亜人間恋愛物語   作:d1199

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剣士剣の輪舞曲1=女狐

 遠坂家のリビングに居るのは、キャスターと葵と千歳だった。千歳は、鞄から取り出した書類の入った紙袋をテーブルの上に置いた。

 

「これが、葵さんに二人を委任する書類になります」

「はい。確かにお預かりいたします」

 

 お盆にお茶を載せた桜が現われたのは、葵が書類を確認している時のことだった。その場の空気を感じ取った桜は、千歳にこう言った。

 

「お母さん。本当に行っちゃうの?」

「今生の別れではないんだから、そんな顔をするな。数年で戻る」

「だって」

 

 千歳は「ほら」と手招きしたので、桜は「ぐす」と養母の膝に頭を乗せた。桜をあやす千歳と真也の雰囲気は、そっくりだと葵は考えた。彼女がパンと両手を叩き合わせたのは、名案が浮かんだからだった。とんでもないことを思い付いたに違いない、千歳は僅かに怖じ気づいた。葵はニコニコと笑っていた。

 

「千歳さん。私たちは懇意になるべきだと思うんです」

「具体的に言っていただけないでしょうか」

「ほら衛宮さん方の。キャスターさん。何と言う方だったかしら」

「久宇舞弥さまです」

「そう。その方です」

 

 コトンとは千歳がティーカップを置いた音である。

 

「つまり。食事会か何かを三人で行いたいと言うことでしょうか」

「はい。その通りです。私たちは何かと境遇が似てますもの。ぜったい仲良くなれると思います!」

 

 すまし顔の千歳は、実は困惑していた。突然そう言われても予定があるのだ。葵に時間を作れと言われれば吝かではないが、出立の直前でドタバタは避けたい。同意を求めた彼女はチラとキャスターを見た。ローブに隠れる口元は笑っていた。

 

「葵さまに同意します。千歳さま。ぜひ。久宇さまをお誘い頂けるでしょうか」

「企んだかキャスター」

「さて。あの坊やとどうなるかを決めるのは千歳さまですから」

 

 膝の上の桜の頭を撫でる彼女はため息をついた。

 

 

 

 

 剣士剣の輪舞曲

 

 

 

 

「先生ごめんなさい。欠伸をしたりウトウトしたりしましたが二週間分の授業はこんなにも充実していたのDeathのぅ」

 

 部屋の隙間から冷たい風がひゅるりと駆け抜けた。彼が黄昏れているのは、彼が向かう漆色の和風文机に、一成に頭を下げ借りたノートのコピーが、インフルエンザと偽りサボり続けた授業に等しい量だけ積まれてるからである。テスト以前に出席コマ数も足りていない事実が、彼に追い打ちを掛けていた。

 

「茶を飲んで気合いを入れるか……」

《士郎はねー。春休みも授業を受けてきっちり苦労すると良いんだよー》

(藤ねぇが楽しそうだったから。何て事ない)

 

 その声がしたのは、彼が腰を浮かした時であった。

 

「士郎。いま良い?」

 

 ふすま越しの声はくぐもっていた。

 

「舞弥さんか? 入っても構わないぞ」

 

 ふすまがゆっくりと開けば、跪座〈きざ〉姿の舞弥が現れた。跪座とは和風作法の一つで、爪先立ちから足を揃えたまま腰を落とす、正座に近い座り方である。舞弥が紺藍の作務衣を着ている事に気がついた。彼女は切嗣の影響で時々着物を着るのである。

 

「舞弥さんが作務衣を着るのは二週間ぶりぐらいか」

「それ位ね。久し振りに着てみようって思ったのだけれど、おかしい?」

「しばらくドタバタしてたから、そういうのもありだと思う」

 

 困惑を感じた時舞弥は手の平を頬に宛てがう癖がある。士郎がそう言ったのは、それを知っているからだった。

 

「それで用件は大事か? 舞弥さんが浮かない顔してるのが気になるんだけど」

「嫌われているという訳では無いと思うのだけれど、イリヤと上手くいかなくて。応対はしてくれるから、少しずつ慣れて貰いたいとは思うのだけれど。あの子から見れば私は女狐の様なモノよね」

「避けられてるって事か。舞弥さんは心配性だから深刻に考えない方が良い。姉さんも直に分かってくれる。それはそれとして、舞弥さんが女狐だったら、ホンモノの女狐はどんなだろうな」

 

 家の電話がリンリンと鳴っていた。

 

 

 彼が受話器を握っているのは、彼の家に電話が掛かってきたからであり、応対した舞弥に呼び出されたからだ。

 

『もしもし。衛宮君? 夜遅くにごめん。そっちの様子はどう?』

 

 彼は頭の中の狐を拭い取った。

 

「アインツベルン絡みで姉さんたちがバタバタしてるけれど、慌てる様な事は起きてない」

『今。失礼なこと考えたでしょ』

「考えてない」

『ふぅん。まぁいいわ』

 

 彼は静かに言った。

 

「それより遠坂。舞弥さんの機嫌が少し悪かった気がするんだが……遠坂。お前なんて言ったんだ」

『別に。夜分遅く申し訳ありません。遠坂凛です。衛宮士郎君いらっしゃいますかーって。それだけよ』

「突っ返すと後々大変だから渋々応対したんだな、たぶん」

『あんな事が起こった直後ならそうせざるを得ない、か。無理強いした様で少し申し訳ないわね』

 

 彼は、僅かな失笑をした。

 

「遠坂が気遣うなんてどういった風の吹き回しなんだか」

『衛宮くん? それはどういう意味かしら?』

「いつもガーって人様の都合お構いなく、」

 

 失言に身構えていた彼だったが、聞きたくない名前を一番言って欲しくない相手に言われたので僅かにテンションが下がった。

 

『そのあたり真也と違うところよね。“おぉ。凛が気を遣うなんて……こんなの凛じゃあらへん。偽物だな! 俺の知ってる凛を返せ!”って言うから』

「その後にそうでないと困るとか、やりづらいとか、俺は気に入ってるとか、言い出すんだよな。あいつは」

『そうそう。まったく。褒めるなら普通に褒めろってのよ。どうしたら良いのか分からないじゃない』

「そっちこそ順調な様で安心した」

『なによ、それ』

「なんでもない。それで用件を言ってくれ」

 

 凛のトーンが下がったので、何か起こったのだと士郎は気を引き締めた。

 

『しばらく障りそうなのよ。真也は寝っぱなしで使えないから手伝ってくれないかって』

「真也が寝っぱなし?」

『そうそう。うちで暮らすことになった』

 

 彼の脳裏の凛はコンコン鳴いていたので、桜共々という内容を聞きそびれてしまった。

 

 

 凛から話を聞いた彼は、ゲンナリしつつもこれからどうするべきかと考えた。ポクポクと木魚を鳴らしチーンと鈴を叩いた彼は、廊下を歩き出した。目的が決まっている。考えるのは手段のみだ。ならば迷う事などありはしない。目指すは一路、セイバーの居る離れである。

 

 彼はリーゼリットに遭遇した。

 彼女はいつものメイド服だったが、頭巾〈ウィンブル〉から溢れる銀のほつれ髪はいつも以上の艶があり、頬をほんのりと紅潮させ、全体的に湿り気を帯びていた。修道服にも見えるアインツベルンのメイド服は何故か胸を強調するデザインで、リーゼリットがそれを着ると凶悪である。

 彼はリーゼリットにキツネ耳が生えていると幻視したが、それは頭巾の出っ張りだった。

 この家には危険が多いならば仕方がない。彼は失礼だと思いつつ、すれ違う様にこう言った。

 

「お休みリーゼリット」

 

 リーゼリットは「こんばんわ。シロー」呪文を唱えた。彼は足を止めてしまった。

 

「同じ家でその挨拶は間違ってる。シローは止めてくれ」

「こんにちわ。シーロ」

「家族なら朝のおはようとお休みだけで良いんだ。それと士郎な」

「シロ、シロー、シーロ、シースパロー」

「それはミサイル。というかスパーは何処から来たんだ」

「スーパーシロー」

「そのイントネーションだと超シロウじゃなくて小売業シロウだから」

 

 リーゼリットは、最後の呪文を唱えた。

 

「遅い時間にシロゥは何処へ行くの?」

「そうだ。しなきゃいけない用事ができたんだ。リーゼリットお休み」

「そっちはセラが居るから。離れに行くなら別のルートを行って。お休みシロウ」

 

 リーゼリットは気の利くメイドだと彼は感心するのみだ。キツネの耳を幻視した己を悔いた。

 

◆◆

 

(リーゼリットは主に気が利く良いメイドなんだな)

 

 イリヤが立っていた。

 彼女は白いナイトガウンを着て、白いモコモコのルームシューズを履いていた。髪は僅かに濡れ、頬には赤みが差していた。その全身からもわっとした湯気が立ち籠めていた。イリヤとリーゼリットは入浴していたのだと彼は気がついた。

 

「姉さん。日本の湯船に浸かった感想は?」

「すこし戸惑ったけれど木の匂いも悪くないわ。シロウがお願いするならまた入ってあげる」

「うん。またお願いするから入ってくれ」

 

 彼は足早に歩き出した。気づいたイリヤはこう言った。

 

「ところでシロウ」

「なに」

 

 彼女は、すまし顔だった。

 

「いつ入って来るかってドキドキして待ってたのに。シロウはレディの扱いを知らないのね。おかげで少しのぼせちゃったわ」

「……俺の知ってる貴夫人作法はもっと慎ましい様な」

 

 士郎はイリヤに元気よく抱き付かれた。彼女が放つ柔らかみと熱と湿気は彼の自制心を揺さ振った。それは、彼女の狙いだった。こう言った。

 

「そうだわシロウ。後でわたしの部屋に来なさい。たくさんお話ししましょ」

「それ位ならお安い御用だけど、もう時間も遅いから明日にしてくれ」

「みなが寝静まってないと不都合あるもの」

「行かない」

「ひどいんだ。シロウは私に嘘をついたのね」

 

 イリヤは両手を顔に宛てがい悲しんだ。彼は白いガウンの裾から見えるネグリジェが透けている事に気がついた。彼女は両手を顔に宛てがったままだった。彼はこう言った。

 

「お話はする。でもピロートークはダメだ」

「殿方はレディを悦ばせるモノなんだから」

「喜ばすなら何度でもしてやるけど悦ぶはダメだ」

「いちど関係を持ったらもう興味が無いなんて、わたしのシロウはそんな非道な事をしないわよね?」

「あれは非常時で一回だけって」

「とっても痛くて苦しかったけれどシロウの為に我慢してシロウの〈魔術回路〉を受け入れたのよ。シロウはわたしの純真を踏み躙るの?」

 

 手を降ろした彼女の表情は、取り繕いのない悲しみだった。彼は困惑した。誠意は大事だ。だがそれは同意の上で、同意とはそう言う事なのか。だがしかし。

 彼女が浮べた刹那の笑みは、彼が譲歩し掛かった時のことである。彼は文句を堪えて立ち去った。彼女はバレたかと舌を小さく出した。

 

「もう夜遅いから。お休み姉さん」

「まちなさいシロウ。その夜おそい時間にどこに行くの。その方向は離れしかないわ」

「姉さんが心配する事じゃないから」

「セイバーに夜這いするならもう少し遅い方が良いと思うけれど」

「別の用事だって」

 

 イリヤの咎めと悦びが混じった笑みを、人は小悪魔と呼ぶ。

 

「そう。シロウはかわいそうなお姉ちゃんを粗末にして、セイバーだけを可愛がるんだ。キリツグの分も償いたいって言ったのに」

「……」

 

 イリヤは長い髪の下にキツネの耳を隠しているに違いない。彼はそんな事を考えた。

 

 

 士郎は、ちゃぶ台に向かう全員にこう言った。

 

「この時間に集まって貰ったのは他でもない。遠坂に聖杯戦争の余波で冬木市のあちらこちらが歪み、それで良くない事が起こるから対応してくれないかと頼まれた」

 

 その発言は、イリヤである。ガウンのままで湯冷めしないだろうか、彼はそんな事を考えた。

 

「よくない事だなんて随分あいまいな言い方ね」

「キャスターが、大体の場所と時間と事象を特定してる」

 

 セイバーは彼が初めて見る青のルームウェアワンピースを着ていた。

 

「事象とは?」

「悪霊の類が顕れる恐れがある」

 

 彼は、寝ているリーゼリットを除く、セラ・舞弥・セイバー・イリヤを見渡した。

 

「見逃せない。なによりやるべき事だ。だから俺は引き受けた」

 

 イリヤとセイバーが軽く言い合った。

 

「聖杯戦争がおととい終わったばかりなのに、シロウが危険なことをするのは良いわ」

「良くはありません。イリヤスフィール」

「サーヴァントに比べれば悪霊なんて赤子のようなモノよ」

「油断は大敵と言います」

「そうね。その通りだわ。いい? シロウ。わたしもセイバーもマイヤも。シロウを一人では行かせない。シロウもそう思ってるから皆をあつめた。なら問題は一つね。シロウはだれを連れていくの?」

 

 一同の視線を浴びた彼は、セイバーの(私はシロウの剣です)と言う心の声を、イリヤの(シロウはお姉ちゃん想いの良い子よね?)と言う心の声を、セラの(お嬢様の手を煩わせるならば覚悟をしなさい)と言う心の声を、舞弥の「士郎に一任します」と言う発言を聞いた。一拍。彼はこう言った。

 

「その事なんだけど、俺はセイバーに頼みたい。引き受けてくれるか」

 

 セイバーは胸元に手を宛てがい、天啓を得たような態度をした。

 

「答えるまでもありません。一命に変えても果たしましょう」

 

 不服と拗ねを織り交ぜるイリヤに、彼は言った。

 

「姉さんを連れて行くとリズセラが心配するから。かといって二人を連れて行くと人数が多すぎるし、それにリーゼリットはもう寝てる」

 

 セイバーは生徒の回答を確認する教師の様にこう言った。

 

「シロウは人数で私だと決めたのですか」

 

 士郎が見たのは、イリヤの左胸の奥にある臓器だ。

 

「もう一つ、姉さんに魔術は使わせたくないって理由もある。舞弥さんに聞いた。アイリさんがそうだったならそうなんだろ?」

 

 イリヤが浮べたのは、困惑である。気遣いは嬉しいが、腫れ物を触る扱いは気分が良くないのである。

 

「わたしの身体のことを言っているなら心配ないわ。魔術の行使ぐらいなら誤差の範囲なのよ」

「それでもだ。一日、一分、例え一秒でも短くしたくない」

「そう。みっつめの下心的な理由もありそうだけれど、シロウに免じて温和しくしててあげる」

 

◆◆

 

 部屋で準備をするのは士郎であり、部屋の脇で正座をするのは舞弥である。彼女は言った。

 

「お財布は現金だけにした?」

「した」

「カードとか持っていると落とした時に困るわよ」

「分かってる」

「昼間は暖かかったけれど、夜は冷えるから」

「分かってる」

「汗をかくと無駄に疲れるから注意して」

「知ってる」

「ハンカチとティッシュは持った?」

「舞弥さん。俺はもう十七なんだ。子供扱いは止めてくれ」

「拳銃を持ってく?」

「……要らない」

「堂々とセイバーを指名したことは立派だったわ。けれど、」

「けれど?」

「……防刃ジャケットは用意するべきかしらね」

「なんで防刃なんだ。刺される様な恨まれる事はしてない」

 

 廊下を征くのは、防寒具を羽織った彼である。聖杯戦争は終わったばかりだが、その身体に異常は無い。彼のポケットに収まっている財布は少々軽いが、買い物に行く訳ではないので、やはり問題は無い。ようやく落ち着いたばかりの冬木市を騒がす悪霊ゆるすまじ。

 

(セイバーの用意が調い次第出発だ)

 

 玄関を見た彼は、忘れ物を思い出したかの様に、踵を返した。

 

 

 彼は離れのリーゼリットの部屋に赴いた。安らかに寝ている事を確認すると扉を閉めた。

 彼はセラの居る台所に赴いた。彼女は、段ボールに入った食材の検査をしていた。

 

「セラ。留守番と姉さんを任せた。ついでに食材の検査もご苦労様」

「言われるまでもありません。と言うより、馴れ馴れしくしないでください。エミヤシロウ。私は貴方を嫌っています」

「分かってるって」

「とてもそうは思えません」

「セラのことはだいたい分かってきたから。セラのそれは個性だな」

「早く行きなさい!」

「そうする」

 

 彼はイリヤの居る縁側に赴いた。月を見上げる彼女は、足をプラプラさせていた。

 

「姉さん行ってくる」

「いいシロウ? あまり遅いとおねえちゃんは悲しくなってしまうんだから」

「直ぐ帰ってくる。それじゃ」

「まちなさいシロウ。それだけならわたしは怒ってしまうのよ」

 

 彼は彼女を抱き締めた。

 

「無事で帰ってくる」

「それはとうぜんなんだから」

「セイバーと一緒に」

 

 彼女は脱力するのみである。

 

「シロウ。わたしはシロウの将来がとっても不安だわ」

 

 いざ玄関へと足を運んだ士郎は、小走りの舞弥に追い越された。おや。作務衣を着ていた彼女がお洒落をしている。まさか男なのか。止める権利は無いが、せめてどの様な人物か見届けねば。何かあってはオヤジに顔向けできない。

 舞弥は、室内スリッパから土間にあるサンダルに履替えた。開いた玄関から現われたのは、ふくらはぎに掛る程に長い一本の三つ編みを揺らす黒髪の女だった。その女は腿に掛かる丈のトレンチコートを開けさせ、無地の黒いTシャツを露にしていた。

 士郎は驚くのみである。

 

(蒼月千歳……真也の母親が俺の家に来た?)

 

 二人は、社交辞令と自己紹介と手土産の受け渡しと聖杯戦争中の謝罪・感謝を交わしていた。彼に気づいた千歳は、鋭くも嫋やかな笑みでこう言った。

 

「また会ったな。衛宮士郎君」

「ここに来る理由が分らない」

「葵さん。凛さんの実母もそうだが、私たちは何かと境遇が似ているからな。久宇さんとは一度話をしたいと思っていた」

「言ってくれれば食事の用意もできたのに」

 

 それは、彼の傍らに立つセイバーの台詞である。

 

「シロウ。準備が終わりました」

「あ、ぁあ」

「何か問題でも?」

 

 突然鳴りだしたバチバチと言う激しくも美しい光と音は、女性同士でのみ成立する牽制と警戒の火花である。それに気づいた舞弥は、舞弥はまさかと小さく驚いた。千歳は言う。

 

「諸般の事情でドタバタしているから、気持だけ貰っておく。久宇さん。私はこれで失礼します」

「ご丁寧にありがとうございます」

 

 扉が閉まりきる直前千歳はチラと士郎を見た。

 

 

 二人を見送った舞弥は、土間から廊下に上がった。手土産を抱えつつも、ため息をついた。

 

「士郎は気づいていない様だけれど同級生の母親だなんて一体いつの間に。あの子は年を取る度に切嗣に似てくるから、これからが不安だわ」

 

 舞弥が立つ廊下と居間を仕切る壁から顔を覗かせているのは、イリヤである。

 

「そんなにすごかったの?」

「ええ。言い寄られることは日常的だったし、押し掛けられたこともあったのよ。女狐って言われた事もあったわ」

「かていの話なのだけれど。トオサカのお屋敷にいるあの男が存在しなかったら、しまいは元よりライダーもキャスターもそうなっていたのかもしれないわね」

「イリヤ。切嗣のこと聞きたい?」

「いやな話は聞きたくないわ。でも。いい話なら聞いてあげる」

「今日は月が綺麗だから縁側で。毛布と何か飲物を用意するわね」

「わたしにお話をするって務めがあるんだから、マイヤはわたしをエスコートするべきね。セラ。お茶を用意をして。わたしたちは夜のお茶会をはじめましょ」

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