なき王女のためのパヴァーヌ   作:maplejam

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"ケイ、ケイもなりたい自分になっていいんだ"

"アリスが勇者になりたいと言うのだから、"

"ケイは勇者を探す旅人にも、勇者を伝える吟遊詩人にも、"

"勇者を復活させる司祭になったっていいんだ"


王女と鍵

アトラ・ハシースの箱舟から王女――アリスの仲間たちは無事に帰還した。

 

キヴォトスの空は青く澄んでおり、誰もが復興にむかい笑顔の花が咲く。

 

アリスの仲間たちの言葉を借りるのであれば、世界は平和を取り戻した。

 

ただ、ただアリスがいなくなったことを除けば。

 

 

 

 

「本日の業務は以上となります、先生。データ処理や資料整理であればいつでも対応しますのでご連絡ください」

 

"ありがとう、ケイ"

 

「いえ、アリスの代わりにあなたのお手伝いをすることが私の役割ですので」

 

"そういえば、ゲーム開発部の子たちは元気?"

 

「はい。今朝は才羽モモイが花岡ユズと格闘ゲームをしていました。あいかわらず才羽モモイはゲームのことに対して熱くなりやすいようです」

 

ミレニアムサイエンススクールは虚妄のサンクトゥムが顕現した場所が郊外や遊園地であったためか復興作業というものも少ない。

 

たしかにエリドゥには被害――損傷があったが、エリドゥは調月リオが独自で開発・運営をしていたものであり、ほとんどのミレニアム生徒には関係がないことだった。

 

それ故にエンジニア部は他校の被災地域――オーパーツの技術を見に行くのだと、シャーレから出向という形でトリニティ総合学園へ出向くことが増えたようだ。

 

"そっか。私は明日からナグサたちの様子を見に百鬼夜行に行くんだ。今日までに片付けなきゃいけない仕事だったから助かったよ"

 

「……いえ、私に感謝は必要ありません。あなたにはアリスを探す手伝いをしてもらっていますから」

 

私がアリスを救うことができなかった、あの日。

 

アリスの代わりに、先生の役に立たなければならないと、誓ったのだ。

 

 

 

 

シャーレの当番というものも、アリスが元々シャーレの生徒であるために私の役割として参加することにしたものの1つだ。

 

もとよりゲーム開発部の部員たちは先生を遊び相手――特別顧問として慕っている。それはアリスも同じで、先生を親のように感じていたのではないか、と私は思っている。才羽モモイのシナリオ風にいうのなら、現世は先生で前世は兄妹で生き別れの親戚のお兄さんといったところか。

 

アリスは先生のことをゲーム開発部のマスコットだと思っていた節もある。天然なところがあるというか、バグでも残ってしまっているのか、少し攻撃的な言動も見られた。いや、あれはクソゲーで王女を教育した才羽姉妹が悪い……いまだに意味不明な言動をしていたと思うこともあるし……。

 

そんなことを考えながら私はミレニアムサイエンススクール――を通り過ぎ、ゲヘナ学園へとやってきていた。セイントネフティス社の鉄道事業の再開によりシャーレからはアビドスを通過してゲヘナへ向かえるようになったのだ。

 

AL-1S――王女という表層人格が深層人格であるkeyと入れ替わってしまい、休眠状態になっているという仮説を先生と立てた後、私は王女が辿ってきた記憶の欠片を集め、再度アリスを起動させようとしている。

 

ゲヘナ学園には風紀委員長である空崎ヒナ、ウトナピシュティムの本船でともに戦った美食研究会、給食部の生徒たちがいる。

彼女たちを通して私の中に残っているであろうアリスの心が動けばいいと、先生と相談し、定期的に彼女たちと会う機会を得ることができる。

 

私はそれぞれの学園を巡る必要がある。アリスの存在を自覚できるようになれば疑似的なナラム・シンの玉座を生成、データとしてのアリスを復旧および修復し私の中へと戻す。先生はシッテムの箱と色彩を利用し疑似的なナラム・シンの玉座を生成したという。演算能力だけであればシッテムの箱を使わなくともアトラ・ハシースの箱舟を起動できるエリドゥの復旧さえ終われば可能であると思っている――可能だと確信している。

 

 

 

 

「よく来たわね、天童ケイ」

 

空崎ヒナは、優しくて先生が頼りにしているうちのひとりだ。

 

このキヴォトスの中でもトップレベルの戦闘力を持ち、この間のアビドスの騒動では小鳥遊ホシノの暴走を止めることに成功している。

 

アビドス廃校対策委員会とはウトナピシュティムの本船で会って以来、ハイランダー鉄道学園とのやり取りのせいか、忙しくしているようでエンカウントできていないので、小鳥遊ホシノが現在どのような状態なのかもわからない。アビドス廃校対策委員会は優秀なオペレーターがいるのか、データやカメラへのハッキングをするたびに迎撃システムが複雑化している。私なら突破可能だが、私以外では黒崎コユキかヴェリタスができるかどうか。奥空アヤネとは一度顔をあわせる必要があるだろう。

 

「1週間ぶりですね、空崎ヒナ」

 

「……えぇ、そうね」

 

空崎ヒナとアリスが会ったのは、虚妄のサンクトゥム攻略戦の際である。あの時はSRT特殊学園と空崎ヒナ、そしてゲーム開発部という過剰戦力であったように感じる。とはいえ、今の私はAL-1Sが所持していた神秘の大半を使用できないため光の剣を持つことができない。戦力としてもゲーム開発部と誰とも大差ないだろう。

 

そこで私はゲーム開発部とともに戦ったRABBIT小隊および空崎ヒナに協力を要請し、戦闘訓練をしている。何かしら理由がなければ会う理由がないというのもある。

 

私は武装を光の剣からH&K VP9――ハンドガンとエンジニア部制改良型スタンロッドK式に変更した。機動力と、逃走するための軽量装備でよかったからだ。

 

私の本領は演算能力にある。周りのデータを【収集】し【変形】させることが私の能力である。それが、アトラ・ハシースの箱舟を起動させるためのkeyである私の役割だからだ。王女としての身体能力がない私には片手ではハンドガンが限界であり、神秘を込めて撃ったところで光の剣ほどの威力はでない。私は身体能力を向上し、アリスの体を守る義務がある。

 

「今日は体育館が空いているそうだから、そっちへ行きましょう」

 

「はい。本日もよろしくお願いします」

 

ゲヘナ学園は巨大であり、無法であり、混沌とした学園である。こうして歩いているだけでも爆発音がすれば銃弾が視界の端を通り過ぎた。

 

――なぜか爆発音が食堂の方で鳴っている気がするが、気のせいだと思いたい。

 

「……えぇ、確認したわ。イオリ、制圧しなさい」

 

風紀委員会から連絡があったのか、空崎ヒナはすぐに指示をだしていた。歩いているだけで爆発していれば仕事量は途方もないことになっていそうだ。空崎ヒナのクマがとれないことも納得ができる。

 

「空崎ヒナ、先生があなたのことを心配していました」

 

「……そう」

 

「あなたは働きすぎだと。忙しいかもしれないが、たまには連絡してほしいと」

 

「そうね。あとでモモトークで連絡しておくわ」

 

「はい。あなたはアビドス砂漠でのこともありましたから、先生はお礼をしなければとカタログを眺めていました」

 

「……そんなこと、別にいいのに」

 

「雷帝の遺産を破壊するためとはいえ、職務以上のことをしている自覚はないようですね。ミレニアムサイレンススクールにも雷帝の遺産については情報が流れてきました。エンジニア部は破壊する前を見たかったと、次にゲヘナ学園へ行く際には空崎ヒナに見学の許可を得るようにと言付けがありました」

 

「構わないわ。完全に破壊してしまったけれど、それでもいいのなら施設はそのままにしてあるわ」

 

「わかりました。エンジニア部にはそう伝えておきます……。それと、小鳥遊ホシノにジャージを返しに行く際は私もついていっても?」

 

「そうね、あなたも小鳥遊ホシノに会いたいでしょうし」

 

「一部否定。私が会いたいのは小鳥遊ホシノでもありますが、別世界の砂狼シロコに会いたいのです」

 

「もう一人の砂狼シロコに?」

 

「はい。別世界の砂狼シロコはナラム・シンの玉座を利用し空間転移を使用していました。彼女と出会うことができればナラム・シンの玉座の理解が深まるとともにアリスを再起動させるための糸口を見つけることが可能でしょう」

 

「なるほど。たしかに、彼女は別の場所から空間転移を用いて砂狼シロコの傍に出てきていたわね。小鳥遊ホシノを助けるために先生はナラム・シンの玉座を利用したと聞いたわ」

 

「その、ナラム・シンの玉座を疑似的に再現するためには色彩を利用する必要があったと先生には聞きました。ですが、アトラ・ハシースの箱舟と同様の演算はエリドゥをプロトコル:ATRAHASISにて分解、再生成することで可能であると考えています」

 

「あなたはその力で天童アリスをサルベージしようとしているのね」

 

「そのために、できるかぎりアリスの記憶を辿っています」

 

「そうね。そうなると、ウトナピシュティムを破棄したのは少しもったいなかったかもしれない」

 

「……そう、ですね。ですが私はあの時すでにアリスを失っていましたから。王女としての機能を失った私ではナラム・シンの玉座を利用してウトナピシュティムの修復を行うことはできなかったでしょう」

 

それに、あの時私は王女――アリスを守ることができなかったという失望落胆の末に愛清フウカと同時にキヴォトスへ帰還させられてしまった。

 

ゲーム開発部と最後まで冒険を……宇宙勇者を成し遂げることもできずに、解除装置を破壊した時点で心が折れてしまっていた。もうゲーム開発部の責任にならないと、先生であれば生徒たちを守り通すだろうと思ってしまった。アリスがいなくなってしまった事実が、そこで実感をもってしまったのだ。

 

「戦闘訓練を開始しましょう。あなたにも、私にもやるべきことは多いはずです」

 

 

 

 

キヴォトスで戦闘能力が高い生徒は何人もいるが、その中でもずば抜けて強い生徒がいる。その中の一人である空崎ヒナは、全体的な能力が高いアベレージ型だといえる。耐久性、火力、機動力、知性、知識、指揮能力……それぞれの能力が高く、どれか1つでも空崎ヒナを上回ることがキヴォトス最強格の条件ともいえる。

 

小鳥遊ホシノは純粋な戦闘特化だ。機動力が高く、火力と耐久性がついてくる。指揮能力や知力についても平均以上のものをもっているが、彼女を最強格だと言わしめる理由は、その神秘の量である。その絶大な神秘により戦闘を繰り返し続けていても息切れしない。まさしく一騎当千の生徒だ。

 

ミレニアムサイエンススクールでいえば美甘ネルだろう。短期決戦型でいえば彼女が最強であると言えるかもしれない。機動力特化であり、近接戦闘であればほぼ全ての生徒に勝つことができる。エリドゥ内での戦闘を見る限り連戦も可能であり、アリスの力をもっても勝てない相手の一人であるといえる。

 

トリニティ総合学園では正義実現委員会の剣崎ツルギが有名だ。彼女は耐久性に特化している。軽傷であればその場で回復し、重症であっても日をまたぐ必要がない。まさしく重戦車のような安定感と火力をしている。対軍であれば最強と呼べるのは彼女だろう。

 

トリニティにはもう一人、ティーパーティーの聖園ミカがいる。彼女は力というものを体現した存在だ。筋力という面でいえば誰にも負けないだろう。もっとも、彼女は戦闘訓練をしていない。能力的にみれば最強格であるが、実際の戦闘能力ではどうなのだろうか。訓練を積めば神秘の量といい小鳥遊ホシノに匹敵するのではないか。

 

他にも能力が高い生徒は多い。2年生でいえば砂狼シロコ、十六夜ノノミ、白洲アズサ、錠前サオリ、不破レンゲ、桐生キキョウ……Cleaning&Clearingやゲヘナ風紀委員会、正義実現委員会。3年生になるころにはどの生徒が最強格と呼ばれるようになるのか。

 

1年生でいえば秤アツコ、黒崎コユキ、飛鳥馬トキ、伊草ハルカ、霞沢ミユ、そして天童アリス。これからいくらでも強い生徒はでてくるだろう。

 

「……さすがに、厳しいですね」

 

「1年生にしてはよくやっている方よ。自衛、という意味ではもう十分な能力はあるわ。私相手でも逃走程度であれば可能性もあるわね」

 

「ですが、まだまだ強くならなくてはなりません」

 

「特異現象を相手にするのであれば、まだ足りないでしょうね」

 

「……もう一度、お願いします」

 

ハンドガンを構えながら私は空崎ヒナに向かって走っていく。様子見などする必要がない。そんなことをしていれば一方的に撃たれて終わってしまう。

 

ババババッ

 

空崎ヒナとしてはけん制レベルであろう銃撃も、私からすれば一撃で沈む強さを持っている。考える暇さえなく、掠らないように大きく回避していかなければならない。

 

「こなければ、ずっとこのままよ」

 

「……わかって、います」

 

地面に顔がすれすれになるくらい低姿勢で走る。少しでもヒットボックスを小さくして近寄らなくてはならない。花岡ユズは「小さいキャラは機動力が高いの。その小ささで相手の攻撃を潜り抜けて連撃を叩き込んで、相手が反撃をする前に倒しきる。それが理想だと、思う」と言っていた。

 

「いき、ます……!」

 

スタンロッドを空崎ヒナの足に向かって振る。速度重視のその攻撃に、私は神秘を込めていく。普通の生徒であれば一発で昏倒できる程に、過剰なまでに神秘を込める。

 

「へぇ、いいわね」

 

光が迸るほどの威力を、いともたやすく銃口で受け流される。軽く振っているような動作であるくせに私の体ごともっていかれるような力。

 

「どの口が……!」

 

流された左手を地面につけ、その勢いを利用して右足を振り上げる。同時に左足を浮かせることで飛距離を稼ぎ頭を狙う。

 

「近接戦闘は美甘ネルを模倣しているのかしら」

 

当たらないのはわかっていた。その右手を使えなくする、すなわちデストロイヤーを撃たせないのが目的だ。私の渾身の蹴りを右腕で軽く受け止められる。

 

けれど――

 

「……ふっ!」

 

両手で地面を押して、右足を軸に空崎ヒナの方へ向き直る。

 

上下逆さまの状態ではあるが、この至近距離であれば外す要素がない。速度を意識して1発、2発、3発と打ち込む。

 

「……どう……ですかっ!」

 

抱え込んでいた左足でデストロイヤーを蹴りつけ、離れる。しかし大きく離れてはいけない。空崎ヒナのデストロイヤーは中・遠距離武器だ。対して私はハンドガンとスタンロッドの超至近距離戦闘以外考えていない装備。

 

「いいわね」

 

ノーダメージではないが、あまり効いている様子もない。デストロイヤーを構える前にもう一度叩き込まなければ。

 

「……まだ、ですっ!」

 

着地した私は、もう一度前へ出る。同じ動きは対処される可能性が高い。ダメージはないだろうが、けん制で数発。そのまま、ファント。避けられた。デストロイヤーで殴られる。スタンロッドを合わせる。リポスト。抑え込み、弾かれる。掃射。避け、いや逃げる。銃弾が掠る。

 

「威力不足ね」

 

「まだ、終わっては……!」

 

地面を蹴る。スモークグレネードを投擲。デストロイヤーに打ち上げられた!?

 

慌てて下がる。空崎ヒナが追いかけてくる!振り下ろし、は転がって避ける。お腹に衝撃!?救い上げられた。デストロイヤーにつかまり飛ばされないように、し、て……。

 

「おわりね」

 

空が見えた。

 

あぁ……また勝てなかった……。

 

 

 

 

「今日はここまでね」そう言い残して空崎ヒナは先に風紀委員会室へと向かった。

 

回復するまでは救護室から動くかないよう言われたが、きたからには仕事を手伝わなければ。

 

――こうして救護室にいると、才羽モモイのことを思い出す。

 

私が表層人格として初めてキヴォトスを見た時の記憶だ。アトラ・ハシースの箱舟を起動しようとし、才羽モモイを巻き込み校舎を破壊した。美甘ネルに止められたといはいえ、ゲーム開発部やヴェリタス……そして先生を巻き込んだ。

 

そして調月リオとともにエリドゥへ行くまでにアリスも傷つけてしまった。

 

あの時は特に何も思わなかった。アリスを玉座へと、王女へ至るための条件を整えることしか考えていなかった。

 

それが、私を――keyを否定し、アリスを王女ではなく勇者になる要因になるとは思ってもいなかったが。

 

「……そろそろ動いても支障がないようですね」

 

30分とはいえ行動不能になるほどの神秘を消費したようだ。これが剣崎ツルギであれば、数秒で回復するだろう。私はまだまだキヴォトスのトップ層にはほど遠い存在であるといえる。

 

氷室セナに挨拶をし、救護室を後にする。

 

 

 

 

風紀委員会の手伝いをしてミレニアムサイレンススクールへと戻ってきた。

 

ここはゲヘナ学園とは違い銃声もしなければ爆発音もしない……わけではないが、比較的静かな場所だといえる。

 

そもそもにゲーム開発部が他の部活を襲撃したり、校内でギャンブル大会を始めたり、無断で建物を建てたり、セミナーを襲ったり、立ち入り禁止区域に行ったり、エンジニア部を破壊――これは私がやったことだ――したりしている。

 

大半は才羽モモイの仕業であろうことはメンバーからして分かりやすい。花岡ユズは一人であれば部室にこもってゲームをしているかゲームを作っているかで、才羽ミドリは絵を描いたり買い物や美術館へ行くなど意外とアウトドアなところがあるが、一人で何かを破壊したり襲撃したりする無茶はしないだろう。

 

もっとも、アリスがゲーム開発部になってからは半分ほどアリスが原因だ。

 

アリスは日頃から冒険だと言ってミレニアム中を探索していた。その中で先生と探索したり、エンジニア部についていったりと、好き勝手していたのだ。

 

行動的な冒険の結果か、ミレニアムへ戻ってくると私はよく声をかけられる。

 

「やっほー!アリス――いや、ケイちゃん!」

 

「こんばんわ、一ノ瀬アスナ」

 

「う~ん、今日もクールだね!どこに行ってたの~?」

 

「今日はシャーレで当番業務を行った後にゲヘナ学園へ空崎ヒナに会いにいきました」

 

「いいね!私も今日はゲヘナ学園の方に行ってたんだよ!」

 

「また調査任務ですか。ジョブを女子高生にし潜伏する任務……でしたか。アリスの冒険で会ったことがありましたね」

 

「そうだねえ、アリスちゃんの冒険だとリーダーや私とはよくあっていたかな?」

 

「美甘ネルとは――ゲームセンターですかね。あいにくと私はゲームをデバック以外ではあまりやらないので分かりませんが、室笠アカネに怒られていたのを覚えています」

 

「うぅん……リーダーは戦ったりするのは好きなんだけどね……。潜入任務とかはあんまり得意じゃないのかも?」

 

「そうですね、私が記録している美甘ネルはそういう人物です」

 

ミレニアムサイレンススクールで最強と言われる美甘ネルは一ノ瀬アスナが所属するCleaning&Clearing――別名メイド部のリーダーだ。よくアリスと遊んでいたため私も知っている。いや、あれは遊んでいたというより美甘ネルが遊んでもらっていた……指導?接待?とにかくアリスが一緒にゲームをする仲間でもある。

 

一ノ瀬アスナと歩いていると、やはり何人かがアリスだと思い手を振ってくる。

 

――私としては振り返す必要性を感じないが、アリスがつくった関係性を壊すのは忍びないので頑張って笑顔を浮かべながら手を振り返す。

 

 

 

 

なんで笑うのでしょうか。

 

 

 

 

「変な顔!」

 

「うるさいですね」

 

笑顔は必須機能ではなかったのだ。私には必要だと思っていなかった。アリスが浮かべるような、そんな透きとおった笑顔など、私にはできない。

 

 

 

 

校舎についたので一ノ瀬アスナとは別れ、ゲーム開発部の部室へと戻ってきた。

 

いつものことだが、小さく深呼吸をしてからノックする。

 

 「この遠慮しがちなノックはケイちゃん、かな」

 

 内側から扉が開き、才羽ミドリが顔をのぞかせた。

 

 「はい、帰還しました」

 

 「おかえり、ケイちゃん」

 

 「遅いよケイ!私待ちくたびれちゃったよ!」

 

 中から騒がしい声。才羽モモイであろう声が廊下に響く。

 

 「ちょっと、お姉ちゃん!扉開けてるんだから大きな声ださないで!恥ずかしいんだから!」

 

 「ミドリだって大きな声出してるじゃん!」

 

 「ふ、二人とも落ち着いて……」

 

 「中に入ってもよろしいでしょうか」

 

 「あ、うん。というか、そんな遠慮しなくていいって。私たちは仲間なんだから」

 

 いつも私は部室にはいるのをためらってしまう。どうしても、ここは私の居場所ではなくアリスの居場所だと感じてしまうからだ。

 

 「ほら、ケイ!入って入って!」

 

 遅いからだろうか、扉の前まできた才羽モモイに手を引っ張られる。

 

 ――あいかわらず暖かい手だ。

 

 「け、ケイにやってもらいたいことがあるの」

 

 「分かりました、花岡ユズ。私でよければクエストを受諾します」

 

 「はやくはやく!」

 

 こうして騒がしい仲間たちに迎えられ、ゲームをしたり冒険をしたり。

 

 私はアリスの代わりに色々なことを経験していく。

 

 いつかアリスと話すときに、こんなことがあったんだって語るために。

 

 吟遊詩人として、私の冒険譚を奏でるために。

 

 司祭として、アリスを再起動するために。

 

 そして――私たちの青春のために。




ケイが登場する二次創作が読みたいと思い探していると、ケイとアリスが共存しているか、ケイとアリスが別の身体をもっていることが多いです。

ゲーム開発部はほのぼのというか日常物が似合うのは確かなのですが、ゲーム開発部に鬱展開を入れつつケイを登場させようとすると

【アトラ・ハシースの箱舟の起動によりアリスがそのまま「勇者」として消えてしまった世界線】

が一番わかりやすいのかな、と思い書いてみました。

続きは書いていません。設定を考えてから3日でこの量しか書けなかったので、続きを書くとしてもだいぶ空きます。



この設定で誰か書いてくれないかなあ。
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