謎の映画監督の物語 無の映画監督 作:dwwyakata@2024
権威となっていた幾つかの映画賞が消え。
スポンサーが凄まじい金を投じて、結果としてがんじがらめになった「大作映画」がいつしか人権屋に乗っ取られる時代も終わり。
映画戦国時代とも呼べるものが到来してから。
しばらく時が経っていた。
万雷の拍手を受けて、壇上に上がったのはまだ若い監督だ。
今、映画は空前のインディーズ時代に突入している。
スポンサーが金を出して、自分達の会社や思想に都合がいい映画を作らせる時代は既に終わり。
今は、それぞれが低予算で工夫しながら映画を作る時代が来ている。
そういった映画には外れも大量にあるが。
その反面で、上手く行った映画もあり。
それらが、更にインディーズ映画熱を加速させていた。
いい傾向だ。
そう、少し年老いた高宮は。
動画サイトで、その様子を見ながら思った。
高宮は、まだまだ現役で映画監督をしている。
だが流石に、一時期ほどの勢いはない。
この間公開した映画も相応のヒットはしたが。
昔日ほどの勢いはなく。
それなりに好評だったが。
それなりどまり。
まあ黒字にはなったし。
なんなら後は一生遊んで暮らすことも可能なのだけれども。
そうするつもりはない。
高宮は、老害にならない限り一生映画とともにある。
だから、こうやって。
映画界隈の動向には、常に目を光らせていなければならなかった。
井伊から連絡が来る。
今は、井伊はどこにいるのだろう。
同志にすら、居場所を明かしてくれない。
たまに小野寺とだけは会うそうだが。
「また、ろくでもない連中が結託して映画賞を作ろうとしていた。 映画賞といえば聞こえはいいが、スポンサーの言いなりになる映画を作らせて、人権屋の懐に大量に金が入るシステムを再構築しようとしていた」
「連絡をしてきたって事は、潰したの?」
「潰した」
「そう……」
井伊は、容赦が無いな。
そう思う。
もうFBIにも顔が利くと聞いている。
本人は連日ダークウェブに潜り。更にハッキングなども駆使して、密閉性が高いSNSなどにも潜り込んで。
様々な情報を収集。
世間に先んじて動いている様子だ。
井伊に言われたニュースを確認する。
幾つかの過激派人権団体の内部抗争があり、警察が踏み込んだ結果。十人以上の遺体が発見され。
人権団体の幹部全員が逮捕された、ということだった。
いたましい事件だけれども。
酷いのは、遺体は殆どが子供ばかりだと言う事。
井伊の話によると。
すっかり落ち目になったポリコレは、過激派カルト団体ともう脇目もふらずに合併を繰り返し。
もはや元が何だか分からない状態になっているそうである。
今回の件も、それぞれの幹部が人質交換をしている状態で話を進めていたそうなのだけれども。
その人質がそもそも養子。
更には話が決裂したと言う事で、人質を連中は容赦なく殺し合い。
警察が踏み込んだ時には、内部で銃撃戦までしていたそうだ。
本邦でもひたすらテロと内部分裂と内部での粛正を繰り返した挙げ句、いまだに影響力を持っている過激派団体が存在しているが。
どこの国でもこの手の連中は同じなんだなと。
高宮は呆れた。
「いずれにしても、これは大スキャンダルになる。 大手マスコミも報道せざるを得ないだろう。 まあ連中なんてもはやあっちでも誰も相手にしていないが」
「お疲れ様。 とりあえずガンガン真相をネットに流しちゃって」
「了解している」
井伊との通話を終えると。
溜息が漏れた。
さて、今週出た映画について確認するか。
すっかり地歩を確保した北条は、かなりの有名映画監督になっている。
代表作も幾つか出来。
今、注目されている若手になっていた。
良い事だと思う。
このまま、どんどん先へ進んでほしいものだ。
日野は高宮が映画を撮るペースを落としてからは、色々な映画に出るようになり。既に日本の女優の中でもトップクラスの知名度をもつようになっている。
マスゴミには高宮のお気に入りとして散々嫌われているようだが。
そんなものは、もはや何の意味もない。
日野は既にそんなネガキャンなどなんら意味もない人気を持つようになり。
また身の回りに隙が無い事もあり。
週刊誌も、スキャンダルをでっち上げる事は出来ないようだった。
高宮が影響を与えたのは。映画界隈だけではない。
マスコミの凋落は決定的になったし。
スポンサーが大金を突っ込み。
その結果、大金を突っ込まれたにもかかわらず、駄作が出来ると言う醜悪なサイクルも終わったとも言える。
今では、スポンサーがバカみたいな大金をつぎ込むことは、映画だけではなく。ドラマやゲーム、他の全てでどんどんなくなりつつあり。
社会の流れが明確に変わっている。
また。一時期大暴れしていたフェミニズムとポリコレに関しても。
完全に過激派テロ組織と認識されるようになり。
もはやカルトと同一視するか、自然解散するか。
そのどちらかに別れるようになった。
これも高宮の行動の結果だ。
それによって、過激派の一派が消えた。
ただ。世の中に盗賊の類が消えないように。
この手の人権屋はあらゆる手を駆使してくる。
特にこいつらの背後にいた連中が、分が悪いと判断したのだろう。ポリコレとフェミニズムが斬り捨てられると。
その後には、すぐにまた面倒な人権団体が出て来て。
今も暴れている。
これらも、いずれ対処をしなければならないのだろうが。
人権が金になる現状。
更には、デリケートな問題で。
なかなか踏み込めない現状。
やはり、人権を悪用し。
邪悪の限りを尽くす輩は、この世から消える事はおそらく無いのだろう。少なくとも人間が変わらない限り。
そして人間は変わらないのだから。
どうにもならないのである。
コーヒーの写真を上げる。
SNSで、今も続けている習慣だ。
流石に全盛期ほどではないにしても、それなりにコメントはつくし拡散される。
毎日コーヒーの写真がアップされていて、安心するという声まであった。
苦笑すると、家を出る。
今日も仕事だ。
まだ、老害にはなっていないつもりだ。
もしも、満足出来ない映画に仕上がったときは。
その時は引退する。
映画監督として、やれるからやっている。
映画が好きだから、映画を撮っている。
それが完全に衰え、自己満足になった時には。
その時は、引き際だ。
諦める覚悟は。
既に出来ていた。
以降も、大御所だの何だのとかになって、映画界隈に口を出す気は無い。
高宮が焼き払った彼奴らと同じになるのなんて、はっきりいって死んでもごめんだ。
外に出る。
朝日がまぶしい。
伸びをすると。
高宮は、己が焼き払った映画界隈に。新しい文化の森が出来ている事を再確認して。
満足して歩き出すのだった。
破壊神は全てを焼き払い。
その後の創造を司る。
高宮は、どうやら。
立派な破壊神になることが出来たらしかった。
(謎の映画監督の物語、無の映画監督・完)
如何だったでしょうか。
かなり強烈な作品であり、映画ファンだったら思うところも色々あるかとは思いますが。
あくまでこれはフィクションだという事を念頭に。
この物語は、内輪に向けた批評が蔓延る今の界隈が正しいのか、という事を問いかける作品だということを考えていただければ何よりです。