Fake/Another apocrypha after 作:ハトスラ
「よう。きたか」
マウント深山商店街。その通りの中心に一人の影。
赤い髪と赤い瞳。控えめな装飾が施された青い軽鎧と、左腕に銀色の籠手。右手に緩く握るのは、槍としてはやや短めの鈍色の槍。
騎兵の英霊。サーヴァント・ライダー。
時刻は深夜十二時前。まさに日付が変わる直前だ。
昼間の児童公園での宣言通り、ライダーは人気の絶えたこの場所に陣取っていた。
「誘っといてなんだが、素直に来てくれるとは思ってなかったぜ。セイバー」
「居場所が割れているのだ。挑まぬ手はあるまい? 勝ち残るつもりならば、どのみち全ての敵は倒さねばならん。ただ、遅いか早いかの違いだ」
ライダーの言葉に、実体化しつつそう答える。
右手に長剣。左手に刃付きの盾。闘志は十分。いつ戦闘が始まっても問題はない。
「いいね。そういうバカみてえなのは嫌いじゃねえ」
にやり、と喜ばしげにライダーが口元を歪めた。ゆらりと槍の切っ先が持ち上がり、セイバーに照準される。
それを受けて、セイバーの方もゆっくりと長剣を構えた。
「さあて、そんじゃあ……、最優のサーヴァントの実力ってヤツを拝ませてもらいますかねえッ!!」
セイバーとライダー。二騎のサーヴァントの激突を遠目で確認しながら、九条は走った。
商店街のほぼ中心で戦いを始めた二騎は、徐々に町の西側────郊外の方へと移動している。夜も深い時間帯だとはいえ、誰かに見つかるかもしれないことを考えると、戦いの場所を移すのは妥当な判断か。
とはいえ、単に移動だけでは済ませず、戦いながらという辺り、九条はどうかと思うのだが。
そして今現在、九条は移動する二騎を追う形だ。
走って、では到底無理なので自転車で。それでも放されていく一方なので、今度からはもっと別の移動手段を用意しようと真剣に思う。
「あー、クソッ! アイツら速すぎる!」
悪態をつきつつ自転車を漕ぐ。前かごの中には双眼鏡が揺れていた。これは児童公園でライダーと接触し、今夜戦いに赴くと決めた時に購入したものだ。
戦闘能力のない九条が、セイバーとともに戦場に赴くのは無理がある。サーヴァント同士の戦いに巻き込まれれば死ぬしかないだろうし、敵マスターとの戦いでもそれは同様だろう。
それはここに来る前にセイバーに言われたことだ。
だが、そんな有様でも九条はマスターだ。聖杯を欲しいと願ったのも九条なのだ。だから戦闘能力が無くても、敵を恐れていても、すべてをセイバーに任せきりにして、家に閉じこもってしまうのは違うと思ったのだ。
戦えないことと、戦わないことは違う。
戦闘力が無いなら無いなりの方法で、セイバーの役に立たなければならない。そしてそのための方法が、この双眼鏡だった。
サーヴァントのマスターになった者に与えられる透視能力。一般人でしかなかった九条にも、その能力が与えられていることは、今朝のセイバーとのやり取りではっきりしている。
ならば今、九条に出来るのは遠目からでも敵の能力を透視して、それをセイバーに伝えることだ。
「セイバー、アイツはお前よりも速い。スピードじゃなくてパワーで勝負しろ」
息を切らせつつそう伝える。念話というものに未だ慣れない九条は、一々声に出さねば、セイバーに意志を伝えられない。声に出していてすら、本当にこの声がセイバーに届いているのか不安になるほどだ。
それでも、セイバーの方がうまくやってくれているのだろう。程なくして『了解した』と短い返事があった。
その頃になると、九条が追う二騎の姿はもうとっくに見えなくなってしまっていた。
だがマスターになったおかげか、幸いセイバーが戦闘していることは感じ取れる。彼らが走っていった方向に意識を集中すれば、なんとなくの距離感を掴むことも可能だった。時間はかかるかも知れないだろうが、これならいつかは追いつける。
自らの従者に追いつくため、学生時代以来の全力立ち漕ぎで、九条は夜の深山町を疾走するのだった。
短槍と長剣がかち合い火花を散らす。
直後、長剣の刀身から尋常ではない魔力が放出された。
「ぐっ!?」
槍を通じて身体の芯まで魔力を叩き込まれる感覚。苦悶の声を漏らしつつ後退。追いすがるセイバーを槍で牽制して距離を測る。
が、こちらへと猛進するセイバーは止まることを知らない。槍を盾で受け流し、勢いそのままにライダーへと長剣を振りかぶる。
「ハッ!」
「なろっ!」
長剣を握るセイバーの右腕。
咄嗟にそれを蹴りつけて斬撃の軌道を逸らす。
ライダーの代わりに路面を捉えた長剣は、舗装されたアスファルトをまるで水しぶきのように打ち上げた。
攻撃を外したせいか、セイバーの動きが僅かに鈍る。その隙を逃すライダーではない。
置きみやげ代わりに数撃見舞うと、セイバーの体勢が整う直前に大きく後退した。
「ったく、馬鹿みてえに突っ込んできやがって。猪とか牛とか、そういう類のケモノかテメエは」
息を整えつつそう言う。
何度ライダーの槍に阻まれようと、愚直なまでに接近し剣を叩き込もうとする戦法。
無論、ライダーを長剣の射程に捉えるには接近するしかないのだが、それにしたって真っ正面から挑みすぎだと思う。少々の傷は度外視して突っ込んでくる姿は、セイバーのクラスというよりはバーサーカークラスのそれに近い。
実際、ここに来るまでにライダーが負った傷は一つもなく、対照的にセイバーの方には細かな傷が増えていた。
とはいえ、
「猪や牛、か。……それは誉め言葉として受け取っておこう」
などとフザケた応えを返すセイバーには、焦りというものが見受けられない。声色にも、表情にも、見た限り体力面でも随分な余裕を残しているといった感じだ。
そしてそんなセイバーの態度の通り、余裕がないのは、むしろライダーの側であった。
確かにセイバーの戦い方は獣的だ。
だが強い。
何度か武器を打ち合わせてわかったことだが、セイバーとライダーとの間には大きな筋力差がある。セイバーの筋力は、恐らくはA判定かそれに準ずるものだろう。対するライダーの筋力はCランクだ。
ここまで筋力値に差ががあると、まともな鍔迫り合いは、まず発生しない。真っ正直に武器を打ち合わせれば、そのまま力で押し切られてしまう。
そうなると、ライダーとしては筋力値以外のステータスで勝負するしかない。
それ故に足────速さによる間合いの調整と手数で勝負をかけていたのだが、傷を度外視したセイバーの強引な突撃の前に、思うように距離を離せない。手数の方にも長剣と盾による
(それに加えて、随分と
セイバーの握る長剣。
ここまでの戦闘で幾度となくライダーの槍を弾き、槍に弾かれたそれは、傷一つないライダーに甚大なダメージを与えていた。如何なる仕掛けか、刃が触れる都度、あの長剣からは膨大な魔力が叩きつけられるのである。
まるで炸裂弾。
『相方』からの情報では、セイバーには『魔力放出スキル』があるとのことだった。が、これはそんなものではない、とライダーは思う。セイバー自身の持つ『魔力放出』ならば、長剣だけでなく盾、もっと言うならばセイバー自身の身体からも魔力を叩き込めていいハズなのである。
にもかかわらず、ここまでのセイバーの攻勢にはその気配は全くなかった。
思うにこれは、セイバーのスキルではなく、あの長剣の持つ能力。『魔力放出スキル』を持つ剣とでも言うべきだろうか。
『真名』を唱えた様子はなかったから、恐らくは利器型に分類される宝具。真名開放型ほどの派手さはないが、少ない魔力消費で確実に戦闘を有利に運ぶ優秀な宝具タイプと言える。
最高クラスの筋力と、その攻撃力を後押しする宝具。ライダークラスの耐久であれば、下手をすれば一撃で倒されてしまうかもしれない攻撃性能だ。
故にライダーは距離を測り続けるしかない。
そしてそんなライダーを捉えるべく、セイバーは多少強引にでも攻めかかってくる。ここまでの戦闘はその繰り返しだ。
足の速さでは適わない。だが、力の強さでは負けない。
セイバーの戦法はそういった、自分の強さと弱さを割り切った戦い方なのである。
「ケモノ扱いが誉め言葉とか、頭沸いてんのかテメエ」
セイバーの軽口に返す言葉にも余裕がない。
自分の強さを知り、どうすれば有利な展開に持ち込むことができるのかを理解している敵、というものはとてつもなく厄介だ。持てる力をその展開の為だけに使う。余計なことに意識を割かない分、付け入る隙がないと言っていい。
ライダーとしては、セイバーがこちらの動きに合わせた戦い方をしてくれた方がまだ戦いやすいのだ。
長剣と刃付きの盾。リーチも形状も全く違う武器を同時に使う以上、小手先の器用さも持ち合わせているだろうに。セイバーは幾度阻まれても頑なに戦法を変えようとしない。
「なに、それらのケモノは英雄を殺し、国を傾ける類のものだと思ったのだが。違ったかな?」
「あん? ああ、そういやそうか」
切り込むタイミングを計りつつそう言ったセイバーに、ライダーの中の英雄としての知識が反応する。
カリュドンの猪。
ミノスの牡牛。
有名どころではこの辺りか。
確かに猪やら牛やらは、怪物並みに人様に迷惑をかける類のケモノである。奴らのしてきたことを考えれば、セイバーに向けた言葉も一応は誉め言葉になりえる。……のだろうか?
そもそもライダーとセイバーでは出身が違うのだし、同じケモノでも連想するものは違っていたかもしれない。
猪。牛。と聞いて、彼が真っ先になにを連想したのかがわかれば、セイバーがどこの英雄かも知れそうなものである。
「……ああ、クソ。現実逃避してんな、俺」
そう吐き捨て、軽く頭を抱えた。
今の思考は、完全に余計なものだ。セイバーの正体を知ることは大事だが、ライダーにとっては現状を打破することの方がもっと重要なことのハズである。
なにせ正体を知ったとて、このままの状況が続くなら、恐らくライダーは倒されてしまう。目前にある脅威を放置して、別のことに思考を傾けるなど、これが現実逃避でなくてなんだと言うのか。
ふう、と一つ息を吐き出して覚悟を決めた。
「やれやれ。このまんまじゃ、負けちまうな」
その言葉にセイバーが怪訝な顔をする。自らの敵が、あっさりと敗北を認めたことが意外といった様子だ。
それはそうだろう。ライダー自身、こんなにも早く通常戦闘に限界を感じるとは思わなかった。
「負けを認めるのか?」
「まあな。腹立つことに、今はテメエの方がどう考えても強い」
「ならば────、」
「だからよ。
言い掛けたセイバーの言葉を遮って、ライダーは左腕を掲げた。
途端、頑なに距離を詰めようとしていたセイバーが、それまでとは逆に距離を離す。
「宝具か!」
「使わねえで負けたとか、みっともねえ真似はできねえんでな。出し惜しみは無しだ」
宝具。
英雄の持つ切り札にして、シンボルとも呼べるもの。
その名を明かせば、正体を特定されかねない諸刃の剣。
それでも、このまま負けてしまうよりはずっといい。優先順位を間違えて無様をさらす気は、ライダーにはさらさらない。
故に、ライダーは躊躇なくその真名を紡ぎあげた。
「いくぜ。
夜の冬木教会。
人気の絶え、明かりの落とされた礼拝堂に、一人の男がいた。
年の頃は三十代前半といったところか。神父服に身を包んだ長身の男だ。
男はじっと動かず、熱心に祈りを捧げ続けているようだった。
「おや? 旅人よ、こんな夜更けに我が教会に何のご用ですかな?」
礼拝堂の様子を見に来たノエルは、その男の背後から静かに問いかけた。
ノエルの声に、男が振り返る。
彫りの深いその顔。意志の強そうなグレーの瞳と目があった。
「見ての通り、主へと祈りを捧げていた」
「このような時間にですか?」
「主の懐は広い。どのような時間であれ、祈りは受け止められるだろうさ」
「……それは、そうかもしれませんね」
男の台詞に、少しばかり言葉を濁す。
人々の祈りに応えてくれるかはともかくとして、どのような時でも祈りを受け止めることはしてくれる。彼の存在に対しては、ノエルも男と同じような認識だ。
「それよりも。『旅人』とはどういう意味だ? オレがこの街に来てからそれなりに経つと思うが」
「ちょっとしたジョークです。
というか、一度はスルーしたことを後で蒸し返すのは止めてください。マジ恥ずかしいので」
「そうか」
質問してきたクセに、こちらの回答をさして気にした様子もなく流す。とはいえ、『恥ずかしい』と言いつつ、自分もまた表情にはさしたる変化もないだろうことは自覚している。
ある意味で似た者同士か、と思考して微妙な気分になった。
「どうした?」
「別に、何も。
それよりも、ここに来た本当の理由を教えてくださいますか」
「先ほど言った通りだが」
「わかりました。では質問の仕方を変えます。主に祈りを捧げる他に、何か用事があってここまで来たのではないですか?」
「……」
男が黙る。図星と見て間違いないだろう。
そもそも、この男がここに現れた以上、他に用事がなければおかしい。
「冬木教会は不可侵領域です。そして教会を預かる監督役は中立でなければなりません」
「だろうな」
「それを踏まえた上で、もう一度問いましょう。この冬木教会にいったいなんのご用ですか、神父・テオドール」
先ほどよりも、やや厳しめの声で問いかける。
聖堂教会・第八秘蹟会所属、テオドール・デュラン。それがノエルの目の前にいる男の肩書きと名前であった。
聖堂教会とは、とある一大宗教の裏側に存在する組織である。教義に反するモノを異端として葬り去る、一般人には知るよしもない影の存在。
第八秘蹟会とはその中でも特に『聖遺物の管理・回収』を行う部門である。
そんな組織・部門に所属する男が、聖杯戦争期間中の冬木市に現れた。彼の目的が聖杯であることは明白である。
だが、それはいい。『聖杯回収』を命じられた教会員が冬木に派遣されるのは何もおかしくはない。実際に
だからこその問いかけである。
教会からの派遣員としてや、個人として教会に用向きがあるのならば問題はない。
問題があるとすればそれは、
「個人的な用があるのなら、出来れば日中にお願いします。聖堂教会絡みの用向きならば、今ここで伺いましょう」
テオドールが冬木教会を訪れたのは、今回で二度目。ノエルとの顔合わせも二度目となる。
一月ほど前に行った、一度目の顔合わせは簡単な挨拶だけで終了し、特に問題も起こらなかった。
だが、二回目である今回は別だ。彼の用向き如何では、ノエルは彼にそれなりの処分を行う必要がある。
一呼吸おいて、ノエルはその言葉を口にした。
「サーヴァントのマスターとしてここを訪れたのなら、内容次第でペナルティを与えることになりますが?」
教会を預かるシスターとしてではなく、聖杯戦争を見届ける監督役としての言葉。
そう問題があるとすればそれは、テオドールがサーヴァントのマスターとして教会に訪れた場合だ。
「なに……?」
セイバーは思わず怪訝な声をあげた。
今、ライダーは間違いなく自らの宝具の真名を紡ぎ上げた。
それはつまりライダーの宝具が『真名開放型』だということ。そして真名開放型の宝具は、文字通り『真名を唱える』ことをきっかけとして、その能力を発揮する。その効果は、大概の場合『利器型宝具』よりも絶大だ。
にも関わらず、劇的な変化は起こらなかった。真名の解放とともにライダーの魔力が消費されたようではあったが、今のところセイバーに害を及ぼすようなことは何も起きていない。
だが、セイバーが怪訝な声を漏らしたのは、それが理由ではなかった。
劇的な変化は何も。即、こちらを脅かすような変化もなし。
それでも、変化自体がなかったわけではない。
「溶けた……?」
口を突いて出たその言葉。その言葉通り、ライダーの左腕が溶けた。
否、左腕に装備されていた銀色の籠手が、まるで飴細工のように溶けて落ちたのである。
ライダーの左腕をしたたり落ちるそれは、もはや籠手などではなく、ただの液体だ。元の形を想像も出来ないほどに変形して、ライダーの足下に銀の水溜まりを作る。
真名解放直後に起こった籠手の変化。
この籠手がライダーの宝具と見て間違いはない。
だが、籠手を切り札にした英雄?
そも、アレは本当に籠手か?
真名解放によって形状が変化したというのなら、今の液体状のものが本来の姿なのではないか?
だいたいアレはいったいなんなのだ?
様々な疑念が沸いては消えていく。
セイバーが当惑した理由はそれだ。
今の形状から、どのような用途で使う宝具なのかまるで想像もつかない。
そんなセイバーの警戒をよそに銀の籠手は完全に溶け落ち、その体積のすべてを銀色の水溜まりへと変えた。
いや、『体積すべて』というのは語弊があるかもしれない。なにせ、水溜まりの大きさは、籠手一つを溶かした程度では作れないほどのものだ。察するに、小さなバスタブくらいなら余裕でいっぱいにできそうな量である。
「どうした、さっきみたいに攻めてこねえのかよ? 面食らうのもいいが、あんまり悠長に構えてっと……」
言いつつ、ライダーの鈍色の槍が銀の水溜まりに触れた。
直後、鈍色の槍は切っ先から銀色へと染まっていく。その変化に合わせて銀の水溜まりはその面積を減少させていった。
────籠手だったものが槍に吸い上げられている。
その推察と同時、
「……死ぬぜ?」
銀の水溜まりを飲み干した槍が、猛然とセイバーに襲いかかった。
「……!」
銀の短槍。
切っ先がかすんで見えるほどの突き込みを、咄嗟に盾で受け流す。
そのまま一歩踏み込んで、長剣での反撃。
……は、引き戻された槍に阻まれた。剣圧に押されたライダーが後退する。
開いた距離を詰めるべく、セイバーはさらに前へと踏み込んだ。
ここまでの展開は、先ほどまでと同じ。
このまま同じことを続けるのなら、ここからの展開もさほど変わらない。間合いを広げようとするライダー相手に、セイバーがひたすら間合いを詰めるだけ。
だが、宝具を解放した以上、そんな間抜けな展開で終わるハズもない。
詰め寄るセイバーを前に、ライダーが槍を構えた。
そのままセイバーに向かって横薙ぎに槍を振るう。
間合いとしてはセイバーの長剣の外。さらに言えば、
────目の前を通り過ぎるだけの槍をやり過ごして、引き戻しの隙に長剣を叩き込む。
一秒未満で下したその決断はしかし、それと同速で却下させられた。
「ぐっ!?」
思わず苦悶の声が漏れる。
セイバーの眼前を通り過ぎるハズだった槍は、なぜかセイバーの顔の真横にあった。
咄嗟に差し込んだ長剣が間に合っていなければ、今頃セイバーの顔は綺麗に吹き飛ばされていただろう。
「チッ、防いだか」
舌打ちとともに、ライダーが槍を引き戻す。
僅かに後退しつつ、今度は連続突き。
こちらの手数を上回る突きを、剣と盾の両方を使って対応する。
そうして要所を守りながら、思い返すのは先の薙ぎ払い。
(目測を、誤った……?)
単純に考えればそれだ。
だがセイバーとて英霊の端くれ。生死のかかった戦いで、間合いを見誤ることなどそうは考えられない。
だとすれば、これがライダーの宝具の能力か。
「武器の射程を伸ばす能力、か」
「かもな」
余裕の表情で返すライダーとの間合いは、やはり宝具解放前と比べて一歩分────いや二歩分ほど離れている。
その確認の直後、ライダーがさらに間合いを離した。
にも関わらず、ライダーの槍は問題なくセイバーへと到達し続ける。
やはり見間違いなどではない。ライダーの槍は間違いなく伸長している。短槍の射程は、今や長槍といっても差し支えないほどだ。
「むぅ!」
間断なく襲いかかる槍を捌きながら唸る。思うように距離を詰められない。
射程の変化に伴って、ライダーの戦法も変化していた。
足の速さと絶妙な間合いを使った突き主体の戦法から、長大な射程を活かし、向かってくる敵を払う迎撃主体の戦法へと。
槍使いの常道とも言える戦法は、基本的であり剣士に対して効果的だ。なんといってもリーチが違いすぎる。
セイバーとしては何とか距離を詰めたいところだったが、迂闊に懐に飛び込ませるほどライダーも甘くない。
優先順位が、傷を負わせることよりも、近づけさせないことに切り替わっている。今まで通り、多少の傷は無視するにしても、うまくいかなければ払われてまた距離を離されるだけだ。
「ハッ、随分苦しそうだな!」
吼えるライダーの槍が、次第に回転数を上げてゆく。リーチが伸びているにも関わらず、ライダーの攻撃速度はまるで衰えを見せない。
加えて、信じられないことに槍のリーチは伸び続けている。一撃ごとジリジリと下がるライダーとの距離は、すでに宝具解放前の三倍ほどだ。
伸びしろの限界が見えない槍もさることながら、それだけ長大になった獲物をなんの問題もなく振り回す技量に感嘆する。
「この技量……! ランサーでも通用するだろうに!」
「そいつはどうも。けど、俺は槍使いじゃねえんで……、なッ!」
「ぐっ!?」
連続する薙ぎ払いの中、唐突に差し込まれた突きをなんとか盾で受け止める。
十分な速度の乗った突きは、防御の上からでもセイバーに衝撃を与え、両者の距離をさらに開いた。
「そうらッ!」
僅かに体勢の乱れたセイバーの、その首を刈り取る軌道で槍が振るわれる。
咄嗟に身を伏せ回避。銀閃は、セイバーの髪を数本引きちぎっただけに終わった。
攻撃を外したライダーがすぐさま追撃にかかる。
振り下ろした槍を、直前の軌道をなぞるように振り上げ、再びセイバーの首へ。
それを、
「ここだ!」
「何ッ!?」
剣と盾の両方を使って、力業で地面へと押さえ込んだ。
「テメエ……」
地面と武器との間に挟まれた槍は、そこから抜け出そうとするもののビクともしない。そういう力のかけ方を、セイバーはしている。
武器を押さえつけたままジリジリとライダーに接近する。伸びる槍は確かに厄介だが、そもそも振るわせなければ問題ない。このまま間合いに入ることさえ出来れば、勝ちの目も見えてくる。
「……とか、思ったか?」
「なに……?」
不穏な言葉の直後だった。
セイバーの武器をすり抜けるようにして、銀の槍がセイバーの肩を強かに打つ。
痛みと混乱の中、セイバーは反射的に距離を取った。何が起こったのかはわからないが、わからないまま今の位置ではやられる。
「なっ!?」
後ろに下がりながらセイバーの目が捉えたのは、まるで蛇のようにしなる銀の槍。否、これでは槍というよりも鞭だ。
「言ったろ? 槍使いじゃねえ、ってな!」
縦横無尽に動き回る銀色の鞭が、後退するセイバーに容赦なく襲いかかる。
なるほど。セイバーの武器をすり抜けてきたのは、この柔軟さか。確かにこれほどの柔軟さなら、押さえつけておくことは不可能だろう。
ライダーの宝具の能力は、どうやら『武器のリーチを伸ばす』ことではなく『武器の変形』にあるらしい。
銀の嵐を捌きながら、そう思考して、そしてこのままでは勝てないと悟った。
槍の軌道ならともかく、これほど自在に軌道が変わる鞭では防ぎきれない。セイバー自身、防戦がそれほど得意ではないことと、こちらの反撃が届かない距離なことも相まって、時間かければかけるほど不利になるのは明白だった。
(やるしか、ないか)
こちらが死ぬ前に、全力の一刀を以て斬り伏せる。
当たり前といえば当たり前の行動に、全力を傾ける決意を固めた。
「いくぞ、ライダーッ!!」
「!」
左腕の盾を思い切り投擲する。
剣と盾の両方を使ってすら防げぬライダーの鞭。当然、盾の守りを失ったセイバーでは対応できない。盾を失った左半身を、ライダーの鞭が強かに打ち据える。
血肉が飛び散り、痛みで視界が明滅した。
先ほどまでのかすり傷とは訳が違う。正直バカに出来ない損傷だ。
だが、ここで倒れる訳にはいかない。倒れそうになる身体をぐっと堪え、前へ。
前方ではライダーが再び鞭を振り下ろすところだった。
対象はセイバーではなく、セイバーが投擲した盾だ。
そう。セイバーがライダーに近づけるタイミングがあるとすればここだけ。
「うおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」
獅子吼を上げてライダーへと肉薄する。
刃付きの盾が銀の鞭に絡め取られて落ちた。
だが盾は、ライダーへと接近する隙を作る、という役目を全うした。後はセイバーが剣を叩き込むだけ。
盾を弾いたライダーがセイバーの迎撃体勢へと入る。
蛇のようにうねる鞭が、目を見張るほどの速さでセイバーへ襲いかかった。盾と同じくセイバーを弾くためのカウンター。
セイバーの長剣か。
ライダーの鞭か。
ほぼ同時にお互いの身体へとぶち込まれる攻撃は、しかし、
「ダメだ!
意志をもって紡がれた声で中断した。
「!?」
膨大な魔力の奔流と同時、セイバーの意志とは無関係に身体が動き、ライダーの目前で横合いに転がっていく。二転、三転と転がり立ち上がった時には、すでに長剣の間合いから随分と離れてしまっていた。
今の声は、セイバーのマスターのものだ。商店街からここまで、どうにか追いかけてきたらしい。
そして確認するまでもなく、たった今、彼は令呪を使った。サーヴァントのマスターにのみ許された、たった三回の絶対命令権。その一画を、セイバーの攻撃を中断させるために使い捨てたのだ。
だが、咄嗟に喉まで出掛かった文句は、ライダーの姿を見てそのまま消えた。
「チッ、邪魔が入ったか」
言い捨てるライダーの目前。ほんの少し前までセイバーが立っていた地点が銀色の針で埋め尽くされている。
果たして剣山という表現で足りるかどうか。
足下はおろか、前後左右から無数に伸びる銀の針は、遠目に見る分には美しい花のようにも見える。
だが、実際にその凶器を向けられた者としては、嫌な汗しか浮かばなかった。あのままライダーを攻撃していれば、今頃あの銀の針に蜂の巣にされていたハズだ。
令呪を使われなければ、死んでいた。
その事実に、生唾を飲み込む。
そんなセイバーの前で、銀の剣山はどろりと形を崩した。無数の針から一転、銀色の水溜まりに。既知の光景に目を見張る。
「その宝具。変形だけでなく、分裂も出来るのか……」
ライダーの足下に出来た銀の水溜まりは、ライダーの持つ武器が今の形になる前に見たものと同じものだった。これもまた、ライダーの宝具の一部とみて間違いない。
とすれば、ライダーの宝具の能力は伸縮、硬化、柔軟といった『変形』の能力の他に『分裂』の機能を備えていることになる。
おそらく鞭でセイバーを打ちつつ、接近された時のために自身の足下にいくつか分裂させていたのだろう。鞭で打ち殺せれば良し。殺せなければ、近づいたところを四方から刺し殺す、といったところか。
変形能力も厄介だが、分裂能力も十二分に厄介だ。目の前で獲物を振りつつ、背後から奇襲をかけられる辺り、事前情報がなければ必殺に近い。
そもそも、最初のライダーの挙動から、あの宝具が武器に装着しなくても使えるとは思わなかった。その点も鑑みれば、戦いの運び方について完全に負けていたと認めざるを得ない。
「あーあ。分裂を見せた以上、今ので殺しときたかったんだがなぁ」
そう言ってライダーが鞭と水溜まりを触れあわせると、いつか見たように水溜まりは鞭に吸い上げられて消えた。
「マスターに救われたな、セイバー。素人だと思ってたが、中々。令呪の使いどころを間違わない辺り、アンタのマスター優秀だぜ?」
「……そのようだ。
すまない。助かった、マスター」
前半部分をライダーに、後半をマスターに向けて口を開く。
セイバーとライダーから少し離れた地点に追いついていた九条は、肩で息をしながら、こちらと自身の右手とを見比べていた。
彼の令呪は右手にあったハズだ。自分でも無意識に使用して戸惑っているか、貴重な一画を早々に使い潰して後悔しているかのどちらかだろう。
だが、あの場で彼が令呪を使わなければ間違いなくセイバーは脱落していたのだ。令呪を惜しむ気持ちがないとは言えないが、彼の使用は的確だった。責められるとすれば、令呪を使わざるを得ない状況に持ち込ませたセイバー自身である。
「令呪を使わせてしまったのは私の落ち度だが、おかげで貴公の宝具の能力も見れた。
マスターも見ていることだし、ここから大逆転とさせてもらおう」
「ハッ! 強がるじゃねえか。確かにこっちの宝具はさらしたが、有利なのはまだ俺だ。このままテメエをぶっちぎって、最初の脱落者にしてやんよ」
九条の手前、強がりを口にしたが、現状はライダーの言うとおりだ。彼の宝具能力が『変形・分裂』と分かったとしても、セイバーの不利は変わらない。
それでも、能力を知っているのと知らないのとでは雲泥の違いだ。なにより、この程度の不利を覆せなくて何が剣の英霊か。
曲がりなりにも最優と呼ばれるサーヴァントが、そう簡単に脱落していいハズがない。
ぐっ、と剣を握りしめたセイバーの耳に、マスターの声が届く。
「セイバー! ライダーの宝具は一定の範囲内なら自由に変形と分裂ができる。打ち合うならなるべく弾け!
九条の言葉に、それまでこちらに顔を向けていたライダーが、目を見開き九条の方を振り返った。
「テメエ気付いて……。いや、そうか。元が素人でも今はマスターだ。
サーヴァントのマスターに与えられる透視能力は、文字通りサーヴァントの能力を暴く。
もちろん、そのサーヴァントを一目見ただけで全ての能力を見通すことなど叶わないだろうが、目の前で能力の発動を見せられれば、それがどれほどのものかくらいは判断がつくようになるだろう。
つまりライダーの宝具を間近で見た今、セイバーのマスターである九条は、セイバー以上にライダーの『
「思ったよりマスターしてんじゃねえか。ウチのにも見習わせたいぜ、まったく。
けどまあ、さっき言った通りだ。能力が割れようが、こっちの優位はまだ変わんねえぞ」
身構えつつ、ライダーが言う。
状況を見れば、どちらが押されていたかは明白だ。ライダーの言葉が正しいことくらい、セイバーのマスターもわかっているだろう。
それでも。
「セイバーは、負けない」
九条は、そんな言葉を口にした。
それは信頼だろうか。願望だろうか。それとも他の何かだろうか。
セイバーには彼が何を想っているのかはわからなかったが、彼が何を求めているのかはわかった。
ここで負けないこと。
勝つこと。
聖杯を手に入れること。
マスターがそれらを求めているのなら、サーヴァントとしてそれに応えなければ。なにより、彼が求めたものはセイバーも求めているものだ。
こちらの宝具を解放してでも、ここを凌ぎきる。
その覚悟と、その声は同時だった。
「やあやあ! 随分とおもしろいことをしているな。俺様も混ぜてもらおうか!」
反射的に声の方角を見る。
セイバーとライダーの睨み合いを中心として、九条とは対角線上にそれはいた。
右手に長い三叉槍を握った、中性的な美貌の男。少し長めの金髪と、身体を覆う華美な鎧が特徴的だった。
「ランサー!」
サーヴァント・ランサー。
見間違えることなどあり得ない。セイバーを召喚したあの夜、九条はこの男とライダーとの戦いを目撃したせいで殺されかかったのだ。
それに、マスターとしての透視能力が、あれは間違いなくサーヴァントだと告げていた。
筋力B、耐久E、敏捷A、魔力C、幸運E。
筋力と敏捷がかなり高いが、その反動か極端に耐久が低い。セイバーの攻撃力であれば、まともに一撃いれられればそのまま勝ててしまうかもしれない。
だが、それは一対一の場面ならだ。
ここにはもう一騎、ライダーがいる。二騎を同時に敵に回すようなことになれば、そのまま脱落してしまいかねない。
それに、現状でもっともダメージを受けているのはセイバーだ。普通に考えて、三竦みの状況でまず最初に狙われるのは落としやすい敵だろう。
だからこそ、迂闊には動けない。素人考えながら九条はそう思ったのだが。
「テメエ、何しにきやがった」
ランサーとライダー。二騎を警戒して動けない九条たちをよそに、不愉快だ、といった様子を隠しもせずにライダーがランサーに問うた。
対するランサーはニヤニヤしながらライダーの質問に応える。
「サーヴァント同士が出会ったのだ。目的なんぞ決まっていよう?
それになライダー。貴様には昨夜語ったと思うが、俺様の目的は『倒すに値する英雄』を倒すことだ。そこなセイバーとは未だ戦っておらんのでな。俺様が裁定を下すまでに倒されてしまうのも、少しばかり面白くないのだよ」
「相変わらず高い位置からモノを言いやがって。じゃあ何か? テメエはセイバーを助けにきたってか?」
「いいや? 面白くはないが、貴様に倒されるならそれはそれで仕方ないとは思っている。
だがまあ、サーヴァントは俺様自身の手で
漁夫の利を得るつもりだった、とランサーは言う。
実際、セイバーとライダーが戦い終わってから乱入した方がランサー側にはメリットが大きかっただろう。
そしてその場合、おそらく倒されていたのはセイバーだ。先のライダー戦を見る限り、仮にライダーに勝てていたとしても消耗は大きい。ランサーと連戦になればやられてしまっていただろう。
だから、これはむしろチャンスなのだと思うことにする。
少なくともライダーとの決着が着くまでにランサーが出てきたことで、生存の目はゼロではなくなった。どのサーヴァントも迂闊に動けないのなら、隙を見て逃げることもきっとできるハズだ。
そう九条が思った矢先、ランサーの槍がぐるりとセイバーに照準され、そして────、
「そんな訳でな、貴様がどの程度やれるのかを確かめさせてもらおうッ!!」
「!」
三つどもえになれば、どのサーヴァントも迂闊には動けない。
そんな九条の思惑を裏切るように、槍の英霊はライダーには目もくれず、セイバーへと突進する。
高い敏捷値は伊達ではない。九条が瞬きする間に、ランサーはセイバーとの距離をゼロにする。
迷いのない突撃。そこから繰り出される流星のような突き。
九条が警鐘を発するより先に交錯する二体のサーヴァント。
故に、離れる時も一瞬だ。
交錯の瞬間、何が起こったのかを九条の瞳では捉えきれなかった。だが、どちらが勝ったのかはわかる。
突撃の勢いそのままに、ランサーが大きく吹き飛ばされたのだ。元の位置から動かず、剣を振り切って残心しているセイバーを見れば、ランサーが返り討ちにあったのだと自然と知れる。
が、安堵の息を漏らす間もなく、次なる驚愕が九条を襲った。
「いい腕だ! だが、まだ足りんッ!!」
吹き飛ばされたランサーが受け身を取り、再度セイバーへ突撃する。僅かに瞠目したセイバーが迎撃体勢へ。
今度の交錯は、九条の目でもなんとか見えた。
身を捻ったセイバーが槍をかわし、そのまま長剣の一撃。剣は吸い込まれるようにランサーの胸板に叩きつけられ、ランサーを大きく吹き飛ばす。
そう。吹き飛ばす、だけ。
ランサーは平然と、それが当然とでも言うように立ち上がってくる。
「嘘、だろ……」
筋力値A相当のセイバーの攻撃を受けて、死なないどころか傷一つない。
昨夜のキャスターも死にはしなかったが、何らかの痛ようは感じていたようだった。だが、このランサーにはそれすら感じられない。
ニヤニヤと笑いながら「合格だ」などとフザケたことを口にする。
「貴様も俺様に仕止められる価値のある首だぞ、セイバーッ!!」
驚愕の抜け切らぬセイバーに対し、三度目の突撃。
雷光もかくや、という疾走は先の二回よりもさらに鋭い。これが最速のクラス。
その、最速の英霊に銀の鞭が割ってはいる。
「テメエは何度、人の獲物に手を出しゃあ気が済むんだッ!!」
鞭を操るライダーの絶叫。
自在にうねる銀の鞭はさながら蛇か。ライダーの鞭は、長さと速さ、そしてその変幻自在さによって、最速の英霊を捉えようとする。
鞭をかわすランサーの速度が僅かばかり鈍った。
チャンスはここだ、と直感する。
「セイバーッ!」
「わかっている!」
その言葉通り、セイバーはもはや二騎には目もくれなかった。
あっと言う間に九条を抱き抱えると、激突する二体のサーヴァントを残して戦場から離脱する。
セイバーの腕の中、九条が見たのは二騎のサーヴァントの攻撃が、お互いを貫くところだった。
「チィ、痛ってぇな。ちくしょう」
悪態を吐きつつ、貫かれたわき腹を押さえる。
致命傷は避けたが大ダメージだ。こちらの宝具をかい潜りながらこれとは。尊大な態度は甚だ気に入らないが、サーヴァントとしてこのランサーは侮れない相手だと認識する。
セイバーとそのマスターには逃げられたようだ。
この場に集まったサーヴァントの中で、最も消耗が激しかったのはセイバーだ。二騎から狙われるかもしれない状況を見れば、それが正しい判断だろう。
セイバーに逃げられたのは残念ではあったが、ライダーの中での優先順位はランサーの方が上だ。
このサーヴァントに横槍を入れられるのは今夜で二度目。この先もこういったことをされては堪らない。
故に、このサーヴァントは出来うる限り最速で倒す。
とはいえ簡単にいかぬだろうこともわかっている。
何せ、相手は『不死』のサーヴァントだ。
英霊────過去に
加えて、不死性を除いた基本性能もライダーと同等かそれ以上。
宝具展開後から『帰還しろ』と命令を送り続けているマスターは、ランサーが現れてからさらに喧しく念話を送っている。
気持ちはわからなくはないが、正直鬱陶しい。
黙ってろ、と念話を送り返して武器を強く握る。最低でも弱点くらいは暴いておかねば気が済まない。
「……?」
と、登場からここまで、気にくわないニヤケ面をさらしていたランサーが真顔になっているのに気付いた。足を止め、傷の具合を確かめていたライダーに、追撃の一つどころか軽口一つ浴びせてこない。
なにやら自分の左肩を凝視したまま、じっと立ち止まってしまっていた。
「貴様……」
苛立ち、というよりはむしろ憎しみさえ滲ませた声色で、ランサーが口を開く。
「この俺様に、傷を……!」
その言葉とともに、ランサーの左腕から血が滴り落ちた。
その光景に思わず目を剥く。
そう、血だ。
アーチャーの矢を眉間にぶち込まれようが、セイバーの長剣を胸板に叩きつけられようが、傷一つなく、ましてや血の一滴たりとも流さなかったランサーが血を流しているのである。
ライダーが受けた傷に比べれば、それこそかすり傷程度。幾多の戦場を駆けたであろう英雄にとっては、傷という認識にもなりはしない程度の傷。
それでも、傷を負うのと負わないのとでは天と地ほどの差がある。
傷を負う、ということは、このサーヴァントを殺せる、ということなのだ。
「貴様の宝具。それは不死殺しの……」
今はライダーの短槍に収まっている銀の宝具。それを睨みつけながら、ランサーが言う。
対し、ライダーは鼻で笑った。
「ハッ、こいつが、そんな大層な宝具に見えんのかよ?」
そもそも、
この宝具にはそういう特性はないし、ライダー自身にも『不死を殺した』なんて逸話はない。
よって、ライダーにとっては、どうしてランサーが傷ついたのかがわからない。運が良かった、程度のことしか理由が思い浮かばない。
が、ランサーには思い当たる節があったらしい。自分の身体、もっと言えば、おそらくは彼の宝具に関わることだし、それも当然か。
彼は自分の傷を見、三叉槍を見、続いてライダーを睨みつけ、
「では、そうか……。貴様ァ! 海神の眷属か!!」
激情とともに声を荒げ、ランサーがライダーに向かって突進してくる。
「!?」
否。突進しようとして、不自然な止まり方をした。
「くっ、令呪を……!? マスター風情が、俺様の戦いを邪魔立てするか!」
虚空へと向かって、ランサーが吼える。
どうやらマスターに令呪を使われたらしい。おそらく命令内容は『撤退しろ』という類のものだろう。ランサーのマスターは、ランサーを傷つけられるライダーの存在を危険だと判断したわけだ。
それはつまり、先ほどランサーを傷つけられたのは偶然でも運でもないということ。
ランサー自身の語ったことを参考にするのなら、ライダーが『海神の眷属』であることが大いに関わっているらしい。
ともあれ、ライダーとしてはランサーを逃がすつもりなどない。
今のままでもランサーの不死性を破れるというのなら、このサーヴァントはここで倒す。出来うる限り早めに、と先ほど決めたばかりだ。
「悪りぃが逃がす気はさらさらねえぞ」
「俺様とて逃げる気はさらさらないわ! だが、令呪の縛りがあっては満足に戦えもせん。仕切り直しはさせて貰う!」
言うが早いか、ランサーが撤退に向けて逃走を開始した。
ライダーもランサーを追うが、徐々に引き離されていく。
さすがに最速のクラス。ライダーも足には自身があるが、単純な走力では追いつけない。
だが、ここはまだ宝具の射程内だ。
逃げるランサーの背に向けて槍を照準。走る速度は緩めないまま、一気に武器の射程を伸ばす。
流星の如く伸びていく槍が、一息で離れていた距離を埋め尽くし、ランサーの背に突き刺さる。
その直前であった。
ランサーの逃走方向とは別の方角から、風切音とともにライダー目がけて何かが飛来する。
これがただの物理攻撃であったなら、ライダーとて無視もしよう。だが、飛来物に微力でも魔力の気配を感じ取ったライダーは、咄嗟にそれを迎撃してしまった。
結果、飛来物の迎撃に割いた一瞬の隙をつかれて、まんまとランサーには逃げられてしまう。槍兵の姿は、もうライダーには視認できない。
たとえ視認できたとしても、すでに宝具の射程外だったろう。あの速度で逃げ続けられては、もう追撃はかけられまい。
「チッ、ランサーのマスターか? やってくれる」
吐き捨てつつ、迎撃した飛来物に目を向ける。
サーヴァントの膂力で容赦なく破壊されたそれは、元々は剣だったのだろう。バラバラになっていても、それに柄と刃があったことくらいは読みとれた。
セイバー、ランサーと戦って脱落者はなし。
こちらは宝具をさらし、向こうは令呪を一画ずつ消費した。
悲観する結果ではなくとも、誇るような結果でもない。
微妙に消化不良の気分のまま、ライダーもまた拠点へと足を向ける。
今宵の戦いはここまで。
次に会ったときランサーは殺す、と決めたライダーの脳内に『黒鍵……』と呟いたマスターの念話が響いた。
一日目終了時点
【セイバー陣営】残り令呪2
【ランサー陣営】残り令呪2
【アーチャー陣営】残り令呪3
【ライダー陣営】残り令呪3
【アサシン陣営】残り令呪3
【キャスター陣営】残り令呪3
【バーサーカー陣営】残り令呪3
※どいつもこいつも真名隠す気ない問題。
っていうか隔月とか言いながら、二ヶ月半以上かかってしまった。もし、お待ちいただいてる方がいたのなら申し訳ないです……。仕事、仕事が忙しいのが悪かったんや……。
と言いつつ、FGOやってますが。楽しいですね、グランドオーダー。
ヘラクレス使ってイリヤ気分を味わってます。バーサーカーは、強いね。
もし誰かフレンドになってくれる奇特な方がいらしたら、フレンドになってやってください。
あとなんていうか、早速ここのサーヴァントとFGOのサーヴァントがかぶりました。
まあ、ですよねー。という心境。
が、気にしない方向で一つ。この辺の問題については考えても仕方ないところあると思いますし。どうしてもこじつけるなら、別側面?
でも正直、うちのキャスターがあの感じで被るとは思ってなかった!
アサシン:被った!
キャスター:なんか被ったって言っていいのか微妙な被りかたした!
ライダー:あの魔獣、ボスクラスのお供につけちゃダメだろ!
この辺はまた、余裕ある時にでも活動報告に書こうかと思います。あとフレンドIDも。
【CLASS】セイバー
【真名】???
【マスター】九条 レイジ
【宝具】
『???』
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1~4
最大補足:1人
獅子の意匠が施された盾。
装備中は装備者の対魔力をワンランクアップさせる。
また、縁が刃となっており武器としても使用が可能。真名解放によりその切断力を向上させる。
『???』
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1~2
最大補足:1人
所有者の魔力を喰らうことで、刀身に魔力を帯びる長剣。
刀身の魔力はインパクトの瞬間に放出され、斬撃の威力を上昇させる。いわば疑似的な『魔力放出スキル』を持つ剣。
【CLASS】ランサー
【真名】???
【マスター】???
【宝具】
『???』
ランク:B
種別:対人(自身)宝具
レンジ:ー
最大補足:1人
あらゆる攻撃を無効化するランサーの肉体。
ただし海神系のルーツを持つ者には、この宝具の無敵性は発動しない。
【CLASS】ライダー
【真名】???
【マスター】レオン・モーガン
【クラス別スキル】
対魔力:D
騎乗:A+
【固有スキル】
神性:D(B)
神霊適正を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
本来、ライダーは高い神霊適正を持つのだが、現在はランクダウンしている。
【宝具】
『
ランク:C++
種別:対人宝具
レンジ:1~12
最大補足:1人
意志を読みとる液体金属。
普段は籠手として担い手の腕に装備されているが、真名解放で液体として解放され、敵に襲いかかる。担い手の意志に応じてあらゆる形状に変化させられる他、武器へと装着することで武器のレンジを調節することもできる。
※ところでここまで読んでくださった方の中で、前半はセイバーがライダーを押してたってことを覚えてる方がどれほどいらっしゃるだろうか……