第九号泊地   作:ミハイル・シュパーギン

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占守

北西の海岸に行ってみると、海に向かって伸ばされた釣り竿が見えた。

持ち主は岩の陰に隠れていて見えなかったが、近付いて行くと釣り竿を握っていたのは小さな女の子だった。

 

「やあ」

「え?」

 

声を掛けると、小さな女の子は最初驚いたような表情で後任提督を見たが、

 

「後任だ」

 

と言うセリフで、得心したように笑顔に変わった。

 

「あ、どもっす」

「君は確か・・・」

「占守型海防艦一番艦!占守っす!」

「前任の秘書艦だね?」

「そうっす!でも置き去りの刑に処されたっす!」

「彼の話じゃ・・・規則違反を犯したとか」

 

占守は釣りを中断して釣り糸を海から呼び戻した。

 

「ただの悪戯っすよ~」

「それにしては刑が重いようだけど」

「話したら長いっすよ?」

「いい、いい。報告書読むから」

「面白いっすよ?」

 

無邪気に話す占守に、後任提督は本当にこの海防艦娘は何をやらかしたんだろうと首を傾げざるを得なかった。

 

「ああ、ところで」

「なんすか?」

「宿舎で俺の秘書艦が待っている。急いで戻るぞ」

「えっと・・・」

 

占守は可愛らしい小さな手で指折りしながら、「まだ10時間残ってるっすよ?」

 

「営巣?」

「そうっす」

「現時点をもって営巣入りを解除する」

「え、いいっすか?」

 

そう言う占守だが、表情に幾分の迷いがある様子からすると、営巣生活にまんざらでもなさそうである。

確かに後任提督の第一印象では、アウトドア生活を満喫しているような感じだ。

 

「今の第九号泊地の司令は俺だ」

「そうっすね」

「君が営巣入りを続けたいなら、構わんが」

「いや、やっぱり宿舎の中が一番っす!」

「そうか。じゃあ行くぞ」

 

踵を返そうとすると、占守が呼び止めた。

 

「あ、そうだ、しれえ」

「ん?」

「しれえの秘書艦は誰っすか?」

「初風。陽炎型駆逐艦だ」

 

 

「それはそうと」

 

執務室で挨拶を済ませると、初風は前置きにそう言った。「占守はいつまでここに留まるわけ?」

 

「それなんだけど」

 

後任提督は最新の報告書や提督日誌をパラパラ捲っていた。「次の交代の時までらしい」

 

「すぐに帰してあげないの?」

「司令部に問い合わせてみるつもりだ」

「占守は別に平気っすよ?」

「君を必要としている場所があるかもしれない。大湊とか」

「あ~、大湊はホームっすけど。ここも悪くないっすね!」

 

占守のこの発言に、初風がすかさず反論する。

 

「どこが悪くないのよ。こんなへんぴなとこ、左遷もいいとこよ!」

「左遷じゃないっすよ。避暑地っすよ!リゾート地っすよ!」

「私は早くここを抜け出したいんだけど」

 

初風は不機嫌そうに腕組みしてそっぽを向いた。

 

「じゃ、初風さんはどうしてここに?」

「じゃんけんに負けたのよ」

「じゃんけん?」

「第十六駆逐隊にお鉢が回って来て、その中から1人選ぶことになって、じゃんけんってなったの」

「雪風さんが一抜けしそうっすね」

「当たり。で、私が時津風に負けてこうなったってわけ」

「何れ慣れるっすよ」

「はあ?」

 

初風はじろりと占守を睨みつけたが、

 

「大丈夫っすよ。占守直々にサボ・・・じゃないっす、楽しみ方を伝授するっす」

 

後任提督が報告書から目を上げた。

 

「サボ?」

「違うっす!サボ島っしゅ!しゅしゅしゅ~!」

「まあ、報告書読めば分かるか」

 

 

続く

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