

博物館の人間も、喜ぶ条件が出来ていた。

 

だからこそ国からも補助金が出たし。

 

ある程度出費も抑えることが出来た。

 

全て井伊がしっかり事前に計画を練ってくれたからこそ、出来た事である。これで充分だろう。

 

一通り終わった後、そのまま高宮も帰宅する。

 

今日は流石に自家用車とはいかない。

 

飛行機を使って日帰りするが。

 

まあこれは他の俳優達も同じだ。

 

多少は苦労して貰う事になるが。

 

その代わり出張手当はきちんと出す。

 

そういう事をやるからこそ。

 

高宮は、ホワイト職場だと誇ることが出来る。俳優は使い捨て。売れないアイドルはすぐに消える。

 

そんな風にやっていたから、芸能界はどんどん衰退し。今では面白くもないバラエティ番組で、年老いたスタッフが素人弄りしか出来なくなった。

 

会社も同じだ。

 

人材を育てなければ人材などいるわけもないのに、完成品の人材ばかり欲しがり。

 

挙げ句の果てに会社は親ではない等と言い放つ厚顔無恥ぶり。

 

今後も人材の流出と消滅は止まらないだろう。

 

当たり前の話であり。

 

自業自得だ。

 

高宮は、そんな連中とは一緒にならない。

 

それだけは、決めている。

 

自宅に戻ると、連絡が入っていた。

 

小野寺からだった。

 

「海上巡視艇からの指摘事項が来ている。 目を通してほしい」

 

「了解」

 

幾つか指摘事項があるので、見ておく。

 

元々海上の巡視艇は近年色々問題が領海で起きている事もある。

 

かなりぴりぴりしているようだが。

 

ただ、文面は比較的柔らかかった。

 

「安全配慮は十分と感じました。 また、指定の時間通りに作業を終わらせていたのも好感触です。 映画の撮影頑張ってください」

 

そうかそうか。

 

それは有り難い話だ。

 

いつも大変な仕事ばかりしていて、苦労も絶えないだろう。

 

そう思って、メールを閉じる。

 

井伊には目を通した旨の連絡を入れて。

 

それで休む事にする。

 

流石に飛行機で行き来したのは疲れた。

 

高宮は身体能力がそこまで高い方でもないし、疲れるものは疲れるのである。石山のようにガッツがあるわけでもないし。

 

石山みたいに身を削っても平然としていられるわけでもない。しかも石山はジムで体重を戻しているという事なので、はっきりいって凄いと言う言葉しか出無い。

 

まあ石山は記者という概念を完全に二次元方向に超越しているので。

 

そういう意味では、あれだけ出来ても不思議ではないのだろう。

 

高宮はそうではない。

 

だから、そのまま溶けるようにねむった。

 

翌日からは、スタジオに出る。

 

俳優達もきちんと出て来たので、安心した。

 

まあ、劇団で鍛えられているし大丈夫か。

 

そのまま、撮影を開始する。

 

そして、みるみる俳優達の目が死んで行く。

 

当然だろう。

 

昨日の撮影はあくまで高宮映画では例外だというのを忘れて貰っては困る。

 

先輩達に話は聞かされている筈だ。

 

此処にあるのは。

 

虚無を撮影する現場なのである。

 

まずは恒例の組み体操だ。

 

なお服装は皆ジャージでやってもらう。

 

水軍風の服装は、CG加工でどうにかする。

 

今ではそれくらいは、とても簡単にできるようになっているので。別に問題は特にないのである。

 

ひたすら組み体操を、数日撮影し続ける。

 

今回は組み体操にも気合いを入れるつもりだ。

 

途中、面白くなりかねない要素をいれてしまったので。

 

徹底的につまらなくするための要素にも気合いを入れる。

 

また、良くいる。

 

歴史的に見てどうだの。

 

史実と比べてどうだの言う。本職とは遠く及ばないくせに、設定のケチばかりつけるような連中に対しても、今回高宮は解を用意している。

 

現在最先端の説で復元した船を撮影に使い。

 

時代考証に本職を呼んで、演技指導などもしっかりした上で。

 

つまらなくする。

 

設定がどんだけ良かろうが。

 

如何に最新の説に基づいていようが。

 

話がつまらなければ虚無になる。

 

それをしっかり見せるつもりである。

 

勿論、そんなことをインタビューとかで語るつもりは無い。淡々と撮影を続けていき。そしてその結果虚無が出来ればいい。

 

いずれにしても、意識が高い阿呆どもにきつい仕置きをするために、この映画は作っているし。

 

今までの映画だって作ってきたのである。

 

だから、最終目的目前の今も。

 

それは変わらない。

 

フランスの映画賞を狙おうが、それは同じだ。

 

そもそも高宮の目的は。

 

最初から変わっていないし。

 

恐らく代わる事も無いだろう。

 

なお、海上の撮影シーンを取材したいと言って来た奴がいたが。

 

今まで散々不義理をやらかしている新聞社なので、一切拒否。

 

マスゴミはもはや完全に蚊帳の外に置かれ。

 

高宮に近付くことも。

 

勿論高宮の真意に気づくことすらも出来なかった。

 

既にブロガーなどの中にも。

 

高宮の映画が、おかしい事に気づき始めている人間が出始めているというのに。本職がこの有様というのは。

 

流石に、石山が本職に見切りをつけたのも分かるし。

 

それに石山が二次元記者と言われるのも、また納得の話だった。

 

 

 

撮影を淡々と続けていく。

 

フランスの映画賞向けだろうがなんだろうが、高宮の撮影スタイルは変わらない。

 

ただ、石山が時々取材に来る。

 

これは勿論、許可を出してから来て貰っている。

 

以前、密着取材をしたという事もあるだろう。

 

今回はフランスの映画賞向けの映画に対する記事を書くとしても。

 

撮影現場は今までと同じと伝えてもある。

 

あまり邪魔にならないように。

 

頻繁に足を運ぶつもりはないようだった。

 

それでいい。

 

本来は記者はそういうものなのだろう。

 

だが、いつの間にか、スクープをぶっこ抜くのが記者で。

 

サラリーマンだからスポンサー様の言う事を聞くのが記者だというのが定着した。

 

だから石山は「異常」だし。

 

本人もそれを認めている。

 

ネットでの二次元記者という呼び名も。

 

石山がどんどん高品質の記事をただで公開していくと。

 

やがて蔑称から褒め言葉に変わっていくのだった。

 

そして悲しい事に。

 

石山の評判を聞いて真似しようとする記者はいたが。

 

もはや人材をすり潰し尽くした新聞社に、それを真似できる人材など存在せず。

 

虚しく筆は滑るばかりだった。

 

ただ、それでも石山は。取材をするとなると、一日スタジオにいて、無言のまま丁寧にメモを取る。

 

今回は俳優達のコメントを必要としていないようすで。

 

休憩時間に五分だけ、という感じで取材をするつもりは無い様子だ。

 

とにかく邪魔にならない場所を最初に指定し。

 

そこに座って、徹底的に大人しくしている。

 

このため、傲慢な記者になれている撮影スタッフも、石山に対しては不快感を覚えないらしく。

 

陰口をたたいたりはしていないようだった。

 

また彼女が噂の「二次元記者」だという事も知らせていないから。

 

今時出来た記者もいるものだと、驚いているようだった。

 

それくらい、特権階級と自身を勘違いして記者が傲慢の限りをつくしてきたということである。

 

今回の映画は、高宮が作りあげてきた虚無の集大成だ。

 

そして、これでフランスの映画賞の大賞を取れば。

 

ついに最終段階に、計画は移行する。

 

その時こそ、映画業界がひっくり返り。

 

上層部でふんぞり返っていた、業界人どもは全員その威信を根元から失うのである。

 

それをやるためには、前時代的なスキャンダルのすっぱ抜きなどでは駄目だ。

 

どうせ蜥蜴の尻尾斬りで全てが終わる。

 

だいたい大マスコミがスポンサーと癒着して、その提灯記事しか書かない現在。

 

そんなスキャンダルは出ようが無いのである。

 

だから高宮がやる。

 

全てを終わらせる。

 

最大限の虚無を。

 

この映画に込める。

 

黙々と撮影を続ける高宮だが。ずっと、口元は笑みの形に歪み続けていた。

 

そのまま、全てを終わらせる。

 

終焉の映画を、ついに撮っているのだし。

 

こいつがフランスの映画賞で大賞を取れば。

 

以降、虚無映画を撮る必要もなくなるのだから。

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