異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-死者の都- 作:とーふ@毎日なんか書いてる
(オーロ視点)
シュンとミラが出て行った教会の中で俺は一人、ため息を吐きながら天井を仰ぎ見た。
気を遣わせてしまったな。
こんな事になるなら一人で来るべきだった。
最初から分かっていた事だ。
しかし、やはりというか。アマンダを直接見て、自分の精神を落ち着けることなんて出来なかった。
「覚悟はしていたハズなんだがな」
「……お待たせしました! 少し準備に時間が掛かってしまい……あら? お二方は」
「あぁ。少し用があってな。外に行ったよ」
「そうなのですか。お話してみたかったのですが、残念です」
「まぁ後でいくらでも機会はあるさ」
「そうですよね。はい! 後に期待します!」
あぁ。まったく。
趣味の悪い人形遊びだ。
苛立ちばかりが募る。
今すぐにでも全てを破壊してしまいたいくらいだ。
しかし、それは出来ない。
何故なら、まだ向こうの目的は分かっていないし。アマンダがどうなっているのかも分からないからだ。
ただ、そう。
この街を作った奴だけは絶対に俺が殺すと心に決めながら、俺はかつての様な笑みを浮かべた。
「そう言えば……ヴィルヘルムとアレクシスの奴はどこに行ったんだ? あの悪ガキ共もここに居るんだろう?」
「え? そ、そうですね。多分どこかに出かけていると思うのですが、他の子達も遊びに行っているみたいで」
「そうか。そりゃ残念だ。でも、ちょうど良かったかもな」
「……?」
「何惚けてるんだよ。お前が言ったんだろう? 俺とずっと一緒に居たいと、父親になって欲しいってな」
俺はアマンダを抱きしめながらその耳元で囁いた。
アマンダは俺の声を聞いて僅かに震えながら、すぐ俺の体に手を回してきて抱き着く。
そして嬉しいと呟くのだった。
……。
まったく。本当に、苛立つ世界だ。
俺は昔のアマンダとの会話を思い出しながら、何とかこの苛立ちを抑えようと必死に心を押し殺した。
『は? 何言ってんだお前』
『いえ。その、ですから! 私と、その、…ェッチな事をしませんかと、その』
『地面に落ちてるモンでも食ったか』
『その様な事をする訳無いじゃないですかっ! オーロさんは私を何だと思っているんですか!?』
『光聖教と聖女の事以外は何も知らない無知な女』
『うっ、そ、その様な事は無いと思うのですが、思い出してください。オーロさん。私、もっと色々と知ってますし、出来ることもありますよ!?』
『あぁ。そうだな。確かに。俺としたことが忘れていた』
『そうでしょう。そうでしょう。そうでしょうとも!』
『掃除と飯作るのは出来たな。ただ、常識やら危機感やらが無いだけだったな』
『んもー! オーロさんのバカぁ!』
『おー。いてぇいてぇ。大した打撃だ』
『もう! いつもそうやってからかって! 私は真剣なんですからね!』
『ほー。じゃあ聞くがな? なんでんな事を急に言い始めた』
『それは、その……ほら! 子供達には父親が必要だと思うんです! オーロさんがいらしてから子供達も楽しそうですし。やっぱり男の人が居ると居ないでは大分違いがありまして』
『それで?』
『その、男の人はその、……ェッチな事をすると喜ぶと聞きまして! それをすればオーロさんがずっとここに居てくれるかなって……あいたっ!』
『ったく。だから常識知らずだって言ってんだ』
『だ、だってぇ』
『アマンダ』
『っ、は、はい。なんでしょうか』
『一言で良い。お前がここに居て欲しいと言えば、俺はいつまでだって居るさ。父親をやって欲しいならそうする』
『でも、それじゃ私がオーロさんから一方的に貰ってるだけですよ』
『何言ってんだ。逆だよ。俺がずっとお前やガキ共から貰ってるんだ。沢山な。だから、少しくらい返させろ』
『でも』
『俺が良いって言ってんだろ』
『……なら、私、すっごい甘えちゃいますよ!?』
『構わん。俺がそれを望んでるんだ。アマンダ』
俺は記憶の中に居るアマンダの頭を撫でて、笑う。
穏やかな時間だった。
全てが満ち足りていた世界だった。
俺が人生で初めて得た安らぎだった。
この時間が永遠に続けば良いと思っていた。
ただ、それだけだったのに。
『アマンダ……!』
『わた、しを、……して』
「――っ!!!」
「……さん? オーロさん?」
「っ、おぅ。どうした?」
俺は記憶の世界で、体がバラバラになる様な痛みを覚えていたが、アマンダの声に意識を取り戻し、現実へと戻ってきた。
現実のアマンダはあの時の事など悪い夢であったかの様に、穏やかに微笑んでいる。
「もう。どうした? じゃありませんよ。ボーっとして、どうしたんですか?」
「何でもねぇよ。ただ、ちょっと疲れてな」
「そうなんですか!? それは大変です! では、お茶を飲んで休んで下さい」
アマンダはドタバタとその場であちらこちらに走り、そして用意してきた茶を俺に手渡した。
新品のカップは、俺とアマンダの記憶には無い。
あの頃は、ボロボロのカップばかり使っていたからな。
そして、一口飲んで、感じるのは毒の味だ。
微かに、紛れ込んでいる。
普通の人間なら微妙な体調不良を訴える程度の僅かな量だ。
しかし、俺に毒は効かない。
これをどれだけ継続的に盛られようが、膨大な量を盛られようが関係ない。
それを、アマンダも知っていたハズなんだがな。
どうやらアマンダの体は本物でも、精神までは蘇っていないらしい。
記憶も抜き取る事は出来ないのだろう。
それ故に、こんな中途半端な策を取ってしまうのだ。
「ふぅ」
「どうですか? とっておきのお茶なのですが」
「あぁ。うまいよ」
「それは良かったです!」
ニッコリと笑うアマンダに俺も笑みを返す。
あぁ、本当に上手い。
茶の香りで毒の匂いを消し、味も極限まで抑えている。
一ヵ月もこれを飲み続ければ無事命を落とすか、満足に動けなくなるだろう。
本当に絶妙な量だ。
素晴らしいよ。
アマンダから俺に飲ませる辺りが実にうまい。
俺は茶を飲みながら、更に殺意を募らせて、コイツを俺に寄越した奴は確実に八つ裂きにしようと心に誓う。
何せここには俺だけじゃなく、ミラが居るのだ。
こんな毒を飲ませればあの小さい体ではすぐに影響が出るだろう。
まぁ、幸いというべきか。ミラは聖女であるから毒も癒せる。
それならば直接命を奪いに来ない限り安全だし。
シュンが居る以上、その手段も難しいだろう。
だから、ここでアマンダとそれを操る奴を潰せば全て解決だ。
アマンダの背後を探り、すぐに終わらせる。
そう。するべきなのだが。
「……あぁ、まったく」
「どうしました? オーロさん」
「いや、何でもないさ。ただ……」
「ただ?」
「もう少しだけ、お前とこうしていたいと思ってな」
「……?」
「……ほら。夕飯にはまだ早い時間だろう?」
「あ。そうですね! 確かに。夕飯まで時間がありますし。のんびりしましょうか」
微笑むアマンダを見て、俺は剣に伸ばそうとしていた手を抑え込んだ。
そして、まだ背後が分からないのだからと自分に言い訳をして、目を閉じて茶を飲む。
あぁ、本当にうまい茶だ。
涙が出てくるほどに。