第九号泊地   作:ミハイル・シュパーギン

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提督

形が9に似た島に第九号泊地はあった。

 

その島に向かって航行する1隻の小型貨物船の姿があった。

 

第九号泊地の周辺を哨戒していた1機の零式水上観測機が高度を落としてくると、小型貨物船の左舷側を船尾から船首の方向に向かって低空飛行していった。

 

「まるでミニチュアだね~」

 

自分で舵輪を握る小型貨物船の船長が、窓越しに零観を見上げながら感心したように言う。

 

それから肩越しに振り返って、

 

「なあ、あんた・・・」

 

後ろの折り畳みベンチに座る若い男に話しかけたが、ちょうど彼は鉄製のバケツに胃の中身をぶちまけたところだった。

 

若い男は顔を上げたが、その表情は船酔いで青ざめて今にも死にそうだ。

 

「う~・・・なんでしょうか?」

「・・・いや、なんでもない」

 

船長は見なかった事にした。

それから、小声でこう呟く。

 

「・・・本当に提督なのかね?」

 

操舵室の外では、左手で手すりを握りながら、額に右の掌を当ててじっと何かを思い悩む少女が立っていた。

 

陽炎型駆逐艦娘の初風である。

 

「なんなのあの提督・・・」

 

 

 

小さな埠頭では、第九号泊地を担当する提督が待っていた。

見たところ、小型貨物船に乗っていた方の提督と比べて年上のようだ。

 

荷揚げ作業をする傍らでは、件のミニチュアサイズの零式水上観測機が他にも2~3機浮かんでいる。

 

「交代します」

「うん。後を頼んだぞ」

 

どうやら小型貨物船に乗って来た若い提督が第九号泊地を年上の提督から引き継ぐようだ。

 

敬礼を交わすと、後任提督はある事に気が付いた。

 

「・・・あれ、あなたの秘書艦は?」

「営巣だよ」

 

これには後任提督と初風が顔を見合わせる。

後任提督はまた前任提督に顔を戻し、

 

「営巣?」

「と言っても、締め出しだがね。今は北西の海岸にいるんじゃないかな?」

 

後任提督は作業中の小型貨物船を振り返りながら、

 

「ええと、作業が終わるまでには合流しますよね?」

 

しかし前任提督はあっさり首を横に振った。

 

「いや、彼女はここに残るよ?」

「なぜです?」

「規則違反が多くてね。ペナルティでこの第九号泊地に居残る事となった。ま、艦娘はこれで2人になるわけだな」

「はあ」

「その子の事も、宜しく頼んだよ」

「・・・その海岸に行ってみます」

「ああ、それならガイドブックを渡しておくよ」

 

そう言うと前任提督は懐から折り畳まれた地図を取り出して後任提督に手渡した。

 

「え~、私も行くの?」

 

見るからに嫌そうな表情を浮かべる初風だったが、

 

「いやいや。初風は先に宿舎に行っておいてくれ。俺1人で行くから」

「へ~」

「じゃあ、私はこれで失礼するよ」

 

前任提督は小型貨物船に去り、初風は素っ気なく

 

「先行って休んでるわね」

 

と言い捨ててさっさと宿舎に向かって歩いて行った。

 

後に残された後任提督は溜息を吐くと、地図を開いてルートを確認してから歩き出したのだった。

 

 

 

続く

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