謎の映画監督の物語 無の映画監督   作:dwwyakata@2024

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アルティメットコメディシリーズ()を見て、それに意図を見いだした人間がいました。

それは意識が高い評論家様がたと同じ方向ではなく、別の意味から、です。


不思議な映画監督の謎
序、追跡


小野寺晴は、「アルティメットコメディシリーズ」の9作目を見て思った。これは敢えてクソ映画にしていると。

 

このシリーズを作っている高宮葵監督のことは業界ではクソ映画監督として有名だが。

 

しかしながらその一方で。

 

レビューをしている人間にも、敢えてクソ映画にしていると指摘している人間は見た事がない。

 

これについては確信に変わっているので。

 

どうしてそれに周囲が気づかないのか。

 

一度気づいてしまうと、どうにも不快感がまとわりついて離れなかった。

 

自分だけ真実に到達したとか、そういう事では無い。

 

なんというか、不安が色々と大きいのである。

 

主観によって変なものを見てしまっているのでは無いのか。

 

そういう疑念がつきまとう。

 

思い込みほど危険なものはない。

 

だいたい人間世界は個人の思い込みで回っているし。

 

主観を正当化する人間は大勢いる。

 

それらの主観を正当化する思想が。

 

今はポリコレやらフェミニズムやらの暴走を招いている。

 

自分もそうなっていないか。

 

少しばかり不安だった。

 

小野寺はSNSに複数のアカウントを持っている。

 

一つは基本的に学校向けのもの。

 

これはいわゆる明るい話題だけしかしないし。

 

陽キャらしい話題しか上げない。

 

だが、他のアカウントでは違う。

 

使い分けにはいつも苦労しているが。

 

別アカウントでは、人気が出ている映画のシナリオに対する不満とか、攻撃的な話題も扱う。

 

何度も炎上したことがある。

 

だから炎上には慣れているし。

 

人間のどうでもよい愚かしさにも、高校生の段階で既に気づいていた。

 

まあはっきりいってすこぶるどうでもいいけれども。

 

しばらく悩んだ末に。

 

親友に連絡する。

 

別の学校にいる親友だ。

 

中学時代に知り合ったとても頭が良い子で。

 

今では進学校に通っている。

 

東大に合格は確実だろうと言われているが。

 

とにかく見かけが子供っぽく気むずかしい。

 

基本的に会うときは、学校からかなり離れた駅にしている。

 

もしもクラスメイトに見つかると面倒くさいからだ。

 

SNSのメッセージ機能を使ってやりとりをする。

 

相手は、小野寺の趣味を知っている数少ない一人だ。

 

「晴がそんな風に悩むのは珍しいな」

 

「どう思う?」

 

「私も晴に言われてくだんのシリーズは一応目を通したが、なんというか敢えて煙に巻くような造りをしているなとはいつも思ってはいた」

 

そうか、そうだろうな。

 

この子は確かIQが180とか190とかあるとか聞いている。

 

小野寺が主観にて偏見を持っていないかと悩んだときには、相談する相手になっている。

 

この子も主観によって世界を決めつける愚かしさは良く知っている。

 

というか。

 

この子と話していて。

 

それを小野寺は理解した、といってもいい。

 

「仮に意図的に駄目な映画を作っているとして、意図は分かるか?」

 

「ううん、見当もつかない」

 

「そうだろうな。 駄目な映画を作っている奴は、技術が足りないか、頭が硬くなっているかのどっちかだ。 そしてだいたい自分の映画を傑作だと思い込んでいる」

 

「そうなんだよね。 不思議な事なんだけれど、高宮監督って、その辺りを一切口にしない事で有名でさ」

 

俳優の間では、ホトケの高宮といわれているとか。

 

これは揶揄半分でもある。

 

基本的にどんな駄目な演技でも余程の事がない限りNGを出さない。

 

逆に殆ど何も関与してこないこと死人のごとし。

 

故に俳優の間ではホトケの高宮と言われているのだ。

 

また、SNSではコーヒーで有名だ。

 

朝の決まった時間にコーヒー。

 

それもインスタントの奴の写真ばっかり上げるので。

 

時計とか、botとか言われたりしている。

 

まあコーヒーの写真と同時にどういうメーカーのコーヒーか説明を入れ。一言感想もいれているので。

 

恐らくはbotではないのだろうが。

 

「高宮という監督のSNSアカウントは見たが、SNSでの立ち回り方を知っていると私はむしろ思ったな」

 

「どういうこと?」

 

「独自のキャラを確立している。 余計なことはいわない」

 

「ああ、なるほど……」

 

そういえば。

 

高宮監督のアカウントが炎上したことは、あるにはあるが。

 

発言内容などで炎上したことは一切無い。

 

映画の出来があんまりにもあんまりなので炎上する事は時々あるのだが。

 

コーヒーの写真を何事も無かったかのように次の日も上げるので。

 

誰もが困惑して。

 

毒気を抜かれてしまうのである。

 

中には、今日はどんなコーヒーの写真が上がるかなと、楽しみにしている人までいるということだ。

 

そういう意味でも得体が知れない。

 

そういえばマスコミの特集記事でも、顔は殆ど露出しない。

 

取材時も眼鏡とマスク、更には場合によってはパーカーで人相を隠しているので。

 

長身の細身の女性ということしか分からない。

 

更に殆ど話をしてくれないこともあり。

 

マスコミからは取材が短くて助かるが、撮れ高もないと思われているようだ。

 

つくづくこうして考えると謎が多い。

 

ましてや意図的にクソ映画を作っているとなると。更に謎は深まる。

 

「ともかく、情報を此方でも集めてみる。 もう少し情報を仕入れた方が、きちんとした結論が出るだろう」

 

「分かった、よろしくね」

 

「……」

 

通話を切る。

 

とりあえず、小野寺の方でも色々と調べて見たい。

 

映画ファンという事もあるのだが。

 

その一方で、意図的にクソ映画を作ると言う事には興味があるのだ。

 

別にクソ映画ばかり見ている訳では無い。

 

名作と呼ばれるような作品だって、嫌になる程見てきている。

 

それでも、色んな映画を見て知見を深めたい。

 

ただしそれはあくまで趣味における話。

 

創作には作者の思想がどうしても反映される。

 

余程どうでもいいとでも思って作っている作品でもない限りは、だ。

 

まだ若く。

 

持ち上げられてはいるが、天狗になっている様子も無い。

 

そんな人が、どうして意図的にクソ映画を作っているのかは。

 

はっきりいって、小野寺には見当もつかなかった。

 

家で横になって、次に何を見るかを決める。

 

クソ映画を見る比率がどんどん増えているが、たまには名作も見ている。

 

これは映画という文化そのものが好きだから、というのもあるのだが。

 

例えばラーメンが好きだからと言って。

 

三食全部ラーメンとか、そういう事をする気は無いと言うのと同じである。

 

ただ映画は好きだし。

 

それを周囲にカミングアウトするつもりはない。

 

ましてやクソ映画が好きだなんて。

 

絶対に親友以外にはいわない。

 

得体が知れない、つかみ所がない、でいい。

 

勿論ある程度つきあいには応じるが。

 

それだけである。

 

現時点で、小野寺がクラスで孤立していたりする事は無い。ちなみにクラスで虐めはあるが、それに小野寺は関わっていない。

 

この虐めもスクールカーストによって生じたもので。

 

ヘラヘラ笑いながら教師まで荷担している。

 

そんなものに誰が荷担するか。

 

そして、クラスの他の生徒に迎合する気も更に失せる。

 

思うに。

 

小野寺は、人間の醜い部分を理解出来る程度の知能を持ってしまったから。

 

却って人間の美しさを書こうとする作品よりも。

 

実際に人間の本性を描いている、クソ映画に興味が引かれるのかも知れない。

 

つまらないかも知れないが。

 

そこに詰まっているのは大概ナルシズムか、原作に対する嘲弄か。

 

それとも才能の欠如か。

 

いずれにしても、醜悪な人間の本質ばかりだ。

 

その例外とも言える作品を作っている高宮という人物に、小野寺が興味を持つのも不思議ではないのかも知れない。

 

自宅で、しばらく情報収集をする。

 

高宮の作品群、アルティメットコメディシリーズを通してレビューしている物好きなブログを発見。

 

記事の内容はごく平凡だが。

 

他の映画に混じって、きちんとこの睡眠導入剤映画をレビューしているのは、それだけで立派だ。

 

ざっと目を通してみるが。

 

ただひたすらに困惑が感じられる。

 

「一作目は日本では珍しいサメ映画だ。 サメ映画は金字塔とも言えるジョーズシリーズですらも後半になるとどんどんつまらなくなっていったが。 映画好きの何かの琴線に触れたらしく、以降もアニマルパニックのB級C級映画を量産するジャンルとなった。 勿論名作もあるのだが、それ以上にカルト映画としての面が強い」

 

そう最初のサメ映画について触れ始めている。

 

その後で、高宮の映画について触れている。

 

「高宮監督のサメ映画でありデビュー作である「アルティメットコメディ1、砂浜の決闘」はサメ映画ではある。 ビーチに集まった人々をサメが襲っていくというものなのだが、ともかく内容がサメ映画の約束をことごとく外している。 豪快に人々がサメのエサになっていくのはあるのだが、ともかくその過程が異常なのだ」

 

水着で海に入っていたり、船の上にいたりするのをサメが襲って食っていくのはサメ映画の基本。

 

カルト映画になると空飛んだり地面泳いだりするサメと称するなんか変な災害が、人々を無作為に襲うが。

 

この作品では、なんと砂浜で謎のダンスをしている集団を横からサメが襲って食っていったり。

 

サメが来ているのに逃げもせず、なにか不可思議な朗読を天に向けてしている人をサメが食ったり。

 

それを見ているにもかかわらず誰も悲鳴を上げず、なにやら組み体操を始めたりと。

 

あらゆる意味で全てが狂っている。

 

それならそれで、見ていて逆に面白そうなものだが。

 

何というか絶妙に意味不明な会話が挟まれることや。

 

不可思議極まりない台詞を独り言のように呟いたりして。

 

それで作品を絶妙に、圧倒的につまらなくしていると。ブログのレビュー者は困惑しながら書いている。

 

結構感性が近いなと思うが。

 

このレビューをしている人間は、高宮が意図的につまらなくするためにそれらをしているとは思っていないらしい。

 

かといって、高宮が業界人に絶賛されても、まるで嬉しそうにしていないことも小野寺は知っている。

 

何が目的なのだあの謎監督は。

 

「意味不明に近いサメ映画だが、特別なメッセージ性があるとして業界人には大絶賛されたのも不可思議である。 凄まじい売り上げを世界中でたたき出した作品に対してバッシングをしたり、賞を取ったら嘲笑したりする連中だ。 意識が高くなりすぎてまともな客観性を失っているのは事実だが。 それにしても何が業界人を引きつけるのかは理解に苦しむ。 いずれにしても、ただの意味不明映画ではなく、何かしら怪物的なものを感じてしまう」

 

そうブログの書き手は締めていた。

 

まあこの辺りは結論が似ているが。

 

ただこのブログの書き手は、ここまで書いていながら。

 

わざと高宮がこれをやっている可能性には気付けていないようだ。

 

二作目以降のレビューも見て行くが。

 

それについては同じだった。

 

最新作のレビューが昨日出ていた。

 

流石に高宮の作品を観ているとSAN値がゴリゴリ削られていくらしく。

 

文章の最初が愚痴から始まっている。

 

愚痴が数行続いていたので。

 

疲れているんだったら休めと言いたくなったが。

 

小野寺はそのまま愚痴を読み飛ばして、本題に移った。

 

「さて、アルティメットコメディと題するまったくコメディだかなんだか分からないシリーズの九作品めである。 文化保護法だとかで予算が出ているらしく、客がまるで入らず関連グッズもマニアくらいしか買わないながら、それでも九作品目がついに出てしまったというべきか。 そしていつも通りシリーズ九を歌っている割りには、今までのシリーズと共通点は無く、シナリオにつながりもなく。 通して出ている役者もいない。 役者は棒読み演技というよりは、理解不能な脚本に頭がやられてしまっているようにしか見えない」

 

苦笑する。

 

確かにそうだ。

 

エドウッドの映画では、たまに役者がカンペを明らかに読んでいるシーンがあったりする。

 

それはそれとして、高宮の映画でも役者があからさまに酷い演技をしているシーンがあるのだが。

 

これらは小野寺から見ると、どうも理解不能な脚本に困惑し。

 

どう解釈して良いか分からずに、結果演技が酷くなっているように見えるのだ。

 

演技が駄目な場合、だいたい演技指導がまずい。

 

特にアニメ映画の場合はそれが顕著で。

 

演技指導をしっかりしていないと、監督の自己満足に過ぎないカスみたいな演技になりやすく。

 

特に俳優やらアイドルやら大御所芸能人とかが呼ばれた場合に。

 

その状況がよく起きる。

 

さて高宮の映画についての酷評は、ブログで続いている。

 

「映画の内容は、江戸時代を舞台に何故か民主主義について哲学的な話題をするというものだが。 役者が空中を歩きながら会話をしたり。 天井から逆さにぶら下がりながら会話をしたり。 井戸から這いだしてきながら会話をしたりと、意味不明を通り越して撮影しているのが邪神か何かの類ではないかと思ってしまう。 しかもこれだけ意味不明だと逆に笑えそうなのに、あらゆる意味で絶妙につまらない。 どうしてこんな意味不明なシーンだらけでシュールな笑いにつながらないのか、それが却って気になってしまう」

 

ブログの描き手は困惑しながらそんな風に書いているが。

 

まあそれも分からないでもない。

 

撮影現場は阿鼻叫喚だったのでは無いかと書きつつ。

 

俳優の間では、ホトケの高宮と呼ぶばれている事に気づいたのか。

 

それはないかと書き直している辺りは、分かっているのだろう。

 

事実映画に出た俳優が、幾つか証言しているが。

 

高宮はともかく撮影所では非常にホワイトな職場を作ってくれていて。

 

俳優に怒鳴ったりするようなスタッフは即座に問答無用でクビにするし。

 

なんと定時退社出来るようにスケジュールを組んでくれるしで。

 

これほど過ごしやすい職場はないという。

 

まあ意味不明な演技をさせられるのが苦痛ではあるのだが。

 

それさえ我慢すれば非常にいい職場で。

 

ホトケの高宮と呼ばれるのも納得だという話だ。

 

もっとも、NG等をほぼ出さないと言う事で。

 

死人のようだという意味も含めて、ホトケの高宮と言われているそうだが。

 

まあはっきりいって、それについてはどうでもいい。

 

エドウッドの再来と言うだけで、相当な罵倒になるし。

 

才能がないなりに大まじめに映画を作り。映画を作る才能はなかったものの、本人は優しく周囲の人間関係にも恵まれていたエドウッドと高宮は、クソ映画を作るという以外にはあまり共通点は無いと小野寺は思っている。

 

ブログを読み終えると、そこそこの時間になっていたので。

 

今日はもう晩飯をとって寝る事にする。

 

両親はどっちも比較的ブラック気味な職場に勤めていて。

 

夜はどっちも帰りが遅い。

 

昔はアフターファイブが本来の仕事よりも大事だった時代があったらしいが。

 

今ではそれどころではなく。

 

ひたすら酷使される皆が。

 

死んだ顔で働いている、総ブラック企業の時代だ。

 

両親のどっちもブラック労働をしているのも、仕方が無いのかも知れない。

 

夕食分の金が置かれているので、それでコンビニで食事を買ってくる。

 

だいたいは弁当だが。

 

一応近年はコンビニに材料もあるので。

 

それを使って料理をしたりもする。

 

流石に弁当ばかりだと体に悪いと言う事もあるからだ。

 

適当に食べ終えると、小野寺は寝る。

 

つかみ所は無いが、華やかな美人として知られている小野寺だが。

 

決して素の姿は綺麗でもないし。

 

幸せでもない。

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