謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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この後に及んでゴミ山にすがり、反省できていない連中はいりません。


序、業火収まり

高宮映画の、根本的にやり方を変えてから三作品めの撮影が進む中。

 

一切合切マスコミは閉め出され。

 

その内容は、世間に明かされないままでいた。

 

そんな中、高宮は大量に寄せられた映画賞の中身を、一つずつみていく。

 

まず最初に、規定に違反しているものは排除。

 

今回は、芸大からの人材発掘を目的としている。

 

勿論、芸大出身者でなくとも、監督として大成できる人は存在しているが。

 

今回はあくまで芸大がターゲット。

 

別のターゲットの映画賞は、その時に行う予定である。

 

それは事前に告知しているので。

 

特に反発はなかった。

 

問題は、違反品が大量に合った事。

 

経歴を詐称して映画を送ってくる奴はたくさんいたし。

 

何より、本人が作ったわけでもない映画を送ってくる奴や。

 

場合によっては、三時間ある映画や。

 

映画と称して、自分のプレゼンをするだけの動画を送ってくる奴までいた。

 

そういうのは高宮以外の人間で全部弾いて貰い。

 

同時に背後関係を洗って貰って。

 

経歴を詐称している人間の送ってきたものを全て弾いたが。

 

それでも、三百本近くの映画が残ったので。

 

毎日ちまちまと処理している所だった。

 

当然だが。高宮が主催する賞だ。

 

高宮が見ないわけにもいかない。

 

平日には一日二本。

 

休日には一日九本を基本にこなしつつ。

 

全部の映画を、撮影中に全て見てしまうが。それでも相当に時間が掛かってしまった。高宮は他人にブラック労働はさせないのを基本としているのだが。

 

それは自身で過重労働をしないことを意味はしない。

 

それでも、相応に厳しいスケジュールで映画を見ていき。

 

三ヶ月少しで、三百本の映画を全て見終えた。

 

いずれにしても、自主製作映画というのは相応のものだ。

 

特に芸大生が作るのは、相応のものだと昔から決まっている。

 

あのエドウッドも。

 

学生時代の自主製作映画が発掘されているが。

 

プロになってからの自主製作映画と、出来は殆ど変わっていないらしく。

 

それについては、研究者を驚かせたとか。

 

そういう逸話が残っている。

 

高宮としても、最初からその辺りは諦めていて。

 

一つか二つ、当たりがあればいいなあくらいに思っていた。

 

そして、十本にまで絞り込んだ。

 

なお、審査員には、他にも同志の面々にやってもらっている。

 

忙しい面子を除くので、必然的に小野寺と石山が主体になったが。

 

この二人もこの仕事を始めてから、散々映画を見ている。

 

一応、それなりの審査能力は持っていた。

 

勿論、これだけで審査をするのは不平等である。

 

故に、有志を二十人ほど雇う。

 

これらは全員、映画ブロガーである。

 

彼らも、給金を聞いてすぐに仕事を受けて。

 

映画を見て、忌憚ない感想をくれた。

 

それらを総合した結果。

 

結論としては、大賞はなし。

 

というのも、正直な話映画としてのレベルがそれほど高い作品は残念ながら来なかったのである。

 

仕方がない話ではあった。

 

今、インディーズ映画戦国時代が来ようとしている。

 

低予算でも、面白い映画はそれこそなんぼでも出て来ている時代だ。

 

このレベルの映画だと、賞はあげられない。

 

その結論で皆は一致した。

 

一方で、副賞は三本出た。

 

それらには、副賞についての説明をした上で、同意を得た上でネットで公開する事にしたのだが。

 

その中の一人。

 

北条という芸大の三年生に、高宮は興味を持った。そろそろ四年生か。

 

今まで高宮は、副監督を置かないか。置いても置物にする主義で映画の撮影を続けて来たが。

 

戒めなければならないと、最近は思い始めている。

 

人間は油断するとあっと言う間に老害になる。

 

高宮だって、気を付けなければ危ない。

 

一応、同志の面々は色々たまに諌言してくれるけれども。

 

それだけでは駄目だろう。

 

そう、ストイックに考えていた。

 

北条が出してきた自主製作映画は、低予算の自主製作映画ではあったが。最低限の基準は満たしていて。相応に頑張っている作品だった。

 

それは意見が一致した。

 

まあ、それでもかなり厳しい、というのも一致した意見だったが。

 

ただ、それでも見どころはある。

 

故に、高宮は。

 

北条という人間と、接触することにした。

 

 

 

高宮は自分の名前を明かさずに、授賞式に来た北条を観察する。

 

びっくりするくらい綺麗な子だ。

 

俳優科に誘われていたという話は何度も聞いたのだが。

 

まあ確かにそれも頷ける。

 

ただあの容姿だ。

 

少し前の映画界隈に来ていたら、それこそ滅茶苦茶にされて。精神崩壊まで追い込まれていたかもいれないが。

 

ただでさえポリコレとか言う意味不明の代物が入り込んで来ているのだ。

 

味を占めた人権屋どもが。バカを指嗾して散々世界中で狂騒を繰り返している異常事態。却って多様性を失わせる悪夢のような「自由の主張」。それがポリコレの実態だ。その背後にはデリケートな政治的な問題などもあるが、それが逆に人権屋どもには都合がいい事態を引き起こしている。

 

元々人権屋は、デリケートな話題に入り込んで、金を掠め取る事を得意としている詐欺師である。

 

この目立つルックスでは、狂人どもに寄って集って炎上させられて。人生を台無しにされてもおかしくなかっただろう。

 

それくらい、今のポリコレというのは狂っているということだ。

 

人権屋どもはバカを指嗾して裏では美男美女を独占し。

 

そしてバカは美男美女を攻撃して悦に入る。

 

いずれにしても、そんなバカどもにこの子を食い物にされるのは惜しい。そう高宮は思った。

 

とりあえず、ざっと観察はさせて貰ったが。

 

容姿を意図的に利用している様子は無いし。

 

誠実に副賞止まりだったことを受け入れてもいるようだった。

 

それならそれでまあ良いと思う。

 

後、小野寺に話して貰った。人を見る目は、はっきりいって小野寺の方がある。

 

小野寺はぐいぐい行く。

 

早速ささやかな授賞式(当然マスコミ立ち入り禁止)を行ったのだが。

 

そこでも、北条に話に行った。

 

名刺交換の後は、ぐいぐい踏み込んで話をしているようだが。

 

流石だ。

 

良い意味での陽キャである。

 

人の心を掴むことに本当に長けている。

 

もっとも、本人は世間的に陽キャと言われている連中をとことん軽蔑しているようではあるのだが。

 

しばしして、戻ってくる小野寺。

 

「あの子、なかなか凄いですよ。 多分、片腕には丁度良いんじゃないですかね」

 

「……そう。 分かった。 じゃあ、ちょっとウチの会社に入って貰って、それで様子をみるかな」

 

「そうですね。 少し様子を見て、その間に背後を探りましょう。 かなり頭も良いみたいですし、裏に何か良くないのがいても不思議ではないです」

 

「井伊に話をしておいて」

 

小野寺は頷くと、その場を離れる。

 

立食パーティというのが、高宮は大嫌いだ。

 

大量に食べ物を廃棄しなければならないし。

 

文字通り残飯を野良犬が漁っているのと同じである。

 

しかも、其処で廃棄されるのは。

 

貧しい人が一生手が届かないような食べ物ばかり。

 

昔、貴族や王族が贅沢をすることの何が悪いと開き直るような輩がいたらしい。

 

勿論、自分の個人財産で贅沢をするのはぜんぜん問題ない。

 

だが、その貴族や王族が。

 

民から税金を取り立てて、それで贅沢をしていることを忘れていないだろうか。

 

あらゆるものに税金を設定し、絞り取るまで絞り取り。

 

それで贅沢をしていたのが、中央集権時代の王族や貴族だ。

 

それはつまり、生き血を飲み干していたと言う事に他ならない。

 

絞り尽くされて死んで行く人間を笑いながら、贅沢をしている連中の。

 

どこに正義があるというのか。

 

まあ最低限の贅沢くらいならいいだろうが。

 

この立食パーティを見ていると。

 

最悪の意味での贅沢をしていた連中がやっていた。最悪の意味での搾取を思い出して、腹がむかむかする。

 

それが高宮の本音である。

 

これも、いずれ廃止するべきだな。

 

そう判断する高宮。

 

今や、長者番付の上位に食い込んでいる高宮だが。

 

だからこそに思うのだ。

 

高宮は、搾取で金を得たのではない。

 

多くの人の心を揺らし。

 

それぞれから少しずつお金を貰って、今の財産を得たに過ぎない。

 

過剰な税金を取り立てて。

 

それを懐に入れていた連中とは全く違う。

 

偉いわけでもなんでもない。

 

単に労働に見合った対価を得ただけ。

 

そして今の時代は。

 

労働に対して、相応しい対価を払うことすら出来ない時代になろうとしている。

 

そんな時代は。

 

どうにかしなければならない。

 

高宮は映画業界を焼き尽くした。

 

それと同じように。

 

この腐りきった今の文明を。

 

誰かが焼き尽くさなければならないのではないのか。

 

そう、立食パーティを見て思うのだった。

 

勿論テロやら過激派やらを支援するつもりは無い。

 

だが、破壊的な改革が必要だと判断するのも事実だ。

 

特に今の既得権益層は。

 

どうにかして排除しなければならないだろう。

 

残念ながら、高宮が手が届いたのは、映画だけだった。

 

映画業界だけだった。

 

それ以上の事はできない。

 

今も、高宮と接触して。

 

甘い汁を吸おうとしている悪党共は幾らでもいる。

 

高宮はそういう連中を心の底から軽蔑しているし。そういう連中とは絶対に関わらない事も決めている。

 

だから、もういい。

 

タクシーを使って自宅に戻る。

 

そういえば。

 

不審者全開の姿をしている高宮は。既に都市伝説になっている様だ。

 

タクシーに幽霊が乗ってくるとか言う噂が流れ始めているらしい。

 

この都市伝説そのものは、かなり古くからあったものらしいが。

 

高宮が使っているスタジオの近辺で流れ始めていると井伊に言われて。

 

思わず苦笑いしてしまった。

 

タクシーの運転手も、相当にびびっているようだが。

 

はっきりいってどうでもいい。

 

そのまま、自宅近くで降りると。

 

溜息を何度かついて。

 

SPと合流。

 

概ね時間通りだった。

 

「誰か尾行はしてきていない?」

 

「問題ありません。 タクシーの手配も、我々で行いましたので」

 

「そう。 じゃあ私は家に入るから」

 

「中は既に確認済みです。 これから交代で周囲の監視に入ります」

 

頷くと、高宮は自宅に戻る。

 

家の中は全く何も動かされていない。

 

それでいい。

 

SPにはしっかり話をしてある。

 

絶対にものを動かさないように、と。

 

高宮は用心深く。

 

色々なものに仕掛けをしていて、誰かが触ればすぐに分かるようにしている。SPだろうと信用できない。

 

そういうことだ。

 

とりあえず。何か動かされた形跡は無い。

 

風呂に入って、それでぼんやりしていると。

 

すぐに寝ようと決めていた時間が来ていた。

 

ため息をつく。

 

何だか、余裕が無くなってきている気がした。

 

 

 

井伊は立食パーティに参加しなかった。

 

ああいう場は反吐が出る。

 

それに、井伊は出来るだけ表に出ない方が良い。

 

今も離島で仕事をしながら、小野寺の報告を受けていた。

 

「そういうことだから、背後関係の洗い出しをもう少し念入りによろしくね」

 

「分かった。 しっかりやっておく」

 

テレビ会議を終えると。

 

井伊は溜息をつき。

 

そして幾つかの興信所に連絡を入れていた。

 

多少の背後関係の洗い出しくらいなら、いわゆる探偵に任せてしまう。

 

探偵の主な仕事は、警察への協力とか推理ごっことか、ましてや密室殺人の解決やらではなく。

 

こういった人間関係の調査だ。

 

犬猫を探したり不倫を探ったり。

 

そういうのがだいたいの仕事になってくる。

 

なお、今の時点でもとっくに調べてはあるのだが。

 

追加料金で、もう少し調べさせる。

 

それだけである。

 

高宮監督から、その分の金は貰っている。

 

今、高宮監督は更に次の映画を撮る準備に入っているらしく。

 

井伊の仕事は増えるばかりだった。

 

だが、この忙しさは。

 

むしろ心地よい。

 

井伊は悟っていた。

 

院とかいって、それで今の時代は贅沢が出来るか。

 

できない。

 

良い会社にはいって、それで出世とかして。それで幸せな生活が出来るか。

 

できない。

 

今の時代は、良くも悪くも既得権益が全てを独占している。

 

よく老人が悪い、みたいな話が出てくるが、あれは実際には違う。

 

老人でも貧しい人は貧しい。

 

悪いのは、そういう連中では無く。

 

親から大量の資産を受け継いでいるような連中である。

 

その手の輩が、「金持ちは優秀」だの。「優秀だから世界の上層にいる」だの。とんでもない寝言を口にしている。

 

どんな王朝でも、三代続いて名君はでない。

 

それが血統なんてものが如何にいい加減かをよく示しているし。

 

そもそも裏口入学がどこの国でも平然と行われている事からも。

 

「優秀」は簡単に偽造できる。

 

世界一厳しかったことで知られる科挙試験だって、あれは実際には儒教の思想をすり込むのが目的であって。

 

暗記メインの試験だった。

 

つまりは、そういうことだ。

 

そして世界一厳しい科挙試験で選ばれた、中華の各時代の王朝の官僚達は優秀だったのだろうか。

 

答えは、残念ながら。

 

否である。

 

それが現実なのだ。

 

井伊は頭をかきまわすと、ともかくネットのアンダーグラウンドに今日も潜る。

 

どんどん情報を仕入れていく。

 

表で実際に動くのは、別の人間を使う。

 

それも何重にも人を介しているから。ちょっとやそっとで井伊にたどり着ける奴なんていない。

 

そもそもプロキシサーバを何重にも介しているから、井伊が今どこにいるか突き止められるやつだっていない。

 

ネットの結構深めのアンダーグラウンドに潜っているが。

 

何処の家の何処の機械が使われているか、というような事まで分かるIPv6であっても。

 

井伊の居場所を特定するのは不可能である。

 

事実、今まで世界的なハッカーが、何回か井伊の居場所を探そうとしたようだが。

 

それらも全て失敗に終わっていた。

 

さて、今日もちょっと頑張るか。

 

井伊はそう思う。

 

ブラック企業にすり潰されずに、こうして好きかってやれている。

 

高宮監督は、井伊と小野寺という、二人の個性を生かしてくれた。

 

それだけで、充分過ぎる程に恩がある。

 

高宮監督が、映画業界を焼き尽くして。

 

権威を世界から滅ぼした事に対しては、別に思う事は無い。

 

高宮監督がやった事に関しては、恐らく賛否があるだろうとは思うけれども。

 

それはそれ。

 

井伊には関係無い。

 

あくまで井伊は参謀として動ければいいし。

 

歴史の影で動ければそれでいい。

 

それだけ。

 

だから、井伊は。

 

今後も、こうして。

 

高宮の影から。そのある意味邪悪な計画を支える。

 

それだけだった。

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