謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
高宮監督の最新映画を見て、感動のあまり涙を何度も拭っていた者がいる。
北条雪乃。
芸大の映画部に通う三年生である。
映画業界に行って、監督になろうと考える北条は。
俳優になるべきだと言われるほどに容姿が整っているのだが。
本人は監督希望だった。
だが、数年前まで。
映画業界が壊滅的な状況である事は、理解していた。
大量の予算をつぎ込んだ映画が、大失敗することが珍しくもなくなり。
スポンサーの露骨な意向が反映された内容がどんどん増え。
稼いでいる映画を嘲笑し。
意味不明な意識高い映画が評価される。
そんな時代に、北条も頭を痛めていた。
だけれども。
クソ映画監督として知られていた高宮葵監督が、何もかもを変えた。
衝撃を受けた。
まさか、映画業界が、一つの映画で文字通りひっくり返るとは思わなかったのである。
今では映画業界は完全に戦国乱世。
既得権益がばたばたと倒れ。
その灰の中から、新しくどんどん芽が出ている。
今までタブーだった題材を扱った映画がどんどん出てくるようになり。
ポリコレだのなんだので五月蠅かった制約を、無視した映画がどんどんヒットを飛ばしている。
3年なのがもどかしい。
今すぐ監督になりたい。
だけれども、残念ながらまだまだ実績も何も無い。
今は大人しく。
自主製作映画を撮って、それで我慢するしかなかった。
映画新人賞の話が、そんな折。
上がって来ていた。
どうせろくでもない賞だろうと思っていたが。
内容を見て、すぐに目が釘付けになる。
高宮監督が主催する賞である。
ただし、芸大の人間を対象。
3年か4年生のどちらか。
自主製作映画を作り。
送ってくるように。
そういうものだった。
何度か確認したが、高宮監督のもので間違いない。なお、映画の時間は二時間以内で。ジャンルは問わないとの事である。
禁止事項は一切無し。
未成年どうしの性描写だろうが。
殺人だろうが犯罪だろうが。
「映画としての表現」ならなんでもOK。
差別などの、タブーになっている題材を扱っても問題なし。
ただし、勿論俳優に実際に犯罪をやらせるのは禁止。
そういう事だった。
すぐに立ち上がると。
俳優科に行く。
北条は、どうして俳優科に来ないのかと言われるくらいの有名人だったので。出向くとそれなりに耳目を集めた。
そのまま、手を叩き。
そして告げる。
「あの高宮監督が、映画賞をやるそうです。 条件は芸大の三年か四年の人間が撮った自主製作映画であること。 俳優に実際の犯罪を行わせない限り、映画内でなにをやろうと自由と言う事です。 タブーと今までされていたような描写も全てOKと判断するのだそうです」
それを聞いて、俳優の何人かががたっと席を立った。
それはそうだ。
どんどん窮屈になって来ているのが今の映画界隈だ。
「見かけが未成年っぽい」というだけで叩かれる女優もいたし。
「胸が大きすぎる」という理由で、胸を小さくしろとか無茶苦茶をフェミニストを自称する破落戸に言われた者だっている。
それが現在の映画界隈。
その筈だった。
だが。高宮監督が全てをたたき壊して、焼き払った。
その結果。
窮屈だった全てが終わった。
そして、高宮監督が。
その凶悪な性格に相応しい内容の映画賞を募集しようとしている。
それどころか。
既得権益を全無視した、新人からの募集で映画賞を募集しているのである。
これは、出ざるを得ないだろう。
「どんな映画を撮るつもりですか!?」
「内容としては、ごく普通の時代劇にしようと思っています」
「私出ます!」
即答したのは、小柄で童顔の俳優候補生の一人だった。
真面目なのに容姿がこれだから、ポリコレだのフェミニストだのから叩かれるのでは無いかという懸念がされていたのだが。
高宮監督のおかげで、俳優科をやめずに済んだ一人である。
今では劇団に粛々と通って技能を磨いている。
「俺も出ます!」
「私も!」
何人か、先着順に選ぶ。
数人を連れてその場を離れながら。まずは脚本について。今まで温めていたものを出す事にする。
後はどう撮影するかだが。
あの高宮監督も、ずっと低予算でやってきて。
いまだってそうだ。
CG科に頼んで、ちょっと協力してもらいたい所だが。出来るだろうか。
考えながら歩く。
新しい時代が来ようとしている。
北条は。野心に満ちているわけでは無いが。
映画を愛する人間として。
新しい時代は、見たいと思っていた。
(続)
早速新時代が
芽吹こうとしています。