Fake/Another apocrypha after 作:ハトスラ
「これは……!」
マスターからの念話を受け、キャスターからまんまと逃げおおせたアサシンが見たのは、巨大な高波に飲まれようとする深山町の姿であった。
波から感じるのは、先ほど間近で見た槍の魔力。
とすれば、この大波を引き起こしたのはランサーか。
アサシンが撤退命令を受けた直後に、令呪による強制転移を行使された槍の騎士は、どうやらここに呼び戻されていたらしい。ランサーのマスターはアベルとの戦闘中だったハズだが、劣勢になったことでランサーを呼び戻したのか。
そう判じかけたアサシンはしかし、今まさに飲み込まれようとする町並みにランサー以外のサーヴァントを見咎めた。
赤い髪に鈍色の槍、銀の流体金属を従えるサーヴァント。ライダーの姿である。
ならばこれはもう、魔術師同士の戦いではなくなってしまっていたのだろう。アベルは恐らく、その過程で倒された。
「! アベル殿!!」
地面へと倒れ伏し、血溜まりを作っているアベルを見つけたアサシンは、声をかけつつ彼を抱き起こす。
深山町が津波に飲まれたのはそのタイミングだ。
凄まじい波の圧力によって、未遠川沿岸部分の町並みが一挙に破壊されてゆく。建物、自動車、街路樹、お構いなしだ。破壊の規模を考えると人や動物が巻き込まれていたとしてもおかしくない。
その破壊の波濤を
アサシンの保有する固有スキル『八艘飛び』は、人が体得できる歩法としてはほぼ最上位に位置する。
いかなる地形であっても走力の低下を防ぐ『地形適応』。
戦闘から離脱する『仕切り直し』。
体捌き、呼吸、死角、あらゆる現象を絡み合わせ完成する歩法、『縮地』。
『八艘飛び』は、それらのスキルを内包する特殊スキル。魔力に依らない歩法術の極み。
アサシンのスキルランクはA判定。仙術に片足踏み込んだそれは、限定的ではあっても、歩法による空間跳躍すら可能にする。
先のランサーの対軍宝具を回避できたのは、この『八艘飛び』による空間跳躍よるものである。そして今、町を飲み込む津波を飛び越えたのも、このスキルによるものであった。
『八艘飛び』での最高速度を維持しつつ、あっという間に冬木の街並みを駆け抜けたアサシンは、とうとう自身のマスターの待つ拠点へとたどり着いた。
「マスター! アベル殿が!」
マスターであるお嬢様の姿を見るが早いか、アサシンはアベルを抱き抱えたままで叫ぶ。
腕の中のアベルは、今この時もだんだんと冷たくなっていた。
右腕は切断寸前。頬骨は砕け、全身には裂傷と打撲痕。なによりも胸の中心には深い深い刺し傷がある。
どう考えても致命傷。すでに助かる見込みは薄く、なんなら今のアベルの姿は死体に見えなくもない。
というよりも、数多の戦場で死体を見慣れていたアサシンには、今のアベルは死体にしか見えなかったのだ。
それでも、僅かでも希望があるのなら。さらに言うなら、最悪でもお嬢様がアベルの死を看取れるようにと全速力で拠点まで戻ってきた。
アサシンを出迎えるように拠点の入り口にいたお嬢様は、アサシンとアベルの姿を一瞥すると、こちらへと背を向けて拠点の奥の部屋を指差す。
「落ち着きなさいアサシン。アベルを私の部屋に運んでちょうだい。彼はまだ、助かります」
「! ……はい!」
落ち着き払ったお嬢様の声にそう返事を返して、アサシンはアベルの身体をお嬢様の私室へと運び込んだ。
「ベッドへ」
言われた通り、ベッドにアベルの身体を横たえる。
こうして改めて見下ろしてみても、アサシンにはアベルが死んでいるようにしか見えなかった。
「これから彼の治療を開始します。アサシン、あなたは外に出ていてちょうだい」
白い皮手袋を身につけながら、お嬢様がドアの外を指差した。
彼女の足下には、施術に使う道具が入っているのだろう大きなトランクが置かれている。
「マスター、僕にも何か手伝えることは……」
「ありません」
アサシンの言葉を半ばから遮るようにして、お嬢様は冷たく言い放った。
「魔術に精通しているであろうキャスターのクラスならともかく、アサシンのサーヴァントに出来ることなど、この場にはありません。
それにあなた程の魔力の塊が側にいれば、ただそれだけで私の魔術を阻害する恐れすらあるわ。ですから、出て行きなさいアサシン。あなたはいるだけで邪魔になります」
「……承知」
そうまで言われれば大人しく引き下がるしかない。
実際、彼女の言うとおりアサシンには治療魔術の心得などない。簡単な応急手当くらいならば可能ではあったが、それは傷を誤魔化し治療までの時間を稼ぐことができる程度のもので、ここまで損傷した肉体を治せるようなものではないのだ。
いるだけで邪魔になるのというのならば、アサシンに出来ることは治療の成功を祈って、部屋から────拠点から出ていくことだけである。
やるせない気持ちを抱えたまま、部屋を出てゆく。
「アサシン」
と、背中にかかる声。
扉を閉めようとしたアサシンは、その声に手を止め、視線を向けた。
「……ありがとう。よく、アベルを連れて帰ってきてくれました」
相変わらず視線はこちらに一瞥もくれないまま。
それでも、それまでのどんな声音よりも柔らかな響きで、彼女はその言葉を紡ぐ。
ほんの少しの驚きとともに、アサシンは動きを止めた。
アサシンには主君の気持ちがわからない。
何をすれば喜び、何をすれば怒るのか。
何をすれば期待され、何をすれば失望されるのか。
生前も今も、アサシンにはそれがわからない。
だから驚いた。
自分のことを疎んじているような素振りを見せていたマスターが、こんなにも素直に礼を言ったことに。こんな自分が、マスターから礼の言葉を受け取ることが出来たということに。
「アベル殿を、よろしくお願いします。マスター」
「……ええ。任せておきなさい」
状況は予断を許さないまま。
それでもほんの少しだけ、マスターとの距離を縮められた喜びを抱いて、アサシンは霊体化した。
「戻ったぜ」
そう言って、戦場からの帰還を果たしたライダーが実体化する。
ランサーを一方的に追いつめ、ほぼ無傷の帰還を果たしたというのに、その表情は晴れやかとは言えないものだった。
大方、あれだけ追いつめたランサーに逃げられたことを気にしているのだろう。その程度のことが読みとれるくらいには、レオンもライダーとの対話に慣れはじめていた。
「ライダー、あまり気にしないように」
「あのような場所で対軍宝具を使われたのだ。取り逃がすのも仕方あるまい。生き残っただけでもよしとしたまえ」
レオンの言葉を引き継ぐように、レオンの師匠────エヌマエルがそう続ける。
こちらの言葉に、ライダーは「別に気にしてねえよ」と吐き捨てて、部屋をぐるりと見渡した。
「キャスターの野郎は? まだ戻ってねえのか」
「いや。奴なら既に工房に引っ込んでいった」
「ああ、そうなん? 相変わらずマイペースなこって」
そう言ったライダーが、三人掛けのソファにどっかと座る。彼の言い分も尤もだ。
ライダーに先んじて帰還を果たしたキャスターは、こちらへの報告もそこそこに工房へ引っ込んでしまっていた。一応、彼の戦闘記録はマスターであるエヌマエルの感覚共有と、使い魔による映像記録として残ってはいるが、それにしたって少し報告が雑ではないだろうか。
陣地作成スキルのあるキャスターが工房に閉じこもるのは仕方ないにしても、せめてライダーの帰還を待って、直接情報のすり合わせを行うべきではないかと、レオンは思う。
「キャスターのことは放っておけばいい。アレも最低限の仕事は果たしている」
「その分、俺の仕事が多くなるとかじゃねえよな、それ」
エヌマエルの言葉に、げんなりといった表情でライダーが返す。
それには特に何も返答しないまま、エヌマエルは次の話題を繋いでしまった。
「ランサーに関しては大方の予想通り、キャスターの攻撃も通用するとわかった。こちらには君もいる。アレはもう、それほどの驚異にはならないだろう」
「おいこら、話を聞けよ」
「真名もライダーの予想通りでしょうね。我々はランサーに対して、かなりの有利があります」
「いやだから、オメーら話」
ライダーの抗議を無視して、今日の戦闘でわかったことを再確認する。
その中でレオンは、エヌマエルの起き抜けに行った作戦会議のことを思い返していた。
「カイネウス?」
作戦会議が始まるや否や、ライダーが口にした名前にレオンは首を傾げた。
「おう。カイニスって言った方が通りはいいのか? とにかく、それがランサーの正体だと俺は思うぜ」
などと、ドーナツ片手に言うライダーは自信満々である。たった二度の戦闘にも関わらず、よほどの確信を持っているらしい。
英霊の知識に関して、レオンよりも上の知識量を持っているライダーがそう断言するのなら、恐らくその通りなのだろう。
それはそれとして、レオンだけならともかく、エヌマエルがいる作戦会議中にもこの態度というのは些かいただけない。
レオンはライダーを睨んだが、ライダーはどこ吹く風でドーナツを咀嚼し続けていた。
「ふむ。無敵宝具、三叉槍、海神と関わりがある、か。なるほど、確かにカイネウスならそれら全てに該当するな」
ライダーの告げた真名に、エヌマエルが納得顔で頷く。
その一方で、レオンは微妙な心持ちであった。
「あの、師父」
「なにかな、レオン?」
「その……、カイネウスというのはどういった英霊で?」
残念ながらレオンの持つ知識の中に、カイネウスという英霊は存在しなかった。ライダーが真名の予想を立ててくれても、それがどのような英霊なのか皆目見当もつかないのである。
恥を忍んでそう問えば、対面に座るライダーが驚いたような顔をした。
「なんだ、知らねえのか」
「う、自分でも知識不足だとは思っています。ギリシャ関連の不死身の英雄など、アキレウスかメレアグロスぐらいしか思いつきませんでしたし」
「まあそいつらに比べたらマイナーだろうよ」
ライダーがカラカラと笑う。嘲笑というより、純粋にこちらの反応を見て楽しんでいる様子ではあるが、レオンとしては複雑な心持ちだ。
「カイネウスはテッサリア、ラピテース族の王、神への冒涜が原因で命を落とした英雄だよ」
レオンへ言い聞かせる最中、ライダーの方へ意味ありげな視線を向けてエヌマエルが言う。
視線を受けたライダーは「あいつら心が狭いんだよ」とこぼして、エヌマエルの台詞を引き継いだ。
「元々はカイニスっつう女でな、それはスゲエ美人だったそうなんだが」
「女?」
思わず口を挟む。
中性的で見目麗しい姿ではあったが、レオンから見てランサーは男性のように思われたので、ライダーのその言葉は意外だった。
「早とちりすんなよ、
「美しい女だったカイニスは海神ポセイドンの目に止まり、無理矢理に犯された。行為の終わった後、償いを申し出たポセイドンに、彼女は男の身体になることを望んだ。……そうだったね、ライダー」
「……おう」
そう確認するエヌマエルに、ライダーはどこか遠い目をして頷く。
それはきっと不幸な話。女が受けたのは、許されざる理不尽だったのだろう。
ましてや加害者は神そのもの。不幸に嘆こうとも、理不尽に怒ろうとも、決して人の身ではどうしようもない存在だ。
────二度とこのようなことがないように、私を男にして下さい。貴方はどんな願いでも、きっと叶えてくださるのでしょう?
そう言って、男になることを望んだ女の姿を夢想する。
男となって二度と犯されないようにすることは、ただの人であった女にできる精一杯の反撃だったのかもしれない。
「……つまり、ポセイドンは彼女の願いを叶えて男にした。それがあのランサーだと」
「ああ、ポセイドンはカイニスの願いをきちんと叶えた。カイニスは、屈強で、どんな野郎にも負けない、
「!」
まさかそこで不死身の肉体に繋がるとは思わなかった。性転換がそのまま無敵の肉体の正体だったとは。
しかし同時にライダーがランサーの正体をカイネウスだと断定した理由に納得もする。確かにカイネウスという英雄は、海神と関わりがあり、不死身の肉体を持つ英雄だ。
「それで、そのカイネウスの弱点は?」
レオンは問う。
相手の正体、逸話を予想できるのならば、その弱点にも予想が立てられるハズだ。
得られた情報から相手の真名を暴き、弱点を見つけることこそが聖杯戦争の常道でもある。
しかしレオンの問いに、ライダーは無情なる一言で答えた。
「
「は……?」
「カイネウスに肉体的な弱点はねえ」
「なっ……!?」
驚愕に目を見開く。
不死身の英雄には、その不死性を突破することのできる弱点がついて回るのが常だ。彼の竜殺しジークフリートは背中が。トロイア戦争の大英雄アキレウスは踵が弱点といった風に。
だがカイネウスには、それが無い。
それすなわち、真実完全無欠の肉体を持っているということ。
殺すことが出来ない。そんな英雄がいたとして、そんなもの呼び出した時点で勝ちが決まっているも同然ではないか。
破格の性能にひとしきり驚き、頭を抱えそうになったレオンは、しかしそこでふと思い出した。
「いや、待ちなさいライダー。貴方はランサーに傷を負わせていたでしょう?」
「それは私も気になっていたところだ。ライダーの言う通り、伝承ではカイネウスに弱点らしい弱点はない。にも関わらず、君が奴の無敵を突破できた理由は何かね?」
レオンとエヌマエルの追及に、ライダーは「それなあ」と気の抜けた声で返事をする。
「野郎が自分で言ってたじゃねえか。『海神の眷属か』って。だからだろ」
「伝承にはそういった記述もないのでしょう? カイネウスではない別の英雄だった、ということはないのですか?」
「……そういう可能性もないではないが。
そうさな。例えばの話、アンタがどんな格上の魔術師もぶっ殺せる魔術を開発したとする」
そう言って、ライダーはエヌマエルを指差した。
指名されたエヌマエルは、ふむ、と軽く頷く。それを見たライダーは、エヌマエルを差していた指をレオンに向けると、
「で、その魔術をアンタの弟子────まあ俺のマスターだわな、そいつに教えることにした」
「ああ。そういうこともあるかも知れないね」
「さあ、じゃあ聞くが。アンタそんな危険な魔術を、何の保険もかけずに他人に教えられるのかい?」
「……それは」
「無理だろ? そこのソイツが、どんなにアンタを慕ってたってよ、いつ何がきっかけで心変わりするかなんざ、わかんねえもんな。うっかりすると、教えた魔術でアンタが殺されちまうかもしれねえ」
ライダーの言うことは、レオンにも理解できた。
レオンはこの先何があってもエヌマエルを裏切るつもりはないが、エヌマエルがレオンをそういう人間だと思っているかは別問題である。
レオンにしたって、仮に自分を慕う人間がいたとして、その人間にそのような魔術を無条件で教えられるかと問われれば否と答えるだろうし。
「神様連中ってのはケチで陰険で保身ばっかだかんな。人間でも躊躇するようなこと、連中にできるとは思えねえよ」
「つまり何か。ランサーを傷つけることが出来るのは、ポセイドンのかけた保険だと?」
「そうだろ? 不死身の身体で反逆なんかされた日にゃ、困るのはポセイドン自身なんだからよ。それはもう、自分にだけはカイネウスを殺せるようにしてるんじゃねえか?
俺みたいなのが野郎に傷を負わせられるのは、そのオマケとかおこぼれだろうよ」
理屈としては理解できる。
もしもカイネウスが完全なる不死身の肉体を手に入れたとして、それで神々に反逆でも起こそうものなら、神ですら手に余る事態になっていただろう。何せ殺せない敵なのだ。
カイネウスに神に反逆するという思考があったかどうかは定かではないが、可能性の話としてはポセイドンが保険をかけたくなる気持ちもわかる。
「しかしそうなってくると、現状でランサーを倒せる可能性があるのは貴方だけということですか。ランサーが海神の眷属と口にした段階から予想はしていましたが……。中々に厳しい」
「そうだな。だが、ここはむしろ喜ぶべきところだよレオン。他の陣営と違い、我々にはランサーを倒す術がある、とね」
それはその通りである。
それでもレオンには、ライダーが倒れれば勝機がなくなるという現状は不安で仕方なかった。
そんなレオンの内心を知ってか知らずか、ライダーが「他の連中もやりかた次第だろ」と呟く。
「? 貴方以外にもランサーを倒せると……?」
「試してみなけりゃあわからんがな。アンタは知らんだろうが……。エヌマエル、アンタなら知ってるだろ」
「なにをかね?」
「カイネウスの死因だよ」
「……ケンタウロスによる撲殺、いや。たしか
「ご名答。身体は特別製でも中身────肺の機能はそのままだったってことだな。
つまりだ、息さえ止められりゃあ、傷を負わせなくてもぶっ殺せるってことだろ」
ランサーの息を止める。
レオンはランサーがどのような死に方をしたのか知らない。だが、確かにランサーの死因が窒息死だったというのなら、それは間違いなくランサーの弱点だ。
伝承に残るほどにはっきりとしている死因であるのなら、サーヴァントとして現界した今も、それなりの因果が残っているだろう。
つまりランサーの窒息狙いならば、他のサーヴァントにも勝ち目が見えてくる。
問題はあれほどの近接戦闘能力を持つランサーを、どうやって窒息させるかということだ。
直接首などを絞めようにも、アレはそう簡単に捕まりはしないだろう。そして魔術攻撃による窒息狙いは対魔力スキルで弾かれてしまう。
「その辺は問題ねえだろ。キャスターの野郎には関係ねえじゃねえか。ホレ、あの毒霧」
「あ」
そう言ったライダーに、レオンは少しばかり驚いた。
ライダーの言うとおり、キャスターが操るあの毒霧には対魔力スキルは関係がない。
あの霧は魔術ではなく
そして対魔力に阻まれないのならば、キャスターの毒霧はランサーに届く。ランサーの肺機能が無敵ではないのなら、毒を吸い込んだ時点でダメージは入るはずだ。
が、レオンが驚いたのは、キャスターの攻撃が通用すると気がついたことが理由ではない。驚いたのは、それを指摘したのがライダーだった、ということだ。
相手方の真名を暴き、死因を知り、弱点を衝く。ライダーのしていることは、そういう聖杯戦争の常道であった。
つまり、普段の態度がアレなライダーが、そういう風にまじめに対策を講じようとしていることがレオンには意外ですらあったのだ。
「おいマスター。アンタなんか失礼なこと考えちゃいねえか?」
「え? ……いいえ。そんなことはありませんよ?」
思わず目を逸らしながら言う。
ライダーが冷たい視線をくれている気がするが、レオンは気のせいだと思うことにした。
と、そのようなことがあり、ランサーの性能を暴ききるためにも今度の戦闘ではキャスターを使うことになったのだった。
その結果、ランサーはキャスターの攻撃を無効化できず、尋常ではないダメージを負った。それはつまり、こちらの予想通りランサーの肺機能に無敵性能は付与されていないことを示している。
ランサーの真名を知り、その上で彼の無敵宝具を突破できるサーヴァントが二騎。アドバンテージとしては中々のものだ。
「ランサーの件もそうだが、戦果としてはマスターを一人排除できたことが大きい。状況を見るに、あのメガネの男はアサシンのマスターで間違いないハズだ」
「ま、戦闘中に横やり入れて、背後からの奇襲で仕止められない方が問題だわなあ……」
そうエヌマエルに返すライダーの声には、先ほどまでの軽妙さはない。
これまでのライダーの言動を考えるに、今回の奇襲は彼にとっては不本意なものだったのだろう。
それでも最終的には仕事だからと割り切れるあたり、サーヴァントとして最低限の自覚はあるらしい。もっともそうでなくては、マスターであるこちらは困ってしまうが。
それはさておき、アサシンが脱落したという前提で話を進める二人に、レオンは言わねばならないことがあった。
「……いえ、アサシンは健在でしょう。ライダーが仕止めたあの男は、恐らくアサシンのマスターではありません」
「? なんだ、なんか知ってんのか?」
こちらの言葉に、エヌマエルとライダーの視線が向く。
レオンはライダーが刺し殺した男の顔を思い出しながら、口を開いた。
「……あのメガネの魔術師は、とある魔術の家系に仕える使用人です。名をアベル・アッカーソン」
「詳しいな、知り合いか?」
「知り合いというほどでもありませんが。
ライダー、貴方を喚ぶための聖遺物はアベルが仕える人間からかすめ取ったものです」
ライダーからの疑問を軽く流して、エヌマエルの様子を伺う。
この時点で、エヌマエルはレオンの言いたいことを察したようだった。「なるほど」などと溢してレオンの言葉に頷いている。
「そして、アベルの主人が聖杯戦争への参加を諦めていなかったとしたら、当然他の聖遺物を探して参戦しようとしたことでしょう」
「つまりアレか。あのメガネは替え玉で、本当のマスターはメガネのご主人様だと」
ライダーの言葉に首肯する。
「ええ、そう考えるのが妥当だと思います。アサシンとしてもマスターが戦場に出てくることは好ましいことではないでしょうし、何よりアベルという男は主人を危険に晒そうとはしません」
レオンの中では、既にアベルがマスターである可能性は潰えていた。
あの忠犬が主人を差し置いて自分だけ聖杯戦争に参加するハズはないし、彼の主人は主人で、聖遺物を失った程度で聖杯戦争を諦めるような性格ではない。
残る可能性としては、向こうの陣営もこちらと同じく二人のマスターで結託しているというものだが、確認できたサーヴァントとマスターの組み合わせを考えると、アベルがマスターとして参加する空きがない。
やはりアベルの主人がアサシンの正規マスターであり、アベルはそのサポートと考えるのが妥当であろう。
正直な話、聖遺物を盗んだ時についでに殺しておけば良かったと、心から思う。
「そんで? そこまであのメガネに詳しいんなら、そいつの主人ってのも知ってんだろ?」
その質問に、内心忸怩だる想いながらを抱えながらレオンは頷いた。
「アベルの主人の名はレオナ・モーガン。モーガン家の次期当主であり、私の姉です」
※ちょっと円卓地獄ですか!? トリスタンとガウェインのピックアップはよう!!(FGO感)
それはそれとしてランサー身バレ回。たぶん正体はバレバレだったのでいまさらな話。
【マスター情報が更新されました】
【レオナ・モーガン】
年齢:24歳
性別:女性
身長:166cm
体重:56kg
マスター階梯:第三位
好きなもの:アベルの煎れた紅茶、アクション映画、ヒーローの変身シーン
苦手なもの:じめじめした空気、恋心を自覚した自分
天敵:アサシン