Fake/Another apocrypha after   作:ハトスラ

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槍VS騎  前哨戦

~~当日~~

 

 

 

 

 かつて冬木の地で行われた聖杯戦争。

 三回目の折り、柳洞寺地下から大聖杯が奪われたことによって、冬木の聖杯戦争は終結した。

 この際に広まった聖杯戦争の情報によって、今では世界各地で亜種聖杯戦争が執り行われ、多くの魔術師たちが聖杯を奪いあっている。

 

 その一方で、大聖杯が奪われた後、冬木で聖杯戦争は執り行われていない。

 これは『始まりの御三家』と呼ばれ、聖杯戦争を行うにあたって土地を提供した遠坂が、聖杯戦争から撤退したことが大きいだろう。

 冬木の土地管理者(セカンドオーナー)である遠坂に無断で聖杯戦争を行うことなど、普通に考えればできるハズがない。

 

 だからこそ今回の件、雅は黙って見ていることは許されなかった。

 たとえまだ十代の小娘だろうが、覚悟の決まらない半端者であろうが、この冬木の地を預かる土地管理者(・・・・・・・・・・・・・・・)として、無断で聖杯戦争を始めたバカをぶっ飛ばしてやらなければならなかったのだ。

 

 その為の剣は昨日手に入れた。

 あとは聖杯戦争を勝ち残って、この土地で好き勝手やってくれた何者かに、遠坂を舐めたことを後悔させてやるだけだ。

 

「どうアーチャー。ここから他の陣営は見える?」

 

 冬木センタービルの屋上で、雅は傍らに佇む自らの剣に呼びかけた。

 静かな声で「残念ながら」と、返答したのは長身の青年だ。枯れ草色の外套を風にたなびかせ、眼下に広がる冬木の街を見下ろしている。

 

 サーヴァント・アーチャー。

 昨夜の召喚で雅が引き当てた『弓の英霊』であり、雅とともに聖杯戦争を戦っていくパートナーでもある。

 

 昨夜の内に主従の契約を結んだ雅たちは現在、アーチャーに冬木の案内を兼ねた索敵を行っている。

 とはいえ、さすがに日が高い内から戦うようなマスターはいないらしい。アーチャーの鷹の目を以てしても、他の陣営は捉えられないらしかった。

 それはそれで、考えなしのマスターがいないとわかっただけでも収穫だ。なにより戦いが始まる前に、アーチャーに冬木の全容を案内することができた。

 サーヴァントを召喚して一日目の成果なら、これくらいでも十分だろう。もっとも、雅としてはまだ帰るつもりはない。

 日は徐々に傾き始めている。直に太陽は沈み、夜がやってくる。そこからは魔の時間、本格的な聖杯戦争の時間だ。

 

「できれば、他のサーヴァント同士の戦闘が見たいところね」

「情報はあって困るものではないですが。マスター、無理はなさらぬように」

「む、なによ。私が無理してるように見えるって?」

 

 アーチャーの言葉に思わず問い返すと、彼は瞑目しつつ首を横に振った。

 

「いいえ。少なくとも私の目には、貴女が無理をしているようには見えません。パスを通じて感じる魔力も淀みのないものです」

「そうでしょ?」

「しかしマスター、私は貴女と契約してまだ一日。貴女のこの調子が不調でないことくらいは感じとれますが、良好なのかどうなのかは測りかねます。

 加えて貴女は、私の為に今日一日この街を歩き回っておいでだ。疲労は当然あるでしょう。今日のところは休息にあてるのも良いかと」

 

 なるほど。彼の指摘は的確だ。

 サーヴァント召喚の為に消費した魔力は大方回復したとはいえ、絶好調とは言い難い。歩き通しで足がクタクタなのも事実である。

 今の雅は決して悪いコンディションではないが、戦闘を行うのに万全とも言えないだろう。

 しかし、

 

「もう少しだけ索敵を続けましょう? 既に六騎ものサーヴァントが召喚されているんですもの。そろそろ小競り合いの一戦や二戦起こったっておかしくないわ」

「それは、そうですが」

「ありがとう、アーチャー。心配してくれているのね。でも大丈夫よ。

 目的はあくまで情報収集。別に戦闘しようってんじゃないし、もし向こうから仕掛けてくるなら、今日のところは逃げの一手のつもり」

「了解しました。では、そのように」

 

 気が利く上に、聞き分けもよい。このサーヴァントは間違いなく『当たり』だと思う。

 アーチャーの返事に満足した雅は、踵を返して屋上を後にした。それを追って、霊体化したアーチャーが雅の後に続く。

 

『都合良く戦闘中のサーヴァントが見つかれば良いのですが……。人数が集まったとはいえ、未だ七人には足りていませんし。全サーヴァントが出揃うまで静観を決め込む陣営もあるかもしれません』

「ま、その辺りは運でしょ。目撃できれば儲けモノ、よ。

 それにね、アーチャー。もしかしたらサーヴァントはこれ以上増えないかもしれないわ」

『何故です? 聖杯の知識では、七種類の基本クラスに応じた七騎のサーヴァントが呼ばれると』

 

 アーチャーの知識は正しい。

 かつて、サーヴァントを用いた聖杯戦争を行った冬木の戦いでは、七種類七騎のサーヴァントが現界した。

 しかし、冬木の聖杯を模倣した亜種聖杯戦争では七騎ものサーヴァントの召喚は確認されていない。多くても五騎程度が限界だ。

 それだけ冬木の聖杯を模倣するのが難しかったと言えるだろう。

 

 そして今回の戦いも、カテゴリとしては亜種聖杯戦争に分類される。開催地こそ冬木だが、聖杯自体は模造品だろうからだ。

 だとするなら、今までのデータからいって、サーヴァントの召喚はこの辺りが打ち止めだろう。むしろ亜種聖杯戦争で六騎ものサーヴァントが召喚されるだけでも快挙である。

 そういう理由から先の雅のセリフへと繋がるのだが、これはこれで不安がないわけではない。

 

「規模としてはスノーフィールドの聖杯戦争と同じか……。できれば結末は違って欲しいけど」

 

 スノーフィールドの聖杯戦争。亜種聖杯戦争中最大の、六騎ものサーヴァントで以てして行われたアメリカの聖杯戦争である。

 その結末は史上最悪。英霊同士による宝具の撃ち合いによって、聖杯降霊の地であるスノーフィールドの街は、永遠に地図から姿を消す事態となった。

 この結果に、やれ万能の願望器やら、やれ膨大な魔力炉心やらと浮かれていた魔術師たちは、頭から冷水をぶっかけられたように現実を見せつけられた。そして恐怖した。

 例え令呪があったとしても、例えどれだけ神秘の秘匿に気を配ったとしても、英霊たちが本気で力を行使すれば、所詮はこんなものなのだと。

 そしてこれはスノーフィールドだけの問題ではなく、今世界中で行われている亜種聖杯戦争すべてに言えることなのだと。

 六騎のサーヴァントによる亜種聖杯戦争、というのは聖杯戦争に関わる魔術師たちにとって、特にその土地での神秘の秘匿に多くの責任を抱える土地管理者にとって、もはやトラウマの一種なのである。

 

 それ故、土地管理者である雅の気分が、少しばかり落ち込んだのも無理はないだろう。

 もっとも、雅自身は聖杯戦争の被害拡大防止に努めるのは当然のこととして、その上で優勝を狙っている。気が重くなるのは避けられないにしても、こんなことで後込みするつもりもないのだ。

 

「さ、軽く新都を回ったら、帰るついでに深山町を見て回りましょっか」

『わかりました』

 

 何にせよ、まずは敵サーヴァントの情報収集からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 夜の深山町を二騎のサーヴァントが駆け抜ける。

 民家の屋根を、電柱を、舗装されたアスファルトを、時には道路標識すら足場にして跳ね回り、互いの交錯の内に各々の獲物を繰り出す。

 

 双方の獲物は槍だ。

 よって戦いの形も、突く、払う、打つといった、前時代的な白兵戦の様相を呈している。

 

 にもかかわらず、この二騎が振るう猛威はさながら台風のようであった。

 踏みつけたアスファルトが砕ける。

 撃ち合いの余波で街灯が割れる。

 挙げ句の果てには、槍を引き戻す動作でブロック塀が崩れる。

 

 それだけの破壊を生み出しながらも、戦いの中心にいる二騎にとって、これはただの小手調べであった。

 聖杯戦争はまだ序盤どころか、これが緒戦だ。相手を倒せるのならそれが一番いいが、今のところは今後のための情報収集の意味合いが強い。お互いがお互いに、こんな早々に全力を出すつもりはないようだった。

 

 と、絶えず移動しながら槍撃を交わしてきた両者の足が止まる。

 長い三叉槍を右手に持った、中性的な美貌の男が口を開いた。

 

「逃げ回るのはここまでかね、ライダー」

 

 高圧的な響きを含むその問いに、先に足を止めた赤い髪の男が振り返る。

 

「人聞きが悪いこと言うなよ、ランサー。うまいこと誘導した、と言ってくれ」

 

 ライダー、と呼ばれた赤い髪の男が、おどけたような調子で肩をすくめた。その声は、ほんの数秒前まで敵に凶器を向けていたとは思えないほど軽やかだ。

 そのライダーの言葉に対し、ランサーと呼ばれた男は周囲を一別すると、ふんと鼻を鳴らす。

 両者が足を止めたのは、建設中の建物の敷地内だ。既に今日の作業は終了しているらしく、工事現場には槍を構えたサーヴァント二人の他に人影は見つけられなかった。

 

「人目に付かない場所を選んだつもりかね」

「そりゃあ、ちったぁ配慮するだろ。ああいや、俺としてはあのままドンパチでも構わなかったんだが、雇い主がうるさくてね。

 しかしアンタも無茶するよなあ。出会い頭から仕掛けられたとあっちゃ、穏便に場所を変えることすらできやしねえ」

「余計なマネを……。このような場所では、下々の者に我が槍の威光を示すことができんではないか」

 

 そう言ったランサーの言葉には怒りが滲んでいた。

 日が暮れ夜の時間になったとはいえ、人目に付きかねない場所で襲ってきたのは、考えなしだったのではなくどうやら目立つためだったらしい。なんというか聖杯戦争の根底、いやむしろ神秘を扱う者の最低限のルールすら無視した言動である。あくまでも彼の言葉が心からのものだったと仮定するならば、だが。

 

「そりゃ残念だったな。けどまあ、俺はどっちかってぇと上がり症なんでね。観客は少ねえ方がありがたいんだわ。

 アンタだって、上がっちまって実力を発揮できないサーヴァントなんぞ潰しても何の自慢にもならねえだろうしな」

「確かに。だが、観客がゼロでは俺様の興が乗らん」

「そこはマスターで我慢してもらうっきゃねえなー」

 

 苛立ちを含んだランサーの声に、まるで世間話をするような声色でライダーが応じる。

 戦う気があるのか、とすら思えるような態度ではあったが、それでもライダーは戦う為に呼び出された存在だ。気の抜けた声を返しつつも、相手の動向は伺い続けている。

 そしてそれは、この場に観客がいないことを嘆き、憤る様子を見せるランサーも同様だ。

 

 故に彼らは再び激突する。

 相手の挙動に注意を払い、『仕掛けられる』『仕掛けてくる』と感じた瞬間に武器を執りぶつかり合う。

 お互いがこれをただの前哨戦と思いながらも、二騎のサーヴァントによる戦いは際限なく加速してゆく。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 そんな戦いを眼下に見据えながら、遠坂雅は相棒へと語りかけた。

 

「どっちがランサーだと思う?」

 

 彼女が今立っているのは、建設中の建物の鉄骨部分だ。地上十メートル。今もって建設中ということもあって、彼女の足場は不安定なほど狭い。

 それでも傍らにサーヴァントを控えさせている状況で、彼女の心理面に怯えは欠片もなかった。

 

『私見ですが。単純な槍の技量だけを見るのなら、あの三叉槍を持ったサーヴァント……。ああ、そうです。金髪の方ですね。

 そちらの方が、技量としては優れているかと。マスターの意見は?』

 

 問い返された雅はしばし黙考する。

 眼下で繰り広げられる戦いは、両者の速度も相まって雅にはほとんど認識できない。

 それ故にアーチャーと視覚・感覚共有を図って戦闘を見ていたのだが、それにしたって雅は戦いに関して素人だ。アーチャーのように、どちらの技量が優れているかなんてわかりはしない。

 だが雅にはマスターとして、サーヴァントにはない透視能力がある。

 

「そうね……、ステータスで見るなら、あの二人にそう差はないけど。

 ランサーらしい、っていうならアーチャーの言った方ね。ランサーって足の速い英霊が喚ばれやすいって聞いたし」

『ではあちらの赤い髪の英霊は、消去法でライダーでしょうか?』

「多分ね。監督役が言うには、今回はエクストラクラスは確認されてないみたいだし。

 いくらなんでも、アサシンやキャスターがランサーとは打ち合えないでしょ」

 

 無論例外はあるだろうが、そんなものまで考慮していてはキリがない。

 何よりもこの場において、より大切なことはサーヴァントのクラスよりも、ステータスとその戦力である。

 

「宝具の解放、なんて無茶は言わないけど、せめて何かしらのスキルくらいは確認したいわねー」

 

 基本ステータスとスキル。そして切り札たる宝具、すべて合わせてサーヴァントの戦力だ。

 いずれぶつかる敵ならば、より多くの情報を盗み出したいのが人の性だろう。

 無論、戦闘を行っているサーヴァントもそのマスターも、情報を抜き取られる可能性は考慮しているだろうから、なるべく手札は切らずにいるだろうが。

 

『そう言えばマスターの姿が見えませんね』

「そうね。でも、巻き添えの可能性を考えるとサーヴァントと離れて行動するってのは珍しいことじゃないだろうし。

 それに魔術師なら、何かしらの手段で姿を隠して、意外と近くから見てるって可能性もあるわ」

 

 私たちみたいにね、と付け加えて、雅はアーチャーとの視覚共有を左目だけカットした。

 右の視界で目まぐるしく動くサーヴァント戦を捉えながら、左の視界でそのマスターを捜す。

 

 ヒトの形をした者がじゃれあいのような白兵戦を演じただけで、ボコボコにされていく建設現場を流し見ながら、雅は「こりゃ後始末が大変だぁ」とボヤいた。

 と、同時に左の視界にサーヴァントとは違う人影を発見する。

 どっちかのマスターか! と左目に視力強化の魔術を仕込んで、雅は息を止めた。

 

 あれは、違う。魔術師じゃあない。あれからは魔力の痕跡を感じとれない。

 雅の感覚がそう告げる。それを裏付けるかのように、相手の位置がわかる距離にいながら、雅の令呪はその人間に反応していない。

 つまり一般人がマスターに選ばれたわけでもない。

 

 

 夜。人目に付きにくい工事現場。

 だからといって、なぜ結界も張っていない場所に人が入り込まないと思いこんでいたのか。

 

 

 ぎり、と奥歯を噛みしめる。

 雅が人払いの結界を張らなかった理由は簡単だ。

 そんなことをすれば、あそこで戦っているサーヴァントたちに雅の存在を感づかれる。偵察のつもりでいた雅にとって、それは好ましくない展開だ。

 

 だが、それが一般人を巻き込む結果になった。

 巻き込んだ? ああ巻き込んだだろう。たとえ今、彼がなんの危害も加えられていなくとも、この場に居合わせたという事実だけで、殺される理由としては十分だ。

 残像のようにしか見えなかっただろう市街地での移動戦とは違う。足を止め、腰を据えた建設現場での戦いは、神秘を知らない一般人からしても気のせいで済ませられない異常な光景のハズだ。

 神秘とは秘匿されるモノであり、目撃者なんてあってはならない。ならばこそ、彼は口封じのために殺される。

 

 そんなことは、魔術師であるのなら当然のことだと割り切らねばならない。だってそんなの、一番初めに負うべき覚悟のハズだ。

 けど。

 でも。

 だって、それは。

 

 

「……アーチャー」

 

 

 ふうぅ、と息を深く吐き出して雅は決めた。

 自分はどこまで行っても、聖杯戦争なんて戦いに身を投じてからでさえも、所詮半端な魔術師────いや魔術師を名乗ることすらおこがましい。甘さの抜けない魔術使いなのだ。

 

 けれど、どんなに自分を偽っても、雅は雅にしかなれないから。

 こんなのは心の贅肉。きっと行動してから後悔するのもわかってる。

 

 でも、これから起こることを黙って見てるなんて、そんなのは遠坂雅の生き方じゃない────!!

 

「ごめんアーチャー。アタシ、これからバカなマネするかも」

 

 協力者への義務として傍らにいる相棒にそう声をかけると、雅は再び眼下を見下ろした。

 偵察の為でなく、戦う為に。




【CLASS】ライダー
【真名】???
【マスター】???
【性別】男性
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運B 宝具?
【クラス別スキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:A+
 騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし竜種は該当しない。

【固有スキル】
???

【宝具】
???

【Wepon】
『無銘・槍』
 短めの槍。長さの調節ができるらしい。
『無銘・弓』
 ライダーのサブウエポン。
 主に騎乗時の遠距離攻撃に使うそうな。

【召喚に使われた触媒】
とある魔術師からパクッた『混成魔獣の牙』



※雅「先生の笑顔好きだな。うちの強欲ばーさんと違って、すごい美人なんだもの」

この世界でのスノーフィールドの聖杯戦争は仁義なき全滅エンドだと思ってもらえれば。いや、hollowが起きないであろう世界ですけど、そこは並列世界ってことで一つ。

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