Fake/Another apocrypha after 作:ハトスラ
聖杯戦争三日目。午後。
どんよりと曇った空の下、拠点にほど近い歩道橋の上で、アサシンは何をするでもなく、ぼんやりと佇んでいた。
見る者が見れば、それはとても無防備な姿に見えたであろう。
霊体化するでもなく、周囲に気を巡らせている様子もない。纏っている衣装は現代風のもので、戦闘時における武装ではない。
もしも不意打ちでもされようものなら、たちまちのうちに敗退させられてしまいそうですらある。
戦いは原則的に夜間に行うものだとはいえ、昼間にしかける陣営がいないとも限らない。
実際に昨日などは、むしろアサシンが仕掛けた側ですらあったのだ。
そのことを踏まえてみても、やはり今のアサシンは無防備に過ぎる。
もっとも、現在進行形で高ランクの気配遮断スキルを使用しているアサシンを感知できるサーヴァントとマスターなぞ、そう多くいるとは思えないのだが。
「……」
静かに息を吐いて、歩道橋から眼下の道路を眺める。
平日の昼間であるからか、歩道を行く人はまばらだ。歩行者よりも、時折歩道橋の下を走り抜けていく自動車の方が数が多いくらいである。
騎馬よりもアレの方が攻撃力がありそうだな、などと思考を持て余しつつ、手すりにもたれ掛かった。
背中から落ちそうになるくらいに手すりに身を預けてみても、道行く人々はアサシンに関心を示さない。気配遮断スキルの影響で、関心を示すことすらできはしない。
ただただぼんやりと、取るに足らない思考と観察を繰り返す。
聖杯戦争の期間中であるというのに、ほとんど丸一日このような無為な時間を過ごしている。
自分はアサシンのサーヴァントだ。
クラス傾向として、戦闘はともかく、気配遮断を活かした諜報活動ならば優れている部類に入るハズだ。
にも関わらず、こんなところで呆然と突っ立っているだけ。
アサシンには主君の気持ちがわからない。
生前も、こうしてサーヴァントとして召喚された今も。
だから、何をすればいいのかがわからない。
何をすれば、主に喜ばれるのか。何をすれば疎まれるのか。何をすれば、主の為になるのかがわからない。
だから動けない。少なくとも、マスターがアベルの治療に手一杯な内は、身勝手な行動など何一つ取れはしない。
「我ながらなんとも」
情けないものだ、と自嘲する。
生前はもっと自由だった。もっと自由に戦場を駆け、自由に戦ったハズだ。
だが、今は────、
そこまで思考しかけた時、アサシンはマスターの異変に気が付いた。
昨日から絶え間なく治療に使われていたマスターの魔力が停止している。
直後に、そのマスターからの念話。
『どこをほっつき歩いていますの? さっさと帰ってきなさい、アサシン』
ともすれば身勝手とも取れる言葉には何も返さず、アサシンは命じられたまま、拠点を目指す。
八艘跳びで一瞬の内に拠点へと舞い戻ったアサシンが見たものは、憔悴した顔つきのマスターと、それに支えられたその従者の姿だった。
「アベル殿!」
「あ?」
適当なファストフード店で購入したハンバーガーをパクつきながら拠点へと戻ってきたライダーは、その存在を認めて眉を寄せた。
一辺が異様に長い廊下の先に、見覚えのない女がいる。
気配から察するにサーヴァントではない。かといってマスターでもない。
「おいアンタ」
ここは自分たちの拠点だ。
聞けば、新都にあるホテルのワンフロアを借り切って工房化しているらしい。敵サーヴァントや敵マスターの侵入を防ぐため、マスターたちがそれなりの結界を張っているのだそうだ。
そんな拠点にマスターでもサーヴァントでもない人間がいる、というのはいささか不自然にうつる。
無論、マスターたちが張ったという結界も完璧ではないだろう。
それにしたって、一般人がうっかり迷い込むことは考えにくい。
マスターのどちらかがルームサービスでも頼んだのだろうか、とも考えたが女の服装はホテルの従業員のものではない。街のそこいらで見かけるような、若い女の私服姿である。
その女は、ライダーの声には反応を返すことなく、フロアの一番奥の部屋────エヌマエルが幾つか確保していた部屋の一つのドアノブに手をかけた。
「待ちな」
瞬間、ライダーは彼女がノブを回すよりも早く、その腕を捻り上げた。
さすがにこれ以上は、黙って見ているわけにいかない。
一般人だろうが、マスターだろうが、みすみす雇い主の部屋への侵入を許したとあってはライダーの名が廃る。
この女が何者で、なんのつもりかはわからないが、少なくとも偶然ここを訪れたわけではないようだ。偶々ここにきて、偶々見知らぬ部屋に侵入してみたくなったなどど、そんなバカな話があるハズがない。
それでも極力、ライダーは音便にすませようと、努めて落ち着いた声音で言った。
「お姉さん、悪いことは言わんから帰りな。若い身空で、まだ死にたくはねえだろう?」
このフロアの各部屋は、それぞれに役割を定められ、その役割にふさわしい魔術品が置かれている。
ライダーにとっては無価値に見える物たちだが、マスターたち魔術師にとってはそうではないだろう。
そもそもにして、サーヴァント戦を目撃した、というだけで一般人を始末しようという倫理観の持ち主たちである。
この女が何もしなくても、魔術品を見たというだけで殺しにかかる可能性は十分だったし、もっと言えば招かれてもいないのにこんなところに入ってきている時点で、盛大にアウトな気もする。
彼女を生きて帰そうと思うのなら、マスターたちに見咎められる前に、ここを離れさせなければならない。
ライダーの台詞は、そういった気遣いと若干の脅しを含んだものだったのだが、女はやはりなんの反応も返してはこなかった。
言葉だけならともかく、現在進行形で腕を捻り上げているというのに、だ。
「その手を放したまえ、ライダー」
いよいよこいつは妙だな、と考え始めた矢先、このタイミングで最も聞きたくなかった声が聞こえた。
「……エヌマエル」
現れたのはキャスターのマスターにして、この工房の主、エヌマエル・ビューロウであった。ライダーのマスターであるレオンにとっては師匠にあたる。
「アンタと廊下で鉢合わせるのは珍しいな。最近じゃ寝てるか、起きてても部屋に閉じこもりっきりだってえのに」
「耳が痛い指摘だな。実際に、今もほとんど起き抜けのようなものだよ」
エヌマエルはライダーの言葉に笑いもせずにそう返して、
「それよりも、だ。もう一度言うが、その手を放したまえ。彼女は私の客人でね」
「あん?」
ライダーにとって、この言葉は完全に予想外だった。
この女は、てっきり招かれざる客であり、且つ可哀想な生け贄かと思っていたのだが……。
しかし、客というにはこの女は少々妙な気がしなくもない。
さっきも言ったとおり、魔力の気配も感じないし、そもそもただの現地人にしか見えないのだ。
とはいえ、エヌマエルが客だというならそうなのだろう。
微妙に納得のいかないまま、ライダーは手を放した。
途端、女はするりとエヌマエルの部屋の中に入っていってしまう。
ライダーに声をかけられたことも、腕を掴まれたことも、まるで気にしていないどころか、気づいてもいないような素振りであった。
「では、彼女を待たせてもいけない。私もこれで失礼するよ」
言って、エヌマエルもまた、女が入っていった部屋へと入っていこうとする。
「ああ、それから。私がいいと言うまで、この部屋には入らぬように。余計な面倒事を増やしたくないのなら、ね」
そう言い添えて、エヌマエルも部屋の中へと消えていってしまった。
「なんだありゃ」
ガシガシと、一人廊下に残されたライダーは頭をかく。
エヌマエルはあんな女を連れ込んで何をしているのだろうか。
そもそもあの女は何者なのか。女自身には一見して危険な様子はなかったから、あの部屋でエヌマエルが危機に陥ることなどまずないだろうが。
「アレはもうダメだな」
不意に、背後からそんな声が聞こえた。
ゆるりと振り向けば、そこにいたのは古めかしいローブ姿のサーヴァント。
「キャスターか。テメエまで部屋から出てくるとか、珍しいことは重なるもんなんかね」
「さてな。我はこの階に、我の知らぬ有象無象が集まっていると思って出向いたまでよ」
「ってえと、アレか。あの女のことはお前も知らなかっ……、まて。有象無象だと?」
ライダーの疑問に、キャスターはふん、と鼻を鳴らして、
「そうとも、あの女一人ではない。どうやら、マスターが招き入れているようだが……。ふん、この分では何十人連れてきたのやら」
「はあ? 何十人って、そんなに人を集めて何しようってんだ」
「知らん。知らんが、まあ想像はつくな」
キャスターは不愉快そうにそう言い切った。彼の中では、エヌマエルの行動になんらかの確信を得ているらしい。
一方のライダーは何もしっくりきていないので、置いてけぼりにされた感がひどい。
「……一応、同盟相手ってことになってんだ。隠し事はなしにしてもらいたいもんだね」
「バカか。相手が誰だろうが、人間は隠し事をするものだ。それがいずれ競争相手に変わる者なら尚更だろうに」
「はっ、違げえねえ」
とはいえ、もやもやは晴れない。
キャスターが放置している以上、エヌマエルに危険はないだろうが、とばっちりでこちらが迷惑を被ることになる展開だって、ないとは言い切れない。
大体、エヌマエルやキャスターに無害だからと言って、レオンにも無害だとは限らないのだし。
「別に貴様の心配するようなことは起こるまいよ。そもそもが、貴様が見て取ったように、あの女は一般人だ」
「だよなあ。俺の感覚がおかしくなったかとも思ったが、やっぱそういうことじゃないよなあ」
こちらの思考を見透かしたかのようなキャスターの言葉に、そう相づちを打つ。
ただの一般人なら、まあレオンが後れをとることはないだろう。その点では安心した。
「けど、やっぱ納得ってのとは別問題だな。あのオヤジなに考えてやがる」
「ここまで材料が出揃っていて、まだその言葉が出てくるあたり、貴様はそうとう鈍いな。いや、ある意味で純粋なのかね」
「あ?」
誉められたような呆れられたような。
微妙な言い回しをするキャスターに、思わず睨みを利かせると、ローブのサーヴァントは尊大な態度を崩しもしないまま口を開いた。
「力のある男が、力のない女を複数人囲っている。これはただ、それだけの話だろうに」
「……は?」
予想を超えた言葉に、思わず素っ頓狂な声が出る。
「んなバカな。猿じゃあるまいし、この戦争中に盛ってるってのか」
「だから言ったろう? アレはもうダメだ、と」
確かにこのサーヴァントはそんなことを言っていた。
ライダーは、てっきり部屋に踏み行った女のことを指しているのかと思っていたのだが、この言いようではどうやらエヌマエルのことらしい。
「兆しはあったが、思いの外早かったな」
「なに?」
「……次を探すか」
ぼそりと、聞き取れるギリギリの声音でキャスターが言う。
ライダーは眉間に皺を寄せた。
「次? テメエ、マスターを切り捨てるつもりか」
「なんだ。ダメになった同盟者を切り捨てるのは、勝つために必要なことだろう?」
「……」
それは確かにそうだ。
マスターに心底惚れ込んで、その願いを叶えてやりたいと思っているのでもなければ、サーヴァントがマスターを切り捨てることは、別におかしなことではない。自分たちにも悲願があるのだから、むしろ積極的に強いマスターと再契約を結びに行ったとしても、それはそれでありだろう。
無論、ライダー個人の感性で言えば気に入らない。
だが感情論を抜きにすれば、キャスターの言葉を咎めるのはお門違いである。
気に入らないながらも、一応はキャスターの言葉を飲み込んで、ライダーはそれとは別に引っかかっていた問いを投げた。
「兆しとか言ったな? そりゃどういう意味だ。テメエ、なにを知ってる?」
「知っているもなにも、サーヴァントとマスターは互いにある程度の影響を与えあうものだ。大方アレは、無意識のうちに我が魔力に当てられたのだろうよ」
ハッ、と吐き捨てるようにキャスターが言う。その態度にライダーは目を細めた。
言葉の意味は全くわからない。そもそもライダーの問いに対する、答えになっていない。
わかるのは、そう語ったキャスターが、今の状況をあまり好ましく思っていないだろう、ということだけだ。
訝るこちらに対し、キャスターはこれ以上の説明をするつもりはないらしい。話すことは話したとばかりに、ローブを翻し、こちらへと背を向けた。
「それ、ベレロフォンですわよ」
あっけらかんと告げられた名前に、アサシンはお茶を飲む手を止めた。
テーブルに置かれたお茶菓子から目を上げると、何事もなかったかのようにカップに口をつけるお嬢様の姿が目に入る。
「ベレロフォン?」
「ええ、キマイラ殺しのベレロフォン。馴染みがないかしら? そこそこ有名でしてよ?」
「キマイラ、というと鵺のような?」
「ぬえ?」
こてん、とアサシンの主が首を傾げた。
すぐ脇のソファからアベルが立ち上がり、全身包帯だらけの痛々しい姿ままお嬢様に耳打ちする。
お嬢様は「ああ」となにやら納得して頷いてみせた。
「混ざった獣ということなら、似たようなものかしらね」
「どの国にも似たような伝承がある……、というよりはもしかすると同じ物だったのかもしれませんが」
お嬢様の言葉にそう言い添えたアベルを一瞥して、アサシンは目を細めた。
治療により一命をとりとめたとはいえ、彼は間違いなく重体患者だ。実際に、今も顔色は酷いものだし、ちょっとした挙動にも精彩欠いているのがわかる。
本来はこんなところで作戦会議に参加などしていないで、別室で安静にしているべきである。
それでもアサシンが何も言わないのは、動くと言って聞かなかった従者としてのアベルの意志を尊重したからである。
もっともアサシン的には、その心意気自体は立派だとは思っても、今のこれは無駄な意地だと思わなくもない。
身分や立場がどうあれ、休まなければならない時には休まなければ、相応の能力は発揮できないものだ。
少しばかり効率が悪いな、と感じてしまう。サーヴァントの分際で、決してそれを口に出すことはしないが。
「しかしベレロフォンでしたか。随分と正体に確信を持っていらっしゃるようですが……、根拠など伺っても? 海神の眷属、というだけでは根拠として弱いでしょう?」
「英雄ベレロフォンは、キマイラの口内に鉛を投げ入れ、キマイラの吐き出す炎を跳ね返して勝利した、というのが通説です。
あの『
「アレが鉛、ですか」
「ええ。より詳しく言うのなら『鉛付きの槍で喉を突いて』だとか、『吐き出す炎に溶かされた鉛が、キマイラの喉を塞いで焼いた』だとか、そういう表現になるそうですわよ。
あのサーヴァントの宝具も、『溶けて槍に装着された』ようですし、名前といい、ほとんど決まりではないかしら?」
なるほど。
宝具とは英雄のシンボルだ。宝具の能力から、あのライダーの真名を探る推理としては、概ね正しい道筋な気がする。
「しかしその推理が正しかったとして、鉛が宝具とはまた
「女装で気配遮断が発動する貴方には言われたくないと思いますけれど? ……まあその話は置いておいて、大切なのはどう対策をするか、という話でしてよ」
「ええ。その通りです。見た限り、ライダーのあの宝具は随分と融通がきくようですし」
自在な変形。射程の調整。分裂。
アサシンが偵察で見たそれらの能力に加えて、さらにもう一つ、使い魔からの記録映像で明らかになった能力。
「高ランクの防御性能」
「防御というよりは反射かもしれませんわね、アレ」
溜息混じりにお嬢様が言う。
アサシンがアベルを抱えて離脱した戦場には、情報収集のためお嬢様が放った使い魔がいた。
小鳥を模したその使い魔は、ランサーの宝具によって起こされた津波とその被害、そしてそこからまんまと生還して見せたライダーの姿を、上空からしっかりと捉えていたのである。
「ランサーの宝具は、少なく見積もってもCランク以上の対軍宝具。それを完全に防いでみせたとなれば、ライダーの宝具が特別防御に優れているか、そういう特性を持っていると考えるのが妥当でしょう」
「さきほどベレロフォンは『炎を跳ね返してキマイラを倒した』と仰っていましたね。なら防御力よりは反射かな……。いえ、もちろん素の防御力も優れているのでしょうが」
なんにせよ、難敵です。とアサシンはこぼした。
「攻略は難しいですか?」
と、アベル。
アサシンは頷いて、自らの所感を語った。
「少なくとも、僕にランサーほどの攻撃力はないですから。ライダーがあの宝具で防御を取った場合、僕では突破することは不可能かと」
アサシンに対軍宝具に匹敵するほどの火力はない。
これが他の適正クラスで喚ばれていた場合、また違った感想だったのかもしれないが、それは言っても詮無いことである。
「防御の堅さを抜きにしても、あの自在性は驚異です。少し程度の速さは、あの宝具の隙のなさに埋められてしまう」
事実、宝具展開後のライダーはランサー相手に互角の勝負をしてのけている。
それは少なくともランサー以上の技量、速度、破壊力を持ったサーヴァントでなくては、宝具展開後のライダー相手には優位に立つことが出来ないということだ。
確定的な情報だけでもこちらに不利な事柄ばかりだが、それに加えてもう一つ。ライダーの戦力を考える上で無視できない事柄がある。
「それにライダークラスである以上、当然アレ以外にも宝具を所有していると考えざるを得ない」
アサシンは、ライダーが複数の宝具持ちである可能性を訴えた。
ライダーとは騎兵、つまりは『何かに乗って戦う』サーヴァントクラスである。
であれば、セイバーが剣を、ランサーが槍を持って召喚されるのと同じくして、ライダーとして召喚された時点で、その者はなにかしらの乗り物を所有して現界するハズであろう。
馬、戦車。それがなんであれ、ライダークラスの持つ武装ともなれば、宝具である可能性は大いにある。
「彼の愛馬。ペガサスも宝具として持ち込んでいる可能性が高い────いいえ、ライダークラスである以上、確実に所有していると考えるべきですわね」
アサシンの言わんとしているところを察して、お嬢様が言う。
ここまでで、こちらに有利な情報がないためか、その表情は少しばかり暗い。
「過去の亜種聖杯戦争で」
と、同じく暗い顔をしたアベルが切り出した。
「ペガサスを宝具として使ったサーヴァントがいたそうです。その時の推定宝具ランクはB~A+程度。種別は対軍」
もっともその英霊はベレロフォンではなく、ペルセウスという話でしたが。とさらにアベルが付け加える。
「それ、ペルセウスでも同じことでしょう? ベレロフォンのペガサスは元々ペルセウスの所有していたものですもの」
「うーん……、データがあるのは僥倖でしたが、推定Aランクの対軍宝具ですか」
アベルとお嬢様からもたらされた情報に、アサシンは渋面を作った。
宝具の種別は、その特性ごとにいくつかに分類分けされる。
対人宝具。
対軍宝具。
対城宝具。
さらに細かく分けることも可能ではあるが、宝具の種別といえば概ねこの三種類である。
このうちペガサスの宝具タイプだと思わしい対軍宝具は、その名のとおり『軍隊のような複数人を相手にできる』タイプの宝具である。個人を狙い撃ちにする対人宝具とでは、文字通り効果を及ぼす範囲が違う。
無論、対人と対軍。どちらが優れているというわけではないが、それでも広範囲をまとめて吹き飛ばす対軍宝具は脅威だ。効果範囲が広いということは、それだけ避けにくいということでもある。
加えて、推定宝具ランクA。
CランクないしBランク宝具だと断定されたランサーの槍ですら、未遠川沿岸部を大きく蹂躙した。
単純に考えれば、ランサーの槍よりもライダーが持つとされるペガサスの方が、ずっと威力が高いということなのである。
「使い勝手のよい対人宝具と、火力を備えた対軍宝具を持つサーヴァント。……わかってはいましたが、やはり聖杯戦争は一筋縄ではいかないようですね。
ただ……」
「ただ、なんです?」
首を傾げるお嬢様に、アサシンは意識して笑顔を向ける。
「僕はアサシンですので、必ずしもサーヴァントと正面衝突する必要は薄いかなー、なんて」
「それは……そうですけれど。それを言い出したら、敵方のサーヴァントの戦力分析なんて無意味になってしまうじゃないの」
「いえいえ。奇襲、暗殺、正面突破。どれを選ぶにしても、敵方の戦力把握は大切ですよ。
実際、ランサーには僕の気配遮断が通用しませんでしたから。いやあ、肝が冷えました」
アサシンが告げた内容に、お嬢様とアベルの表情が凍り付いた。
「それは……、本当ですか? あのランサーは攻撃態勢に入った貴方を見て、迎撃を選択したのではなく、初めから貴方がサーヴァントだと気づいていた、と?」
それが事実だとすると、アサシンにとってランサーは天敵だ。
アサシンのクラスが持つスキル・気配遮断は、文字通りスキル所有者のサーヴァントとしての気配を絶つスキルである。
スキルランクが高ければ高いほど効果は上がり、Aランクの気配遮断ともなれば、たとえ目の前で会話を行おうとも、そのサーヴァントの姿を認識できないほどのモノと化す。
そしてこのアサシンの持つ気配遮断ランクはD。
アサシンクラスの持つ気配遮断としてはランクは低めだが、彼の持つスキルは少々特殊だ。女性に見える格好────端的に言えば女装することで気配遮断のスキルランクを大幅に引き上げることができるのである。
その場合の気配遮断スキルはAランク相当。
件のランサーとの接触時、アサシンは地元の女学生風の格好をしていた。スキルランク上昇の条件は揃っていた訳である。
その上でランサーに気配遮断を破られたというなら、ランサーにはなにか、気配遮断スキルを無効化する能力があるということ。
直接戦闘型とはいえないアサシンクラスにとって、気配遮断を無効化してくる三大騎士クラスなぞ、悪夢に等しい。こちらのもつ唯一といっていいほどのアドバンテージを無力化されるのだから。
「ランサーは気配察知に優れているというよりも、むしろ観察眼に優れているのだと思いますが」
「? それは貴方が見せた挙動から、一般人ではないと見破った、ということですか?」
「いいえ? それならば気配の弱さで、僕をマスター辺りに誤認するでしょうね。ただ、彼は『僕がサーヴァントである』と確信していたように思うので」
そうでなければ、いかなランサーといえども、マスター狙いの一閃を容易に止められはしまい。
ならば、考えられるとするなら、
「彼には僕の性別が、きちんと男に見えていたということでしょう。僕の気配遮断スキルは『女性に見える姿』を取ることで向上しますが、逆に言えば、そう見えなければスキルランクは変動しない……どころか、スキル自体が上手く働かない事態も考えられます」
アサシンの言葉に、人間二人がしばし絶句する。
何かおかしなことを口走っただろうか、と首を傾げるアサシンに対して、ややあってお嬢様が口を開いた。
「貴方の
「基本、僕は間違いなく男ですので。まあ、そういうこともあるでしょう」
「……納得いきませんわ。どんな穿った見方をすれば、アレが男に見えるというの」
ブツブツと、まるでなにかの呪詛を唱えるかのようにお嬢様が言う。
こちらのスキルに信頼をおいてくれるマスターに申し訳なく思う一方、アサシンとしては先に語った見解のとおりである。
すなわち、まあそういうこともあるだろう。
「そういう事情ですので、ランサー陣営に対しては少しばかり暗殺が難しいと思っていただく必要があります」
わき道に逸れかけた話題を修正する。
相変わらず顔色の優れないアベルが口を開いた。
「ランサーには積極的に仕掛けず、他のサーヴァントに倒させる方向にした方がいいかもしれませんね」
「確かにランサー単独で見た場合はそうですね。あちらには無敵宝具があり、こちらにはそれを破る手段がない。加えて、彼には僕の気配遮断は通用しない」
自分で言っていて、中々ひどい相性だと思う。
なんの準備もなくランサーと一騎打ちとなれば、まず間違いなく敗北してしまうだろう。
「ただ、まあ、これは聖杯戦争ですので。ランサーに勝てなくても
「マスターの排除? けれど貴方、先ほど自分でランサーには気配遮断が通用しないと言ったばかりでしてよ」
こちらの言葉を先読みしてお嬢様が言う。
彼女の言うことは、もっともな意見だ。なにしろアサシン自身が『気配遮断が通用しないから暗殺は難しい』と言ったのだ。
けれどそれは、マスターがランサーを側に控えさせていた場合の話。
「ランサーとマスターを引き離せば、問題なく殺せますよ」
「理屈はわかりますが、どうやって? 一度奇襲に失敗している以上、あちらはこちらを警戒しているのでは?」
「どれだけ警戒していても、四六時中一緒にはいられませんよ」
アベルの反論に、アサシンはそれは問題ないと笑顔を作った。
「戦争も終盤だったのならわかりませんが、まだ情勢の混迷としている序盤です。聖杯を穫るつもりがあるのなら、敵の情報を探るために、無敵を盾にしてランサーは積極的に戦闘させるべきだ。
少なくとも、僕ならそうします。向こうのマスターもそう思ってるんじゃないかな?」
そう。勝つつもりがあるのなら、できるだけ早く、多く、敵の情報を入手しなければならない。
そして無敵の肉体があるランサーにとって、もっとも手っ取り早い情報の取得手段は戦闘のハズだ。
一回の戦闘で手に入るデータは、ちまちました偵察で得られるものより何倍も大きい。
ランサーの戦闘中はマスターが一人になってしまうが、そのリスクを負ってなお、得られる情報のメリットのほうが大きいハズだ。
勝つためなら、多少のリスクは負わねばならない。
アサシンが狙うとすれば、そのタイミングだろう。
それに、
「それに、あちらは僕が脱落していることも視野に入れていると思いますよ? なにせ『アサシンのマスターは背中からライダーに一突きにされてしまった』んですから」
「「あ」」
アサシンの言葉に、二人が間の抜けた顔をする。
先日の戦闘で、アベルはおおよそアサシンのマスターらしい振る舞いをした。
ならばあの戦闘を隠れて見ていた者も、実際に戦闘を行った者たちも、アベルをマスターだと誤解しても不思議はあるまい。
その上で、あの戦闘から見たこちらの情報を整理するのなら、アサシンたちは『生死不明のマスターとそのサーヴァント』ということになる。
そしてその認識は、アサシンたちにとって有利に働くだろう。
「数回の偵察と戦闘で敵の情報はいくらか集まった。マスターが外にでないおかげで、こちらのマスターの正体を知るものはいない。情報の上ではそれなりに有利です」
確かに、アサシンはランサーと戦闘を行えば、いずれ敗北してしまうだろう。
確かに、アサシンはライダー相手に有効な攻撃手段を持たないだろう。
それはこれらの陣営を敵に回すにあたって、とても不利な事柄だ。
だけど不利だと、それがわかっている。
そしてアサシンがこの戦争に勝ち筋を見いだすには、たったそれだけで十分だった。
「アサシンが脱落していないことは、そのうち誰かが気付くことでしょうが、今はこれを隠れ蓑にして、ゆっくり一人ずつ殺していきましょう」
ライダー:騎乗物は持っていないと言った(震え)
※更新遅れまくりですみませんでした。誰か読んでくれているといいな……
作中でアベルくんが言ってたように、この世界線では亜種聖杯戦争が多発しているので、過去の聖杯戦争からの情報で、ある程度宝具ランクなどにあたりがつけられます。
アポクリファマテリアルでは聖杯戦争wikiなる存在も示唆されてましたね。
【ステータスが更新されました】
【CLASS】ライダー
【真名】ベレロフォン
【マスター】レオン・モーガン
【性別】男性
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運B 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:D
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:A+
騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし竜種は該当しない。
【固有スキル】
神性:D(B)
神霊適正を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
海神ポセイドンが父であるとされるライダーは、本来なら高い神霊適正を持つのだが、現在は大幅にランクダウンしている。
【宝具】
『
ランク:C++
種別:対人宝具
レンジ:1~12
最大補足:1人
意志を読みとる流体金属。
普段は籠手として担い手の腕に装備されているが、真名解放で流体として解放され、敵に襲いかかる。担い手の意志に応じてあらゆる形状に変化させられる他、敵の魔力に反応してある程度の自動迎撃も可能。
また、武器へと装着することで武器のレンジを調節することもできる。
さらに怪物殺しの特性も持つため、怪物属性を持つ者に追加でダメージを与える。
この宝具の本来の用途は攻撃ではなく防御であり、盾などの形状に変化した際には攻撃を反射する特性を持つ。
※ここから読まなくてもいい話。
どうでもいい話ですけど、ペルセウスくんが参戦したのは亜種聖杯戦争inギリシャとかいう設定。
圧倒的な知名度補正と多彩な宝具で他を圧倒! ……しましたが、あえなく敗北。
本人は「まさかペガサスで轢き殺してる最中に殺されるとは思わなかった」などと話しており、作者的にはやっぱり十二回のガッツは反則だと思うよ君の子孫