Fake/Another apocrypha after   作:ハトスラ

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半端者。そして五人目。

~~1日前~~

 

 

 

 つくづく甘い、と(みやび)は自分に対して嫌気が差した。

 

 玄関をくぐってすぐに寝室へと向かった雅は、鞄と制服を乱雑に脱ぎ捨て、そのままベッドへと飛び込んだ。

 ぎし、とマットに仕込まれたスプリングが軋み、雅の体重を受け止めて揺れる。

 

「……制服、架けておかないと」

 

 布団へと顔を埋めながら呟いた。

 あのまま放置してしまっては、皺になってしまうかも知れない。

 ああ、でももう面倒くさいな。ついでに夕飯の準備も、なんならお風呂だって面倒くさい。

 

 こうなってしまうと、もうダメだ。何をする気も起きなくなってしまう。

 ほんの数秒前に制服を脱ぎ捨てたのは自分自身だったが、面倒くさがらずに、その場で架けておくべきだった。

 理屈では動かなければと思うのだが、ダメだ。やはり動く気がしない。

 

 そんな自分の自己評価は過去最低。

 

 けれどそう思うことは、ままある。

 つまりそれは最低を更新し続けているということか、と思い至って、思考を放り投げた。

 

 先に断っておくと、雅は比較的優秀な人間だ。

 

 学校での成績は常に上位に食い込んでいるし、運動神経の方も悪くないと思う。少なくとも二年生になってからも、数多の運動部から勧誘される程度の運動神経はある。

 友人関係も、雅の思う内では良好だし、別に教師たちと折り合いが悪い訳でもない。

 

 だから今、そして過去にあった自分に対する失望は、そういった『日常』のものとは違ったものだ。

 日常の裏側にある、決して表舞台に上がってこない世界。神秘だとかオカルトだとかを、実在するものとして扱う社会に生きる人間たち。

 

 雅は所謂、魔術師、という奴だった。

 

 そして今現在、雅が消えてなくなってしまいたいくらいに凹んでいるのは、その『魔術社会の人間として』に起因する。

 

 とはいっても、前述したとおり雅は優秀な人間だ。

 それは何も、『日常を生きる人間として』だけではない。魔術の扱いに関しても雅は天稟と呼べる才を持っている。魔術の師である祖母からは『覚えが良すぎて虐め甲斐がない』とまで言われた程だ。

 魔術師にとって、才能に直結するといわれる『家柄』だって、雅を数えて八代目。十分に名門と呼ばれる古い家系である。

 それ故に雅は、自分に魔術を扱う才能があること自体は自覚していた。

 

 けれどそう言った才能とは別の一点において、雅はそこいらの三流魔術師にすら劣る、とも自認している。

 

 自分には、決定的に覚悟が足りない。

 

 ただ、それだけだ。

 それだけのことだが、それは雅にどれほどの才能があろうと、すべて無意味にしてしまえるだけの事柄でもあった。

 

 

 魔術師にとって第一の悪は神秘の漏洩である。

 魔術師たちの扱う神秘は、多くの人間に認知されてしまえば神秘ではなく一般常識に成り下がる。それを嫌うからこそ、魔術師たちは世間から隠れて研究を行い、自ら扱う秘術をたやすく明るみには出さない。

 そして万が一、神秘を知られてしまった場合、口封じの為に人を殺す、ということも珍しくないのである。

 

 もちろん、命は大切なものだ。そんなことは魔術師にだってわかっている。

 けれど、魔術師とは神秘の研究者だ。そしてその研究者にとって一番大切なこととは、自分の研究結果とその過程なのである。

 人の命は大切だ。だけど自分の研究はもっと大切だ。要するにこれは優先度の問題なのである。

 程度の差、考え方はまちまちだろうが、魔術師とは概ねそういう生き物であると考えてよいだろう。

 

 そして雅には、その辺りの『初めに持っておくべき覚悟』というものがまるで足りていないのだ。

 

「でも、さ」

 

 誰に聞かせるためでもなく、ただ自分への言い訳の為に言葉が漏れる。

 それに対して、本当に自分はどうしようもないな、と自覚しながらも雅の言葉は止まらない。

 

「そんなこと考える暇なんて、なかったんだよ……、助けちゃったんだよ」

 

 胸にわだかまる想いを吐き出しながら、雅の意識はまどろみの中へと落ちていった。

 

 

 

 猫と少年を助けたのだ。

 

 

 

 いつもの通りの高校からの帰り道、工事現場を通りがかった雅は「ああ、開発もここまできたか」と他人事のように思った。

 いや、正しく他人事なのだが、一応この近辺に住む住人の一人としてはもう少し別のリアクションがあったかもしれない。

 

 ここ冬木の地は中央に流れる未遠川を境に、東側が新都。西側が深山町して分かれている。新都側には高層ビルなどの近代建築が多く立ち上り、深山町側には古い町並みがそのまま残っていた。

 というのは十数年前までのことで、ここ十年程は新都側から徐々に深山町にも新しい建築物が増えてきているのである。

 

 雅が通りがかった工事現場もその一つのようで、工事の内容を示す看板には『深山ショッピングセンター』と書かれていた。

 名前からして、ここらに住む学生や奥様方には嬉しい施設な気がするが、果たして生き残れるだろうか?

 マンションやアパートならばいざしらず、深山町に建つこういったショッピングモール的なものは、最初の頃こそ物珍しさで興味を引くが、最終的に新都の店にお客を取られてしまうのが常である。

 開店一年で潰れるなんてことにならなきゃいいけど、とまだ完成してもいない店の心配をして通り過ぎた。

 

 雅の進行方向では工事の作業員らしき青年が、工事区画内に進入、または出ていく歩行者と車両の誘導を行っている。

 工事が始まってかれこれ二週間ほどだが、こういったものを目にするのが今日が初めてだった。工事の区画が広がって道路側に影響が出てきたのだろう。たしかに工事用車両の出入り口は少々見通しが悪い。

 雅が普段はスルーする工事現場をまじまじと観察していたのもそれが原因だ。

 巻き込まれ事故が一番多いって聞くしね、とため息をついたその瞬間だった。

 

 一匹の猫が道路に飛び出した。

 猫としては普通に道路を横断しようとしただけなのだろう。猫は猫なりに安全を確認して飛び出したのだろうし、雅だって猫一匹なら見逃した。

 けれどその猫を追って、小さい男の子が道路に飛び出したのである。

 そしてそのタイミングで工事現場から大型の工事車両が道路へと進入してきた。猫を追って走っている少年の位置は、ちょうど右折してきた工事車両に巻き込まれる位置だ。

 運転手の不注意、と責めることは出来ないだろう。車両の速度は間違いなく徐行だし、左右確認を怠っている様子はなかった。ただ、見通しの悪い道路を、大型の車両で右折してきた結果、どうしようもない死角が生まれてしまっていただけだ。付け加えるなら、絶望的にタイミングが悪かったとしか言いようがない。

 歩行者と車両の誘導を行っていた作業員も慌てて車両を止めに入るが、どうやったって車両の停止よりも少年が巻き込まれる方が早い。

 

 巻き込まれたら痛いだろうな、と思った。

 少年も運転手も、これからの人生が台無しになるかもなあ、と思った。

 

 思ったときには鞄を投げ捨てて走り出していた。

 一歩目で、走っても間に合わないと気付いたから魔術回路を起動した。

 二歩目で、全身に『強化』と『軽量化』の魔術を施した。

 三歩目で、猫の首根っこを引っ掴んで少年を抱き抱えた。

 四歩目で、思い切りアスファルトを踏みつけて工事車両から飛び退いた。

 

 端から見たら、雅の動きはありえないものだったろう。

 何せ十数メートルの距離をたったの四歩、それもほんの1秒程だ。もしかしたら、周りからは雅が飛んでいるようにすら見えたかもしれない。

 その事に気付いたのは抱えていた猫と少年を手放した時で、同時に周囲から歓声が上がった時だった。

 

 そのあとはもう、何とか周りの人間を誤魔化してこの場を去ることしか考えられなかった。

 幸いにして、事の一部始終を見ていた人間はいなかったらしい。周囲からは『度胸と運動神経が人並み外れた女子高生』という認識で済んだ。

 確かに最後の方だけ見ていたなら、そういう風に見えたかもしれない。というか、そうであってほしい、というのが雅の偽らざる本音だ。

 

 そうやって何とか事を荒立てないように苦心して、工事現場を離れて、そこから家へ向かう道でふと、自分の迂闊さに気付いたのだった。

 

 理由はどうあれ、一般人の目の前で魔術を使った。

 今回はたまたま異常だと思う人間がいなかったが、人前で魔術を使うなという魔術師のルールから外れた。

 

 そのことが雅の胸に重くのしかかる。

 

 では、あの少年と猫を見逃せばよかったのだろうか。

 極論、彼らは雅にとって何の関わりもない人間たちなのだし。そんなものの為に、わざわざ人前で魔術を使うなんて危険を犯す意味はない。

 けれど、自分にはそんな風に割り切れるだけの強さがない。

 では助けるとして、魔術を使わずに助けることができればそれでよかった訳だ。

 訳だが、あの状況ではそんなことは不可能だと理解してしまった。

 

 ならば結局どうすればよかったのだろうか、と考えたところで起こしてしまった出来事はなかったことにはできない。

 だったらせめて、少年たちを助けることができた自分自身に胸を張るべきだ。

 そういう風に考えられたならずっと良かったのに、雅の胸には黒いもやが残る。

 

 もし師匠である祖母が同じ状況になったら、少年を見捨てるだろうか。

 ……きっと助けるだろう。彼女は生粋の魔術師だが、妙なところで人間的だ。

 けどそのことに対して反省はしても後悔はしない。だって間違っていないし、と自分の行動を肯定する。

 もしかすると、もっと上手い方法で魔術も使わずに問題を解決してしまうかもしれない。

 

 では雅の敬愛する祖父ならば。

 彼もきっと間違いなく助けにいく。

 誰かを助けたいと思って力を尽くすことを、彼は否定しない。他人を助けることが最優先だから、きっと戸惑いなく魔術だって使う。

 そして決して後悔はしない。それで助けられる人がいるのなら、絶対に。

 

 自分には決してそんな風になれない。二人ほど自分の行いに対して自信が持てない。行動に伴う覚悟が足りない。

 周囲の歓声で我に返って一番に思ったのが、『助けてしまった』だったから。助けたことにすら後悔をして、そしてそんな風に感じた自分自身に心底嫌気が差している。

 

 

 

「最っ低だ。アタシ……」

 

 

 

 目覚めの気分は最悪だった。

 まだ上手く働かない頭で時計を見ると、時刻は既に深夜を示していた。丸一日以上眠っていた、なんてことはさすがにないだろうが、それでも8時間近く眠っていた計算になる。

 やらかしたー、と頭を抱えて身体を震わせる。やけに寒いと思ったが、そういえば今の自分は下着しか身につけていなかった。

 ベッドから起きあがり、とりあえず脱ぎ散らかした制服をハンガーに架ける。タンスから適当に見繕った服に袖を通すと、雅は足早に寝室を出た。

 

 時刻は深夜一時前。

 雅にとってもっとも波長のいい時間帯。そのピークが午前三時なことを考えると、あまり悠長に時間を使っている暇はない。

 

 魔術師たちによる、たった一つの聖杯を奪い合う殺し合い。聖杯戦争へと参加するため、今宵、雅はサーヴァントを召喚する。

 召喚に失敗は許されない。

 召喚自体は聖杯が行うとはいえ、召喚を成功させたいのなら細心の注意と最大の努力をするべきだ。

 

 だから、今日の夕方に感じた余分なもの(自己嫌悪)は捨てていく。……ことは無理なので、せめて思考の隅に追いやって、今だけは儀式に集中する。

 

「ふう……。じゃあ、少し頑張りましょうか」

 

 声は自分で思っているよりも落ち着いていて、『ああ、これならなんとか誤魔化せるかな』と思った。

 

 

 

 

 

 

 まず敵陣営にライダーを当て、敵の情報を得てからもう一人のサーヴァントを投入する。ライダー陣営の戦略としては、概ねそういったものだった。

 今現在は部屋の中央で、彼のマスターとその師匠(・・・・)がサーヴァント召喚の儀式を進めている。

 

 部屋の隅で壁に背を預けながら、ライダーは中央で作業しているマスターたちを見ていた。

 

「では、これよりサーヴァントの召喚を行う。君は下がっているように」

「はい、師父」

 

 そんな短いやりとりの後、ライダーの元にマスターが歩いてくる。

 これより召喚を行うのは彼の師匠だ。彼らは師匠と弟子、二人一組で聖杯戦争を戦う腹積もりなのだ。

 

 ライダーとしては、その辺りのことに不満はない。

 これは単純な個人の戦いではなく、戦争なのである。同盟という形で他の陣営と協力することは、決して間違った戦略とはいえないだろう。その結果、ライダーが他のサーヴァントの力量を測る当て馬になるのも、それはそれで仕方がない。

 もともと自分一人で全陣営と戦うつもりもあったのだ。他の陣営をすべて倒した後に、協力者と決着をつければそれで済む話である。戦うな、と言われているならともかく、戦え、と言われるのならば文句を言う筋合いはない。

 

「けどマスター。アンタはいいのかよ?」

「いい、とは?」

「アンタだって懸ける願いの一つや二つ持ってんだろ? 自分の駒を使い捨てにするような戦略じゃ、アンタが勝ち抜くのはちょいと難しいぜ?」

「私の願いは師父を勝たせることです。それが叶うのなら、この戦略に文句はありません」

「……さいで」

 

 場合によっては、自分のサーヴァントと決定的な溝が生まれかねない言葉を平然と口にするあたり、このマスターは少々阿呆なのかもしれない。

 そんな風に呆れつつも、ライダーは別に怒りや不満を感じてはいなかった。

 途中で力つきるのなら、それは自分の力量不足。土壇場でマスターに裏切られるのなら、それは信頼関係を築けなかった自分の努力不足。あるいは、それまでに別の信頼できる者を見つけられなかった、自分の間抜けさが原因だ。

 そんな風に考えているから、この場でライダーとマスターが決裂することはない。

 

 だからライダーの興味は別のところに移っていく。

 

「ま、世の中そうそう思惑どおりいくとも思えんがな」

「聞き捨てなりませんね、ライダー。貴方が情報を集め、師父のセイバー(・・・・)が決着をつける。この戦略に何か問題でも?」

 

 聖杯が用意する七つのクラスの内、最優とされるセイバー。

 たしかにセイバーのクラスが噂どおりの性能であれば、この戦略の勝率は多いに高くなるだろう。

 しかし、肝心のサーヴァントの召喚は今からなのである。呼ばれる者がセイバー、それも強力なサーヴァントであるとは限らない。

 己のマスターも、今部屋の中央で召喚の詠唱を始めた魔術師も、自分たちが召喚するサーヴァントがセイバーだと疑っていないが、それこそが穴であろうとライダーは思う。

 

「それこそまさかですよ。あの触媒(・・・・)でセイバー以外が呼ばれるなんてありえません」

「まあ、俺も十中八九セイバーだとは思うが……」

 

 彼らが所有する霊器盤は、既に四体のサーヴァントが召喚されたことを示していた。

 一番手がランサー。次いでバーサーカー、ライダー、アサシンの順である。

 過去の聖杯戦争の事例から、クラスの重複はないとして、喚ばれる可能性のあるクラスはセイバー、アーチャー、キャスターの三つ。理屈としてはまだセイバーを喚べる。

 

 加えて彼らが使う触媒は『血に濡れてどす黒く変色した菩提樹の葉』だ。

 かつてルーマニアで行われた未曾有の聖杯戦争。『聖杯大戦』と呼ばれる戦いで、とある魔術師が用意した触媒と同じ物である。

 亜種聖杯戦争が盛んな今、英雄の聖遺物は基本的に同じ場所に留まらない。さまざまな理由から元の持ち主の手を離れ、次の聖杯戦争で触媒に使われる。その触媒で召喚できる英霊が強力であればあるほどに、それは顕著だ。

 そして、この聖遺物もそういった物の一つ。

 これに引き寄せられる英雄は、()のネーデルラントの大英雄。不死身の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)であろう。

 彼ならば問題なくセイバーに該当する。

 ライダーの適正もあるだろうが、その枠はすでに埋められているし、彼に最も馴染むのはセイバーのクラスのハズだ。

 

 そういうわけで、彼ら師弟がセイバーを喚べると確信しているのも無理はないのだが。

 

「なあマスター」

「……なんです」

「葉っぱのせいで不死身になり損なった野郎と、その葉っぱを自分の血で染め上げた野郎。あの葉っぱに縁があるのは、どっちだと思う?」

「は?」

 

 ライダーが挙げたのは可能性の話だ。

 確率としては、ジークフリードが喚ばれるだろうとも思う。

 けれど、それでも。そうそう自分たちの思惑どおりに事が進まないのも世の中だと、ライダーはよく理解しているから。

 もしかしたら、そういうことだって無いとは言い切れないのでは、ないだろうかと思うのは、ある意味で当然だったのかもしれない。

 

 

「天秤の守り手よ!!」

 

 

 その声に、余計なことに割いていた意識を引き戻された。

 部屋中に光が満ち、その直後、水銀で描かれた魔法陣の中心に、圧倒的な魔力を伴った人影が出現する。その存在感は間違いなくサーヴァントのそれだ。

 それはライダーたちの会話を余所に進んでいた儀式が、ここに完遂したことを意味している。

 

 そうして現れた五人目のサーヴァントは、魔法陣の中心から一歩進み出ると部屋中を見渡し口を開いた。

 

「サーヴァント・キャスター(・・・・・)、召喚に応じ参上した。問おう。貴様が我を招きしマスターか」




【CLASS】キャスター
【真名】???
【マスター】???
【性別】男性
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷C 魔力A+ 幸運E 宝具???

【クラス別スキル】
陣地作成:B
 魔術師として、自身に有利な陣地を作り上げる。
 “工房”の作成が可能。

道具作成:-
 『道具作成』スキルは失われている。

【固有スキル】
???

【宝具】
???

【召喚に使われた触媒】
血に濡れた菩提樹の葉



※ゴルドさんとセイバーの聖杯戦争も見てみたかったなあ……
ライダー組はなんていうか、zeroのアサシン陣営的な位置にいますね。
そして甘ちゃん魔術師マジカルみやびん
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