Fake/Another apocrypha after   作:ハトスラ

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二日目 海の夢とハンバーガー

 冬木市を大きく東西に分断する未遠川。その川には、東西の住人がお互いに行き来できるよう大きな鉄橋がかかっている。

 冬木大橋。

 片側二車線。歩道と車道を別の段にすえた、赤い色が特徴的な鉄橋は、先日のサーヴァント戦の舞台となった場所だった。

 

 セイバーとアーチャー。その二騎相手に互角以上の戦いを見せたバーサーカー。

 三体の英霊がぶつかり合い、破壊の限りを尽くした鉄橋は、それは無惨なありさまであった。

 

 

 ────昨夜までは。

 

 

 それからおおよそ丸一日。現在の冬木大橋には破壊の痕跡すら見受けられない。

 人の往来が激しい日中になんの騒ぎもなかったことから、一日どころか夜明けまでのほんの数時間の間に橋の修復は完了したのであろう。

 

 その冬木大橋の車道に一人の女が立っていた。

 

 時刻は午前二時に差し掛かろうかというところ。深夜帯の鉄橋にはその女の影しかなく、その他には車はおろか人っ子一人見あたらない。

 

 女は、美しかった。

 

 鉄橋に吹き込む風に弄ばれて、女の肩までかかる金髪が揺れる。街灯に照らされ浮かぶシルエットは、服の上からでも艶めかしい曲線を描いているのがわかった。

 

 女が一歩踏み出す。

 だが向かう先は新都と深山町のどちらでもなかった。踏み出したのは欄干側。つまり橋を渡ろうとするのではなく、川に向かって一歩踏み出したのである。

 そのままふらふらと欄干に到達した女が、川をのぞき込む。

 夜明け前の未遠川は暗く、黒く、底など到底見渡せそうもない。川というよりも、闇そのものといっていい暗さであった。

 

 女の目が細められる。睨むというよりは、なにか懐かしいものを見るかのように優しげに。

 

 やがて女は深く息を吐き出し、次の瞬間、欄干をよじ登って、そのまま宙に身を踊らせた。欄干を蹴った彼女が、重力に従って川へと吸い込まれていく。

 

 一人の目撃者ないまま橋から飛び降りた女は、やはり一人の目撃者もないまま闇の中へと消える。

 

 ざぶり、と人が落ちる水音だけが後に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海が好きだった。

 

 朝日を反射して煌めく海が。

 

 晴れ渡った日に、どこまでも見渡せそうな広い海が。

 

 夕暮れ時に、空と同じ色に染まった海が。

 

 静かな夜に、波の音を聞かせてくれる海が。

 

 

 海が好きだったのだ。

 

 

 海岸線を歩くのは日課だった。

 晴れていれば良し。

 曇っていても良し。

 雨が降っても良し。

 さすがに嵐の日はまいってしまったけれど、普段見ている穏やかな表情以外を知れる気がして、無理して何度か歩いたこともあった。

 

 

 それぐらい海が好きで、けれどもう、今はわからなくなってしまった。

 

 

 何故、自分だったのか。

 暴威。

 暴力。

 理不尽。

 訳の分からないうちに受けたのは、そういう仕打ちで。

 

 きっとその時に人間としての『私』は死んで、英雄としての『俺様』は完成した。

 

 

 

 

 ────欠けた夢を見た。

 

 

 

 

 薄暗い拠点の中で目を覚ます。

 睡眠時間は二時間といったところか。

 

 浅く息を吐いて、自身の身体状況を把握。次いで周辺状況に異常がないかを把握し、身を起こす。

 体感での睡眠時間は、やはり正しかったらしい。

 拠点の外はまだ暗く、空には星が瞬いている。日付こそ変わっているものの、未だ深夜と言っていい時間帯だ。

 

「ランサー。そこにいるな?」

 

 自分の従者にそう声をかけると、ほどなくして暗がりの中から一人の男が現れた。

 

「ああいるとも。マスターの守護はサーヴァントの役目だからな」

 

 サーヴァントとして殊勝な言葉を紡いだのは、華美な装飾の施された鎧に身を包んだ、中性的な美貌の青年。

 サーヴァント・ランサー。

 つい数時間前、セイバーとライダーの一騎打ちに割って入ったサーヴァントその人である。

 

 その彼の顔は、発した言葉の内容とは裏腹に、不満げに歪んでいた。

 

「……先ほどの撤退。まだ引きずっているのか」

「当然だ」

 

 間髪いれずに返された答えに、思わずため息が漏れる。想像通りといえば想像通りの反応だ。

 それほど長い時間を共にした訳でもないが、このランサーの性格はなんとなくわかってきた。

 

「召喚された直後にも言ったが、俺様の望みは『倒す価値のある敵をすべて殺して聖杯を穫る』ことだ。

 あのライダーの首には、俺様に倒される価値がある。それを……」

「知っている。

 だが、こちらも言ったな。オレの望みは『確実に聖杯を確保する』ことだ。そのために危険度の高い相手は避けるべきだと判断した」

「俺様が奴に遅れをとると?」

 

 ランサーの身に纏う空気が変わる。

 こちらの言葉にプライドを傷つけられたらしい。返答次第ではマスターであろうと許さぬと、言葉はなくともその気配が告げている。

 

 対し、こちらは特に気負わずに正直なところを口にした。

 

()()()

 

 ランサーの整った眉が、訝しげに寄せられる。

 

「お前とライダー。どちらが格上なのかは、オレなどより戦ったお前が一番わかっているだろう。

 だが、奴はお前に傷をつけられる。戦闘を避けるには十分な理由だ」

「その程度のことで戦闘を避けるか。

 随分と臆病なマスターもいたものだな。ええ? テオドール?」

「なんとでも。

 お前の最大の武器はその『無敵性』だ。それを無効化されれば強みを失う。こちらの強みを捨ててまで、奴に付き合う義理はない」

 

 ライダーの相手はバーサーカー辺りにでもさせておけばいい、と付け加えてテオドールは手を振った。この話題はこれでおしまい、という意思表示だ。

 

 が、やはりと言うべきか。ランサーの方はそれではおさまりがつかないらしい。

 とうとう槍まで持ち出して、彼はテオドールへと詰め寄った。

 

「その物言い、気に食わんな。

 確かに俺様の最大の武器はこの身体だが、それだけと言われるのはおもしろくない」

「仮にもアルゴー船の英雄にそれだけとは言わん。いざとなれば奴と戦闘もさせる。ただ、今その必要はない、というだけだ。ライダーが最後まで残ったのなら、好きにしろ」

「それまでは奴と戦うな、と? 実際に戦闘を行うのは俺様だぞ?」

「そうだな。だが勝手なマネをするなら、こちらにはコレがある」

 

 言って、左腕にある令呪を見せつける。

 赤い幾何学模様を描くそれは、ランサーに言うことをきかせたために既に一画分が消失していた。

 

「フン、令呪の威力は身をもって知ったがな。令呪をチラつかせて言うことをきかせようとする窮屈なマスターを、サーヴァントが見限るとは思わないのか?」

「考えないでもないが、オレを裏切るには時期尚早だぞ。脱落サーヴァントがいない状況ではぐれサーヴァントとなれば、まず消滅は免れまい。

 それに一画残しておきさえすれば、お前の裏切りも止められる」

 

 サーヴァントとマスターとは、利害と令呪に寄って繋がれた主従の関係だ。

 それでも、令呪の存在があればサーヴァントを制御できるというテオドールの言葉は、事実ではあってもお互いの関係にヒビを入れかねない発言である。

 

 実際、下降気味だったランサーの機嫌は、この言葉でさらに悪くなったようだった。

 

「ほぅ。令呪か俺様の槍、どちらが速いか、試してみるか?」

「試したいのなら好きにするがいい。

 だが忘れるな。マスターなくしてお前たちサーヴァントは存在できない。一時の感情に任せてオレを殺せば、お前も消えるぞ。

 お互いの究極的な目的が聖杯の入手である以上、この場での決裂は無意味だろう」

 

 剣呑な言葉にそっけなく事実だけを返す。

 

 しばらくそのまま主従で睨み合った後、忌々しげに舌打ちしてランサーが槍をおろした。

 これで今度こそこの話題はおしまいである。いや、この場合は保留といった方が正しいか。

 

「それよりも、だ。傷の治癒……、いや『宝具の修復』は済んでいるのか?」

 

 ランサーの手元から槍が消えるのを確認してから問いを投げる。

 テオドールの問いに、ランサーは呆れた顔を見せた。

 

「無論だ。でなければ、こうして貴様の前に姿は見せん。第一、宝具の修復を命令したのは貴様であろうが」

 

 それは、確かにそうだ。

 テオドールは昨夜ランサーを撤退させた後、会話もそこそこに『傷ついた身体の修復』を命じたのである。その点、ランサーがなにを今更、という顔をしているのもわかるのだが……。

 

「ああ。だが事前に聞いていた修復時間よりも短い上に、オレの魔力がそれほど食われていない点が気になってな。まだ夜明け前だろう?」

 

 テオドールが気になったのはこの辺りのことであった。召喚後に行ったランサーの性能把握と、今の状況がかみ合わないのである。

 最初のランサーの自己申告通りならば、宝具の修復には早くて二日。テオドールが要求される魔力も、平時ランサーを運用する時の数倍は必要なハズである。

 

 よって二日間は極力身を潜めつつ、テオドール単身で偵察を行う予定であった。とりわけランサーの宝具を貫けるライダーの情報は最優先で集める必要がある、とそう考えていたのである。

 

 にも関わらず、ランサーは数時間程度で完全回復して、なおかつテオドールが普段以上に魔力を消費している様子もない。

 

 そんなこちらの疑問に、ランサーは「なんだ、そんなことか」と呟いて、一瞬、遠い目をした。

 

「この街には、海があるからな……」

「……そうか」

 

 それだけで納得する。

 と、同時にランサーになんと返答してよいのかわからず、テオドールは口を閉ざした。

 

 しかし微妙な気分となったこちらとは違い、ランサーはあっさりとしたものだった。

 彼は指を立てると、質問へのお返しとばかりに問いを投げ返す。

 

「さて、ではこちらからも質問だ。昨夜、貴様は教会に行くと言っていたが、結局なにか成果はあったのか?」

「別に、めぼしい成果はなかったな」

 

 同じ聖堂教会に所属するものとして何らかのサポートを受けられないか。

 

 まずもって無理な申し出は、予想の通りに却下されたのだった。

 今回の監督役であるノエルは年端もいかない少女ではあるが、『中立の監督役』という職務には忠実なようである。

 不穏当な発言をしたテオドールを、今回だけは、と見逃した辺りは甘いと言わざるを得ないが。

 

 そういう訳で教会に赴いた成果はなし。

 ダメで元々、もしも利用できれば儲けもの、程度の心境ではあったので大した痛手ではないが。

 

 そう告げると、ランサーは呆れたような、あるいはバカにしたような表情でこう言った。

 

「俺様のマスターともあろうものが、自分の同僚の協力も得られんとは。情けないにもほどがあろう? で、俺様を撤退させるまではアレか。年端もいかぬ小娘と、呑気に世間話でもしていたのか?」

 

 ランサーの言葉に言いたいことはいくつか浮かんだが、どれも詮無いことだと切り捨てる。

 それに彼の言葉は全くの的外れでもない。件の監督役と世間話くらいなら確かにした。

 

「そうだな、確かに世間話はした。

 アーチャーとそのマスター。彼らの拠点がどこにあるか程度の、とるに足らない話をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故こんなところにいるんだろう、とレオンは思った。

 

 昨夜セイバー、ランサーとの戦いを終えたライダーを迎えて。

 こちらになんの断りもなく宝具を解放したことを叱責して。

 叱責をのらりくらりかわされ、追及はまた明日となって。

 朝がきて、起こされて、連れ出されて、ここにいる。

 

 時刻は朝の六時前。場所は宿泊しているホテルから十分ほど歩いた大通り。七月も後半に入ったこの時期、太陽はすでに昇ってはいるものの、外出するにはまだまだ早い時刻だ。

 この時間に外を出歩いているのは早朝出勤のサラリーマンや、夜勤明けの同じくサラリーマン。アサレンとかいうものに出かけていく学生くらいのものである。

 

 そんな時間に、そもそも外を出歩く必要もない自分がホテルの外にいる。挙げ句、その目的が外食とは。

 朝食を売りにしているカフェであったとしても、開店は早くとも七時を回ってからだろうに。こんな早朝から食事できる店など、簡単に見つかるハズもない。

 サーヴァントが聖杯から知識を与えられているといっても所詮は古代人。現代人の常識とは相容れないらしい。こんな時間に連れ出して、とんだ無駄足を踏ませてくれたものだ、あのサーヴァントは。

 

 

 ────などと、そう思っていたのだが。

 

 

「……日本人はあたまおかしい」

 

 こんな早朝から食事ができる店のテーブル席に座りながら、レオンの口からは、思わずそんな感想が漏れた。

 

 現在時刻は午前六時十二分。

 

 レオンの思惑とは裏腹に、食事できる店はあっさりと見つかった。

 それも一軒や二軒どころの騒ぎではない。小さく、おひとり様大歓迎といった風な店から、明らかに家族連れを狙っているであろうファミリーレストラン。一見さんお断りのお高そうな店に、カロリー計算の狂いそうなジャンクフード店まで。

 この店に落ち着くまでにレオンが目にした『すでに開店している店』は十軒近くに上る。

 大通りを少し歩いただけでこれなのだ。もう少し真剣に探せば、似たような営業時間の店はいくらでも出てくるだろう。

 

 聞けば、どの店もだいたいは『24時間営業』なのだそうだ。加えて言わせてもらえれば、基本的には年中無休らしい。

 商魂逞しいと言うべきなのか、それとも社畜根性ここに極まると呆れるべきなのか。

 それだけならまだしも、この時間帯にも関わらず、店を利用する人間が一定数いることもまた、レオンには驚きである。24時間営業が成り立つのだからそれも当然のことなのだが、それでもレオンの想像よりもずっと客数が多い。

 

 そういう訳で、周囲の客を見渡しながら紡いだ「日本人はあたまおかしい」は、レオンからすれば至極真っ当な感想だったのである。

 

 

 と、ここでレオンをホテルから連れ出した張本人がテーブル席へと戻ってきた。

 整った目鼻立ちに赤い髪が特徴的な青年は、その手に二人分のトレーを抱えている。

 

「ほれ、アンタの分だ」

 

 差し出されたトレーの上には、ハンバーガーとハッシュポテト。それからコーヒーといった『ジャンクフード店の朝食メニュー』が乗っていた。

 赤髪の青年のトレーの上にも同様の商品が乗せられていたが、あちらはそれぞれの量が三倍はある。

 

 朝からそんなに食べるのか。というかアレだけ店の種類があってなんでわざわざこんなジャンクフード店にした。そもそもお前には食事は必要ないだろ。

 と、一瞬で浮かんだそれらの言葉をどうにか飲み込んで、レオンは赤髪の青年────ライダーへと問いかけた。

 

「ライダー」

「あ? なんだよ、間違えたか。たしかアンタ『ソーセージマフィンセット』って言ったよな?」

「いえ、そうではなく。どうして私を連れて出てきたのですか。食事なら一人でもできるでしょうに」

「どうしてって……、一緒に飯食うのに、むしろ理由なんかいるのか?」

 

 きょとんとしながら自分の分のバーガーを頬張るライダーに、思わずため息が出た。

 

「理由もなくマスターを拠点から引きずり出したのですか、貴方は。今は聖杯戦争中なのですよ?」

 

 無意味な外出でマスターを危険にさらしてどうする、と言外に叱責する。

 だが、やはりこのサーヴァントはこの程度では堪えないらしい。眉根を寄せたレオンを気にすることもなく、平然とコーヒーを啜っている。

 

「いいじゃんか別に。サーヴァントとマスターの親交を深めるってことにしとけばよ。

 ああ、いや。アレだな。ほら、俺だけだと言葉は話せてもどんな商品が出てくるかはわかんねえからよ。それにサーヴァントが出先で問題起こさねえとも限んねえんだから、その監視ってことで」

「どれだけ取って付けた理由ですかそれは。だいたい、それは貴方が出歩かなければ、それで済む問題でしょうに」

「あー、それぜってえに無理」

 

 レオンの指摘に、ライダーは軽く手を振りながら断言した。

 

「仮初めとはいえ、せっかく受肉して現代にいるんだ。楽しまなくちゃ嘘だぜ」

「……貴方は戦いにきたんでしょうが」

「おう。けどな、俺はとっくに死んだ人間だ。そいつが限られた期間とはいえ、『生きた人間のように振る舞える』ってのはやっぱりハメの一つも外したくなるほど愉快なもんなのさ」

「……師父のキャスターは貴方のように遊び歩かずに、工房の制作に取り組んでいるようですが?」

 

 皮肉をこめて身近にいる他のサーヴァントを引き合いにだすと、ライダーは何故だか軽く吹き出した。

 

「あー、アレなあ。アレは参考にはならねえよ。バーサーカーと比較してるようなもんだわ。アイツはもう、だいぶ人間辞めてやがるから。

 ついでに言わせてもらえりゃあ、なるべくお近づきにはなりたくねえ類の生き物だな、ありゃ」

「……?」

 

 彼の言葉の意味を捉えかねて首をひねる。人間を辞めている、というのならばライダーを含むサーヴァント全員がそうだろう。

 

「わかんねえならいいよ。どのみち俺からアイツについては、『あのキャスターには気をつけろ』ってことくらいしか言えねえかんな」

「気をつけろ? 彼とは同盟関係ですが……?」

「それとこれとは話が別だろ? アンタ妙に素直っていうか世間知らずっつうか。見てて不安になんぜ、そういうとこ」

 

 あー、うめえ。とライダーは瞬く間に自らのバーガーを食べ尽くしてしまう。

 微妙に釈然としない心持ちのまま、レオンは手つかずの自分のバーガーを見つめた。

 

「ライダー」

「あん?」

「つまり貴方は、キャスターが我々を裏切る可能性がある、と言いたいのですね?」

「アンタの言う『我々』がどこまでかは知らんが、まあそういうことだわな」

 

 それよりそれ食っちまえよ、とバーガーを指さしライダーがせっつく。

 が、レオンとしては食事の気分どころではなくなってしまった。

 

 ライダーの意見をいますぐに師に伝えるべきだろうか。キャスターが裏切る場合、もっとも危険にさらされるのはレオンの師なのだし。

 しかしライダーの言は、単なる勘や感覚といったものの域をでないようにも思う。そんなことでイタズラに師を不安にさせるのもどうなのだろうか。

 だいたい、ライダーがそう思うようなことくらいなら、レオンの師はとっくに感じとっているのではないだろうか。わかりきっていることをわざわざ指摘する愚かな弟子と思われないだろうか。

 

 いや。しかし。でも。だが。

 

 そのような思考のスパイラルに入ったレオンに、ライダーの冷ややかな声がかかる。

 

「アンタが何考えてるかくらい、なんとなく想像つくが……。いろいろ深く考えすぎだろ。あのジジイには適当に注意しとくくらいでいいんだよ」

 

 悶々とするレオンとは裏腹に、あとは自分でなんとかするだろ。っていうかしろ。と、ライダーは随分と投げやりだ。

 

「サーヴァントが裏切るかもなんて、マスターなら常に考えてなきゃダメなんだしよ。ジジイがキャスターに裏切られて痛い目みても、それは自業自得ってやつだぜ」

「……注意しろと言う割には、随分と投げやりではないですか」

「あ? 当たり前だろ。なんで俺があんなオヤジのこと心配しなきゃならねえんだよ。俺が心配してんのはアンタだアンタ」

 

 わざわざこんな当たり前のこと言わすな、とライダーは片手を振る。

 

「は?」

「は? じゃねえよ。アンタは俺のマスターだが、アンタの師匠は俺にとっちゃどーでもいい他人なんだ。そんなら心配するのはあのオヤジじゃなくて、アンタだろうが」

 

 ライダーの言葉は、サーヴァントとしてはひどく真っ当なものだったろう。ライダーがいくら奔放だとしても、彼がレオンによって維持されているサーヴァントだという事実は変わらない。レオンを失えば消えてしまう以上、彼がレオンを心配するのは当然なのである。

 程度の差はあれ、自分のマスターを心配しないサーヴァントはいない。まして自分のマスターより同盟関係のマスターの心配をするサーヴァントなど、サーヴァントとしてはハズレもいいところである。

 

 だがそれは、まともな主従関係、そしてまともなマスター同士の同盟関係だった場合だ。

 

 レオンとライダー。エヌマエルとキャスター。他の主従がどうかは知らないが、この二組については他とは事情が異なる。

 なにせ、レオンはエヌマエルを勝たせるためだけに聖杯戦争に参加しているのだ。レオンの勝利条件が『エヌマエルが聖杯を穫る』ことである以上、ライダーのようにエヌマエルをないがしろにはできない。

 というか、ないがしろにされるべきはむしろレオンである。最終的にエヌマエルが勝ち残りさえすれば、自分を含めたその他がどうなっても構わない。

 

 その辺りのことは、とうの昔にライダーにも語ってきかせている。

 だからこその「は?」である。

 

「ライダー。私は確かに貴方のマスターですが、私の望みは……」

「『師父を勝たせることです』ってんだろ? そんで『私が死んだら、師父と再契約しなさい』だっけか? 聞いたよ。つか耳タコ」

 

 もしやこのサーヴァントは、その普段のいい加減さでもって、この辺りのことを忘れているのでは? というレオンの台詞は、言い切る前に一字一句間違えることなく、言い聞かせるハズだったサーヴァントに紡がれた。

 

「わかっているのでしたら、優先すべき相手がどちらかなのかもわかるでしょう」

「そーだなー。けど、あのオヤジはどうにも好きになれねえからなー。いや、キャスターの野郎も気に入らねえから、あの主従とは相容れねえな俺」

「ライダー」

 

 諫めるようなレオンの口調に、ライダーは苦笑した。

 

「しゃあねえだろ、こればっかは生理的な問題。ああいう『傲慢』で『尊大』な奴らはどうにも。そういう訳なんで、できればあのジジイのサーヴァントにはなりたくねえなあ。

 ってえか、今はまだアンタ存命なんだ。そんならアンタの心配したっていいだろが」

「別に私の心配をするな、とは言いません。ですが私よりも師父を優先しなさい。それが無理ならせめて私と同列に扱いなさい」

「へいへい。善処させてもらいますよー。

 つか、こんなとこで聖杯戦争の話なんかしてて大丈夫か? 俺は気にしねえけど、アンタら魔術師は人目を気にするんだろ」

 

 気の抜けた返事に加え、唐突に繰り出される今更すぎる疑問。

 より腹が立ったのはどちらの方だったのかわからない。ただ、レオンの堪忍袋も、これにはさすがにブルリと震えた。

 

「それを……、よりにもよって……、貴方が、言いますか」

「なに怒ってんの?」

 

 本当に何もわかっていないような目で、ライダーが問い返す。

 師父よりも自分との方がよっぽど相容れないんじゃないか、と思いながらコーヒーを流し込んで、気持ちを落ち着けた。

 

「そもそも……、いえ不毛ですね。辞めましょう。

 貴方の言うとおりですよ、はい。言うとおりですので、さっさとこんな店からは出て、早く工房へ戻りましょう。工房へ戻って作戦会議をしましょう」

「え、やだよめんどくせえ。それにどうせアンタの師匠が起きるまで待たなきゃなんねえじゃんか。

 それよりおかわりしていいか? あの『ほっとけいき』ってやつ食ってみてえ」

 

 お気楽なライダーの台詞に皺が寄りそうになる眉間をほぐしながら、レオンは大きく息を吐き出した。

 

「師父と作戦のすりあわせを行うのは当然でしょう。先ほども話ましたが、最終的な勝利条件は師父が勝ち残ることです。あとホットケーキは好きにしなさい」

「お、やりい」

 

 ホットケーキホットケーキ。と笑う彼に「ライダー」と釘を刺す。

 

「や、すりあわせはいいんだけどよ。あのオヤジ起きてくるのおっせえんだよ。昨日も昼前まで寝てたじゃねえか。それまでホテルに缶詰とかごめんだぜ?

 呼んでくれたら戻るからよ、それまで外でぶらぶらしてていい?」

「却下です。

 忘れましたか? 昨夜の戦闘についての追及がまだです。宝具の使用について師父の前で納得のいく説明をしてもらわねば。それまで貴方には勝手な行動を慎んでいただきます」

「げえ、マジかよ」

「マジですとも。

 ええ、そうです。思えば貴方を自由にさせすぎていた私が悪かったのです。これを機会に今からでも、もう少し自制させることを覚えさせねば」

「アンタは俺の母ちゃんか。そんな決意に満ちた顔で、子供をしつけるみてえなこと言い出すな。ったく」

 

 嫌そうな表情をしながら、ライダーがメニュー表を手に取った。どうやらホットケーキ以外のものも何かしら頼むつもりらしい。

 対し、レオンは大きくため息をついて、手つかずだった自分のバーガーにかぶりついた。時間経過で冷めてしまっていたバーガーは、思った通り大して美味くもない。

 

「そういえば」

「あん? なんだ、アンタも追加注文か?」

「いえ、そうではなく。……貴方はあのランサーについて、何か心当たりがあるのではないですか?」

 

 昨夜、ライダーは無敵の肉体を持つハズのランサーに傷をつけた。その際、ランサーはライダーのことを『海神の眷属』と言ったのである。

 海神系のサーヴァントなら彼を傷つけられる。そう言ったも同然の台詞であるからして、あのランサーが海神となんらかの関係にあるのは明らかである。

 そうなってくると海神の血を引くライダーが、ランサーについてなにかしら思い当たっても不思議ではない。

 

「まあ、あるにはあるが。え? 蒸し返すのかよ、聖杯戦争の話を。今、ここで?」

「……あ。いえ、すみません。そうですね、これは私が軽率でした。ホテルに戻ってからにしましょう」

「別にいいけどよ。ってか、不死身の槍使いなんて、アンタもいくらかは思い当たるだろうに。ああ後アイツ、多分ギリシャ系な。

 これ以上はホテルで。あのオヤジにも同じ説明せにゃならんから二度手間になるし」

 

 と、ここでライダーは何を食べるか決めたのか、メニュー表片手に座席から立ち上がった。

 そんなライダーを見送りながら、レオンはポツリと思いついた英雄の名前を呟く。

 

「アキレウス……?」

「そんなんとやりあったら、瞬殺されとるわ」

 

 困ったように片手を振って、ライダーがレジの方へ消えていく。

 では『カリュドンの猪』を狩った、あの英雄だろうか。と思考しながら、レオンはライダーの戻るのを待った。




ランサー「アキレウスの小僧と同じに扱われるとかないわー」


素直系ポンコツマスターレオン君の明日はどっちだ!?




※ランサーの真名バレ待ったなし!!
どうも、社畜根性丸出しで執筆どころかゲームやマンガの時間すらないような人間です。帰って飯風呂でもう寝る時間とかあたまおかしい。
や、FGOは休憩中こそこそやってたりしましたが。

以下、FGOのネタバレ含む、いんたーるーど

※いんたーるーどは本編とは別次元の、基本的に本編とは関わりのないお話と思ってください


【いんたーるーど】FGOで遊ぶAAA(Fake/()nother ()pocrypha ()fter)のサーヴァント

騎「お、セイバーじゃねえか。……なんだその小せえの? つか何してんだ?」
剣「ライダーか。これは『すまほ』というものらしい。そして私は今、マスターの命令で聖杯戦争をしているのだ!」

スマホ〈マリョクヲマワセキメニイクゾ

騎「あ? どういうこった?」
剣「うむ。どうやらこの『すまほ』という礼装で『げえむ』というものが出来るらしい」
騎「あー……、つまり聖杯戦争云々はゲームの話か」
剣「ああ。私にもよくわからないのだが、ハロウィンイベントがもうじき終わるから追い込みをかけたいそうだ。だがマスターはバイトでな。バイトでプレイ出来ない時間にクエストを回しておいてほしい、と」
騎「はーん。こっちが味方で、こっちが敵かぁ……。ワイバーンやらカボチャ頭やら珍しいのがいるんだな」

スマホ〈ゼッキョウセヨ!!

剣「なんでもこのクエストで手に入る礼装を手に入れておきたいそうだ」
騎「へえ、礼装とかもあんのか?」
剣「ああ。しかしマスターが欲しているのは期間限定品らしい。5枚集めると礼装がパワーアップするから、期間が終わるまでには集めたいと」
騎「5枚ね。ちなみに今、どのくらい集まってんだよ?」
剣「4枚だ」
騎「なんだ。楽勝じゃねえか」

スマホ〈アニウエニハオヨビマセンネ。デナオシテクダサイ

剣「いや、それがそうでもなくてな。マスター曰く、SSRサバより手に入らねえ、だそうだ」
騎「……言葉の意味はわかんねえが、とにかく甘くねえってことだな?」
剣「甘くねえってことだろうな。実際、私もクエストを回してみて気づいたが、これは出ない。すでに30回は回しているのに出ない」

スマホ〈キエルガイイ

騎「大変そうだな。ま、ぼちぼち頑張れや」
剣「ああ。なんとかサーヴァントとしてマスターの望みを叶えたい」
騎「ところで興味本位で訊いとくんだがよ。サーヴァントにゲームやらしてまで欲しい礼装ってどんなだ?」
剣「確かNPアップと宝具威力上昇効果が云々言っていたな。……ええと、確かこの礼装だ」

スマホ〈ハロウィン・プリンセス

騎「へえ、こいつはまた……」
剣「ああ。言いたいことはよくわかる」
騎「……なかなか」
剣「……ああ」

スマホ〈サイダイカリョクハッキシマス

騎「これが5枚でパワーアップか」
剣「ああ。パワーアップだ」
騎「パワーアップ」
剣「パワーアップ」

スマホ〈ヤミノジカンデアル。チノバンサンデアル

騎「腰の……ラインか?」
剣「いや布面積かもしれんな」
騎「……それは、出ねえな」
剣「ああ、出ない。しかしなんとかマスターのために『ドスケベ人妻』を入手しなければ」
騎「ん? 今『人妻』って言ったか?」
剣「ああ。人妻だ」
騎「人妻」
剣「人妻」
騎「……」
剣「……」

スマホ〈ハンエイハソコマデダ

騎「ないわー」
剣「ソソるな」
騎「ん?」
剣「ん?」

スマホ〈イノチハコワサナイ!

騎「なんだ。お前寝取り趣味があったのかよ?」
剣「いや、別にそういうわけではないが。属性が多いのは単純にいい、と思う。そちらこそ人妻は対象外なのか?」
騎「ま、どんだけいい女でも人のモンだしなぁ。その時点でちょっと萎えるわぁ」
剣「そうか」
騎「おう」

スマホ〈タバネルハホシノイブキ、ウケルガイイ!!

騎「ま、せいぜい頑張れや」
剣「うむ。最善を尽くすさ」

スマホ〈エクスカリバー!!


※結局ハロウィン終わるまでにはドロップしなかったそうな



みなさんは礼装ドロップしましたかー!? 駄狐はきましたかー!?

わたしは、オケアノスに期待するとしますー(ぁ

っていうか、オケアノスギリシャ軍団すぎてわくわくすっぞ。『あの船』が出てきたくらいでここのランサーさんはそわそわしてたと思う。多分出番はないけどな!!

……ないよね? ないと思う。まだ三章クリアしてないから、滅多なこと言えません。
とりあえず姉様と牛君が可愛いです。あれやん? ヘラクレスとイリヤに通じる何かがあるような気がしてなりません。どうでしょう?
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