謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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業界そのものを巻き込んだちゃぶ台返し

作りあげられてきた虚飾の城が崩壊する神々の黄昏が始まりました

高宮はその気になれば面白い映画を作れるし

今まではクソ映画を意図的に作ってきた

しかもその意図も、全てバラされる。

それが身内での評価を取る事に専念していた界隈にどのようなダメージを与えるかは、明白でした。

かくして堕落しきった汚泥の城は、倒壊したのです。


1、超絶の変貌

八ヶ月に及ぶ撮影が終わる。

 

今回の高宮映画は、大河シリーズだという宣伝がされたが。

 

SNSでの評価は、当然のように冷ややか極まりなかった。

 

「大河シリーズっていってもなあ」

 

「今まで、どんな高宮映画も同じに見えたんだよな……」

 

「うん」

 

「とりあえず、即寝か最後まで見ても一切理解出来ないかだろうし、枕もって映画館いくわ」

 

そうか、枕をもって映画館に行く事すら定着しているのか。

 

それはそれで面白いが。

 

まあ今回は寝かせない。

 

黒田と一緒に、極秘で雇ったスタッフとともに編集作業を行う。

 

黒田は今まで、今回の映画のために少しずつ作業をやってもらっていた。

 

流石に体の問題があるから、酷使するつもりは無い。

 

入念に準備しておいたから。

 

定時内の作業で、充分にやっていく事が出来る。

 

淡々と作業を進めていき。

 

高宮映画としては異例なことに。

 

撮影が開始から一年後。

 

ようやく映画が完成した。

 

さて、此処からだ。

 

映画館にて、公開を行う。

 

さっそく睡眠障害に困っている人や。どんなお化け屋敷が見られるのだろうと思っている連中が。わんさか押し寄せる。

 

今回も満員御礼だ。

 

そして、その満員御礼は。

 

そのまま、驚愕の坩堝に叩き込まれることになった。

 

高宮は知っている。

 

人間の感情を揺さぶる方法を。

 

映画における感動というのは。

 

人間の感情を揺さぶることだ。

 

感情を揺さぶることはとても健康にもいいし。何よりもその作品の事を人間の脳へと焼き付ける。

 

それでいいのである。そのまま、ただひたすらに心を掴み、揺らしてやれば良い。

 

今回は大河映画だ。

 

内容は、ある人物が一代でのし上がり。最後には立身出世を遂げるも。自分がやってきた事が全て帰ってきて。

 

家族にすら見捨てられ。

 

今までやってきた全ての悪行を悔いながら、孤独に病室で死んで行くという話だ。

 

それはとても悲しい、立身出世の現実。

 

その人物は、立身出世に手段を選ばず。

 

家族ですら使い捨てた。

 

母性信仰が未だにまかり通っている世界で、強烈な描写を徹底的に入れていく。

 

そんなものはない。

 

そう厳しく断言する描写を、容赦なく叩き込んでいく。

 

日野は強烈な悪女役を丁寧にやってくれた。

 

本当にこんなアクが強い役をやるんですか、と日野は脚本を見た時に驚いて聞き返してきたが。

 

内容を今までと違い、分かりやすくしている。

 

だから、すぐに内容を理解し。

 

予想できる範囲内で最高の演技をしてくれた。

 

映画の完成品に、それが完璧に出ている。

 

なお、映画の編集に加わって貰ったスタッフは。

 

それぞれ相応の謝礼を出す代わりに。

 

一定期間、ネットとも外界とも接触を断って貰った。

 

それくらい、徹底したのだ。

 

情報が漏れるのを防ぐために。

 

そのため。

 

この日は、文字通り革命の日となった。

 

映画館から帰った人間が、驚愕のコメントをSNSにて残し。

 

それが瞬く間に爆発する。

 

爆発するように拡散される、ということだ。

 

今まで高宮映画は、じわじわと「見る睡眠導入剤」「不快で無いクソ映画」というのが拡がっていき。

 

いつの間にかその認識が完全固定されていたが。

 

今回は経緯が真逆と言えた。

 

「い、今も信じられない。 無茶苦茶面白かったぞ……」

 

「ど、どういうこと!? 高宮映画だろ」

 

「分かりやすいし、何というか心を揺さぶられた。 最初の三分で寝るだろうと思って枕までもってったのに、枕が最後にはずっと涙を吸ってた……」

 

「お、おいおいホントか!? お前工作員じゃないだろうな」

 

困惑の声もあるが。

 

すぐにそれが、素直な感想に取って代わられる。

 

「シナリオはどっちかというとダークな内容だったけど。 今までと違って退屈さを呼ぶようなイミフな会話とか組み体操とかは一切無くて、一人の人間があらゆる手段を使って栄達して、その最期に徹底的な破滅を迎える話だった。 とにかくバランス感覚が絶妙で、本当に面白い映画だった。 単純に面白いし、誰が見ても最後まで釘付けになると思う」

 

「おいおいマジかよ! 高宮映画だろ!」

 

「俺も驚いてる! ともかく映画館いってこい!」

 

「……分かった。 前に三分で寝たけど、今回は違うと思って見にいってみる」

 

爆発する評判は止まらない。

 

そのまま、今までとは真逆の映画に対する評価がどんどん蓄積されていく。

 

クソ映画のブロガーも、驚愕している者が多かった。

 

「ちょっと待って。 これは本当に高宮映画ですか? あの、クソ映画のマニアですら理解不能な内容で匙を投げることで有名な!? むっちゃ分かりやすい上に、最後まで見入ってしまったぞ……」

 

「クソ映画のレビュワーが、揃って名作だと声を上げてる。 クソ映画要素がミリもない上に、滅茶面白いって意見が一致してる」

 

「俺も見て来た。 これ、普通に人生で見た映画の中でも五指に入るぞ。 心に刻み込まれた感じだ」

 

「今までの高宮が作ってた映画は何だったんだよ! もしこういうのを作れるのに、クソ映画作ってたんだったらなんだったんだあいつ!」

 

怒号が巻き起こる。

 

まあそりゃあそうだろう。

 

高宮がわざとクソ映画を作っていた。

 

それがついにわかったのだから。

 

そしてその気になれば、名作も作れる。

 

それも理解したのだろうから。

 

ともかく、しばらくは阿鼻叫喚の巷が続いた。

 

SNSでのトレンド上位は、全世界で四日間、高宮映画が独占した。

 

海外のファンもわざわざ日本に高宮の映画を見に来て驚愕したようで、そちらでもSNSでは話題になっていた。

 

海外の翻訳版も、一週間後に公開。

 

向こうでも「見る睡眠導入剤」「不快では無いクソ映画」として有名だった高宮映画なのに。

 

蓋を開けてみると、評判は向こうでも爆発した。

 

「何だこれ! ファック! 普通に面白いぞ畜生!」

 

「幾つか高宮の映画は見たが、どれも頭に全く頭に入ってこなかった! これはまるで別物だ! 俳優は殆ど完璧な演技してるし、内容だって非常に印象深い! 社会の闇をモロに暴くような内容では無くて、平凡な人間が栄達と引き替えに闇に墜ちていって、最後に全部報いを受けるってのは新鮮だ。 俺が見た映画の中でも、十……いや五本の指に入ってくるぞ」

 

「あのサムライ映画の巨匠の映画を見たとき、衝撃を受けたのを良く覚えてる。 本当にあれは凄かった。 あの時以来の衝撃を受けてる……」

 

「俺もだ。 畜生、どういうことだ。 今まで高宮はヤクでもキメてて、急に素面にでも戻ったのか!?」

 

困惑している海外勢。

 

ふふふ。

 

思うつぼである。

 

そのまま、映画の公開は全国で一気に拡がっていき。

 

高宮映画史上。

 

最高の売り上げを記録していた。

 

 

 

激震は、すぐに業界にも拡がった。

 

高宮が、分かりやすい上に面白い映画を作るなんて、業界人は誰も思っていなかったのである。

 

自分達ごのみの。

 

意識高い人間が喜ぶ。

 

彼らが軽蔑している一般人を突き放した。

 

難解で哲学的な映画を作ってくると思っていたのである。

 

だが、それが全く違う結果に終わった。

 

それが、あまりにも衝撃的だった様子で。

 

しばらく、彼らは黙りこくっていた。

 

その気になれば、高宮はこういう映画を作れる。

 

どこかで、その意識が無かったのかも知れない。

 

結果として意識高い業界人達は。

 

完全な不意打ちを食らい。

 

茫然自失から立ち直る前に、更に高宮の不意打ちを受ける事になった。

 

高宮は、ある日。

 

朝、コーヒーの写真を上げるのでは無く。

 

SNSで初めて。

 

長文のコメントを掲載したのである。

 

それは衝撃とともに、SNSで拡散されたのだった。

 

「最新の映画、楽しんでいただいているようで何よりです。 私は今まで、意図的に面白くない映画を作ってきました。 これについては理由があるのですが、今回はその理由が消滅しました。 故に、誰もが楽しめる映画に切り替えた次第です。 今後は誰もが楽しめる映画に絞って撮影を行っていきます。 次回作以降もお楽しみに。 なお睡眠導入剤がほしい方は、前作までの映画をお楽しみください。 撮影した私がいうのも何ですが、中身はどれも似たようなものですので」

 

文字通り、激震が走る。

 

当たり前だろう。

 

これが公式のコメントなのである。

 

そして、SNSでは。

 

大爆発が起きた。

 

「み、認めやがった。 今まではわざとつまらない映画作っていやがっただと……」

 

「要するに何か。 本人が意図的につまらん映画を作っているというのに、アカデミー賞やら海外の賞やらをだした連中は、それを凄い凄い哲学的で奥が深い高尚だって、ベタ褒めしてたって事か」

 

「そういう事になるんだろうな……」

 

「要するに、あいつらには見る目がないって事だな」

 

嘲笑が混じる。

 

そしてこのコメントは、即座に世界中に拡散された。

 

なお井伊が監視して。

 

悪意ある翻訳がされる前に、先にきちんとした各国語で訳して拡散した。

 

その結果。

 

また、SNSのトレンドは。「高宮監督のコメント」が、上位を独占する結果となったのだった。

 

当然、こうなるともはや誰も止めることはできない。

 

そこにだめ押しが入る。

 

石山による、映画賞腐敗の実態を暴く記事について、である。

 

石山の記事は、膨大なデータに裏付けされたもので。

 

如何に映画賞が、意識高い業界人がふわっとした理由でつけているか。

 

その裏に政治的なものがあるか。

 

場合によっては金が動いているか。

 

それらを全て暴き出したものである。

 

国内のアカデミー賞だけでは無い。

 

海外の賞についても、だ。

 

アカデミー賞についても、ずばりと斬り込んだ内容になっており。

 

審査員の経歴から、受賞についてのコメントまで全てを切り抜いて丁寧に解説を行っており。

 

真面目に読むとそれだけで一時間は掛かるような代物だった。

 

ほぼ論文に近い代物だが。

 

これは石山が、文字通り入魂して書いた記事であり。

 

連日妄想で新聞記者どもが。

 

自分の主観を裏付けるために適当な取材をし。

 

その主観に我田引水して作った記事とは根本的に違っている。

 

石山の記事に対する信頼度は、今までの記事の正確性から高くなっており。

 

これもまた、強烈な衝撃を業界に走らせた。

 

M8クラスの直下型地震が、立て続けに映画業界を襲ったようなものである。

 

業界の寵児と、業界人共が持ち上げていた高宮監督によるネタばらし。

 

更にはスポンサーのケツを舐める事を仕事にしている新聞記者が絶対に書かない冷徹かつ情け容赦ない分析記事。

 

この二つが。

 

短時間で、映画業界の権威を破壊し尽くしたのだ。

 

その間も、高宮監督の最新映画は興行収入を伸ばし続け。

 

ついに、全世界で1000億の売り上げを達成。

 

更に伸びる勢いを、見せ続けていた。

 

 

 

皆が集まって、テレビ会議を行う。

 

完全に足下を掬われた業界人共は右往左往するばかり。

 

SNSでは虚無だと作者が断言した作品を、ベタ褒めしていた彼らを嘲笑するコメントで爆発寸前。

 

もはや言論の統制どころでもなくなり。

 

火消しも機能しない状態になっていた。

 

なお、会社の方にも驚くほど何も抗議の電話とかは来ていないらしい。

 

もはや対応できない状態だ、ということだ。

 

逆に、アカデミー賞の審査員などに、突撃してコメントを寄越せと迫る週刊誌が激増しているようだ。

 

連中はどうでもいい。

 

問題は、これからである。

 

だから、テレビ会議で話をしておく。

 

「いや、まさか。 本当に高宮監督が、面白い映画を作れるとは思いませんでした……」

 

そう失礼な事を言ったのは日野である。

 

だが。別にどうでも良い。

 

高宮が涼しい顔をしているのを見て、日野は青ざめたまま俯いていた。

 

まあそれはそうだろう。

 

日野にしてみれば、言いたいことは山ほどあるのだろうから。

 

「井伊。 それで状況は?」

 

「めぼしい大御所の動きは全て監視済。 協力関係にあるマスコミと協力して、反撃の記事を書かせようとしている奴もいるけれど。 既にそもそも新聞のいうことなんて誰も信じないし。 何より……」

 

「映画関係の雑誌はとっくに終わってる?」

 

「そういうこと」

 

映画関係の雑誌は、以前石山が精度が高い分析記事を書いたことにより。ほぼ壊滅に陥った。

 

今ではもはや映画の評価は、ブロガーが担っている状態である。

 

まあ、プロが書く評価と。

 

その辺の野良素人が書く評価が。

 

殆ど同レベルなのだ。

 

それだったら、わざわざ有料の雑誌なんて誰も買わない。

 

それが当然の現実である。

 

そんな状況だ。

 

高宮映画を批判しようにも。

 

そもそも手札がないのである。

 

ましてや、今や影響力のある業界人など存在しない。

 

既に影響力で逆転しているのを確認した。

 

だから高宮は、計画を前に進めたのである。

 

その結果がこれだ。

 

これは奇襲攻撃は奇襲攻撃でも。

 

少数の戦力で、一気に中枢を落としたとか、そういうものではない。

 

入念に準備した大兵力で。

 

一気に敵国全土を蹂躙した。

 

そういう奇襲攻撃だ。

 

もはや敵には何もできない。

 

「一人だけ、自分のSNSで恨み事をブツブツ呟いているアカデミー賞の選考員がいるけれども、それもすぐに炎上してる」

 

「まあ、そりゃそうだろうね……」

 

「というわけで、放置しておいていいと思う。 醜態しかさらせない」

 

「それでも油断はしないように」

 

こくりと頷く井伊。

 

これに乗じて暴力団なり反社組織が動き。

 

進退窮まった業界人を取り込んで。

 

ポリコレとかの運動を始めるかも知れないからだ。

 

意識高い系に陥ると、人間という生物はどうしてかプライドが極限まで肥大する傾向にある。

 

このため、簡単に墜ちやすくなる。

 

まあ、今後はなにかにだまくらかされて、資産をあらかた失うかも知れないけれども。

 

今まで映画界隈で生き血を散々啜ってきたのだ。

 

せいぜい酷い目にあうがいい。

 

それくらいしか、高宮には言う事はなかった。

 

他にも幾つか話を終えると、テレビ会議を終える。

 

そして、その後。

 

社長にメールを送った。

 

「次の映画の撮影を開始します。 スタジオや役者は此方で手配しますので、許可だけお願いします」

 

「分かった……。 高宮君、なんだか凄い騒ぎになっている様だけれども、大丈夫なのかね?」

 

「大丈夫ですよ。 全て此方にお任せを」

 

「……」

 

困惑した様子の社長。

 

もう、彼にはできる事は無い。

 

専務も同じだ。

 

既に配給会社は高宮の私物も同然。

 

他の監督達に干渉するつもりは無い。

 

他の監督達の分も高宮が稼ぐ気はあるが。

 

いずれにしても、もはや全てが予定通りに動いている。

 

これ以降。

 

高宮の邪魔をする奴はいない。

 

全てが崩れ始めていて。

 

その大崩落は、止める事が出来ない。

 

最終的に来るのは。

 

新しい時代だ。

 

風呂に入って、ニュースを見る。流石に全世界で一千億稼いでいる映画に対して、無視はできないのだろう。

 

大新聞も渋々という感じでネット記事を載せていたし。

 

ポータルサイトでも、大々的に連日売り上げを更新していく高宮映画について記事が出ていた。

 

流石に映画ブロガー達も、本腰を入れ始めている。

 

幾つか、大真面目な記事が上がり始めていた。

 

「今までの映画をわざと虚無に作っていたと言い放った高宮監督だが。 確かに今回の映画は普通に面白い。 普通にと言うか、はっきりいって相当に高レベルな作品だ。 一人の栄達と破滅までを描く大河作品で、とてもではないが低予算映画とは思えない傑作である」

 

「全体的に表現技法などもレベルが高く、どうして今までこれをやってこなかったのかが非常に残念である。 いずれにしても、もはや世界の高宮となった高宮監督の格に相応しい映画だと言えるだろう」

 

「今までの高宮映画は快眠のために行くものだったが。 今後の高宮映画は、恐らくだが興奮して感動するためにいくためのものとなるだろう」

 

「今まで爪を隠していたのだとしたら、それを見抜けなかったのが口惜しい。 どういう理由で爪を隠していたのかは何となくしか分からないが、災いを呼びそうなので黙っておく事とする」

 

まあ、業界人達がどうにもならなくなっている事は、何となく知っているのだろう。

 

事実彼らは黙り。

 

そして、高宮の最新作が二千五百億の売り上げを達成した翌日。

 

日本アカデミー賞は、来年以降の休止を発表。

 

審査員全員の降板と。

 

来年以降は、アカデミー賞の編成変更が終わるまでの無期限休止を発表した。

 

事実上の降伏宣言。

 

更に、フランスの映画賞も同じく。

 

ほぼ同じ宣言をした。

 

かくして。

 

ずっと腐敗した土壌に作られてきた。汚物の城は瓦解した。

 

高宮の電撃的な作戦によって。

 

しかしその電撃的な作戦は、決して一昼一夜にして用意されたものではなく。

 

10年にも渡る準備の末。

 

ついに決行され。

 

そして忍耐の末に成功したものなのだと。

 

知る者は、ごく少数しかいなかった。

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