Fake/Another apocrypha after 作:ハトスラ
夜が来る。
七騎のサーヴァントが揃って既に二日。
冬木の街には徐々に、だが確実に魔の気配が漂い始めていた。
魔の気配に敏感な者たちは、既に冬木が自分たちの知っている冬木とは違うものになりつつあると感づいているだろう。
そうでない者たちも、微かな違和感程度なら感じ始めていた。
それでもやはり、
誰もが『何かが違う』と感じながらも、それをどこか他人事のように思っていたのである。
そしてその夜の彼女もまた、そんな風に街に不穏な空気を感じながらも外出していた一人であった。
現在時刻は午後九時。いくら夏の日が長いとはいえ、既に太陽は沈みきり、街には夜の帳が降りている。
新都では昨夜、押し入り強盗による一家惨殺事件があったそうだ。犯人はまだ捕まっておらず、もしやまだ新都周辺にいるのではないか、と会社で話題になっていた。
昼休みにその話を聞いた時は、普通に恐ろしいと感じたものだ。にも関わらず、こんな時間帯の新都を一人で歩いている。
何もかもお盆前の繁忙期とかいう奴が悪いのだ。残業に呪いあれ! 心の中でそうグチをこぼしながら、彼女は足早に駅を目指す。
「やあ、こんばんは」
と、どこからか声をかけられたのはその時だ。
決して大きな声ではなかった。
特定の誰かにかけられたような台詞でもなかった。
それでも彼女は、その声が自分に向けられているように感じて足を止めてしまった。夜の新都なんてさっさと抜けて家に帰りたいのに、足を止めずにはいられなかった。
「そんなに急いでどこに行こうというのかな?」
振り返り、声の出所に目を向ける。
声の主は、ことのほかあっさりと見つかった。
街路灯の立ち並ぶ表通りではなく、ビルとビルの隙間。照明の影にとけ込むように、壮年の男が立っている。
ぞわり、と彼女は自分の背筋に怖気がはしるのを感じた。
彼女は別段、聴覚に優れているだとか、そういう体質ではない。
それでも、さして大きくもないその声を正確に聞き取り、ビルの影に隠れるように立っていた男を簡単に発見することができたのだ。
呼び止められたときと同様、まるで感性だけが自分の手を離れていってしまったような感覚を覚える。
さっさと帰ってしまいたいのに、視線をその男から離せない。逃げ出したい意志に反して、足が縫い止められたように動かない。
「君の帰り道は、そちらではないだろう?」
優しく問いかけるようでありながら、その声には反論を許さない響きがあった。
それと同時、彼女はそうかもしれないと思ってしまった。私の帰り道は本当にこちらだったのだろうか、と。
「きなさい」
言葉とともに、ふ、と彼女の内にあった不安が消えた。
そも、自分は本当に不安など感じていたのだろうか。感じていたとしたら、いったいなにに?
「君の帰り道はこちらだ。帰る場所、帰りたい場所はこちらだ」
優しい声音で男が手招きする。
「君の『欲しいもの』が手に入るのも、こちらだ」
「……欲しいもの」
そのワードに、ふらり、と縫い止められていた足が動き出す。
────行かなくちゃ。
ぼんやりとそんなことだけを思いながら、彼女は男へと向かって歩き出した。
帰る場所、欲しいもの。それが与えられるなら、行かなくては。それを手に入れられるのが男の下なら、この男に連いていかなくては。
最初に抱いていた恐怖はもはや影も残さず消え去り、強迫観念めいた意識だけを向けて彼女は男に近づいていく。それが日常に別れを告げる行動だと、気付きもせずに。
「いい子だ。連いてきなさい」
手招いていた男が、彼女の手を取り、満足そうに言った。
男はそのまま踵を返し、ビルの暗がりへと消えてゆく。その男に連れられた彼女もまた、光差す道から暗い影へと。
こうして冬木市の行方不明者リストに、また一人新たな名前が連なった。
『海に行こうぜ!』
七月中旬。周囲の学生に比べて少し早い夏休みに入った彼は、同じ学部の友人にそのように誘われた。
海のない町に生まれ育ち、大学生の今まで海に行ったこともなかった身としては、その友人の提案はそれなりに魅力的なものに聞こえる。
なにより、大学進学を機に冬木に越してきた彼としては、こちらで出来た初めての友人の誘いを断るのは気が引けることでもあった。
が、友人の誘いはなにぶん時期が悪すぎた。
なにせ友人が誘いをかけてきた日付は、彼が以前から楽しみにしてきた新作ゲームの発売日だったのである。
どれほど楽しみにしていたかと言うと、ゲームの発売にあたり、バイトを増やし、周辺機器の新調まで行ったほどだ。ついでに言えば、クリアするまで自室で籠城できるように、食料の買い込み、部屋の空調のメンテ、寝具の調整も完璧なのだった。
たかがゲームに、と言ってしまえばそれまでだが、楽しみにしていたものは仕方がない。人の趣味に文句をつけるなとさえ思う。
そういうわけで、彼が友人からの誘いを断って自室でゲームに明け暮れているのは、ある意味で当然の帰結であった。
ところで、彼はゲームのプレイ中はかならずヘッドフォンを装着している。
良質な音声を楽しむため、というのが最大の理由ではあるのだが、その実理由の四割くらいは隣人関係に起因するものであった。
というのも、彼の隣の部屋には一組の夫婦が住んでいて、その夫婦の間にはまだ小さな子供がいたのだ。
部屋の前で何度か顔を見た程度ではあったが、確か三つか四つくらいの小さな女の子。
あれぐらいの年の子はみんなそうなのか、それともその女の子が特別そうだったのか。外でも内でも、まあ声が大きい。彼の住む集合住宅はそこそこに壁が薄かったので、隣人の女の子がちょっと大声を上げると、彼の部屋にまでその声は響いた。
前述の通り、彼は快適な環境でゲームをプレイすることを至上の喜びにしている。そんな彼が雑音を遮断しようと思うことは当然のこととも言え、同時に『大音響で
そうして、ヘッドフォンを装着して部屋に引きこもり始めて数日。その日の夜も、彼はそれまでの数日と同様に、朝からぶっ続けでゲームをプレイし続けていた。
どうしてもシナリオが埋まりきらない。シナリオ達成度は七割ほど。細かな選択肢の差異はあれど、これはさすがにどこかに隠しルートがあるだろうテキスト量だ。しかしそのフラグを見つけられない。おそらくこのポンコツ聖女ルートだと思うのだが……。
ネットなどで調べれば、フラグの立て方など容易く検索できるのだろう。しかしそれは彼のプライドが許さなかった。
というより、フラグを見つけだすことも楽しみの一つだと思っているので、彼は今しばらくは他人の力を借りる気はなかったのである。
大丈夫。焦ることはない。今は夏休みだ。水も食料も大量に買い込んであるし、友人には事前に『時間が取れるようになるまで連絡できない』と言ってある。出かける必要もないし、不意に知人が訪ねてくることもないハズだ。
この快適な環境で、心行くまでゲームを楽しんでいられる。
頭の隅でそんなことを思いながら、彼はあらゆる情報を遮断したままでゲームをプレイし続けていた。
彼は知らない。
つい昨晩、この付近で、少なくない世帯の惨殺事件があったことなど。
彼は聞こえない。
さきほど隣の部屋から小さくない物音が響いていたことなど。
彼は気付かない。
物音は既にやみ、いつも聞こえてきた喧しくも幸せそうな声が、二度とは響かないことも。
知らない。聞こえない。気付かない。……気付きたくなんて、ない。
テレビもネットも電話もラジオも。ありとあらゆる情報を遮断していたから、この街に何が起こっているかなんて本当に何も知らない。
ヘッドフォンを着けて雑音をかき消していたから、物音なんて聞こえる訳がない。
知らず、聞かずで過ごしているから、隣の部屋でどんな凄惨な行いがあったかなんて、気付けるハズもない。
知らない。知らない。知らない。
聞こえない。聞こえない。聞こえない。
だから気付かない。
物音なんてなかった。
知らないことだ。聞こえないことだ。だから自分がこうしているのも仕方がないことだ。
何も知らず、聞かず、ただここで引きこもっていればいい。それが自分にとっての普通だ。何も気が付かない者の普通だ。
気が付いていない。気が付いていない。気が付いていないから、どうかここにはこないでく────、
『こんばんは』
ガチャリ、と鍵をかけていたハズの玄関ドアが開く音がした。
「…………っ!?」
息をのむ。
ヘッドフォンからは相変わらずゲーム音声が流れている。
にも関わらず声が、足音が聞こえる。足音が、人の気配が彼のいる部屋へと近づいてきている。耳元で聞こえるゲーム音声に重なるようにして、ひたひたと近づく足音がある。
気のせいだ。音など聞こえるハズがない。鍵のかかった我が家に、侵入できる者などいるハズがない。
そう言い聞かせる彼を嘲笑うかのように、それは震える彼のいる部屋へと、ついに到達した。
『はあい。あら? 返事がないと思ったら、そんなモノを着けていたのね』
声は日本語ではなかった。英語のような、そうではないような。
外国語に詳しい訳ではない彼には、侵入者がなにを話しているのかなどわかるハズもなかったというのに。不思議な響きを伴った声の意味を、彼は何故か理解することができた。
同時に、もうどうしようもない程、訳の分からない者が自分の部屋へと侵入してしまったことを認めなければならなくなった。
「だれ、だ……」
無意識に漏れた声は震えていた。
モニターから目を離し、部屋の入り口────侵入者の方へと振り返る。
そこにいたのは背の高く、髪の長い女だった。黒のドレスを身に纏い、陶酔したような表情でこちらを見ている。
室内の照明に照らされた髪は艶のあるダークブラウン。青と緑の中間のような色の瞳。色素の薄い肌と整った鼻梁。おおよそ美しいと形容される容姿だと思われた。
そしてその美しい容姿を、彼はただ恐ろしいと感じた。なにせ、この女は得体が知れない。
ヘッドフォンを外し、立ち上がる。
途端、両肩にとてつもない重さを感じて倒れ伏した。
「ぐっ!?」
『大人しくしてね? 抵抗は無意味で無駄だから』
不可思議な現象に慌てて身を起こそうとするも、肩に感じた重圧はすでに全身に及んでいる。どれほどの力を込めても立ち上がれる気がしない。
『今夜はアナタで八人目なの。この後のことを考えると、ここで無駄な時間をかけたくもないし、さっさと用を済ませて……あら?』
余裕の表情でこちらを覗き込んだ女が、何かに気が付いたかのように首を傾げた。
『アナタ、そこそこいい顔してるじゃない』
言いながら女がパチン、と指を鳴らす。
直後、なんらかの力によって右腕が折られた。
「ぎ────」
悲鳴は、声にもならなかった。
否、声を出すことを女は許さなかった。
『近所迷惑でしょう?』
くすり、と笑って、女が彼の唇をなぞると、彼の口は見えない糸に縫いつけられたかのように開かなくなったのだ。
閉じきられた口ではくぐもったうめき声しか上げることが出来ない。あげく全身には謎の重圧がかけられ、右腕は折られている。
身動きはおろか、声すらも上げられなくなった彼を前に、女が満足そうに笑みを浮かべる。
『困ったわ。さっきの家でも
アナタも聞いたでしょう? ふふっ、面白いくらいに泣き叫んで……、全員エサにするつもりだから救いなんてないって言うのに。
ああ、それとも、ヘッドフォンなんてしていたから、聞こえていなかったかしら? まあどうでもいいことだけれど』
「────っ!?」
左腕を折られた。今度は謎の力ではなく、女自身の手によって。
その細腕のどこにそんな力が秘められているというのか、次いで女は彼の左足に手をかけ、事も無げにへし折った。
激痛が脳を焼く。こんな痛みには耐えられない。
そのくせ、何故か意識を手放すことができない。気絶さえしてしまえば、そのまま何もかも終わるのだとわかっていても、意識がどうしても飛んでくれない。
『刺して、折って、
女は、とうとう残った右足を破壊した。折る、などという生やさしいものではなく、太股のあたりから無造作に引きちぎった。
「────────」
声にならない悲鳴を上げる。狭苦しい室内に肉片が飛び散り、鮮血が辺り一面を濡らす。
どうして自分がこんな仕打ちを受けているのかわからなかった。いったい自分がどんな悪いことをしたというのだろう? 自分はただ、この部屋に引きこもってゲームをしていただけなのに。
痛みと理不尽から、滂沱と涙を流すこちらを無視して、女は血に染まった自らの手を舐めた。
『アナタもエサよ、私のバーサーカーの。けれどそれだけじゃあもったいないから、楽しみましょう? どうせ死んでしまうのなら、最期くらい楽しいこと、気持ちいいことをしましょう?』
一方的にそう言って、女は彼の上へと馬乗りになった。表情には恍惚とも嗜虐的とも言える笑みが張り付いている。
そこまでされて、ようやく彼は悟った。
これは自分たちとは違う生き物だと。何故、という疑問を浮かべるだけ無駄な
『夜は長いわ。さあ、死ぬまで楽しみましょう?』
そしてその彼の想像通り、女はすべてを奪っていった。
命を、尊厳を、未来を。
後に残ったのは、彼の残骸と二度とは使われないゲーム機だけだった。
※更新遅くなって申し訳ありませんでした。
ようやく二日目終了です。今回は日常回。
二日目終了時点
【セイバー陣営】残り令呪2 酒盛り中
【ランサー陣営】残り令呪1 負傷につき療養中
【アーチャー陣営】残り令呪3 スヤァ...
【ライダー陣営】残り令呪3
【アサシン陣営】残り令呪3
【キャスター陣営】残り令呪3
【バーサーカー陣営】残り令呪3
以下、FGOのネタバレ含むオマケのいんたーるーど。
【いんたーるーど】FGOで遊ぶAAAの弓陣営
クリスマス頃
雅「クリスマス追加鯖、イシュタルとかアホかー!?」
弓「ま、マスター?」
雅「ほんと、ほんと勘弁して……。恥ずかしいわ、なんだってもう……」
弓「と、言いつつ何故に召喚ボタンを押しておられるのか」
雅「そりゃ引くわよ! 身内的に引かなきゃいけないでしょ、こんなの!?」
年末頃
雅「絆レベル10とか無理……。っていうかうちのスタメンが弓だらけで、ランサーの相手がつらい。ついでにラスボスも」
弓「相性の有利なサーヴァントに差し替えればよろしいのでは? 難しければバーサーカーを入れればよろしかろう」
雅「…………」
弓「なにか?」
雅「アナタ、たしかセイバー適正もあったわよね」
弓「……? はい、ありますが」
雅「セイバーの方の実装はまだなの!?」
弓「え、そんなこと私に言われましても!?」
新年頃
雅「マーリンピックアップ終わってた!?」
弓「運営から年末までと告知されていたではないですか」
雅「ちょっと、術の確定召喚にいないの? いない? いると思ってた、どうしよう……」
弓「まあ、戦力的に惜しくはありますが。現状でも戦えますし、無い物ねだりはよくないですよ」
雅「世の中、綺麗事だけじゃやってけないのよー! 期間限定召喚とかやめてよね。っていうか、曜日クエスト魔神柱狩りはまだ実装されないわけ!?」
弓「わたしのマスターは運営の心がわからない」
※エルメロイ二世の事件簿とFGOマテリアル買えました。
事件簿最高だし、マテリアルもアヴェンジャーのクラススキルについて言及されてていい感じ。
ところでエミヤの項目でイシュタルについて言及→イシュタル実装の流れだったので、今後もその流れだと思っているのですが、ローランが楽しみなような、ちょっと複雑な気持ちです。
あとラスプーチン……。お前さ、愉悦神父じゃなかろうな……。
アポのアニメも楽しみですね。