「私は何かになれるのでしょうか」
「私がケイとして出来ることが、」
「アリスのためになるというのであれば、」
「それは私にとって嬉しいことなのだと思います」
「これで事前準備が完了しました。先生、答え合わせをしましょう」
"そうだね。ケイ、みんなとの冒険はどうだった?"
「私には過ぎたものだと思っていました。才羽モモイが手を引いてくれるたびに、才羽ミドリが抱きしめてくれるたびに、花岡ユズが私のワガママを聞いてくれるたびに。ですが、それが心地良いと思う自分がいたことも確かです」
"みんなとも仲良くなれたね"
「まるでアリスの絆を奪ってしまうようで、私がアリスに成り代わってしまうようで、私は積極的に関わろうとしていなかったように思えます」
"初めはそうだったかもしれない。ケイも、みんなも、アリスを想って動いていた"
"でも今は違うはずだよ。アリスを知らなくて、ケイだけを知っている子もいる"
そう。私とアリスは一蓮托生であり、主従関係があった。アリスが王女で、私が起動装置。世界を滅ぼすために生まれ、そのために私は行動していた。
けれど最近は、私が望むことを私の意思で行動していたように思う。
"それに、ケイが作ったパーティーもあるでしょう?"
「あれからも連絡を取り合っています」
"ケイはもう冒険者のひとりだ"
「肯定します、先生。これより、私たちのクエストを開始します」
「そうですね、名付けるのであれば――」
☆
ミレニアムサイエンススクールの地下には調月リオが作った対特異現象用の都市エリドゥがある。そしてエリドゥには1万エクサバイトの演算処理をも可能とするリソースがある。
これを用いてアトラ・ハシースの箱舟を生成することでナラム・シンの玉座を構築。状態の共存下により別世界の名もなき神々の王女AL-1Sを起動前の状態で呼び出す。アリスのデータとケイのデータを分離し、それぞれのボディーへと再インストールする。
懸念点はある。アトラ・ハシースの箱舟を生成することで発生するであろう特異現象、世界のルールに反するであろう私の行動が司祭たちにどう映るのか。
「これより【ケイの大冒険~アリス復活編~】の作戦会議を始めます」
向かって左側に座るのは資料を配った時から苦笑いをしている奥空アヤネ、よくわからないが温かい目をしている早瀬ユウカと生塩ノア、ドヤ顔で腕を組んでいる作戦名を決めた才羽モモイと、その後ろに隠れるように周囲の反応を伺う花岡ユズ、書記としてホワイトボードの前に立つ才羽ミドリと月雪ミヤコ。
右側に座るのは紅茶を飲みながら涼しい顔をした桐藤ナギサ、なぜこの場に呼ばれたのか理解していない阿慈谷ヒフミ、空崎ヒナに言われやってきた天雨アコ、心配だからと参加してくれている鬼方カヨコ、そして先生だ。
「本作戦はミレニアムサイエンススクールの地下、エリドゥ内にて決行します。日時は記載通りに、考えうる限りの危険要素を羅列しています」
予想される敵対戦力は、別世界のkeyと第八セフィラ・ホドである。別世界のAL-1Sにアクセスし制御権を奪った際に、私であれば第八セフィラ・ホドを利用しエリドゥの制圧、そのままアトラ・ハシースの箱舟を生成し名も無き神々の王女を奪取、世界をアーカイブ化する。
私たちは3つの班に分かれる。
ゲーム開発部とヴェリタス、特異現象捜査部、セミナーのユウカ、先生はクエストのメインコンテンツである【アリスの復活】を担当。
アビドス高等学校廃校対策委員会、ゲヘナ学園風紀委員が第八セフィラ・ホドを担当。
トリニティ総合学園正義実現委員会、補習授業部、放課後スイーツ部、ゲヘナ学園美食研究会、便利屋68、ミレニアムサイエンススクールCleaning & Clearing、エンジニア部、アリウス分校アリウススクワッドが外部で発生するであろうDivi:Sionシステムの暴走および無名の司祭による妨害に対応してもらうこととなる。
他にも参加・協力を名乗り上げてくれた部活・学校は第三班として作戦へ参加する。
「第一目標は【アリスの復活】です。奥空アヤネ、貴女が一番理解しているでしょう。小鳥遊ホシノの時と同様です。アリスはまだ私の中にいます。アリスは私とゲーム開発部が呼びかけ――呼び出します。その後妨害にくるであろう第八セフィラ・ホドを第二班と共に制圧。第三班は別世界のkeyが起動するであろうDivi:Sionシステムをメインコントロール室へと近寄らせないことがメインとなります」
「ここまでで質疑応答を行います。各学校の代表者は挙手にて質問をお願いします」
私たちには準備の時間があった。エリドゥの防衛システムを強化ではなく劣化させ、Divi:Sionシステムは私の制御下に置きオリジナルのDivi:Sionシステムと戦えるように改良した。アトラ・ハシースの箱舟を生成したあとに戦いやすくするためにスペースの確保。脱出の可能性を考慮した侵入経路の形成。事前に準備できることはすべてしてきた。ミレニアムサイエンススクールでは結果が至上である。最良で、最高の結果を見せようと思う。
「あ、あのケイちゃん。私たち補習授業部は遊撃部隊だと聞きました。ディビジョン?というロボットは合同演習の際に確認させていただきましたが、注意点などはありますか?」
「阿慈谷ヒフミ、Divi:Sionには3種類のタイプがあります」
無名の守護者Type.Fはクモ型の4足歩行ロボットだ。1mほどの大きさで、最も数が多い。無名の守護者Type.Fが前衛に、主なアタッカーとなる。
無名の守護者Type.Mは球体状のボディに触手が生えたクラゲ型のロボットだ。サイズは約5mほどで、ヒーラーを兼ねた後方支援型。
無名の守護者Type.Bは6本の足としっぽを持つハサミのないサソリ型のロボットだ。もっとも巨大で頑丈である。尻尾から光弾を発射するので注意が必要だ。
「Divi:Sionは名もなき神々の王女AL-1Sを指揮官としています。名もなき神々の王女であるアリスが休眠状態である現状は、その指揮権が私――keyへと移行しています。しかし私とアリスを再インストールする間は、ほぼ確実に別世界のkeyが指揮権を奪うでしょう。事前に私が所有しているDivi:Sionは稼働しないように電源関係を外した状態にしておきます」
だが、別世界のDivi:Sionを補給されるはずだ。私がナラム・シンの玉座を構築すれば、そのコントロールをA.R.O.N.Aが握っていようが環境として利用される。状態の共存下であることは変わりないからだ。
「私からも質問。虚妄のサンクトゥムの時みたいに他のデカグラマトンの預言者がでてくる可能性は?」
「鬼方カヨコ、現状では不明であるとしか言えません。ほぼ確実に出現するであろう存在が第八セフィラ・ホドであることは確かです。次点で第四セフィラ・ケセド、第一セフィラ・ケテルが予想されます。その場合には便利屋68の皆さんに第一セフィラ・ケテルを担当していただく予定です」
第一セフィラ・ケテルは廃墟水没地区未確認区域にて確認された四足の多脚戦車である。どの形態で出現するかは分からないが、初期ロットで出現するのであれば便利屋68だけで対処可能だ。
第四セフィラ・ケセドはミレニアム近郊に廃棄された兵器生産工場の生産システムAIだ。こちらは戦闘経験があるCleaning & Clearingに対応してもらおうと考えている。
「では、私からも。ケイちゃんと別世界のkeyが会合したときに、無名の司祭のオーパーツを稼働させるトリガーAIとして何かしら不具合が起きたりはないのでしょうか?」
「生塩ノア、そこはヴェリタスとエンジニア部と協力し対抗システムを構築しました。私たちがAL-1Sへ干渉するまでの時間は先生と私たちで稼ぎます。その際の連絡は第一班早瀬ユウカ、第二班奥空アヤネ、第三班鬼方カヨコでお願いしています」
「全体連絡は私――生塩ノアが担当すればいいんですね?」
「肯定します。生塩ノアが前線指揮に立つ場合には、浦和ハナコに担当していただきます」
各校の指揮官適正がある生徒がほぼ参戦しているのは幸先が良い。戦力としても小鳥遊ホシノ、空崎ヒナ、美甘ネルが確定で参戦してくれる。聖園ミカは謹慎中のため待機、剣先ツルギはトリニティ方面限定ではあるが参戦予定だ。
「後半は、作戦終了前後の話に入ります」
本作戦【アリス復活】が成功したあとの話だ。
まずアリスが復活した時点で2つの分岐が派生する。それはアリスと私が動けるかどうか、だ。
アリスと私が動けた場合、ふたり掛かりで別世界のkeyを停止させ、ナラム・シン玉座による状況の共存を解除する。別世界のkeyを停止させた時点でDivi:Sionへの指揮権がアリスに戻ってくるので、あとは残党処理で終わりである。
問題はアリスも私も動けなかった場合だ。その場合、先生に負担をかけることになる。シッテムの箱を通してナラム・シンの玉座を解除してもらい、別世界のkeyと戦闘することになる。先生が負けるとは思わないが……なるべくこの状況にはしたくない。
"大丈夫だよ、ケイ。みんなで協力すればきっと上手くいくよ"
「そう、ですね。皆さん、どうかよろしくお願いします」
☆
「ケイ、お疲れ様」
事前説明会の休憩時間、次の準備をしていると鬼方カヨコが話しかけてきた。
「私たちに手伝ってほしいっていうから小さい依頼かと思ってたけど、色んな学校が参加してるしまとめるのも大変そうだ」
「私と接点がある団体に声を掛けさせていただきました。協調性がない生徒はいないはずです」
「なるほど、冒険の仲間を募ってたんだ。そういうことならパーティーメンバーに選んでもらって光栄だね」
便利屋68には正式に依頼をさせてもらっている。先生が依頼の電話をした時には陸八魔アルが即答で依頼を受けてくれた。慌てて依頼の内容を聞いていたらしいが、より詳しい内容を聞かねばと鬼方カヨコが来たようだった。
「鬼方カヨコには負担をかけます。貴女はそれほどでもないようですが、トリニティ総合学園の生徒にも指示を出してもらうことになりますから」
「まあ、ね。陰湿なやつも多いけど、ヒフミみたいに素直で可愛い子もいるし」
阿慈谷ヒフミ人気が底を知れない。良い意味でトリニティらしさが無いということなのだろうか。
「カヨコさん、お久しぶりです」
「アビドスの……アヤネだっけ?」
「はい。今回は同じチームではありませんが、頑張りましょう」
「そうだね。まあ私たちは本隊じゃないから、ふたりの活躍を後ろから見守ってるよ」
「あはは……頑張りますね」
「よろしくお願いします。奥空アヤネには前回に引き続きオペレーターを担当していただきます」
「今回は風紀委員長さんたちにも指揮をしなくてはいけないので、少し緊張します。ですが、ホシノ先輩がこれも練習だと」
意外と小鳥遊ホシノはスパルタなのだろうか。後輩には甘いと思っていたのだが……そういえばトリニティ謝肉祭の際のアイドルも小鳥遊ホシノが約束を理由に命じた形だと聞いた。それとも最上級生としての自覚をもって、後輩を導く方向にシフトしたのか。
「それと、ケイさんにホシノ先輩から伝言を預かっています。ええと『気持ちはしっかりと伝えるように』と」
ほんとうに、強い人だ。
☆
「わぁ、この紅茶おいしいですナギサ先輩」
「ナギサ様はお会いした時に紅茶をご馳走してくださりますが、今日のもとても美味しいです!」
「ふふっ、先生もどうぞ。少しでもリラックスしていただければと、簡易ながら用意させていただきました」
"ありがとう、ナギサ"
「ヒフミさんにはよく昼食後にお誘いさせていただいておりますが、先生とミドリさんはあまり紅茶に明るくないと思い、まずは飲まれたこともあるでしょうアールグレイを持ってきました」
「パックのなら飲んだことありますけど、なんだか味が薄いのに深い?というか、不思議な感じです」
"うん、優しい味だね"
他のメンバーはどうしているのだろうかと歩いていると、桐藤ナギサのハーレムが形成されていた。
前々からお気に入りの阿慈谷ヒフミ、最近気に入られた才羽ミドリ、そして先生。普段から忙しい桐藤ナギサには良い気分転換になっているのだろう、展覧会の時よりも笑顔が眩しい。
「あ、ケイちゃん。まずは前半だけどお疲れ様」
「お疲れ様です、ケイちゃん。難しい話で半分くらい理解できていませんが、シロコさんの時みたいに皆で力を合わせて頑張れば、きっとなんとかなりますから。微力ながら私も頑張りますね!」
「ケイさん、外に関してはお任せください。救護騎士団の方々にもお願いしています。私たちが十全なバックアップを約束しましょう」
小さな縁であろうとも、こうして私を助けてくれる。私とアリスを繋ぐ縁を大切にしてくれる。桐藤ナギサが先生を信用し、私たちを助けてくれる。ならば私も彼女を愛そうと思う。愛は巡り巡るものだと、彼女がいうのだから。
「桐藤ナギサ、私は貴女に愛をお返しすることを約束しましょう」
「け、ケイちゃん!?」
「――そ、そうですね。愛は巡り巡るもの、ですから」
☆
「ケイ、さすがに隠し事が多すぎないかしら?」
ジト目で私に詰め寄ってきたのは早瀬ユウカ、その後ろに苦笑いをしている生塩ノアと資料を真剣な眼差しで読み返している天雨アコ。
「なんのことでしょうか」
「全部よ、全部!リオ会長もそうだけど、貴女も言葉にしなさすぎなのよ!なんなのこの資料は。アトラ・ハシースの箱舟のことは私たちも理解しているつもりだけど、デカグラマトンの話なんてヒマリ先輩たちより詳しいんじゃないの?各セフィラの情報、出現位置まで把握してるじゃない」
「それは無名の司祭たちが作ったオーパーツが関連しているからです。私たち名もなき神々の王女、エデン条約の際に発射された巡航ミサイルなど、貴女たちはその存在を知っているはずです」
「確かに知ってるけど!あぁ、もう!今回は何かが起きる前にこうして情報を、相談をしてきたからいいけど……ぎりぎりすぎるのよ!次からはちゃんと先に私たちにも連絡すること!」
「ユウカちゃんはケイちゃんのことを心配していたんですよ」
「ちがっ、いや、この子はちゃんと伝えなきゃ理解しないわよね……。ケイ、貴女のことが心配なの。いつか貴女はアリスのためにと消えてしまいそうで。望んでいなくても、罪悪感で潰れてしまいそうで。だから手を伸ばしてほしいの。私じゃなくてもいい、ゲーム開発部の子たちでも、先生でも。貴女が迷ったら引っ張ってあげるから、ちゃんと貴女からも手を伸ばしてほしいの」
早瀬ユウカは、どこまでも甘い。才羽モモイは悪魔だの妖怪だのと言うが、ゲーム開発部をいつも見守ってくれている。それは私に対しても同じで、こうして今も私の手を取り温めてくれる。
「そうですよ。私たちも力になりますから」
「ありがとう、ございます」
「ああ、ほら、泣かないの」
「否定します。私は泣いてなどいません」
「いいから。ほら、こっちに顔向けて」
早瀬ユウカに顔を拭かれる。私の頬が少し濡れているので、またいつものバグだろう。大人しく顔を拭われていると、生塩ノアがホットタオルを持ってきた。
「前にシャーレへ来たときに設置しておいて良かったですね~」
「あら、私にも、ですか?」
「資料をずっと眺めるのも目が疲れてしまいますから」
「そうですね……ありがとうございます」
「天雨アコ、何か質問はあるでしょうか」
「……私はここへ来る前にヒナ委員長に見た方が良いと言われた資料は全て目を通してきました。ですが、情報部の資料でもここまでの資料はありませんでした。こちらの資料は持ち帰っても?」
"ごめんね、アコ。それは持ち出し禁止にさせてもらうよ"
「――先生」
"この資料の危険性を分かっている子たちはいいんだけどね。どうしても悪戯したり、ダメだって分かってても触りたいって思う子はいるから"
「コユキとかには見せたくないわね」
「そうですね……ヒナ委員長に渡そうと思っていたのですが、見せたくないというのも理解できます。マコト議長などは興味を持ってしまうでしょうし」
"ヒナには作戦前にシャーレに来てもらうことになっているから。その時に見てもらうよ"
「えぇ、そうであれば結構です」
☆
「そうです。このパターンではこちらの方が効果的でして――」
「じゃ、じゃあこうするのは、どうかな」
「……私にはない知識ですね。どういった意図が?」
「えっと、これはゲームで使われてた方法なんだけど――」
「いえ、とても参考になります。作戦後にはなりますが、ほんとうにお邪魔してもよろいいですか?ゲームの戦術というのも興味がでてきました」
「あ、うん。みんな嬉しいと思う、よ?」
会議室へ戻ってくると、書記をしていた花岡ユズと月雪ミヤコが談笑していた。何やら話が合ったのか、花岡ユズにしてはスムーズに会話ができている。
「あ、ケイ。戻ってきたんだね」
「ケイさん、おかえりなさい」
「ただいま戻りました。随分と話が弾んでいるようでしたが」
「ええ。ユズさんは、こと戦術と戦略に関しては幅広い知識をお持ちですから。主にゲームでの知識だと言われますが、盤面が見えている状態での勝負であれば勝てる気がしません。先ほどからいくつかトランプを使ったゲームをしていたのですが、全く歯が立ちませんでした」
ババ抜きから始まり、神経衰弱、七並べ、戦争、ポーカー、スピードと対戦していたらしい。初めてするゲームもあったようだが、なるべく複雑ではないゲームを選んだと花岡ユズは言う。
私と花岡ユズがやっても運で決着がついてしまう神経衰弱を除けば、私も勝率はだいぶ低い。あと1時間はあるので文字の多さで疲れて寝ていた才羽モモイを起こし、4人でトランプをすることにした。
「……誰がハートの9を抱えているんですか?このままでは全員共倒れですよ」
「ユズでしょ!早くだしてよ!私もうパスの回数残ってないんだから!」
「いえ、私です。ハートの9を出しましょう」
「あ、じゃあわたしは逆側を進めるね……」
「――パス、です。なぜ七並べなのに負け続けるんでしょうか」
「ハートの10もないってばあ!」
「これは、手札の状況を見るに私の負けですね。ハートの10とJが花岡ユズの残りの手札ですか」
「う、うん。モモイがハート以外全部出してくれたから助かったよ」
結局3人掛かりで花岡ユズに挑んでも勝てないことも多く、アベレージで花岡ユズに負けてしまった。
才羽モモイという潤滑油がいることもあり、花岡ユズが月雪ミヤコにだいぶ気を許したように思える。他校の1年生たちにはこの間の合同演習で会わせたので、今度は来年代表になるであろう2年生たちとの顔を繋ごうと思う。そのためにも本作戦を成功させなければならない、と改めて思った。
"おぉ、ユズ強いね"
「あ、ありがとう、ございます」
「なんたってゲーム開発部が誇るUZQueenだからね!負けを知りたいくらいだね!」
「そ、そこまで言ってないよぉ」
「いえ、心理戦でここまで差が開くとは思いませんでした。ゲームをする方々について私は明るくないのですが、ユズさんが強いのだろうということは私にもわかります」
「花岡ユズはジャンルを問わずゲームの実力が極めて高いです。まさかロボットの操作技術で負けるとは思ってもいませんでしたから。強者として、それ相応の自信と態度をとってほしいものですね」
☆
「これより事前準備を行っているエリドゥの状況と報告、アトラ・ハシースの箱舟を生成した際おきる現象についての説明を行います」
休憩時間が終わり全員が会議室へ集まったため午後の部を始めた。
まずはエリドゥについてだ。
「午前の部でも少しエリドゥについては説明しましたが、より詳しくお話します」
エリドゥとはオーパーツや色彩といったキヴォトスの危機に備え調月リオが作り上げた要塞都市だ。1万エクサバイトの処理能力を持ち、規模が小さくなるとはいえアトラ・ハシースの箱舟を生成する条件を満たしている。
「参考ですが、アリスと私がウトナピシュトゥムの本船で生成した光の剣:アトラ・ハシースのスーパーノヴァは約9999万エクサバイトを使用して生成したものです。つまりその9999分の1という規模ではありますが、ミレニアム自治区程度であれば範囲内に収められるリソースを所持しています。つまりミレニアム自治区内の生徒たちには一時的にではありますがD.U.自治区や協力を要請させていただいたトリニティ自治区に避難していただくことになります。そのあたりは後ほど桐藤ナギサからも一言いただければ」
かなり大規模な作戦になるだろう。私とアリスのために、一瞬であるかも永遠であるかもわからない自治区からの退避命令。それを受理し実行しているセミナー、反対せずに協力してもらえるミレニアムサイエンススクールの生徒たち。彼女たちの応援も、願いも、私は背負わなければならない。
「本作戦はミレニアム自治区の全住人が退避したことを確認した後に始動します。本作戦に参加していただく第三班の生徒たちはシャーレに集合していただき、ミレニアムサイエンススクールのヘリを使用して移動することになります。第二班はエリドゥ内にて待機していただきます」
第一班はエリドゥ中央、前回使用した場所で私がアトラ・ハシースの箱舟を生成する。
先生に確認のため顔を向ければ、先生も周りの生徒を見渡した後に頷かれた。
「奥空アヤネ、別世界の砂狼シロコには先生から連絡していただきました。色彩やデカグラマトンに対して特攻である彼女が第二班のキーパーソンとなります。小鳥遊ホシノ、空崎ヒナとともに中央部への侵入だけはさせないようにお願いします」
"第三班は第二班の援護に行く可能性があるってことも念頭に置いてほしいな"
「補足ありがとうございます。それでは第一班、私たちのクエストの説明を始めます」
それから私はアリスと私の関係を、名もなき神々の王女としての役割、その鍵についての性質、神々の王女が復活した時に起こるであろう現象、空の色が変わる可能性、生徒たちが持つ神秘と私が持つ神秘の違い、私たちの最終目標と順番に話した。
「以上となります。質疑応答はまた1時間後に行います。私がいますと意見交換が始まる前に質疑応答に移ってしまうでしょうから、少し席を外させていただきます。皆さんは好きにしていただいて構いません」
☆
先生と私が退席すると、中から話し声が聞こえ始めた。
一先ずは用意していた資料の読み合わせも終わり、会議は無事に終了したといっても良いだろう。
"お疲れ様、ケイ"
「先生もお疲れ様です」
"これまでの冒険の集大成だね。みんなで勇者を助けにいこう"
「そのためにも、しっかりとこの後の質疑応答も終わらせないとですね」
会議中の生徒たちの様子を話したり、第一班の動きを先生と復習する。こうして先生と話す機会もこれが最後になるかもしれない。
"ケイ?大丈夫だよ、心配しないで。私もちゃんと傍にいるから"
気づくと先生の手を取っていた。私自身も不安になっているのだろうか、落ち着くために目を瞑り深呼吸をする。
「……リブート。プロセスを回復。ご心配をお掛けしました。もう大丈夫です」
"もしかすると、こうしてケイが私に甘えてくれるのも最後かもしれないね"
「甘えていません」
先生は私の頭を軽く撫でると、子供のような笑顔を私に向けた。
"それじゃあ、作戦会議に戻ろうか"
名前:天童ケイ
レアリティ:☆3
役割:STRIKER
ポジション:FRONT
クラス:アタッカー
武器種:HG
部活:ゲーム開発部
ミレニアムサイエンススクール所属、ゲーム開発部の部員。
廃墟で発見された正体不明の少女アリスを常に見ていたためか、レトロゲームで登場する名称が自然と口にでてしまうようになった。
ゲーム開発部では比較的ミドリに懐いており、先生やミドリには甘えるように近くに座ることが多い。
アリスのために行動していることは変わっておらず、アリスのためであれば暴走することもあるためミレニアムでの要注意人物のひとり。
見返していたら重大なミスをしていることに気づき慌てて治しました。エリドゥが9999万エクサバイトあったらパヴァーヌ2章でキヴォトス滅びてるわ……。1万エクサバイトです。大変失礼しました。
次回から、ようやく設定を思いついたときに書きたかった部分に入ります。