Q:貞操逆転あべこべウマ娘世界でアイドルになれますか? 作:ほりさか
ウマ娘キャラ一人一人の解釈も薄い。
せや!脳を焼かそう!
ということで初投稿です。
──ディエス・イレ。
とある宗教の終末思想の一つで審判の日とされているが、全国のトレセン学園に所属している全ウマ娘はこの日この時がそうなのだと我が身で思い知った。
11月に行われた、G1レベルのウマ娘だったら避けるであろう何気ない重賞レース。
勝利したのは、そのレースで引退するウマ娘。
ここまでは普通の話だった。普通の出来事だったのだ。
中央でも地方でも起こうるありふれたレースで、引退を有終の美で飾ることになったウマ娘の感動のウイニングライブで幕は閉じる何気のない日常。
だがしかし、そうならなかった。
普通でないことが起きた。とんでもない事が起こってしまった。
日常を非日常に変えた英雄が彗星のごとく現れたのだ。
一人の男性がウマ娘のライブに参加するという羨望…、いや暴挙とも言ってもいい出来事。
この話が全国にあるトレセン学園に知れ渡ったのは、その出来事が終わった夜が始まる頃。
レースを走ったウマ娘達全員が写っている全員集合のUMATTER投稿と、観客達から見た熱狂が渦巻いている色々な角度の動画が添付された無数の投稿だった。
授業が終わっていざトレーニング開始!と切り替えを行うはずだったスキマ時間に起こったそれは、ちょうど準備中を利用してウマッターを更新しようとしていた全国のトレセン学園に所属するウマ娘達を直撃、もの凄い勢いで拡散した。
鉄板の上でウェルダンの如く焼かれたような熱を心と身体、そして脳に刻みつけられ、学園の至る所で絶叫が起こるなど阿鼻叫喚の渦の地獄絵図と化し、グラウンドでは夜が明けるまで模擬レースが開催されるという事態までに発展。
その後、誰もが絶不調に陥り、すぐさま学園の機能が一時停止した事から、後にトレセン学園ご乱心事件と名付けられることになるこの騒動は始まりに過ぎなかった。
そして明くる日、全員が同時に血の涙を流しながら決意した。
こんな羨まけしからんことが許されるのか?許されていいのか?
いや許されない。決して許されない。
「「「「「「「「「「次は…私だ!!!!」」」」」」」」」」
絶対にだ!
「たずな…。助けてくれ…」
「理事長…。それはこちらのセリフです…」
この二人がため息を吐きながら作業を行うのはよっぽどのことだろう。
あの嫌な騒動から数ヶ月の月日が流れていたが、余波は今でも続いている。
今日も今日とて、中央トレセン学園の理事長と秘書である秋山やよいと駿川たづなは絶望の縁に立っている。
その原因は唯一人、特大のやらかしを行った一人の男性にあった。
彼の行動で中央トレセン学園はおろか、URA、そして日本、いや世界までもが現在進行系で熱狂と狂気のるつぼと化してるのは確定的に明らかで、現在様々なしわ寄せが二人に来ている。
その原因は、URAの打った一つの手が始まりだったので、かの組織を恨まずにはいられない。
いや、当時はこうなる事を予測せず現状を変える手立ての一つだったので恨む事はないのだけども、現状を鑑みると素直に喜べないしできれば被害がこちらに来るのは勘弁して欲しいとも思っているのだが。
閑話休題。
二人は今まで生きてきた中でも有数のクソデカため息を吐きながら、貯まりに貯まっている書類に再度目を通し始めた。
「遺憾ッ!彼を中央に連れて来ることが、こんなに難しいとはッ!」
私だって直接彼に会いたい!という欲望を、悔しさに変えて見せると言う器用さを出しながら憤っている秋山やよいの様子を、駿川たづなは苦笑することしかできなかった。
それもそのはず。
彼は、数ヶ月経った今でも中央トレセン学園やURAの提案を断り続けて地方巡業のみを行っているのだから。
世界中で起こっている男性と女性の出生率の差は、年々広がりを見せており、こと日本もその例外ではない。
男性が減り始めたのがデータとして分かり始めてから、二百年以上経った現在。
もはや男性が希少と言えるレベルで減少しており、メディアや何かしらのイベントを通してでしか見ることはできなくなっていた。
美しさや力ではウマ娘に勝つことができない人間の女性達は、なんとか自分達が男性の気を引けるようにした結果、一時全盛期を迎えていたウマ娘のレースは衰退の一途を辿ってしまった。
そこに待ったを掛けたのがURAだ。
男性にウイニングライブで歌って欲しいと交渉を粘り強く行い、その甲斐あって数人の男性がこれに了承。
少しずつレースに人が戻るようになり、URAの目論見は成功するかにみえた。
しかし、一部の女性の暴走により、男性側に軽度の!被害を被った。被ってしまった。
この事件で、男性側とURA側の格付けは完了してしまい、URAは男性側の言う事に全面的に従うようにならざるをえなかった。
以降、格付けが完了した事で男性歌手は少しずつ自分のわがままを出すようになり、現在では女性が途方にくれてしまうほど傲慢になっており、今では特定のレースでしか男性はウイニングライブを行わなくなっていた。
当然、クラスの低いレースは男性は参加することなく、男性の代わりにウマ娘が行うことになっているため人入りはあるものの少ない状況。
レース自体も開催することが少なくなっている事から、曲のレパートリーも増えず毎回同じようなことの繰り返しだったウマ娘のレースとウイニングライブに、台風の目とも言えるべき大きな風穴が空いたのはそんな時だった。
ーー男性が!ウマ娘と一緒に!ウイニングライブを行うとは誰も予想できないではないか!
秋山やよいは、前代未聞の事態を聞いてすぐさま件の動画を見た所、脳が沸騰して全身から血を吹き出したかのように火照り、心臓が早鐘を打つかのように高鳴ったのを確かに自身の耳で聞いた。
まさに青天の霹靂とはこの事だろう。
そしてその時、やよいの脳裏に電撃が走った!
彼を中央に招待して歌って貰えば、現状の打開策となりえるのではないだろうか。
すぐさま、彼にコンタクトを取ろうとしたが、SNSのアカウントは探してもなく、UMATUBEのDMは閉じられており連絡先が分からないので初手で詰んでしまった。
ぐぬぬぬぬと形容しがたい声が漏れたが、諦めきれずひたすらネットの海を駆け回った所、衝撃の続報が耳に入る。
なんと地方で彼がまたウイニングライブを行ったのだ!
だったら東京や大井等中央にも来るかもしれない!淡い期待を胸にレース当日、朝早くからレース場で待っていたのだが…。
待てど待てども彼が来ることはなかった。
泣きそうになりながらも、中央トレセン学園近辺のレース場で彼の動向を直接待っていた所、彼は中央に来る事はついぞなかった。
そう、彼は何回もウイニングライブを行なっているにも関わらず、地方にしか巡業していないのだ。
そのせいで、中央は日に日にボルテージが上がっており、休日の地方見学は当たり前、視察と称し彼に会いに行く者、果ては適性が合っていないのに地方に殴り込みをしに行こうとする者まで現れる始末。
この由々しき事態を鑑みたやよいとたずなは、どうにか彼を中央に呼べないかと現在もひたすら書類と向き合っていた。
今はまだ、それでもいつかは。
中央で、G1や他のレースで、未だ聞いたことのない曲を彼とウマ娘が歌う。
やよいとたずなの瞼の裏に焼け付てこびりついて離れてくれない幻影は、脳をも焦がし、もうすでに忘れさることはできないでいた。