謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
この作品は、あくまでフィクションです。
フィクションなんだよ……
映画市場が大きく動き始めた。
混乱に乗じて、噴出する多数のスキャンダル。
とにかく権威というものが、根本的に失われたのが、あまりにも大きかったのだと言える。
まず邦画では。
大物だの大御所だのとされる映画監督が、俳優に対して枕営業を強要していた事件が一つどころではなく多数発覚。
早速メスが入る事になった。
業界人が根こそぎ権威を喪失し。
全員が寒空の下に放り出された事が影響しているのは明らかである。
どいつもこいつもがあっと言う間に今までの名声を失ったが。
それもおかしな話だ。
誰もが、誰もみないような映画ばかり作っていて。
業界人だけが絶賛し。
事実誰も映画を知らないような者ばかり。
それが「大御所」。
まさにへそで茶がわく話だった。
それは何も映画界隈に限った話ではない。
いつの間にか大物面をして居座っているクリエイターは幾らでもいる。そういう奴が、実際にどんな凄い作品を作り出したのか。
答えられない人の方が多い。
芸術も、人間が作る以上。
どうしても、駆け引きが美味い人間。
ただ他人に取り入るのが美味いだけの人間が。
いつの間にか財力だのコネだのを武器に偉そうな場所に居座り。
その結果、全体のレベルが低下することは珍しくもない。
映画に限ったことでは無い。
限った話ではないのだ。
高宮は、静かに崩壊していく映画業界を見つめながら。次の映画の撮影を始めるべくスタジオを予約する。
既に地蔵の高宮という渾名は消え失せていた。
今の渾名は。
文字通り「破壊神」。
それは、正しいかも知れない。
破壊神というのは、本来破壊とその後の再生を司る神格だ。だから、今の高宮はそう見えるだろう。
そして実際の所。
破壊神という渾名は、あながち間違っていないのかも知れなかった。
いずれにしても権威が完全に失墜したのは大きい。
ある大御所業界人は、既に失踪。
自殺が噂されているが、消息は不明だ。
他の大御所業界人は、権威を失うと同時に周囲から人も離れた様子だ。
事前に動向を調べてくれていた石山が、全てを知らせてくれている。
アカデミー賞やらを、主観でしか判断せず。意識高い内容でしか評価しなかった連中は。
こうしてどんどん消えていった。
その代わりに、何が生じるか。
そこまでは、高宮も分からない。
分かっているのは。
此処からは、多様性をもつ映画文化が花開き。
第二の黄金期が来るか。
映画という文化そのものが一気に衰退し。
そういうものもあったと、過去のものとして語られるか。
そのどちらかだろう。
映画は娯楽だ。
娯楽はあくまで人の心を豊かにするものであって。
それは人の命に優先するものではない。
それを理解していない連中が、高尚な芸術とやらに仕立て上げ。自分達で勝手に独占し。勝手に価値を決め。
そして利益を掠め取っていた。
映画に限った話では無い。
何種類かの文学もそうだし。
ゲームだってそう。
他にも幾らでも、こういった連中に台無しにされていった文化は存在している。
それらの末路は悲惨だ。
例えば庶民が楽しめる娯楽だった歌舞伎は、今はすっかり衰退してしまっている。
意識高い連中が高尚な芸術に仕立て上げた結果だ。
今ではほんの一部の人間だけが細々とやっているが。
それもまあ当然だろう。
他にも似たような運命を辿った文化はいくらでもある。
人の心を豊かにするものは娯楽であって。
意識高い者達の玩具でも、金づるでもない。
そうなった瞬間、全てが狂う。
今回、高宮は。
虚無映画を作り続ける事によって。
そして不意にそれを止める事によって。
嫌になる程、世間に示した。
勿論、それによって反発だって買った。だが、今も放映が続いている高宮の最新作によって。
何もかもが、全て封殺されている。
既に売り上げは全世界で四千億に達しようとしている。
他の映画が全て霞むレベルと言われる程に人気が出ていて。
もはや、アカデミー賞がどうのこうのとほざいていた連中は。
為す術も無い状態になっていた。
今は高宮も周囲にプロのSPをつけている。
そうしないと流石に危ないと感じているのもあるが。
そうすることで。
周囲に隙は無いと、アピールする意味もあるのだった。
スタジオの下見を終えると、会社に出向く。
自家用車で行くが、途中SPの車が前後を守っているので、少し辟易する。
だが、これも仕方が無いとはいえる。
まあこれはこれ。
それはそれだ。
別に偉くなったつもりはない。
ただの映画監督だ。
しかしながら、やたらと大金は手にしている。
会社をほぼ私物化している今は、なおさらである。
だから、身を守るための術はしっかりしておかなければならない。
これは、その一端に過ぎなかった。
会社に出ると、社長が出迎えてくる。
顔色は土気色だった。
もう。完全に力関係も逆転しているどころか。
もはや此奴は、高宮の犬に過ぎなかった。
「お久しぶりです、社長。 どうですかお体の調子は」
「……ま、まあまあ、です」
「別に敬語なんて使わなくていいんですよ。 それよりも、ちょっと会社に用事が幾つかありましてね」
そのまま、自分のデスクに出向く。
デスクの引き出しには鍵を掛けているし。
PCは特定の手順で機動しないとデータが消えるようにもしてある。
これは自宅のも同じだ。
まあ、流石にそれだとデータが飛んでしまって危ないかも知れないので。
一番大事なマスターデータは金庫に入れてあるし。
金庫は結構いいのを使っているので、流石に持ち出すことは不可能だが。
「ついてこなくてもいいですよ社長」
「し、しかしだね」
「別に機嫌を損ねたりはしませんよ」
「……」
そういうと、社長はしぶしぶという感じで自室に戻っていった。元々幽霊のようだと言われる高宮だが。
もはや社内では、映画に出てくる呪いの権化より怖いと言われているようだ。
どうでもいい。
そのままデスクにつくと、データを全て吸い上げておく。
以降の仕事は基本的に全部自宅で行う。
そのために、今日は全てのデータを吸い上げるために来たのだ。
また、鍵を掛けておいた引き出しからも書類を全て回収。
どんなくだらない書類も、一つ残らず回収しておく。
そして、それら全てをSPに渡しておく。
此奴らも高給で雇っているのだ。
相応の仕事はしてもらうつもりだ。
「はい撤収」
「分かりました」
PCのデータを吸い上げ。
更にPCを初期化し終えたので、引き上げる。
もうこれで。
恐らくだが、会社で仕事をすることはないだろう。
以降の作業は、全てスタジオか自宅で行う事になる。
その内、自分でスタジオを作ろうかなとすら思っている程である。
それもまたいいだろう。
車に戻ると、小野寺に連絡をしておく。
初期化したPCの処分と、デスクの片付けをやってもらうことにする。
デスクはそのまま、場所だけ空白にしておいてもらう。
実は社長が、特別に部屋を用意してくれるという話をしてきたのだが。丁重に断った。
そもそも会社の借りているレンタルサーバではちょっとあれだと言う事で。井伊に相応の性能のサーバを組んでもらったのである。
井伊が借りている家の一つにサーバはあるらしく。
たまに井伊がメンテナンスをしているらしい。
いずれにしても、データセンタにあるような強力なサーバであって。
それなりに維持費も掛かるしお値段もしたが。
以降は、誰に依存することも無く、映画の編集やCGの作成を行う事が出来る。
はっきりいって、それで充分だ。
自宅に戻ると、俳優に連絡。
自分の事務所の俳優を何人か見繕っておいた。
次の映画に出て貰う。
日野茜も当然出て貰うが。
彼女はこの間の映画で、渾身の演技をしたからだろうか。
まあまともな映画にやっと出られて、感涙だったというのもあるのだろう。
石山のように数キロ痩せて。
それでやっと体調が戻ったばかりだ。
無理はしないようにと告げてはあるが。
次の映画でも、期待値は高い。
ただ、無理はしないように、もう一度念押しはするつもりだった。
俳優達に、連絡のメールを入れておく。
そして、それが終わった後。
ようやく休む事が出来る。
SNSをぼんやり眺める。
相変わらずのコーヒーの写真ばかりを載せるアカウントに戻ったが。
しかしながら凄まじい荒れようだ。
通知は既に切っている。
そして、プロフィールにも、その旨は記載していた。
そうしないと、通知が凄すぎてあまりにも五月蠅いからである。
それでも、たまにコーヒーの写真にぶら下がっているコメントとかはたまに目を通しておく。
好意的なものも多いが。
最初からこういう映画を撮ってほしかった、というものも多かった。
馬鹿な連中だな。
映画界隈は、とっくに腐りきっていた。
だから、そういう連中を掃除するために。
荒療治をしなければならなかった。
自浄作用なんてものは、現実には残念ながら存在しない。
だからこうやって、高宮が無理矢理浄化しなければならなかったのだ。
そのためには、敢えて意識高い連中が喜ぶ虚無を準備しなければならなかったし。
それによってバカ共をつり上げた後は。
一気に駆除しなければならなかった。
そのやり方については異論がある人もいるだろうが。
残念な事に。
いい作品が観られるかというと、そうではないし。
いい作品が売れるかというと、そうではないのだ。
それについては。高宮も嫌と言うほど知っている。
名作と呼ばれている映画でも。
殆ど誰も見に行かず、後でやっと知られるようになったと言うものはそれこそ幾らでもある。
あのサムライ映画の巨匠だって。
世界的に知られるようになったのは、偶然の出来事が切っ掛けで。
そうでなければ、今でも世界中にファンがいる、などという程の存在にはならず。
日本で静かに消えていった事だろう。
そういうものなのだ。
だから、こんな変わったやり方で、荒療治をしなければならなかった。
とはいっても、である。
今の疲れきった時代に、睡眠導入剤として機能する映画を作ったのも事実だ。
それに価値が無いとも思わない。
虚無にするなら徹底的にやる。
そういう拘りがあったから。
今になって思えば、変な人気が出たのかも知れなかった。
感情的にわめき散らしているコメントも幾らか散見されるが、そんなものは最初からフル無視。
まあほぼ全てのコメントを無視するのだが。
興味がないので、すぐに忘れてしまう。
ただ、一つ気になったものがあった。
「高宮監督の映画に対する姿勢は、一種の舐めプだったように思います。 本気で最初から映画を作ってくれたのなら、正面から腐りきった業界を潰せたのでは無いかと思います」
そうか、まあそう思うならそう思えば良い。
あくびをしながら、SNSを見るのを辞める。
別に舐めプをしていたつもりはない。
だから、変な意味で人気が出たのだろうとも思っている。
だが。そう思うなら自由だ。
そう考えれば良い。
実際、凄まじい売り上げをたたき出している今の映画にも、公然とアンチを宣言しているものもいる。
それはそれでかまわない。
誰もを納得させる芸術など存在しないのだから。
それに高宮が作っているのは、娯楽だ。
芸術家気取りの阿呆が食いつくような今までの作品とは違う。
人の心を揺らし。
人の心の余裕を刺激する娯楽なのである。
だから、これでいい。
高宮にとっては、別に反発する人間の出現も想定内だったし。
今までの映画で舐められていたと激高する奴が出てくる事も想定内だった。
まあしばらくはそのままでいい。
問題はその後。
色々な、ポリコレだとか言う自由を歌いながら何もかもをしばるくだらない思想や。
芸術家気取りの先生方による意味不明の採点などない世界で。
自由に映画が花開けばそれでいい。
そうとだけ。高宮は考えていた。
映画の撮影を開始する。
以降の撮影は、全て密室スタイルでやる予定だ。
これはそもそも、スタジオに暴徒やら犯罪者やらが潜り込んでくる可能性があるから、である。
高宮のコメントで、無差別テロを予告してきた阿呆もいる。
それについては、高宮はガン無視。
井伊が雇った監視用のスタッフがコメントを精査して。問題があるコメントをした人間は片っ端から告訴させている。
現時点で二十七人が告訴され。
実名などが全て晒された状態だ。
本来はSNSの運営がやるべき事なのだが。
何しろ無差別テロを予告するようなアカウントに対してもガン無視するような運営である。
それでいながら、ただお絵かきをしているだけのアカウントを、フェミニストだとか言うカルトの言う事に従って凍結したりしているような阿呆どもだ。
まともな判断なんかできっこないので。
こうやって、対応は徹底的に行わせて貰う。
既に何件か、名誉毀損で実刑判決も出ている。
高宮は本当に容赦が無い。
そういうコメントも出始めていて。
急速に、中傷コメントの数は減っているようだが。
その代わりに、まだ危険は残っていると、井伊にも警告されている。
高宮もそれは分かっている。
井伊が時々そういうアカウントを探し出して、警察に捜査を頼んでいるらしいが。
その卓越したスキルも。
高宮が発掘しなければ、ブラック企業ですり潰されていたのだろうなと思うと。暗澹たる気持ちになる。
まあいい。
スタジオを自分で確認する作業から始める。
これは特に念入りにやる。
側で見ているSPは何も言わない。
そういう訓練をしっかり受けているから、である。
映画撮影中も、基本的に何も言わない。
そういう訓練を以下略。
SPはきちんとした金を払えば、こういうしっかりした人が出てくる。
まあ最悪の場合は肉盾になるのが仕事だ。つらい仕事ではあるが、それでも金はきちんと払っている。
頑張って貰う他無い。
俳優達が出勤してきた。全員が集まったところで、軽く話をする。
以前は好き勝手にやらせていた高宮だが。
今は違う。
かるくだが、今日はどのシーンを撮るか先に説明。
そのシーンは、どういうものであるかも先に説明しておく。
そうすることで、俳優はこれからどういう演技をすれば良いのか、頭の中に結構鮮明に浮かべる事が出来る。
これでも劇団からたたき上げているプロだけを選抜しているのだ。
案の定、凄まじい稼ぎをたたき出している最新作を見て、スポンサーを押し売りしようとしてくる会社が幾つか出て来ているが。
作品に口出しするようならスポンサーは必要ないと発言すると。
大半はその時点で手を引いてしまう。
なんだか情けない話である。
素人が口出しして、いいものが出来ると本当に思っているのだろうか。
というわけで、この映画にもスポンサーはいない。
どいつもこいつも。なんというか。
金が関わると、本当にろくでもない。
一度人間なんか、全部焼き払った方が良いのではないかと時々高宮は思ってしまうことがあるが。
思うだけにしておく。
「というわけで、撮影は今日も定時で終わらせるけれども、可能な限りスムーズに行うように」
「分かりました!」
「役作りのために十分あげる。 その後撮影開始」
まあ、事前に説明はしてあるので、役作りは出来ている筈。
その役に入り込むための時間だ。
以前、高宮映画で真っ青になりながらも。必死に無茶苦茶な脚本に沿って演技をしていた俳優達を選抜して事務所に勧誘した。
今では。無理な仕事で潰されないと言う事で、非常に有名になっている。
業界有数のホワイト事務所。
そういう評判だ。
とはいっても、高宮が目をつけたのは。しっかり狂った脚本に向き合おうとした俳優だけ。
そういう意味では、厳しい世界である事は間違いはないのだろうが。
淡々と、撮影をしていく。
以前と違ってNGも出すが。その場合はスケジュールを調整して、翌日以降に回すこともある。
緻密にスケジュールを組んでいるから調整は出来ている。基本的に、融通は幾らでもきく。
また、NGを出したからと言って。
俳優を怒鳴るような真似は一切しない。
基本的に俳優と比べて、監督が偉いわけでは無いと高宮は思っている。
その逆も然り。
相手が大物俳優だろうが、高宮が遠慮する気はない。
そういうものだと考えている事は、事前に俳優達に伝えている。
だから音響にも大道具小道具にも、撮影にも。
全員に、仕事をしている関係であって。
仲間だの絆だのはないし。
かといって手を抜く事もない。
また怒鳴ることもしないし。
プロとしての仕事だけはする。
そう徹底している。
故に皆、ドライに仕事が出来る。精神論で、全てを回すような職場にはならない。その結果、逆に快適になる。
それを高宮は。
幾つもの映画を撮りながら。
確認を済ませていた。
今まで撮っていたクソ映画は、そういった事を確認する実験、と言う意味もあったのである。
手を抜いてクソ映画ばかり撮っていたのでは無い。
あらゆる全てを、経験に変えていた。
それが高宮という存在である。
別に自分は天才でも何でも無いと考えている。
IQにしても、身近では井伊というもっと凄い怪物がいるし。
映画の才能にしても、例えば尊敬しているサムライ映画の巨匠などは、最初から相応の評価を受けていれば、もっと雄飛していたはずだと思っている。
驕らないこと。
それが老害にならないコツだし。
今後もそれを心がけていくつもりだ。
それを、撮影現場でも、理念として掲げる。
それこそが高宮のやり方だ。
「はいカット。 いい感じだよ。 では十分休憩後、シーン29を開始するからね」
「はい!」
俳優の一人が答えるが。苦笑いで返す。
気合いを入れるのは、演技に対してしろ。
それも何度か言っておいた事だ。
別に、そういう体育会系のやり方は必要ない。
やりたいなら自分だけでやれ。
他人には強要するな。
それが重要だ。
良くいる、娯楽を「遊びでは無い」とか抜かして。苦行にしてしまうような輩がいるが。そういう連中は娯楽にとっての最大の敵だ。
存在そのものが娯楽を衰退させる元凶とも言える。
そういう連中はいらない。
少しの休憩の間に、スポーツドリンクを口にしておく。
そして、撮影を続ける。
熱がある職場なのかというと、よく分からない。
ただはっきりしているのは。
熱があろうと無かろうと。
高宮は、この映画で俳優のスペックを全て引き出すつもりだし。
場合によっては小野寺に説得して貰ってでも。
その場に相応しい演技を引き出すつもりだと言う事だ。
実際、たまに小野寺を呼んで。
演技について伝わっていないと判断したら、俳優と話をしてもらうようにしている。
小野寺を素人と侮って話を聞こうとしない俳優もいるのだが。
そういう連中も、少し話すだけで小野寺はすぐに意思疎通を済ませる。
この辺りの手腕は凄まじく。
井伊と小野寺が、最初から本物の友人で。気むずかしい井伊と小野寺が大過なくやれているのも、何となく分かるのだった。
撮影は進む。
この様子だと、予定通りいけるだろう。
昼休みが来たので、皆をしっかり休ませる。弁当も、いつもの弁当屋から仕入れる。最近はどんな弁当が良いかと聞いてくるので、時々細かい注文をしたりもする。ほぼ個人営業の弁当屋であり。しかも此方は大口取引先という事もある。ある程度の融通が利くのが嬉しい所だ。
弁当を食べ終えた後、黒田に連絡を入れる。
「現在の進捗はどんな感じかな」
「ええと……」
黒田が幾つかに分けられたフェーズについて、説明を入れてくる。
説明は五分以内に出来るように、という話をしているが。
これはお互い無駄な時間を避ける為だ。
黒田としても、だいたいの状況が分かれば良いと言うことだけ言われているということもある。
やりやすいようだった。
「少し遅れ気味だと」
「はい。 ちょっと今回は仕事量が多くて……」
「残業はしなくていいからね。 何が必要? 人手? マシンスペック?」
「後者ですね。 ちょっとサーバが重い気がします」
そうか。
今回はちょっと強めのCGを使う事もある。
井伊はかなりいいサーバを組んでくれたらしいのだが。増設が必要かも知れない。
井伊に話をしておくと言うと。黒田は頷いてくれた。
後は、高宮の仕事だ。
メモを残しておく。
サーバの位置や、どう増設するかを知っているのは井伊である。彼女は兎に角IQが高いので、ふわっとした注文でもかなり的確に対応してくれる。
これでいいのだと思いながら。
高宮は撮影に戻る。
俳優達も、既に役作りを済ませて待っている状態だ。
今日は石山も来ていないので、SPがいるくらい。撮影には支障はない。
「はい、午後の撮影始めるよ」
手を叩いて、皆に促す。
撮影が、始まった。