謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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北欧神話のラグナロクでは、実は生き残りのわずかな神々と人々が新しい時代を作っていくという伝承があります。

主神オーディンも雷神トールも死にますが。

その後には、無が来る訳ではないのです。


3、焼け野原の後に

高宮が文字通り焼き払った映画業界。

 

権威は全て失墜し。

 

ポリコレに狂っていた連中も、全員冷や水をぶっかけられて。そして一気に正気に戻ったようだった。

 

特に高宮が、スポンサーを必要としないスタイルで映画を作っていると言う事に衝撃を受けた者は多いようだった。

 

それが、歴史上最大のヒット作を飛ばしているのである。

 

今までの、スポンサーが天文学的な金を出し。

 

湯水のような金を使って、ひたすらにぎんぎらぎんに金まみれの映画を作るというやり方は。

 

どこか違っていると。

 

皆が気づき始めたのかも知れない。

 

それに、である。

 

高宮が、三分で眠れる見る睡眠導入剤を作っていたのに。その気になれば娯楽映画として史上最高の売り上げをたたき出す映画を作れることを知った者も、衝撃を受けているようだった。

 

まあそれはそうだろう。

 

高宮映画を馬鹿にしている連中は多かったが。

 

それは馬鹿にして侮るように仕向けられていたのだと、ようやく気づき。

 

そして気づいたときには遅かったのだから。

 

いずれにしても、高宮映画のロングランが続き。

 

売り上げ五千億を超えた辺りで、ようやく止まった。

 

それまでの史上最大興行収入が三千億程度の作品だから、これはそれだけ桁外れだと言う事を意味している。

 

そして、映画界に激震が走る。

 

また、高宮が新作を作っているというのだ。

 

既に、高宮映画が見る睡眠導入剤という評価は過去のものとなっていた。

 

しかも、この五千億の売り上げ。

 

今までと違って、スポンサーが湯水のような金をつぎ込んだ作品ではなく。

 

少数のスタッフが。

 

殆ど手作りで映画を作り。

 

それでたたき出した結果なのである。

 

利潤などの釣り合いが全く取れていない。

 

そういう意味では、あらゆる意味で高宮映画は、それまでの実績やら何やらを、たたき壊したと言えた。

 

そうして焼け野原になった映画業界は。

 

今、混沌となっていた。

 

石山が特集記事を組んだので、見てみる。

 

とにかく、今までの常識というものが完全に崩れ去った結果。

 

迷走と混沌の時代が始まっている様子だ。

 

スポンサーの言いなりになって、大作を作れ。

 

とにかく売れる作品を作れ。

 

金を稼げ。

 

そういう風潮に、高宮が直径十キロの隕石を極超音速で叩き込んだという事もある。それによって、一気に何もかもが変わり果てた。

 

石山の記事をざっと見る。

 

石山の記事は、とにかくデータ主義だ。

 

今までの売り上げをたたき出した映画について、全て丁寧に分析している。資料も非常に引用が多い。

 

それらの資料についても、納得がいくものばかりである。

 

その上で、こう断言している。

 

現在は、混沌の時代だと。

 

例えば、高宮が五千億の利潤をたたき出した裏で。

 

八百億をつぎ込んで作られた大作映画が、なんと二百億の売り上げしか(まあそれでも充分に売り上げは大きいが)出せず。文字通りの大爆死を遂げている。これによって、スポンサーは株価を激減させ。ハリウッドから手を引いたようだ。

 

他にも類例はいくらでもある。

 

大金をつぎ込んだ映画はむしろハイリスクである。

 

そう思わせるだけのものが、あったということなのだろう。

 

それに対して、インディーズ映画の隆盛が中々に凄い。

 

昔はインディーズ映画と言えば、それこそ本当に酷いものがピックアップされる傾向が強かったのだが。

 

勿論そんな中でも、名作とされるものはあった。

 

高宮映画が史上最高の売り上げをたたき出している影で。

 

インディーズ映画で、予算の数千倍、数万倍の稼ぎをたたき出している作品が十七本出現している。

 

これらは今までの大作指向の作品と違い。

 

映画監督がそれぞれ好き勝手な映画を撮り。

 

その結果、受け入れられたタイトルばかりである。

 

高宮もそれらは全て目を通したが。

 

中々どうして。

 

これらの作品を撮った監督が、どうして今までピックアップされなかったのかと、怒鳴り込みたい気分になった。

 

どれもこれも低予算だが。

 

個性が爆発していて面白いではないか。

 

映画は娯楽と言う事を忘れた連中が。

 

こう言う作品を追いやってしまったのではないのか。

 

そう弾劾してやりたくなった。

 

まあいい。

 

ともかく、こう言う作品が一気に勃興してきたのは良い事だ。

 

大作指向の弱点は、受け身に入ると言う事にある。

 

売れそうな作品を作れと言う事は。

 

過去のヒット作に近いものを作れ、という事だ。

 

この結果、とんでもない代物が出来てしまうことがあり。

 

あまりにも酷い映画に仕上がる事が珍しくもない。

 

同時に、冒険した作品もあまり作られることがなくなる。

 

スポンサーが何もかも口を出すような作品。

 

或いは、「社会的な風潮」を代表すると称するような輩がああだこうだとわめき立てる土台。

 

それらがある場所では。

 

どうしても創作の自由は殺されてしまうのだ。

 

結果として、こういう。

 

インディーズから、一気に這い上がる映画が出て来たのは、とても良い事なのだろうと高宮は思うし。

 

今後もこの傾向が続いてほしいとも思う。

 

それには、だ。

 

今回のヒットだけではたりない。

 

次も、今回と同等か、それ以上のヒットをたたき出す必要がある。

 

故に、手を抜くわけにはいかなかった。

 

映画の撮影は、既に終盤に入っている。

 

この映画は、ヒットが始まってから撮ろうと決めていた脚本の一つ。

 

圧倒的な大軍を前にして、少数で籠城を行い。

 

援軍が到着するまで持ち堪えつつも。

 

自らは命を落とした、名将を題材にした作品である。

 

この人物は実在していたのだが。

 

当時も高い評価を受けた名将の中の名将であり。

 

その人生は、知る人に高い評価を今も受け続けている。

 

映画のタイトルは風神、である。

 

それだけで充分だろう。

 

今回も、分かりやすく風神の人生を辿りながら。丁寧に話を進めている。

 

合戦のシーンなどは工夫しながら、CGなども活用してそれなりに迫力は出るようにしている。

 

それでマシンパワーが不足したのだが。

 

それについても、井伊が解決してくれた。

 

なお制作予算は一億も掛かっていない。

 

仮に興行的に大失敗したとしても。

 

それで充分だと言える。

 

ただ、勿論大失敗するつもりなどはない。

 

ここで、とどめを刺すつもりだ。

 

今までの腐りきった業界そのものに。

 

一回だけなら、偶然と考える輩が出るかも知れない。

 

此処で二回目の大ヒットを叩き込む事で。

 

一気に何もかも。

 

もはや時代が変わったのだという認識を。

 

映画業界そのものに、叩き込むのである。

 

さて、皆の演技も充分。

 

それで、映画の撮影の最終盤に入る。

 

途中、マスゴミが散々取材を申し込んできたが。

 

取材許可がほしいなら、以下の条件を呑むようにと。石山が取材をしたときの条件を提示。

 

それをマスゴミはどれも飲めず。

 

高宮への取材は、どこの大マスコミも実現しないという異常事態に陥った。

 

また。適当な事を書き散らし、怪文書をまき散らすような週刊誌に対しては法的処置を容赦なく執り。

 

これによって、最近は堕落する一方だった昔は硬派として知られた週刊誌は、廃刊に追い込まれることになった。

 

この週刊誌が廃刊に追い込まれた事はマスゴミに大きな動揺を走らせ。

 

それによって様々な記事が書かれたが。

 

いずれもが殆ど無視され。

 

もはや彼らの影響力など、無きに等しい事を知らしめるばかりだった。

 

撮影が終了。

 

今回も、八ヶ月にわたる長期撮影となった。

 

後はCG加工や編集などであるが。

 

これについては、井伊にも加わって貰い。高宮も自分で行った。

 

昔は編集は一人でやっていたのだ。

 

黒田が主にCG関係の加工はしてくれたが。

 

それでもまだ足りない。

 

何度も話し合いながら。

 

丁寧に修正を加えていき。

 

満足がいく出来に仕上がったのは。

 

映画撮影開始から丁度1年。

 

奇しくも。

 

その日は。題材になった人物の命日だった。

 

 

 

映画が公開される。

 

初日から、記録的なヒットが飛んだ。

 

前回の作品で、全世界における興行収入五千億。

 

それを偶然に違いないと嘲笑していた業界人や自称ガチ勢は、それで一気に冷や水をぶっかけられることになった。

 

まあ、全世界で五千億もの興行収入を稼ぎ出しておいて、偶然もなにもあったものではないのだが。

 

それすらも理解出来ないような連中が、ガチ勢を自称していたと言う事をまざまざと見せつける事になり。

 

如何にガチ勢を自称する人間が、身の程知らずなのかを世に露呈することになった。

 

かくして、映画の専門家を称する人間の名声は。

 

文字通り地の底に墜ち果てたのである。

 

映画は好調を極めた。

 

題材になった風神が歴史マニアの中ではそれなりに有名な人物であることや。

 

何よりも映画としてはそれほど有名な作品がなく。

 

それが一つの地方の時代を変えた出来事であったにも関わらず。

 

城攻めをした側が、ある有名な戦国大名だったこともあり。

 

結果として、あまり陽の目を見る事もなかった題材だった。

 

故に、一気にブームが巻き起こり。

 

売り上げを更に後押しする事にもつながった。

 

「これ、前回のヒットはまぐれじゃないな。 風神の生き様、マジで感動したわ」

 

「伝説になってる西国無双の父親なだけはあるわ。 確かにこれは凄い。 どうしてこんな人物が、今まで有名な作品にもならなかったんだ?」

 

「まあ、それは色々となあ。 主君があんなだし、敵対したのが薩摩だし……」

 

「何回か見てきたが、何回見ても凄い。 これが低予算映画だってんだから、今後の時代は変わるぞ……」

 

SNSでは基本的に好評一択。

 

だが、黙り込んでいる映画マニアもいた。

 

恐らく高宮のアンチだろう。

 

しばらくしてから、文句を言うつもりだろうが。

 

別にそんなのは負け犬の遠吠えである。好きにさせておけば良い。

 

既に、勝敗は決していた。

 

初日で日本だけで五十億の稼ぎをたたき出し。

 

全世界同時公開の結果。

 

全世界では五百億の稼ぎをたたき出した程である。

 

満員御礼。

 

文字通り、その言葉通りの結果になった。

 

邦画が息を吹き返した、と口にした者もいたが、違う。

 

高宮映画以外の邦画は相変わらず鳴かず飛ばずである。

 

アニメ映画と特撮映画は健闘していたが。

 

それ以外は相変わらず、誰も見向きもしなかった。

 

「これが意味不明な組み体操ばっかり作中でやらせてた監督の作品か!? マジで驚いたんだが……」

 

「CG、これ予算をつぎ込んだんじゃなくて職人芸が主体だな。 前から高宮映画のCGを担当している奴と同じではあるみたいなんだが……本当につまらなくするためだけに以前はCGを使っていたんだな」

 

「何というか、回りくどい真似をする……」

 

「そう思う。 さっさとこれを使って面白い映画を作ってくれていればこっちとしても評価できたのになあ」

 

そういう嘆きの声もあるが。

 

だが、高宮の理屈に共感する声もあった。

 

「個人的にはこれでいいと思う。 高宮の言う事はちょっと過激だけれども、そもそもイミフな理屈でアカデミー賞を出していた老害どもを業界からたたき出すには、こうやって盛大な冷や水をぶっかける以外になかったんだと思う」

 

「あーあー。 俺が好きな文学ジャンルでも、同じ事してくれる奴いないかなあ。 やれ正しいテラフォーミングがどうの、宇宙で艦隊戦はおきないだの、このロボットアニメはこのジャンルに呼ぶと値しないだの、これはファンタジーであってそうではないだの、老害が好き放題ほざいて新しい作品が出るたびに群がりやがる」

 

「うちの方でもだよ。 うちの方はそもそも開祖であるドイルがエンターテイメントとして始めたジャンルなのに、いつの間にか鬱陶しい自称ガチ勢が密室トリックだけやってご満悦になるジャンルになっちまってる。 そもそもこのジャンルで売れてる作品はどれもエンタメ性が強いものばかりだってのによ……」

 

「老害が蔓延るようになるとどんなジャンルでも駄目なんだな。 高宮はそれを教えてくれたから、俺は感謝している」

 

連日爆発的な売り上げを続けていた高宮の映画だが。

 

当然、その裏では反発の動きもあった。

 

SNSで好きかって言っている奴は好きにすればいい。

 

感情的にわめき散らす奴が一定数いるのがSNSだ。

 

無差別テロを予告しても、何もペナルティを受けないのもSNSである。

 

まあ、監視をして度が過ぎている奴については当然告訴を逐一していく感じではあるし。

 

高宮はその手の輩に容赦しない、という話もしっかりしている事もある。

 

高宮映画に対してねちねち嫌みを言う奴はいるが。

 

映画館にテロを実施しようとか。

 

そういう事をいう阿呆はいなかったし。

 

不買運動とかを展開する奴もいなかった。

 

そうこうしているうちに、映画公開から一月で、前回の売り上げと並び。

 

二月で。

 

前人未踏の、売り上げ一兆円に到達。

 

以降は伸びは緩やかになっていったものの。

 

高宮は、ついにインディーズレベルの予算の映画で。

 

一兆円の稼ぎをたたき出すという偉業を達成したのだった。

 

SNSは更に過熱する。

 

「確か高宮の一つ前の映画が破った記録の映画が売り上げ三千億円くらいだったよな」

 

「ああ。 あの贅沢なCGを使った作品な。 俺もアレは見にいったが、非常に良い作品だったよ。 確かに三千億売れるだけの事はあった。 高宮のがアレより上かは議論が分かれるだろうが、映画界隈に台風を起こしたという意味では大きな意義のある作品だろうな」

 

「アカデミー賞は息してる?」

 

「とっくに死んだよ(笑)」

 

このタイミングで。

 

高宮は、敢えて今までどうしてクソ映画を撮っていたのかのツイートを、自分で上げ直した。

 

その結果、また大炎上が発生。

 

アカデミー賞を再興しようという動きは、完全に消えた。

 

また、石山が暴いた映画業界の黒い裏側についても、既にメスが入っている。

 

暴力団の幾つかは幹部を根こそぎ刑務所にぶち込まれており。

 

その過程で十数件の殺人事件も発覚していた。

 

ある山中では、二十数人の死体が埋められて発見されていた。

 

三メートル以上の深さに埋めると、動物も掘り返さない。

 

しかもブルーシートに包むという念の入れようである。

 

酸で死体を溶かすやり方もあるのだが。

 

これは以前有名なシリアルキラーがやった事もあり。

 

その時もあっさり残留物が発見されて死刑になった事もある。

 

実際には、それほど現実的な手法ではない。

 

死体が見つからないようにする、というのが一番の方法なのだ。

 

死体の中には、有名になる前に消えた俳優や。

 

金銭的なトラブルを起こした映画関係者。

 

更には枕営業を斡旋していた人物や。

 

ヤクザの金を使い込んだ俳優など。

 

錚々たる面子が揃っていた。

 

以前だったら、マスゴミが黙り込んでいれば、すぐに忘れ去られただろうが。これらが暴かれたことで。更に火に油が注がれ。

 

ついにマスゴミもこれらを大々的に取りあげざるを得なくなり。

 

その結果。二重三重に信用を失う事になった。

 

破壊的な変革が、何もかもを変えて行く。

 

相変わらず高宮自身はマスコミの前に一切顔を出さず。

 

代わりにマスゴミの記者達は配給会社の社長に的を絞ろうとしたが。

 

会社の前には警官が威圧的な壁を作っていて。

 

記者など、一人たりとも入れはしなかった。

 

井伊が先手を打っていたのだ。

 

マスゴミの内部も一枚岩では無い。

 

それはそうだろう。

 

人が殺されると分かっていて、テロを平気でやるようなカルトに情報を流すような連中である。

 

その性根は文字通り腐りきっている。

 

内部からの情報流出なんて日常茶飯事であり。

 

井伊はそれを利用しただけだった。

 

これらの様子を、高宮は対岸の火事として、楽しく眺めていた。

 

これだ。

 

これを起こしたかった。

 

既に権威は完全失墜した。

 

映画界隈を牛耳り。

 

ガチ勢を自称して、意味不明な理屈で賞を出し。

 

更には実際に稼いでいる作品に対して嘲笑を浴びせ。

 

「映画界に何の貢献もしていない」などと言い放つような猿の群れは、全部掃除されたのである。

 

昔は、ある程度は自浄作用は働いていたかも知れない。

 

だが今では、とっくにそんなものはなくなっていた。

 

新聞記者を神格化して、マスゴミを格好良く描いたような作品に賞を出すような連中である。

 

幾ら金を出せば賞を貰えるのか。

 

そういう世界になっていたのだ。

 

誰かが潰さなければならなかった。

 

今回は、たまたま高宮が潰した。

 

それだけの事だ。

 

今、高宮は誰も知らない無人島にいる。

 

井伊が用意したバカンスのための島だ。

 

個人資産は、前回今回のヒットで、既に二千億に達している。

 

はっきりいって、これで一生遊んで暮らせるし。

 

何なら悪い事をしようと思えば、幾らでも出来る。

 

この規模の資産があれば、小さな国ならそのまま乗っ取る事だって出来るし。

 

日本くらいの規模の国家でも、それこそ司法を買収してやりたい放題だって可能である。

 

米国なら更に簡単だろう。

 

いい弁護団を雇えば、殺人だろうが何だろうがもみ消すことが可能だ。

 

だが、そんなことをするつもりはない。

 

今は、ただ。

 

次の映画のために、英気を養っているだけである。

 

なお、次の映画も高宮が資産から制作費を出すつもりだ。

 

前回も前々回もそうだった。

 

そうすることで、五月蠅いスポンサーを一切介入させずに映画を作ることが出来る。

 

五月蠅そうなのは、井伊に任せてしまう。

 

それで充分である。

 

井伊から連絡が来る。

 

「日本最大の暴力団が、高宮監督を探してる。 連日、連中の手先の記者が高宮監督の居場所を探っている」

 

「で、見つかりそう?」

 

「いや、問題ない。 勘が良いのはいた場所を見つけられた奴もいるようだけれども、とっくにもぬけの殻か、もう別人が住んでる」

 

「まあ、そうだろうね」

 

いっそのこと。

 

この島で撮影しようかなあ。

 

そうとさえ思う。

 

今は全世界にネットが通じているのである。

 

それくらいは、別に出来る。

 

この島は五十億で買ったのだが。

 

そもそも誰も知らないような島だし。

 

何より二重三重に名義を偽装して購入している。

 

更には米軍が哨戒している。

 

マフィア程度では、近づける場所では無い。

 

「他の皆の安全にも気を使ってね」

 

「それは分かってる。 ただ、配給会社の人間までは守りきれるか分からない」

 

「まあ最悪の場合、資金は出すから警察のキャリア買収してくれる? 今動いているのは主に国内の暴力団でしょ。 あいつらも大概だし、場合によっては潰してもかまわないからね」

 

「ん」

 

通信を切る。

 

嘆息すると、常夏とまでは言えないにしても。

 

一人で生活するには充分環境が整っている島で、高宮は伸びをした。

 

大望は叶えた。

 

人間は、今の時代に八十億人も地球にいる。

 

その中で、大望を叶えられる奴はどれだけいるのだろう。

 

好きな異性と結ばれる。

 

そのくらいの事ですら、今は中々ないのが実情だ。

 

こんな時代で。

 

同志にも恵まれ。

 

大望は叶えた。

 

そういう意味では、高宮はとても幸せなのかも知れない。

 

しばらくは、ぼんやり過ごすことにする。

 

なんなら、後は一生隠棲してもいい。

 

だけれども、高宮はそもそも映画が好きなのである。

 

なんだかんだいっても、映画を撮影するのが好きだから。映画監督になったし。

 

業界が腐敗しきっているのを見て、絶望した後憤怒した。

 

高宮はいつも静かに幽霊のようにしていたが。

 

結局の所、その行動力は、腐りきった世界を見た結果の怒りからくるものだった。

 

感情を表に出すのはあまり良い事では無いと高宮は思っている。

 

この怒りは秘めていればそれでいい。

 

だけれども、怒りはたたき込み。

 

そして、腐敗した肉に蛆が集っていた業界は、丸ごと潰した。

 

それで充分だ。

 

他の業界でも、似たような事が起きれば面白いのだが。

 

文化というものですら。

 

中々難しいだろう。

 

「自浄作用」なんてものは、まず働かない。

 

世界史を見渡しても、多くの場合既得権益の方が圧倒的に強いのである。

 

中華の歴史にいたっては、殷周の時代から既得権益とどう折り合いをつけていくか、というのが権力者の課題だった。

 

それは現在までずっと同じくして続いている。

 

残念ながら、自浄作用なんてものは働かないと判断するしかない。

 

ならばどうするか。

 

破壊的な行為で。

 

全てを一度焼き尽くしていくしかないのである。

 

そうしなければ、新しいものは芽吹かない。

 

混乱の時代は生じるかも知れないが。

 

それは腐りきった既得権益が、全てを独占してふんぞり返っているよりも、遙かにマシだろう。

 

だから高宮は動いた。

 

それだけの事なのだ。

 

大きく伸びをする。

 

今までため込んでいたものは、だいたいこの休暇で全て消化してしまった。

 

そろそろ動くとするか。

 

ちらっと見ると、日野は今、俳優としての演技力を買われて。別の映画監督の所で主演をやっているようだ。

 

その終わりのタイミングで、次の映画を撮影するとするか。

 

時間を作り。

 

テレビ会議をする。

 

次の映画の撮影を始める。

 

そう告げると。

 

同志達は、一斉に緊張したようだった。

 

「風神」は、最終的に全世界で一兆二千億の稼ぎをたたき出した。

 

これは言うまでも無く、映画の歴史で最大の利潤である。

 

次の映画を高宮が作る。

 

それだけで、既に日本政府が動くレベルになっている。

 

実体経済に大きな影響が出るから、である。

 

以前、ある漫画が中々終わらせてもらえなかった、という話があるが。

 

日本政府からお達しがあり。

 

実体経済に影響が出るから、やめないようにという指示があったという都市伝説が存在している。

 

これがどこまで本当かは分からないが。

 

今回の規模の話になると。

 

まあ日本政府が動くだろう。

 

別にどうでもいい。

 

高宮は、好き勝手に映画を作る。

 

それだけだ。

 

どうせ、どこの映画界隈だって腐敗はしているのだ。本場であるあのハリウッドですらそうなのだ。

 

ハリウッドでも枕営業の噂は昔から根強く。

 

近年とうとう告発まで行われた。

 

それなら、自分がやりやすい映画業界を作ってしまえばいいのであって。

 

「世界が気にくわないなら自分を変えろ」等という妄言に対して。

 

高宮は世界そのものを変えた。

 

高宮に続けと、今世界では多数のインディーズ映画が芽吹いている。

 

それらはあまり売れずに消えていくものもあるが。

 

中には相応のヒットを飛ばして、発掘されているものも増えている。

 

今まで超高予算映画で派手に稼ごうとしていた映画業界はこの流れに乗り切れておらず。

 

特に映画で稼いでいた、広告企業やスポンサーは。

 

流れの速さについていけず。

 

また安牌としてこれらの企業やらの株式などをもっていた連中は。

 

それが全て紙屑になって、路頭に迷っているようだった。

 

それもどうでもいい。

 

高宮としては。

 

映画界隈に未来があれば、それでいいのだから。

 

しばしして。

 

船が来る。

 

さて、これでまずは近場の島に行って、其処から空港に向かい。

 

飛行機で日本に行く。

 

その後は、スタジオで撮影を始める準備をする。

 

スタジオをとったりするのは、小野寺がやってくれる。

 

そのスタジオを徹底的に下見して。

 

更に俳優を吟味。

 

俳優に関しては、事務所に入れる奴の背後関係は井伊が洗ってくれているし。

 

石山のネット記事は、今や新しいものが出れば億単位でアクセスが来るのが普通になっていた。

 

全てが変わりつつある。

 

高宮の深淵から練り上げた計画は。

 

既に成就していた。

 

これからどうするかは、それぞれ次第。

 

映画の世界には。

 

新しい時代が、芽吹こうとしていた。

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