Fake/Another apocrypha after   作:ハトスラ

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三日目 とある騎士の話

 ────熱に浮かされた夢を見た。

 

 

 彼にとっての始まりは一体どこだったのだろう。

 

 祝福されなかった生誕か。

 養父に育てられたときか。

 あるいは誘拐されたときか。

 それともやはり、叔父である王に仕え始めたときだったか。

 

 

 客観的に見て、彼は凡そ非の打ち所のない騎士だった。

 

 

 剣を執れば負けなし。弓を外すことなどあり得ない。

 余所者でありながら、その国の誰よりも王に忠義を示し、尽くす。

 その一方で、彼は誰に対しても礼を忘れず、傲慢な振る舞いなどとは縁遠かった。

 また、琴を奏でれば右にでる者はおらず、その旋律は多くの人の心を癒したという。

 

 強く、優しく、忠義に厚い。

 

 王はそんな彼に大層信頼をおいていた。それはもはや王が騎士に寄せる信頼というよりも、父が息子に向ける信頼と言っていいほどに。

 家臣の中には『得体の知れない余所者をそれほど重用するなんて』と口をとがらせる者も少なくはなかったが、王は聞く耳を持たなかった。

 

 騎士もまた、流れ者の自分にこれほど良くしてくれる王に感謝した。自分のことをまるで家族のように扱ってくれる王に、必ず報いようと忠誠を新たにした。

 

 恐らく、この頃が彼の幸せの絶頂期。

 あらゆる運命に翻弄され叔父の元へとたどり着いた彼は、今度もまた運命に翻弄され転落してゆく。

 

 転機はきっと、とある騎士との一騎打ち。

 年貢と称して国の少年少女たちを連れ去ろうとした他国の騎士を、彼は死闘の末に討ち取った。

 国の誰もが恐れ、戦いを挑むことすら出来なかった騎士を、腕が立つとはいえ、当時まだ少年だった彼が倒してしまったのだ。

 少年の────、英雄の勝利に国は沸いた。これ以上、もう誰も差し出す必要はないのだと、国中の人間が喜んだ。

 その代償がなんであったのか、気付くことすらなく。

 

 彼が討ち取った騎士の武器には毒が塗られていた。

 刃をかすめればたちまち全身に毒が回り、決して助かることはないだろう程の、強力な毒が。

 決闘に勝利し、栄光をつかんだハズの少年は、しかし死の定めに囚われていたのである。

 

 熱を帯びる身体。

 ふさがらぬ傷。

 生きながら腐り始めた手足。

 

 養父と叔父の手当も虚しく、毒は確実に少年を蝕んでいった。

 

 ────自分はきっと、死ぬのだろう。

 

 地獄の責め苦を味わいながら、自らの死期を悟った少年は、王である叔父に一つの頼みごとをした。

 

 もはや自分は助からぬ。どうせ死んでしまうのならば、最期の成り行きは天に任せてみたい。もし自分が、ここで死ぬ定めでないのならば、きっと助かるハズだから。

 

 少年の願いを王は叶えた。

 少年を小舟に乗せて、たった一人海に送り出し、その道行きを祈った。

 

 やがて少年は、とある国へとたどり着く。

 その国にあったのは運命の出会い。

 少年の命を救うという意味でも、その後の運命を決定づけてしまったという意味でも、まさに運命としかいいようのない出会いだった。

 

 一命を取り止めた少年が国に帰ってしばらくした頃、重臣たちから王に婚姻の話が持ち上がった。

 国の将来と王の幸せを願う口振りではあったものの、その実は王の寵愛を受ける少年を締めだそうという企みによるものだった。

 

 自らの命をかけて国を護った英雄を、彼らは疎んじたのだ。

 王の信頼厚いこの騎士が、そのまま次の王になってしまうのではないかと、たかだか余所者の騎士に自分たちの立場が脅かされてしまうのではないのかと。

 

 なんていう身勝手。

 国の危機に戦いもせず震えていただけの連中が、王への忠義だけで命をかけた騎士を追い出そうだなんて。

 

 王も騎士も、重臣たちの進言から透けて見える本当の意図などわかりきっていた。

 わかりきっていたから、王は望まぬ結婚を避けるためにこう言ったのだ。

 

 

『ツバメがくわえてきたこの金髪。この美しい髪の持ち主となら、喜んで結婚しよう』

 

 

 それは果たされるハズのない要求。

 だが騎士は、その髪の持ち主を知っていた。知らぬふりを通せば良いものを、王への忠誠心から嘘を吐けない彼は、王の望む女性を知っていると打ち明けてしまう。

 でまかせを言うなと罵る重臣たちを前に、後に引けなくなった騎士は金髪の持ち主を連れてくるべく国を出た。

 

 美しい金の髪を持つ女性。その名を、イゾルデ。

 かつて彼を死の淵から救った女性、その人であった。

 

 

 ────やだな。

 

 

 ここまでを見て、遠坂雅はそう思った。

 

 やだな。この先は見たくないな。

 

 だってこの先の展開は知っている。

 これはアーチャーの過去で、雅の見ている夢。契約によって繋がったサーヴァントの記憶を、パスを通じてマスターが垣間見てしまうという現象に他ならない。

 

 そして伝承に語られるアーチャーは、この後悲運の死を遂げるのだ。

 

 王の為にイゾルデを連れ帰ると約束した彼は、その忠義のままに剣を振るって、とうとう竜まで打ち倒し、王との約束通りイゾルデを手に入れて。

 けれど国へと帰る船の上で、誤って飲んだ媚薬がすべてを台無しにした。

 

 金髪のイゾルデと彼────マルクの騎士トリスタンは恋に落ちてしまった。

 

 二人は悩んだ。

 マルク王への忠誠を果たすためにイゾルデを連れ帰る自分が、そのイゾルデに懸想しているなどと許されるハズがない。

 自らの国のため、マルク王に嫁ぐと決めた自分が、マルクの騎士を思い煩うなどあってはならない。

 

 悩めども、彼らは自分の心に嘘はつけなかった。

 際限なく湧き出る恋慕の情に突き動かされ、彼らは夜毎密会を重ねた。

 

 いっそマルクが悪人であったのなら、二人も思い悩むことなどなかっただろう。

 だが王はどうしようもなく善人で、そしてトリスタンを信じていた。妃となったイゾルデを深く愛してもいた。

 

 

 でも結局、そんなのは無理だったんだろうな、と思う。

 そんなこといつまでも隠し通せるハズがない。だから事が露見して、彼が国を追われるのは当然の成り行きだった。

 

 国を出て、彼はあらゆる国をさまよった。

 マルクとイゾルデ。彼らと別れた胸の穴を埋めるかのように、あらゆる王、あらゆる領主に騎士として仕えた。

 時に人と戦い、時に巨人と戦い、時に怪物と戦い、時に癒し手として歌を歌い、忠義を果たしては次の国へと渡り続けた。

 そんなことをしても胸に空いた穴が塞がることなどないと、自分が一番知っていたくせに。

 

 

 ああ、もうやめてほしい。

 だってこれは絶望の物語だ。彼は胸の隙間を埋められぬまま、国から国へ渡り続けて、その果てに毒に倒れて死ぬのだ。

 最期に、愛した人に一目会いたいと。そんなささいな願いさえ踏みにじられて、絶望のままに死んでゆくのだ。

 

 そんなのは見たくない。あんな絶望を感じるのは一度で十分だ。

 この夢を見るのは、彼を召喚した日と合わせて二回目で。一度目の時、なぜ防壁を張らなかったのかと自分に嫌気が差す。

 この物語の結末を、自分はもう知ってしまっている。

 

 トリスタンは、イゾルデと別れるときに交わした一つの約束をずっと覚えていた。

 

『どんな障害があろうとも、この証を見せれば、必ずや私は貴方のもとへ馳せ参じましょう』

 

 その約束を覚えていて、だけど決して使えないと思っていた証を、死の淵で使うのだ。

 それはイゾルデが彼の毒を打ち消せる癒し手だからではなく、彼が彼女を愛していたから。たとえ助からなくても、最期に一目彼女の顔を見ることができればそれでいいと、彼がそう願ったから。王妃という立場をなげうってでも自分のもとに駆けつけてくれたのなら、それだけで報われるとそう思っていたから。

 

 なのに彼の切実な願いは、たった一つの小さな悪意(嫉妬)で叶わない。

 

 毒の回りきった身体で数日耐え続け、その果てに愛する者に見捨てられたと伝えられた彼の、その絶望はいかほどだったのか。

 精神的な支柱を折られた彼は、速やかに毒死した。それまでの奮闘が嘘のようなあっけなさで。

 

 けれど、その瞬間がきた時、契約で繋がっていた雅にはわかってしまった。

 彼の絶望の深さ。彼女が来ないのなら、それは彼にとって死と同義。

 契約で繋がり、多少の共感状態にあるといっても、所詮雅は彼の記憶をのぞき見ているだけの存在だ。

 それなのに、そのあまりの絶望に、雅は死んでしまうかと思った。より正確には生きていたくないと、本気で思ってしまった。

 

 覗き見しているだけの雅でこれなら、彼が真に感じた絶望なぞ、この比ではない。そして、それほどの絶望を感じて、生きていられる生き物はきっとこの世にはいない。

 身体が生きていても、心が先に死ぬ。そして心が死んだなら、身体だってその機能を停止する。

 

 だからきっとトリスタンは毒に殺されたのではなく、その心に感じた絶望に殺されたのだ。

 

 その悲惨な結末を、すでに一度見ているから、雅はこの夢の先を見たくはなかった。

 

 幸いにも夢だと自覚できている。ならば夢から抜け出すことは、さほど難しいことではない。

 そうして夢から抜け出そうと意識を現実へと傾けて、

 

 

『そなたは、狩りが得意なのだな』

 

 

 ────なにか、眩しいものを見た。

 

 

 一瞬。夢から現実へと意識がシフトするその一瞬に見えた、なにかとても眩しいもの。

 国を追われて以降、悲しみに塗りつぶされ続けてきた彼の、その内側にあった大切な記憶。

 

 初めて触れたそれがなんであるのか知りたくて、雅は思わず夢の中へと踏みとどまった。

 直前まで抜け出したいと思っていた物語の、(ページ)の切れ端を必死につかんで浮上する意識に抗った。

 

 そうして雅の目に飛び込んできたのは、若葉の生い茂る新緑の森。

 その中に佇む彼と、そんな彼を馬上から見下ろす少年の姿だった。

 

『そなたは、狩りが得意なのだな』

 

 木漏れ日を返す金砂の髪が揺れる。こちらを見下ろす緑の瞳が優しげに細められ、緩く円弧を描いた口元が柔らかな声音を紡ぐ。

 

 それはなんてこともない光景のハズだった。

 騎士として優秀だった彼は、同時に優れた狩人でもあったから、狩りの腕前を褒められることなんて、さして珍しいことでもなかったハズなのに。

 こんな日常の一幕を、マルクやイゾルデとの日々と同じくらい大切なモノだと、彼は感じている。色褪せてしまわないように、大切に心の引き出しの中にしまいこんでいる。

 

『私は、騎士である前に狩人でしたから』

 

 照れくさそうに、けれどどこか誇らしげに彼が言う。

 馬上の少年が、また少しだけ笑った。

 

 それだけ。

 それきりで舞台は別の場所に移っていた。

 けれどその場所もまた、雅が初めて目にする光景であった。

 

 白亜の城。

 凱旋する騎士たちと、それを迎える大勢の民。

 騎士たちを従えるのは、新緑の森で見たあの少年。

 

 ああ、そうか。と、誰に言われたわけでもないのに理解する。

 

 ここは誉れ高い騎士の国。

 遙かなるキャメロット。

 彼がマルクの騎士ではなく、円卓の騎士として生きたその時間。

 

 

 なんだ、と安心する。

 その国で彼は笑っていた。彼にとって、心から笑える場所があったのだと知った。

 

 そこは決して豊かな国ではなかった。

 資源には限りがあって、人々は贅沢とは遠い日々を暮らしていた。

 それよりも何よりも、ブリテンは侵略者の恐怖に常に晒されていたのだ。長く続く戦いに、国は疲弊していた。

 

 けれど、その国では多くの人が笑っていた。

 戦いに疲れてはいても、悲観はしていない。人々の顔には希望の色があった。

 

 そう、ここは決して豊かではない。

 それでもここには護るべき民がいて、戦うべき敵がいて、背中を預けられる仲間がいて、仕えるべき主君がいた。

 彼にとってはそれで十分。否、きっと彼の仲間たちにとってもそれで十分だったのだろう。理想の王に従えられた彼らは、騎士の誇りを胸に抱いて国を護る。

 

 戦いの連続だ。どれだけの手練れだろうと、辛くないハズがない。

 だけどその日々は、彼にとっての宝物だった。その国での思い出は、まばゆいばかりの美しさで彼の胸に焼き付いている。

 

 

 ああ、イゾルデたちと別れた胸の穴は塞がらないけれど、この日々にはその寂しさを上回るほどの充実感がある。

 

 

 そんな彼の胸の内を、僅かでも感じ取ったから雅は安心した。

 きっと彼はマルク以来の仕えるべき主君を戴いて、信頼できる友と国を護るために戦っていくのだ。

 万人の思う幸せではなくとも、騎士としての幸せを謳歌して、このブリテンで生きていくのだろう。

 なら大丈夫。彼の人生には悲劇も多かったけれど、これからは幸せな人生が待っている。

 

 そんな風に思って、雅は安心した。……安心してしまった。

 

 

 なんて、間抜け。

 お前は彼の末路を見たと言ったハズだ。

 あの悲劇の最期を知っているなら、彼にこの幸せが続くことなどないとわかるハズだろうに。

 

 

 これは彼の人生の記録。

 それをかいつまんでのぞき見する夢の話。

 だから、その日は迅速に訪れた。

 

 場面がまた移り変わり、彼の前にはいつかの少年がいた。

 あの森の中で感じた柔らかな印象は欠片もなく、いまはいっそ冷たいと感じるほどの澄んだ瞳で彼を見つめている。

 少年は王であった。

 ブリテンにて騎士たちを束ねる少年王。

 その王と彼とが向き合っている。

 

 あ、ダメだ。と雅は感じた。

 パスで繋がったアーチャーの意識が、雅へと流れ込んでくる。この先に取り返しの付かない出来事があるのだと、どうしようもないほどの後悔があるのだと訴えてくる。

 

『王は────』

 

 夢の中で彼が口を開く。

 ダメだ。その先を口にしてはいけない。だって、その先は決定的な言葉だ。

 彼が何を言うつもりなのかはわからないけれど、それを口に出せばすべてが終わってしまうということだけはわかる。この国で感じた幸せすべてを失おうとする行為なのだと、アーチャーの記憶(後悔)が告げている。

 そうなればきっと、彼はこの国に来る前の生活に逆戻りだ。胸に空虚なものを抱えたまま、あらゆる国をさまよう騎士。その果てに絶望を約束された、悲劇の男。

 

 それはダメだ。

 せっかくこの国に居場所を見つけたのに、自分からそれを壊すなんて、そんなことはダメだ。

 

 それなのに、夢の中の彼は口を閉じようとはしなかった。

 あたりまえだ。

 これは彼の記憶。すでに録画された過去の映像。

 すでに撮られた映画の結末を変えることなど、雅にはできない。

 

『人の心が』

 

 待って。と雅は声をあげたつもりだった。

 けれど制止の声は形になることすらなく。雅の焦燥をよそに、ついに彼は決定的な言葉を口にする。

 

『わからない』

 

 

 

 

 

 

 暗がりで目を覚ます。

 最初に飛び込んできたのは、普段とは違う、けれどそれなりに見慣れた天井だった。

 畳敷きの床に布団を敷いている現状を顧みて、昨日は先生の家に泊まったんだったな、と思い至る。

 

 が、それよりもなによりも、今し方見ていた夢の内容を思い返して雅は頭を抱えた。

 

「ああ、もう……!」

 

 気分は最悪だ。

 夢の内容にというよりも、結末を理解していたくせに迂闊にも最後まで夢に付き合ってしまった自分自身に対して、雅は嫌気が差した。本当、間抜けにもほどがある。

 アーチャーの末路は一つだ。その過程にどんな起伏があったとしても、絶望を感じたあの結末だけは変えようがない。

 それなのに、彼の人生に救いがあったかもしれないだなんて、そんな淡い期待を抱いて結局最後まで見てしまった。救いなどないとわかっていたハズなのに。

 

 いや、確かに救いはあったのだろう。

 実際に、今回雅が見た夢は、彼にとっての救いであったハズだ。そうでなければ、記憶をのぞき見した雅が、あんなにも温かな気持ちになるハズがない。

 

 でも、だからこそ、彼の結末が悲しかった。

 そして、あの時あんな台詞を口にした彼の意図がわからなかった。

 彼は予感していたハズなのだ。この台詞を口にしたら最後、キャメロットにはいられなくなるだろうと。

 にも関わらず、あんな言葉を口にして。そして自分の予感通りに国を出て行った。

 やっと見つけた温かな居場所を、自らの手で破壊して、再び放浪の騎士へと戻ったのだ。

 

 彼は、そんなにもあの王へ不満があったのだろうか。

 だとしたら何故、あの森の中での光景を、あんなにも尊いと感じていたのだろうか。何故、あの言葉に後悔を感じているのだろうか。

 夢をのぞき見しただけの雅には、彼の感じたすべてを理解することなどできない。

 

 わかるのは、彼がどうしようもなく後悔しているということだけ。

 

「マスター、起きていますか?」

「!」

 

 と、(ふすま)で仕切られた部屋の向こうから、当のアーチャーの声が聞こえて、雅は身を竦ませた。

 

「え、ええ。今、起きたところよ」

 

 上擦りそうな声を意識して押さえ込んで、雅は返答する。

 

「そうですか。もうすぐ朝食ができるので、起きるようにとサクラが」

 

 声は依然、襖の向こうから。

 一応、こちらに気を遣っているのだろう。

 雅が『起きている』と返答したにも関わらず、アーチャーは部屋に進入する素振りを見せない。

 心の準備をしたかった雅としては、彼の気遣いは素直にありがたかった。

 

 ふう、と一息つくと、すっくと立ち上がって手早く着替えを済ませる。

 手櫛で軽く髪をすいて体裁を整えると、襖を開けて部屋の外へと飛び出した。

 

「おはようございます、マスター」

「ええ。おはよう、アーチャー」

 

 なんとか平静を装えたことに安心した。

 マスターとサーヴァントの関係である以上、ある程度の記憶の共有はされてしまうものだが、彼の過去を覗いたことにはやはりそれなりの罪悪感がある。のぞき見した部分が、彼にとって大切な記憶だと確信しているから尚更だ。

 

「朝食は和風だそうですよ。それと、どうやら私の分の食事も用意されているようでして……。私に食事は必要ないと言ったのですが」

 

 こちらの内心を知ってか知らずか、アーチャーは少し困り顔でそんなことを言う。

 

「先生はもてなしたがりだから……、諦めなさい。昨日の夕飯もそうだったでしょう」

 

 昨夜、遠慮しつつも、結局誰よりも多く食事を口に運んだ騎士にそう返す。昨日の夕飯は洋風だったので、彼の口にも馴染んだのかもしれない。

 

「顔を洗ってくるから、先に行っていて頂戴」

 

 雅がそう言うと、アーチャーは頷きを一つ返してこちらに背を向けた。

 その背中が、夢で見た彼の去り際に重なる。

 

 理想の王と、信頼できる仲間。彼にとっての輝きがあった国。

 それらを捨て去るあの言葉。

 貴方はどうして────、 

 

「……アーチャー」

「なんでしょう?」

 

 気づけば声が漏れていた。

 振り向いた彼の目に浮かぶのは、純粋な疑問の色。

 

 

「貴方は────、」

 

 

 そんなにもあの王に不満があったの?

 そんなにもあの国にいたくなかった?

 

 問いかけて、バカな、と思う。

 違う。彼は心底、あの少年王を好いていたし、あの国のことも好きだったハズだ。だから尚更、雅にはわからないのだ。

 

 数秒考え込んで、結局雅は疑問を口には出せなかった。

 

「ごめん。なんでもないわ。もう行って」

「? はい」

 

 首を傾げながら居間に向かうアーチャーを見送って、雅は自分の頬を軽く叩いた。

 わからないことを考え込んでも仕方がない。悩む時間があるなら、もっと他にやるべきことがあるハズだ。今は命をかけた戦いの最中なのだから。

 そう自分に言い聞かせながら、雅は洗面台へと向かって歩き出した。

 

 

 ────アーチャーに直接疑問をぶつけることを恐れたのだと、心のどこかで自覚しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっちまった……!」

 

 けたたましく鳴り響く目覚ましの中、九条レイジは頭を抱えた。

 現在時刻は午前五時四十分。三台セットした目覚ましの内、一番目が鳴り始めた時刻である。

 昨日のような、始業時間ギリギリの起床ではない。むしろ余裕をもった起床だったのだが、九条的には今日の方がやらかした感が半端じゃない。

 

「飲み過ぎた……、きもちわる」

 

 うぷ、と吐き出したくなる気持ちを抑えて洗面台に向かう。

 昨夜は酒を飲みたいと言ったセイバーに付き合って二人で缶ビールを開けたのだが、完全に自分の許容量を見誤ってしまった。誰かと飲み明かす、なんて学生時代以来だった上に、セイバーのハイペースに釣られてあれよあれよのうちに酔いつぶれてしまったのである。

 要するに今の九条は、どんな言い訳のしようもないほど、二日酔いなのだった。

 

「……マスター、大丈夫か? 顔色がすぐれないが」

 

 九条が起き出したのを察知してか、セイバーが実体化してこちらの様子を窺う。その顔は、昨日あれほどのハイペースで缶を空けていったとは思えないほどいつも通りだった。

 

「ただの二日酔いだから、心配すんな」

「そうか? ……いや、これは私の過失だな。マスターがそれほど酒に強くはないと気が付かずに付き合わせてしまった」

「……」

 

 ────お前が強すぎるだけだからな?

 

 その言葉を寸でのところで飲み込んで、九条は手早く洗顔を済ませた。

 バシッ、と自らの両頬を叩き、気合いを入れる。気分の悪さは拭えないものの、とりあえず目は覚めた。

 気分も体調もすぐれているとは言い難いが、このまま家でダラダラやっていられる身分ではない。

 であるなら、やるべきことをやらなくては。

 

「とりあえず……、朝飯の準備、するかあ」

 

 米炊いたっけな? と自らの不確かな記憶をたどりながら、九条にとっての聖杯戦争三日目が幕を開けた。




※三日目が開始されました。相変わらず戦ってませんすみません。
真名は特定余裕だったと思うアーチャーですが、実際には読んでくださってる方の内、どのくらいのかたが察していたのだろうか。


【ステータスが更新されました】

【CLASS】アーチャー
【真名】トリスタン
【マスター】遠坂 雅
【性別】男性
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具?
【クラス別スキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【固有スキル】
愛の霊薬:B
 かつて飲み干した媚薬による強烈な恋愛感情。
 アーチャーは既に強力な魅了状態にあるため、他の精神干渉系のスキルを高確率で無効化する。







※FGOでは新宿解放されましたね。とりあえずクリアしましたが、楽しかったです。
あと我が王優遇されすぎじゃない? 差分に加えてラストのアレとかずるいわ……。
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