謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
既に内輪でしか意味を為さない賞を取る。
しかもそこで徹底的な権威を構築する。
それが、終わりの始まりでした。
高宮が始めるラグナロクの。
序、終焉は始まる
ついにフランスの映画賞に二度目の挑戦で大賞を取得。
高宮映画、世界の頂点に立つ。
このニュースは、世界を駆け巡った。
それはそうだろう。
そもそも海外でも、高宮映画の見る睡眠導入剤ぶり、一切合切中身がないぶりは噂になって来ていたのである。
それなのに、業界人だけは勘違いしている。
そのいびつな構造も、話題視されていた。
ハリウッドでは是非ラジー賞をという声も一部で上がっているようだったが。
残念ながらハリウッドで作った映画ではないし。
それはどうしようもない。
ただ、クソ映画マニアですら。
どう評価して良いか分からないと発言する代物だという事もある。
どうしてこれが大賞を取ってしまうのか、という嘲弄はあるのだが。
一方で、じゃあだめな所を具体的に挙げろと言われても。口をつぐんでしまうのも事実なのである。
まさに得体が知れない邪神そのもの。
映画を邪神に仕立ててしまう達人。
それが高宮であり。
そして高宮は、ついにその技を極めたのだった。
更に、だ。
大賞を取り。
授賞式から帰宅した翌日。
早速、同志を集めてテレビ会議をする。
同志に加わって貰った黒田も。この間から、強引に同志に引きずり込んだ日野もテレビ会議に出て貰う。
日野は計画について告げると。
完全に目が死んだ。
高宮が恐ろしい事を目論んでいる事は、何となく分かっていたようだったのだけれども。まさか此処までとんでも無い事だとは思っていなかったのだろう。
そして日野は散々計画に荷担した。
もう逃げる事も出来ない。
だから、死んだ目で同志に加わる事を同意した。
人形のように頷いて。
それで高宮は充分愉悦を感じたし。満足もした。
この辺り高宮は。
もう心身共に、邪神になってしまっているのかも知れない。
それはそれで一向にかまわないのだが。
「それでは、これより全てをひっくり返す作品の作成に入る」
「ついにやるのか」
「やる」
井伊に答える。
日野は、青ざめているが。
やがて手を上げた。
「あの、高宮監督。 本当に面白い映画なんて作れるんですか?」
「ふっ、心配ない」
「……」
心配そうにする日野。
そもそもだ。
巨匠だって駄作を作るのである。
意図的に面白い映画なんて本当に作れるのか。
そう顔に書いている。
だが、高宮はこうも思うのだ。
巨匠が駄作を作ってしまうのは。
周囲の関係が整理できていなかったり。スポンサーが横から余計な口を出したり。或いは器では無い場所に行ってしまった巨匠が調子に乗って、意識が高くなってしまったり。そういうときだと。
高宮は計画的に全てを進めてきた。
だから、これで上手くいかせる。
少し前に三十路になった高宮だが。
まだまだ人間としてはこれからの年齢だ。
これから一気に計画を邁進し。
この業界そのものをひっくり返し。
面白い映画は正当に評価される、映画戦国時代を作り出すのである。
業界人どもは面子を完全に潰され。
そして闇へ消える。
それが運命である。
その運命に奴らを叩き込むために、高宮はずっと準備を続けて来た。そして準備は完成したのだ。
「今回は、撮影に関しては密閉スタイルで実施します」
「はあ……」
日野はあまりぴんと来ないようだが。
たまに、大型映画とかではこう言うスタイルをとって、外部に情報を漏らさないようにする。
また、既に配役は決めている。
高宮が作った事務所から人員は選抜する。
今回も、人数少なめの低予算映画だ。
それでいいのである。
それで面白いものを造れば良い。
そして作るノウハウも、高宮には備わっていた。
「黒田には、CG作成の人員を預けるけれども、此方について何か問題は?」
「いえ、特に。 今回は流石に私だけでは無理っぽいので」
「ん」
それならそれでいい。
黒田には編集も手伝って貰う予定だ。
後は井伊だが。
井伊は警察などにどんどんコネをつくって、周辺をガチガチに固めてくれている。
既に高宮は人食い監督と暴力団関係者から言われているようだ。
近付こうとすると、何故かそれを先に察知し警察が動く。
内通者がいるのではないかと調べても、誰も出てこない。
今、もっとも売れている監督だ。
金は相当に溢れているから、どうにか接触したい。
暴力団そのものや、その傘下にあるインチキ業者はそれで必死に気を揉んでいるが。近付こうと考えるが、そもそもどうやっても接触できないし。「何もしていないのに」警察が踏み込んでくる。
困惑した連中は、もう高宮には近付かないようにしようと判断したらしく。
今では、だいぶ周辺は落ち着いてきているようだ。
井伊はよくやってくれたと言える。
小野寺が、続いて発言する。
「後は重役達ですけれど」
「何か動きが?」
「専務に対して変な人達が一時期接触しようとしていましたね」
「ほう」
社長の代わりに、事実上会社を回していた専務。
芸がない二代目である現在の社長と違って、「出来る社会人」ではあったのだけれども。
高宮が配給会社を事実上乗っ取ってからは、完全に精彩を欠いていた。
一時期は何とか抵抗しようとしていた様子だが。
ある時期に心が折れたようで。
それっきりだ。
それなりに順調な人生を送ってきたのだろう。
挫折を味わった事がないと、そうなる。
結局の所、中年以降に味わってしまった挫折で。
何もかも自信を失っていたのだろう。
「で、それは暴力団とか?」
「いいえ。 特に関係がないカルトですね。 本人の意思で勝手に入信するなら……と思ったのですが」
「駄目」
「分かりました。 対応しておきます」
軒先貸して母屋を取られる。
文字通りの事態になる。
カルトの末端信者はアホだが。
カルトを使って稼いでいる連中はアホでは無い。
それについては、何度も目にして良く知っている。
連中は詐欺のプロだ。
近年では人権屋も同じやり口を使っている。
前面に出る信者は文字通り思考停止したアホの群れだが。
支配して金を動かしている連中は違う。
カルトなんてアホの集団だという言葉はまったくもって正しい。
しかしながら、そのアホの集団を動かしている連中は違っている。だから、気を付けなければならない。
そういうものである。
「それに、スキャンダルになる可能性もある」
「……小野寺が言っていたカルトについては、それほど規模が大きいものではない。 専務の地元にある小さなカルト団体。 背後についているのもせいぜい市議会議員。 潰すなら出来る」
「ならば潰しておいて」
「了解」
カルトを資金源にしている政治家なんて幾らでもいる。
特にカルトを資金源にするだけではなく票田にするケースも多い。
実際問題、今の日本ですら。
カルトを票田にしている政党や。
カルトがスポンサーになっている政党は普通に存在している。
日本で当選するには、三バン。「看板」「鞄」「地盤」が必要とされている。
看板は知名度。鞄は鞄に詰めた現金。地盤はそのまま。
その内鞄と地盤を満たせるという事もある。
カルトと政治家の癒着が多いのも、ある意味当然だと言える。
そういう意味では、この国では民主主義なんてまともに動いていないとも言えるし。
他の民主主義国家でも。
それは同じなのだと言えるだろう。
馬鹿馬鹿しい話だが。
それに対して、高宮が迷惑を受けるのは御免被る。
さっさと対応して。
お帰り願うだけである。
「後、問題は?」
皆に意見を聞いておく。
圧を掛けるようなつもりは無い。
此処にいるのは同志だ。
皆に忌憚ない意見を言って貰ってかまわない。
なお、新しい映画については、石山にかっつり記事を書いて貰うつもりだ。
勿論提灯記事にするつもりはない。
かといって、酷評だけをさせるつもりもない。
好き勝手に書いて良い。
そういうと。
石山はそれが一番難しいんだよと、顔に書いていた。
後は、映画賞の腐敗についても書いて貰う。
これについては、別に違法な取材など一切しない記事で、である。
ただ公開するにはまだ早い。
高宮の次の映画が、映画業界を徹底的に揺るがし。
そして高宮に対する評価を腸捻転させてからである。
「では、これで会議は終わり。 皆、次が最大の正念場。 頑張ってもらうからね」
テレビ会議を終える。
さて、では最後となるかも知れない映画撮影だ。
これが完成した暁には、もはや全てがひっくり返る。
今まで我が物顔に好き勝手をしていた映画業界人は完全にその立場を失い。
顔色を窺っていたマスコミもしかり。
権威というものが、完全にひっくり返り。
「高尚な芸術」とやらを作ろうとして娯楽を忘れ。
単なる自己満足に落ちようとしている映画という文化が。
息を吹き返す切っ掛けが出来るのである。
それは、文字通りのブレイクスルーでありパラダイムシフトである。
このまま行くと、映画という文化は意識高い系の連中に制圧された挙げ句。
その利潤を全て吸い尽くされ。
挙げ句に捨てられる。
今、ゲーム業界が似たような憂き目に会っているが。
それよりも大規模に。
徹底的に寄生虫に全てを貪り尽くされる事になるだろう。
それだけは許されない。
今までも、色々な文化が寄生虫に好きかってされてきた。
その結果、徹底的に利潤が吸い尽くされ。
残ったのは意識が高いタダのアホと。
それによる排他的で攻撃的な環境だけだった。
映画がその道を辿るのは。
映画を愛する一人の人間として。
絶対に許すことが出来ない。
だから守るために。
敢えてずっと道化を演じ続けてきた。
それもこれで終わりだ。
此処からは、牙を剥く。
這い寄る混沌として、周囲に怖れられていたかも知れない。だが、それはあくまで高宮を知る人間だけの話。
ここから先は。
全てが終わる。
寄生虫どもにとっては特に、だ。
さあ。最後の段階まで来た。
ついに、終わりの時間だ。
スタジオを借りた後。
箝口令を敷く。
これから、シリーズの集大成となる作品を作る。
更に。俳優は高宮の作った配給会社直属事務所の人間だけ。スタッフも配給会社の人間のみ。
皆、小野寺が一通り話をした者だけ。
意思疎通の達人である小野寺は、人を見る目にも長けている。
つまるところ。
隙は一切無い。
高宮がコーヒーの写真をSNSにアップしている間。
一応噂は流れた。
高宮が、今までのシリーズの集大成を作る、という話をだ。
それはフランスの映画賞でついに大賞を取ったという事もある。
日本のアカデミー賞に至っては三連続で大賞受賞だ。
だから、SNSの反応は。
極めて冷ややかだった。
「集大成ねえ。 今までの高宮映画でいいんだけどな」
「見る睡眠導入剤。 不快で無いクソ映画か。 確かに俺も最近は、疲れきった日はBlu-rayで高宮映画を流して、そのまんま寝てるわ。 本当にそのまま眠れるから、無茶苦茶たすかるんだよなあ」
「まあどっちにしても、もし変な方向に行っても、今までの高宮映画は普通に見られるしなあ。 いいんじゃね」
「それに高宮映画に期待してるの、賞とか出してる連中だろ。 あいつら完全に意識高い系の言動しかしないし、まともに映画を見る目もねえ。 だから放置しておいて大丈夫だろ。 最悪でも、今までの高宮映画観ればいいだけだしな」
理想的な反応である。
そういうことだ。
そして、こういう反応をしているからこそ。
高宮が次に作る映画は、文字通りの強烈な衝撃を世界にもたらすのである。
その時が実に楽しみだ。
高宮はどちらかというと、やはり愉悦を感じる方である。
だから、その時が楽しみでならない。
SNSの情報を集めてきた井伊に礼を言うと。
スタジオに入る。
勿論最初にやるのは。
小道具大道具の徹底的なチェック。
高宮は、ある意味誰も信用していない。
信用しているのは、同志にしているものだけである。
そして、余程の事がない限り、同志になど加えない。
なんだかんだで既に三十路。
商業映画を作り始めてから、もう10年弱が経過したか。
その間、ずっと計画的に作業を進めてきて。
それがついにかなおうとしている。
戦国時代。
一地方に地盤を作るには、それこそ一世代掛かった。
今は時代のスピードがどんどん上がって来ている。
だから、それはそれでかまわない。
高宮としても、計画を一代で完遂できるし。
何もかも安泰だと思って胡座を掻いている連中を、文字通り世界から一掃できるのだから。
スタジオの確認を終えた後。
今回も滅茶苦茶をやらされるに決まっていると覚悟を決めて死人の顔色になっている俳優達と顔合わせ。
高宮映画の現場における評判は既に浸透しているらしい。
全員、これから精神的に死ぬんだと、覚悟の決まった目をしていた。
それはもう、あきらめの境地に近い目だった。
高宮は、顔合わせの時は。
基本的にこうとしかいわない。
脚本の解釈はそれぞれに任せる。
演技指導はしないから、一球入魂で演技をしろと。
だが、今回は最初からそのやり方を違える事を宣言した。
「今回の映画撮影は、今までと少し違うので注意してほしい。 噂を聞いている人は、それで驚くかも知れないけれども。 先に説明はしておきますよ」
何が違うのか。
どうせ意味不明の演技をさせるだけなのだろう。
それは分かっている。
そう顔に書いている俳優達に、淡々と説明。
やがて、俳優達は完全に青ざめていった。
更に厳しい要求が来る。
それを理解したのだろう。
そして、彼らは更なる恐怖に、胃痛に苦しむ事になる。
高宮は、それを見て笑っていればそれでいい。
そして、作るのだ。
新しい時代の礎となる映画を。
クソ映画の代名詞と言われた高宮映画は。
此処から変わる。