【タクティカル肝試し】鮫島事件について調べてみた!   作:はまっち

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 連撃。打ちっ放しのコンクリを踏みしめた途端にヒビが入る。

 衝撃。振り下ろす拳の、防ぐ手刀の勢いで空気が震え、ネオンの瞬く夜闇が軋む。遠く電灯に集まっていた羽虫が驚いたかのように飛び去っていく。

 大気を切る。上段を狙った回し蹴りを浴びせ、躱した鮫島ちゃんの首を抜くよう手刀を重ねる。

 それを理解しきったかのように顎先で指を叩き、薄い胸と頤筋(おとがい)とで供花の手を挟む。そのまま続けて背負投。腕の一つも使わずに用いられる柔術に、供花は背骨をめがけて拳を放つ。

 ふっと一呼吸。肋骨を裏側から折る打撃が染み渡り、鮫島ちゃんの眉間が細まる。折れた骨がどこぞの臓器を穿つ。されど体幹を崩さず、供花の胸元を後ろ手に回した親指だけで押した。

 胸の筋肉と骨の隙間、ツボにもあたる点のような極狭の部位を息つく間もなく押し潰し、続く激痛に供花の動きが鈍る。その隙を逃す鮫島ちゃんではない。

 

 一瞬の力学の後に投げられた供花はいち早くコンクリの基礎を踏み締め、その勢いのまま虎の爪にも似た拳を振るう。薄い肩の骨を狙い、熟達者であれば木材をも引き裂く貫手。鮫島ちゃんは無理矢理に身をのけぞらせて指先を防刃チョッキに宛がい、その威力を殺した。

 刹那、握りを変える。虎の如き迅速の形意拳から、熊の如き剛の拳へ。指の関節だけで一度衝撃をぶつけた瞬間、即座に掌底へと繋げて打撃を連ねる。

「フタエノキワミィッ! ア゛ァ゛ーッ!!」

 雄たけびと同時、鮫島ちゃんを守る現代の鎧にひびが入る。異常なまでの身体強度に守られた胸板が、肋骨が、粉となって心臓の拍動を一瞬だけ止める。

 一拍遅れて血を吐いた鮫島ちゃんに、更に一発。自らの掌を殴りつけ、もう一撃の打突を。古流武術にもある“鎧徹し”の技法を非実在の拳闘に合わせつつ、狙いすましたかのような致命の一撃を見舞った。

「……っ、ふっ」

 ――空を切る。後ろに倒れる勢いを殺すことなく、少女の薄い身体がすんでのところで致死の拳を躱す。

 たたらを踏んだ足を支えに体を沈め、放たれた蹴りを受け流して供花の胸の下へと顔を埋め。

「んなっ」

 供花は咄嗟に身を丸める。自身の多少豊満な胸で鮫島ちゃんの後頭部を叩きつけつつ、狩衣のストラを手に取り少女の首へと巻き付ける。

 簡易的ながら的確な絞殺の手段を講じた刹那、鮫島ちゃんは真上へ跳ねて拳を振るう。がら空きの顎先を、少女の単純明快な左腕が。純粋なアッパーカットが貫いた。

 

「しょ、焦凍ォオオオオオオオ!!!!! 左は使えないんじゃなかったのか!!!!!!!」

 舌を噛み切った傷。死にそうなほどの激痛と血が喉を伝う。無理矢理引き出したふざけ半分の言葉を吐き捨てつつ、星の見えない夜空を仰いだ供花は緩んだ口元から絶叫する。

「…………形代、さっきあなたが使わせてくれたじゃないですか」

 ぽつりと吐かれたツッコミを聞いてか聞かずか。足を引いて、体を逸らし。鮫島ちゃんの細い首に巻き付けたストラを上体ごと引き寄せて、ちらりと襟足から覗かせるうなじへと空手チョップを。

 鮫島ちゃんは敵わないとばかりに足を刈り、レスラーのそれにも似た手刀を手首で受け流して小手返し。蹴りを脛に受けながらも体幹を保った供花が黄色く星のような瞳で鮫島ちゃんを見つめた時、目論見の失敗を悟った少女はストラを丸ごと引きちぎりながら後ろへと飛び退く。

「っ、驚愕(マジ)かよ……! あの一瞬で左腕の筋繊維(スジ)縫合手術(シアゲ)るなんて、Dr.覇世川でも――」

「……話を」

「でも! まだ甘い! 本物(マジモン)の忍手ってのは!!」

「話を……」

 刹那、パンと乾いた破裂音。一瞬にして音速を超える銃弾の如き形象拳。どこの漫画から取ってきたのかも分からない言の葉を列挙しつつ、大気の壁を打ち破るほどの神速の貫手。

「忍手・暗刃! ぶっ殺し――」

 鮫島ちゃんはちっと舌打ちをして身を逸らす。貫手がジャケットを切り裂き、薄く下垂した腹を露出させる。

 続けて貫手に腕を絡めて体を落とし、少林寺拳法にもある”腕巻”を仕掛けた。

「――てないね!? やるな笑笑!」

「……本当に、ふざけてないといけない制約でもあるんですか」

 供花の膝が地につく刹那、脚を伸ばしてハイキック。咄嗟に隆々と堅牢さを誇る股間節に押し当てた掌底で衝撃を殺す。

 腕を返し、後ろ手にとった手錠を腕にかけようとしたところで、カポエイラの術技にも似た床ギリギリの軸回転と後ろ回し蹴りが少女の肩を叩く。

「さっきも言ったでしょ! 『星斗に願いを(ケンガンアシュラ)』の縛りだって、テスカトリポカ思うわけ!」

「またワケのわからないことを……」

 うちっぱなしの基礎を踏み締め、ふっと息を。硬直させた筋肉と骨で以て蹴りを真っ向から弾くや否や、不安定な体幹で無理矢理足を滑らせて供花へ向けて体当たり。

 後ろに倒れる勢いで首に足を絡めた所を躱し、続く上足底の回し蹴りをすんでの位置で見切る。

「んもうツレないね! 何かマンガ読んだことあるのかな!」

 供花は回転を押し留めながら立ち上がり、ふっと息をついて構えを取り。再度拳を振るいつつ気安く問いかけた。

 突拍子もない世間話のような言葉。鮫島ちゃんは熱を持ちつつある胸を吸気で抑えつけつつ、ぽつりと返す。

「……セーラームーンを、最初だけ」

 拳に腕を当て、軌道を逸らしつつ絡め。その手首をつかんで引き寄せたかと思えば、黒い制服の袖だけがちぎれる。

 供花は目を耀かせながら、規定路線とばかりに掌底を返した。

「いいね! ちゃおよりなかよし派ってワケだ! カードキャプターさくらは見たことある!?」

「……なんですか、それは」

「ありゃま未履修! そりゃ残念!」

 すげなく躱される掌底。へっと笑って蹴りを――入れるようにフェイントをかましつつ、詠春拳にもある身体の各部位を使った連撃を放っていく。

「さぁ今夜もやって参りました、紳士による紳士のためのシルクハットなお時間。ザ・タキシードクイズ! テレビの前の妖魔よ聞くがいい!!」

 連撃の末尾、身体強度を生かした三連の蹴り。鮫島ちゃんの同僚の得意技にも似た技を仕掛けられた少女は、ふっと呆気にとられたように逸らす手を止め大きく飛び退く。大気を切り裂いて伸びる足先が黒く短い髪を散らす。

 

「……もしかして今、タキシード仮面様のセリフを言ってます?」

「あっやべ、純粋な視聴者だった」

 一瞬の間隙。あちゃっとひょうきんに額へ手をやり、もう一歩。逃げる足を潰すように足を払った。

「ってか今タキシード仮面様って言ったね。やっぱ憧れてたの?」

 鮫島ちゃんは払い足を真っ向から脛で受け、少しの激痛を堪えながらも体幹を生かして地に立つ。思惑が外れる。

 とはいえ衝撃は衝撃。揺らぐことのない足腰が若干だけでも動いたのを見た供花は、少女の胸ぐらをつかむように腕を伸ばした。

 

「……まあ、昔は。今ではあまり思い出せませんけど」

「へぇ。大人になるとそういうトキメキ、忘れちゃうよね。わかるわかる」

「……トキメキ?」

 

 ぼつり。言葉が漏れる。一拍だけ遅れた手刀を肘で受けつつ、供花の体が流れるような無意識とともに技を決めにかかる。

 

「そ!トキメキ! 好きなジャンルはやっぱり恋愛ものなのカナ!?」

 

 胸ぐらを掴んだ状態からの、左ストレート。喧嘩殺法にも近い回避困難な一撃。

 鮫島ちゃんはふっと息を吐き、至って冷静に手首を押す。体を真下に捻りこむ。

「そもそも……見る時間がないんですが」

 最も知られた護身術の一つ。小手返しを体重移動も併せて補佐する術技。

 手首の関節を端的に極める関節技を食らった供花は、敢えて脱力して力を逸らす。そうして耳を掠めた左拳を少女の頭蓋に押し当て、自ら体勢を崩すように左上段の蹴りを放った。

「そっかぁ……あっそうだ、PUIPUIモルカーとかどう? 疲れた脳によく効くよ!」

「その時間をくれたら、あなたを殺した後で見てあげますよ」

 頭蓋を直接打つ衝撃を、その類まれな身体強度だけで防ぎ切る。返す刀とばかりに伸びる腕をいなし、大きく飛び退く。

 

「わあ、殺すだの死ぬだのスゴイ物騒!」

 敢えて素っ頓狂な声を出しつつ、攻め手を変える。最も慣れた形式――ボクシングの構えを取って、まずは定石通りのジャブを。

「どんな子供時代過ごしてたのさ? セーラームーン見てるってことは、結構普通の家なのかな!?」

「政治家……兼、神祇官の家を普通と言うなら」

「そりゃ普通じゃないね! イイトコのお嬢様じゃん!」

 弾く。打つ、避ける。蹴りを入れる。第八班で最も学んだ速戦即決のキックボクシング。間一髪で避けられ続けるところ、敢えてそのままジャブを二回。

 手刀で凌いだ鮫島ちゃんは、ふっと皮肉交じりに呟く。

「あなたにとってみれば、繰伽羅神祇官家もイイトコ扱いなんでしょう」

 返して殴打。供花の頬を力強く打ち払った鮫島ちゃんの掌の内側で、祓魔師の女は頭蓋を器用に転じるスリッピングアウェイの技法を以てその衝撃を受け流した。

「そりゃだってねえ、神祇官だよ? 雲の上のお人だよ」

 そういいものでもないですが。はあと小さく溜息をつく。その機を逃さず呼吸を整える少女の暇を奪うよう、供花は一足の飛び込みとともに懐へと入り込む。

 

「ねえ、今警察にいるのはお家の都合? 神祇官の人たちそういう感じっぽい雰囲気するし」

 

 刹那、ぼんと空気の引き裂かれる音。腰の捻りとともに放たれた渾身のアッパー。

 ほんの僅かな反応の遅れにも関わらず、公安の少女は小さく飛び退いてこれを躱す。

「…………そんなわけ、ないでしょう」

「なるほどね。なんか事情があるんだ」

 へえ。鮫島ちゃんの手を読み切っていたかのごとく、供花は更に一歩前へ。ほんの僅かな滞空時間を狙った、琉球空手特有の捻り込みを加える正拳。

 第八班長仕込みの格闘術――致命の一撃を幾度となく繰り返す手法を用いつつ、鮫島ちゃんへと口撃を加える。

「それが、公安の秘密組織が鮫島事件を調べた人を消す理由?」

「……さあ?」

 ふっ、と笑った少女のニヒルな笑みを、供花は見逃さない。

 マズったと後悔するのもつかの間、鮫島ちゃんはわずかに接地した指先だけで体重を支えて回し蹴りを放つ。

 咄嗟に右腕で受けた供花は、ミシリと軋む腕から擦れた煙を舞わせつつ距離を取った。

「さあ、どうでしょう。……調べてみれば?」

 

 だから調べたんでしょ。

 悪態をつくより先に、痛みに呻くより先に。まずは笑顔を取り繕って、余裕を露に。

 誰でも知っているネットミームを口ずさみつつ、唇を舌で舐めてから無理矢理口角を上げた。

「いっつぅ……これは嘘をついてる味だね。真面目な人の嘘はわかりやすい」

「……嘘吐きは言うことが違いますね」

「ありゃ。無理も出来ないも言ったことはあんまりないつもりだけど」

 相手を舐め腐るような笑みに一歩も怯むことなく、鮫島ちゃんはポツリと零す。

「…………『突撃!隣の祓魔隊、【鈴鉦楽隊】』」

 それはほんの僅か、数日前に配信した動画。境対課に超有名歌手がやってくると聞いて急遽殴り込みをかけた、供花のポリシーからちょっとだけ反する動画の名前。

 境対課に関する解説や裏話の取材はもっぱら四辻や癒々式チカという配信者がやっている以上、供花が彼ら彼女らのシマに入り込むことはない――のだが。やむにやまれぬ事もある。

「あっ、アレ。“もうさァッ。無理だよ、ルールわかんないんだからさァッ”ってヤツ……結構新しい動画から持ってくるね?」

「……全部、一通りは確認しましたから」

 へえ。供花は薄っすらとにやけそうになる顔を抑え、大きく一歩踏み込んだ。敢えて顔を隠すように身を沈め、放つは躰道。身体自体を振るう蹴り技の妙技。

「おい!それってYO!もう実質モシュさんってことじゃんか!!」

 ネットの深淵そのもののような言葉を吐き捨てた供花の足をすんでで躱す。更に続けて、地面についた指先だけで飛び上がっての延髄斬り。後ろ回し蹴り(パンデトルリョチャギ)。更に一歩退いたところへ、真後ろを向いた姿勢からとんと地面を蹴ってのオーバーヘッドシュート。

「足男じゃないけど、このくらいは……っと!?」

 振り向きざまに放った肘鉄を難なく止められた供花は、へっと笑って中世の剣舞(ダークダンス)のリズムで手刀を振るった。

 ちっと目の端を指先で掠めさせながら一歩退く鮫島ちゃんに向け、柳生新陰流にも似た”廻し打ち”。腕を打ち合って凌ぎ切ろうとする少女に向け、剣同士の打ち合いで力点を作り出しバランスを崩させる……古流西洋剣術の常套手段、”バインド”を。

「剣術を徒手空拳で……なら」

 鮫島ちゃんは大きく崩された体勢より、無理矢理に大きく飛び退く。小振りな格闘技の間合いから距離を取り、より戦いやすい距離感覚へと戻すため。

 それを読んでいたかのように、さらに一歩。示現流にも似た手刀と逆袈裟の連撃。それを厭って軽く防いだ鮫島ちゃんの左腕へ向け、体当たりと併せたタクティカル新陰流の奥義――”月影”を放った。

 

「てかさ、警察っていうのは正義の味方でしょ。やっぱそういうのに憧れてたのかな」

 腕を切り落とすかのような手刀。一瞬怯んで半身を逸らした鮫島ちゃんに、軽く鍔迫りのような形で体当たり。

「それとも。タキシード仮面みたくダークヒーローに?」

「……イタチになれたら、まだ良かったですよ」

 体当たりに併せ、供花の腹に膝を入れる。げほりと息を吐く祓魔師の女は、まだまだ序の口とばかりに軸足を刈る。

「止めろめろめろ…………じゃなかった。それは知ってるんだ、テレビで見た?」

「……漫画。休憩室で」

 足を刈られる刹那に膝を折って防ぎ、首元を狙ったチョップを躱す。

 懐に潜り込んだ鮫島ちゃんから腰のひねりを加えた寸勁が放たれる瞬間。供花はひょいと身体全体を丸ごと捻って衝撃を受け流しつつ、陳家太極拳のもっとも初歩的な打法。

「ってことはジャンプは読むわけだ。ナルト以外に読んだことはあるの?」

 套路を省略するレベルにまで洗練された“懶扎衣”の功夫を同じく太極拳でもって防御した鮫島ちゃんは、苦々しくちっと呟いた。

「……あったところで、関係はないでしょ」

「いいや、大あり! 君のこともっと知りたいな~ってね!」

 供花は一人、歌でも歌うように笑う。鮫島ちゃんの拒絶を跳ねのけるように、防御を的確にすり抜けるような拳法の型が彼女を襲う。

「イタチが出てきたってことは、ワンピースだと空島あたり? いい話だよね空島編」

 

 歌うような歩法。反閇にも似た舞踊に混ぜられた套路と共に、鮫島ちゃんへと畳みかけた。

 すぅ、と息を吸う。言葉尻に韻を踏ませ、ふざけた子供のような笑みの供花は手刀を放つ。

「忘れられた過去が、大ウソ呼ばわりされてた過去が、約束果たしにやってくる。因縁晴らしにやってくる! 長年継がれるこの遺伝子(ジーン)、すぐに読みなよあのシーン!」

 

 ぽつ。機嫌悪そうに眉間へ皺を寄せた鮫島ちゃんは、不快感をあらわに供花の顎先へと掌底を合わせる。

 舌を噛み切る寸前で言葉を詰まらせた女に向けて、少女は名づけ難いどろりとした感情を込めて呟いた。

「……お喋りはおしまいです」

 

 へえ。供花は頷く。

 やっと本気になった?と軽口を叩く彼女の言葉など、もはや意に介すつもりもない。

「ねえもう少し話さない? 何にもかんにも気にならない? 私が何をしでかすか、果たして何をやらかすか!」

「……なんであっても」

「ああ、真っ向返して潰すのね? 至極真っ当やんなるね。私の全てはネットの全て。知らない君にはできない対応! これが君にはできない返答!」

 冷たく、呆れ。それよりも熱く、一言で言い表すことのないドロリとした激情。

 腹の奥から湧き上がる情動を無理矢理に抑えながら、少女は、自らに言い聞かせるようにして息を吐く。

「……あなたのやり口は、もうわかりました」

 そうかい。供花の憎まれ口を聞き流し、拳を構え。一歩で迫る供花へ真っ直ぐ向けた。

 

「行くよ、返すよ! 聖律楽団(オルケストラ・サクラ)、奥義――【重々し(グラー)

 

 ――そうして、一合。切合にも似た無音の狭間。

 須臾の内に、ゔっ、と蛙が叩き潰されるような声が響く。

 残像を残した鮫島ちゃんの右拳は、即ち、班長ならばある程度の人間が可能な絶技――音の壁を超える一撃。貫手という形象拳でもって真似ていた供花とは、訳が違う。

 一手で腹を押し、喉を殴り。巫山戯(ふざけ)倒した奥義モドキを真っ向から打破する。

 大きく怯んで上体を崩した供花の泣き言を一顧だにすることもなく。

「ちょ、ちょっ! 最後まで言わせてよ!! せっかくリリック踏んでたのに!」

「…………少しは黙ってくださいよ」

 そうして苛立ちを隠そうともせず、一踏みで供花の足の指を砕いた鮫島ちゃんは、一フレームの間隙に致命のコンボを繰り出した。

 

 瞬き。腕を振るい、左右の袈裟懸けと横薙ぎの手刀。

 一拍。肘打ち、擠身靠(せいしんこう)、裏拳の連打。続けてたたらを踏んだ女祓魔師に、わずか一瞬で上中下段の蹴りを殆ど同時に放つ。

 それは鮫島ちゃんの後輩……とある祓魔師上がりの警官の、得意技。

 加えて眼球を、眉間を、喉元と鳩尾を潰す貫手に、頚椎と脇腹と腰骨を圧し折る如くに放たれる蹴り。

 関節に押し当てた拳を捻り、一呼吸で骨頭を砕き。神経の経絡と血流とを穿つように指先を這わせる。

 一撃一撃が致死の拳。常人を逸した身体強度と、逸脱の祭具(身体)運用技術の生み出す巧手――。供花が身体捌きと武術で以て致死的な雨霰を的確に致命打にしない程度で逸らし続けているとは言え、その防勢には限界があるもの。

 ちっと舌打ち。供花の起死回生の殴打を避けて、肘の一つで腕を跳ね上げる。正面正中のガードを解く。

 パン、と発勁を用いて供花の豊満な胸を……その奥底にある心臓を射抜いた刹那、彼女の形代がひらりと散った。

「――『是、射殺す百頭(ナインライブスブレイドワークス)』!? いや、どっちかと言えば『秘剣・燕返し』か……っ!?」

「五月蝿い」

 パン、と空気の炸裂する音を弾けさせ、頭蓋を打つ。流れるような連撃の刹那に放たれる。

 狙いは一つ。再生直後の肉体を、そのまま殺すこと。”形代殺し”とも呼ばれる、古流のタクティカル祓魔格闘術の一つ。

 霊的ダメージと併せて実行されることのほうが多いこの武芸を――――鮫島ちゃんは、その矮躯だけで実行した。

「…………っ、中々ぁ!」

 脳を直接頭蓋にぶつけ、潰す武技。仮に形代があったとしても、一瞬の思考の空隙は躱せない。況や脳震盪を意図的に起こす暗殺術も。

 轟音、一声。供花の頭が後頭部から弾ける。それが形代の力だけで、時間でも巻き戻すかのように修復されていく。

 首尾よく最後の形代を奪い去った少女は、最後に大きく突き飛ばす蹴りを放つと同時、もう一度供花へ脳天割りのチョップを繰り出す。

 同時。供花の身体が、形代による再生と併せ、後ろへ跳んだ。

 ほんの数フレームで終わった(七枚目の形代消費)が下した最後の命令に従い、殆ど反射的にバックステップ。

 それで肋骨を複雑骨折にまで追いやる蹴りを、兜割りを、すんでのところで衝撃を若干逸らしても――前頭を掠めただけの頭蓋に、脳に及ぶダメージは強く、大きい。

 

「…………っつ、やっぱ君、無理矢理機械みたいになってんじゃん」

 着地と同時にコンクリートを叩き割りながら転がって、典型的な五点着地の技法で最後の生身だけを守りきった供花は、額から血を流しながらも笑う。

 一気に追い込まれた絶体絶命の危地にも関わらず、戦意を――或いは狂気を絶やすこともなく。

「機械みたいにやらないと、まあ普通出せない身体の動き方してるもん。……それってほんとに面白いの?」

 面白い。オウム返しのように小さく、ポツリと復唱。

 まさしく実感のない言葉を言われたときのように、鮫島ちゃんはもう一度、語尾を上げて繰り返す。

 

「……もう、出せる手札はないでしょう」

「…………どーだか。試してみないとね」

 

 供花はにへらと口元を緩ませると、懐から形代を放り捨てる。

 どれもこれも、一度使用されて黒く染まったシロモノ……人の死とともに、”穢れ”の蓄積したモノ。

 “穢れ”を人類の力で扱うことができる人間は少ない。――だが、しかし。いつ何時でも、そうして境界対策課の中には多数、例外が存在する。

 供花は放り捨てた数枚の形代を掴んで握りつぶし、祝詞を唱えるような音程で朗々と唄った。

 

『地に満ちし繁栄の根源よ』

 

「――――『刹那に咲く華の香の君よ、燃え盛るが如き烈火の情よ!』」

 

 歌う、詠う。身体に巻き付けた幾つかの“祭具”を起動し、裾から握り込んだ……正真正銘の“とっておき”を握りしめる。

 死を前にした恐怖によってか、夜闇の寒さによってか。震える肉体。霊的な防護を一切持たない供花の身体が徐々に熱を持っていくのを、鮫島ちゃんの目は見逃す事もない。

 

「私のことをよく調べてるなら、当然知ってるよね。……私には、すっごく面白い友人(・・)がいるって!」

 

 鮫島ちゃんの脳が回る。血を巡らせ、思考を巡らせ。攻めるか否かを逡巡する。

 これまでの供花の戦い方を考えるに――その凡そはブラフ。縁起によってでしか術式を保持できない――或いは“儀式”を用いてでしか式法を行使できない、そういう霊的奇形はこの世の中にゴマンとある。

 彼女の自称する唯一の式法も……“ネットを介して遍く武術を取得する術式”も、その情報媒体であるスマホを打ち破った時点で無意味。式法(先天的な霊体器官)というものは、元より、何らかの一定の条件と制約下においてのみ起動するものが過半を占めている。

 

 

 だが。万が一、億が一。最後の切り札を隠すため(・・・・・・・・・・・)であったならば。

 

 

 野に放っておいてはならない呪詛犯罪者のなりそこないが、光格坂本神祇官家の裔に守られたこの女が、真にカミの“加護”を得ているものであるならば。

 

「……境対課の秘奥。代山神祇官家の秘儀、“加護”の外科的癒着」

 

 敗れてはならない。決して、間違ってはならない。

 それは正義ではなく、国家権力の威信ではなく、公安部の命でもなく――――たとえ死ぬよりも、更に恐ろしい目に逢いたくはないが故。

「あなたにも、その資格があったとは驚きですが」

 少女は敢えて、供花の口車に乗る。拳を構えて一足一拳、一息で殺せる距離を維持しつつ。

 

「そそ。命を捧げて、神罰の炎を降ろす”加護”……。当然、形代は温存しておくほうが吉のはず。

 ――じゃあなんで、あの子が必死に、全く適さない近接格闘に食らいついているのかわかる?」

 

 ぽつり。明朗に唄うような詠唱を途中で留め、供花は口を開く。

 それは恰も、関西の神祇官家に伝わる『近衛流詠唱保存術』。繋がっていく脳内の情報を無視し、身体の振戦と共に更に体温を上げていく供花へと言葉を投げかける。

 

「…………切り札は、最後まで取っておくもの。それが最も合理的でしょう。切り札である“加護”を使わずに祓滅できるのであれば、それに越したことはない」

 

「ノンノン。……やっぱり君、なんにもわかってない」

 小さく失望したようににへらと笑う供花を前に、鮫島ちゃんは構えを解くこともなく返した。

「……そうやって虚勢を張って」

「ウルトラマンがスペシウム光線を、仮面ライダーがライダーキックを、どうして最後まで使わないのか…………って話じゃないんだよ? もっとしっかり考えなくちゃ」

「…………じゃあ、なんだと言うんですか」

 

『願わくば、この矢に御名の如き生命の躍動を与えたまえ』

 

 供花は何も答えず、詠唱を返す。振戦状態(シバリング)で小刻みに震える腕を突き出し、万力かの如き握力で握り込んだ形代紙を掌の中で軽く擦り合わせる。

 

 “生命力を活性化させる”呪詛を組み込んだ包帯――残り2条の『医霊器具』を一気に用い、代謝と体温を向上させる幾つかの身体機能。波紋も全集中もない……だが、確かに身体能力を大幅に向上させる呼吸法。そうして、可燃物である形代紙と共に握り込んだ松ぼっくり(火口)

 それらをフルに使ってようやく、一時的に万力をも超える人外の握力を――異常極まりない圧力と体温上昇を実現させ。瞬間的に華氏451度(紙が燃える温度)を叩き出して。

 

「私のカワイイ『オー!ニンジャ!』……もといピサ郎のために色んなクラシカル御屋敷に潜り込ん……じゃなかった。色んなクラシカル御屋敷配信をしたこと、忘れてるね?

 …………使い終わった形代の“穢れ”を使うなんて、クラシカル術者の常套手段じゃん!」

 

 そうして、一つのブラフと共に、一人の祓魔師の手のひらから炎が迸った。

 手を開いた瞬間。低酸素状態からの酸素流入――バックドラフト現象を極小規模で発生させた焔は、爆発的に燃焼を続け。

 

「『我が手に華の香の護りを与えたまえ。不浄に裁定の浄火を与えたまえ』!!」

 

 続いて狩衣の裾から取り落とされたゴジアオイの種子を巻き込んで供花の周囲に火炎を散らす。

『医霊器具』の術理による生命力の向上は、恰も彼女のブラフそのまま――――“繁茂する植物と業火の女神”の術理術式を、その“加護”をなぞるかのように。コンクリートの上に無数の白い花を仇花とばかりに撒き散らしながら、ただ一つの火炎と共に燃え広がっていく。

 

 事実上人の身のみで祓魔術にも似た現象を引き起こした供花は、ふんと自慢げに笑いながら、真っ直ぐに突き出した右拳の横に左拳を沿わせる。

 そうして一息に引く。弓を引くように、霊力を以て発動させたとばかりのブラフを――もはや後のない大嘘を繰り返しながら、警戒感をあらわにする鮫島ちゃんへと笑顔を向ける。

 

「へっ……見えてないんでしょ」

 

 弓を構える様。恰も古の名人の不射之射の如く。不可視の霊力によって編み込まれた和弓に、霊力の根源である呪瘤壇を番える。

 それくらいはわかる。クラシカル祓魔師のよく使う、古典的な弓術の動作。古典的な、しかし現代化されてしまった祝詞。

 一歩脚を退いて祓魔術から逃れようとする鮫島ちゃんに向けて、供花は割れた頭蓋から血を流しながら言祝いだ。

 

「だから、怖い」

 

 ぴくり。獣耳が震える。小さな、なんの効果もない呪いが掛けられる。

 

「怖いんだ。私がどんな術式で、どんな奥の手を持って、どんな動きをするのかが」

「怖いんだ。君がなんで襲ってきて、どんな手をどこまで伸ばして、どこまでついてくるのかが」

 

 ぴくり。口角が震える。小さく、(ふる)える声で呪いを返す。

 

「……減らず口を」

「そうでしょ、鮫島ちゃん? ……それが怪談(さめじまじけん)のアジだもの」

 鮫島ちゃんの反論を潰すように。詠唱を続けながら、その機先を制した。

 

「機械ぶったって、システムみたいに動こうとしたって……そうはいかないよ。こう見えて、生きてる人ならたくさん見てきたんだからね」

 何を根拠に。

「だってさ。私か……別の何かか。とにかくなんかを怖いって思える人が、幾ら仕事だからって形代を全部使い果たすほど真っ向から殺し合うわけがないじゃん? ってことは当然……仕事で死ぬかもしれないってことより、もっともっと別のことが恐ろしい」

 何が言いたい。

「だから、わざわざ形代を使わず限界まで頑張るんでしょ? そうじゃなきゃ、さっさと切り上げて仲間を呼んだほうが手っ取り早いじゃん」

 

 無言、沈黙。心が見透かされていくような感覚。自らの土俵の上に上げる、口車。

 

「……あー。なるほど? もしかして君、人狼なのか。他に誰が人狼なのかもわかってないタイプの」

 メタ読みと考察は得意なんだ私。へへと笑って、鮫島ちゃんの核心を穿った。

 少女の脳から、冷静さが消える。血の気が引くような、久々の情動。

 

「……なら、なんで。逃げないの」

 ぽつり。鮫島ちゃんの喉から、誰ともつかない幼げな声がする。

 供花の返答に、迷いはない。

「私? 私はほら、もっと簡単だよ。形代が無くなったって、このまま戦えばワンチャンあるかもしれないじゃん」

 

「……怖くないの」

「恐いかもね。……でも、戦わずに逃げちゃうなんて面白くない」

「……面白い?」

 

 繰り返されるオウム返し。うんと笑って、供花は叫ぶ。

 どこの誰とも知れない“鮫島ちゃん”という仮称の少女に、自分自身に。

 

「わざわざ血反吐吐いて、凄く強い敵と戦ってさ。そんで界異を祓って、みんなを守って。ついでにみんなの笑顔を作る祓魔師(ヒーロー)。それが面白くないはずないでしょ!!」

 

 呆気にとられたかのような。豆鉄砲で撃たれたかのような。呆けた表情。

 呆れとも諦観とも、はたまた古い記憶と環境とに忘れ去られた憧れともつかないような。

 

「……それで、自分も、沢山死んじゃっても?」

 

 沈黙。返答代わりにとんと踵を降ろし、笑う。

 少女は、はっと小さく首を振って、呆けたような顔に皺を寄せた。

 

「……死にたがりめ」

「まさかぁ。八尋ちゃんじゃないんだから、そんな簡単に命を捨てるわけないじゃん」

「恐れ知らず」

「……まさか。オデくんじゃないんだから」

「なら、愚か者」

 

 言えてる。にへらと満面の笑みを浮かべ、同僚の少女が唱えていた祝詞をもう一節。

 自らを試すように。クガタチの煮え湯に賭けるかのように。

 

 

『我が行いに瑕疵あらば、浄火に燃え灰となり人に二度と面を向かうべからず』

 

 

「戦って死ぬのも逃げて死ぬのも、怖いのはどっちも同じなら……出来るだけ面白く、アドがあるように死んだほうがいいでしょ!」

 ぺっと血を吐き、拳を――見えざる弓矢に力を籠める。

 星のように見開いた目を一瞬たりとも外すことなく。

「――だって絶対。それが一番、面白い!!」

 

 ――――狂人。

 ポツリと呟き、鮫島ちゃんは一歩跳ぶ。供花の間合い、見えざる弓矢の間合い内の内へ。術理が機能するより早く。

 その事実を噛み締めて、腹に力を入れ直す。この影響によって踏み出された一歩、その一瞬が、どれほどありがたいことか。

 

「『我が意、我が理に沿うならば────この矢、外させたまうな』!」

 

 最後の一節を吠え猛り、燃え盛る花の陣を飛び越えて迫る少女へ。業火に焼かれる右拳を突き向ける。

 

「――――燃え尽きて。『散華始笑此花朔哉(まいちるかみのかご)』!!」

 

 

 大きく嘘八百を叫ぶと同時、鮫島ちゃんが間合いの内側へ入る。

 弓矢を保持する腕は伸ばさねばならない――それが弓道の基本。中学校の弓道部でも誰でもわかる大前提。それを理解したうえで。少女は供花の保持する不可視の弓を、炎に燃える手首から跳ね上げた。

 刹那。くの字に折れ曲がった右ひじが鮫島ちゃんの頬を叩く。追撃とばかりに放った瞬間の拳が逸れる。

 加えて裏拳。防御も出来ない距離から撃ち込まれた右拳が少女の額を焼き、空気をかき乱して消え失せる。炎の熱さを感じないように訓練された鮫島ちゃんにとって、その炎熱などは根性焼き程度にもならないが――

 

「これは見たことあるかな! 牙突――零式っ!」

 

 本命は即ち額を押し、鮫島ちゃんの口を反射的に開ける事。そうして左手に握り込んだ呪瘤壇を、どうやっても回避のしようがない口内へと押し込み入れること。

 風を切って伸身のバネを駆動させ、供花の左拳が真っ直ぐ少女の口元へと迫る。

「……っ、安直な」

 手の甲が閃き、拳を軽く叩く。狙いすませた打突で供花の拳の親指の付け根……身体機能上、一瞬の脱力が為されるポイントを打つ。

 やっべと口をつく声、重力に従い落下するは、信管の剥がされた呪瘤檀。

 咄嗟に膝でリフティングするように()た呪詛の塊を跳ね上げては、瞬時に掴みとって鮫島ちゃんの口元へと捩じ込んだ。

「『解放(リリース)』!!」

 勝利の雄叫び。

 しかし、一瞬の後には起爆するはずの呪瘤檀は、その効果を機能させない。

 一拍の後に起爆すらしなかった呪瘤檀を離す鮫島ちゃんの口には、何らかの呪詛が刻印された舌が垣間見える。

 

「…………っ」

 

 息を呑む声。決死の作戦が無に帰すも――まだ。諦めるわけにはいかない。

 供花は裂帛の蹴りとともに鮫島ちゃんの細い首筋へ腕を這わせる。そのまま一歩、隣のビルとの壁際へと押し込み、何より速く鋭く、指先だけの貫手で以てアドリブでの勝利を図った。

 

「許せサスケ、八卦六十四――――」

 

 狙うは速攻。一瞬で無数の連撃を放つ、つい先程鮫島ちゃんが行った技。

 類稀な身体能力の発露によって行われるべき流儀を赤熱する体温と技術によって補いつつの攻撃。

 

 刹那、トンと供花の胸に衝撃が走る。

 わずか一瞬。致死の連撃が放たれる寸前。全くの無防備になった供花の豊満な筋肉の鎧を、鮫島ちゃんの腕が貫いていた。

 

「ちょ、まっ……月読発動の時に攻撃するのはナシっしょ……!」

「……ハートキャッチ、ですよ。憧れの……っ」

 

 どくり。血の気が引く。熱が冷める。供花の身躯を巡る血流が根底から失われていくのを感じる。

 心臓が丸ごと握り込まれたまま、彼女の肋骨を抜いて体外へ。

 誰がどうやっても致命傷となる一撃の後。野蛮極まりなく小さな少女の握力のみで、その臓腑は血潮と変わる。

 

 腕を引き抜いた途端。どさりと地面に倒れ伏した祓魔師の女を――鵠別供花を見下ろし。鮫島ちゃんは肩で荒く息を整えながら、本当の死闘を切り抜けた勝利の言葉を投げ落とした。

 

「はぁ…………はぁっ、……辞世の句でも、聞きましょう」

 

 敢えて、供花の流儀に乗る。

 これまでの鮫島ちゃんからは考えられない、一時の熱狂。

 

「――……【りゆうおう おまえはもうし ぬわかつた かばか】」

 

 ぽつりと呟き、親指を下に。

 最後の最後まで挑発的な笑みを崩さなかった無法そのものな祓魔師を眼前に、法の執行者は小さく諦めたように首をふる。

 

「…………もう、いいです」

 

 そうして、少女は背を向けた。

 冷たく屍に変わっていくだろう女を置いて、公安きっての殺し屋は、夜闇の中へと消えていった。

 

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